第58話 元老院の先兵達
―アトランティア法王国某所ー
そこはアトランティア法王国の裏の世界、闇を取り扱う部署【異端粛正法務局】、その局長を務める元老院の1人【アノード・ラ・ドーラ】がそこにいた。彼は一日の半分をここ、法務局の司令部に座って過ごしていた。
……ピッ…..完了……ピッ
「…ディアル皇国北西部、城塞都市デルタ。 コールサイン「ベクター・セブン」対象司教暗殺終了、帰還信号」
「聖王国カルナ西方、都市カルテオ。 コールサイン「エルティナ・セカン」市長籠絡に成功、駐屯要請」
「聖王国カルナ南方 城塞都市パルマ方面。コールサイン「ガリウス・ワンス」以下6名、パルマに到着、指示待機中」…….
司令部内には、各方面に放った密偵や監察官、そして「インビンシブル.ナイン」の念話報告を受けていた。
「局長、緊急念話通信入りました。入信地区ディアル皇国南西部、政令都市ガルア。 コールサイン「アプトムラウム・エイト」、 暗号通信です!」
「ふむ、「インビンシブル.ナイン」の1人、猫獣人のあやつか。すぐに暗号解読を!」
「了解しました」
解析済みの内容が目の前の巨大モニターに映る
[依頼任務、 傀儡28番の処理完了]
「さすが、我が国の精鋭中の精鋭、仕事が早い...ん?」
[警告! ディングティ・デイ・タイレント]
「警告じゃとお、これは、超.圧縮信号か?」
「解読完了、 モニターに出します」
「うむ、さて何と言ってきておるかの....!」
そこに映し出されたのは意外な内容だった。大型モニターにその内容が次々と表示されていった。ポンッ!タタタタタタタタタッ!
[法務局に警告 他国の冒険者パーティーが入国する。このパーティーは厳重注意せよ! その能力は強大 以後この者達は監視対象と認定 国境警備の強化を求む 尚メンバーに『閃光』を確認 ]
「以上が解読内容です」
「ふむ、メンバーに『閃光』がいるのか、気になるのう」
「局長、いかがいたしましょう?」
「ふむ、取り敢えずディアル皇国との国境の警備を密にせよ!、『アプトムラウム・エイト』にはそのまま監視接敵を司令するのじゃ」
「ハッ!直ちに通達します」
「さて、どれ程の者達かのう、道中を草どもに試させてみるのも良しよのう。ククク」
「『アプトムラウム・エイト』 命令を受託」
「ふむ、おい!」
「ハッ!」
「獣人部隊を出せ!あと草と木もだ手配をしろ!」
「ハッ、直ちに」
「ふふふ、さあどう動くのかな冒険者、いや「閃光のマシュー」...」
ーアトランティア法王国街道ー
アニス達はディアル皇国を出て、いまアトランティア法王国に入国した。人数が多いので今は馬車による旅路であった。 ガタガタゴトゴト…
「もうすぐ、国境の街『アスラ』に着きます。そこで今日は休みましょう」
今、馬車の御者をしているのは、「エインヘリアル」のテルゾで、彼は馬車の扱いが上手であった。
「しかし、こうまで簡単に国境を超えて大丈夫か?」
「いえ、普段はもっと厳しいのですが、やはり我々が一緒ですとすんなりと行くもんですね」
「まあ、考えてみればこの馬車、最強の馬車だよな」
「あはッ、それ言えてますね! 僕ら4人に、アニス様とソフィア様、最強戦士になったマシューさんとおまけの猫ちゃん…何処かの国の一個軍団相手でも勝てそうですよ」
「テルゾ!おまけは余計だにゃッ!それに私は猫ちゃんではにゃい!ちゃんとミウという名があるにゃッ!」
馬車の幌の上から御者台に飛び降りてテルゾに文句を言うミウだった。
「わあッ! 相変わらず身のこなしがいいですねえ、さすが猫族の獣人!」
「チチチッ、ミウはただの猫族じゃないにゃ! 山猫族にゃ!」スタッ チャンコ
そのまま御者台に座るミウに後ろからマシューが話しかける。
「なあミウ」
「なんにゃ、マシューさん」
「お前、俺たちに何か隠してる事ないか?」
「なんにゃそれ? よくわからないにゃ」 にゃん?
