第94話 世界の意思、断罪者
ー魔族領 ノイエラント州 州都「エルドレーテ」ー
時は少し前、それは穏やかな1日の始まりだった。此処は魔族領ノイエラント州の州都「エルドレーテ」、その都城の執務室で、州知事【ベラレス・フォル・スカラ】は朝食を終えた後の雑務に励んでいた。
「う〜ん、魔王様の指示が正しければ、僕も『ニブルヘイム』へ行ったほうがいいんじゃないかなあ」 カキカキ
「マスター」
「うん?なんだい、ミスト?」 カキカキ
「魔王様はお考えがあって、マスターを此処にとどまるよう指示を出したんですよ。きっと、何か理由があると思います」
「そうだね、ミストのいう通りだ。指示通り此処で雑務をしよう」 カキカキ
「はい、マスター」
「しかし、なんだこれは、『デマ丘陵地に、所々草木が無くなり穴が空いてる。調べてください』か」
「マスター、こっちのは『州都の外に行った息子が帰ってこない』とか『黒い魔物を見た、調べて退治して欲しい』、コレらもデマ丘陵地の方みたいですよ」
「やはり一度調べたほうが…」 フム
その時、彼の元に急報が入った。 どんどんッ! ガチャッ!
「スカラ様ッ!スカラ様ッ!」 バンッ!
勢いよく執務室に入ってきたのは、スカラの第一秘書「キオン」であった。
「なんだい! キオン、そんなに慌てて、何かあったのか?」
「ブ、ブラックスパイダーが出ました!」
「何いッ! どこだッ⁉︎」 ガバッ!
「デマ丘陵地です! すでに犠牲者が!」
「わかった! すぐに駐屯軍と警備部隊に連絡ッ!討伐隊を編成デマ丘陵地に行くぞ!」
「ハッ直ちに!」 タタタ
スカラはキオンが出ていった後、自分も支度を始める。
「ミスト」
「はいマスター」
「コレが起こりそうだから、魔王様は私を此処に留めおいたのかもしれん」
「魔王様は未来が予想できると思われるのですか?」
「魔王様だからね、できるんじゃないかな」
ウ〜〜〜ッ ウ〜〜〜ッ ウ〜〜〜ッ
首都全域にわたって、警報のサイレンが鳴り響いた。 それにより州都に住む都民達は慌ただしく動き始めた。
「緊急避難警報だあ! 急げええ!」
「大変よ!大変! 急ぐよ!」
「「「ワーワー、ガヤガヤ、」」」
その様子を見てスカラはため息をつき思った。
「(魔王様の予測通りか..)」 フウッ
「ミスト、僕たちも行くよ!」 バッ
「はい、マスター」 コクン
ーデマ丘陵地ー
そこは緑豊かな森と草原からなる自然が広がる広大な大地であった。その大地に今、滅びの兆しが現れた。
グズグズ! ブブブッ バアアンンッ!
最初は霧のような黒いモヤだったものが、いきなり丸い円状に広がり、大穴が開いた! その穴より這い出る不気味な多数の影、それはブラックスパイダーの群れであった。群れは丘陵地をはい回り、動植物を手当たり次第貪った。それはまるで、何かに指示されたの如く動く。次第に中位種や大型の高位種なども現れ、ついに魔人族にも被害が出始めた。この報告を受け、州知事であるスカラは、アヴィスランサーのミストと共に、この北の丘陵地、デマ丘陵地に、ブラックスパイダー討伐にやって来たのだった。
ワサワサワサ ギャギャア! ザワザワ
「うわあ、こりゃまた大量に湧き出てきたなあ!」
「マ、マスター」
「うん?どうしたのミスト、大丈夫?」
「は、はいマスター、大丈夫です」
2人は小高い丘の上から湧き出でているブラックスパイダーの群れの様子を見ていた。
「よし、じゃあ僕達は中位種と大型の高位種の殲滅を優先的に行くぞ!」
シュリン!
「了解しました!」 シュンッチャキ!
スカラとミストの2人は、それぞれの魔神剣を手に、ブラックスパイダーの群れに高速で突っ込んでいった! 高速で移動する中、2人の視界にあのブラックスパイダーの姿が段々と大きく見えてくる。
「マスターッ!前方に大型高位種3!、中位種6!、小型多数ッ!先行殲滅しますッ!」
「うん! ミスト!了解だ!行くぞお!」 キュン!
「はいマスターッ!」 キュン!
ブラックスパイダーとの距離を一気に縮め、先行のミストが攻撃を仕掛けた。
「《塵破!》魔装技!《ラングリア》《バリオスライト》《ゼルデガンドレア》《キュリオスグリッパー》」キュン、キュン、キュン、ギュン!
ミストは最大加速しながら自信を強化する。魔神剣、ミドルダブルダガーの「グリアレス」が赤白く輝き始め、その力を解放し出した。彼女はそれを構えて、目標を定め剣技を発動した。
「朽ち果てろ!幻魔帝級剣技!《デルニス.ザム.フラッツッ!》」
キキュンッ! シュパアアンンーッ!
