第302話 神剣と勇者ヒカルの最後
ー第一機動艦隊旗艦 正規空母「ヒリュウ」前部甲板上ー
ドゴオオオオオオンンンンンーーーッ! バアアアアアアーーッ! メラメラ モクモク
「ア、アニスちゃーんッ!」 バッ
「ダメだスズカッ! あの炎だ、今行ってももう手遅れだ!」 ギュッ!
「そ、そんな… アニスちゃんが…」
ゴオオオオーーーッ! メラメラメラ モクモク バアアアー ジジジ…
元勇者ヒカルに襲われたアニス、神剣「エクスカリバー」によるスキル斬撃により、アニスと元勇者ヒカルの2人は眩い閃光と強烈な爆風、それに伴う灼熱の炎の中にその姿が消えていった。 勇者サトシは、激しく燃え盛る炎の中に居るであろうアニスの元へと駆け寄ろうとしていた同じ勇者のスズカの腕を掴み引き留めていた。
目の前であまりにも突然に起きた出来事に、勇者の彼らでもなす術なく、ただ呆然とその状況を見ている事しか出来なかった。 だが…
「うおおおおーーーッ! アニスーーーッ!」 シュンッ! ヒュバッ! シュバババッ!
アニスの姿が消えた爆炎の中へ、レオハルト中佐はアニスの名を叫びながら中へと飛び込んでいった。 自分が初めて愛した女性が今、目の前の炎の中にその姿を消していった… 人として、恋人としての当然の行動だった。 燃え盛る高温の炎と立ち込める煙の中を、自身に魔力障壁の防御膜をはり、その身を守りながらレオハルト中佐はアニスの姿を求めて行った…
モクモク ブワアアッ! チリチリチリ! ジジジ! メラメラ
「アニスーッ! くそ! 炎と煙が邪魔だッ! ならばッ!」 チャキッ!
ブンッ! ビシュウウーーッ! ブオン ブブブブ!
レオハルト中佐は、ブレードライナーだけが所持を許される携帯武器、ライトニングセイバーを起動して構えた。
「ウオオオオッ! 戦技ッ!《バーニング・スラストオオーーッ!》」 シュビュンッ!
ザンッ! ビュバアアアアーーーーッ! シュバッ! シュウウウウ… チリチリチリ…
「なッ⁉︎ なにあの人、なんかすごい!」
「ああ、あの炎と煙を一瞬で消し去ったあの剣技、ただ者じゃない!」
《バーニング・スラスト》、局地戦闘戦場の中で使用される剣による戦闘剣技のひとつで、周囲にいる敵兵を薙ぎ払う大技であった。 レオハルト中佐のその戦技によって、燃え盛り立ち込める高温の爆炎と煙は一瞬で吹き飛ばされ、全てを消し去ってしまった。 今回のはアニスがその場にいると想定した殺傷力のない、炎と爆炎を吹き飛ばす程度の威力を抑えた戦技だった。 だが…
「クッ! いない… アニスの姿が消えたッ⁉︎ アニスどこだッ⁉︎ アニスーーッ!」 キョロキョロ ググッ!
高温の炎と爆煙が一瞬で吹き飛ばされ消え、焼け焦げだけが辺り一面に残るその場所には、アニスと元勇者ヒカル、2人の姿はどこにも見当たらなかった。 2人がいたという気配すら消え、完全にその場から消え去っていた。
ヒュウウウウ…… バサバサバサ…
「うぐぐ! くそッ! おい、お前らッ!」 クルッ ザッ! ビュンッ! ブオン ジジジ…
アニスの姿がどこにも見当たらず、レオハルト中佐は苛立ち、その場にいた勇者のサトシとスズカの2人にライトニングセイバーを突きつけた。
「「 は、はい! 」」 ビク!
「お前ら、アニスに斬りかかったアイツの仲間かッ⁉︎ アニスに何をしたッ⁉︎ アニスをどこへやったあッ⁉︎ 素直に言ええッ!」 ギン!
