第93話 消え逝く世界の序章
ー衛星都市アルゴン 出入口門前ー
「やめろ! アリシアーーッ!」 ガバッ
「ジ、ジオス様⁉︎」
「ミャ? アリシア? ダレ?」
「にゃあ、 女の名前ですにゃ、それもあんな大声で!」ムウッ
「で、でもミュウ、ちょっと様子が変だよ」
「にゃ?」
「あのジオス様が大声を出すなんて、変よ」
「そう言えばそうにゃ…」
「ジオス様..何かありましたか?」
叫んだ後、魔族領の方を見て立っていたジオスに、心配そうにセレスが声をかけた。
「ん、ああ、セレスすまない。びっくりさせちゃったね」
「いえ…」
ジオスはセレスに謝りながら考える。
「(アレは間違いない。あの還元魔素(星降りと呼ばれた魔力と元素の塊)を集めて使っているのは【アリシア】だ。彼女がアレを利用して、この見捨てられた世界を救おうとしている。だが、アレではダメだ、いずれ枯渇する、猶予がない! 速く彼女の元へ行かなければ!..ん?)」 グイ
「ジオス様、どうしたミャ?」 グイグイ
ジオスが目線を落とすとの足に絡みつき、片手で袖を引っ張るミイがいた。
「(そっか..) ん、なんでもないよ。ホイッ!」 ヒョイッ! ナデナデ
「ミャアッ! ジ、ジオス様⁉︎ ミャ! フミャ〜…」 ポ
ジオスは心配そうに、自分の足に抱きついていたミイを抱き上げ、そのまま抱えながら頭を撫でた。ミイは顔を赤らめながらジオスの胸に顔を埋めた。
「「ああーッ! ミイーッ!(にゃ)」」 ババッ
「ンフ♡ 早い者勝ちミャ! お姉ちゃん」 ミャア!
「ミイちゃん!ずるいです!わ、私も撫でられたい!」
「にゃ! い、妹にしてやられるとは..ちょとおミイ!こっち来なさい!」にゃ!
「ミャ..お姉ちゃん?…ミ、ミ、ミギャアア! こ、怖い怖い怖いいいい!」
「「「ミャアミャア、にゃん、ワアア!ワイワイ…」」」
女性陣が何やら言って、騒いでいる間に、ジオスは決断する。
「(まずは魔族領に、そこであの還元魔素の落下地点に行かなければ)なあ皆んな!」
「「「はい!(にゃ、ミャン)」」」 ババッ
ジオスの言葉に皆が集中する。
「俺は今から魔族領に行ってくる」
「「「魔族領(にゃ、ミャン)⁉︎」」」
「そうだ! 危険だからお前達はここで…」
「「「いやですッ‼︎(にゃ、ミャン)‼︎」」」
「え⁉︎ 」
「ジオス様!」
「ん?」
セレスとミュウとミイの3人は、ジオスの前に並び姿勢を正して頭を下げる。
「私達はジオス様の妻です!」 ペコ
「(いや、まだ式も何もしてないから)で?」
「私達はジオス様と共に、この命が尽きるまで一緒です! だから…」
そこまでセレスが言うと、ジオスが手のひらを出して、続く言葉を制した。
「わかったよセレス、 みんな一緒に行こう!」 ニコ
「「「ありがとうございます(にゃ、ミャア)!」」」 ダダッ! ガバッギュギュウ!
「うおうッ! って… いいよ。 でも魔族領だよ覚悟はいいね?」
「「「……」」」 ニコ コクン
3人は笑顔で何も言わず頷いた。
「じゃあ、行こうか!」 ザッ
「「「はい(にゃ、ミャア)!」」」 タタタッ!
4人は魔族領「アスモガルト」に向けて衛星都市アルゴンを後にした。
ー魔族領「アスモガルト」北方 ノイエラント州ー
ここは、王都アコン州の北方に位置するノイエラント州、「ヘキサリアム」第六席の魔人 「グレーターギルスの【ベラレス・フォル・スカラ】」の治めている州である。 今、そのノイエラント州の州都「エルドレーテ」は阿鼻叫喚の事態に陥っていた。
ドゴオオオンンッ! バアッドバアアアアンンッ‼︎ ガラガラガラ!
