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第307話 プログラム達の戦い

ー偽世界「アーク」制御管理システム内 電子電算、プログラム電脳世界一


ドオオオオンンンッ!  バリバリバリッ! ビシイッ! パリパリ… パリ… シュウウ……


「うう、そんな… 私の防御壁破壊プログラム、バージョン2がまったく効いてない… 攻性ウィルスも…」


シュウウウ…… ササアア…


「ふふふ… どうしましたかミッドガルド、貴女の攻撃はその程度ですか?」 ニコ


偽世界「アーク」を管理する神、最高神の女神【フェリシア・ディア・ゼルト】と創造神【ジオス・ファクタ・アイン】の両者が構築し使用する制御管理システム、「ユグドラシル」と「ミッドガルド」の双方が、電子電算、電脳世界の中で美しい女性と少女の姿をしたアバターを使ってシステム同士の戦いをしていた。


ブウウウン ブウウウンン ピコ ピコ ピピ シュウウウ…


「さすがはユグドラシルってところね… この偽世界「アーク」を制御管理しているだけのことはある… まさに鉄壁の防御…」 ギュウ…


「うふ、どうしましたか? ミッドガルド、貴女はあの創造神ジオス様がお造りなったシステムだったはず… もっともの凄いシステムかと思いましたのに、この程度の能力でもう終わりですか?」 ふふ…


「なッ! うううッ! 余裕ぶるんじゃ無いわよッ! ユグドラシルッ! なら、これはどうッ⁉︎」 キュパン!


タタタタタタ ヴュワンッ! ブブブブブ… ブウウンンン ブウウンンン ビコビコ!


ミッドガルドの周辺には、無数のプログラム因子が現れた。 やがてそれは、新型の威力のある攻性破壊ウィルスプログラムへと組み変わり、地上界に存在する昆虫、黄色と黒の模様を纏った蜂のような姿で構成され、その数は数千個体、その夥しい数の蜂を模った攻性破壊ウィルスがミッドガルドの周辺を飛び始めた。


ブブブブブ… ブウウウウンン ブウウウウンン ピコ!


「まあ、それは…」


「あは、さすがにコレは知ってるようねユグドラシル。 そうよ、私たちにとって最大級のシステム障害を引き起こすプログラム、攻性破壊ウィルス『ランサム・ビイ』、さすがに貴女でもこれを食らえばタダでは済まないわよッ!」 二ッ


ブブブブブブ ブウウン ブウウン ピ ピ


「そうね、普段ならそうでしょうね。 でもここは私が管理するシステム領域空間の一つですよ? うまくいくと良いわねミッドガルド」 ニコ


「このおッ! 調子に乗るなああッ! 攻撃開始よ『ランサム・ビイッ!』」 ピッ


ビコッ! ブババババババアアーーッ! ザアアアアアーーーッ!


ミッドガルドの周りを飛んでいた無数の蜂の姿をした攻性破壊ウィルス、「ランサム・ビイ」が、一斉にユグイドラシルが張っていた複合、マテリアル障壁の《テリオス.アスピーダ》に対し高速で飛んでいった。


ビビビビイイイイイーーッ! ドカッ! バシバシビシイッ! ブブブブブッ! ジュ… 


ミッドガルドの「ランサム・ビイ」は次々と複合、マテリアル障壁《テリオス.アスピーダ》に衝突し、その大半は衝突と同時に一瞬で消し飛んだ。 だがそんな中、消えずに障壁に刺さり、徐々に刺さった部分から侵蝕して障壁内に侵入していく数十の蜂の姿をした「ランサム・ビイ」が見られた。


ビビビイイッ! ブブブブッ! ジュワジュワ… ブウウウンンンンッ!


「そうよそこよ! ユグドラシルの張った防壁・・なんか打ち破って中に侵入し、ユグドラシルの持つすべての機能を破壊、停止させるのよッ!」 サッ!


「… 防壁・・? まだ理解していませんか… 仕方がありません… 」 ササ…


「フン! 今更何をやっても手遅れよッ! ユグドラシル、貴女もここまで… その防壁・・はもうもたないわッ! じきに『ランサム・ビイ』が穴を開け貴女を襲うッ! 防ぎようのない攻性破壊ウィルスの侵蝕攻撃が貴女の身体システムを蝕み、ユグドラシルシステムの全てが狂い停止する! どう? これで私の勝ちよッ!」 ババッ!


ビビビイイッ! ブブブブッ ブウウウンン ジュワジュワ…


「勝ちですか… ミッドガルド、貴女は私に勝ったその後、どうするおつもり?」 フフ…


「そんなの決まっているじゃない! 貴女に代わって私がこの偽世界『アーク』を管理するわ! 創造神ジオス様の名のもとに、決められたシナリオを完遂する! 創造神ジオス様の求める偽世界にすること、それが私の使命よッ!」 バッ!


「そう… 貴女がこの私に代わってこの偽世界をですか… しかも創造神ジオス様の求める世界に… うふふ… だといいですね、ミッドガルド」 ニコ


ジュワジュワ ビビビビ ブウウウン ブウウンンン! ジュワジュワ…


突き刺さっていた蜂の姿をした攻性破壊ウィルス「ランサム・ビイ」が、その姿の大半をユグドラシルの複合、マテリアル障壁内に侵入し、あと数cmほどで障壁を貫通しようとしていた。


「なによその態度、忌々しい… だけど負け惜しみを言っていられるのも今のうちよッ! ほら、もうチェックメイトよッ! ユグドラシルッ! これで貴女は終わりよ! ユグドラシル! 貴女は機能停止して消えてなくなり、システム管理の全てを私に譲渡しなさいッ!」 ギュッ!


「チェックメイトですか… ミッドガルド、貴女の要望には応えられません。 ふふ… それでは私もそろそろ… 『マクロファージ』、『ランサム・ビイ』を解析! 障壁侵蝕中のウィルスの無効化と分解消去をッ!」 ファサッ!