アニスに襲いかかった元勇者ヒカルと顔立ちや風貌、髪の色がよく似ている勇者のサトシとスズカに、レオハルト中佐はアニスを襲った元勇者ヒカルの仲間と想定し、2人をきつく睨み語尾を荒くして尋ねた。
「ち、違います! お、俺たちはアイツの仲間なんかじゃないです!」 フリフリ
「そうよ! ヒカルは私たちの仲間なんかじゃないわ! それに、アニスちゃんがどこに行ったかなんて…」 ササッ
「ほう… アイツの名はヒカルと言うのか… それにアニスのことをちゃん付けか… お前らよく知ってるようじゃねえか、どうやら他にも色々と事情を知ってるようだな? アニスとお前らの事、お前らの知っているここまでの事を全て話せ! 事と次第によっては俺はお前らを許さねえ、この場でお前らを討つッ!」 グッ ブオンッ! ジジジ
「《鑑定》」 ボソ… グッ!
キイイン…
「なッ!(なんて魔力量なの? 私たち勇者のそれを遥かに上回っている… 本当にこの世界の人間なの? 信じられない… スキルも、加護も… あの様子だと魔法はおろか、剣技や体術、身体能力も私たち勇者の能力を上回っている… 今の私たちでは到底勝ち目の無い相手だわ…)」 ジイイ たら〜
勇者スズカは、自身が持っている召喚者の持つ特殊能力、鑑定眼で目の前にいるレオハルト中佐を鑑定した。 レオハルト中佐の保有魔力量と数多くのスキルに加護などを見て、全てが自分たち勇者のそれを遥かに上回ることに気づき冷や汗を流していた。
「おい、返事はどうなんだッ⁉︎」 ザッ! ギンッ!
「うッ こうなったら…」 グッ
「サ、サトシ… 逆らってはダメ… 私たちじゃ相手にもならない、勝てないわ」 ギュッ
「スズカ… わかりました、俺がここまで起きた経緯を、俺の知っている事の全てを話します」 ザッ
「よし! いいか、言葉には気をつけて話せよ!」 ビュン! カチ シュウウ…
「は、はいッ! では…」
勇者サトシは、この偽世界「アーク」に神によって召喚された事、この地、ヤマト皇国でアニスに出会った事、アニスに鍛え上げられた事、アニスが彼らを召喚した神と敵対している事、そしてこの戦場で、この正規空母「ヒリュウ」の甲板上で起きた事全てを、レオハルト中佐に話し始めた。
・
・
ー次元断層 異空間ー
ドゴオオオーーーンンッ! メラメラ バババアアーーッ!
シュンッ ザザアアーーッ!
「あははは! やった! やってやったぞッ!」 チャキンッ!
バアアアアーー モクモク モヤモヤ ボオオオオオオンン……
「え? なんだここは? どこだ? 空がない… 海も島も、雲も太陽も… いや、光がない! 真っ暗じゃないか、風も吹いていない… それどころか音が… 一体ここは? 空母は… 消えた? な、何もない… なんなんだここはあ!」 キョロキョロ
元勇者ヒカルがいたそこは、元いた場所とは違い、光もなく、ただ何処までもが暗闇の世界。 音も空気の流れ風さえもなく、先程までいた空母や同じ勇者サトシやスズカの姿もない… 彼は今、ただ1人の存在となっていた。
シ〜ン…
「ううう、ここはどこだ! 誰か… 誰かいないのか!」 バッ
シ〜ン…
「あ、ああ… 暗い… 暗すぎる… いやだ、こんな場所… うう、はあはあ… だ、誰か返事をしてくれよお… ここは何処なんだああッ⁉︎」 ビュンビュン!
