王立学園
12~18歳までの間の6年、貴族の子供は学園に通う義務がある。
3学年までは基礎知識を学び、16歳となる4年生からは希望者は騎士科に進むこともできる。
家を継ぐ予定のない殆どの男子学生は、騎士科へ進む。
聖獣の加護である防護壁がこの国を守る以上、他国に攻め込まれる事はないから、国内の治安維持に努めればいい、人気の職業でもあった。
だから絶対にソレを壊して嘲笑ってやるんだと、決意を固める。
体の中を巡る煮えたぎった思いを抱えて、付き添いも誰もいない私は、家から一人で馬車に乗り、学園の門から少し離れた所で馬車から降りると一人で門をくぐり、そして一人で校舎へ向かった。
ヒソヒソと、私を見て何かを言っている声が聞こえるけど、聞く気はない。
どうせ、この髪の色の事だ。
石畳の上を少し進むと、今来た方向、校門の方が騒がしかった。
そっちを見ると、人に囲まれながら、王太子であるリュシアンが立っていた。
ローザの乗る馬車が到着したから、婚約者を出迎えに来たらしい。お優しいことで。
私はそれを冷めた目で見て、ローザの姿が見える前に建物の中へと入っていた。
広い建物の中を、案内に従って歩く。
自分の教室に入ると、意外なことに会いたいのか会いたくないのか、微妙な奴がいた。
人との交流がない私に、知り合いなんかいない。
唯一知っている奴と言えば、
「よぉ!」
その人は、私の顔を見るなり、片手を上げて随分と軽い挨拶をむけてくる。
その気軽さに呆れる。
そういえば、これまでどこの家の人か聞いた事がなかったな。世間体などは気にしないのか。
「よく、平然と私に話しかけられるわね」
テオはさも当然とばかりに私を見る。
「別に構わないだろ」
「貴方が変な目で見られる」
「気にする必要もないだろ」
「………」
何も考えていないようで、呆れる。
「仲良くしようぜ、キーラ。俺ん家は、アニストン伯爵家だ」
手を差し出しながら、何の含みもない笑顔を向けてくるものだから、そんな人の手に触れることに躊躇してしまい、結局握り返す事はしなかった。
「別に、気にしなくていいのに」
私の気持ちも知らずに、そんな事を言ってくる。
「貴方がよくても、私が嫌なのよ」
「キーラはいい奴だな」
どこをどう解釈すればそうなるのか、私の心でも読めるのかと首を掴んで問い詰めたかった。
そんな事を私が思っているとも知らずに、テオは何が面白いのか吹き出して、そして口を押さえて笑いをこらえているようだった。
我慢し過ぎて、肩が震えている。
ちょっと笑い過ぎじゃないか?失礼な奴だな。
「横、座れよ。隣が俺の方が、知らない奴よりはまだマシだろ?」
まだ笑いを噛み締めている彼から促され、確かにそうだと、テオの隣の席に落ち着く。
ひと息つく間もなく、また廊下の方が騒がしくなって、案の定そっちを見ると、リュシアンがローザをエスコートして教室へ向かっているようだった。
あの二人と同じクラスではなくて本当に良かった。
「へー。アレがお前の妹か。今までまともに見たことがなかったな」
隣から声がかかる。
「綺麗なものしか見ない奴だな。リュシアンの婚約者があんなので大丈夫なのか?未来の王妃だろ」
テオの感想に驚く。
10人が10人、ローザの事を善と呼ぶのだと思っていたのに、テオの言い方では、ローザのことを全否定している。
正にその通りなのだけど。あの子は、自分に都合の悪い事は全く見ようとしない。
あんなんでも王妃教育を受け始めているはずなのに。
そしてみんな、精巧に作られたあの子の綺麗な笑顔に騙されて、ローザの本質を知ろうともしない。
「意外か?」
机に頬杖をついたテオからそんな風に聞かれたけど、特に返事もしたくないから、鞄から本を取り出して自分の世界に入ることにした。