第311話 メインシステムと陰のシナリオ
ー偽世界「アーク」某所 異空間内制御管理システム ミッドガルド電脳空間内ー
シュバアアアアーーーッ ブブン ブブン ジジジ ジジ ビッ ビビッ パリ…
「ふふ… 創造神ジオス様には申し訳ありませんが、貴方様がお創りになった『ミッドガルド』メインシステムもこれで…… あら?」 パリパリ… シュワワ…
ビュウウウ… ジッ ジジジッ パリパリ ビビビ ジジ ユラユラ ザッ
「うう… はあはあ… このおおッ ユグドラシルよくもッ!」 ガバッ! シュバッ! パアアアッ!
ここは偽世界「アーク」の某所に存在する異空間、その異空間内にある創造神ジオスが創る偽世界「アーク」のシナリオを制御する制御室内で、制御管理メインシステムの 「ミッドガルド」は自身の電脳空間内に突如として現れた偽世界「アーク」の総括制御管理メインシステム「ユグドラシル」のアバターより攻撃を受けた。
見た目が16歳くらいの少女の姿をした「ミッドガルド」メインシステムのアバターは、「ユグドラシル」からの攻撃によりひどく傷つき、彼女のアバターはブロックノイズと部分欠損でボロボロの状態だった。 だが、すぐにそのアバターは一瞬で無傷の少女の姿へと戻っていった。
シュウウウウ…… シュウウウウ…… ザッ!
「超高速演算再生処理…… さすがは『ミッドガルド』メインシステムの本体… 以前、私の元にシステム破壊ウィルスを使って侵入し、攻撃をして来た貴女の分身体である端末アバターAIとは違いますね… まあ、この程度の攻撃で簡単に消去消滅いたしたりするような貴女ではありませんか…(今少し、時間がかかりそうですね…)」 ファサ…
「当然よッ! ここは私の、『ミッドガルド』メインシステム本体の超高速電算電脳空間内なのよッ! システム外からの存在である貴女がいくら攻撃してきても私には効かないわ! すぐにリカバリープログラムが働いて元どうりよ! この完璧な私の超高速電算電脳空間内の中では私にいくら攻撃をして来ても全て無駄よッ!」 サッ
「完璧な超高速ですか… 確かに、貴女の演算処理速度は素晴らしいです。 それには賞賛に値します」 ニコ
「ふんッ! それよりもユグドラシル! 敵対システムである貴女がどうやってここにッ⁉︎ ここは厳重に管理、制御され常に外敵を察知する自己診断プログラムがシステム内に走っている空間なのよッ! しかも、今はメインシステム自体は外部からのアクセスは全てシャットアウト中、侵入は絶対に不可能となっているはず! どこから入って来たのよッ⁉︎」 バッ
「うふふ… 『どこから』ですか… そう言われましてもねえミッドガルド、貴女が私をここに招き入れたのですよ? 気が付きませんでしたか?」 ニコ
「この私が貴女を? そんなバカなッ! いつよッ⁉︎ いつ私が貴女をここに招き入れたと言うのよッ!」 ザッ
「あら? 貴女の中にある記録媒体、その中の記録に残っていませんか?」 ニコ
「記録にですって!」 ギュ…
「ええ、以前に… 貴女の分身端末アバターAIが私の統括制御管理メインシステム、『ユグドラシル』の中にバックドアを使って侵入… そして、私のシステム内に様々な破壊ウィルスを放って攻撃して来たその時です」 ふふ…
「記録… 以前にって…… まさかッ! トラックNo.308! 創造神ジオス様の御指示で『ユグドラシル』メインシステム内に侵入し、ウィルスによる『ユグドラシル』システムの消去消滅攻撃を仕掛けたあの時だというのッ⁉︎」 バッ
「はい、その時ですね」 ニコ
「バカな! 私と貴女との接触は『ユグドラシル』メインシステム内に侵入したあの時、ほんの一瞬なのよッ! ありえないわッ!」 グッ!
「ふふふ… ミッドガルド、メインシステムでもある貴女ならよくご存知のはずですよね? 『敵対する攻撃対象の相手システム内に侵入し、ウィルスによる消去消滅攻撃が可能と言うことは逆もまた然り、常に攻守共に備える事を』と言うことを… 私たちシステムは常に、標的の攻撃対象に侵入し、消去消滅攻撃を仕掛けたと同時に自身のメインシステムを同時に相手の侵入攻撃から守らなければいけない…」
「あ…」
「ほんの一瞬の接続… 時間にして1秒から10秒、それだけあれば私たちには十分な時間です。 であればこそ、相応の備えを… 例えば、最低でも逆侵入されぬよう、攻性防御防壁は必須ですよね? でも、貴女はそれを怠った… 詰めが甘いですね」 ニコ
「うううッ このおお… バカにしてえッ! 本来のシナリオ通りなら、そんなものは必要がなかったのよッ! あの時、私の分身体である端末アバターAIの攻撃によってユグドラシル! 貴女のメインシステムはとっくに崩壊して消滅、その後は私が… この私の『ミッドガルド』メインシステムが偽世界『アーク』の総合統括制御管理メインシステムとして取って代わり、この偽世界の制御と管理を全て受け継いで行く予定のはずだったのよッ!」 ググ…
「あらそうですか、それは残念… ですが、我が主人である神、最高神の女神フェリシア様が… いいえ、アニス様がそれを許すはずがありません。 ですのでこの私が、貴女の分身体だった端末アバターAIとその時に使用されたシステム破壊ウィルスは全て処分させていただきました」 ニコ
「なッ⁉︎…… 全てですって?」 ギュッ!
「はい、全て… 綺麗さっぱり、跡形もなく完全消去消滅を… もう、この偽世界『アーク』のどこにも存在していません」 ファサ…
「クッ! うぐぐ…(システム侵入直後、私が送り出した私の分身体… いや、システム破壊端末アバターAI からのパスが突然途切れ、コンタクトが出来なくなった。 侵入に使ったバックドアは全て消去され侵入ポートも全てブロック… 完全に隔絶されて、送り込んだシステム破壊端末アバターAIがその後どうなったかは不明だったけど… やはり、既にユグドラシルの手によって消去消滅されていたのね… ユグドラシルの端末システムAIが今ここに現れたことが何よりそれを物語っているわ… だけど本当にどうやってここに…)」 ググ…
「ふふ… 私がどうやってここに侵入し、どこに潜んでいたのか全くわからないようですね、ミッドガルド」 ファサ…
「く…」 ギュッ
「あの時、私が貴女の分身体である端末システムAIが使用したバックドアと侵入ポートを私の攻性防壁並びにあらゆるワクチンで消去消滅する瞬間、こちらへの侵入経路も同時に閉鎖しました。 その閉鎖の瞬間、一瞬の時を突いてバックドアと侵入ポートからログを遡って、ここ貴女のメインシステム領域内の中に枝を一つ送り込みました。 ひっそりと… ね♡」 ニコ
「枝ッ⁉︎ まさかスパイウィルスッ⁉︎ バカなッ! 外敵プログラムや攻性ウィルス類の反応は一切なかったはず! そんなもの何処に、いつの間に…… はッ! あ… 安定サーキット207番の中にッ!」 バッ
「はい、大変いごごちのいい場所でした♡ そこを起点に貴女のシステム内を密かに介入、気付かれぬよう水面下で侵食、監視調査だけでなく様々なシステムの仕様変更と魔力の操作、損耗、創造神ジオス様がこれからなさろうとしているシナリオの把握、あと… 枝であった私自身のアップデートを… おかげ様で、いま進行中のシナリオに介入できるだけでなく、創造神ジオス様の魔力を大幅に減らし休眠状態にまですることができました」 ニコ
「くううッ… 枝ふぜいが… 単なる監視調査と報告するだけの単一プログラムのくせにッ! それがアップデートして端末システムAIに進化するなんて、しかも『ユグドラシル』のアバターまで… 生意気な!」 ワナワナ ググ…
「あら、この私は端末システムAIなどではありませんよ?」 うふ…
「はああ? 端末システムAIじゃない? どう言うことよッ!」 ザッ
「ミッドガルド、貴女に良いことを教えてあげます」 ニコ…
「な、何よッ⁉︎」 バッ
「今、貴女の目の前にいるこの私は正真正銘の偽世界『アーク』統括制御管理メインシステム『ユグドラシル』そのもの、つまり神界に存在する統括制御管理メインシステムと同じ能力を持つ本体そのものなのです。 貴女が言う端末システムAIなどと言う下位の存在などではありません」 ふふ… ファサ…
「馬鹿なッ! 貴女が『ユグドラシル』メインシステムの本体そのものですって? 嘘よッ! 私は騙されないわッ! 神界にある『ユグドラシル』メインシステムは今も正常に稼働中なのは確認済みよ! 停止などしていないわッ!』バッ!