レオハルト中佐が、剣技を用いて元勇者ヒカルの神剣「エクスカリバー」による炎と煙を吹き飛ばした頃、先程までいた正規空母「ヒリュウ」の前部甲板上の偽世界「アーク」から全くの別の場所、世界と異世界、偽世界と異次元世界の狭間の中間点、次元断層異空間に元勇者ヒカルは落ちていた。
光も音も風も何もない空間、元勇者ヒカルはそんな暗闇の世界にただ1人いた。 自分以外誰もいない暗闇の世界、その恐怖のあまり呼吸は荒くなり、誰かを求めて叫びながら神剣「エクスカリバー」を振り回していた。 その時、またしても元勇者ヒカルの頭の中に創造神ジオスの声が聞こえてきた。
『落ち着くのだ勇者ヒカル』 キイイイン…
「はッ ああ、か、神様、神様ッ!」 ピタ
『うむ… よいか、下手に動けばアニスの思う壺だぞ! とにかく冷静になるのだ!』
「はい、ですがここは? アニスの思う壺と言うことは、この状況はアイツがしでかした事なんでしょうか?」 キョロキョロ
『うむ… (だが、これは私も想定外だ… アニスがこのような次元の狭間を瞬時に作りだすとは… この私にさえ、あの瞬間に瞬時でこのような空間を作り出す所業など… いや無理だな、いかに私でもこのような所業は出来はしまい… アニスの能力とその技量、魔力、瞬時の判断力がこれほどとは… アニスの能力、いやスキルか… まだまだ私には計り知れんな!)』
創造神ジオスにもこの次元断層異空間は予想出来なかった状況だった。 全くの闇、光もない、風も吹かない、音もしない次元断層異空間、元勇者ヒカルがただ1人、前も後ろもわからない暗闇の次元断層異空間に立っていたその時、勇者ヒカルの背後から突然声が聞こえ、沈黙はいきなり破られた。
シュンッ!
「ん、さすが異世界人、創造神ジオスが召喚しただけのことはあるね、すごい剣撃だったよ」 ファサ トン…
「わあッ!」 ビクッ シュバッ! クルッ! バッ ザザアアーーーッ! チャキッ!
元勇者ヒカルのすぐ背後、いきなり何もない暗闇の空間に、アニスは青みがかった銀髪を靡かせながら静かに舞い降りた。 その声を背後から聞いた瞬間、元勇者ヒカルは驚き、前方に飛んで振り返りざまに声の主に向けて、神剣「エクスカリバー」を向けて構えた。
アニスの能力なのか、アニスが現れた瞬間、アニスを中心にある程度の範囲が明るくなり、暗闇の次元断層異空間内でアニスと勇者の2人の姿がはっきりとわかるように浮かび上がった。 だが2人の姿がわかるだけで何もない次元断層異空間、ある程度の範囲を外れると光を吸収するのか真っ暗闇のままの異空間内だった。
「へええ、さすが勇者ヒカル、いい動きだね」 ファサファサ…
「あ、アアアッ アニスッ! いつの間に僕の背後にッ⁉︎」 ザッ!
『むうう…(やはり無傷か… あの間合い、しかも油断しきっていたあの瞬間でさえもアニスに傷ひとつ与えられないとは… いかに私の呪いがアニスに有効だとしても、これでは発動しない)』
「うううッ! くそおおッ! どうやってあの場を凌いだ! あの必殺の攻撃をどうやって躱したッ! そもそもここは何処だッ! すべて答えろアニスッ!」 チャキン!
「ん? えっと… ああ、あの時ねええ…」
・
・
ー今より数刻前… 正規空母「ヒリュウ」前部甲板上ー
シュバッ! チャキンッ!
「ん?」 ファサ…
「あははははッ! 油断したなアニスッ! 神剣「エクスカリバー」の一撃、これでも喰らえええッ!」 ビュンッ!
シュバッ! ダダダーッ! チャキッ!
「ん… あの剣って…」 ファサ
「これは神様からの啓示なんだッ! この偽世界「アーク」からその姿! 完全に消し去ってしまええアニスーッ! 剣技ッ!《エクスプロージョンッ!》」 ビュンッ!
「んッ!」 シュンッ! キイイインッ!
バシイイイッ! ビキキキキッ! ドオオオオオオオーーーンンッ! ブワアアーー!
