表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/311

第97話 勅命とカフェラテ談義

―魔族領 アコン州 王都ブロスベルクー


ここ魔王城の一郭、「ヘキサリアム」グレーターギルスのサロンで、魔王はグレーターギルスのアゴンを呼び止め密かに、一つの指示を出した。


「アゴンよ、ちょっと良いかな?」 コツコツ


「うん? あ、これは魔王様」  サッ


「ああ、そのままで良い」


「して、御用向きは?」


「うむ、少し頼みがあってな」


「はッ! 他ならぬ魔王様の頼みとあらば」 スッ


「うむ、では別室でな」 コツコツ


「はッ」 コツコツ


魔王とアゴンは、サロン横にある個室の一つに入って行った。


ギイイッ パタン! カチャ


「さてアゴンよ、貴様にとある人物をここへ迎え、連れてきて欲しいのだ」


「魔王様自ら、このアゴンにご指示とは、いったい何者を迎えよと?」


「アゴンよ、その者は貴様自身がよく知っている人物だ」


「私自身がでありますか?」


「うむ、先程の報告にあった人物、その者をここへ連れてきてもらいたいのだ」


「先程……ま、まさか!あの男をここへ連れてこいと?」


「うむ、頼めるか」 コクン


「わかりました、このアゴン、ご命令とあらばあの者を魔王様の前まで連れて参ります」


「うむ頼むぞ!」


「はッ! しかし魔王様」


「ん、何だ?」


「なぜ、あの者をこの城へ呼ぶのでしょうか?」


「うむ、アゴンには話しておこう」


「あの者はこの魔族領だけでなく、この世界全体を救うほどの魔力を持っている可能性があるのだ」


「なる程、確かにそうかもしれません」


「なんとしても、この魔王城に呼び、協力を、この世界のためにその力を使ってもらいたいのだ!」


「わかりました、このアゴン、必ずやその者、ジオスをこの魔王城まで連れて参ります」 ザッ


「なにッ‼︎ い、今何と申したッ!」 バッ


「は⁉︎ 何と と申しますと?」


「アゴンッ!」


「はッ!」


「今、連れて来るその者の名をもう一度言ってくれないか⁉」


「はッ、その者の名は、『ジオス』、我がグレーターギルスの力を凌駕するほどの魔力と身体能力を持ち、私と互角の戦いをした人物、それが何か?」


「ジ、ジオス、その者の名はジオスと言ったかッ⁉」 ワナワナ


「は、左様でございます。魔王様」 ペコ


「(ああ...よ、ようやく、ようやく会えた...やっと...)ううッ」


「魔王様?」


「ムッ、ああ、すまぬ。うむ、わかった。早急に事を頼む!」


「はッ! 直ちに!」 ザッ コツコツ カチャッ パタンッ!


アゴンは魔王の命令を受けると、すぐさま個室を出ていった。


「(頼んだぞアゴン、ジオス様を、あのお方を..)」 シュンッ!


魔王はアゴンにジオスをここまで連れてくるよう指示を出した後、転位魔法でこの場から消えた。


コツコツコツ (む〜…)


アゴンは魔王との話を終え、個室から出たあと廊下を考えながら歩いていた。


「(魔王様が一瞬動揺された? お顔がいつも認識阻害されていて、その表情がわからないが、間違いなく動揺していた! そもそも男か女かも定かではない魔王様だが、実力は本物、いまだにその秘めた真の力がわからない。その魔王様が動揺するような人物、ジオス、貴様はいったい何者だ?)」 コツコツ


アゴンが魔王の動揺に、疑問を抱きながら、自分の控え室に向かう途中、通路向こうがやけに騒がしくなっていた。 ガヤガヤ ざわざわ


「早く! 早くこっちだ! ベットに寝かせろ!」 ガヤガヤ


「マクシンを、医術長のマクシン様を早く!」 バタバタ


「急げ!」 バタバタ


「はい!すぐにッ!」タタタッ!


