第35話 約束だよ
ー野営地ー
マシューは優しい、マシュー面白い、マシューは強い、私は、マシューが..。この世界に降臨して、初めて会った強い男、それがマシューだった。よく食い、よく寝て、よく笑い、よくケンカした。そんなマシューが他の女と仲良くしているところを見るとなぜか嫉妬してしまう。なぜ自分を見てくれない、なぜもっと話をしてくれない。しかしこの感情は私自身のものではなさそうだ。少し前から分かっていた、自分の中にいるもう1人の自分、恐らくこの子の感情がたまに現れてきているのだろう。私はこの子にできるだけの事をしてやろうと思い、なにがいいか模索していた。そして最近この子がマシューに特別な感情があることが分かった。この子はマシューの事が好きなんだと。そして私も、マシューが好きなんだと。そんなマシューと私は戦っている。今この場所で。
「神級剣技ぃッ!《バーティカル.グラン.ランスッ!》」
(さようなら、マシュー...大好きだったよ..)
キン‼︎ヒイイイイッッーーッ!
神級の技が発動しアニスの体が光り超高速でマシューに迫る!。
「これで、終わりッ(やめてえええ―――ッ‼)えッ⁉」
アニスが技を発動してマシューに一撃を与えようとした時、アニスの頭の中に叫び声が聞こえた。この間周りは時間が止まったかのように、ゆっくりと動いていた。
「え、誰?まさか、(お願いですアニスちゃん、マシューさんを殺さないでください!)」
「あなたはまさか、以前から感じていた、私の中のもう1人?」
(はい、いつもはこっそりとあなた達の事を見ていました。マシューさんの事も)
「そうか、でもこいつは私たちを売ったんだぞ、いいのか助けて?」
(あなたもわかっているはずです、同じ私なのですから)
「ん〜、やはり女の子、惚れた男には弱いよなあ、特に初恋の人には」
(はう!..あまり恥ずかしいことは言わないでください)
「ん、すまない。で、どうする?今時間がゆっくりと進んでいるが、許すのか?」
(たぶん、今回の事であの人も十分反省したと思いますよ)
「反省ねえ、マシューがするかどうか、わからないけどねえ」
(お願いします、私はアニスちゃんの中にしかいられません。あの人と本当は話がしたい、触れてみたい、ケンカもしたい、一緒に笑いたい、だけどそれはできません。だからお願いだけでもかなえられれば、アニスちゃんは、神様でしょ)
「ん~、神様ではないがそれに近い」
(では私のお願いだけでも聞いてくれませんか?)
「ん、分かった、今回はだけはあなたに免じてマシューを許そう」
(ありがとうございますアニスちゃん)
「だが許し方は私のやり方になるぞいいか?」
(許し、助けていただけるんなら)
「ん、分かった、あなたの意向も組んで。マシューを許そう」
(よろしくお願いします。アニスちゃん、マシューさんを頼みますね)
「ん、それと、私はマシューを殺すつもりはないぞ!」
(え、でもさっき、さよならって言ってたよね)
「ああ、それは一発ぶち当てて、奴の記憶から私を消そうとしただけだ!」
(ええ〜ッ!そんなあ、アニスちゃんがややこしい事を言うから、私、慌てて出て来たんですよ)
「まあ時間もそうないし、また今度話そう」
(はい、また今度です。アニスちゃん、マシューさんの事お願いします)
「ん、わかったまかせろ」 フッ!
アニスの中の会話が終わると時の流れも正常に動き出す。ヒィイインン――ッ!
「ちいッ!《ベルフェント.シイングッ!》」 バシユウゥゥゥゥゥッ!
キュウウウッ!ドカアアアアッッッ‼︎バッバラバラッカラン.......
アニスはマシューに神級剣技が当たる直前に、戦技、剣技、魔法のすべてを強制解除する魔法を使った。剣技を失ったアニスの身体は勢いそのまま、マシューに突撃していった。その衝撃で、周りに岩の破片が落ちて来て、神器のミドルダガーは、マシューの首横の地面に刺さって止まった。マシューは激突の衝撃で一時的に気絶していた。が、しばらくして気がつく。
「ハアハアハアッ!ふう、間に合ったか」ザッ! ぱッぱッ!