数刻前の正規空母「ヒリュウ」の前部甲板上、アニスがレオハルト中佐と出会ったその時、アニスの背後に突如として、神剣「エクスカリバー」を構えた元勇者ヒカルが現れ、アニスに向けて、神剣「エクスカリバー」での剣技、爆裂系斬撃の《エクスプロージョン》で斬りつけて来た。 その神剣による攻撃で、辺り周辺にとてつもない閃光と爆発音、そして超高温の爆炎と煙が巻き起こっていた。
一瞬の出来事に、その場に居合わせた誰もが油断し、全く反応できなかった… しかし、アニスだけは違った。 元勇者ヒカルが自身の背後に現れた瞬間からアニスの身体は反応し、元勇者ヒカルが神剣「エクスカリバー」を高速で振り下ろしながら剣技の《エクスプロージョン》を唱えた瞬間、アニスは無詠唱で極小範囲防御障壁と次元断層異空間を自分と勇者ヒカルを中心に展開した。
アニスの展開した極小範囲障壁は元勇者ヒカルの攻撃を受け止め去なし、勇者ヒカルの剣技である《エクスプロージョン》の威力の大半を覆い、レオハルト中佐や勇者のサトシとスズカ、正規空母「ヒリュウ」の艦体などに被害を出さぬように、その強大な威力を閉じ込めてしまった。 そして、元勇者ヒカルと閃光、高温の爆炎と煙とともに次元断層異空間へと消えていった。 多少の爆炎と煙をその場に残して…
ドオオオオオオオーーーーッ! バシッ! バババアアアーーッ
「アニス! アニスーーッ!」 バッ! シュバッ! ダダダダーッ!
心待ちしてやっと会えた恋人が、目の前で閃光と爆炎、煙の中に消えていった。 レオハルト中佐は普段の冷静さを失い、無我夢中でアニスがいたであろう場所に駆け寄る姿がアニスの視界の隅に見えた。
「レオン… あ…」 シュバッ
アニスがレオハルト中佐に何か言いかけたが、その途中で次元断層へと消えてしまった。
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・
ー次元断層 異空間現在ー
「あの時ッ! 僕は… 僕はお前を確実に討ち取ったはずなんだッ! 手応えもあった… お前は僕の、必殺の神剣「エクスカリバー」の直撃を受けたはずなんだあ! それなのになぜッ、お前は無傷なんだ! しかもこんな何もない空間まで… さあ、答えろアニスッ!」 チャキ!
「ん〜… 貴方の攻撃を防いだのは極小範囲防御壁の《シウス》、詠唱なしで瞬時に展開できる手軽な緊急時の防御魔法です」 ファサ… ポウゥゥ… シュパ!
アニスは元勇者ヒカルに、極小範囲防御壁、《シウス》を無詠唱で今一度張って見せた。 そしてすぐに解除した。
「緊急の… 範囲防御魔法… (あんな極小の防御魔法で僕の神剣攻撃を防ぎきったと言うのか!)ではこの暗闇の空間はなんだッ!」 バッ
「《フェイズ.フォルト》ですよ。 勇者ヒカル」 ニコ
「ふぇ…《フェイズ… シフト》? な、なんだよそれは! それは、僕らのいた世界のアニメの中での空想ごとじゃないのか⁉︎ 第一こんな暗闇の空間を作る事じゃない、出来もしない絵空事だぞッ!」 ビュンッ!
「ん?(アニメ? なんだそれ?)違いますよ、《フェイズ.フォルト》、意図的に空間の狭間、次元断層を作り、その中に異空間世界を構築して相手をそこへ引き込む、私のオリジナルスキルの一つです。 ああでも、《フェイズ.シフト》ですか… それもいい名称ですね」 ニコ
『むう…《フェイズ.フォルト》だと… 次元断層を作り、そこへ異空間を作る… アニスのオリジナルスキルか… どうやったらそんな事が可能なのか… この私でも全く理解できぬ! どうすれば出来るスキルなのだ!』
元勇者ヒカルはもちろん、創造神ジオスさえも知らない、理解できないアニスの能力… いかに創造神でも、それが理解できなければ 作り出すことは不可能だった。 《フェイズ.フォルト》は、アニス本人にしか使用ができないオリジナルスキルであった。
「次元断層を意図的に作る? 異空間を構築するだって? しかもスキルでそれを作るなんて、そんな事、僕は聞いた事も見た事もないぞッ!」 ザッ! ググッ!
