第57話 間際に潜む暗殺者
ー政令都市ガルア 宿屋アステル内ー
夕食時、宿屋アステル内の1階にある大食堂の片隅で9人のグループがいるテーブルがあった。そうアニス達4人と「エインヘリアル」とトリー監察官の5人の9人であった。彼らは食事を囲みながら、これからの事の相談をしていた。マシュー達はエールを、アニス達は食事と果実酒のシードルを口にしていた。
「でだアニス、ここから法王国に行くつもりなんだな?」ゴク
「ん、そのつもりだ」モグモグ
「Lst.何か問題があるのですか?」コク
「ああ、まず道筋を俺が知らない。つぎに、法王国は入国するにに審査が厳しいという事だ」ゴクゴク
「大丈夫です、道筋や入国に際しては、我々が勤めさしてもらいます」ゴク
そう発言したのは「エインヘリアル」の隊長タレスだった。
「ん、いいのか?ここの場所を離れても?」
「はい、『ここの調査終了、帰国します』という名目で帰国します。その同行者、という形で案内できます」
「なるほど、それは名案だぜえ! なにせ法王国騎士が同行してれば、各関所や検問は素通りだしな」
「おっさかな ♪ おっさかな ♪ お魚ニャ ♪!オイシー!」ハムハム
「Lst.ミウ、もっとゆっくり食べなさい」コク
「ふむ、獣人は沢山見てきたが、この子は初めてだな」ムシャムシャ
「ん、トリーはそんなに獣人を知っているのか?」コク
「まあ仕事柄あちこち回されるので、会う機会が多いのです」
「へえ、トリー監察官はそんなに色々行くんですか?」ムシャムシャ ゴクン
「まあなテルゾ君、それこそこの大陸全て回ったかな」ゴクン
「へえー、で この子は初めてってどういう事ですか?」
「ん〜言いにくいが、….小さい!..普通、獣人は体格ががっしりしていて、我々より大柄な者が多い、それは女性もそうだ。だがこの子は、その逆だな」
「Lst.ちび!ですね。それはもう絶望的に小さいです!」コクン
「にゃ!ちびっていうにゃッ! 絶望的ってなんにゃッ!ソフィア!」
「ハハハッ! ほんと、こんなちびっ子がいるとは思わなかった。いくつなのお嬢ちゃん」
「おいおい、かわいいからって、こんなロリッ娘、口説くんじゃあねえ!」ゴクン
「にゃッ!ロ..ロリッ娘.....私が…ロリッ娘..にゃあ~ッ!」バッ!シャッタタタ!
「ん、お、おいミウ!」
「Rej.マシュー、今の発言は許せません!直ちに謝罪を要求します」シャキン!
マシューの発言に、泣きながら店の外へ行くミウ、それを心配するアニスと、その責任を追求するソフィア、しだいに店の中がにぎわってきた時、だれにも気が付かずに店に入る人物がいた。
「Lst.お姉さま、ちょっとミウを探してきます」
「ん、じゃあ私も行くよ」
そう言って2人はミウを探しに店を出た。2人の横をその人物はすれ違いざまに入っていく。
「全く、マシュー殿も言い過ぎですよ!」
「ま、まあ..その……反省します」
「「「「ははははっ」」」」
「まあ、気を取り直して、まずは一杯!」サッ
「おう!すまんな!」
「「カンパ〜イ!」」 カチンッ!
そんな時、トリーの背中に近づいていた者が小声で、囁いた。
「『天啓…お前の役目は終わったにゃ…無に帰せよ!』」 シュッ! シュン!
その者は、一言そう言うと、トリーの首筋を横一閃してその場から消えた。
「え?なんだ…て…い….たん……..だ………」 ブシューッ! バタンッ!
トリーは首から大量の血を噴き出しながら、その場に倒れた。
「「「トリーッ‼︎」」」 ガタガタッ!
薄れゆく意識の中でトリーは考えていた。
「(なんだ、なにが起こった…俺はまだ何もしてないのに…ああ…もう……)」フッ!