「こっちだあ!こっちへ逃げろおッ!」ダダッ
「ワアア! ダメだあッ!」 ドガアア!
「パパあーッ! ママあーッ!」 うえ〜ん..
ヒュウウウウウッ ドガアアアアンンッ!
「外壁が破れるぞおッ! 急げええッ!」 ドガアアンン!
「ウワアアアッ!」 ズガアアアンッ!
「第一第二小隊前へ! 都民の避難を優先せよ! 急げええ!」 ドガアアアアンンッ!
「隊長ーッ!」 ダダダ
「どうだ?避難は順調か?」 ザ
「あ、穴から、超大型、高位種のブラックスパイダーですッ!」
ヒュウウルルルッ! バアアンンッ! ガラガラガラッ!
「グウウッ! 何処の穴だあッ!」 パッパッ
「……」 バタン
「おい! しっかりしろッ! おいッ!」 ユサユサ
「………」 シュウ〜…
「クッ! くそおおおッ!」 ババッ!
ヒュウウルルルッ! ドガアアアアンンッ!
州都「エルドレーテ」を襲ったのはブラックスパイダーの大群だった。小さいものは50cm程の黒い蜘蛛で、集団で襲って来る。それらは騎士や兵士の武器で充分倒せる程度の魔物なのだが、中位種の1m〜5m程のものはその武器が硬い外殻に阻まれて容易に倒すことができない。更に中位種はその口から魔弾を撃って来る。先程の爆発や砲弾が落ちて来るような音はその魔弾が降って来て破裂する爆発音であった。魔弾は人を溶かし、街を炸裂して破壊する瘴気の塊だった。
ギイインンッ! カンカン! キインッ!
「くそおおお! 硬すぎて剣が通らねえッ!」 ザザッ!
ギョオオーッ! ギャギャッ! ザワザワッ! ドドドドドーッ!
ブラックスパイダーの中位種は、剣での攻撃を繰り返す騎士達に、蜘蛛独特の走りで迫ってきた。
「く、来るぞお! 防御円陣! 構えええッ!」 ジャキジャキジャキン!
「来るならきてみろ! 悪魔どもめえ!」 グッ
高速接近して来る、5mもの巨大な蜘蛛が、円陣を作って剣を構えている魔人の騎士達に突っ込んでいった。
ドグシャアアッ! ギョオオ! ギョオオ!
「「「ウワアアアッ! ギャアアアアッ!」」」 ドバババッ! バラバラバラッ! グシャアア!
魔人の騎士達が組んでいた円陣は、一瞬で吹き飛ばされ、半数以上が一気に倒され消えていった。何人かは生き残り、再びブラックスパイダーに剣を構える。
「ク、くそ、こ、このままでは...」 グ、チャキ!
ギョオオオ! ザワザワ! ドドドドドーッ!
「くッ来るッ!」 ググッ!
生き残った魔神騎士が、高速で近寄ってくる、中位種のブラックスパイダーに身構えていたその時、一閃の剣技が走った。
「《グレインズ.ベルガルトオオッ!》」 キュイイインッ! シュパアアアンンン!
ザンッ! ブシャアアアアアッ! ギョギャアアアアアッ! ドズンンッ!
直上からの一閃で、中位種のブラックスパイダーは、一瞬で真っ二つに切り殺されてしまった。
「好き勝手やりゃあがってええッ! 全部ぶっ潰してやるッ!」 チャキッ!