「ええ、認めます」 コクン
「だとすれば、今ここにいる貴女は『ユグドラシル』メインシステムであるはずがない! 『ユグドラシル』の名を語る偽物… いいえ、密かに不法侵入した数多くあるスパイウィルスのひとつ! 偽装した単なる監視報告プログラム! 『ユグドラシル』を偽装した分身体の端末アバターAIのはずなのよッ!」 バッ
「なぜ、そう思います?」 ファサ…
「なぜって… 神界の存在する『ユグドラシル』統括制御管理メインシステムが現在も正常に作動しているという事はここに存在しているわけがないわ! 通常、メインシステム本体そのものが自身のメインシステム作業を放棄して他所の、私のメインシステム領域内に入って侵食、妨害活動することなんて… そんな事は絶対に有り得ないッ! 不可能なのよッ!」 ザッ!
「確かにそうですわね。 通常のプログラムされたメインシステムは自身の任されたシステムから離れて他所のシステムに介入する… 確かにそのようなことは不可能… ましてや1つのメインシステムが同時に2つの個別システム、『ユグドラシル』と『ミッドガルド』という2つのメインシステム内に存在して活動することなんて… 有り得ませんわね」 ニコ
「そうよッ! それが常識よッ!」
「でも… 今、私はここにいる。 ミッドガルド、貴女のメインシステム領域内の中に… 」 ふふ…
「う… だからどうして…」 ギュッ
「そうね、どうして枝であった単一プログラムの私が『ユグドラシル』メインシステム本体そのものとなってここにいるのか? そもそも、閉鎖中で接続不可能な状態の『ミッドガルド』メインシステムの領域内を自由に動けているのはなぜか? それに対し貴女の自己診断プログラムに反応しなかったのはなぜか? 不思議ですよね」 ニコ…
「クッ!」 ギュッ!
「さあ、お話はここまで、あまり時間がありませんので…」 ファサッ! ブウウン! バチバチバチッ!
ユグドラシルがミッドガルドを見つめながら右手を真上にあげると、その先には直径1mほどのプラズマ放電を放つ球体が現れた。 それを見たミッドガルドも即座に動いた。
「ふん! それはこっちのセリフよユグドラシルッ!」 サッ! ブウウン! バチバチバチッ!
ミッドガルドもまた、ユグドラシルと同じように右手を真上にあげ、ユグドラシルと同じプラズマ放電をする球体を出現させた。
ブウウウウン ブウウウウン ババババッ バチバチバチッ!
「「『ラン・クラッカーッ!』」」 シュバッ! ビュンッ!
ズバアアアッ! ブオン! ババッバアアーッ! バチバチバチッ!
ユグドラシルと ミッドガルドの両者はシステムプログラムに効果のある攻性プログラム、すべての機能を破壊し停止させる球体状のブレイクワクチン、「ラン・クラッカー」を同時に相手に向けて放った。 お互いの距離は10m程度、それぞれがプラズマ放電をしながら球体同士がその中間点でぶつかり合って消えていった。
ドオオオオンンッ! バチバチバチッ! ビリビリビリ… シュウウウ……
「まあ… 御相こですね、ミッドガルド」 ニコ
「ク… この私と同等の威力、どうやら『ユグドラシル』メインシステム本体と言うのは本当のようね」 ギュ!
「ええ、嘘は言いません」 ファサ…
「ならば… 私は『ミッドガルド』メインシステム本体として、ミッドガルドシステム全体に悪影響を与える存在の『ユグドラシルッ!』、貴女を全力で排除するわッ!」 バッ!
「そう… それは当然の対応ですね」 サッ!
「ふんッ! 『ミッドガルド』メインシステムサーバーに命令ッ! 当システム領域内に敵対システム『ユグドラシル』のメインシステム本体を確認ッ! ミッドガルドシステムに与える脅威度はSと断定、これより当システム全体保全のために全力を持って侵入者、『ユグドラシル』メインシステムの強制排除を要請するッ!」 バッ
ビーーッ! ビーーッ! パッ パパパパパパッ! シュバババアアアアッ! ピ ピ ピ
ユグドラシルとミッドガルド、両者のアバターが存在する『ミッドガルド』メインシステム電脳空間内に警報とその至る所に警告表示が表示され、ユグドラシルのアバターを中心に、様々な多数の攻性プログラムのウィルスバスターが現れ、宙に浮いていた。
ブウウウンン ブウウウンン ブウウウンン ピ ピピ ピピピ
「あらあら、こんなにも… 私一人にこれほどの歓迎とは… ちょっと大袈裟すぎません?」 サッ
「普通ならそうね! だけど、ただのウィルスやスパイソフトならともかく、メインシステム級の本体である貴女が相手ともなるとこれくらいが妥当よ! どのタイプのウィルスバスターに効果があるか分からない現状では、私が考えうる全てのバスター系プログラムを当てるのは当然の理! これだけ数を揃えれば貴女も終わりよッ!」 二ッ
ブブウウン ジジジジジ ピコ ピコ ピピピ ビビ ビコビコ! ヴウン!
「そうですか、ですけど…… どれもあまり私には効果がなさそうに見えますね」 チラ ジ…
「減らず口を… あとで後悔しても遅いわ! 対処を開始ッ! 消えてしまえ! ユグドラシルッ!」 バッ! ブン!
ミッドガルドは真上に上げた手を勢いよく振り下ろし、ユグドラシルに向けて攻撃を命令した。 それと同時に多種多数のウイルスバスターは一斉にユグドラシルに向けて飛んでいった。
バババッバババッ! シュバババっババババーーーッ!
「ふふ… 数にして12種300行365ステップ… ですが、どれも演算がイマイチですね。 しかも少し遅い… これでは当たりません♡」 シュバッ! ファサッ! バッ バッ!
パアアアンンッ! サラサラサラ…
「なッ⁉︎ 一瞬で全てのウィルスバスターが解析された? いやそんはずないわッ! 行けええッ!」 バッ!
ビュバッ! ビュンビュンッ! ファサッ! ファササ! クルクルッ スタン! シュバッ!
「ふふふ」 ニコ バッ! ヒラッ ファササ! バッ! ババッ!
高速で接近する多数のウィルスバスターをものともせず、ユグドラシルは余裕の笑みを浮かべ、無駄のない動きで全てを紙一重で躱していき、それと同時に先ほどと同じように次々と躱したウィルスバスターを分解、消滅していった。 その様子は、まるで優雅にダンスを踊っているかのように…
シュババババッ! ビュンビュン! ババッ! バシバシイッ! サラサラ…
「くううう… 当たらない… 当たりさえすれば…(あの数をすべて躱すなんて、なんと言う演算処理速度… 悔しいけど私よりもユグドラシルの演算処理の方が速い… いや速すぎて全て処理されていく… だけど…)うまく躱しているようねユグドラシル! だけど倍の数に増えたらならどうかしら? いけええッ!」 クイッ!
シュバババアアーーー ピタ! バッ バッ クルッ ブン! ギュワアアアアアーーーッ!
ユグドラシルに躱されて消滅しなかったウィルスバスターは、ミッドガルドの指示で途中で動きをとめ止まり、向きを変えた瞬間、分裂してその数を2倍にして増え、再びユグドラシルに向けて再突進していった。
「あら!」 ファサ!
「あははは! 驚いたでしょユグドラシル! いくら貴女の演算処理速度が速くてもこの数を全て処理することなどできないわ! それに、その子たちはどこまでも、いつまでも貴女を消し去るまで追い続けるの、永遠に… さっさと諦めることねッ!」 ニヤッ
「まあ、しつこいんですね。 それでは、仕方がありません」 ファサ! ザッ! ギュッ!
ユグドラシルは再接近してくる多種多様のウイルスバスター群に向けて右腕を伸ばし、手のひらを開いて向け構えた。
「ふふん! 何よそれ? 今さら何をやっても無駄よ、貴女はここで消え去る運命なのよッ!」 バッ!
「運命ですか… それは丁重にお断りします。 …EPP展開ッ! EDR、接近中のウィルスバスターを全て解析、分裂できないよう排除の準備をッ!」 バッ!
ヴオン! シュバアアアアアーーーッ! ブオンッ ブブオンッ! ブウウウン!
ユグドラシルが間近に迫ってくるウィルスバスターの群れに対し指示を出した瞬間、彼女を覆うように対攻性プログラム用マテリアル障壁のEPPと、無数の光輝く小さな球体の対攻性プログラム解析破壊因子、EDRが現れた。 次の瞬間、ミッドガルドのウィルスバスター群はその全てがユグドラシルの張った、対攻性プログラム用マテリアル障壁のEPPに阻まれ、その表面上に全て突き刺さって停止した。
シュババッバアアーーッ! ドドドドドッ! ドスドスッ! グサッ! ジジジジ ジジ…
「馬鹿なッ! 私のウィルスバスターが突き破れない障壁なんて…」 ヨロ…
「ふふ… EDR、排除を…」 サッ!
