第74話 砂上の国アトランティア
ーアトランティア法王国 王城ー
王城の謁見の間にある玉座には1人の女性が足を組んで座っていた。今まではその玉座には【アトラス・ディオ・アトランティア】が座っていたが、今は【紅玉】と名乗る女性の席になっていた。王城には、それまでいた側近や貴族、騎士や従者、使用人などはいなくなり、彼女だけの謁見の間、王城であった。 その彼女の前には、大きな水晶玉があり、そこには全ての情報や、出来事が映し出されていた。
「ふふふ! 相変わらずお強いですね。まあ、貴族子弟程度の騎士団ではあんなものでしょう」
「紅玉様、こいつらはどうするんだ? よかったら俺が行って、やってきてやるぜ!」
「何もしなくてよいですよガルブレス、それよりもあちらの方はいいのですか?」
「ああ、そっちの方は、ヘルフィス達がやってるよ」
「そうですか、では出迎える場所も用意しなくてはいけませんね」
「王城でいいんじゃねえか?もう誰もいねえし」
「ふふ、そうでしたね。もう未練も何もないここならいいかもしれませんね」
「じゃあ俺はいくぜえ!」
「ガルブレス」
「なんだい紅玉様?」
「貴方が物凄く強いのは知ってます」
「オウ、ありがとな!」
「ですが、あの者達には気をつけなさい」
「ああ、あの『閃光のマシュー』と『黄金の騎士』達だろ?大丈夫だって、見た限り俺達の方が強えからよ!」
「いえ、気をつけるのはその者達ではなくなく、双子の姉妹の方です」
「あの姉妹か? 確かに金髪の子は凄え魔法を使ってたなあ、銀髪の子は何にもしてなかったから分からんけど、そいつらって気をつける程のものなのか?」
「ええ、特に銀髪のあの方。良いですか、私が会うまで、絶対に手を出してはいけません!」ギラッ
「お、おう わ、わかったよ!」
そう言ってガルブレスは出ていった。それを見送った後再び水晶を覗く紅玉であった。
「………………」
「余り時間がありませんね。【蒼玉】!聞こえますか?」
「紅玉姉様! 聞こえますよ」
「そちらはどうですか?」
「姉様、もう余り時間がないかも、最後は私がやります!」
「蒼玉!それはダメ! そんな事をしたら貴方はもう…」
「いいんです姉様、元々私1人で事を成せばならなかったのです。そこを姉様が助けてくれて今までなんとかなったのです」
「蒼玉…」
「私がもっと早くに気づけばこんな事には...」
「それで、いいのですか蒼玉?」
「はい! これも本来の私の役目です。でもこうしてジオス様に会える機会ができたのは良かったです」
「そう、そうね。早く、もっと早くジオス様の存在が確認できていれば…」
「姉様、仕方がないのです。この国の運命なんです」
「それでこの国の主核はどうですか?」
「この国が大きくなるのに比例して減衰の一途ですね。王族、貴族や元老院の者がこの主核の力を使いすぎたんです。もう細かい亀裂が入ってます」
「やはり、今まで黙って観ていましたが、王族に貴族、そして元老院、この三者がこの国の滅亡を促したんですね」
「はい、残念ながら...」
「主核が破壊されればこの国は終わる、いや、この国だけではなくこの大陸ごと、すべてが終わってしまう。アトランティア法王国だけでなく、この大陸に住む人々は何も気づかず、大陸と共に元素還元されて消えてしまう」
「はい、何と理不尽な事なんでしょう、一国の主核がすべてを消し去る。主核に囚われているんです」
「ま、ここまでの事になった責任は、全てとってもらったわ」
「姉様、では...」
「そう、原因を作った三者には、この世界から退場してもらいました。あと、その事に関わった者も。ただ、ジオス様がこの国に来ることまでは想定外でしたけどね」
「やはり戦うことに?」
「私と言う存在がジオス様には受け入れられないでしょう」
「姉様...」
「大丈夫、それなりに対策はしてありますし、いざとなったらニブルヘイムかノイトランドへ行きますから。それよりも、主核は治せないですか?」
「姉様、主核は創造神様のお造りになった物です。ここの世界にある元素だけでは不足なのです。だから私がその不足分を補います」
「まって蒼玉、私がやる!貴方はその後の事を頼みます!」
「いいえ、姉様、ここは私が管理する国なんです。だから私がやります、また以前のように新しい王族を選んでこの国を支えてださい」
「そう…分かったわ。でもまだ時間はあるのよね?」
「まだ大丈夫です。その時は連絡します」
「ええ、蒼玉頼みます」
「はい、では…」
水晶を見ながら紅玉はただことの成り行きを見ていた。
ーアトランティア法王国 王都アダムー
アニス達はアトランティア法王国の王都【アダム】に到着していた。
「なあマシュー」
「なんだアニス?」