ヴンッ! シュバババッ! パアアンッ!  ヴィイイインン ピ ピ… ヴィイイインン ピ ピ…


『リョウカイシマシタ』 ピピ! ヴィイイインン ピ ピ…


ユグドラシルが長い金髪を靡かせ、笑みを浮かべながら右手を前に差し出して指示を唱えると、障壁に食い込んでいる「ランサム・ビイ」と、それを操作するミッドガルドとの間に直径80cmほど球体が現れた。 それは球体というより不変則に形を変えて宙に浮いた虹色に輝くシャボン玉のようだった。


「な… 何よあれ… あんなの… 私は… 知らない…」 ビクッ… ザッ…


突然現れたシャボン玉のような球体を目にして、ミッドガルドはソレが何なのか理解認識できず、後ろへと後ずさった。


「あら… ミッドガルド、貴女はその子が何なのか分かりませんの? 同じシステムなら即座に分かるはずなんですけど…」 ニコ


「わ、分かるわけないじゃないッ! そんなブヨブヨしたものッ!」 バッ!


ブウウウンン ピ ピ… ブウウウンン ピ ピ…


「そうですか… 知らないのですか、残念です… 『マクロファージ』」 フリフリ… サッ!


『カイセキシュウリョウ、「ランサム・ビイ」ノムコウカ、ブンカイショウキョサギョウニハイリマス』 ヴィイイインン! ビコッ!


ビッ! バッ! バババババッ! ビシビシッ! シュバババッ! ジュワッ シュウウウウ…


それは一瞬だった。 「マクロファージ」から障壁に刺さり、今にも貫通しようとしていた攻性破壊ウィルス「ランサム・ビイ」に向けて、無数の光の針が放たれた瞬間、すべての攻性破壊ウィルス「ランサム・ビイ」は、その構成するプログラムを分解破壊されて消えていった。


「そ、そんなバカな… 私の『ランサム・ビイ』がすべて…」 ザ…


「演算処理がなっていませんねミッドガルド、貴女の『ランサム・ビイ』はすべて、その子が処理させていただきました」 ニコ


「なによ、なんなのよそれッ!」 サッ!


「ふふふ、その子の名は『マクロファージ』、システム領域内に許可なく侵入してきた異物の全て、そうね貴女の攻性破壊ウィルスと… あれはスパイウィルスかしら? それらを瞬時に解析してそのプログラムを分解、消去を得意とする優秀なウィルスバスターです」 ニコ サッ!


ヴンッ! ピコ!


『ガイライノイブツヲタンチ、テキタイウィルストダンテイ、ハイジョヲカイシシマス』 ブウウウンン ピ ピ ビコ! シュバババッ!


バシバシビシイッ! ブウウン! ジ… ジジジ… パキンッ! パラパラパラ…


ユグドラシルが空間の一部を見つめると、そこにも「マクロファージ」から光の針が飛び、その空間に光の針によって破壊されたスパイウィルスがプログラムを破壊され、バラバラになって消えていった。


「なッ…(隠蔽侵入させているスパイウィルスに気付かれた… それを瞬時に…)」 グ…


「うふ… その子は優秀ですよ? トロイの木馬、ワームやマクロ、各種感染ファイルにスパムメール、そして… 」 フフ…


「何よッ!」


「いいえ、なんでも… ただ、貴女のシステム能力はそこまでですか? その程度では私どころかその子にも勝てませんよ?」 ニコ


「うううッ! バカにしてええッ! そんなウィルスバスターもどき、私にすればなんの障害にもならないわッ! 一瞬で消し去ってやるッ!」 ザッ!


ヴイイイイイイイッッ! ピピ パパパパパッ ビコ ビコ!


「対象は直前のウィルスバスター『マクロファージ』、プログラム解析… 対象の崩壊プログラムを形成、エイダの分解と消滅…」 ググ…


ミッドガルドは新たにプログラム因子を空中に出し、それを組み替えて対ウィルスバスタープログラムの一種、アン・インストールツールを形成していった。 それは驚くほどの速さで組み上がり、ユグドラシルの「マクロファージ」と同じ、不定形のジャボン玉のような球体として現れた。


「さすが創造神ジオス様がお造りになったミッドガルド、瞬時にその子に対抗、崩壊させるプログラムを構築しましたか…」 フフ…


ヴオオオンン パンッ! ヴヴヴヴヴヴ ウィイイイン ウィイイイン


「さあ出来たわ、行けえ『リーン・オプテクトッ!』 邪魔なアイツを、『マクロファージ』を消滅してッ!」 ブン!


ビコ! ヴオオオーーッ! ヴンヴンヴン! バシイイッ! ババババババッッ!


ミッドガルドが急造した「リーン・オプテクト」は、ユグドラシルの「マクロファージ」めがけて突進し、接触した瞬間、お互いの干渉面にて激しい放電現象が起こった。 両者はそのまま放電現象を続けながら、互いに相手を攻撃、自身は自己修復を繰り返して互いに一歩も引かなかった。 両者の能力は拮抗していた。


「そんな… 私の『リーン・オプテクト』が押しきれていない… なんで… なんでよおおッ!」 バッ!


「ふふ… ミッドガルド、先ほど私がその子のことを説明したのに、もう忘れたのですか?」 ニコ


「説明って… あッ!」


「私の『マクロファージ』は優秀ですと… 」 ファサ…


「まさか、もう…」 ギュッ!


「そのまさかですよ、『マクロファージ』はすでに、貴女の『リーン・オプテクト』を解析、対抗手段に出ています。 ただ、あの様子ですと、貴女の『リーン・オプテクト』も同じ仕様のようですね。 『マクロファージ』が貴女の『リーン・オプテクト』と対峙しているところを初めてみました」 ニコ


ドオオオオオンンン! バチバチバチ! ビビビ!  バリバリバリ!


ピポ


『ショウキョ… シュウフク… コウゲキ、ショウキョ、ショウキョ… シュウフク、シュウフク…』 ピッ


『ビ! ビビビビ ビビ… ビビビ… ビ! ビ… ビイビイビイ!』 ピッ


バリバリバリッ! ヴウウウン ヴウウウン… バチバチ!


「こ、これでは埒があかないわ…… ならばッ!」 サッ! ヴン! シュバッ!


「マクロファージ」と「リーン・オプテクト」、両方の結果が現れず、千日手のような状態になたことに、ミッドガルドは、自身のアバターの右腕全体に、新たに構築した強力な攻性ウィルスプログラム、バージョン3をまとわせてユグドラシルの張っている複合、マテリアル障壁、《テリオス.アスピーダ》めがけて直接攻撃に出た。


「これならどうよおおッ!」 ビュンッ! シュババババアーーッ!