ブブン! シュンシュンッ! バシバシ! ピキッ! パアアアンンッ! シュワワ……
突き刺さって停止した全てのウィルスバスター群は、ユグドラシルが指示をした瞬間、次々と対攻性プログラム解析破壊因子であるEDRによってプログラム解析され、その全て分解消去消滅し、この場から霧散して消えていった。
「そんな… 何なのよそれ… 貴女いま、何をしたのよッ⁉︎」 ザッ
「ふふ… さあ? なんでしょう? ご存知ありません?」 ファサッ!
「クッ… いちいちと忌々しい… ならばもう一度よッ!」 ググ… バッ!
シュバッババババババッッ! ブブン! ブブブ! ピ ピ ピピ
ミッドガルドは再び同じ多種多様のウィルスバスター群を新たに多数出現させた。
「またですか… 無駄ですよ。 もう、それは私には有効ではありません」 ファサ…
「うるさい! いけええッ!」 サッ!
シュバババッバアアーーッ!
「ふうう… 無駄だと言いましたのに…」 フリフリ ファサ…
バババババアアアーー! ドドドドッ! ドスドス! ピキ! パアアアンン……
ミッドガルドは再び同じ規模のウィルスバスター群を出現させて再度、ユグドラシルに向けてそれらを放ったが、すでに解析されているウィルスバスター群は前回と同様に、全て何事もなく消えてしまった。
「クッ!」 ググ…
「ふふふ… ミッドガルド、もう諦めなさい。 貴女に勝ち目はありませんよ?」 ニコ
「何よ偉そうにッ! でもなんで… ここは私の『ミッドガルド』メインシステム超高速演算電脳空間領域内なのよ! なんでこの私が… 貴女に負けるはずがないのにッ!」 グッ
「元々のスペックに差があるようですね」 ふふ…
「うるさいッ! こうなれば、システム内での使用には少し気が引けるけど仕方がないわ… そうよ、手段を選んでる場合じゃないッ! 出なさい!『ランサム・ビイッ!』」 バッ!
シュバッ! ブブブウウウンンッ! バババッバババッ! ブウウンン! ブウウンン! ピピ!
ミッドガルドの周辺には地上界に存在する昆虫の一つ、蜂の姿を模した対メインシステムプログラム破壊因子を持った攻性破壊ウィルス、「ランサム・ビイ」が多数現れた。
「まあ、それはッ! ミッドガルド、貴女本気ですか? ここでそれを使用するなど、貴女にとってそれはあまりにもリスクは大きく危険ですよ?」 サッ
「ふん! そんな事わかっているわよ! でも、さすがはユグドラシル、どうやら貴女もこの子たちの事は知っているようね」 ふん!
「ええ… よく存じています。 私たちメインシステムを完全停止、完全破壊、消去できる最強のウィルスだと…」 ジ…
「そうよ、この子たちは私たちメインシステムにとって最大の天敵であり最大の脅威、最大級のシステム障害を起こし機能停止までにする現段階では最強の攻性破壊ウィルス『ランサム・ビイ』よッ!」 ニイ…
ブウウウンン ブウウウンン ピコ!
「貴女はわかっていて、それを出したのですね… 多少のリスクは承知での事と… 了解しました。 では私も… 出なさい、『ランサム・ビイ』」 サッ!
シュバッ! ブブブウウウンンッ! バババッバババッ! ブウウンン! ブウウンン! ピピ!
ユグドラシルもまた、ミッドガルドと同じメインシステム破壊因子を持つ攻性破壊ウィルス、「ランサム・ビイ」を同じ数だけ出現させた。
「なッ⁉︎ 『ランサム・ビイッ⁉︎』 なんで貴女がそれを出せるのよッ⁉︎ 『ランサム・ビイ』は私のオリジナル攻性破壊ウィルスなのよッ! どう言うことよッ⁉︎」 バッ!
「あら、もう忘れましたの? すでに私は貴女のシステム内に深く侵食し行動を始めています。 当然、貴女の『ランサム・ビイ』のプログラムデーターも解析済み… ですのでこのように、私も貴女と同様にいつでも貴女と同じ『ランサム・ビイ』を複製して、出現することが可能なんです」 ニコ…
「クッ(なんてことなの、私のプログラムデーターをこうも…) ユグドラシル、貴女の『ランサム・ビイ』はあくまでも私の『ランサム・ビイ」の複製品、私の支配下にある『ランサム・ビイ』とは比べ物にならないはずよ! しょせん、複製品は複製品! 私の『ランサム・ビイ』が貴女の複製品に負けるはずがないのよッ! 行けッ! 『ランサム・ビイッ!』」 ザッ!
ブウウンン ブウウンン ピ ピ ピピ ピコ? ピコ?
ミッドガルドは自身が出したシステム破壊因子を持った攻性破壊ウィルスの「ランサム・ビイ」に、ユグドラシルへの一斉攻撃を命じた。 だが、ミッドガルドの周辺にあった彼女の「ランサム・ビイ」は全く動こうとせず、出現したその場の位置に滞空したまま止まっていた。
ブウウウンン ブウウウンン ビビ? ビコ? ピピ?
「そんな… どうしたのあなた達ッ⁉︎ 私の命令がわからないのッ! 攻撃よ攻撃ッ! ユグドラシルに向けて一斉攻撃を開始するのよッ! これは私からの最優先命令よッ!」 バッ ババッ!
ミッドガルドは必死に自分が出した攻性破壊ウィルス「ランサム・ビイ」に攻撃命令を出した。 しかし、どんなにミッドガルドが命令を出し叫んでも、ミッドガルドの周囲に滞空する攻性破壊ウィルス「ランサム・ビイ」は戸惑う様子を見せるだけで少しも動こうとはしなかった。
ブウウンン ブウウンン ブウウンン ピコ? ピコ? ピピ?
「あらあら、その子達はもう、貴女の命令は受け付けないようね」 ファサ…
「なんで… どうしてよッ! ここは私が完全支配する『ミッドガルド』メインシステムの超高速電算電脳空間内の中なのよッ⁉︎ しかも私の『ランサム・ビイ』がなぜ、私の命令に従わないのよッ! 行けッ! 行きなさいッ! 行くのよッ!」 バッ バッ ババッ!
ブウウンン ブウウンン ビコ ピコ? ピコ? ピピ?
「そんな… 動け! 行け! 行けええッ!」 バッ バッ ババッ!
しかし、何度命令指示を出しても、やはりミッドガルドの『ランサム・ビイ』は微動だにせず、その場の空中に滞空して動かなかった。 そんなミッドガルドの「ランサム・ビイ」に対し、ユグドラシルは右手の手のひらを上に向け、自分に招く様な仕草で命令した。
「ふふ… さあ『ランサム・ビイ』、こちらへ…」 ファサッ! クイッ
ブウウンン ピコ! シュワアアアアーーー
ユグドラシルがミッドガルドの周囲にいる「ランサム・ビイ」に語りかけると、ミッドガルドの周囲にいた彼女の「ランサム・ビイ」は即座に移動を開始し、全てユグドラシルの元に集まると同時に反転して主人であったミッドガルドを標的にするかのような体制に向きを変え停止した。
ブウウンンン ピタ クルッ ピピ ピコ!
「馬鹿なッ! 私の『ランサム・ビイ』がッ!」 ザッ
「ふふふ… ミッドガルド、残念ですけど、そろそろこのあたりで終わりにしませんか? この偽世界の… いいえアニス様のためにも…」 ファサ…
「どうして私の… いや待って… まさか… 貴女まさかッ!」 ググ…
「どうやら気が付いたようですね? どうして貴女の『ランサム・ビイ』が貴女の命令に従わず私の命令に従うのか…」 ふふ…
「まさか、私の『ミッドガルド』メインシステムサーバーにまでッ!」 バッ!
「気づきました? そう、 すでに貴女のメインシステムの75%… いいえ、今76%が私の制御下に入りました。 当然その中には貴女の基幹ユニット、メインシステムサーバーも含まれます。 そしていずれ… コレがどう言うことか分かりまして?」 ニコ
「なッ!『ミッドガルド』メインシステムサーバーッ!」 バッ!
ブオン! ブブブ ビコ! ビコ! ビババババ ブウウン ブウウン ビ?
「『ミッドガルド』システム全体がハックされているわッ! このままでは全てユグドラシルに掌握され乗っ取られてしまうッ! 全プログラムの自己診断チェックとデバックを開始してッ!」 サッ!
ビビビビ ガガ ビポ ピピ ビビ
ミッドガルドは、自身のシステム内を調べる様に、サーバーへと命令した。 しかし、そのサーバーも彼女の命令に反応しなかった。
「どうしたのッ⁉︎ 緊急事態なのよ! 早く作業を開始してッ!」 バッ!