「ん、そうだよねえ… 私も使ったのは初めてだから、知らないのも無理はないかな… 誰にも教えたことも見せたこともないしね」 サッ ファサ…
「は、初めて… だと?」
「ん、元々これを思いついたのは随分前、そうだねえ… ジオスが誕生したあたりかな? どうしたら周りに被害を出さずに相手の威力を封じ込めるか、創造、演算処理して構築し、スキルとして命名して保存してあったんだ。 うまく行ってよかったよ」 あはは…
「はああッ⁉︎」 ザッ
『なッ… (まさか、この私をこの空間に閉じ込める為だけのスキルなのかッ⁉︎ それを瞬時に作りだせるスキルを作ったと言うのかッ⁉︎ この新しいスキルをッ! この途方もない異空間をッ!)』
「うぐぐ… やはり神様が言った通りだ… お前は危険だ! 僕や神様にとって危険すぎる… スキルを作るだと? 神様を冒涜するその発言、その態度、僕が許さない… 僕が、この僕が神剣『エクスカリバー』でお前を完全に打ちのめしてやる! 神様に代わってその姿を完全に消滅させてやるッ!」 ギュウッ! シュバッ!
そう言うと、元勇者ヒカルはアニスに向かって、神剣「エクスカリバー」を強く握り駆け出した。
『ま、待てヒカルッ!』
「《縮地ッ!》」 シュンッ!
「ん?」
シュバババババッ! シュシュンッ! チャキッ!
「うおおおおッ! エクスカリバーッ! 僕に力を… 神の敵を、アニスを討ち滅ぼせーッ! 最強剣技ッ!《インフェルノ・ホーリーブレイドオッ!》」 ビュンッ!
キイインッ! ドゴオオオオオオオオーーーーッ!
創造神ジオスの静止を振り切り、元勇者ヒカルはアニスに向けて再び神剣「エクスカリバー」での最強剣技、《インフェルノ・ホーリーブレイド》を放ってきた。 もう勇者ではない元勇者、召喚者のヒカルにとって、今使える最大の剣技だった。
「んッ!」 スッ ファサ…
アニスは自分に向かって神剣「エクスカリバー」を振り翳し、最強剣技の《インフェルノ・ホーリーブレイド》を放ちはじめた元勇者ヒカルに向けて、右手の手のひらを向けた。
ゴオオオオオオオーーーーッ!
「あはははははッ! なんの真似だそれはッ! 僕の持っている最強の剣技だあ! 防げるものなら防いでみろ、アニスーッ!」 シュババババアーーッ! ビュンッ!
「ん、《アルテミスリング》」 キインッ!
パアアアアアアアンンンッ! ドゴオオオオオオオオンンンーーッ! ブワアアアーーーッ!
「なッ⁉︎ うわああッ! そんなバカなああああーーーッ!」 ドオオオオオーーッ! ビュンッ!
アニスは絶対防御魔法の《アルテミスリング》を展開し、元勇者、召喚者ヒカルの神剣「エクスカリバー」の最強剣技、《インフェルノ・ホーリーブレイド》の攻撃を防いでしまった。 その威力の大半が反射され、技を放った元勇者ヒカル本人に襲いかかり、元勇者、召喚者ヒカルはその威力で後方へと吹き飛ばされていった。
『ちッ 愚か者め… アニスの絶対防御魔法か、あれは誰にも突破できぬ… だからこそ不意をつけと申したのに忘れおって、馬鹿なやつだ… もうやつに利用価値はない、この場でのシナリオはここまで、終わりだな。 すでに状況は変わり、私の元から離れてあらぬ方向へと事は流れ進んでいる… これもアニスの影響か…』
バアアアア…… シュウウウウ……
「う、ううう… 痛てて… くそ!」 ズキズキ…
てくてくてく サッ
「ん、勇者ヒカル、ここまでにしませんか? このままだと貴方は…」 ファサ…
「うるさい! 僕に指図するなッ!《ヒール!》」 スクッ! バッ パアアン! シュワッ
「《ヒール…》回復系魔法ですね… 勇者ヒカル、これ以上スキルや剣技、魔法の使用はやめた方がいいですよ」
「なッ! それはどう言う意味だ! この僕に降参しろとでも言うのかッ⁉︎ この最強勇者の僕にッ!」 ザッ
「最強勇者ですか… 勇者ヒカル、いや召喚者ヒカルさん、今ならまだ間に合います。 もうやめにしませんか?」 ファサ…
「しょ、召喚者じゃない! 勇者だ! 最強勇者ヒカルだ! うおおおおッ!」 ググッ! ボウッ!