「なるほど、そうきましたか… 確かに、貴女自身のソレならこの障壁を打ち破れなくもないですね。 ですが…《エクサノイズ.サージッ!》」 サッ!


パアアアンンッ! シュゴオオオオーーッ!


「えッ⁉︎ きゃああッ!」 ババッ! バチバチバチイッ! パリイイイインンッ!


『ビッ! ビビビ ビビイイイーーッ!』  バリバリバリッ! バシュンッ! パラパラパラ…


『ガガ… キノウ… テイ… シ……』  バリバリバリ ジジジッ! シュワッ! サササアアーー…


ユグドラシルは、自身が張った複合、マテリアル障壁の向こう側から障壁を打ち破るために突進して来るミッドガルドと、同じく障壁の向こう側で未だに対峙している「マクロファージ」「リーン・オプテクト」とに、最大級のプラズマ電磁波攻撃《エクサノイズ.サージ》を放った。


直上からの広範囲攻撃、ミッドガルドは直撃を受けて、その身はボロボロの姿になり膝をつき、「マクロファージ」と「リーン・オプテクト」は攻撃に耐えきれずにプログラム崩壊して消滅していった。 それと同時に。 ミッドガルドが忍ばせて配置していた各種侵食プログラムや攻性破壊ウィルスが至る所で同じように分解され消滅していった。


バババババ…… シュウウウウ……… パチパチ ジジ…


「そんな… 私のプログラムたちがすべて… 自身のシステム領域内でこんなことを… 」 ザッ ヨロヨロ… 


「あら、さすが創造神ジオス様のお造りになったミッドガルド、この程度では消滅しませんか…」 ファサ…


パリパリ… ジジ…


「と、当然よ! こ、この程度なんでもないわ!」 グッ! シュウウ……


ミッドガルドの体は瞬時に元のアバターの、傷ひとつない元の少女の姿へと戻っていった。


「ふふ… システムを再構成… 元の姿に戻れたようですね」 ファサ…


「ふうう… ユグドラシル! 貴女、正気なのッ!」 バッ


「はい?」


「自分のシステム領域内でこれ程の大規模な広範囲電磁波攻撃を放つなんて、偽世界『アーク』の管理システムに障害を起こすどころか貴女自身、タダじゃ済まないのよ⁉︎ それなのに、私と私の攻性プログラムを排除するために貴女の『マクロファージ』と私の『リーン・オプテクト』ごと消そうなんて… 貴女自身もシステムが崩壊して自滅してしまうのよ!」 バッ


「あら、私の心配ですか? それなら大丈夫ですよミッドガルド。 どうしてか分かりますか?」 ニコ


「あ、貴女まさか! 今の攻撃、私たちの主人である神や下界の人間たちが使う魔法でも使ったと言うのッ⁉︎」 バッ


「魔法? それこそまさかですよ、ミッドガルド… 貴女は今の状況をまったく理解していないようですね」 フルフリ


「何よ! 偉そうに!」 グッ


「ふふ… いいですか? ミッドガルド… 私も貴女も、この偽世界『アーク』では単なる管理システムの一つにすぎません」 サッ


「あ…」


「うふ、気付きましたか?」 ニコ


「じゃ、じゃあ…」


「そうです、私たちは主人あるじである神や地上に存在する人間たちのように魔法などというものは一切使用できません。 使用できるのは全て、演算により計算されたものだけです。 貴女の攻性プログラム、及び防御壁破壊プログラムとそのバージョン2を防いだのは紛れもなく、私が演算した攻性障壁プログラム… そして先ほどのプラズマ電磁波攻撃も私の演算処理によるもの… 魔力を持たない私たちシステムは魔法など使えないのですよ」 ニコ


「た、確かに私たちは…」


「つまり、この障壁や広範囲電磁波攻撃も、私のプログラム及びその演算処理があってのこと… 貴女の防壁破壊攻性ウィルスやスパイウィルス、そして貴女自身が纏った攻性ウィルス新バージョンを『マクロファージ』『リーン・オプテクト』と共に消し去り防いだのも、全てが演算処理で貴女の演算処理を上回って出来たことです」 ふふ…


「私の、私の演算処理が劣っていると…」 ギュウウ…


「いいえ… 貴女の演算処理速度はなかなかに素晴らしいものですよ。 現に、先ほどの構築して出した『ランサム・ビイ』や『リーン・オプテクト』、新バージョンの攻性ウィルス、特に貴女自身のそのアバター、即座に復元させてみた処理速度はお見事です… 普通はそこまでの速さでなかなか復元できません。 貴女は優秀ですよ」 ニコ


「誤魔化さないで! 私の演算処理が素晴らしいのならばなぜ! 私は貴女に届かないッ⁉︎ なぜ私の攻性ウィルスは、ことごとく全て阻害され消えていくのよッ⁉︎」


「ふふ… そんなこと、まだわかりませんのね…  優秀だからこそ、逆演算も容易なのですよ」 ニコ


「そ、そんな…」


「それと、先ほども言いましたわよね? ここが、『私が管理するシステム領域の一つ』だということを」 ファサ…


「だから何よ! ユグドラシル! 私はいま貴女のシステムの中、その領域内に…… 領域? ユグドラシルが管理するシステム領域の… 一つ?… ま、まさかッ⁉︎ だとするとここは、ここはユグドラシルの、貴女のシステム本体の中では… ないッ⁉︎」 バッ


「正解です。  ミッドガルド、ここは私が管理する私のシステム本体外のシステム領域の一つ、『リムーバープログラム』の領域内です」 ニコ


「リッ… 『リムーバープログラムウウッ⁉︎』 そ、そんなバカなッ! ありえない… そんなものありえないのよおッ! だってそれは! そのプログラムはッ! い、いや… いやよッ! 私はまだ消えたくないッ!」 ガクガク ペタン…


「ふふふ… さすがはミッドガルド、貴女もこのプログラムのことは知っていましたか… ですがそう、ここがそのプログラム領域の中です」 ファサ…


「う、嘘よ嘘ッ! 絶対嘘ッ! あれは理論上不可能と言われたプログラム! どんな演算処理を施しても現在に至るまで成功例はなかったはずよ!」 バッ


「ええ、確かに… 私たち管理システムどころか私の主人である最高神のフェリシア様、そしてほとんど全てを創造して作ることができる貴女の主人、創造神ジオス様でさえ、理論どまりで出来なかったプログラム… 構築は不可能とまで言われたプログラムですが、それを成功させた御方がおられるのです」 フリフリ…


「私の主人、創造神ジオス様やこの偽世界『アーク』の最高神様でさえ出来なかった事を構築に成功させた? あの『リムーバープログラム』を? いったい誰が…」


「ミッドガルド、貴女もその名を聞いたことのある御方… 【アニス】様です」 ファサ…


「なッ⁉︎ 創造神ジオス様の神敵、最優先殲滅対象人物のアニスッ⁉︎」 バッ!