「うッ!いててて、...ア、アニス? あ、あれ?俺、生きてるのか?なんで?」
アニスはその場に立ち上がり、スカートや服のほこりを払いながら言った。
「気が付いたか。マシュー、気分はどうだ?」ニコッ!
アニスはいつもの様にマシューに聞く。
「ア、アニス、俺...俺は......」 ガバッ!ぎゅーッ!
アニスはマシューが戸惑っているその時、思いっきり抱きついた。
「オワッ!アニス何をッ!ムグッ⁉︎.....」ぎゅぎゅーーッ‼︎
そして、そのままマシューに言った。
「もういい、もう気が済んだから、だけどこれだけは約束してくれ。もう二度と私を手放すな!」
マシューはアニスの胸の中で頷いた。そして、男泣きでアニスに言う。
「ああ、わかってる。二度と、二度とお前を手離さないッ‼︎約束するッ‼︎」ウッウウッ!
声を殺し、自分の胸の中で泣くマシューを、アニスは優しく彼の頭を撫でた。
「ああ、約束だ!それでいい...」ハア〜…
アニスはマシューの顔を両手で優しく持ち上げ、顔を近づけマシューに一言。
「約束だよ!」 チュッ♡
それは自然に、なんの躊躇もなく、マシューに口付けをした。それは、女神が戦士に送る最大の褒美の様に神々しい風景がそこにあった。
「「「キャアアアアーーーーーッ‼︎」」」(キャアアアアーーッ!)
その場に居合わせた周りの女性達から、黄色い奇声が上がる。
「見た見た見た今のッ‼︎ 素敵、素敵すぎるーッ♡!」
「私も、一生この光景は忘れないわ♡」
「すごい♡、あれが女性が男性に告白するときの作法なんですね!」
(アニスちゃんッ!いきなりはひどいです。でも嬉しい、マシューさんと♡)
女性達は興奮気味で騒ぎながらアニス達2人を見ていた。マシュー本人はいきなりのアニスの行動に思考が止まっていた。
「ん、マシュー、どうした?おお〜い!」
マシューはアニスの声にやっと反応する。
「ハッ、アニス、い、今のは、え、これ俺、え?」
パシッ! アニスがマシューの頭をはたく。
「忘れろ!私は寝る!」 かあぁぁ
アニスは今になって顔を赤くして、テントの方へ歩いていった。
「おう!また明日なって、あれ、肩と足の傷がねえ! アニス、お前かあっ⁉︎」
アニスは振り向かず歩きながら、右手を親指だけ立てて突き上げた。
「ありがとな....」
マシューは一言アニスに礼を言った。アニスは自分のテントに入って休もうとしていた時、周りの様子がおかしいことに気づく。そこにはマキ達女性陣が待ち構えていた。
「「「アニスちゃん!」」」ゾロッ!
「ん、み、みんなどうしたんだこんな所で?」ビク!
「アニスちゃん、今からみんなで、お話しをしましょう♪」
「ヘッ? お、お話しですか?」タラ〜...
「先程の事です。洗いざらい喋ってもらうまで寝かせませんよ♡」
「ん、私は何もやましい事はないぞ!」
「問答無用!テントへ連行ッ!」
マキの掛け声で両脇を抱えられながら、アニスはテントに連れていかれる。
「あ、あの私の自由は...」
「今回に限り、女の子の間ではありません!貴重な情報源ですから」
「じょ、情報源? 私に守秘義務は...」
「ありません!あなたの情報は私達の物、私達の情報は私達の物」
「だああーー、ダメだこの人達!私とマシューの事を骨の髄まで調べるつもりだあ!」
「逃がしませんよぉ!アニスちゃん♡..うふふ」
その夜、東の空が明るくなるころに、アニスは解放された。
「もうヤダ....」
よれよれのアニスがそこにいた。今日は近くの町に着く予定の日であった。
いつも読んでくださりありがとうございます。
次回もでき次第投稿します。