ズバズバズババアアンーッ! ギャギャアア! バラバラバラ!
ビシュウウウンンーッ! スタッ チャキ
「ふう、マスターッ! あとお願いしますッ!」 サッ
「うん!わかってる!」 ギュウウンンン!
ミストが先行攻撃したあとのブラックスパイダーの群れめがけて、スカラは攻撃を仕掛けた。
「《塵破!》魔装技!《ラングリア》《ベクターシール》《イフリネーション》《レシカルトストレンジ》」 キュン、キュン、キュン、ギュン!
スカラの攻撃力が増大していき、その最大値になったところで剣技を発動する。
「喰らえええッ! 幻魔帝級剣技!《ガルドレイ.ザム.インパクトーッ!》」
シュキュンッ! シュパアアアンッ!
ズバアアアアンンンン! ギャギョオオオオッ!
スカラの剣撃により、大穴より湧き出でていたブラックスパイダーは全て駆逐されていった。
シュウイイイイイインンン… ザッ チャキッ!
「よし、討伐できたかな」 サッ
「マスター!」 タタタ
「やあ、ミスト、ありがとう。 君のおかげで全て倒せたよ!」
「マスター!ハアハアハア」 タタタ
スカラは笑顔でミストを見たが、ミストは違った。何かに急かされるような感じでスカラの方へ走ってきた。
「うん? ミスト?」
「マスター! 逃げてーッ!ハアハア、 逃げてくださいいーッ!」 タタタ
「え? 逃げる? 何から? 一体なに…うおッ⁉︎」 グラグラ
スカラの立っていたあたりの地面が揺れだし、地割れが走り始めた。
ピシイイイ! ガラガラ バリバリッ
「は、早くッ! ハアハア、早くそこから離れてくださいーッ!」 タタタ
グラグラッ! ゴゴゴゴ! グバアアアッ!
「うわあッ! な、なんだああーッ⁉︎」 ババッ!
ドズウウンンッ! ドズウウンンッ! グバアアアッ! ババアアアッ!
スカラはその場を一瞬で移動した。そこには巨大な蜘蛛の足が次々と現れ、最後にはその超巨大な本体が姿を現した。
「な!こ、コレは..」 ググッ
「マスター!」 タタッ!
「ミスト、コレはちょと厄介だぞ!」 キッ
「え?」
「こいつはまずい! 洒落にならない!」
「マスター、いったいあれは? ただの大型高位種のブラックスパイダーには見えませんが…」
そう、そこに現れたのは、超巨大サイズの最高高位種。その全身は、ただ黒いだけでなく所々に赤い筋が光り、その体からは異常なまでの魔力が漏れ出ていた。 大型の高位種のブラックスパイダーより巨大で、その大きさはゆうに30mを超え、普通の者ならばその姿を見ただけで萎縮してしまい、身動きできず気絶してしまうであろう殺気を放っていた。
「ああ、ミスト、アレはただのブラックスパイダーじゃあない!」 ギリッ!
「マスター、アレはいったい?」
「『インペリアルスパイダー』、つまり蜘蛛の皇帝 奴ら蜘蛛の魔物全ての皇帝だ!」
「は? そ、そんな存在がこの場に?」
そこに現れたのはブラックスパイダーだけでなく、蜘蛛に関する魔物全ての頂点、親でもあり皇帝の天災級の魔物、高い知能と魔力、魔法を持って存在している、最大級の魔物であった。「インペリアルスパイダー」はこの世界の俗称で、正確な呼び名はない。ただ、その巨大さと力、能力をとってそう呼ばれていた。(今回の蜘蛛に限らず、他の魔物も同等の力や能力を持つ魔物であればインペリアルの名がつく)
「ミスト!」
「はい」
「他の『ヘキサリアム』の者に高速通信!」
「はい!、それで内容は?」
「内容は『火急速やかなる救援を! ノイエラント州知事スカラ』だ!」 ググッ!
「はい!マスター、直ちに送信しますッ!」 サッ
ミストはマスター、スカラに言われたとうりに、他の「ヘキサリアム」達に向けて送信した。
そんな中、スカラ達の前方に鎮座している「インペリアルスパイダー」は微動だにせず、8つあるその大きな目で地上のこの世界を見渡していた。まるで何かを探すかのように。
「(なんだ? なぜ動かない? 何をしているんだ?) ふん、なんか不気味だね」
「マスター」
「うん? 終わったのかい?」
「はい、超高速圧縮送信で、他のヘキサリアム全員に送りました」
「うん、ありがとう。(ま、此処にこれるのは、第参席のデルタさんくらいかな?)」
「マスター?」
「ああ、すまない。さてコイツをどうしよう?」
スカラがそう悩んでいた時、それは始まった。
ヴアアアアアアアアーッ! ダアアンンッ!