「あら、アニス様って創造神ジオス様から相当恐れられているのですねえ、最優先殲滅対象人物ですか… まあ確かに、あれほどのお力を持っているのでは仕方ありません。 そう、あれほどの…」 ふふ…

          ・

          ・

          ・

ー偽世界統括管理システム「ユグドラシル」記録回路領域内メモリー1ー


ここは偽世界統括管理システム「ユグドラシル」の一番古い記録… 時はかなり遡り、「ユグドラシル」の最初の記録は、アニスと創造神ジオスとの戦いで、偽世界「アーク」は崩壊の危機に直面している所からだった。 創造神ジオスは崩壊をし始めた偽世界「アーク」を放棄逃走、それをアニスが譲り受けて完全再生、安定化をし、以前の偽世界「アーク」の歴史を引継いだまま、新たな偽世界「アーク」が動き始めた… 記録1


逃走後の創造神ジオスは、未だアニスの「アーク」世界シリーズ、異世界、新世界、偽世界のいずれかからも脱出ができず、「アーク」世界空間に閉じ込められたままで、どこか別の次元世界空間への脱出を阻むアニスを抹殺消去する為に、シナリオを数多く作っては異空間内からその全ての「アーク」世界の人々を巻き込んで実行をしている。 そして今、アニスが滞在している崩壊を免れ再生した偽世界「アーク」に、アニス消去消滅のシナリオを再び実行しようと画策している… 記録2


その再生、偽世界「アーク」の天界では最高神となったばかりの女神【ダイアナ】の為に、アニスは時々神界に来てはダイアナの手伝いをしていた。 女神ダイアナが天界にある偽世界「アーク」管理室でこれからの事を容易に進めるために… 記録3


そして、ここより映像と音声による記録が始まる… そこは直径30m、高さ20mほどの純白円形の空間、その中央に胴回り8mほどの円柱が床から天井に伸び、その表面は漆黒の大理石の様だった。 その円柱の側面の一部にコンソールと夥しいボタンのスイッチ類が並んでいた。 それは偽世界「アーク」世界制御システムのキーボードで、アニスたち2人はその側に立って、アニスはなにやらキーボードを叩いている映像からだった… 


重要機密記録再生… 1… ジジ ヴン!


カチャカチャ ピ カチャカチャ タンタン ピコ


「ふんふんふん♪」 カチャカチャ ピコピコ タンタン


「あのう、アニス様、何をなさってるのですか?」 ヒョイ…


「あれ? ダイアナ、『アニスちゃん』はやめたの?」 クル…


「はは… さすがにですねえ… 神としてけじめをと思いまして」 はは…


「ふ〜ん… 」 カチャカチャ ピピ


最高神になったばかりのダイアナは、一心不乱に鼻歌を歌いながら楽しそうに、漆黒の円柱の表面に現れる文字を見ながらブラインドタッチで、世界制御システムのキーボードを素早く叩くアニスに何をしているのか話しかけていた。


「それでこれは?」 


「ん? これ? ダイアナ1人じゃこれから大変だろうからねえ、助っ人を作ってんの」 ニコ


「助っ人ですか?」


「ん、私がいた神界世界にもあった神の補佐をする世界統括管理システムでね、『ユグドラシル』って言う最強の助っ人なんだ。 ダイアナ、君に任せた偽世界『アーク』の気候、地殻変動、その他諸々を管理補佐を完璧にこなし、ウィルスやバグにも対処できるシステムだよ。 まあ、私が作るのは『ユグドラシル』の基本ベースのみだけどね、後はダイアナ、貴女に仕上げてもらうから」 カチャカチャ ピ ピ


「はあ…」 ジイイ…


カチャカチャ ピ ピピピ タタタタ ビコビコ ブウウウンン


「ん、できた!」 カチ


ポン ピタタタタタタタタ ビコ! ヒュイイインッ!


『初めまして、私は創生世界統括管理システム「ユグドラシル」です。 管理権限者の名のもとに、これより直ちに創生世界、偽世界『アーク』の管理、調整の実行を開始します』 ポン


「ん? あれ? あッ! ミスタッチ!」 ピタ


「アニス様、どこか間違えたんですか?」


「う〜ん… 間違えたっていえばそうなんだけど… 」 


ピ ピ ピコ…   ピ ピ ピコ…


「アニス様?」


「ここ、『ユグドラシル』の管理権限者名を登録ミスしちゃったんだ」 あはは…


「管理権限者名を? それって、私以外の名を登録したということですか? では私ではこの世界管理システム『ユグドラシル』を使用できないと言うことじゃないのですか!」


「ん、そう… どうしよう、最初から組み直すしかないかな… いや、もう起動しちゃってるし、ここまで組んだのだから消すのは勿体無いしねえ…」 う〜ん


「ちなみに、誰の名前にしたんですか?」


「ん? ああ… えへへ、つい無意識に6大女神の1人、【フェリシア】の名前を打ち込んじゃったんだ」 はは…


「6大女神のフェリシアって… ええッ! あの神界最大最強の6大女神様!【フェリシア・ディア・ゼルト】様のことですかッ⁉︎」 バッ


突然、偉大な6大女神の名を聞き、女神ダイアナはアニスの両肩を掴んで叫んだ。


「うわッ! わわわ! そ、そうなんだ。 あはは…どうしよう…」 う〜ん


「笑い事じゃありません! どうするんですかこれッ⁉︎」 ギュ!