1人の医療士が、アゴンの方へかけて来た。それをアゴンが呼び止める。


「おい」


「は、はい!ってア、アゴン様ッ!」 ビシッ


「ああ、いい、あれは何の騒ぎだ?」


「はい、先ほどグレーターギルスのスカラ様が転移魔法陣にて御帰還、その際に重傷を負われたお姿で現れましたので、今、医術長のマクシン様をお呼びしに行くところです」


「なにッ! スカラが重傷だと⁉ で容体は?」


「わかりません、なにぶんにもスカラ様がここに着くなり気絶してしまわれたので...」


「わかった、貴様は早くマクシンを呼んで来い!」


「はッ!失礼しますッ!」 バッ! タタタッ


医療士と別れたアゴンは、足早にスカラのもとへ向かった。


「(スカラが重傷だと? 奴はいったい何と戦ったのだ?)」 カツカツカツカツ!


騒がしく応急手当てをしている部屋にアゴンは勢いよく入っていった。


バンッ! カツカツカツ ババッ!


「むッ! これは...」


アゴンは息をのんだ、そこに横たわっていたのは、わき腹をえぐられ、大量の出血をして息も荒げにしていたスカラであった。


「ハアハアハアッ ウグウッ ハアハアゼエゼエ ミ、ミス…ト、ハアハア」


「アゴン様!」


「どうだ、スカラの容態は?」


「は、なにぶんにも出血が多すぎます。また、内臓の損傷が激しく、いま医術士による魔法で、延命治療中です」


「意識はあるのか?」


「いえ、それはまだ...」 フリフリ


「ん? 奴のベターハーフ、アヴィスランサーのミストの姿が見えぬが..」 


アゴンがスカラの相棒のミストを見渡して探していたところ、後ろから声がかかってきた。


「マスター...」


「うん? クリスか、どうした?」


「......う、うう..うぐッ...」 ぐす


「クリス、何があった? 答えれるか?」


「はい、申し訳..ありません..うう..」 ぐす


「言える範囲でいい、何があった?」


「はい、うく..スカラ様の..アヴィスランサー、ミ、ミストは...もういません 」


「いない? それはどういう事だ」


「はい、ううッ..ミストは、あの子はスカラ様を守って、消滅したものと推察します、ううッ..」 グス ポロポロ


「消滅だと⁉ それは確かなのかクリスッ!」


「は、はい! 彼女の生体シグナルがありません、ううッ... 全く無いんですッ うわーんッ!」 ポロポロポロ


普段は冷静沈着なクリスが大声で泣いた。アゴンの胸に、そのきれいな栗色のショートヘアを揺らし、泣き顔をうずめた。それをアゴンはクリスの頭を撫で、慰めた。


「クリス......」 サスサス


「う、うう、ミスト~..グズッ、ミスト~ うう、うううう...」 ポロポロ


「クリス、お前しばらく休め、俺は魔王様直々の指示を遂行しなければならぬ」

 グイッ!


「ま、グズ、魔王様の、ヒク、勅命ですか? グズ、マス..ヒク、ター?」グズッ


「ああ、そうだ! だが、そんな状態のお前を連れていくわけにはいかん。俺1人で行ってくる」 バッ


「わ、私も行きますッ!」 グズ 


「ん、しかし...」


「マスター、私はマスターのためのランサーです。もう大丈夫ですから」 キッ


クリスは悲しみを胸の奥にしまい、涙をぬぐいながら、アゴンに自分も共に行動する意思を示した。


「フッ! そうだ、そうだったな。では行くぞ、着いてこいッ! クリスッ‼」

 ババッ!


「はいッ! マスターッ‼」 タタッ!


「おう!どいたどいたあッ! うん? あ、アゴンか、久しぶりだなッ!」

 ダダダッ!


