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帝国皇太子

 森の中での出会いは、夢だったと思うようにした。


 きっと、深く考えない方がいい。


 幸運なことに、その後は何事もなく帝国国内へすんなりと入ることができた。


 見知らぬ土地を警戒しながら進み、幾日かかけて帝都へ到着すると、そこはたくさんの人や物が溢れている賑やかな場所だった。


 小国ディバロとは、比べ物にならないほどに栄えていた。


「ちょっと、この周辺の事を聞いてくる。キーラはそこに座って待っててくれ」


 そう言い残してテオは人混みに消えて行き、言われた通りに噴水のある大きな広場の端に座って待つことにした。


 目の前を多くの人が通り過ぎていく。


 多すぎて記憶の中に誰一人として残らないだろうと思っていたのに、その人が通り過ぎた途端に、その人の何かが掠めて一瞬でその映像が流れてきた。



 帝国皇太子。



 襲撃。



 暗殺未遂。



 毒により、昏睡。



 たった3日だ。



 それだけで帝国に混乱が生まれる。



 皇太子が半端に死んでないから、跡目争いで混乱するんだ。



 そして、内乱。



 戦争。



 はっ?ちょ、冗談じゃない。些細なきっかけで、とんでもない事に。


 今からテオと静かに暮らそうとしているところで、こんな混乱が起きたらおちおち平穏な生活もできない。


 皇太子のくせに、あっさりと暗殺されそうになるなよ!!!!


 さっきの人は、どこ?


 後ろを振り向いた。


 背の高いあの人は、人混みでも帽子は見える。


 人を掻き分けて近付いた。


 その人に、商人風の装いの人が忍び寄ってくるのが見えた。


 アイツだ。


 虫も殺せないような、柔和な顔をしているのに。


「キーラ!!!!」


 テオの声が聞こえたけど、私はその人の前に飛び出ていた。


 やたら長い針を持っているのが見えたから、それを握っている腕に飛びかかる。


 思いっきり体当たりしたら、一緒になって転がっていた。


 そのはずみで、針の先が少しだけ手をかすめる。


 ここで、皇太子の護衛がやっと異変に気付いた。


 マジで役立たずな護衛だな。


 その針を持った男が起き上がり、舌打ちをして皇太子にそれを向けようとしていたけど、さすがに近付く前に護衛の男に取り押さえられていた。


 そしてその男は、速やかに帝国兵に引き渡される。


「キーラ!!!!」


 蹲って立ち上がれない私のところへ、テオが顔を強張らせながら、息を切らせて走り寄ってきた。


 腕が痺れて痛い。あー、私にしては考えなしだった。最悪だ。


 そう頭で思えば、テオが私の腕を見て咄嗟に縛って、そして血を押し出そうとしている。


「毒か。くそっ」


 テオから、焦りの声が吐き出される。


「こっちに。近くに毒の専門医がいる」


 状況を把握した皇太子が私達に声をかけ先導しようとし、テオは私を抱き上げて皇太子についていく。


 皇太子諸共、何処ぞのボロい診療所へ駆け込んでいた。


「殿下。また、何が起きたのです」


 突然現れた私達に、そこにいた白い髭の医者が驚く。


「彼女が、俺への襲撃に巻き込まれた。毒の治療をしてくれ」


 そんな説明があってる中、


 あ、ヤバイ。


 ちょっと、意識が飛びそう。


 即死しないようにわざと昏睡させる事を狙った毒だからなのかな。


 テオの顔が真っ青になったのが見えたから、何とか頑張って、意識を保つ。


 とりあえず解毒薬が調合されるまで、ひたすら洗浄と消毒をされ、そうこうしていると、程なくして白髭の医者が戻ってきた。


「解毒薬だ。これを飲みなさい」


 渡された、真緑のドロっとした液体を見て顔をしかめる。


 絶対不味い。


 これは、絶対、不味い。


 嫌々口に含んで、


「苦い……まずい……」


 予想通りのそのクソ不味さに目が覚める。


「残さず、飲め」


 テオからは怖い顔で睨まれたから、渋々、吐きそうになりながら、ついでに涙もちょっと流しながら全部飲み干した。


「巻き込んで悪かった。だがお前は、あの暗殺者の存在に気付いているようだったが?」


 皇太子の探るような視線にちょっとだけギクリとした。


 皇太子の顔を改めて見ると、蜂蜜色の髪は肩まであり、榛色の目は何となく人好きのするものだ。


 いやいや、警戒は怠ってはいけない。


「ぶつかったのはたまたまだけど、あれは明らかに不審者丸出しで、おかしな人だなぁって見てたから、ぶつかってしまって、なんでむしろ護衛が気付かないの」


 皇太子の後ろに立つ、私よりは少しだけ年上のそいつを睨みつけた。強気だ。強気な態度で乗り切るしかない。


 そもそも、仕事しろよ!!


「面目ないな。いつもの護衛に頼めなくて、新人を連れていたんだ。お前達は兄妹、なのか?」


 うそつけ!


 城をこっそり抜け出すのに、たまたまそいつしかつかまらなかったんだろ!!それで、暗殺されかけるとかバカか!!!!


 口に出せないけど言いたい事は、たくさんあるんだ!!


「そうだ。両親が死んで冒険者になるつもりで、ここに来たんだ」


 しれっと嘘をついたテオの事は、ほっておく。


「そうか。ならお詫びとお礼に、君達の住む家と身分証明書を手配しよう」


 え?


「いいのか?」


 そんないきなりのウマイ話を信用していいのか、その真意を測りかねるけど、テオは受け入れるようだ。


 なら、大丈夫なのかな?


「これくらい、命の恩人に対しての礼としては、安いものだ。というわけで、クロム医師。彼女たちを、今晩泊めてもらえないだろうか?」


「経過も診たいので引き受けましょう」


 そのやり取りから、今晩の宿も手に入れたのがわかった。


 またテオの顔を見ると、大丈夫だというように頷かれた。


 ほんの短時間の間に、驚くほどいい方に状況が一変していた。


 いい状況だったのに、この日の夜、落ち着いたら随分とテオに叱られた。


 それはもう、懇々と説教をされていた。


 うるさくて、不貞腐れてそっぽ向いてたら、それが黙ってても伝わるものだから余計に怒られた。


 仕方なかったんだから、そんなに怒らなくてもいいでしょ!








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