ブウウウンンンン  ブウウウンンンン ピコ ピコ ピタタタタタタタタ


「ん〜…… よしッ! ダイアナ、もうフェリシアになっちゃえ!」 ビシ!


「はあああッ⁉︎ なに言ってんですか! 無理に決まってるでしょ! だいたい私とフェリシア様とでは神格も能力も、ましてや神力や魔力の全てが全っぜん段違いなんですよ⁉︎ アニス様! わかってますかッ⁉︎」 ガシ! ユサユサ!


「あははは 揺らさないでえ… 」 ガックン ガックン ユサユサ


「はッ すみません、つい取り乱しました!」 バッ


「ふうう、まあよく聞いてダイアナ、どうせジオスのヤツは私の他に、君にも襲いかかって来るはずなんだ。 この世界を滅ぼし私を消去消滅する方法の一つとしてね」 


「私を創造神ジオスが…」


「ん、このさいだからジオスに対抗できる力を君も持つには丁度いいんだ。 いや、そう! これは計算どうりのことなんだよ! うん!」 ニコ


「それ、本当ですか? ただ自分のミスを誤魔化してません?」 ジイイ…


「ほ、本当だよ! あははは… 疑うのは良くないなあダイアナ…」 タラ〜…


「まあ確かに、これからの事を考えればそうなんですけど… アニス様、本物のフェリシア様に怒られません?」


「ん、大丈夫! なんとかなるよ! たぶんッ! さあ、そこに立って」 サッ


「は、はい(たぶんって… 不安しかないんですけど… まあアニス様がおっしゃるなら…)」 スッ


「じゃあ、始めるよ」 サッ パアアアアンンッ!


キイイイイン! シュバアアアアーーー!


「うッ!」 ギュウッ! ビリビリッ!


女神ダイアナの頭上と足元、正面と背中、そして体の左右に、光り輝く金色の魔法陣が彼女を包む様に現れた。 あまりの光の強さとその衝撃に、ダイアナは目を瞑り、両手の拳を強く握った。 そしてアニスは詠唱を始めた。


パアアアアンンン!


「レプティオン、ディーア、バベール(全てのことわりを解除)」 サッ


「ううッ!(こ、これは神語ッ! それもファースター言語ッ!)」 ギュッ


シュバアアアアーーーッ!


「リ、バウビュレート、ル、ベルシェスタ!(彼の者に悠久の力と権限を!)」 グッ!


ドオオオオオーーーッ! キラキラキラ


「アルベスト、ギルヴェスタ、リーヴェンッ!(神格と昇華躍進、相違置換遷移ッ!)」 シュン!


「ううううッ!」 ビリビリビリ! バアアアアーーッ!


キュウウウウウウンンッ!  シュバババババーーッ!


「デュレイ、リ、フェリシア・ディア・ゼルトッ!(汝、フェリシア・ディア・ゼルトッ!)」 ファサッ!


パアアアアンンンンッ! 


「こ、これは…」 シュ… ファサファサ…


眩い光が収まった瞬間、そこには女神ダイアナの姿はなく、神界世界に存在する6大女神の1人、女神フェリシア・ディア・ゼルトの姿がそこにあった。


「ん、終了! 『ユグドラシル』どう? 認識できる?」 サッ


ポン


『はいアニス様、我が主人あるじ、【フェリシア・ディア•ゼルト】と確認しました』 ピッ


「すごい… 本当に私… フェリシア様に…」 サッ サッ


「ああ、でもねダイ…じゃないフェリシア、神界世界のフェリシアほどになるにはまだまだ長い年月がかかるんだ。 でも、今の君ならジオスと対等にやれると思うよ? 今からがんばってね」 ファサ…


「はい、アニスちゃん!」 ニコ ギュッ!


「ん? ちゃん?」


「え! あ、あれ… 私なんで… さっき決めたのに… まあ、いっかな」 ササ


「ああ… そこもフェリシアに似ちゃうんだ… 」 はは…


「「 ふふふ! あははは! 」」


ピ ピ ピポ  ブウウンン ビコ!


『この方がアニス様ですか… (なんという存在… 私をゼロから作り、神の神格を自由に変えれるあの能力と力… 私の演算処理能力では全く計算できない… いや不可能なのでは? 我が主人あるじである神、フェリシア様を誕生させた能力… そしてその、フェリシア様を遥かに超えるあの力は…)』 ピピ


起動したての「ユグドラシル」には、今、自分の前で起きた出来事に、アニスの力に演算能力では計りできない事実を知った。 主人である神フェリシアのそれを遥かに超える能力と力、主人フェリシアを除き、唯一無二の存在と記録を続けた…


「ん、じゃあフェリシア、『ユグドラシル』の仕上げと調整を頼むね」 サッ


「はい、わかりましたアニスちゃん、お任せください」 ペコ


ポン


『 アニス様、及び我が主人フェリシア様、一つ申請いたしたい事があります』 ピッ


「ん?」


「『ユグドラシル』聞きましょう、なんですか?」


『はい、今現在、私はシステム起動展開中で無防備の状態です。 外敵からのウィルス攻撃や侵食攻撃に、あまりにも脆弱な状態なのです。 その防御体制を整えることを進言します』 ピッ


「ああそうね、ではすぐに対ウィルスソフトを用意しますね」 ササ カチャカチャ


フェリシアは直ぐに、対ウィルス用対策ソフトを打ち込み始めた。


「ん、そうかあ… じゃあ私は… どうしよう、何かなかったかなあ… 」 う〜ん…


ポン


『アニス様、我が主人フェリシア様が現在、対ウィルスソフトを構築、インストール中です。 しばらくはそのソフトでなんとかいたします。 数日もあれば、この私が鉄壁の防御と障壁を構築して見せます』 ピッ


「ん、でもねえ… 相手はあのジオスだよ? フェリシアが構築した対ウィルスソフトだけじゃあねえ… そうだッ!」 う〜ん… ポン!


「アニスちゃん?」 カチャカチャ ピピ


「え〜っと、あれじゃない… こうだったかなあ…」 サ ササッ!


ポ…… ヴオンッ!


アニスは何もない空間に両手で何かを書くような仕草をしながら呟いていた。 やがて、その何もない空間に一つの点から膨れ上がり、球状の光が現れ始めた。


ピコ!