「ああ、マクシン、悪いが俺は今から急ぎの用だ、スカラの事を頼む!」

 バッ コツコツ


「うむ、任せておけ、ではまたなッ!今度ゆっくり会おう!」 ダダダッ!


「ああ」 コツコツ


魔王の勅命を遂行するために、アゴンとクリスがその場を離れると入れ違いに、魔王城医術長のマクシンが駆け足で、スカラの治療をするため、彼の元へ向かって行った。


「(スカラ、後で話がしたい、死ぬなよ...)...」 コツコツコツ バンッ!


「マスター、ここは転移室ですが、どこへ行くのですか?」 テクテク


「うむ、クリス、行先をまだ行っておらんかったな」 ササッ ブウウ~ンン


アゴンは転移室に入ると、その部屋の中央に位置する、転移魔法陣を自身の魔力を使い起動させた。


「はい、まだ聞いておりません。ですがクリスはマスターと共に、どこまでも付いて行きます」 ペコ


「うむ!」 コクン


すると、部屋のどこからか、女性の声が流れてきた。


〈 転移魔法陣の起動を確認、転移者は所定の位置にお付きください 〉ブ~ン ブ~ン


2人は魔法陣の中央まで行き、そこで立ち止まり次の指示を待つ。


〈 転移者を確認! 魔法陣起動動作正常、行き先を指定して実行してください 〉ブ~ン


「魔族領、コーカサス! 州都『ガイエスブルク』ッ!」 ザッ!


アゴンが転移先を言うと、魔法陣は光輝き始め、2人を包み始めた。


〈 転移座標を確認、転移開始 〉 ビュウイイイインン―ッ! シュインッ!


程なくして、2人はアゴンの領地、コーカサス州の州都「ガイエスブルク」へ転移して行った。



ー魔族領 コーカサス州州都「ガイエスブルク」近郊の森ー


夜の帳も落ち始め、ジオス達は野営地で食事を始めていた。


「はい、ジオス様、うまく焼けましたよ」 サッ


「あ、ああ ありがとう、セレス」


「こっちもおいしそうですよ、ジオス様」


「ん、ユリナもありがとう、いただくよ」


ジオスはセレスとユリナに挟まれ、今晩の夕食を食べていた。


「にゃッ あの2人は凄いにゃ」 ハグハグ


「ミャ、お姉ちゃんはいいの?」 ングング ゴクン


「んにゃ? 別にいいにゃ、婚約もしたし、あわてないにゃ」 ムシッ バク


「ミャ、それもそうミャ、今はごはんッ!」 パク ムグムグ ゴクン


ミュウとミイは、ジオス達の事はよそに、目の前の肉料理の方に夢中で食べていた。


「そういえば、ユリナ」


「なんですかセレス」


「あなた、こんな時間までここにいていいの?」


「こんな時間? あッ!いけない、すっかり忘れてました」 バッ!


「ん、まさか、家の者にはなんて出て来たんだ?」 パク


「はい、ちょっと散歩にと言って出てきました」ニコ


「いいの? ユリナの家の人は驚きますよ、『散歩に出かけたら、夫ができました』なんて言ったら大騒ぎよ?」 


「あ、やっぱッご両親に話したほうがいいのではないか? 何なら今からでも..」


「大丈夫ですよ、両親はいませんから」


「そっか、悪い事言ったかな。すまん、でもお兄さんがいるだろ? 怒られないか?」


「それも大丈夫です、兄様は今、王都に行っています。ここにはしばらく戻りません」


「そうか、でもいつかは、挨拶に行かなければいけないな」


「そうです、ですから、ジオス様♡」 スリ


「ん?、な、何でしょう?」 ゾクリ


「兄様が断れないようにしましょ♡」 スリスリッ ダキッ!


「へッ⁉ ちょ...ユ、ユリナッ!」


「だ、ダメええッ!」 ガバッ!


