第31話 アニスとマシュー 街道常時
ー皇国領内街道ー
アニスとマシューは、周りを警戒しながらホロ付き荷馬車の近くにやって来た。すでに野盗3人が隅の方でうずくまり冒険者も2人が負傷して倒れ、そこには3人の護衛冒険者と3人の野盗が対峙していた。
「へへへ、あと3人ださっさと終わらせっちまおうぜ!」
「おうよ、お頭たちが別の獲物を狩りに行ってる間にすませるんだ!」
野盗達はそのお頭達が、アニス達に全員倒されている事に気が付いていない、目の前の冒険者達を仕留めることしか頭になかった。冒険者達も残りの3人は必死に頑張っていた。
「目の前の3人を倒して、早くタロスたちの治療をするんだ!マキ、まだ魔法は打てるか?」
冒険者達のリーダーらしい少年が仲間に指示をしていた。
「あと数発ぐらいは打てるわ!」
「よし、機を見て打ってくれ! ダニー、一緒に切り込むぞッ!」
「わかった、マシュー、タイミングを頼む」
どうやら、このパーティーのリーダーの名前もマシューと言うらしかった。そのうちアニス達がその場所に近づき、ある程度の距離の場所で止まり様子を見ていた。
「なあマシュー、ここで見ているだけでいいのか?」
「ああ、邪魔しちゃあ悪いからな。それに、彼らも冒険者なんだ。こんな事はこれから何度も起こる、経験を積んで成長していくには手を出しちゃあいけない、それが彼らのためなんだ。だから見ているだけ、彼らから援護要請が来た時は助ける。そのため、ここら辺がベストの位置だ」
「なるほど、これは彼ら冒険者の成長の試練なんだな」
「まあ、そう言う解釈もあるな」
「ふむ、試練か.....」
「あ?な、何かするつもりじゃあねえよなあ?」
「大丈夫だ、試練なんだ。ちょっとあそこに流星弾を落とすだけだから!フフフ」
アニスが笑顔で話すとマシューが動いた。
バッ! マシューが前に出て両腕を広げアニスを止めた。
「ダメッ!ぜえったいダメだからな‼︎ お願いだからやめてくれ、死んじゃうから、それやったらみんな死んじゃうから、誰も生き残れないから」
「ダメなのか?」
「『ダメなのか?』 ではなくダメだ! 何だよその『流星弾を落とすだけだから』って、笑顔で普通そんな物、落とせねえよ!どんな凶悪魔法だ! 相手は初心冒険者達だぞ、弱いの まだ弱いから、受けきれないから、わかった?」
「ん、わかった。そうだな、まだ早いか。じゃあここで見ていようか」
マシューはホッとし冒険者達をみる、その場所にアニスの試練流星弾が落ちたらと思うと身震いした。そしてアニスを見ながら思った、(流星弾なんて魔法、帝宮魔法以上じゃあねえか。どんだけデカイ魔法が使えんだよ)と。
アニス達が少し離れた場所にいることは両社ともわかっていたが、お互い相手が目の前なので、そちらを気にする余裕はなかった。やがて冒険者側が仕掛けた。
「いくぞダニー!今だッ!」
「おう、そりゃーッ!」
2人の少年冒険者が野盗に切りかかる。それと同時にもう一人の少女冒険者が魔法を放つ。
「二人ともいくよ!炎魔法!《ファイヤー.バレット》!」 バババババッ!
2人の切込みと同時に魔法の炎のつぶてが多数野盗達を襲った。1人がリーダーに切られて倒れもう1人が炎のつぶてに当たり、大やけどをして倒れた。が、野盗も剣を振り冒険者のダニーを切りつけた。
「ぎゃあ-、き、切られたあ、ここぞゥゥ....」 バタッ!
「ぐわあ、あちい!あちあちあちッ! き、消えねえ!ぁ―ッ!...」 バタンゴロゴロゴロ
「小僧どもオオーッ!剣技!《斬波一刀》!おりゃああー」 ザンッ!
「がああー、い、いてェ―ッ!」 ブシュ―!バタッ!