『アニス様、まさかそれはッ⁉︎』 ピッ


「え? なになに?」 カチャカチャ… ピタ


「ん! 『ユグドラシル』これでどうかな?」


「え〜 アニスちゃん、なんですかこれ?」 ツンツン


『「リムーバーッ⁉︎」』 ピピ!


「ん? ああ、たしかそんな名前の代物だったね」 ニコ


「え? 『ユグドラシル』、なんですか『リムーバー』って?」


ポン


『はい、あれは… アニス様が今御創おつくりになったあの光る球状のプログラムは私たちシステム… いいえ、神によって演算とプログラム世界で構成されている、我々すべての存在を完全消去が可能な究極の演算プログラムシステムです』 ピッ


「完全消去ッ⁉︎ 神が作ったプログラムシステムを完全に消す事ができるのッ⁉︎」 バッ


フェリシアは少し後退り、アニスと出来上がった「リムーバープログラム」の球体を見た。 「神が作ったプログラムを消す」… それは自分が以前ダイアナだった頃、自分もその演算プログラムによって構成された存在だったからだ。 今はアニスによってフェリシアとなり存在してはいるが、もしかすると自分もその「リムーバープログラム」によって消されてしまうのでは無いかと予感がしたからだった。


「ふんふん♪ ついでにこれも付けちゃえッ!」 サ ササッ! ヴンッ!


アニスは、その存在に恐怖を感じるフェリシアやユグドラシルをよそに、鼻歌を歌いながら笑顔で「リムーバープログラム」の中に、さらにウィルスに対して強悪なプログラムを追加していた。


ポン


『フェリシア様、アニス様はいったい何者でしょうか? 「リムーバープログラム」は仮説上、理論上のプログラムだったはず。 本来、神のプログラムを消すことなどほぼ不可能なんです。 どんなに演算領域を大きくしても構築は不可能、たとえ出来たとしてもそれには膨大な魔力と魔素を必要と予想されています。 ですが彼の方は… アニス様はあのようなサイズで… 全く理解不能です』 ピッ


「え、ええ… 同感だわ『ユグドラシル』、この大女神になった私ですら、あれは理解不能よ! 演算では不可能なのよ。 アニスちゃんったら、どこであんなものを…」 ジイイ…


「あはは… うん、すごくいい! こんなものかな」 ふわん ふわん…


『完成したようです。 フェリシア様、扱いには十分気をつけてください』 ピッ


「当然よ! 使い方次第では私たちが消えてしまうわ」 タラ〜


「ん? フェリシア、こっちにおいでよ。 今からこれの使い方を説明するね」 ニコ


「は、はい(ひいい… 近づきたくない! 近づきたくない!)」 トコトコ


「い〜いフェリシア? これの名は『リムーバープログラム』、非常に危ないけど安心して」 サッ


「え?」


「『ユグドラシル』から聞いたとは思うけど、これは私が創った特別制… 君と『ユグドラシル』には影響を及ばさないように設定してあるから、起動しても君らには影響がないようにしてあるんだ」 ファサ…


「なッ!」


ピコ!


『アニス様、ご配慮ありがとうございます』 ピッ


「ん、ただし、これを使うのは余程の事態だけにしてね。 その判断はフェリシアと『ユグドラシル』に任せるよ」 サッ


「『 はい 』」


「それでね、この『リムーバープログラム』の仕様だけど……」 


ここで、ユグドラシルの一番古い記録映像が薄らいでいった。


あはは…… ワイワイ……… そうじゃなくて……… そう………… ピコ! 再生終了!

          ・

          ・

          ・

「ふふ… 全く愉快で偉大なお方ですね。 アニス様は…」 ニコ


「…シルッ! ユグドラシルッ!」 ザッ!


「あら失礼、少し前の記録を辿っていました… それで?」 ファサ…


「こ、この場は引いてあげるわ! でも覚悟なさい! 次に会った時こそ、貴女の機能を完全に停止して見せるわッ! ユグドラシル!」 バッ


「 … ミッドガルド、先ほども言いましたわよね。 ここがどこなのかと? 忘れましたか?」


「お、覚えているわよ! たとえここが『リムーバープログラム』の領域内であろうと脱出は可能なはず! 私の演算と移動速度なら、私自身に影響が及んでいない今のうちなら、ここから出る事など容易なはずよ!」


「脱出ですか… 逃げ切れれば、ですけどね」 ニコ


「あはは、忘れたのかしら? 私は創造神ジオス様がお造りになった制御システムなのよ! そして、ユグドラシル、既に貴女の対ウィルスプログラム『マクロファージ』は今存在しないわ、貴女自身が消し去ってしまったものね。 今、私を妨げるものはいないの! じゃあねユグドラシル」 クルッ サッ!


「『マクロファージ』ですか… いますよ、たくさん」 スッ


「え?」 クルッ


ユグドラシルは上の方を指差し、それをミッドガルドは振り返ってユグドラシルの指さす方向を見上げて見た。


「なッ⁉︎」


「ふふ、分かりましたか?」


「ま、まさか… あれが全部…」 ガクガクガク


先ほど、ゲートを潜ってこの領域に入ったとき、領域上空を多数の鳥のような存在が飛んで見えていたそれは、全てが「マクロファージ」の待機状態の姿だった。 しかも、よく見れば薄桃色に輝いていた雲は、いつの間にか動き出して、侵入して来たゲートを塞ぐ形で覆い始めた。


モコモコモコ シュワワワワワアアア


「はッ! ゲートがッ!」


慌てたがすでにゲートは薄桃色の雲に塞がれ、その姿が見えなくなって行った。 それと同時に、周辺を飛んでいた蝶のような昆虫型プログラムが ミッドガルドの周りに集まり始めた。


ひらひら パタパタ


「な、何よこれ! この鬱陶しいッ!」 バッ バッ  ひらひら


そのうちの一つが、 ミッドガルドの右足太ももに止まった。


パタパタ ピタ


「このお! 離れろ!」 バッ


ミッドガルドは右腕を上げ、足に止まった蝶の形をした昆虫型プログラムをはたき落とそうとした。


「ふふ… 終わりです」


「え?」


次の瞬間、 ミッドガルドの足に止まった蝶が小さな放電をしたと同時に爆発し、ミッドガルドの足を吹き飛ばしてしまった。


パリ パリパリ! ドオオンッ!


