第99話 創生と再生、甦り
―魔族領 コーカサス州州都「ガイエスブルク」近郊の森ー
パチパチ パチッ メラメラ… サワサワ
静かになった夜の森、焚き火を挟んで2人の男がそこに座っていた。
コポ コポコポコポ カチャ トトトト サッ
「ん、できたぞ、自家製だがどうだ?」 カチャ
ジオスはアゴンに濃い目のコーヒーを入れて渡した。
「うむ、もらおう」 ゴク
「! こ、これは!」 ゴクゴクン
「うまいだろ! 俺の世界にあった自慢のコーヒーだぜ」
「ああ…うまい…」 ゴクン カチャ
「気分はどうだい?」
「そうだな、うまいコーヒーを飲んだおかげでスッキリした。 いや、ジオス、お前と全力で闘ったからかな…」 フウ〜 チラッ
「ああ、ユリナ達なら大丈夫だ、今、別のテントで2人とも休んでるぜ」クイッ
「そうか、ユリナだけでなく、我がランサーのクリスまで、迷惑をかけた」 サッ
「ん、問題ない。気を失ってる女の子を放っておく訳にはいかんしな」 ニッ
パチパチ カタン メラメラ パチッ
「ジオスよ」
「ん?」
「此度の件、私が悪かった!このとうりだ!」 バッ
いきなり、アゴンはジオスに頭を下げた。
「あ? あっいや、別に良いって、気にしてないから」
「そうか…」
「しかしお前らしくないな、なぜいきなり攻撃をしたんだ?」
カチャ コポコポコポ トトトト サッ
ジオスはアゴンに2杯目のコーヒーを入れて渡した。
「ああ、すまん。…ユリナだ」 ゴク
「ユリナ? お前の妹だったな」
「ああ、俺と双子の妹「アイシャ」と「ユリナ」は、幼い頃両親を亡くしてな、つい最近まで俺が面倒を見てきたのだ」
「ん、そうか、ユリナ達の親代わりってわけだ」
「そうだ……ククッ!...姉のアイシャはサッサと嫁ぎおって、それもあんな軽い奴に…だから、せめてユリナは、ユリナだけは俺の認めた男にと思っていたのだ」 ゴクン
「じゃあ、今回のは親心からのって事か?」
「……ま、まあ、そういう事だ」 ゴクゴクン カチャ
「そうか、意外と妹思いなんだな」
「貴様の実力を見た、…認めよう、お前はユリナにふさわしい男だ、私はユリナをお前に託す」
「おいおい、そんなに簡単に決めて良いのかよ?」
「ああ、俺が認めたからな。お前の実力は桁違いだ、見ろッ!」 シャンッ!
アゴンは自分の愛刀 魔剣スキャラゲインを抜いて見せた。その魔剣は傷つき、刀身にはひびが走り、今後の戦闘には使用できないのは一目瞭然だった。
ピキピキッ ピシッ パラパラ
アゴンの愛刀、魔剣スキャラゲインは、戦闘特化の攻撃型魔剣である。いかなる状況でも、その強靭な刀身は主人、アゴンの要望に応え、闘ってきた。それが、先の戦いの最中、ジオスの超神剣技を喰らい、その刀身はジオスの攻撃に耐えれなかったのだ。 ピキキ パラパラ
「お前との一撃でこのざまだ」 ピキッ パラ
「わああッ! すまん! 魔剣を駄目にするつもりは無かったんだッ!」
「よい、これも私の力不足だ。スキャラゲインには悪い事をした」ピキキッ パラ
魔剣スキャラゲインは、その力を失い、刀身は崩れ、崩壊し消えてゆく。その姿をアゴンは見ていた。
「なあアゴン」
「うん?」
「ちょっとその剣、見せてもらってもいいか?」
「......ああ、」 サッ
「悪いな よっと...ふむ(まだ、刀身自体は生きてるか。だが時間の問題だな)」コンコン
「その魔剣はもう寿命だ、後は無に帰すだけ……」
「ん、アゴン」
「なんだ?」
「この魔剣、俺が治してやるよ!」
「なにッ! できるのかッ⁉」 バッ
「ああ、問題ない」
「たのむッ! この魔剣は私の体の一部! 手放したくはないのだッ!」
「そうか、なら、なおさら治してやるよ」
「ありがたいッ!」
ジオスは魔剣を片手に持ち、もう片方の手で、異空間より異質な紺色で光る鉱物をとりだした。
ヒュイイイインン バッ! パアアア
「ジオスよ、それはなんだ?」
「ん? これか?」
「ああ、何やらとてつもない魔力を感じるのだが..」
「さすがはアゴン、コイツの内秘魔力を感じ取ったのか」 フフン
「で、それはなんだ?」
「王鉱石インディアルナイト、つまり神剣や魔剣には欠かせない素材さ」 ゴン!