トリーはそこで息絶えた。
「おい!トリーッ!目えさませ!おいってばよう!トリーッ‼︎」 ガクガク
「マシューどの…」 タンタン…フリフリ…
トリーを抱え叫んでいるマシューに、タレスが肩を叩いて首を横に振った。
「だ、誰が一体…俺の目の前で一体なにが起こった?」
その場に、5人の目があったのに誰も気が付かずトリーは首を切られて倒れた。ただマシューだけはその現状を見て気がついた、いや、思い出した。
「な、こ..コレは..はッ!...(ん、だから《ブラインド.フィールド》!、侵入者が使った技だよ!)…そうだ、アニスが言ってたやつだ、これがそうなのか?体験してわかる。これは簡単には防げない」
そして、マシューはトリーの首元の傷を確かめた。キラキラ....その傷跡には青い光の粒が落ちていた。
「この青い粒...間違いない!たしか...(..青い光の粒があったんだよな..多分「幻影神剣 ルミナスライト」それを使ったんだと思う)ってこれもアニスが言ってたやつだ」
さらにマシューは周りを見渡した。さしたるものは落ちていなかったが、唯一そこには獣人の物と思われる茶色の毛が落ちていた。
「毛?やった奴のか?..ネコ…か?..まさかな…」
そうしているうちに、トリーの体が元素転換されて少しずつ消えていった。
「トリ―、またな。先に言って待ってろ、お前をやったやつを後で送ってやるから!」
マシューがそう言い切った時、トリーの体は完全に消えてしまった。この世界にお墓は存在しない、すべてトリーのように、命を落とせば元素分解されて消えてゆくのである。したがってゾンビとかアンデットなる存在は皆無であった。そのころ、街中にて....
「ん~、ミウったらどこに行ったのかなあ?」
「Lst.もしかしたら、どこかのお店に入って何か食べているかもしれません」
「え、でもあの子、お金持ってなかったよ」
「Rog.はい、ですからよく言いませんか?『泥棒ネコ!』って」
「い、いやソフィア、それ使い方間違ってます」
「Lst.そうでしょうか?あの子には案外あってると思いますが」
その時ソフィアに向かって飛び蹴りをかましてきたものがいた。
「あってたまるかにゃああーーッ‼」シャッ!
「Rij.甘いですよそんな攻撃、私にはかすりもしません」
ソフィアは不意打ちのミウの飛び蹴りを難なく交わしてミウに言った。
「キイイーーッ!悔しいにゃ! 何あの余裕は、いつか絶対に負かしてやるにゃ!」
「ミウよかったあ、探したんだよ!」
「アニス様、心配かけてごめんですにゃ!」タタタ ガバッ!
ミウは駆け出してアニスに飛びついていった。
「いい、いいよ。無事見つかればね。さあ帰ろ、マシューにはきつく言っておくからね」
「はいにゃ」
「Lst.いっその事、この前の特訓カリキュラムをもう一度試してみては?」
「ん、いやああ~...あれは場所と時間がかかるからまたね」
「Rog.準備だけはしておきます」
そんな会話をしながら、3人は元の宿屋へ向かって歩いていった。が、アニス達を待っていたのは重苦しい雰囲気のマシュー達であった。
「ん、なにがあった?」
「アニス、トリーが殺された…」
「はあ?…いつ?どこで?」
「ついさっきだ! 場所はここ、この場所だ」
マシューは床を指差し、もう姿形の無いトリーがいた場所を指さした。
「ここ?…..暗殺か…」
「あっという間だった。気がついたら血を吹いて倒れてたんだ、誰がトリーをやったのかわからんが、俺は許せん!」
「法王国元老院か…」
「な、アニス!そんな事もわかるのか?」
「ん、簡単だよマシュー、トリーは法王国の監察官、方々の国をわたり情報を送っていた人物だ。その者を亡き者にしようとできるのは、彼の直属の上司みたいなもん、つまり法王国大司教、そして大司教の上に存在するのが、アトランティア法王国元老院の3賢者『ドライオードの3賢者』の誰か、いや3人共かなという事だ」
アニスとソフィア以外は皆愕然として2人を見ていた。
「あと、トリーを殺したのは、おそらく『インビンシブル.ナイン』のメンバーだと思う」
「その根拠はなんだ?」
「ん〜、ないッ!、女の感だ!」
「はああ? そんなものでいいのかよ!」
「そんもの、とはなんだマシュー、意外と当たるもんだぞ!」
「まあ、あながち無関係って事もないか。アニスの感だ、当たりかもな」 ギロ
アニスと話しながら、マシューは獣人のミウを見ていた。
「にゃ?、何か用かにゃ?」
「(まさかなあ〜)いや、なんでもない」
マシューはミウに疑惑を持ちつつアニス達に言った。
「このままじゃあ終われねえ!アニス、俺はアトランティア法王国に行くぞ!」
「ん、そうだな。じゃあ翌朝、法王国に向けて出発する」
皆は無言で頷き、それぞれ準備のため自分の宿舎に帰っていった。
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..........ピ!
「アプトムラウム・エイト...聞こえるか?..傀儡28番の処理完了」
「...法務局..完了受信!」
「法務局へ警告...暗号通信『ディングティ・デイ・タイレント』...国境警備強化を求む..ディスアレス」
「法務局...警告受信...ディスローク」.......
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闇夜の中にあやしい隠語で念話通信をしている者がいた。.....
いつも読んでくださりありがとうございます。
次回もでき次第投稿します。