「ここがアトランティア法王国の王都アダムなんだよな」
「ああそのはずだ」
「ここ、本当に王都なのか? 人がいないじゃないか」
アニス達は王都に入ったが、入り口の検問所や門の周り、城壁の上さらには門の内側の街並みにも人が誰もいなかったのだ。 それは、ほんのさっきまで人がいて、いきなり消え去ったのごとく街は整然としていたからであった。
「どうなってんだあこりゃあ?」
「我々もわかりません!前に来たときは人でいっぱいだったに」
王都にいた約1万人の人々がいなくなっていたのであった。 商店、食堂、宿屋、酒場にギルド、そこにはさっきまでそこに人がいた形跡があった。飲みかけのグラスに食べかけの食事、火のついたかまどに調理中の料理、全くに無人の大都市になってしまっていた。
「とにかく王城へ行こうぜ、あそこなら何か分かるかもしれねえ!」
「ん、そうだな言ってみるか」
「それはそうと、ミウの姿が見えんがあいつはどこに行ったんだ?」
「ん、ミウなら先行して王城に行ってもらったからそろそろ会えると思うんだけど、いないなあ、どこ行ってんだろ?」
「Lst.今はここにはいません」
「ん、と言うことは..」
「Rog.はい、今あの子は別の場所にいます」
「ああ、なるほど!」
「なんだそりゃ!」
「ん、そのうちマシューにもわかるよ!」
そんな話をしながら、都市中央にそびえたつ王城へとやって来た。しかし、王城にも人の気配が感じられず、アニス達はそのまま、王城の中へ入って行った。
ギイイ~
「おじゃましま~す」 シ~ン
「やっぱ誰もいねえのか?」 カツ~ン カツ~ン
「本当に静かだ、騎士どころか使用人もいない」 カツ~ン カツ~ン
その広い吹き抜けの一階ロビーには、アニス達の足音だけが、やけに木霊していた。
「取り合えず奥まで行ってみるか」
「ん、そうだね、謁見の間に法皇が居ればいいんだが」
そして中央階段に向かおうとした時、マシューに向かってナイフが飛んできた。それをマシューは右手の手甲弾いた。
シュンッ! キイインッ!
「だれだ!」
マシューがそう叫ぶと、ナイフの呼んできた方向から声が聞こえてきた。
「さすが、この程度の攻撃は効きませんか」 スタスタスタ
そう、そこには金髪の青年が1人立っていた。
「ん、ここの衛兵か?にしては若いし、鎧も着てない」
「Lst.何者ですか貴方は」 チャキ
「ん~、僕はグリフィス、一応ここの騎士なんだ!で、君たちは誰?」
「ん、すまなかった、私たちは冒険者「ワルターラスター」だ」
「ふ~ん、でここには何を?」
「ああ、法皇に会いに来たんだ」
「法皇?ああ、あの法皇ね。いるよこの上の謁見の間に」
「ん、では、通してもらうよ」
「ああ~、それダメ」
「なぜ?」
「僕はこの入り口を任せられているんだ、だから誰も通せない!通りたければ僕を抜けていくんだね!」
「ん、力づくかあ、マシューどうしようか?」
「あいつを抜ければいいんだろ。いいぜえ、俺がやってやる!」 シャキイインン!
「お、お兄さんやる気だね!いいよじゃあ僕とやろうか?」 チャキッ!
マシューと青年騎士グリフィスが互いの剣を抜き構えた。そんな時、さらに奥から威勢のいい声が聞こえてきた。
「おいおいおいおい!俺も混ぜろよグリフィス!」
そこに現れたのは。赤毛の炎のような髪型の騎士、ガルバレスであった。
「あれえ、ガルバレス。何でいるの?」
「ああ、なんか面白そうだから降りて来た!」
「ふ〜ん、ま いいか、紅玉様の許可を?」
「ああ、あの姉妹に手を出さなきゃいいんだってよ!」 チャ
「姉妹? ああ、あそこの女の子達か。りょ~か~い!」 チャキ
2人は自分の剣を構えてアニス達の元へやって来た。
「ほお、ふたりか(なんだコイツら、ただの騎士じゃあない)」
「マシュー殿、我らも加勢します!」
「ああ、だがそれではこっちが多いな、俺とタレス、2人で行くぞ!」
「招致!」 ザッ! チャキン!
「どうする、ガルバレス?」
「俺が「閃光のマシュー」とやってやるぜえ!」
「へえ~、あの人が「閃光のマシュー」かあ、じゃあ僕はあっちの金色の騎士をやるね」
「おう!それじゃあいくぜえ!」 バッ!
「うん、それじゃあ!」 バッ!
ガルバレスとグリフィスは瞬時に動いた。
「タレス!油断するなよッ!奴ら、強いぞッ!」 ギリッ!
「ハッ! わかりました!」 グッ!
マシューとタレスはその攻撃に対応するかまえをとった。
「「「「ウヲオオオオーッッ!」」」」
バキイイインンン――ッ!
両者の高速剣技同士がぶつかり、一階フロア全体にその音が響いた。
アニス達はその様子をじっと見ていた。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回もでき次第投稿します。