第34話 アニスVSマシュー
ー野営地ー
アニス達の前に一人の青年が駆け寄ってきた。『エンジェルベル』のリーダー、マシューだった。彼は自分のパーティーメンバーがそこにいるにもかかわらず、アニスに告白したのであった。
「あら、マシュー、そんなに慌ててどうしたの?他の連中は?」
「ああ、マキすまないが後にしてくれ、大事な要件があるから...」
「大事な要件? 何ですかそれえ、いつになく息が荒いし。変ですよ」
ソアラがそう言うとマシューは息を整えて深呼吸を一回した。
「ハアー、フウー、よし、ソアラ後でね、では、」
マシューはアニスの前に歩み寄って止まった。
「あ、あのう、なんでしょうか、マシューさん?」
バッ!っと、マシューは頭を下げ、右手を差し出し左手を胸に当て告白する。
「ア、アニスさん、僕と結婚してくださいッ!」
「「「ハァアア――ッ⁉︎」」」
3人同時に疑問の返事を一言した。そして、アニスの前に立ちはだかりガードする。
「あんたバカじゃないの!」
「そうよ、マシューのくせにアニスちゃんと結婚?ありえないわ!」
「いいじゃねえかよぉ!お前らには関係ねえよ。ね、アニス..ちゃん?」
「あんたが、アニスちゃんをちゃん付で呼ぶなあーッ!」
「そうです、大体なんで、アニスちゃんに求婚するんですか⁉」
「そんなのもの、ほ、惚れたにきまってんだろう、それに許可ももらってるし.....それでどうかなアニス..ちゃん?」
アニスはマシューの前の出てきて質問、いや尋問を始めた。冷めた声で。
「マシュー..さん、今なんとおっしゃいましたか?フフッ」 ジイイイィ――ッ!
アニスは満面お笑顔でマシュー青年に質問をしたが、目だけは笑っていなかった。その様子を見てマキとソアラが小刻みに震える。
「(こわい こわい こわいよおお--ッ! マキちゃん、助けてェェ――ッ!)」
がくがくがく
「(むり むり むり むりいぃ――ッ! ソアラちゃん、分かるでしょッ!)」
ふりふりふりッ!
2人は体で表現しながら無言で意思疎通ができた心の会話をしていた。
「え、いやあ、だからあ僕と結婚してください」
アニスは無表情のまま尋問し続ける。
「いえ、その後です」 ニコ
「あ、惚れました。ですか?」
「いえ、その後です」 ニコ
だんだん、周りの空気が冷えて来始めた。当のマシュー青年は気が付いていないが、2人の小女はお互いを抱き合って、震えが止まらなくなっていた。
「「く、来る、またあの忌まわしい魔法が来ちゃうよおお―ッ!」」
ガクガクブルブルッ!
「え、そのさらに後ですかあ?..あ、そうそう、許可をもらいましたあッ!」
「へエェェ――ッ....どなたにですかあぁぁーー....?」
「「(ヒィイイ――ッ! いっちゃダメッ! いっちゃダメェェ――ッ‼)」」
フルフルフルフルフルッ‼
「あっ許可ですか、それはあそこにいる.......」
マシュー青年が、指差して答えようとした時さらに周りの空気が変わった。
ビュヒョオオーーッ!
「「キャアアアアッ!マシューのバカあああああッ!」」
「うわあッ! なんだこれえッ!」
少女達2人は悲鳴をあげ、同僚のマシューを罵る。マシューの方は何が起きたかわかってない様子だった。そしてアニスの心がズキンッ!と痛む、と同時に口を開く。
「フッフッフッ!...そうか、そういう事か、いいだろうマシュー、私はあのマシューからこのマシューに譲られた、売られたのか?私はその程度の存在だったんだ! クククッ! ああッははははーーッ‼︎」 ズキンズキンッ!
(このこの身体が、心か?なにか感情が、起伏が激しい ん、この子泣いてる?)
アニスの言葉を聞きマキが言い放つ。
「ア、アニスちゃん、落ち着いてッ!ちゃんと話をしたほうがいいよ!」
だがアニスは聞いていない、薄笑いしながら一筋の涙が見えた。それをマキは見逃さなかった。
「アニスちゃん.....貴方やっぱりマシューさんの事を、それなのにあんな事言われたら...」
「おいおい、なんだよこりゃあ。せっかくのナンパが台無しじゃあねえかあ!」
「ナンパ⁉︎ 今ナンパって言った?」
ソアラがマシュー青年に問う。
「え、だって、こう言えば大抵の女の子なんか、みんな俺に寄ってくるんだぜえ!」
「マシュー!アンタ最っ低い! よくそんな酷いこと言えるわねっ!」
「だってよお、俺たちと同じ銅等級の女の子だぜ、敬語とかいらないし!俺の方が強そうだし。何よりあの『閃光のマシュー』さんから許可を貰ったんだ、いいじゃねえかよう」
「ば、バカああッ! マシューッ!アンタなんて事を言って.....ヒイーーッ!」
マキがマシュー青年を諌めながらアニスを見ると、アニスの両手に魔力が集中して光り始めていた。
「貴方には、私の名の下に、この子(身体)の為に天罰をッ! 神級聖情心魔法!《ベリアス.バルト!》」
ピシイイッ! バババリリイイッッ!