「ジオス」
「ん、なんだアゴン?」 サッサッサッ!コト
「お前は、...」
「ん?」 コンコン パラ
「いや、なんでもない」
「?」 コンコン パラパラ
ジオスはアゴンと意味深な会話をしながら、準備をした。
「こうして、こう!で、ここに置いて、この配置っと ん、よしッ!」サッサ
コト チャ
「ん、じゃあ始めるか」 サッ
ジオスは地面に置かれたアゴンの魔剣と素材の鉱石を置き、それに手をかざし、ジオスの持つ創造者の能力を使った。無からあらゆる物を創造創生できるジオスにとって、魔剣の創造再生など容易い物だった。
「ん、『我ジオスが創生創造す!魔剣よ!再びその身に力を授けん!』《エルテアジーベン》」 シュアッ! ボバアアア―ッ! バッバッバッ! キュルンッ!
ジオスが呪文を唱えると、その場に魔法陣が現れ、魔剣と王鉱石が同時融解し一つの球体になった。ジオスはその球体に手をかざし魔力を込めて、新たに甦る魔剣を仕上げていく。
「さあ、アゴンの新たなる魔剣よ!その姿を顕現せよ!」 シュパアアアーッ!
キラキラキラ シュウウ~... チャキンッ!
次の瞬間、ジオスのその手には、鮮やかな朱色の長剣が握られていた。その朱色の刀身には、多種多様の幾何学模様が描かれ、刀身中央には剣先から握り手まで、神語であるヒエログリフが刻まれていた。 ジオスの持つ新たに甦った自分の魔剣を見て、アゴンは震え叫んだ!
「おおおおッ! なんとおッ!」 ザッ
「ふうう…、ん?あれ、なんか前のと違う。なんで?」 チャ チャ クルッ
ジオスはアゴンの甦った剣を繁々と観察していた。
「なんだこれ、こうか? ほれッ!」 ビュン! シュパアアーッ!
ザンッ!ドオオオンンンッ!
メキメキメキッ! ザザアアアーーーン!
「「 はああッ⁉︎ 」」
ジオスが甦ったアゴンの魔剣を振り下ろしたその時、その赤い刀身よりすさまじい衝撃波が発生し、その延長線上にある岩や木々を薙ぎ払ってしまった。
「おいジオスッ! なんだあれわああッ!」 ガバアアッ!
「あはははッ! なんだろう、俺にも解らん」(え〜 なんだよこれ..)
「解らんわけなかろうッ! 俺の魔剣はどうなったんだあッ!」
「わかった、わかったから、ちょっと待って、 う〜んと…へ?」
ジオスはアゴンの甦った魔剣を鑑定してみた。 ブンッ
ークリエイティブ・プレシアスウェポンー
魔神剣 《ノイエレーテ》
攻撃力 400000+TPA
耐久力 400000+AVE
攻撃属性 炎 風
特殊攻撃 斬撃を伴う衝撃波、《ソニック.スラッシュ》
広範囲斬撃波、《グロウベル.シュラウダ―》
局地殲滅爆砕波、《オルテリア.ハンマー》
創造者による破壊不能属性のついた唯一無二の武器
「なッ!…(やっべ〜…)」
「ん?ジオスよ、どうしたのだ?」
「あ、なんでもない! うん、この剣は魔剣から魔神剣に進化してしまったんだ!」
(すまんアゴン、これはもう武器じゃない、戦略兵器だ...だまっとこ...)
「魔剣が魔神剣に?」
「そうだ、前の魔剣スキャラゲインより、攻撃力は数十倍に跳ね上がった、アゴン、お前専用の魔剣だ」
「私専用の魔剣……」
「ああ、魔神剣『ノイエレーテ』魔族領最強の武器だ!」
「うむ、…手によく馴染む、 フンッ!」 ビュンッ! シュパアアーッ!
