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音楽祭

 この学園の、大きな行事の一つに音楽祭がある。


 楽器が何一つ扱えない私だから、音楽祭なんて隅の方で時間が過ぎるのを待っていたいけど、そうもいかない。


 ローザが1年の代表でヴァイオリンを披露することになったから。


「お姉様、是非聴きに来てくださいね!」


 家を出る直前に無邪気を装ってそう言ってきたから、虫酸が走る。


 姉は楽器の一つも扱えないのに、妹は名だたる名手の指導のもと、王家の前でも披露できる腕前。


 これはまた、どれだけ私を辱めたいのよ。


 聴きになんか行くわけないだろと、心で悪態をついて教室へ向かったのに、


「お姉様!お迎えに来ましたわ!」


 わざわざ教室に、婚約者を引き連れて来やがりましたよ。


 こっちは注目を集めてヒソヒソとされている。


「ローザ様。王太子殿下に御迷惑をおかけしますから、どうか教室へお戻りになってください」


「迷惑だなんて、そんな事はないですよね?リュシアン様」


「そうだね。ローザの姉君と共に過ごせる事を楽しみにしていたんだよ。それに、殿下と他人行儀じゃなくて、リュシアンと呼んでくれないかな?」


 皮肉か。


 口元が歪むのを必死に耐える。


 敵意を込めた笑いがこみ上げて来そうだった。


「殿下。私のような者と席を共にするなどと、私が叱られてしまいます。ローザ様とお二人でお楽しみくださいませ」


「また、お姉様は!そんな事は言わないで!お姉様は、お姉様よ」


 何が、お姉様はお姉様だ。お姉様と呼ぶだけの使用人だろ。


 お前の口からあの男に余計な情報が伝わったら、私が何をされるかわからないのだからな。


「私も貴女の事をそんな風に見た事はないが、けど、貴女に迷惑をかけるのなら、これ以上無理は言わない。騒がせてすまなかった。行こうローザ。君は演奏の準備もしなければだろう?」


 リュシアンは、わりと話が分かる奴みたいだ。


 渋々と言った様子のローザを連れて行ってくれた。


 でも、後に残った私の事を、クラスの連中はまたヒソヒソと見ている。


 ため息をついて、教室を後にした。


 人気のない中庭の木陰で休む。


 そこで一人で過ごした時間はそんなに長くなかったと思う。


「大丈夫か?」


 顔を上げると、テオが立っていた。


 言葉通り、心配そうに私を見ている。


「席を外している間に、悪かった。傍にいてあげられなくて」


「別に。いらないし」


 テオに心配してもらう義理はない。


 芝生の上に座る私の横に、テオも腰を下ろす。


「リュシアンに、悪気はないから」


「だから、何?」

 

「あまり、嫌わないでやってくれないか?」


「私が王太子様を嫌ったところで、何の影響もないでしょ」


「俺が辛いんだ」


「そんな事、知らない」


「…………」


 俯いたテオの沈黙が痛い。


 これじゃあ、私が彼を傷つけているみたいじゃないか。


 何で、リュシアンを嫌う嫌わないが、いちいちテオの琴線に触れるのか。


 主従関係にしたって、全員から主人が好かれるわけないのに、いちいち気にしすぎだ。鬱陶しい。


「鬱陶しい。その落ち込んだ顔が鬱陶しい。そんな顔して、私の隣にいないで」


 慰め方なんか知らない。


「私がリュシアンを嫌わなければ、それでいいんでしょ?別に嫌いじゃない。うちの家のせいで親しくできないだけ。これで、納得してくれる?」


 そう伝えると、やっと少しだけテオは笑ってくれた。


 遠くから、風に乗るようにわずかにヴァイオリンの音が聞こえてくる。


 しばらくテオと並んで、その音を聞いていた。














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