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より良き者でありたい

 私の名前はアクセル。齢は18。


 今年、ディバロ国王として即位する事が決まっている。


 ディバロ王国の加護である防護壁が消え、そして復活してから18年。


 一度は滅びかけた国を、これまでの年月を、摂政としてリュシアンさんが尽力し、復興されてきた。


 何の苦労も知らない私が、それをそのまま、ただ受け継ぐだけでいいものかと、日々その思いは募らせてきた。


 私は、リュシアンさんに問うた。


 貴方が、国王として即位してもいいのではないかと。


 でも、彼は静かにかぶりを振って、


「少し疲れたから、ゆっくりさせてもらってもいいかな」


 と、穏やかに微笑んでいた。


 リュシアンさんは、私が王となった後はディバロとの流通を強化する為に帝国へ移り住む。


 ローザンド帝国のカルロス皇帝から声をかけられたそうだ。


 私をここまで導いてくださった方が離れていくのは寂しいが、ここまで国を立て直すのに尽力されたリュシアンさんを、これ以上この地に引き留める訳にもいかない。


 それに、私の支持を盤石なものにする為に、リュシアンさんはこの国を離れようとしているのだから。


 全ては、国の安定を想っての事。


 私は良き王となって、その想いに応える他はない。





 幼い頃に、聖獣の加護が守るディバロと、ギフトについて、そして、今までの歴史をリュシアンさんから教えてもらった。


 私の両親が、その置かれた境遇から、国を脱出しなければならなかった事、その結果、国が崩壊しかかった事。


 父と母が原因で多くの命が失われたのは、辛い事実だった。


 落ち込む私に、リュシアンさんは言った。


 ギフト所持者である母、キーラを殺しかけていたのは他でもない、国だ、と。


 因果応報なのだと。


 大切にされるべき存在の母が、誰よりも過酷な境遇に置かれていた。


 父も、その生まれや、リュシアンさんへの気遣いからギフト所持者である事を黙さなければならなかったと。


 そして、その能力故に苦しい思いをずっと抱えていたと。


 彼等に罪は無いと、その罪は自分にあると言うように、リュシアンさんは私に話した。


 貴方にだってその罪は無いと、幼いなりに私は必死になって訴えたものだ。





 即位する前に、私の祖父にあたる、前国王へ会いに行った。


 祖父は侵攻を受けた際に、最初から最後まで最前線で戦い続けた。


 混乱に貶めたその罪は大きいが、恩赦を与え、幽閉を解いてもいいのではないかと、それを伝えに行ったが、祖父はそれを拒否した。


 質素な室内で、祖父と2人で話した。


 祖父は、ブランシェット公爵夫人をただ一人愛していたと、話してくれた。


 苛烈で美しい夫人に、幼い頃から惹かれていたと。


 それが愚かな行為だと分かっていても、夫人との密通を繰り返してしまったと。


 この牢の中で朽ち果てるのが相応しいと。


 祖父は生涯そこから出る事はなく、ある寒い日の朝、1人孤独に息を引き取っていた。





 母は、とても美しく、優しい人だ。


 歳を重ねる毎にその美貌は、輝きを増す。


 母が国から出る事が出来ないにもかかわらず、他国の王侯貴族から求婚されることが未だにあるほどだ。


 母はそれを断り続けてきたし、父との婚姻も解消していない。


 私が生まれる前に他界した父の墓標の前で、父の事を含めた全ての記憶がないにも関わらず、哀しげな顔で佇む姿を幾度となく見てきた。


 覚えていないという事を、何か大切なことを忘れている事は分かるから、辛いと話していた。





 リュシアンさんは、父の命を奪った、私の叔母でもあるローザを度々見舞っている。


 彼女は、心を壊したまま長い時間を部屋から出ることもなく過ごしている。


 話をする事も、目を合わす事もない。


 可哀想な女性なんだと、話していた。


 未熟な部分もあった。


 赦されない罪も犯した。


 でも、当たり前にあったものを、与えられたものを、突然全て奪われた、可哀想な人なんだと。


 そして彼女も、親に人生を狂わされた被害者なんだと。


 多少の情はあったのだと寂しそうに話し、そしてご自分が帝国へ移住する際に一緒に連れて行っていた。






 即位の日。


 よく晴れた朝。


 城周辺には、すでに多くの国民が集まっていた。


 城の中にいても、その熱狂は伝わってくる。


 18年前に多くの民が失われている為、現在も総数は回復していないが、それでも多くの民が私を祝福してくれるために集まってくれた。


 支度を終え、部屋を出ると、そこには母が美しい微笑を湛えて立っていた。


 母は、無意識なのだと思う。


 私に誰かを重ねるように見ている。


 リュシアンさんが、今の私は父に瓜二つだと話していたので、きっと父の姿を探して、そして重ねているのかもしれない。


 聖獣の加護が守るディバロは、紛争の爪痕は残るが、それでも緑豊かな美しい国だ。


 私の周りにいる善き人達の力を借りながら、私はこれからこの国に全てを捧げていきたい。


 より良き者、より良き国であるために。















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