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暗闇二潜ム狂気


 夜の帳が降りてからは外は風が吹き荒れ、窓をガタガタと揺らしていた。


 そんな騒音のせいで、他の音は全く聞こえてこない。


 不気味な夜だった。


 どれだけ他人の過去と未来が視えても、自分の事を直接視る事はできないのだから、本当に役に立たない能力だ。


 まぁ、でも、未来なんか視えなくてもこんな日が来る事は分かっていたことだ。


 私に鞭を振るう事をやめたあの男は、最近は、いつも下半身を膨張させてギラギラと興奮した目で私を見ていたから。


 だから、テオに助けを求めた。


 お昼休みに護身術や剣の扱いを教えてもらった。


 こんな日の為に、備えてきたんだ。


 こない事を願っていたけど………




 暗闇の中でも分かる。


 予備の鍵で部屋に入ってきた屑は、狂気に満ちた笑いを浮かべて、私を見ている。


「王家の血筋の者を手籠めにできるこの日を、どんなに待ちわびた事か。忌々しい存在だったが、ここまで育ててやった甲斐があるというもの。お前は、一生この家に置いてやる。有難いと思え。俺の性奴隷にしてもらえるのだからな」


 屑が血走った目で、口から涎を垂らしながら私の上にのしかかってきた。


 ギシリとベッドが軋む音が生々しく響いて、私の体に屑の重みがかかる。


 穢らわしい。気持ち悪い。吐き気がする。


 ねっとりとした息遣いが聞こえ、男の手が、私の夜着の裾を掴んで捲り上げる。


 身体が竦み上がったけど、大人しく襲われたりなんかしない。


 枕元に置いてあった読みかけの本に触れる。


 その間に挟まっている、テオがくれた栞。


 金属で出来たそれを、その栞を掴んで、屑の股間を思いっきり蹴りつけて、そして、顔めがけて栞を真横に振り抜いた。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 屑が悲鳴を上げて、股間と顔を押さえてベッドから転がり落ちる。


 私もベッドから降りて、部屋の隅に立て掛けてあった剣を屑に向ける。


「出て行け!!!!」


 床に転がる屑の、苦痛に歪めた顔の真横に剣を突き立てた。


「ひぃぃぃ」


 反撃されることを恐れていたけど、戦意を喪失している屑は、情けない声を上げて、転がるように部屋から出て行った。


 無駄だと思っても部屋の鍵をすぐにかける。


 はぁはぁと、肩で大きく息をして、バクバクと鳴っている心臓が鎮まるのを待つ間も惜しく、周りを見回して、そこにあったコルセットから紐を引き抜いて、扉の取っ手にグルグルと巻きつけて硬く結んだ。


 大丈夫。


 何もされてない。


 だから、泣くな。


 震える体を自分で抱きしめても、ボロボロと流れる涙を止める事はできない。


 床に落ちていた栞を拾って、それを握りしめていた。



 テオ


 テオ



 何で、あいつの名前を呼ぶのかはわからない。


 でも、今、無性にテオに会いたいと、会わせてほしいと願った。





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