アニス、いやこれはジオスのオリジナル魔法だった。 視覚、聴覚、触覚、痛覚を使い、その者の性根を正す精神攻撃である。したがって身体には影響ないが、見た目とその者の性根が鍛えられる。マシュー青年はそれをまともに受けた。
「ぎゃああああああああーーーー! バババビビビべベベエーーッ」 ドサッ
マシュー青年は、まるで火炎魔法に包まれ苦しんでいる様に見えた。そしてしばらくしてその場にうずくまり失神していた。もちろん外傷は一切なく気絶しているだけだった。
「マシューッ! だ、大丈夫⁉︎」
ソアラが一応心配の声をかけたが、アニスが悲しい声で制して言う。
「大丈夫ですよ、命を取ったりはしませんから。うふふ、次はあっちです」
そう言ってアニスは背中腰にある神器のミドルダガーに手を当て、マシューの方に歩き出した。
「ア、アニスちゃん......」
2人はアニスを見送るしかできなかった。誰だって慕っていた相手が、別の異性を自分に当てがう様な事をされれば、ショックだし怒るに決まるからだ。そしてアニスはマシューの前に来た。
「ア、アニス...(怒ってるよなあやっぱり)」
「マシュー、何か言いたいことはある?」 チャキッ!
アニスはダガーを抜きマシューに問い詰める。
「すまんッ!このとうりだ、許してくれ!」
「ん、無理、人を、私をよその男に売った。そんなマシューが許せるわけないよね?」
「ちょ、ちょっと待て、俺はお前を売ったなんて...」
「あそこのマシューが言った。あなたの許可をもらったって、私を売ったって事よね。それを聞いて私分かったの」
「俺はお前を売ってなんかいない!許可と言ってもあいつがお前を口説くチャンスをだ!」
「わからないの、それを人は、マシュー自身が他人に売ったって解釈するの。あなたは私をマシュー青年に売ったの、私はそれだけの存在だったって事なの、わかる?」
アニスの言葉を聞いて、初めて自分がマシュー青年に言ったことに後悔した。アニスの言う通りだ、マシュー青年に『好きにしろ』と言ったのは、『俺はいいからお前にやる』と言うことになるからだ。
「(何を言っても言い訳になっちまうなこりゃ)で、その剣は何だアニス?」
「けじめを、私を売ったマシューとの事を終わらせるために、...」
「本気か?」
「ん、」
マシューも自分の大剣を抜き構える。
「模擬試験以来か、行くぜぇアニス!」
「ん、マシュー、覚悟して!」
アニスとマシューが対峙しているとマキとソアラがやって来た。
「アニスちゃんやめて―!」
「そうよ、あなたがマシューさんと戦う理由がないわ!」
しかし、アニスは構えを解かないまま2人に言う。
「私じゃあないの、この子が泣いてるから、だからけじめをつけるの」
「この子? アニスちゃんなにを..はッ!アニ..ス..ちゃん.....」
アニスは泣いていた、鳴き声はないが数滴の涙をこぼしていた。
「初手から攻めるぜぇ、《縮地》剣技ぃッ!《グランツ.カッツエェ!》」
シュヒヒィィーッ!
(すまんなアニス、全力が俺の誠意だ)
「ん、じゃ《縮地》剣技ぃッ!《ガイエリアス.ファングッ!》」
シャンッッ――ッ!
2人の姿がぶれて一瞬で消える、その場に高速剣技同士がぶつかり合う。模擬戦以来の2人の打ち合いだが、使用する武器が違う。マシューは愛刀の大剣「神剣、ドラグニル」対するアニスはミドルダガーの「神器、アヴァロン」。どちらも神に由来する最高級の武器である。その武器が剣技の高速移動攻撃で剣撃の高音がこだまする。
キキカンキュンッ!キキュリーンコンキンキャリーンッ!シュシャンッ!
「クウッ!やっぱすげえぜ!全然当たらん、かすりもしねえ!少しづつ俺が押されてる」
その時アニスの剣技がマシューの剣技の速度を超えた。ビシイィッッ‼
「やべッ!剣筋が見えッ!....がはあぁぁッ!」 ヴァンッ!ドカアッ‼ ザザアーーッ!
ついにマシューがアニスの攻撃を右肩と左ひざに受けた。
「クッ!こ、これまでかッ!」
マシューは片膝をつき痛みをこらえ、アニスを見る。アニスは最終攻撃態勢に入っていた。
「ふ、俺が悪かった。アニス、楽しかったぜッ!...」
マシューはアニスの最後の一撃をその身に受けるように、自分の大剣を地面において目を閉じた。アニスの最終攻撃剣技の技名が聞こえてきた。
「神級剣技ぃッ!《バーティカル.グラン.ランスッ‼》」
(さようなら、マシュー...大好きだったよ...)
次回もでき次第投稿します。