第67話 宿屋での出来事
ー衛星都市アルゴン 宿屋シバンー
ここ宿屋シバンの1階ラウンジホールに第三騎士団団長のトランと副団長、そして第五小隊の騎士たち12名が集まっていた。トランのみ椅子に腰掛けコーヒーを飲んでいた。
「それで、黄金の騎士に言われ、君たちは全員逃げて帰ってきたと」ゴク
「「「申し訳ございません!」」」 バッ
12人に騎士が一斉に頭を下げた。
「ふむ、黄金の騎士が4人か…(1人でも大事なのに4人とは、どうする?)」
「団長?」
「ああすまん、それで当初の冒険者はどうした?」
「ハ、おそらくその黄金の騎士と行動を共にしたかと」
「ではその冒険者と黄金の騎士には繋がりがあると?」
「わかりません、ただその冒険者を庇うように現れましたので」
「わかった。 ご苦労だった、下がって休むといい」
「ハッ、 失礼します」
その場に残った団長のトランと副団長は明日からの行動計画を練り始めた。
「なあハリー、お前ならどうする?」
ハリーこと【ハリー・デラ・バルト】これが第三騎士団副団長の名前である。
「私ですか?」
「そう、君の意見を聞きたい」
「…そうですねえ、まず第一小隊は本来の目的どうり、冒険者と謀反分遣隊捜索を、第二第三小隊は第五小隊と共に、黄金の騎士の捜索をしてはどうでしょうか?」
「まあ、そんなとこかな、じゃあ第四、第六と第七小隊は臨機応変にそれぞれに対処するように」
「ハッ では、そのように手配し明日申し送りします」
「ああ、それで頼む….っと、そうだハリー!」
「はい、なんでしょう?」
「明日は俺の隊と第一小隊のみ、甲種装備で宜しく」
「ッ‼︎…18名全員ですか?」
「全員」
「わかりました。それだけは本日、今から通達します」
「ああ、宜しく」
副団長は慌ただしく動き出した。
「明日か…..」
ー宿屋 リーフー
アニスとマシュー達は夜の帳が下りる頃に、予約した宿に集合した。
「ん、マシュー酒はうまかったか?」
「おう、うまかったぜえ! つまみにも事欠かなかったしな!」
「そうですね、あのお店はよかったです」
「店と料理は良かったんですけどねえ、あんな奴らがいたとは思いませでした」
「ん? あんな奴ら?」
「おいッ!」 グイ
マシューはカソダの脇腹をこついた。
「あ、ああ!なんでもないです。あははは」
「ほう、私に内緒の隠し事か?」
「い、いや別に隠してなんか…」
「Rej.マシュー、心拍数が上がってますよ! 後、血圧と額の汗の量が異常値です。明らかに何か隠してますね、後他には….」
「ワアア! 俺を見るなあ!」
「ん、やっぱり隠してたか。よし吐くまでやろう!」
「あのう、アニス、僕に何をやるのかな?」
「ん? 心配するなマシュー、私の力で元に戻るから…たぶんな」
「言いますッ! いやあ喋りたくなっちゃった! 言うよッ! 喋るよッ!」
「ん、マシュー、無理するな!」
「Lst.そうですよマシュー、せっかくの実験体が…」
「お願いします。このマシューくんに喋る機会をください」
「ん、しょうがない。で何だったの?」
アニスは、マシューから法王国騎士団との諍いの経緯を聞いた。
「そうか、法王国の騎士団がいるのか」
「はいアニス様、あれは第三騎士団の小隊でした。おそらく団長のトラン様も来ていると見るべきです」
「トラン? どんな人?」
「はい、その人はあ…….」
「エインへリアル」のタレスが知っていることを話した。
法王国第三騎士団、事実上の実戦精鋭部隊である。世間では奇数騎士団、偶数騎士団と分けて言われているが、奇数騎士団は貴族系の騎士団、偶数騎士団は平民、傭兵系の騎士団であった。 奇数騎士団でも実はかなり能力差があり、第一騎士団は貴族の子弟ばかりの名ばかりの騎士団で、戦力にはならない騎士団である。第五騎士団は魔法使いばかりの騎士団で、これは王城、聖都などを護る守備専用の騎士団で、第七騎士団は全奇数騎士団のOB 、つまり天下り騎士団、ただし実力と経験はある騎士団である。第九騎士団は名ばかりで存在が認められていない騎士団であった。 つまりアニス達の近くにいる第三騎士団第一大隊は、法王国の騎士団で精鋭中の精鋭ともいえる騎士団であった。その団長がトラン・ラ・ドーラ侯爵であった。
トラン侯爵は、年齢26歳、体格的にはマシューよりやや小さい体格ながら、鍛え上げられた素晴らしい肉体をしている青年貴族団長である。 そんな彼には謎のスキルや剣技を使うことで団長までになった経緯があるのだがそれは公表されていなかった。性格は温暖、部下思いでもある好青年である。
「ふ〜ん、面白そうな奴だな!」
「だがようアニス、酒場で見たアイツの部下、なんか気に入らないんだよなあ」
「マシュー殿、我々の事はいいのです、気にしないで下さい」
「ん、そいつらなんか言ったの?」
「ああ、タレス達を馬鹿にしやがったんだ」
「Lst.ほう、それは私に対する宣戦布告とみてよろしいのですね?」
「ソッ!ソフィア、落ち着いてねッ!まだそうとは決まってないから」
「まだ、街中にいるじゃないか?アイツらも酒飲んでたし」
「ん、そうだね。たぶん明日には会える…かな…ってミウ?、何見てんの?」
マシュー達と話し始めた時から、ミウはある一点方向をジーッと見て、微動だにしていなかった。
「にゃん! アニス様あそこ!」 ビシッ!