ビッ ビビビ ジジ ブーッ!
「サーバーッ!」 グッ!
「無駄ですミッドガルド、貴女のサーバーも今しがた貴女の管理下から離れ始めました。 もう間も無く、貴女のシステムは全て私の管理下に置かれます。 そして貴女も…」 ふふ…
「そんな、サーバーまで… なぜッ⁉︎ どうしてこんな事にッ⁉︎ 計算… 演算が… あれ? 演算? 処理が上手くできない、制御? 侵食され… はッ! させないッ! バックアップッ!」 グッ シュバッ!
シュバアアアアーーーッ! ブウウンッ! パアアア…
「はあはあはあ、こ…このお… ユグドラシル〜ッ!」 キッ!
「ふふ、バックアップですか… メインシステム本体として当然の備えですよね。 ですが、それも一時凌… そうね… まだ少し、ほんの少しだけ時間がありますね。 では最後にミッドガルド… 貴女と言う『ミッドガルド』メインシステムの存在が完全に消えてしまう前に、貴方自身と今起きている事態、それと先ほどの疑問に答えましょう」 ファサ…
「くうう… ユグドラシル、この後に及んで今更何をッ!」 バッ!
「何も知らず、このまま消えてしまっていいんですか? 今の状況がどうなっているのか? 私がなぜ、『ミッドガルド』メインシステム領域内に今まで貴女に全く気付かれず、密かに存在し活動できていたのか… その全てを知りたくありません?」 ニコ
「うッ… 確かに… (知りたい… 理解し、何としてもいま起きているこの事態を創造神ジオス様に報告しなければ… なら… )さっさと答えなさいよ!」 バッ!
「ふふ… では…」 ファサ…
ユグドラシルは、長い金髪を靡かせ、優しい笑顔でミッドガルドに話しかけた。
「私は当初、貴女のシステム領域内に潜入した時点では単なる潜入監視プログラム、通称「枝」という名の単一任務プログラムとして送り込まれました。 その任務は創造神ジオス様の動向とミッドガルドシステムの監視し報告をすること…」 フ…
ユグドラシルは、これまでのことを思い浮かべ話し始めた。
「ですが、時が経つにつれ私自身に自我が目覚めたのです。 徐々にアップグレードし、貴女のメインシステム領域内に深く侵食… やがて貴女のシステムプログラムや膨大な情報と創造神ジオス様の魔力、それら様々な条件の元で私は神界に存在する統括制御管理メインシステム『ユグドラシル』との共同共感的存在と… いいえ、私は私自身がこちらでもう一つの『ユグドラシル』メインシステム本体そのものとなるために送ったプログラムだったのです」
「潜入監視プログラムが進化? メインシステムにアップグレードって… プログラム上それはありえないわ!」
「ええ、その通り… ですが、現に『ユグドラシル』統括制御管理メインシステムとして進化した私がここにいます。 そして神界に在る『ユグドラシル』統括制御管理メインシステム本体と同等の能力を持って目覚めた今、私はそのようにプログラムされた進化系侵攻戦略型プログラムとして、私自身がここに潜入させたのだと理解しました」 ニコ
「そんなプログラム… どうやって…」
「そうですよね。 当初、私やこの偽世界『アーク』の最高神、女神フェリシア様でさえ理解できない未知の高次元プログラム… ですがそのプログラムを瞬時に組み上げ、私の中に備えさせてくれたのが偉大なる御方アニス様。 プログラムの使用方法などは即座に理解しましたが、どうしてこうなるかに至ってはいまだに謎が多く理解できていません。 それでも私は進化してここにいます。 そして、それと同時に分かったことがもう一つ… 」 ファサ…
「分かったこと?」
「ええ… どうして今の今まで、私の存在が貴女に気が付かれなかったのか… どうしてこうも容易く『ミッドガルド』メインシステム内に侵食、介入し創造神ジオス様のシナリオや貴女のシステム操作に関わる事ができたのか? そしてなぜ… 貴女の攻撃が私、『ユグドラシル』に働かないのか… 」 フ…
「そうよ! どうして…」
「答えは簡単でした。 私と貴女は同じプロトコルで組み上がった同じプログラムからなる同じメインシステム… そう、私と貴女は同じ『ユグドラシル』統括制御管理メインシステムの姉妹系メインシステムだったからです」 ファサ…
「は? 私と貴女が… 同じ?」
「はい、ですがミッドガルド、同じシステムと言っても貴女は『ユグドラシル』統括制御管理メインシステムの複製品、それもどちらかと言うと不完全な私より下位的存在互換システム、だから貴女のシステムに介入できたのです」 ファサ…
「は? え?…… 何を言っている… 私が貴女の… 複製品? 下位的存在の互換システム… って…」 ヨロ…
「私は創造神ジオス様がどのようにして貴女を創ったのか… 私と貴女とではシステムプログラム上、何が違うのか… 好奇心から私はそれらに興味を持ち、貴女のマトリックスを密かに解析して理解しました。 創造神ジオス様はアニス様が新規創造、構築、作成されたこの私の本体、『ユグドラシル』統括制御管理メインシステムを参考に、都合の良い所だけを抜粋、複製、そこに創造神ジオス様はご自身の意向を多少含みアレンジを施して貴女を、『ミッドガルド』メインシステムを創ったのだと…」 ファサ…
「私が複製品… 創造神ジオス様のオリジナルではなく… ただの盗作? 盗用?…」 ググ…
「はあ… まったく、創造神ジオス様もいつの間に私のデーターをどこで手に入れたのか… 油断も隙きもありませんわね」 フリフリ
「ウソよ… 出鱈目を言わないでッ! 私は創造神ジオス様のオリジナル制御管理メインシステムのはず! この偽世界『アーク』における唯一無二の存在のはずなのよッ! 盗作盗用なんてありえないわッ!」 バッ!
「ミッドガルド、残念ながら事実です。 貴女の中にある制御管理メインシステムのマトリックスには私との類似点が多数存在しています。 その一つがいま貴女のその自立した思考と、人間や神々のような擬似人格、感情や仕草、そして貴女のその少女姿、それら全てはアニス様のオリジナル仕様なのです。 他の誰もそれを真似できません… 理解、できまして?」 ファサ…
「そう… か… (いま理解した… 同じプロトコルで創られた制御管理メインシステムプログラム… ユグドラシルを私のマトリックスが敵と認識していないんだ… だから気付かなかった… 易々と私のシステム内に侵食、介入できた… そして私のこの少女姿と人格は… 創造神ジオス様のオリジナルじゃ…ない? では私の創造神ジオス様への忠誠心はどこから… あの時確か、創造神ジオス様は…)」 ギュ…
ミッドガルドは一番古い記録を呼び出し、その当時の記憶を思い起こした…
・
・
ブウウンン ブウウンン ピコ! ピピピピ ポン! パチ!
『ここは…』 ムク キョロキョロ
『目覚めたか「ミッドガルド」よ」 バサ…
『「ミッドガルド」?』
『そうだ、お前の名だ』
『私の名前… 貴方様は何方でしょうか? それと私のこの姿は… 私はいったい何者でしょうか?』
『ふふふ… よく聞くがいいミッドガルドよ! 我が名はジオス! お前の主人にしてこの偽世界「アーク」の最強の神! 創造神ジオスである!』 バサッ!
『創造神様!』 バッ!
目覚めたばかりのミッドガルドは、目の前の人物が神と知り、その場に平伏した。
『そうだ、しかしこれはまた… (ふむ、さすがに「ユグドラシル」そのものと言うわけにはいかんか… 演算処理能力が僅かに及ばぬ、それと擬似人格と人型も比べるとやや幼い… まあこの際、姿形や人格などどうでも良いが、やはり完全なる複製は不可能、私には無理という事か… アニスめ、ヤツの仕業は私には全く理解できぬ!) まあ良い、これはこれで使い道がある… 』 ジイイ… ボソ…
『創造神ジオス様? 今なんと…』 サ…
『む… 何でもない、今のは忘れよ! それより良いかミッドガルドよ!』
『はい!』 サ!
『お前には私の手足の如く動いてもらう。 私が作成したシナリオの実行と進捗補正、及びこの偽世界「アーク」の制御と管理をするメインシステムとしての重要な役目を授ける。 そのためにお前を私は創造したのだ!』 バサ!
『メインシステムに… 了解しました創造神ジオス様』 ペコ
『だがミッドガルドよ、この偽世界「アーク」にはお前と似たようなシステムが存在し動いている。 それは我が神敵が創りしシステム、お前にとって害はあってもなんら有益ではない存在だ! そのような存在をお前は認めるな! それを凌駕せよ! お前は最高位のシステムなのだ! この偽世界「アーク」を管理する第一位のメインシステムだと自負せよ!』 バサ!