「セレス、何ですのッ⁉ 今いいところなのにい~」 プン


「ユ、ユリナ、ダメ!、ま、まま、まだ私もまだなんだから!」 ギュウウ!


「あらあ~、じゃあ、早いもん勝ちっていう事でどうかしら?」 ギュッ!


「そ、それもだめええッ! わ、わた、わたし...が..私が一番だからああーッ! はッ⁉..」クルッ ジ~…


セレスはユリナに向かって大言を言った後、我に返り、ジオスの顔を見た。


「あ、ああ、そんなに思っててくれてたのか、ハハ、ありがとうセレス」 ニコ


「あら、大たあ~ん♡ セレスのおッ! エッチいいッ!」 ふふ


「は、あわ、あわわわッ! きゃああーッ!」


ピイーーッ! ボワンッ! パタン!


セレスはこれでもかと言うくらい顔を真っ赤にして倒れてしまった。


「お、おいセレス! しっかりしろセレス!おいったらッ!」


「あらあ、意外とウブなんですね」


「ユリナ、からかいすぎだぞッ!彼女はそう言うのにまだ免疫がないから」


「はい、以後気をつけます、セレスごめんね! よいしょっと!」 グイッ


「ジオス様」


「ん?」


「セレスをテントで休ませますね」


「ん、俺が運ぼう! ほいッ」 ひょいッ だきッ!


ジオスはユリナからセレスを譲り受け、抱き上げた。そうお姫様抱っこである。


「わ、わああッ! いいなあ、 セレス役得じゃない。良かったね」


「にゃ、セレスもう寝るのかにゃ?」 にゃん


「ミイももう眠たい、一緒に寝るミャ!」 ミャアッ


「ん、みんな一緒に寝てあげて」 ニコ


「ジオス様はまだかにゃ?」


「うん、俺はまだやることがあるから先に寝てなさい」


「「はいにゃ(ミャ)」」 にゃミャ!


そうしてジオスはセレスをテントに寝かせ、それに続いてミュウとミイがテントに潜っていった。 その場にはジオスとユリナの2人だけになり、夕食作りに使った焚き火を囲んでその場に座った。闇夜の焚き火は人の心を落ち着かせ、本音が出やすい状況になる。


カチャカチャ コポコポ トロ〜 


「ほい、ユリナ」 サッ


「え? あ、ありがとうございます」


ジオスはユリナの為に、紅茶ではなくカフェラテを作り渡した。


「わああ、いい香り」 コク


「ッ! 美味しい! なにこれッ!物凄く美味しいッ!」 コクコク


「気に入ってもらえたかい?」


「ええ、とっても、…で、ジオス様、私に何か?」 コク


「何であんなことしたんだ?」


「え? 何のことでしょう?」


「セレスを煽ったな」


「あ、わかっちゃいました、えへへ」


「ユリナ、君はわざと性格を偽ってたろ?」


「......いつから気づいていたんですか?」 コク


「セレスと会う少し前、婚約の話をした時かな、君の様子が変わった、怯え調子から堂々となった」


「んふ♡、正解です」 コクン


「なぜ、そんな事をしたんだ?」


「彼女達には…あまり時間がないから…」 カチャ


「んッ⁉︎ そうか、君はこの世界のことを知ってるな」


「さあ、何のことでしょう…」 フリフリ


コポコポコポ、トロ〜 カチャ


ジオスはユリナにカフェラテのお代わりを出した。


「あら、ありがとうございます」 コク


「ユリナ、君はどこまで知っている?」


「………」 コクン


ユリナはしばらく考えてから、カフェラテを一口飲んでジオスに答えた。


 コクコクン ふう~…カチャ


「ジオス様、『この世界は後一年も持たない』、これが私の知る全てです」


【ユリナ・フェル・アゴン】ここ州都「ガイエスブルク」の領主の妹、彼女はこの世界の事を的確に把握していた。




いつも読んでいただきありがとうございます。

次回もでき次第投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