シュバアアアアアアアアーーーッ! キイイインンッ!
元勇者ヒカルは、アニスの忠告を無視して身体中から魔力を放出し、神剣「エクスカリバー」もそれに応じて青白く輝きはじめた。
「そうですか… では…」 スウウッ チャキ…
アニスもまた、背中腰に装備している神器、ミドルダガーの「アヴァロン」を抜き構えた。 だが…
「う、うう… うがあああッ! あ、ああ…」 ガシャアアアンッ! ガクン…
元勇者、召喚者ヒカルが突然苦しみ出し、神剣「エクスカリバー」を落とし、頭を両手で押さえながら膝をついて震え出した。
「ん? ああ… そうか… 召喚者ヒカルさん、貴方はもう…」 フリフリ チャキン
元勇者、召喚者ヒカルのその姿を見て、アニスは神器、ミドルダガーの「アヴァロン」を背中腰の鞘にもどした。
「ううう… 頭が… 身体中が痛い…」 ガクガクガク
「召喚者ヒカルさん…」
「うが! ア、アニス… こ、 これもお前の… うう… 仕業… か…」 うぐぐ…
「ん〜ん、召喚者ヒカルさん、貴方の体はもう、限界に至ったの… 残念ですが、貴方はもすぐ消滅する。 その身体は魔素分解され、やがて偽世界「アーク」の一部となって霧散します。」 フリフリ
「なッ… あ、ああ… なぜ… だ? お前が… 原因じゃ… 」 ガクガクガク
「私ではないです、原因はその剣、神剣「エクスカリバー」ですね」 スッ
アニスは、元勇者、召喚者ヒカルのそばに落ちている神剣「エクスカリバー」を指差した。
「し、ししし… 神剣が?… 「エクスカリバー」が… なぜ?」 ガクガク…
「それ、確かに神剣ですけど、裏の性能があるの知ってましたか?」
「う… 裏… だと?」 ググ… ガクガク
「ん、最後だから教えてあげます… その剣は紛れもなく神剣、普段使いの剣として使用する分には最強の剣の一本と言えるでしょう。 ですがその神剣、特殊攻撃や魔法攻撃の時は使用者の魔力と生命力を容赦無く奪い、それに伴って強力な力を発揮する諸刃の剣、しかも、いまだに創造神ジオスの支配下になっている。 貴方は最初から創造神ジオスに監視され、操られていたと言うことです」
「か、神様が… 僕を監視… 操られて…」 ガクガク
その時、元勇者、召喚者ヒカルのそばに落ちていた神剣「エクスカリバー」が輝き出し、いきなり宙に浮かび上がって柄を上に真っ直ぐに立地、アニスに語り出した。
ヴオオオオンッ! ボウウウウウウーーーッ! ガシャ! キイイインン!
