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第一報

 私が幸せでいるのとは反するように、その一報は伝えられた。


 ディバロ王国が南方に位置するミステイル王国からの侵攻を受けているという情報は、小国とは言え、隣の国のことだから帝国中を駆け巡っていた。


 心が読めなくたって、それを聞いたテオの動揺は分かる。


「意外と、遅かったな……」


 配られた号外を見て呟いたその顔には、感情は見て取れなかった。


 その後は努めて平静を装って、どこかへの依頼を受けて出かけて行った。


 侵攻か。


 国を出て数ヶ月。


 ミステイルも、この事態にどう動くか揉めていたのかな。


 ろくに訓練を行なっていなかった上に、癒着や賄賂で腐りきっている王国軍はすぐに崩壊するのは目に見えていた。


 騎士団もそんなに数がいるわけではないし、貴族の温室育ちがどれだけの戦力になるのか。


 ディバロは、どこまでもつだろうね。


「キーラ先生、聞いていますか?」


 その可愛らしい声に、ハッとする。


 マリーが目の前で頰を膨らませていた。


「ごめんね。ちょっと考え事してて」


 慌てて、教科書代わりの本に視線を落とす。


 でもまたすぐに別の事を考えてしまっていた。


 そう言えば、ディバロがミステイルに侵食されたらあの聖獣はどうするのだろう。


 元々あの地に住んでいるのだから、あのまま住み続けるのだろうか。


 あの聖獣とあの女の子との子供の子孫が居なくなった地で、孤独ではないのだろうか。


「もう!また先生がどっかに行っちゃった」


「ああ、ごめんね」


 マリーの声に、再び我にかえる。


「マリーねぇちゃん、しょーがねーよ!キーラ先生だって、悩みの一つや二つあるんだ」


「先生悩んでいるの?」


「テオドールの事だろ」


「キーラ先生にだって恋の悩みの一つくらいあるだろ」


「先生、恋をしているんだ!」


 私の目の前で、子供達が勝手に恋バナ論議を始めだした。


「テオドールに泣かされたのなら、俺がガツンと言ってやるよ」


「いや、泣かされてないよ。むしろ、泣かしている、かな?」


「さすが、キーラ先生!」


 よく分からない感心をされてしまった。


 子供達のワイワイキャッキャとした賑やかな話し声は、ギルドの中に響いている。


 でも、それを咎めるものはいない。


 ここでは、子供達のことはいつも大目に見てもらえている。


 荒くれ者が集う場所だけども、常に秩序は保たれており、人に対して寛容な場所でもあった。


 賑やかな時間は過ぎ、夕方になって帰ってきたテオは、いつも通りの様子に戻っていた。


 二人並んで家路につく。


「腹減った……」


 そんな呟きも、いつものテオのようには見える。


「帰ったら、急いでご飯作るよ」


「その間に掃除でもやっとくか……今日もギルドは賑やかだったそうだな。何故か、俺がキーラの尻に敷かれている事になってた」


「へー。そんな風に見られているんだ」


 テオはヘタレ認定されたのね。


「ヘタレって言うな」


「言ってないし」


 軽口を言いながらも、心の奥底の不安を消すようにどちらからともなく繋がれた手は、家に着くまで解かれることはなかった。












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