「あ、貴方様は! 『グレーターギルス!デルタ侯爵』様ッ!」 バッ
そう、彼ら魔人騎士達の窮地を救ったのは、「ヘキサリアム」第参席、「グレーターギルス」のデルタであった。 彼は州都「エルドレーテ」の危機を聞きつけ、高速転移でここに来たのであった。今まさに、彼の剣技で一刀のもとに、中位種のブラックスパイダーが倒された所だった。
「(魔王様のおっしゃった通りだな、コイツはひでえ!)…」
州知事のスカラが、この州都の更に北に位置しているデマ広陵地へ、ブラックスパイダーの発生源を対処している間にの奇襲であった。 急遽、手空きのデルタが駆け付けたのである。
「遅くなってすまんな! 状況はどんな様子だ?」
「は、はい、 本日未明、ブラックスパイダーの集団が突如急襲! 駐屯軍、警備部隊共にこれに対応、今現在、両軍、部隊とも、半数が戦死、残りの半数も大部分が負傷戦闘不能状態です。 さらに先ほど、超大型の高位種ブラックスパイダーが出現しました。これに今、対応を追われている状況です」
「超大型かあ、たぶん取り巻きの中位種も何体かいるなあ..」 フム
「デルタ侯爵様?」
「よし、そのでかいの俺がやる、君たちは防衛線を再構築、都民たちの非難を優先にしてくれ」
「ハ、了解いたしました!」 バッ!
「うん、では、『フォルト、聞こえるかい?』」 ピ
デルタは額に人差し指を当て、自身の「アヴィスランサーのフォルト」に念話をした。
「『はい、マスター、聞こえてますよ』」 ピ
「『今、何処にいるんだい?』」 ピ
「『今ですか?』」 ピ
「『うん、今』」 ピ
「『今は此処ですよ!』」 ピ
ドゴオオオンンッ! バアアッ!
100mほど離れた場所で、一際大きな爆発が起こり、その上空にバラバラになった中位種のブラックスパイダーと、武器を片手に舞っている、 アヴィスランサーのフォルトの姿があった。
「『ああ、そこね、今から超大型、高位種のブラックスパイダーを仕留める! エスコートを頼めるかな?』」 ピ
「『はい、マスター、了解。 これよりフォルトはマスターをエスコートします』」 ピ
「『頼む、位置は州都北東方向、でかいから見ればわかる。では、行くぞッ‼』」 ピ シュンッ!
「『はい、マスター、戦闘モード!タイプ エスコート!』」 ピ シュンッ!
デルタとフォルトは、高速移動で州都 北東方向にいた、超大型のブラックスパイダーの方へ移動した。 超大型、高位種のブラックスパイダーは、その大きさが役20mほどの巨体で、魔弾を討つだけでなく様々な魔法を使って攻撃を仕掛けてくる大型の蜘蛛の魔物であった。
ギジャアアア―ッ! ギャギャギャッ! ドズン ドズン ドズン
その巨体が移動する音が響く、それは移動する災厄であった。 超大型、高位種ブラックスパイダーの下には、数多くの小型や中位種のブラックスパイダーがうごめいていた。
デルタとフォルトは程なくして合流し、目標の超大型、高位種ブラックスパイダーに接近した。
「見つけた! じゃあ頼むよ!」 チャキッ!
「はいマスター、では先行しますッ!」 くるくるくるッ!シュキン!
デルタにそういわれ、フォルトは自身の持つ魔槍、「ベルテスタ」を回して構え、ブラックスパイダーの群れに加速して、突進していった!
ギュウウウウンンーッ! パシュウウウーーッ!
「《塵破ッ!》魔装技!《ラングリア》《バリオスライト》《ベルストリング》《デルタリアグレス》」 キュン、キュン、キュン、ギュン!
フォルトはマスターのデルタのために、超大型ブラックスパイダーの足元に群がる小型や中位種のブラックスパイダーに突進しながら、攻撃用スキルや槍技を重ね掛けし、自身を強化していった。
そして、最高に高まった時、最大級の槍技がブラックスパイダーの群れに発動する。
「幻魔帝級槍技!《ベルデ.ザム.グランザードッ!》」 ギュンッ!シュッ!
ズバアアアアンンンンーーッ! ギョギャアアアアアアーーッ!
数百はいたと思われる小型や中位種のブラックスパイダーは、一瞬でフォルトの槍技によって一掃され、姿を消した。
「マスター、任務完了御武運を!」 スチャッ!
「オウ! さすがフォルト、こっちもいくぜえ!」ギュンッ!