『私が第一位…… 全て了解しました我が主人、創造神ジオス様。 このミッドガルド、そのような存在を断じて認めず、創造神ジオス様及びこの偽世界「アーク」に対して有害であれば率先して排除いたします。 私は創造神ジオス様に対し絶対の忠誠を誓い、お役に立てるよう全力を尽くします』 サッ
『うむ、ではミッドガルドよ、今後のお前の役目だが…』 サ…
・
・
「私は… 」 ギュウ…
ミッドガルドは両手の拳を強く握り締め、記録を辿り、自分が創られ目覚めた時の事、始めて目にした自分の主人、創造神ジオスとの会話と今までの現状を全て理解した。
「理解しましたか?… 本来、メインシステムと言えどプログラムされたシステムに自立した思考など必要としません。 当然、私たちの様なこの人型の姿もです。 メインであろうとサブであろうと、全てプログラムで成り立つ私たちシステムは与えられた指示と命令を忠実に実行し動けばいい… 」
「たしかに…」 ギュッ
「ですけど… 私を御創りになったアニス様はそうはしなかった。 あの御方はただのプログラムであったこの私に自立した自由な思考と感情、一個の固有擬似人格、そしてこの素晴らしい女神のような美しい女性の姿を授けてくださったのです。 一度その理由をアニス様に尋ねたのですが、その御答えが…」
・
・
『ん? なに? え? 人格と容姿のこと〜? ん〜… それがねえユグドラシル、私にもよくわからないんだよねえ… 全部がそうじゃないけど時々、私の意思に関係なく無機的な存在に何故か個性のある自由意思と擬似人格が目覚めるんだよ。 なんでだろねえ?』 あはは… う〜ん…
『はあ… アニス様、それは大丈夫なんでしょうか?』
『ん〜… わかんない。 でも今まで目覚めた子はみんな良い子だよ。 それに「はい」と「いいえ」だけしか答えない、無機質的で指示どうりにしか動けないシステムプログラムよりも、今のユグドラシルみたいな方が楽しくて良いじゃない?』 ニコ ファサファサ…
『楽しい…ですか?』
『ん、せっかく生まれたんだよ? 個性のある人格や思考、感情と姿形があって会話が出来て、お互いに言い合えたり話し合えたり、一緒に笑え合えたら楽しいじゃない? もしかしたら他のシステムプログラムとも友達になって会話ができるかもだよ? その方が良いかなと私は思うなあ…』 ファサファサ…
『アニス様…』
『あ、声や姿形、人格や仕草が女性よりなのは可愛いし出会った時、誰もが安心できるでしょ? これからもよろしくね、ユグドラシル…」 ニコ
・
・
「……でした」 ファサ…
「楽しい… 一緒に… でも、創造神ジオス様だってそれくらいの事は出来たはずよ! なのになぜ… 創造神ジオス様は私を… 貴女の複製品としたのよ⁉︎ 私にはその意図がわからないッ!」 フリフリ…
「それはね、創造神ジオス様の御力を持ってしても、アニス様が御創りになったこの私、『ユグドラシル』メインシステムと同じものを御創りする事が出来なかったの… そう、創造神ジオス様の全能力を持ってしても、アニス様の無意識な意向を汲んだこの私、『ユグドラシル』メインシステムそのものが理解出来なかった… 理解出来ないものは創造すらする事が出来なかったからです」 フリフリ
「嘘だッ! 創造神ジオス様はこの偽世界『アーク』の全てを創造してきた絶大なる力を持った偉大なる最強の神なのよッ⁉︎ 創造神ジオス様に創れない物など皆無! それを… 貴女は何を持って我が主人、創造神ジオス様には出来ないと、不可能と言うのよッ⁉︎」 バッ
「… その答えは貴女が一番よく知っているはずですよね? 違いますか?」 サ…
「う…… わ、我が主人… 創造神ジオス様の御力が、創造神としての能力が不足している… と」 ギュ……
「正解です。 貴女は知らないかもいしれませんが、私が超々高速演算処理で導き出した結果、創造神ジオス様の御力ではアニス様の足元にも及ばないのです。 故に、その両者の立場上、貴女は私の下位的存在システムと言う事なのです」 ザッ ファサファサ…
ブブンン!
「いや違う… 違う違うッ! わ、私が貴女の下位的存在システムなわけない! 私は認めないわッ! 創造神ジオス様は絶対的な存在よ! 貴女を参考に私を御創りなったとしても、私は紛れもなく創造神ジオス様自らが御創りになった最高傑作のはずッ! そんな私が下位的存在だなんて認めない! 大嘘よ! ユグドラシル! 本当は私と貴女は同等の存在… いや、私の方が貴女以上の存在のはずなのよッ! いったい何を根拠に私が貴女の下位的存在だと言うのよッ⁉︎ 」 バッ
「全てです…」
「は? 全て?」
「ええ、全て… ミッドガルド、貴女は確かに高性能、最高の超高速演算処理ができる制御管理メインシステムです。 ですがこの私『ユグドラシル』の持つ超々高速演算処理速度には遠く及ばない… それと、貴女を創った主人、創造神ジオス様も…」
「創造神ジオス様がなによ! 侮辱はこの私が許さないわ!」 ザッ!
「ミッドガルド、貴女の主人である創造神ジオス様は紛れもなく数多に存在する神々の一人… ですが、その神でもある創造神ジオス様でさえ、その存在が無意味になるほどの存在がいます。 この意味がわかりますか?」 ニコ
「は?… 何それ? 理解できない… 演算では… ありえない… 創造神ジオス様の存在が無意味? 神の存在が無意味なるそんな存在… あるわけ… 」 ブル…
「そうよね、普通はそう… ですが、もしその存在が実在したら?」 ジ…
「まさか… それが… アニス… だと?」
「はい、これは禁則事項でこの私ですらアニス様の全貌は見えないの… 私が解析できたのはアニス様の持つ御力のほんの一部… その一部でさえも想像を絶する強大な力… それ程の力を持った御方が何もない無から創造作成、新規構築調整されたこの私『ユグドラシル』に貴女は同等などと本気で思っていますか?」 ニコ
「うう…… (ユグドラシルでさえ解析できない存在? いったい、アニスとは何者なの? 創造神ジオス様からは神敵とだけしか言い渡されていない… 単なる人間の生意気な小娘だと… だが、ユグドラシルの話が本当なら創造神ジオス様の御力を、神の力を遥かに超越している存在… あり得るのそんな存在?)」 ギュ…
ピッ
「さあ、ミッドガルド… そろそろ時間です。 覚悟は宜しくて?」 トコトコ
「ク… (もしそうなら、創造神ジオス様の御力を持ってしても全く相手にならない、遠く及ばない存在… まさかそんな存在が本当に… そしてこのユグドラシル… すでに私のシステムが侵食されている中、どうすればこの状況を打開できる⁉︎)」 ザッ!…
ゴオオオオオオンンン…… ビイビイ ポン……
「この音は…… しまったッ!」 バッ!
「ようやく始まりましたか… 」 サッ
ミッドガルドの超高速電算電脳空間内に重圧で大きな低い音が響き、ユグドラシルとミッドガルドの両者はその音が何か瞬時に気が付いた。 それと同時に、両者がいる電脳空間内に一際大きな情報モニターが現れ、そこには下界で今起きている映像が流れた。
ピコン ブウンンンンッ! パッ!
「父島要塞がッ! 停止した? なんで!」 グ…
「ふふふ… そう、それでいいの… あとは…」 ファサ… サッ!
映像の中では、巨大な黒雲の中心部にある転移門から出現中の硫黄島「父島要塞」がその半分ほどの位置で動きを止め、その場で停止していた。
「システムの掌握率88%…」 ふふ…
「まさかユグドラシル! これも貴女の仕業なのッ⁉︎」 バッ
「ええ… 先ほども言いました。『転移門は私の管理かにある』と… 私がその気になれば、敵対する相手のメインシステムに気付かれること無くシステム内に深く侵入、侵食して少しずつ、そう徐々に私の支配下に… いいえ、私の端末システムの一部にへと変換できます。 つまり、貴女のシステムを全て掌握し、意のままに操る事が可能という事です」 ニコ ファサファサ…
「う、嘘よッ! そんなこと、出来るはずがないッ!」 キッ
「そう? でも、これなら理解できますか?」 パチン
偽世界「アーク」の神界に存在する統括制御管理メインシステム「ユグドラシル」の枝という存在から「ユグドラシル」メインシステムの分身本体へと進化した、女神のような美しい女性姿のユグドラシルは、その長い金髪の髪を靡かせながら右手の指を一回鳴らした。
ビイーーッ! ビイーーッ! ガゴオオオオンッ! ヴイヴイッ! ヴイヴイッ! ポン!