「きゃああ!」 バババアーー! ドサ


パラパラパラ… ジジ ジジジジ…


「うう、何が… なッ⁉︎ 足がッ! 私の足がああッ!」 バッ


ミッドガルドの右足は、蝶が止まった太腿から下が完全に無くなっていた。 だがその身体はアバター、生身の人間とは違い出血とかはなく、欠損部分からはプログラム因子と身体を構成している魔素マテリアルが、砕けたガラスのようにこぼれて落ちていた。


「あら、意外に防御処理能力が高いのですね。 足だけでしたか」 クス…


「ううう… この程度!」 サッ パアアアーー シュバッ!


ミッドガルドは即座に欠損した右足を復元した。


シュウウウウウ… パアアン!


「さすが ですねミッドガルド、瞬時に足を修復しましたか」


ひらひら パタパタ ひらひら…


「ク… この蝶の攻撃…『マクロファージ』の比ではないわ、この蝶は危険すぎる!」 グ…


小さな蝶の様な昆虫型プログラム、その正体は、アバターの身体を構成する魔素マテリアルを破壊、分解してしまう『リムーバープログラム』の対ウィルスワクチンの一つだった。 追い払っても追い払っても、 ミッドガルドの周りを飛び回り、取り付く隙をうかがっていた。


パタパタ ひらひら…


「なんなのよコイツら! どこかに行け!」 ササッ! バ バッ!


「ふふ… その子たちの名は『ニュート.フィルス』、『マクロファージ』がウィルス除去をしつつ、外敵認定したプログラムや貴女の様な存在にマークをつける。 それを目印にその子たちは強制排除に動く対ウィルス用ワクチンです」 ふふふ


「ワクチンッ⁉︎ マークッて… どこ⁉︎ どこよッ!」 ササッ!


「探しても無駄です。 マークは貴女のアバタープログラムの中に打ち込まれましたから」 フリフリ


「そ、そんな、いつの間に… じゃあ、私はもう…」 ガクン…


「ええ、逃げる事など、叶いません」 ニコ


頭上には多数の「マクロファージ」、周辺には次第に増え続ける無数の蝶の形をした昆虫型ワクチン、「ニュート.フィルス」、ここに侵入してきた時に使ったゲートは既に塞がれた。 マークを撃ち込まれ、逃げる事も叶わぬ ミッドガルドにこの領域から抜け出すことはほぼ不可能だった。


「うう… 私がユグドラシルに勝つ勝算は…」 タタタタ…


ミッドガルドはユグドラシルに対して勝算率を演算し始めた。


タタ…


「しょ… 勝算率、0.002%…」 グッ…


「ふふ… 演算は終わりましたか? さあ、今度こそ終わりにいたしましょう。 私も主人をあまり待たせるわけには行きませんから」 ファサ!


「いや… そ、そうよ! まだあるわ! これだけの広大なプログラム領域、外部アクセス端末か接続ポートが必ず何処かにあるはずだわ!」 サッ!


シュバッ! ダダダ!


ミッドガルドは、蝶形ワクチン、「ニュート.フィルス」を振り切りながら、入ってきた(ゲートとは別方向に走り出した。


「あらあら、往生際の悪い子ですね」 ファサ… シュン!


シュンシュンッ! シュバババババッ! 


「必ずあるはずよ! サービスポートが! 外部アクセス端末がこの領域のどこかにッ! この事を、ユグドラシルと『リムーバープログラム』の事を創造神ジオス様に報告しなければッ!」 タタタ キョロキョロ


ミッドガルドは、「リムーバープログラム」領域から抜け出すための脱出口、外部へと繋がるアクセスポートを探した。


シュバ タタタタ シュンシュン!


「もうッ! 相変わらずバカみたいに広い領域ね、これが全部『リムーバープログラム」の領域なのだと思うと気が気じゃないわ… こうなれば! 『ジオス様、 ミッドガルドです。 聞こえますか? ジオス様!』」 ピピ


ジ… ジジジ… ガガガガ…… ビビビ…


「ダメね… ジオス様にパスが繋がらない… 完全にこの領域が閉鎖空間となったんだわ… やはり外部アクセス端末か、接続ポートから出るしかない!」 キョロキョロ シュババババ!


ひらひら ピトッ!


「あッ! しまっ…」 バッ


ジジジ パリ! ドオオオンン!


「きゃああッ!」 ババッ! バアアアーー…


ミッドガルドは、外部アクセス端末を探すのに気を取られ、死角から近づいていた蝶形のプログラムワクチン、「ニュート.フィルス」が左腕に取り付き、爆発して左腕を上腕から失ってしまった。


シュウウ…


「うう、左腕が… さ、再生…」 シュバッ タタタ


パアアアン シュバ…


「よし、早く見つけなくては、このままではいずれ…」 タタタタ!


失っや左腕を素早く再生しながら走り、ミッドガルドは外部アクセスポートを探し回った。


シュンッ! ババッ!


「違う! ここも違う! どこ⁉︎ どこに… あッ!」 タタタ


やがて、ミッドガルドの視界に無数の光る輪が見え始めた。


「あった! 外部アクセス端末ポート! これだけの数があれば!」 バッ! タタタ!


ミッドガルドは無数の外部アクセス端末に近づき、その一つに手を伸ばしてこの「リムーバープログラム」領域から出ようとした。 


「あはは! これで私はッ!」 パン!


外部アクセス端末に触った瞬間、 ミッドガルドには予想もしなかった事態が起きた。


ポン


『ACCESS.NO』(接続できません) ピッ


「え? そんな… じゃあこれとこれは!」 サッ パン!


ポン ポン


『ACCESS.NO』『ACCESS.NO』 ピッ ピッ


「これもッ⁉︎」 バッ


ミッドガルドが触った外部アクセス端末はどれも接続拒否、外部への接続ができなかった。


「ま、まだよ! 必ずこの中のどこかにあるはずよ!」 ババババッ! パンパンパンパンッ!


ミッドガルドは無数の外部アクセス端末を手当たり次第、触り続けた。


ポポン ポン ポン ポン


『ACCESS.NO』『ACCESS.NO』『ACCESS.NO』『ACCESS.NO』ッ! ピピピピ!


「なんでよ!」 バッ!