『流石だなアニス! 気がついていたか』 キン
「やはり話せたんだ… まあ薄々とね、それよりジオス、召喚者ヒカルさんに何か言うことはない?」
「う… うう…… エ、『エクスカリバー』が… ま、まさか、神様… 」 ガクガク
『ふん、わざわざ異世界より召喚し、神剣まで持たせたと言うのに… 使えぬヤツよ… もうお前の役目は終わったのだ、我が勇者… いや、異世界人召喚者のヒカル、お前のシナリオはここまでだ』 キン
「い、いやだ… 神様… ぼ、僕はまだやれる! ま、まま… まだ戦えます… どうか… 」 ガクガクガク… チリ…
「召喚者ヒカルさん… 貴方はまだジオスを…」
『どうしたアニス? いつものように手を差し向けないのか? ほれ、勇者が、召喚者が困っておるぞ? ククク』 キン
「た、助け…て… こ、こんな… 結末… ぼ… 僕は…」 チリチリ シュワワワ……
「… ごめんね…… 」 フリフリ
神剣「エクスカリバー」から、創造神ジオスがアニスに元勇者、召喚者ヒカルを助けないのかと尋ね、催促してきた。 しかしアニスはそれに応えなかった、元勇者、召喚者ヒカル自身気がついてないようだが、彼の身体がすでに魔素分解が始まり、身体の半分ほどが透けはじめていたからだった。
手助けをするのには手遅れだった。 元勇者、召喚者ヒカルは体の痛みを感じなくなり、全ての感覚も徐々になくなり、少しづつその身体が魔素分解し散っていく… それでも意識だけははっきりしていた。 やがて、ほとんど形だけの姿になった元勇者、召喚者ヒカルに最後の時がやってきた。
「あ、ああ…… (みんな、ごめん… 僕は……)」 チリチリ… パアアア………
次元断層異空間、その暗黒の空間内で最強勇者を名乗っていた元勇者、召喚者ヒカルは姿を消した。
シュワアアアアーーー……
「さようなら… 召喚者… ん~ん、勇者ヒカルさん…」 ス… ファサファサ…
『ククク… さあ、使用済みの勇者の始末も終えた。 私も今は此処を去るとしよう… だがアニスよ、次に会う時は私の最強の手札が貴様の相手になろう。 本当の、真の最強勇者がな!』 キン スウウウッ!
「ジオス…」 ファサファサ…
元勇者、召喚者ヒカルの身体が魔素分解され、その姿が消え去ると、創造神ジオスの支配下にあった神剣「エクスカリバー」が、この次元断層異空間から何処か別の空間へ消え去ろうと、高速で飛び去った。
シュバッ! シュウウウウーーーッ! ビュンビュビュンッ!
『さて、召喚者ヒカルの膨大な魔力と数々のスキルや能力は回収した。 これを彼奴に譲渡、吸収させれば我がシナリオは完遂する! さすれば次は神界世界の神々どもだ! 奴らに私の存在を認めさせ、私が全ての神界の頂点に君臨するのだ!』 キン ビュウウウンンッ!
アニスといた場所から離れるように超高速で飛び始めた神剣「エクスカリバー」、暗闇の暗黒次元断層異空間内を1時間、2時間、更には10時間、100時間と、気が遠くなる程の長い時間を飛び続けていた。
シュバババアアアアーーー ビュウウウウンンンーーー
『おかしい… いかにアニスが作り出したものとはいえ、そろそろ空間の狭間、次元断層の綻びくらいあっても良さそうなものだ! それが全くない… どう言うことだ?』 キン シュウウウーーーッ!
「どこまで行っても無駄だよ…」 コオオン…
『なッ⁉︎』 キン ギュウウンッ ピタッ!
