第71話 アトランティアの伝承
―アトランティア法王国街道ー
今、街道沿いを王都【アダム】に向け敗走中の第三騎士団第一大隊がいた。それを指揮するのは第三騎士団団長のトラン・ラ・ドーラであった。
「完敗だ…今の私では、いや我々法王国騎士団では彼らに勝てない。だが収穫はあった」
トランはアニス達の前では威厳を出して話をしていたが、今負傷した騎士達と帰還の途についている最中、その負傷した騎士達を見て落胆しながら思った。
「あれらは元第六騎士団の騎士たちだった筈だ、それが何故黄金の騎士になったのだ?…もしかするとあの双子の少女が関係しているのか? 謎だらけだが今確実に分かった。あの者たちの実力は本物と言う事だ。この俺の攻撃が通じなかったのだからな! これでアトラス様の勅命は果たされた。叔父貴を騙した様で悪いが、全てアトラス様に報告させてもらう」
ーアトランティア法王国 王城ー
トランは負傷者の馬車を後に早馬にて2日後、王城までやってきた。そして、謁見の間にて法皇【アトラス・ディオ・アトランティア】に拝謁した。片足をつき頭を下げて口上を述べた。
「第三騎士団団長、トラン・ラ・ドーラ、 アトラス様の勅命によるご報告をもって参りました」
「トラン、すまんな。して報告を聞こう」
「は、此度、元老院の許可の元、謀反騎士達討伐と言う形で赴いたのですが、そこで我が国の伝承にある『黄金の騎士』に遭遇、これと交戦し、敗退して参りました」
「なんと! 其方は『黄金の騎士』に会うたのか?」
「ハッ! アトラス様から頂いた勅命、『謀反騎士達と同行する冒険者パーティーの調査』でしたがその時に、『黄金の騎士』に遭遇しました」
「して何故にその方は『黄金の騎士』と合間みれたのだ?」
「は、申し上げにくいのですが、その『黄金の騎士』は、謀反を起こした元第六騎士団の騎士達だったのです」
「な、なんだと⁉︎ まことかそれは?」
「は、この目で一部始終を、我が第三騎士団の騎士たちと共に確認しております」
「それでは本当に、我が国に現れたのだな」
「はい、しかも『黄金の騎士』は4人現れました」
「4人だと! そんなはずはない、本来『黄金の騎士』は1人のはず、偽物が黄金の鎧を着ていたのではないか?」
「いえ、このトラン、自分の最強スキルを使い、その4人に攻撃を試したのですが、それを物ともせず反撃され、我が隊は全滅寸前まで追いやられてしまいました」
「なんと、精鋭である第三騎士団がか?」
「はい、それを踏まえて、その4人の『黄金の騎士』は本物と推察します」
「ふむ、わかった、すまなかったな、第三騎士団を犠牲にしてまで調査をさせてしまって」
「アトラス様、その件について一つ申し上げたき事があります」
「ん、なにかな?」
「は、『黄金の騎士』達なのですが、私の聞き及んでいる騎士とは少し違うのです」
「どう言う事だそれは?」
「は、私どもが聞き及んでいる『黄金の騎士』は黄金の鎧を着ている、と言う事でした」
「そうだ、我が国の伝承にもそうある」
「ですが今回の4人の『黄金の騎士』は、黄金の鎧ではなかったのです」
「黄金の鎧ではない? 意味がわからんがどう言う事なのだ?」
「その者達は、4人とも『白黄金色の鎧を纏い、剣は青みかかった聖剣、いやあれは神剣、そして鎧と剣、其々に素晴らしい模様と、神語であるヒエログリフが刻まれ、その文字より不思議な力があふれておりました」
「ッ‼︎ そ..それはまことか…白黄金色とヒエログリフというのは…」
「は、この目で確かに!」
「人払いを頼むッ‼︎ この者と2人だけで話がしたい!」
「「「ハハッ!」」」
アトラスは、謁見の間にいるトラン以外の者をその場から下げた。そして広大な謁見の間に、法皇と第三騎士団団長の2人だけになった。
「アトラス様?」
「トランよ、これは法皇族のみの伝承である! 先の『白黄金色の騎士』を見た其方に話そう。これは他言無用、良いな」
「はッ!」 トランはその場の雰囲気が変わったことに気づき返事をした。
「トランよ、その者達はおそらく、我が国の伝承の『黄金の騎士』ではない」
「は? それはどういう…」
「『黄金の騎士』は確かに実在した。それは我が国の英雄の話だ、だが法皇族に伝承はもう一つあるのだ」
「もう一つですか?」
「うむ、それはな、『白黄金色の鎧を着、神剣を持ったその騎士は、神の使いの戦士、『聖戦士』である』という伝承だ」
「聖戦士ッ!」
「そうだ、聖戦士だ、『絶大な力を持ち、常にその後背には神、女神を頂ている』と言われている、彼らはその神、女神を守護をする戦士としての他、神、女神に犯意を持つものを打つ戦士でもある。そして聖戦士はその神、女神が背にいる限り無限の力が出せるそうだ」
「神、女神……はッ‼︎では、あの双子の少女達はまさか…..」
「なにか心当たりがあるのか?」
「は、不確かではありますが、『白黄金色の騎士』達の後ろ、調査のパーティーに少女が2人いました」
「ふむ、伝承通りならその2人、もしかすると女神様かもしれん」
「もし、女神様なら、私はなんと恐れ多いことをしてしまったんでしょうか」
その時思いもよらぬ声が聞こえた。
「にゃ!気にする事ないにゃ!」
「なッ⁉︎ 誰だッ!」….ユラユラ…パッ!