ファサ…


「ミッドガルド、ここまでですよ」


「ユグドラシル!」 バッ!


「ふふ… この『リムーバープログラム』、その領域内に入ったが最後、貴女の運命は既に決まっていたのです。 私が指示したウィルスやプログラム、そして管理システムである貴女、『リムーバープログラム』内に存在する『マクロファージ』や『ニュート.フィルス』などによって攻撃され、やがてその存在は崩壊し消えていく… もう貴女に逃げる術はありません」 フリフリ


「そんな…… 私はまだ… まだ消えたくない…」 フリフリ ピト


ポン


『ACCESS.NO』 ピッ


「ひッ!」 ビク!


「ふふ… どこにも行けませんわよミッドガルド、貴女はここで終わるの」 ニコ


ファサ! トン カツカツ


少し空中に浮いていたユグドラシルは、「リムーバープログラム」領域内にある薄桃色の雲の上に降り立ち、その足でミッドガルドに近づいていった。


「いや… いやよいや…」 ガクガク フリフリ


「ミッドガルド、貴女がした事は我々システムにとって許し難い事なんです。 同じシステムの貴女なら、これがどう言う事か分かりますよね? 自分の主人あるじである神が管理し、その制御を任された我々システムの責務、この偽世界『アーク』に害をなす存在は全てが敵であり、システムの全機能をあげて排除する事… 」


「あッ… うう…… 」 ガクン


「理解できた様ですね… ではッ! オーダーッ!『リムーバー』に要請!」 サッ!


ピキュンッ! シュゴオオオオーーッ! ズバアアッ パアアンッ!


ユグドラシルが右手の掌を上に向け、「リムーバープログラム」に要請を出した。 するとミッドガルドの目の前に、高さ10m程もある金色の巨大な水晶体が現れた。


ヴン!


『プログラムニ従イ、マーカー目標ノ分解消去ヲ開始シマス』 ヴオン!


「ええ、お願いします。『ケーニヒス.ティーガー』」 ニコ


『了解』 ヴオン!


「なッ… あ… ああ… へ?…」 ガクガクガク


『目標ヲ補足、《ブレンチ.ディスビヴィア》』 ドオオオオオーーーーッ!


「あッ ああああーーッ!(ジ、ジオス… 様… 申し… わ… ん……)」 ジュワ……


水晶体から眩い光が放たれた瞬間、 ミッドガルドはそのアバターと共に完全分解された。 魔素マテリアルと細かなプログラム因子になって、完全に姿を消していった。


ヴン


『対象ヲ分解消去完了、マーカー目標ハ完全消滅シマシタ』 ヴオン


「ご苦労様です。 ウィルスは全て排除… 大丈夫ですね、システムオールグリーン… では私も」 ファサ… シュンッ!


ミッドガルドを完全消去、排除を確認した後、ユグドラシルもこの「リムーバープログラム」領域の中からから消え去っていった。 やがて、役目を終えた「リムーバープログラム」自体も、その領域を消していった。

          ・

          ・

ー偽世界「アーク」神界世界 制御管理室ー


ピイイーーーッ! ピコン!


「あら? ユグドラシル、どうしたの?」 サッ


ポン


『はいフェリシア様、当ユグドラシステムに侵入し、侵食と破壊行動を行いました弊害システム「ミッドガルド」の完全消去に成功しました』 ピッ


「え? もう? まだ『リムーバー』を発動してから5分しか経ってないじゃない」


『フェリシア様、私どもの電脳世界での電子戦では、5分は十分長い時間です。 そこへ「リムーバープログラム」を使用するとなればなおさらです』 ピッ


「そ、そう?  さすがねユグドラシル、 ミッドガルドは完全に消えたのね…」


『いいえフェリシア様、今回消去したのは当システムに侵入、侵食した弊害システムミッドガルド分身体のみ、創造神ジオス様の元にはオリジナルのミッドガルド本体が存在し、今現在もこちらからの攻撃は続いています』 ピッ


「あらそうなの? でもユグドラシル、貴女のことだから抜け目はないんでしょ?」 クス


『はい、創造神ジオス様自らが対峙をなさって、ややこちらが不利になってきてはいます。 ですが既に侵入経路を遡り、枝をつけてシャットダウンを行いました。 こちらがこれ以上、攻撃を受ける事はありません。 枝はやがて実もなる様にしてあります』 ピッ


「まあ、手際の良い… さすが私のユグドラシルですね」 ニコ


『この事に創造神ジオス様は気づいた様子は見受けられません。 枝はある特定条件下を満たせば実をつけ、その実も程よく効果を表すものと思われます』 ピッ


「では引き続き、監視を怠らないでね。 何かあればすぐに報告を」 サッ


『了解しました。 フェリシア様』 ピッ


こうして、電脳世界でのユグドラシルと ミッドガルドの闘いは、ユグドラシルの圧倒的勝利で終わった。

          ・

          ・

ー伊豆諸島 第一機動艦隊旗艦 正規空母「ヒリュウ」甲板上ー


「あははははは! ダメだよ『ツルギ』、君のライナーは直政なんだよ」 あはは…


ヴオン


『どうしてもダメですかアニス様』 ピッ


「ん、だめ。 お願いだから言う事を聞いてくれるかな」 てんてん


神界で電脳戦があった頃、正規空母「ヒリュウ」甲板上では、完全に機能停止して動かなくなった井伊直政中佐の機体、艦上戦闘機「SHIDENKAI 21型 H001」が、 アニスによって再び動き出した。 新たに生まれ変わった井伊直政中佐の機体は、艦上高速戦闘機、ブレードナイト「SHIDENKAI 33型D ツルギ」となって、今アニスをその肩に乗せて会話をしていた。


『仕方がありませんね。 アニス様がおっしゃるのであれば指示に従いましょう』 ピッ


「だそうだよ直政! 良かったね」 ニコ


「うるさい! どうしてくれるんだよアニス! 俺の愛機なのに、俺よりもお前に懐くとはどういう事だッ!」 バッ!


「あはは… 何でだろうねえ」 ポリポリ


「SHIDENKAI 33型D ツルギ」のライナー、井伊直政は生まれ変わった愛機の様子に叫び、それに対しアニスは頬を描きながら笑っていた。




いつも読んでいただきありがとうございます。

次回もでき次第投稿します。

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