ザンッ! ドオオオンンンッ! パラパラ パラ……
「おおーッ うむ、これは良い 手加減をせぬといかんなこれは、ジオスよ、礼を言うぞ!」チャキン
「気に入ってもらえて良かった」 スタスタ ザ
「うむ、恩に着る。この恩はいずれしたい」 ザッザッ タン
アゴンの魔剣を甦らせた後、2人は再び焚火を挟んで座った。
パチパチ カタ パチチッ メラメラ パチ
「そう言えばアゴン」
「うん?」
「お前、俺を呼びに来たと言っていたな」
「ああ、そうだ、明日早々で悪いが、魔王様のところまで来て欲しい」
「魔王か…俺に、なんの用なんだ?」
「それは私にもわからん、ただ......」
「ただ?」
「ただ、お前の名前、ジオスを伝えた時、僅かに狼狽したのだ。魔王様はお前の事を知っているそぶりだったぞッ!」
「魔王がおれを?」
「ああ、間違いない、俺の感がそう言っている」
「なあ、魔王って、どんな奴だ?」
「魔王様か?そうだな、偉大な魔力を持ち、未だにその真の力を見たことがない、我らグレーターギルスでも、その正体は定かでないのだ。」
「なんだそれ、魔王だろ、お前達の長じゃないか、領民達もか?」
「ああ、魔王様はその全てが謎なんだ。男か女かも解らぬしお顔も解らない。認識阻害の魔法か何かを使っているようなのでな」
「そうか、まあ明日には会えるんだろ?」
「うむ、合わせる、そのつもりだ……」
「(正体不明の魔王、アゴン達でさえその姿を知らないとは...まあ、会えばわかるか...)では、明日に期待するかな、アゴン...ん?アゴン?」
「.........」ウツラウツラ
いつの間にか、アゴンは座った姿勢のまま眠っていた。
「寝たのか、......魔王...か...」 パチパチ カラン メラメラ
「ふう… (魔王、お前がこの世界へ俺を呼んだのか? お前が俺に助けを求めたのか? 俺の事を知っている魔王、お前は一体何者なんだ? 魔王城へ行けば何かわかるだろう、恐らく魔王はこの世界の事を知っている、俺を呼んでいるのはその為なんだろうな)」
ジオスは1人、焚火の前で魔王の事を考えていた。 ジオスには、睡眠と言うものを必要としない、それはジオスが創造者、神をも凌駕する存在なのだから。それ故に、一晩中でも起きていられ、野営をしながら考え事ができたのである。
パチパチ パチン メラメラ サワサワ….
「ん?」 メラメラ カタ サク、サクサク
焚き火の近くにいたジオス達に1人の少女が近づいてきた。
「こんばんわ、少し宜しいでしょうか?」 ペコ
「ああ、君か、 良いですよ、どうぞ」 サッ
そう、そこに近づいてきたのは、アゴンのアヴィスランサー、クリスだった。クリスは少し前に目覚め、マスターのアゴンがジオスと会話をしていた後、マスター、アゴンが寝たのを待って、ここに出てきていた。 クリスは、マスターのアゴンに毛布をかけ、横に座った。
コポコポコポ カチャ トロ〜 サッ
「え〜ッと、たしかクリス さんだったかな?」 (ハイどうぞ)
「はい、 あ、ありがとうございます… 」 ふう〜 ふう〜 コク
「 ! 」 コクン
「ん、美味しいかい?」
「はい、とっても! なんなんですかこれ? 初めていただきました」コク カチャ
「ああ、それね、アゴンには自家製のコーヒーだったけど、君にはカフェラテにさせてもらったんだ」 ニコ
「カフェラテ…カフェラテという飲み物なんですね!」
「気に入ってもらえたかい?」
「はい、気に入りました!」
「それは良かった、で、それで俺に何か用なのかな?」
「はい、そのう…」 モジモジ
「ん? ああ、俺の事はジオスでいいよ! ただのジオス、 いい?」
「そんな! 呼び捨てなんて…」
「ん、構わんさ、それに今さっきから、アゴンと俺は義理の兄と弟みたいだからな」
「はい…では、ジオス様…と?」
「ん、」 コクン
ジオスは軽く頷いた。
「で、俺になんか用事があるんだろ?」
「はい、では宜しいでしょうか?」
「ああ、なんだい?」
「先程の術を見ました! ジオス様はもしかしたら創造や再生といった、失われた伝説の超高等神級技が使えるのでしょうか?」 バッ
「へ? 失われた? 伝説? 超高等神級技?」
「はい、そうです!あのマスターの魔剣を再生したのを私は見ました!いえ、ただ再生されただけでなく、見違える程の偉大な魔剣になりました。あれはまさしく伝説の技です!」
「イヤイヤイヤちょっと待って、え?この世界じゃ再生や甦りはないの?」
「はい、ありませんが、甦り⁉︎ あれは甦りだったんですか⁉︎」
「ああ、まあ再生も少し混ぜたけど…」
「そ、それはどんなものでも可能なんでしょうか?」
「ん、まあ大抵の物はできるかな、でもなんで?」
「で、では、お願いしますッ!」 ババッ‼︎
「えッ⁉︎」バッ!