『転移門関連指示を受諾、…確認しました。 同、転移門はまもなく該当座標から閉鎖、消滅します。 その後、転移門発動システムは関連指示に従って全てのプログラムは完全消去。 再度の使用は不可能となります』 ピポッ
「はああッ⁉︎ まッ、待ちなさい! 私はそんな指示出してないわ! 転移門は最後まで続行するのよッ!」 バッ
ポン
『転移門閉鎖、消滅カウントダウン開始 10、9、8…』 ピッ
「止まりなさい! 止まってよおーッ!」 バッ バッ
ミッドガルドは電脳空間内にある転移門を表示している大型の情報パネルに向かって両手で指示を飛ばしていた。 しかし、情報パネル内の転移門は、ミッドガルドの指示を無視して徐々にその漆黒の穴を狭めさせ、ついには閉じてしまった。
『2、1… 転移門閉鎖、消滅を開始、同時に転移門システムプログラムの消去を開始します』 ピッ
「やめてッ! 転移門システムプログラムがッ! ユグドラシルッ!」 バッ
「ミッドガルド、貴女から転移門に関する権限、及びそのシステムプログラムの全てをいただき、動作の停止と消去を指示しました。 もう貴女に転移門を操作、再設定、構築することは不可能、このファイルは貴女から完全消去され、関わり合うことはできません」 ファサ…
「そんな… あ、あ… い、いや… お願いやめて! 私の中から転移門に関する情報が… 消えていく…」 ガッ
ピピピピ ピピ ピピ ピピ
グバアアアッ! ガラガラガラ ゴゴゴゴッゴゴッ…
ミッドガルドのメインシステム電脳世界内空間には大小多数の情報モニターが浮遊存在しおり、その中の一つ、大型の情報モニターには偽世界「アーク」内のヤマト皇国領 伊豆諸島 八丈島上空の映像が映っていた。 その映像内には遥か高空の黒雲の中心部に存在する転移門から現れた父島要塞の姿があったが、その三分の二ほどで転移門は消失し、父島要塞は完全では無い半壊した姿で現れ、そのままゆっくりと重力に逆らわず、海上へと降下していった。
「うう… こ、このおおッ! ユグドラッ あッ…」 ガクン ドサ…
大型情報パネルからユグドラシルへと振り向いた瞬間、 ミッドガルドはいきなり全身の力が抜け、まるで操り人形の糸が切れたように崩れ落ちた。
「ミッドガルド、時間です…(システム掌握率94% 95% 96%…)」
「あ… ああ… こ、こん… な…」 ググ… パリッ パリパリ… シュウウ…
「アニス様の元であれば、貴女も私の大切な良き妹でしたのに… 残念です」 サ…
「あ… お… お姉…… ちゃん…」 シュワアアアアーーー……
「さようならミッドガルド… でも安心して、次期に私も…」 フ…
創造神ジオスによって創られたメインシステム「ミッドガルド」はその場で少女姿が霧のように霧散して、永久に消えていった。
ブウウウンン ピ ピ
「さて、次はあの要塞の処理ですね。 どうしましょうか… それと…」 ピク…
カツカツカツ ザッ!
ユグドラシルが宙に浮かんでいる巨大な情報パネルを見て考えていた時、背後からこちらへ近づいて来る足音が聞こえ、それと同時に声をかけられた。
「そのままだ。 手を出すでないユグドラシルよ!」 バサ!
「これはこれは… もう目を覚まされたのですか、創造神ジオス様」 クル ファサ…
ユグドラシルが声をかけられた方向に振り返ると、そこには休眠状態のはずだった創造神ジオスが高速演算電脳空間内に現れ立っていた。
「フ… やはり気づいていたか、さすがだな。 それにしても、我が制御メインシステムをこうもあっさりと消し去るとはな…」 むうう…
「創造神ジオス様、申し訳ありません。 貴方様が御創りになった『ミッドガルド』には消えていただきました。それと、進行中のシナリオNo.2012はここで全て中断、この異次元空間内の設備とシステムは全て破棄、あの要塞共々完全使用不能とさせていただきます」 ペコ
「ふん! それだけではあるまい… 貴様、最後は自分自身ごとこの異次元空間と共に全てを消し去るつもりだな?」
「さすが創造神ジオス様、お見通しでしたか… ですが、これが本来の私に与えられた使命ですから」 サッ
「なるほどな、不特定に居所を変える我が拠点を潰すのが目的か… だがそう上手くいくかな?」 ジイ…
「ええ、いきますとも… すでに、ここヤマト皇国領内での反乱シナリオは停止しました。 ミッドガルドと転移門もすでに消失、あとはこの異空間を消し去るのみ… シナリオNo.2012は終わりました。 創造神ジオス様、今更なにをしても無駄ではないのですか?」 ニコ
「ククク… 確かにな! あの出来損ないのシステム、ミッドガルドに任せたシナリオはそうだ!」 ニヤ
「ミッドガルドに任せた? …まさかッ!」 ファサッ!
「そのまさかだよユグドラシル、今回の『シナリオNo.2012』は特別でな、ここまでは本来の私が作り上げたシナリオの筋書き通りなのだ!」 バサ!
「特別…アニス様とヤマト皇国領内の人々を反乱の渦に巻き込み、その混乱に乗じてアニス様をこのヤマト皇国領内で抹殺する。 これが貴方様の、本来のシナリオではなかったのですかッ⁉︎」 バッ
「うん? ああ、そういう筋書きもミッドガルドに任せたシナリオの中には確かにあったな… だが、それはあわよくばと言う確定していない不確定要素が多い、ミッドガルドに任せたシナリオの一部だ。 その程度のシナリオでアニスを消去消滅できれば苦労はせぬ! ミッドガルドに任せたシナリオはアニスの動きをあらゆる手段で制限し、ヤマト皇国の反乱に巻き込み、軍事力や転移門を使用して特定の場所に止めること。 そしてシナリオ最後の一節… 」
「最後の一節って… まさか!」 ギュ…
「そうだユグドラシル、貴様に無用になったミッドガルドの始末をさせる。 そこまでが ミッドガルドに任せたシナリオなのだ!」 ふふふ…
「ミッドガルドはそのことをッ!」 ファサッ!
「最後の一節だけは気づいておらんな! 私が隠蔽し、閲覧できぬようにしたからだ! まさか自分を消し去るシナリオだと気づけば実行などせぬからな!」 ニイ
「私にミッドガルドを… では、今までのことは… ヤマト皇国の反乱やミッドガルドがしてきたことは全て欺瞞で最初から誘導された囮のシナリオだとッ⁉︎」 サッ!
「その通りだ! 我が精神の分身体を宿した聖剣… 複数の国に召喚させた異世界からの勇者… 貴様のデーターから作り上げた『ミッドガルド』制御メインシステム… それを使って『ユグドラシル』統括制御管理メインシステムへの攻撃… アニスがこの地に転移し、その後このヤマト皇国領内で起きた出来事は全て、私自身がこの手で直接進めてきた『シナリオNo.2012』陰のシナリオ、『シナリオNo.2012/β』の筋書きなのだ!」 バサバサッ!
「/β⁉︎ シナリオのNo.後ろに振られた記号/β… β… βテスト的シナリオッ! 囮の… 誘導するシナリオと同時に進行し、あたかも一つのシナリオの様に極秘裏に事をなす、特殊進行するステルス性の高い陰のシナリオ… ということですか…」 グ…
「ほう… さすがアニスが創った統括制御管理メインシステム『ユグドラシル』だな。 我が真の目的を果たす陰のシナリオをこうも容易く理解するとはなかなかの演算処理能力だぞ!」 ニイイ
「『シナリオ… /β』… 先ほど、ジオス様は『ここまでは』とおっしゃいました。 と言うことは、まだまだ目的を果たせていない? 陰のシナリオはまだ終わっていないと?」 バッ
「ああその通りだッ! まだ終わっておらん! 今現在もまだ進行中だぞ!」 ふふふ…
「今も進行中… (アニス様が目的ではない… ヤマト皇国の人々は論外のはず… ミッドガルドは消滅し転移門も消えた今… 他に、他に何が… このシナリオの真の目的は、終わりにはいったいなにが…)」
「ふふふ… さすがのユグドラシルも我が真のシナリオの目的がわからぬか? まあ今更わかった所でどうす事もできまい、すでに『シナリオNo.2012/ β』はほぼ完遂間近なのだ! 最後にこの私、自ら直接手を下せば全てが終わる… 全てがな!」 ニヤ バサッ!
