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再会

 お腹のふくらみが、目に見えて分かるようになったその日。


 頭にはスカーフを巻かれて薄手のコートを着せられて、そこまで寒い日ではないのに頑丈に防寒対策を施されたうえで、テオに連れられて病院へ向かっていた。


 テオに、ここまで必要はないでしょと無言で訴えても、知らないふりをされている。


 過保護すぎだ!と心の中で文句を言いまくっていると、そろそろ言い返したくなったのかテオが振り向いた。



「テオドール?」



 雑踏の中で声がかけられたのは、そんなタイミングだった。


 その人の声は聴き心地が良く優しい響きをしていたけど、その声に身を強張らせたのは私だけではなかった。


 いや、私以上にその動揺を、テオは隠せずにいたようだ。


 私の目の前に立っているのに、彼の見開かれた目は、唯一人を映している。


 その視線の先にいる人は、平民の旅人風の装いをしたリュシアンだった。


 彼一人ではなく、似たような格好の近衛騎士らしき者も数人連れている。


 おそらく亡命か、援助を乞うためにやってきたのだろう。


 騎士達は一様に私に視線を向けていた。


「殿下、お下がりください。あれは、逃げ出した罪人です」


 騎士がこちらを警戒するように剣の柄に手をかけた。


 テオは、私を背後に庇う。


 さすがにこんな帝都のど真ん中で剣を抜く愚行はしないだろう。


 多分。


「剣から手を離せ。彼らが私に危害を加えることなどしない。妊娠中の女性を怯えさせるな。それに、こんな街中で……」


 リュシアンの方が、その顔に焦りを滲ませていた。


 忠誠心が高いのはいいけど、今は逆効果だったな。


 人が行き交う中心で、テオもリュシアンも見つめ合ったまま立ち尽くしている。


 先にリュシアンが、口を開きかけた時だった。


「テオドール。キーラ。お前達の友人を案内するからこっちへ連れてこい」


 後方からそんな声がかかり、私のすぐ後ろに人が立つ気配がした。


 声をかけてきたカルロスを見上げると、いつもの掴み所がない感じとはまた別の、他者に考えを読ませないような、そんな皇族特有の表情をしていた。


「ディバロの者が帝都に入ったと聞いて、様子を見に来た。テオドールの友よ、城まで案内するからつい来い。テオドールと、キーラもな」


 私達もか。


 まぁ、テオをこのまま家に連れて帰っても、動揺が治まらずに怪我しそうだし。


 戸惑っているリュシアンに向けて、テオがやっと小声で話しかける。


「彼は、帝国皇太子だ。用事があるんだろ?言う通りにしよう。何かされるとか、そんな事はないから」


 テオの言葉に、リュシアンは安堵の表情を浮かべる。


 テオに対する信頼は変わらないようだ。


 私達は、カルロスとその護衛を先頭に皇宮への道を歩き、その間、誰も喋らずに無言だった。


 説明するまでもない巨大な皇宮の、それなりに広い豪華な客間に通してはもらえたが、ローザンドの皇帝は、リュシアンに会うことすらしなかった。


 一度その場を離れ、再び戻ってきたカルロスは、皇帝のその意志を代わりに伝えた。


「皇帝の勅令を伝える。我が帝国は、ディバロとミステイルの紛争には介入しない。他国の紛争に、我が帝国の民の命を差し出す事は今後もないだろう。もしディバロの王太子が亡命を望むのなら、大切な客人として受け入れる」


 万が一ディバロの地がミステイルに呑まれても、この大国は揺らぐ事はない。


 だから、静観を決めたのだろう。


 それを聞いたリュシアンは、俯いて、震えるほどに拳を握りしめていた。


 ディバロにとって、唯一の希望が断たれた瞬間だったからだ。


 そんなリュシアンを見ても、カルロスは淡々としている。


「この場での休息を求めるのなら、許可する。長旅の疲れを癒せ」


 そしてこれ以上は用がないと言わんばかりに、興味なさげにカルロスは部屋から出て行った。


 近衛騎士達は重苦しい表情でそれを見送っていたけど、リュシアンが沈んだ表情を見せたのはほんの一瞬だけで、カルロスに御礼を伝える冷静さはちゃんと取り戻せているようだった。















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