「ウウッ!」 キ〜ン
「キャアッ!」 キ〜ン
いきなり、「インペリアルスパイダー」が吠えたのだった。
「なんだいきなり、耳が痛いじゃないか」 ググ
「本当です、まだ耳鳴りがします」 サスサス
{チジョウノ、ワイショウナルイキモノヨ、ワレノ、コトバガ、リカイデキルカ?}
「なッ⁉︎ なにッ!」 バッ
「え⁉︎ しゃ、しゃべったああ⁉︎」
{ワレノコトバヲ、リカイデキルカ?}
「マ、マスター」
「うん、話してみる。 ああッ!理解できるぞ! お前も俺の言葉が理解できるのかあッ!」
{ウム、リカイデキル}
「で、俺たちに何か話があるのかッ!」
{コレハ、センコクデアル}
「宣告? 何の宣告だッ!」
{コノチハ、キエル、セカイガキエル、ワレガケス、ドコカニサレ}
「は? この地を消す? 世界を消す? それをお前がやると言うのかッ⁉︎」
{ソウダ、コレハキマッタコトナノダ、ココヲサレ}
「決まったこと? 決まった事とはなんだ? 誰が決めた? お前なのか?」
{ソレハ、ワイショウナル、イキモノノ、シルトコロデハナイ}
「それは、それはあまりにも一方的じゃないかッ!」
{コレハ、ダレニモトメラレヌ、ワイショウナル、キサマタチニハ、ドウニモナラナイ}
「ク……」 ググッ!
{イズレホロビルモノヨ、イマハイカソウ、サレド、コレハケッテイジコウ、コノチヲショウメツスル}
「だめだッ! 此処は破壊させないッ!」 バッ
{ナゼ?}
「此処は僕が、俺が治めている場所だからだッ!」
{デハ、コノチトトモニ、キエサルガヨイ、ワイショウナル、イキモノヨ}ゴゴゴ
「ああ、全力で阻止してみせるッ!」 シュキン!
{ムダナコチヲ} ズシイイインンッ! グワアアッ! ズシイイインンッ!
インペリアルスパイダーはスカラとの会話中に、その巨大な体を動かし始めた。
「私の名前は、グレーターギルスのスカラ、【ベラレス・フォル・スカラ】だッ! 貴様、名前はあるかッ!」 キッ!
{ワイショウナル、イキモノノ、スカラヨ、ワレニナナドナイ} グワアアッ
ズシイイインンッ!
「では、貴様は一体何者だあッ!」 ギンッ
{ワレハ、ダンザイノシッコウシャノヒトツ、【ヴィアレスブレイカー】デアル}
ズシイイインンッ!
「は⁉︎ 断罪の執行者? ヴィ、ヴィアレスブレイカーだとッ!」
「ま、マスター……」
{ワレノコウドウハ、コノセカイノ、イシデアルッ!} グワアアッ
ズシイイインンッ!
「な⁉︎ 世界の意思だと⁉︎ だとしたら、だとしたらッ! コレは神が決めたことなのかあッ⁉︎」
{ワイショウナル、イキモノノ、スカラヨ、カイワデキタコトノホウビニ、オシエヨウ}グワアアッ ズシイイインンッ!
「な、なにを俺に教えてくれる?」
{カミナド、モウイナイ、コノセカイハ、スデニミステラレタセカイ、ショウメツヲヨギナクサレタセカイナノダ} グワアアッ ズシイイインンッ!
「「は⁉︎(え⁉︎)」」
{ワレハ、ソレヲジッコウスルモノナリ!} グワアアッ ズシイイインンッ!
それは、あまりのも衝撃的な内容だった。魔王様に色々聞かされてはいたが、「神がいなくなり、この世界が見捨てられ、消えていく世界」などと言うことは聞いていなかったからだ。聞けば、誰でも驚きを隠すことは出来ない。今、スカラとミストは絶望の淵に落とされたのであった。
「そ、そんなあ…マスター、私たちは…」 フルフル
「ク…」 ワナワナ
{デハ、ワイショウナル、イキモノノ、スカラヨ、サラバダ!ハナセテ、タノシカッタゾ!} キュウイイイイイイイインンンンッ!
インペリアルスパイダーは動きを止め、その口の部分が淡く光だし、やがて膨大な魔力を貯めていった。超強力な魔素弾の塊ができ始めていた。
「だからなんだ? 俺達は、俺達は諦めないッ! だから、此処でお前を倒すッ!」 ジャキンッ
「マスターッ!」
「いくぞ!ミスト、魔族領を、この国のみんなを守るんだッ!」 ググッ
「はいッ! マスターッ!どこまでもついて行きますッ!」 えへッ
「うん!」 バッ
「いくぞおおッ!」バシュンッ! シャアアアーッ!
「はい、マスターッ!」 バシュンッ! シャアアアーッ!
その様子を見ていたインペリアルスパイダーは魔物ながら思った。
{(オロカナ、オソカレハヤカレ、ミナ、ムニキスノニ、コノワレモ、フクメテスベテ…)} キュキュキュキュンキュウウウンンッ!
今まさに、この地を破壊する超巨大な魔素弾が発射されようとしていた。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回もでき次第投稿します。