「そうか、じゃあ話は変わるが、お前、俺たちとあったあの街になんでいたんだ?」
「そう言えばなんでかにゃ?…誰かに会いに? いにゃ!誰かを追っかけていた気がするにゃ!」
「ほう、誰かに会いに(トリーの事か?)か、誰かを追っかけていた(俺たちの事か?)、か」
「そうにゃ! だからアニス様に出会えたのは偶然にゃ」にゃん
そんな馬車を藪の中から狙っている者達がいた。その数約50人、皆が黒ずくめに軽装鎧と短剣や短槍を装備していた。
「目標の馬車を確認! 人員は手配書どうり。各隊準備はいいか?」
「こちら犬、準備よし!」
「こちら鳥、準備よし!」
「水、風、木、各隊準備よし!」
「よし、賢者様からの依頼だ、各隊!各々の判断で威力偵察を実行せよ!」
「「「「「ハッ! 全ては我らのアトラス様のために!」」」」
「始めろ!」
その掛け声と同時に、馬車に向けて攻撃が始まった。藪の中から、木々の間から、あらゆる所、方向からアニス達の馬車を襲う者達の攻撃が来た。そのちょと前…
「うん、ミウ話はまた後だ!」
「にゃん! いっぱいいるのにゃ!」
「いますねえ、馬車止めます?」
「そうだな、止めてもいいだろ。おいみんなって……やっぱ気がついてたか」
「ん、バレバレだな、やる気あるのか?」 チャッ!
「Lst.気づかない者は、後で特訓です」 チャキ!
「では先方は我々「エインヘリアル」の役目、皆準備はいいか!」
「「「オウッ!、ゆくぞ!守護騎士装甲!《ヘリアルカヘーテ》!」」」パアアン!
あれから度重なるソフィアとの猛特訓のおかげで、彼らは、さらに力をつけていった。この《ヘリアルカヘーテ》もその特訓により得た力の一つであった。女神の守護騎士に相応しく、純白の高機動型装甲鎧、見た目に反して頑丈ながらも、ものすごく軽い鎧、幻の金属ケルベスタイトで作られた神器級の鎧である。平時は普段着のままでよく、緊急の時はこうして鎧を纏うことができるようになった。
「テルゾ!貴様には馬車を任せるぞ!いざ!前へ出るッ!」
御者のテルゾにそういうと、3人の「エインヘリアル」は、馬車の前に出ていった。
「隊長おお!、ずるいですよお!俺もやりたいのにい!」
「ハハハ、御者台に座ったのだから仕方がないな、諦めろ!」
「エインヘリアル」の3人が前へ進んだ時、アニスとソフィアの2人もいつもの姿で馬車より降りて左右に陣取り、マシューはそのまま荷台から馬車後方を見ていた。ミウは再び馬車の幌の上に飛び上がっていった。これでこの馬車は完璧な防御迎撃体制ができた。
「まずは馬車に向かって魔法を放て!各隊は波状攻撃開始!」
今回の襲撃部隊の隊長は各部隊に指示を出しながら、自分の部下にも魔法攻撃を指示した。
「「行きます!《ファイヤー.バレットー!》」」ババッ!
彼の部下2人が同時に同じ攻撃呪文をアニス達に放った。
「よし着弾と同時に切り込め!行くぞお!」
正面から突撃したのは、隊長部隊と犬部隊だった。彼ら犬部隊は犬の獣人部隊で形成されており、突撃の合図で部隊の7人が一斉にスキルを使う。
「犬部隊スキル発動!」
「「「「「「「《加速!》」」」」」」 ワウッ!
7人の犬獣人がその場から一気に馬車の方へ向かっていった。が、一瞬、前方に光が走ったかと思えば、次の瞬間、7人全員がその場で切り倒されていた。その場には純白の騎士「エインヘリアル」の3人が剣を構えたたずんでいた。 それを見た正面隊の隊長は、目を見開くだけだった。
「(な、なんだ今のは、まだ攻撃の合図があってから一分もたってないぞ!、おい、お前たち、なんでそこに横たわっている、どうしたんだ? 立てよ、まだ始まったばかりじゃあないか、立てよおお!)」ワナワナ
隊長は声を出さず心の中で、犬部隊に命令していた。
アトランティア法王国の片隅で、元老院の1人が放った威力偵察部隊とアニス達の戦闘が始まった。
いつも読んでくださりありがとうございます。
次回もでき次第投稿します。