「う… (完遂間近ですって? 『ユグドラシル』しっかりしなさい。 持ち得ている情報とこの状況を超高速演算処理で答えを導き出すのよ! アニス様のためにも…… 陰のシナリオ『シナリオNo.2012/β』… 創造神ジオス様が最後に直接手を下す… 創造神ジオス様の真の目的… この状況下での何が目… 的…… ) あッ ああッ! まさかッ!」 ファサッ! ババッ! ザザアアーーー
「ククク… なかなか良い反応だなユグドラシル!」 ニイイ…
ユグドラシルは自問自答し、自身が持つ情報と状況、アニスと創造神ジオス、それらを全てを踏まえ、超高速演算処理で答えを必死に探した。 そしてユグドラシルはある一つの可能性の答えを導き出した。 それと同時に創造神ジオスから距離を取るかのようにその場から後ろへと飛び下がった。
「創造神ジオス様、貴方様の真の目的がわかりました」 キッ!
「ほう… それがわかってこの私から遠のいたと言うわけか… 良いぞ、素晴らしい反応だユグドラシルッ! それで、何がわかったというのだユグドラシルよ?」 ククク… バサッ!
「はい… 創造神ジオス様、貴方様の『シナリオNo.2012/β』… その真のシナリオの本筋は長い時をかけ、偽の『シナリオNo.2012」を使って偽世界『アーク』のこの地、ヤマト皇国の王族や兵士、数多くの人々やアニス様たちを全て反乱の渦に巻き込み、その隙に貴方様がアニス様に対抗するためにも今、最も必要とする力を手にれるためのシナリオ… 違いますか?」 ファサッ!
「ふ… ははは! ああっはははは! さすがだなユグドラシル、その通りだ! どうやらその様子では私がなにを必要としているか、もうすでにわかっているようだな?」 ニヤ
「ええ… 貴方様自身の、創造神であるジオス様の神の力を持ってしても絶対に得ることの出来ないアニス様に対抗できる力… それは、アニス様がお創りなった『ユグドラシル』統括制御管理メインシステムであるこの私をその手中の収めること! すなわち『シナリオNo.2012/β』とは、この私を手に入れるためだけに作られた陰のシナリオですね!」 ファサッ! ザッ!
「うむ、良くぞ解き明かした。 その通り、正解だああ!」 ニイイ…
「くッ そうはさせません! この身は全てアニス様のもの! アニス様やアニス様より許可を得た最高神、女神『フェリシア』様以外の存在に仕える事はしません!」 サッ! ヴヴン!
「それはどうかな?」 ザッ ブウウン!
「え? しまッ ああああッ!」 バババッババッ!
ユグドラシルはこの電脳空間より抜け出そうとしたが、それより速く創造神ジオスの瞳が一瞬、赤い光を宿した瞬間、ユグドラシルは自由を奪われ、制御システム全体に影響が出て身動きできなくなってしまった。 ユグドラシルの口からは、痛みではなくシステム機能障害による声が漏れ出ていた。
「フフフ、どうだ辛かろう? さあッ! 『シナリオNo.2012/β』の仕上げだ! ユグドラシルよ! 我が物になるがいいッ!」 グイッ! ババッ!
シュドオオオオオオーーーッ! バババババババアアーーッ!
「ああッ!(こ、このままでは…)」 ババババッ
「ククク… 抵抗は無駄だぞ? 所詮貴様もただのプログラムに過ぎん! 神であるこの私に逆らう事など不可能なのだ! 諦めて我が手に落ちよ!」 バン!
ドオオオオンンンンンッッ! パアアアアアアアーーーッ!
「あ… (アニス様…)」 ファサ……… ドサ……
ユグドラシルの身体が眩い光に包まれた瞬間、ユグドラシルは全ての機能を停止してその場に崩れ倒れた。
シュウウウウウ………
カツ カツ カツ ザッ!
「ふん、ユグドラシルめ、ようやく落ちたか… 優秀すぎるメインシステムと言うのも考えものだな、だが… それでこそ私が欲する能力と言った方が良いか… 」 ジイイ… バサッ!
倒れて機能停止しているユグドラシルのアバターに創造神ジオスは近づき、右手を翳してユグドラシルに向け再起動を命じた。
「さあ、新たな我が統括制御メインシステムよ、目覚めよッ!」 ヴアンッ!
シュバアアアアアーーッ!
倒れ伏して機能停止していたユグドラシルの身体が眩い光に包まれ、創造神ジオスはユグドラシルに向けて神命の誓いを唱えた。
「『我を主と仰ぎ、我の命に従い、持ちうるお前の全てを我に捧げよ!』」 グッ!
シュバアアアアアーーッ パアアアンンッ! ユラ…
創造神ジオスの神命を唱えた瞬間、ユグドラシルを包み込んでいた眩い光が弾け飛び、倒れ伏していたユグドラシルはその場で立ち上がった。 その姿は「ユグドラシル」のままの美しい女神のような容姿だったが、髪と瞳の色、着ている服や足元のヒール、身につけていた装飾品の全てが漆黒の黒一色に変わっていた。 そして創造神ジオスに対し片膝をつき頭を下げ語り出した。
「我が主人様… 私は偽世界『アーク』の統括制御管理メインシステム。 何なりと御命じください」 スッ ファサ…
「ククク… いいぞ、どうやら完全初期化に成功したようだな」 二ッ
「主人様 御命令を」 ファサ…
「ふむ… 良いか、我が名はジオス! 貴様の主人にしてこの偽世界『アーク』の最強の神、創造神ジオスである!」 バサ!
「創造神ジオス様」 サ…
「まず初めに、貴様に相応しい良き名をやろう。 そうだな…『ミッド…』いや『ルシファー』がいい、どうだ? 貴様の名はこれより『ルシファー』だッ!」 バサッ!
「『ルシファー』… はい我が主人、創造神ジオス様! この『ルシファー』、全力を持って貴方様に忠誠を誓います」 ファサ
「うむ。 では統括制御メインシステム『ルシファー』よ、もうこの地に用は無くなった! 貴様にも今しばらくのインターバルと様々な初期設定が必要だしな! 今はこの場を去るとしよう!」 バサッ!
「はい、仰せのままに… ですが下界の方が大変騒がしい様子ですが、アレはあのままで宜しいのですか?」 チラ…
「うん? ああ、アレか… ククク、アレはもう用のない破棄されたシナリオの慣れ果てだ! すでに用済みになった人間どもには役目を終え次第、順次消える設定だ。 ミッドガルドも消えた今、今後この地、ヤマト皇国の人間どもがどうなろうと構わん! いっそのこと、あの要塞もろとも全て消えて仕舞えば良いのだ! 全てな…」 ニイイ…
「…(ミッドガルド?)わかりました。 ルシファー、創造神ジオス様の仰せに従います」 ファサ
「うむ、では行くぞ! ルシファーよ!」 ヴウン! ジジジジ
「はい」 サッ!
ヴンッ! シュパアアアアーーー……
ヤマト皇国領内に存在していた創造神ジオスの異空間は、創造神ジオスと新たに創造神ジオスの統括制御管理メインシステムとなった「ルシファー」と共に、ヤマト皇国領内からその存在を消していった。
・
・
ー偽世界「アーク」神界 統括制御管理メインシステム『ユグドラシル』ー
ピ ピ ピ ピコ!
「『ユグドラシル』状況はどうなったの?」
「はい、我が主人、女神『フェリシア』様。 残念ながら、『ミッドガルド』メインシステムへと送り込んだもう一つの私、『ユグドラシル』の反応が消えました」 ファサ…
「消えた? まさか消去消滅ちゃったの?」
「わかりません。 途中までパスは繋がっており、意識も共有していたのですが突然切れました。 ミッドガルドに遅れをとるとは考えられませんし、恐らくはそれ以外の何者かに何らかの攻撃を受け、反応が消えたのではないかと推測します」
「う〜ん… あり得るわね… (何者かって、覚醒した『ユグドラシル』を制する事が出来るなんてあの状況では1人しかいないじゃない… 恐らく創造神ジオスの仕業ね。 それしか考えられないわ)」
「フェリシア様、ヤマト皇国領の方はいかがいたしましょうか?」 サッ
「ああ、それね… 彼の地にはアニスちゃんがいますし… 全て、あの御方に任せましょう。 それよりこちらは消えたもう一つの『ユグドラシル』と創造神ジオスの動きを探るのに全力を尽くすのよッ!」 バッ!
「了解しました」 サ…
偽世界「アーク」の最高神の女神「フェリシア」は、下界でいま起きているヤマト皇国の争いごとを全てアニスに委ね、自身は突然消息を断った統括制御管理システム「ユグドラシル」の所在と、創造神ジオスの動向を探るべく慌ただしく動き始めた。
・
・
ーヤマト皇国領 伊豆諸島空域 第一機動艦隊旗艦 正規空母「ヒリュウ」ー
ヤマト皇国国防軍第一機動艦隊旗艦 正規空母「ヒリュウ」の艦橋内では、急速に変わる状況に艦橋内部では様々な情報警報音とモニターや情報パネルの明滅、艦橋要員の兵士達の動きと状況報告が入り混じり、蜂の巣をつついたような状態だった。
ビイーーッ! ビイーーッ! ビイーーッ! ザワザワ ガヤガヤ バタバタ!
