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騎士科へ

 余計な事を知ったからといって、私が黙っている限り何かが変わることはなかった。


 言ったところで私がめんどくさい事に巻き込まれた挙句にひどい目に遭うのが目に見えている。


 息を殺して屋敷で過ごし、学園でも出来るだけ一人でひっそりとしていようとした。


 私に構ってくるテオは相変わらずだけど、第3学年が終わる頃には、該当する者は進級するクラスを選ばなければならない。


 私はこのままだけど、男子生徒の多くは騎士科に進む。


 そして、


「テオも騎士科に行くんだ」


「リュシアンが騎士科に進むからな」


 申請書と同意書に必要事項を記入しているテオを、横で眺めていた。


「王太子様が、わざわざ騎士科に行く必要がないと思うけど」


 防護壁がある限りは大丈夫だろうけど、それでも何が起こるかは分からない。


 そもそも、防護壁が国を守る限りはリュシアンが国の防衛を騎士科に行ってまで学ぶ必要はないだろうに。


 と、それを壊そうとしている私が言うのもどうなんだという話か。


 あの防護壁は、国から人が出て行くのは自由だけど、入るには数ヶ所ある何処かの関門を通過しなければならない。


 そんな事を考えていると、ふと顔を上げたテオが私の方を向く。


「クラスが変わるけど、何かあればすぐに俺に教えろよ」


「えー。余計な心配よ。そっちこそ、怪我しないようにね」


 この3年はテオとクラスが同じだった。


 第4学年になって初めてテオとはクラスが離れる。


 別に、寂しいとは思わない。


 それよりも、万が一でも何かトラブルや事故に巻き込まれて怪我をする方が心配だ。


 いや、まて。


 何で私が心配をする必要がある?


 私には関係ないんだ。


 ちょっとだけ、もしテオが怪我をしたらって考えた時に……、胸がぎゅっとなったりなんかしてない!


 これは、心配したんじゃない!


 本!そう、本の心配をしたんだ!


 テオが怪我をして休んだりしたら、本が借りられないって、そう思っただけだ!


 いつのまにか私の目の前では、テオが俯いて肩を震わせている。


「ちょっと。何がそんなにおかしいの?」


「いや、何でもない」


 まだ肩を震わせていて、そのはずみで机の上のペンが床に落ちてしまっていた。


 理由もなく笑って失礼な奴だなと思いながらも、ペンを拾ってあげたら、それに指先が触れた瞬間、テオとリュシアンの少しだけ前の光景が視えた。


 テオは、騎士科に進むリュシアンを止めようとしていたんだ。


『この先、もしギフトを持った者が現れたら、その人に王太子の座を譲ってもいいように、色々な道を準備しておきたいんだ。彼女、ローザのギフト騒ぎの時から、ずっと考えていたんだ』


 そう話すリュシアンの決意は固かった。


 困り顔で、見守るしかないテオの顔が印象的だ。


 そっと、テオの机にペンを置く。


「怪我、しないでね。テオもだけど、あの王太子様も」


 リュシアンに何かあれば、テオが苦しむ。


 それも、何だか嫌だった。


「ありがとう」


 ペンを握り直したテオは、居心地が悪くなるくらい優しい笑顔で私に応えてきた。


 この数年、テオの顔なんかほぼ毎日見ているのに、今日はなんだかおかしい。


 あれっ?テオって、こんなカッコよかったっけ?


 15歳になって顔つきもなんだか変わってきたし。


 いやいや、テオを見てかっこいいはないでしょ。


 ローザじゃないんだから。


 でも、何だ、この息苦しさは。


 テオの顔を見て、ドキドキしているの?


 あり得ない、あり得ない!


 これじゃあ、まるで……


 テオが目を大きく開いて私を見つめているけど、どうやら様子のおかしい私に気付いたようだ。


 ヤバイヤバイ。


 こんな挙動不審者、心配されるよ。


「ちょっと、用事を思い出した!」


 勢いよく立ち上がると、テオの返事を待たずに脱兎のごとく教室から走り出していた。


 距離だ!私に今必要なのは、距離なんだ!!


 淑女のマナー?そんなものは、最初から持ち合わせていない!


 結局この後、授業開始直前に教室にコソコソと戻ったけど、チラチラとこっちをずーっと見てくるテオの何か言いたげな視線が気になって、あんまり集中できなかった。


 よりにもよって、テオを意識しているだなんて、テオを好きだと思い始めているだなんて、こんな浮ついた思いを知られるわけにはいかない。


 これからクラスが分かれるのは、私にとってとても都合のいいタイミングだった。












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