ここ、宿屋リーフの食堂兼酒場は吹き抜け3階の大ホールになっていた。ミウはその吹き抜けの最上段の位置に、何やら不穏な気配を感じ、ずっと見ていたのであった。その存在を今アニス達に指差し教えた。
「ん、あれかな?」 ジー
「にゃ、あれにゃ」 ジー
「Rej.盗み見とはいただけませんね!」 ジー
「ソフィア様、私にやらさせて頂けますか?」
そう進言したのは、「エインへリアル」のテルゾだった。
「ん、やってみる?」
「はい、ソフィア様の特訓の成果、今ここでお見せできます!」
「ソフィアはどう?」
「Rog.テルゾなら問題ないでしょう。テルゾ!」
「ハッ! ソフィア様!」
「Lst.手際良く、華麗でスマートにアレを処分しなさい!」
「御意ッ! ありがとうございます、ソフィア様!」
「テルゾ、殺さないでね」
「ハッ!アニス様! ではッ!………」 シュンッ! キン......シュタッ!
テルゾがアニス達に許可をもらった瞬間、神器のミドルダブルダガーを構え、口元で何か言ったと思ったら一瞬で姿を消し僅かな金属音のあと、一瞬でアニス達の元に現れた。その横に1人の黒装束の人物が倒れていた。
「アニス様、ソフィア様、終わりました」
テルゾもすでに人の領域を超えた速さと技の持ち主になっていた。 が…
「ん〜、60点!」
「Rej.いえ、お姉さま、45点が妥当かと」
「へ?」
テルゾがその返事を聞いて驚いていると、彼の横に一瞬で現れた者がいた。
「にゃんッ!」 スタッ! どさどさどさッ!
何とそこには小さなミウが、自分より何倍も大きい3人の黒装束の者達と一緒に現れた。
「これで全部にゃん!」 ミャア!
ミウがガッツポーズをとっていると、アニスとソフィアが評価をする。
「ん、100点!」
「Rog.残念ですが、満点です」
「にゃッ! 残念て何にゃ残念って!」
「Lst.褒めてるんですよ? ミ〜ウちゃん」
「にゃ!なんか馬鹿にされてるような気がするにゃあ〜」
「Rog.あ、バレました!ホホホホ!」
「ミギャアアアア!勝負にゃッ! ソフィアー!」 チャキ!
「Rog.またですか?懲りない子ですね!」 チャキン
「あ~、またやってるよ、全く仲がいいのか悪いのか」
「ん、いいのだと思うぞマシュー」
ソフィアとミウの喧騒は、「ワルターラスター」内では風物詩になりつつあった。ミウの攻撃をソフィアは笑顔でかわしていく。そんな中、テルゾだけは呆然としていた。
「お、俺の技が 45点……ミウちゃんに負けた…」
「おう、テルゾ! 気にするこたあねえよ!」
「マシューさん」
「お前は強いよ、アイツらが、異常なだけだ!一緒にするな!」
「はッ そうですよね、あの人達..いやアニス様達が異常に強いだけなんですよね」
「ああ〜そうだ! お前は強い!あれをみろ!」
マシューがテルゾに目の前の光景を指さした。そこにはこの宿屋のホールの中を高速で移動しながら言い争いをしているソフィアとミウがいた。それを見たテルゾは納得した。
「あのソフィア様と互角? いやソフィア様の方が上かな? ミウちゃんは凄かったんだ」
「な、分かったろ。だから落胆するこたあねえ!自分は自分だ!」
マシュー達はソフィアとミウが尋常ならざる速さで動き、攻防を繰り返しているのをただ、見ているだけしかできなかった。やがてまたミウの疲れ負けで終わった。
「ぜえぜえ!またソフィアに勝てなかったにゃ」
「Rog.まだまだですよ、ミウちゃん」
「きいいー!くやしー!」
毎度終わり方も同じ二人の喧騒劇であった。......
その一部始終を見て驚愕の表情をしていた者達が居た。そうテルゾとミウにつかまった黒装束の者達だった。
「これはなんだ?俺はいつ捕まったんだ?この少女たちは一体...」
自分たちがなぜ見つかり、どうして捕まったか理解できていない様子だった。そして、黒装束のリーダーは思った。
「(法皇様に早く報告せねば、この者達は危険すぎる。下手に手を出せば国が滅びかねない)」と...
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回もでき次第投稿します。