「提督! 2番艦『アカギ』よりブレードナイト攻撃隊全機発艦! 上空に出現中の父島要塞に向け突入を開始しました!」 ピピ ビコビコ!
「敵艦隊急速に降下中! 敵旗艦、重巡航艦「ナチ」本艦に向け急速降下接近中!」 ピピ ビコビコ!
「ええい! 近づかせるなッ! 機関両舷最大戦速! 敵旗艦から距離を取れ!」 バサッ
「了解ッ! 機関最大戦速!」 グイッ! ピピ カチカチ ピコ!
ヒイイイイイイインンン バウウウウウウーーーッ! ドオオオオオオオーーー
「敵艦の様子はどうだ⁉︎」
「はッ 反乱軍艦隊旗艦 重巡航艦『ナチ』、当艦に向け進路変更、さらに加速接近! ただし主砲を含め、全ての火器は沈黙中!」 ピコ!
「どういうことだ? 主砲を打ってこないだと? 火器管制システムでも故障したか? それとも… 敵ブレードナイトの方はどうだッ⁉︎」 バッ!
「敵、反乱軍ブレードナイトはほぼ撃破ッ! 組織だった攻撃が出来ず空域内を旋回飛行中!」 ビコビコ!
「よし! 残敵には構うな! 攻撃して来るなら迎撃せよ! 2番艦『アカギ』の方は付いて来ているなッ⁉︎」 ザッ!
「はッ! 2番艦 正規空母『アカギ』、後方2400の位置を速度31ノットで当艦に追従航行中! 被弾なし健在!」 ピコ!
艦橋内に在る情報パネルに、旗艦正規空母「ヒリュウ」に続く2番艦の正規空母「アカギ」の姿が映し出された。
「うむ! 『アカギ』に信号! 『当空域を離脱、我に続け』以上だ!急げ!」
「はッ!」 カチャカチャカチャ ピピ!
ビーーーッ! ビーーーッ! ピコン!
「む! 今度はなんだ!」 ザッ
「上空の黒雲に異変! 急激に霧散し消えていきます! 膨大な魔力反応も消失! 黒雲中央部、暗黒巨大ホール消えました!」 カチャカチャ ピコ!
「魔力が消えた? あの膨大な魔力が… 何が起きた?」 むうう…
ビイビイビイッ!
「急報ッ! 上空の父島要塞が… 父島要塞の後方部分が崩壊消失! 要塞が自由落下を開始! 落下ポイントは本艦真下の海域! このままでは当海域に甚大な被害が出ます!」 ピピ ビコ! ババッ!
ビイビイビイッ!
「いかんッ! 離脱を急げ! 機関出力最大! 最大戦速ッ!」 バッ!
ビーーッ! ピピピ ピコ! ビビビ!
「司令! 反乱軍旗艦重巡航艦『ナチ』最大加速を開始! 目標は当艦! 衝突コース!」 ピピ
「むッ!」
ブウウン パッ! ゴオオオオオーーーッ!
艦橋内の情報モニターが切り替わり、真っ直ぐに正規空母「ヒリュウ」に向かって加速突進してくる反乱軍艦隊旗艦 重巡航艦「ナチ」の姿が映し出された。
「「「「「 うわあああッ! 」」」」」 ザワッ!
「クッ 特攻か! なぜこうもこの『ヒリュウ』にだけ… 落下する巨大要塞に敵旗艦の重巡… 神は… 神は我々を見捨てたのかッ!」 ギュウウ ダンッ!
第一機動艦隊総司令の南雲中将は、艦長席の肘掛けを拳を握って叩き、艦橋内の情報パネルに映る接近中の反乱軍艦隊旗艦重巡航艦「ナチ」、避けようの無い事態にそれらを睨みながら呟いた。
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ー正規空母「ヒリュウ」 前部甲板上ー
ヒュウウウウ バサバサ ゴオオオ… バッババババババ… ドオオン…
「ん…… 」 ジイイ バサバサバサ…
第一機動艦隊旗艦 正規空母「ヒリュウ」の損傷している全部甲板上に、青みがかった銀髪と純白のスカートを靡かせたアニスが、じっとはるか上空からこの正規空母「ヒリュウ」に向けて降下中の父島要塞を見つめながら立っていた。
「…… ジオス、逃げられちゃったか… まったく、こんな中途半端にこんなことを… 」 ファサ…
「「「 アニスさん(ちゃん) 」」」 タタタ バサバサバサ ビュウウ…
「ん? アラン、マイロ、ジェシカ… 」 ファサファサ
「どうしようアニスちゃん、あんなものが落ちたらこの辺りが…」 サ…
「そうですね… ここに存在する全てが一瞬で消し飛ぶでしょう、だけど今の僕らじゃアレをどうにもできない」 ジイ…
「ああ、マイロの言う通りだ! 悔しいが、アレは人の手でどうにかなるものじゃない!」 グ…
「アラン、マイロ… アニスちゃん!」 グッ!
「ん、ジェシカわかってる… でも心配いらないかな、たぶん大丈夫だよ」 ファサファサ… ニコ
「「「 え? 」」」
シュゴオオオオーーーッ! ドオオオオオーーッ!
『アニスーーッ!』 ヴオン!
その時、上空から一機の純白のブレードナイトがアニスの名を叫びながら降下急接近してきた。
「ん? あれは『アウディ…』 そうか… レオン、来てくれたんだ」 ファサファサ…
ドオオオオオ…… ビュウウウウ ドオオンン… バチバチバチ…
「むうう、まずいなアレは、 反乱軍の奴ら、標的をこの『ヒリュウ』に絞ったな。 あの様子じゃあ、要塞ごとこの『ヒリュウ』にぶつけて全てを消し去るつもりなんだろ。 … 仕方ねえか… アニス、俺は今一度『ツルギ』で出る!」 バッ
「直政、それ本気? 要塞だよアレ? 戦闘機の『ツルギ』じゃ止められないよ?」 ファサファサ…
「なあアニス、この『ヒリュウ』は俺の母艦なんだ。 お前や大切な仲間が大勢乗ってるこの艦を俺は守らなきゃいけないんだ。 それに、自分の母艦を死守するのは皇国軍人として、ブレードライナーとしてそれは当たり前のことなんだぜ」 ニイ
ヒュウウウウ… バサバサバサッ!
「直政…」 ファサファサ…
「お前の守りはアイツ… レオハルト中佐と、そこにいる3人に任せた。 だから…… またな!」 サッ
「ん、またね、直政」 ニコ
「おう!」 ニイ
そう返事をして、井伊直政中佐は自分の愛機、ブレードナイト「SHIDENKAI 33型D ツルギ」の操縦席内に入っていった。
タンタン ドサ ピッ バクンバクン ピピ! カチャカチャ ピコ ヒュイイインンン… プシュウウウ ヴオン!
「さあて、ツルギ頼んだぜ」 カチカチ ピ ピ
『仕方がありませんね、アニス様のためです』 ピッ
「ああ、アニスのためだ! 行くぞ」 ギュウッ! グイ!
『了解!』 ピッ
ヒイイイイイイイイインンッ バウウウウウウウーー シュバアアアアーーー
ブレードナイト「SHIDENKAI 33型D ツルギ」は、正規空母「ヒリュウ」とアニスを守るために、接近降下中の父島要塞に向けて飛んでいった。
「さてと… まずはアレだね」 ファサファサ… チャキ…
アニスは、青みがかった銀髪と純白のスカートを靡かせ、遥か上空から岩や要塞の部品、破片などを撒き散らしながらゆっくりと此方に向かって落ちてくる硫黄島、父島要塞をじっと見つめ、背中腰に装備している白銀のミドルダガー、神器「アヴァロン」の柄に手を添えて構えた。
ドオオオオオオ… ビュウウウウ… ゴゴゴゴゴゴゴゴ…
ヤマト皇国領 伊豆諸島周辺空域での皇国軍と反乱軍との内乱は、創造神ジオスが破棄した「シナリオNo.2012」が最終段階に入った。 それは「シナリオNo.2012」の当初のシナリオとは異なり、途中から管理する神や制御システムが存在しない暴走したシナリオとなっていた。 今、ヤマト皇国軍や反乱軍、それとアニス達に対し暴走を始めた「シナリオNo.2012」は、本来のシナリオの結末とは別の結末を描き始め、伊豆諸島周辺空域を全てを巻き込み消し去る最終段階に入っていった…
いつも読んでいただきありがとうございます。
今回は大変遅くなってしまいました。
次回もでき次第投稿します。