ギジャアアーーッ! バッバッバッ!
超大型高位種ブラックスパイダーは、高速で迫って来るデルタに向かって、口から連続魔弾を撃ってきた。
「フン!当たるかよ!」 シュッ! サッ サッ サッ!
十数発もの魔弾をデルタは高速接近しながら華麗に避けていく。そして、その超巨大高位種ブラックスパイダーの間合いに入った瞬間、デルタの魔人剣技が炸裂した。
「あばよ!《塵破!》幻魔帝級剣技!《グランデル.ザム.ヒルトッ!》」
ギュインッ! パッウンンンーッ!
ビュウウンッ! ズバアアアアンンンンッ! ギギョギャアアアアーーッ!
ブジャアアア! ドスウウン!
ザザーッ! チャキン!
「ふう、討伐完了ッと」 ザッ
超大型高位種ブラックスパイダーは、デルタの剣撃により一撃の元、その胴体に大穴を開けて倒れた。
「マスター」 タタタ
「オウ、フォルト、こっちだあ」 フリフリ
「マスター、お見事でした。お怪我は有りませんか?」 ササッ
「何言ってんだよ、俺がこんなの相手に怪我なんかするかよ」 ニッ
「まあ、知ってはいましたけど、その、やはり心配で…」 モジッ
「オウ、ありがとな!フォルト!」 ナデナデ
「もう! マスターったら!」 ポ
「ははは、 さて、他の所のブラックスパイダーも討伐して回るか!」 シュン!
「はい! マスター」 シュン!
2人は高速移動で、街の至る所にいる小型や中位種のブラックスパイダーを駆逐しだした。
「どうだあフォルト?」 ザンッ! ビシイイイ! ギョオオオッ!
「はいマスター、此処で全て駆逐したと思われます」 ザシュッ! ドシュッ! ギョアアアッ!
「じゃあ、こいつで最後だ! 《グレインズ.ベルガルドッ!》」キュイインッ! シュパアアンンッ!
ザシュウウーッ! ギョギャアアーッ! ドスン!
「州都内、全討伐完了っと、さて、スカラ達は…」 ピカアッ! ドガアアアアアンンーッ!
「マ、マスターッ!」 ビュウウンーーッ!
それは突然、何の前ぶりもなく起こった!目がくらむような閃光と爆発、それに伴う強い爆風が吹き荒れた。
「うおッ! こ、これは⁉︎…あ、あっちの方向はッ!..」 ヒュウーッ ザザア!
「マスターッ!デマ丘陵地 方面ですッ! スカラ様、ランサーのミスト、両者の反応ロストッ!」
「なッ!」 バッ!
そう、州都「エルドレーテ」の北にある「デマ丘陵地」でそれは起こった。全てを破壊し飲み込んで行く大爆発! ブラックスパイダーの発生源があると思われる地域で、そこには州知事のスカラと、彼のアヴィスランサー、ミストが対処していた場所だった。
ドグヲオオオンンン…… ゴゴゴゴ…. グラグラッ
遠方の轟音がこだまして聞こえている最中、州都周辺が小刻みに揺れていた。
「マ、マスタ〜…」 グズ
「フォルト、心配するな! ああ見えてスカラの奴はしぶといんだ! だから相棒のミストも無事なはずだぜ!」 ニッ
「で、ですが…無いんです…うッ」 グズグズ
「ないって..まさか本当に消えたのかッ⁉︎」
「ミ、ミストの…ミストの生体シグナルが無いんですッ! ワアアーッ!」ぺたん
フォルトは両手で顔を覆い泣き崩れた。友人同士、連絡は取れずとも信号だけはお互い受信していたのである。それが途絶えた、フォルトは友人ミストの消滅を認識したのである。
「じゃあ、スカラは..スカラは消滅? 死んだということかああッ!」 ダンッ!
デルタは怒りに任せ、力強く地面を踏みつけた。そしてデマ丘陵地の方を睨み見る、そこには不気味な真っ黒いキノコ雲が聳え立っていた。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回もでき次第投稿します。