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助けて……


 私は、人の心配をしている場合じゃないんだ。


 あんな光景を見てしまってから、あの男がますます汚濁にまみれたどうしようもない存在に見える。


 近付きたくないし、視界にも入れたくない。


 気持ち悪い。


 体の成長とは、時に煩わしいものだ。


 必要もないのに、腰はくびれて勝手に胸は膨らんでいく。


 私の容姿から幼いものが抜けていくにつれ、日に日に、あの男の視線がねっとりと纏わりつくような、狂気じみたものになっていくのは感じていた。


 あの男はローザだけで満足せずに、私にまで手を出す気でいるのか。


 夜は眠ることなんかできなかった。


 きっと不安が解消される日なんかこない。


 誰も気にもとめないだろうけど、その日は随分と酷い顔をして登校していたと思う。


「何かあったのか?大丈夫か?」


 考えが甘かった。


 1人だけ気にする奴がいた。


 門をくぐった途端に、テオが駆け寄ってきた。


「何でもない」


 あの二人の事なんか、口が裂けても言えない。


 特に、テオには。


「何でもなくないだろ。理由を言いたくなくても、悩んでいる事があるならその対応策に協力できることがあるかもしれないだろ」


 テオの口調は怒っていたけど、でもその目は心配そうに私を見ていた。


「私のことはいいから、早く自分の教室に行って」


 と、強引にテオとは別れる。


 教室に1人で座っていると、ローザが廊下を歩いていくのが見えた。

 

 あの気持ち悪い光景が思い起こされて、足元からじわじわと恐怖が押し寄せてくる。


 やっぱり、意地を張っている場合じゃない。


 すぐそこに迫っている危機を回避しないと、取り返しのつかないことになってからでは遅い。


 昼食時に、思い切ってテオに相談することにした。


「テオ。お願いがあるのだけど」


「何でも、言えよ」


 相談する前からテオのその顔は真剣だ。


「私に剣を教えて。それで、練習用のボロいのでいいから私に剣を一本譲って」


 せめて、自衛だ。


 あの男が何かしてきた時に、自分の身は自分で守れるように。


「……分かった。ついでに護身術も教えてやるよ」


 そう言うと、食事もそこそこに手短に切り上げて、私を人のいない方の中庭に連れて行ってくれた。


「暴漢とかに襲われた時の対応策だ」


 何かを察してくれたのか、組み伏せられた時や、押さえ込まれた時の体を逃すためのポイントを教えてくれた。


「本当は、逃げることや、大声をあげて助けを求める事が前提なんだ」


 できれば、誰かに助けを求めろと言いたいのだろうけど、それは確実に無理だと思う。


 敵は家の中にいるんだから。


 あの家自体が敵そのものだ。


 テオの方が不安げに私を見つめていた。


「あと、剣。1日2日でどうにかなるものじゃないのは分かるけど、脅しくらいにはなるはずだから」


 テオは何も言わずに、剣に振り回されないようにする為の振り回し方を教えてくれた。


 この日から、お昼休みは剣と護身術の特訓にあてて、何も聞かれないまま、テオは毎日私に付き合ってくれていた。











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