すると2人の間の空間が揺らぎ、1人の小柄な獣人少女があたわれた。
「にゃん!こんにちは、法皇様、騎士さん!」
トランは剣を構え、法皇は微動だにせず玉座に座っていた。
「何者だ! どうやってここに入ってきた無礼者め!」 チャキ!
「にゃ! 私はアニス様のパーティーのミウですにゃ!」 ニコ
「ほう、君が短剣使い、獣人少女のミウか」
「ッ! ではあの双子の姉、「ワルターラスター」のリーダーのアニス様か?」
「にゃ、そうにゃ」
「で、此度は何故ここにきたのですかな?」
「にゃ、アニス様の会いたい法皇様はどんな人かにゃ、という事で見にきたにゃ」
「で、私を見てどうですかな?」
「ん〜…普通にゃ!」
「はは、普通ですか、ではお嬢さんそのアニス様に会えますかな?」
「多分会えるにゃ!」
「そうか、ではそのようにな」
「んにゃ!」 シュンッ!
ミウは即座にその場から姿を消した。この技は姉のミアが使用していた技で、ミウもそれを会得、使用していた。
「な、消えた?」
女神様らしい人物が来るかも知れない、そう思い法皇アトラスは動いた。
「すぐに準備をしなくては、トランご苦労であった」
「いえ、これもアトラス様の為、苦労とは思いません」
「だが、そなたの叔父、元老院の「カソード」のやつの目を掻い潜り、私の影、『ミラージュナイト』の代わりを押し付け、お前には苦労をかけた、すまん」
「いえ、それよりもアトラス様、あのジジイどもは早く排除するのが良いですよ」
「ほう、元老院の賢者をジジイ呼ばわりか」
「アトラス様、あのジジイどもにはお気をつけを! 身内の自分でも得体が知れないので」
「わかった、注意をしておこう」
「では、これにて」
「うむ、大義であった」
トランは謁見の間を出て、通路を歩いていると後ろから声がかかる。
「よう! 第三騎士団団長!」
そう声をかけてきたのは第一騎士団団長の「ケッセル・ド・リンク」であった。
「何かようか?ケッセル」
「おやおや、敗軍の将を見舞いに来たのだが釣れないですなあ!」
「フン、なにが見舞いだ、笑いに来たのであろう?」
「ガハハハッ!、まあそんな所だ。心配するな、お前のけつは俺たちが拭いてやるl」
「まさか、お前達が出るのか?」
「ああ、そうだ! 元老院からの命令だ。全軍で行ってやるよ!楽しみにしてな!ガハハハ!」
「おいッ! やめろッ!やめるんだッ!」
「なんだ、俺たちが手柄を立てるのが悔しいのか?」
「違うッ! アレには、あの方達には手を出してはいけないッ!」
「はんッ よく言うぜ!自分たちが先に手を出して負けて帰ってきたんだろ!俺たちに指図する資格はねえよ!」
「グッ….」
「まあ、お前は王城で大人しく待ってな、俺たちがやってやるぜ!ガハハハッ!」
そう大笑いしながら第一騎士団団長のケッセルは出て行った。
「まずいッ! 非常にまずいぞ!これは…どうする、元老院のジジイに言って辞めさせるしかないのか?」
トランはその場で考え込んでしまった。だがそんな時、中庭より騎馬隊の出陣の掛け声が聞こえてきた。
「考えている暇はない。ジジイに辞めさせるしかない!」 ダダダッ
トランは元老院のいる建物にかけて行った。
「第1騎士団!出陣ッ!」
「「「「オオーッ‼︎」」」」 パカパカパカ
第1騎士団、貴族の子弟軍団が出陣して行った。
「ジジイーッ!やめろおおお!」 ダダダッ!
トランは元老院の三賢者がいるであろう地下神殿に向かって叫びながら階段を駆け降りて行った。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回もでき次第投稿します。