「わ、私の、私の友達を甦らせてくださいッ!」 ペコ
「君の友達? どうしたのだ?」
「はい、私には『ミスト』という友達がいました」
「ふむ、で、その子が亡くなったと? 残念だが、人や動物といった命、それが亡くなったものは再生や甦りはできないんだ」
「いえ亡くなったのではなく、消滅してしまったのです」
「消滅? じゃあそのミストという子は普通の人ではないのだな」
「はい、ミストもそうですけど、アヴィスランサーである私達は、マスター達の分身体なんです」
「え、じゃあこんな可愛い子が、アゴンの分身⁉︎」
「え? か、可愛いいなんて…」 ポッ
「いやあ、アゴンには似てねえなあ…」
「すまんな、似てなくて!」 パチッ
「マ、マスターッ! すみません!勝手なことをいたしました。お許しください!」 ペコ
「なんだよ、起きたのかアゴン」
「ああ、クリスが何やら頼み事をする声が聞こえたのでな。で、ジオスよ」
「ん、?」
「クリスの頼みも聞いてやってくれぬか? 私からも頼む」
「マスターッ!」
「う〜ん……」
「無理か?」
「なあ、アゴン」
「む、なんだ?」
「ちょっとお前の体に触れていいか?」
「は?、俺の体をか?」
「そうだ、いいか?」
「それが、クリスの願いと関係があるのならば構わんぞ!」
「じゃあ、遠慮なく」 ガバッ!ギュウウッ!
「うわあッ! き、貴様何をッ!」 ギュウウ
ジオスはアゴンの体に思いっきり抱きついた。
「きゃああッ♡ マ、マスターが男性と抱き合ってるううーッ!」 カアアッ
「バ、バカなことを言うなッ!クリスッ! こ、これは、お前のためだッ!変な誤解をするなッ!」ギュギュギュウ!
「は、はい〜…」(わああッ すご〜い♡)カ カ カア〜ッ
「ん、わかった、すまんなアゴン」 バッ!
「うん? もういいのか、何がわかったのだ?」
「まあ、見てな!」 ザッ! ブウウンンッ!
ジオスは両手を前に出し、創生創造の力を使い始めた。
「《リンケージッ!》」 パアアッン! シュイイイン
ジオスの前の地面に、白い魔法陣が現れた。
「《シークリス.ナウミング.オファー》」 ギュウウイインッ
魔法陣の中央部部に、光が集まり出し、それが縦の楕円状になっていく。
「《ジェネレーション.バウッ!》」 バババッ! パアアアアーッンン!
その最後の呪文は、あたり一面を眩く照らし輝き出した。
「「うわあッ! きゃあッ!」」 パアアッン!
………しばらくして、その輝きも収まり、また元の焚き火の明るさがある深夜の森になった。
シュ〜〜〜 シュ〜〜〜 モクモク……
「ん、こんなものかな」 パンパン
ジオスは片手間の仕事をしたように手を叩き、魔法陣が出た場所を見ていた。
「ううッ! な、何をしたのだ、ジオスよ?」
「眩しかった〜、マスター、大丈夫ですか?」
シュ〜〜〜 モヤモヤ
「ん、いやあ...ちょっと試してみたけど、できちゃった」 ニコ
「ん、何ができ…..‼︎」
「えッ⁉︎」
魔法陣のあたりのもやが晴れていき、その中央を見てアゴンとクリスは驚いた!
「「何いいいーッ‼︎(えええーッ‼︎)」」
シュ〜〜〜 サラサラ〜
「さ、2人に自己紹介だ!」
サク サク サク タタ
「は、はい…あ、あのう、マ、マスター…わ、私、クリスです」 ペコ
「なッ! クリスーッ⁉︎」
「ええーッ⁉︎ わ、私がもう1人いるうーッ‼︎」
そう、ジオスはここにもう1人のアヴィスランサー、クリスを創生誕生させてしまったのであった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回もでき次第投稿します。