「ダ、ダニィ――ッ!」
「ダニーさん!」
一瞬の間に両者に様々な事が起こった。野盗は2人倒れ、冒険者は1人が切り裂かれた。残り1人になった野盗はお頭たちを大声で呼んだ。
「お、お頭あああーーッ!こっちに来て下せえええーーッ!」
しかし当然のごとく誰も返事はしない。そこで周りを見渡した野盗はお頭達がいないことに気が付いた。
「あれ?、お頭ああ!どこ行ったんですかい?」
その質問にマシューが答える。
「もういねーよ!あとはお前だけだ!」
「な、なんだテメーらは、お頭達をどうした!」
「ん、お頭? どれがお頭だったんだ?」
「ああ〜、たぶんアニスの方に行った誰かだな」
「私の方? ん〜全部倒してしまったからなあ」
「全部倒しただあ?ふざけんなッ!フッツの兄貴は強え剣技が使えたし、お頭は強力な魔法が使えんだ、お前らみたいな奴らにやれる訳ねえだろ!」
「そうは言ってもなあ、皆一発だったしなあ」
「アニス、お前やっぱ強えわ、さっきのアイツら3人同時に倒したんだろ?」
「ん、なんか私を捕まえようとして来たのでな」
「で、魔法は〜、使って無さそうだから剣でやったのか?」
「いや、手と足を使ってこんなふうに」
アニスは身体をゆっくり動かし、野盗3人を相手にした時の動きをマシューの体に当て表現した。
「な、お前それ、『近接戦闘体術』じゃあねえか! それもえげつねええ! どれも急所一点狙いじゃあないか!」
「ん、なんだその『近接転倒体術』とは、コロコロ転がる術なのか?」
「ちがああう!転倒じゃあねえ戦闘だ戦闘ッ! どう聞いてんだよお前わあ!」
「フフッ!もちろん、わざとだあああ!」
「お願い、ちゃんと聞いて?」
「ん、わかった。すまない、で私のこれが『近接戦闘体術』だと言うのはすごい事なのか?」
「会得している奴が少ない! 今は剣と魔法の戦闘が主流だからな」
そんな会話をしている間に、残った1人の野盗は火傷で倒れていた仲間を担ぎ街道脇の林の中へ駆けて行った。
「あ、逃げた!」
「ほっとけほっとけ、あれじゃあもう何もできないさ。それよりもアイツらだ、怪我してんなぁ、」
野盗の姿が見えなくなるとマシューは冒険者達を見た。3人が怪我で倒れていて、残った冒険者の男女が介抱していた。
「おい、随分斬られてるようだが大丈夫か?」
マシューの問いかけに冒険者リーダーが返事をする。
「はい、向こうの2人は打撲と軽い切り傷で気絶しているだけですが、こいつダニーのケガが酷くて今、回復ポーションを飲ませているところです」
「ん、回復ポーション? 何だそれ?」
「アニス、お前回復ポーションを知らないのか?」
「ん、知らない。使う必要もなかったしな」
「ああ、アニスは傷負ったことが無いのか?」
「ないな!全くない」
「じゃあ教えてやる、コレは飲む傷薬だ、体力回復も兼ねている」
「ふむ、コレがねえ。何でできているんだ?」
「まあ、薬草とか色々だな」
回復ポーションを飲んだダニーが目を覚まし周りを見渡した。そこでとある所で目が止まる、そうアニスを見て固まってしまっていた。彼等のリーダー、マシューが声をかける。
「おいっ!ダニー!聞こえるか?ここが何処かわかるか?」
その質問に答えるダニー。
「ああ、聞こえる。そしてここは天国か?女神様がそこにいるッ!」
と言って、顔を赤らめてアニスを指差した。
「まだ正気じゃねえな、コイツ」 ガンッ!
少年リーダーのマシューがダニーに拳骨入れた。
「痛え!何すんだよマシュー!」
その叫び声に2人が反応する。
「「ああッ‼︎...」」
返事して2人のマシューが向き合いながら言う。
「「おまえも(あんたも)マシューって言うのか?」」
この後、他の2人の傷付いて倒れていた冒険者も、回復ポーションを飲み、傷が癒え目が覚めていた。彼等は冒険者ギルド所属のパーティーで、パーティー名は、『エンジェルベル』男3人女2人の5人組パーティーで、今回商人の護衛依頼を受けての出来事だった。雇い主の商人3人と荷馬車の同乗者2人に怪我も無く、無事に済んだのはアニス達が、たまたま近くにいたからだった。
まだ日は高かったが、野盗襲撃の後なので、ここより先のところにあるひらけた場所に野営をすることになった。アニス達も同行することにした。そう皇国の情報を商人達から得るために。
次回もでき次第投稿します。