登場 厨二王女
新連載、始めました よろしくお願いします
初回豪華二本立てスペシャルです
ここは異世界、ギーマ=アーケイディア王国の王都だ。
城下町の平和な昼下がり。麗らかな春の日差しが一転にわかに掻き曇り、黒雲が辺りを暗く冷たい不穏な空気に染めていく。
「ワハハハハハハハ」
王城の尖塔で十歳前後と思しき少女が高笑いをあげていた。上等の布地に最高の仕立てと豪華な刺繍の最高級のドレスの上に、エプロン地の白いコートのようなものを羽織るというチグハグな恰好。さらにドレスに合わせた右眼の眼帯がその異様さを高めている。
「ワッハッハッハ。我が偉大な発明、魔法兵器の神髄の前にひれ伏すが…」
スッパーン!!!!
「姫様!洗濯物が乾かないのでおやめください!!」
尖塔に駆け込んだ女、マーガレット~住み込みの家庭教師兼専属メイド兼監視係~が張り扇で眼帯の少女の後頭部を豪快にドツく。
理知的な瞳に落ち着いた雰囲気で、普段はとても張り扇を振り回すようには見えないが、この娘には例外のようである。
「う~~痛いー!何すんのよ!」
先ほどまでの暗雲ががウソのように晴れ間が戻ってくる。
「それはこちらのセリフです。何か完成させるたびにいちいち【招嵐】を使わないで下さい。洗濯メイド達が困ってますよ」
「この方が気分でるじゃない」
「全く!【雷撃】は苦手なのに、なんで最上級の【招嵐】はホイホイ舞台装置代わりに使えるんでしょうか?危なくってしょうがないですよ。
で?今度は何を作ったんですか?その白衣やこの張り扇くらいには役に立つ物ならよろしいのですが」
ちなみにこの白衣、特殊な繊維で特殊な構造の布に特殊な術式を編み込みそこに特殊な魔力を流し込んだ、耐熱・耐水・耐圧・耐刃・耐衝撃・耐全属性魔法の上、頑固な汚れもサーっと落ち、部屋干しの嫌な臭いもしないという優れもの。
しかも、完全遮断すると何が起こっているか分からない、と言う訳で一定以下の衝撃は素通しになるという親切設計。
結果、この白衣を着ている時に最大のダメージを与えるには、張り扇で後頭部をドツくしかないという謎仕様。
「なによー他にも色々あるでしょ?超指向性魔法燈とか音記録紙とその再生機とか熱短剣とか麻痺雷杖とか」
「あ~はいはい解りました。研究室に行きましょう」
揃って王城地下の姫の研究室に向かい階段を下りようとすると、姫が裾を踏んで階段を落ちてゆく
「キャーーーーーー!」
ズドドドッド ゴチン!!
「大丈夫ですか!?…階段に穴は開いてない、壁にヒビもない。大丈夫ですね。」
「…私の心配しなさいよ」
逆さまにひっくり返ったまま恨めしそうに見上げている。
「その白いのは国宝の鎧並の防御力なんでしょう?にしても裾長すぎです」
「白衣よ!ドレスに合わせるとどうしても長くなるのよ」
「何でいつも発明品が完成するたびにその恰好になるんですか?」
「ドレスは王族としての正装。白衣はマッド・サイエンティストとしての正装よ」
「それと眼帯もです。周りが見えにくいでしょうに。目のケガは何年も前に治っているはずですよ」
「封印を解くわけにはいかないわ。うっ!疼く!!」
「片方だけ花粉症ですか?器用ですね」
「違うわよ!!!」
眼帯の少女は、ディアーヌ・ルナスティグマイヤー・ギーマ=アーケイディア。
国名と同じ姓を持つ者、この国の王族の末に連なる娘、国王の一人娘、王女さま。
この国の誰しも~貴族であろうと平民であろうと~畏怖と恐怖と親しみを込めて、そして半笑いになりながらこう呼ぶ。
『暴走・厨二王女』と
★
「これは異世界から転移した証よ」
「そのような時空の乱れは、ここ30年観測されておりません」
引き続き 第二話をご覧ください