膨大な長い時間、飛び続けていた神剣「エクスカリバー」に向け、突然アニスの声が聞こえた。
シ〜ン……
『まさか… 今、アニスの声が…』 キン
「ん、そうだよ、話しかけたのは私です…」 コオオン…
『ぬッ! どこだッ⁉︎ どこにいるッ⁉︎ いやそもそも、あの場所から随分遠くまで来たはずだ、奴はその後を追って来たとでも言うのかッ⁉︎』 キン
「ん? 後を追う? 私はそんなことしないよ…」 コオオン…
『むう、相変わらず忌々しい語り種だ… 私は超高速で飛び続けていたのだぞ! しかも、この何も見えない暗黒の世界の中をだ! 声だけでなく姿を表せアニスッ!』 キン
「ん〜… それはちょっと無理かな、もうここは閉じてしまうからね…」 コオオン…
『な、何を言っておるのだ! ここを閉じるだと? そんな事をすればアニス、貴様も出られなくなると言うことだぞ!』 キン
「ん? 私が? その心配はないよ…」 コオオン…
『どう言う意味だ、それは!』 キン
「ん、私のスキルで出来た次元断層異空間だよ? 通常空間、元の偽世界『アーク』の世界に戻ることなんて簡単だよ? だから後は君がいるだけの、その次元断層異空間を閉じるだけ…」 コオオン…
『なッ⁉︎ では最初から、貴様は私をこの暗黒異空間に閉じ込めるつもりだったのかッ!』 キン
「ん〜… まあ成り行きかな? 偶然が重なって起きたことだね。 最初は元勇者、召喚者のヒカルさんが私に斬り掛かってくるなんて予想もしてなかったからねえ…」 コオオン…
『むうう… ではこの状況は私のシナリオが… いや、シナリオ通りなのが招いたことだと?』 キン
「ん、そうだね、えっと… そうそう、あれだよ! 『策士策に溺れる』ってやつ… だったかな?… ちょと違う? なんだっけ?」 コオオン…
『うぬぬ… またふざけた事を… 認めたくはないが、またしても、アニスにしてやられたというのか… だが、これで終わりではないぞアニスッ!』 キン
「ん、知ってるよ… 」 コオオン…
『そうか? この神剣「エクスカリバー」を他の勇者に渡せば、また違った未来があるやもしれんぞ?』 キン
「ん〜… 神剣「エクスカリバー」ねえ… それ、ただの剣じゃないよね。 神剣という形を模した一種の魔道具、魔力やスキル、さまざまな能力を回収する偽りの神剣、勇者や他の者の魔力やスキルを絶え間なく吸収する、そしてそれは全てジオス、貴方自身のものになる… 創造神ジオスの力を高める剣なんだ…」 コオオン…
『むうう… ならばどうだ、この神剣を貴様が回収すれば良いではないか? 膨大な魔力や数多くのスキルが貴様の手に入るのだぞ? ほしくはないか?』 キン
「……… いらないかな」 コオオン…
『クッ(誘いに乗らんか… なんとかこの空間から出る方法を探さねば) なぜだ?』 キン
「その神剣、呪いが封じてあるよね?」 コオオン…
『むッ⁉︎ 何のことだ?』 キン
「ふ〜ん、とぼけるんだ… まあいいかな… そろそろ此処を閉じるよ…」 コオオン…
『ふん、閉じたければ閉じるがいい… いつか、この異空間を抜け出てやる、その時に後悔するなよアニス!』 キン
「ん〜 それはどうかな…」 ゴゴゴゴ…
暗黒の次元断層異空間全体が、急に震えはじめた。 アニスがこの次元断層異空間を閉じはじめた証拠だった。
『ククク… また脅しか、はったりか? アニスよ、もうその手には乗らん!』 キン ゴゴゴゴ…
「ん〜ん、そうじゃないよ。 い〜い? 神剣「エクスカリバー」に宿った創造神ジオスの分身、精神体さん…」 ゴゴゴゴ…
『ぬッ! そこまでバレていたか…』 キン ゴゴゴッゴゴゴゴ…
「まあね、あのジオスが危険を冒してまで、本人が生身で私と対峙するなんて考えられないからねえ…」 ゴオオオ…
グラグラグラ パシイイッ! バリバリバリ ドオオオンン!
暗闇だった暗黒の次元断層異空間内に、夥しい数と強大な威力の放電現象が起こり、異空間内の大気も激しく震えはじめ、空間内に歪みも発生していた。
『むうう、空間が閉じはじめたか!』 グラグラグラ ゴゴゴゴオオオオ…
「そうだ、話の続きだけどもう時間がないね、最後に伝えておくね…」 バリバリバリ ゴゴゴオオオオオッ!
『この後に及んで何をッ!』 キン ドオオオオオッ! ビキビキ!
「私のスキルで作った次元断層異空間は数千億以上ある無数の世界と異世界の狭間の中を漂う独立した世界なんだ… この意味がわかる?…」 ドゴゴゴゴッ ドオオオンンン! バリバリ ビシイイッ!
『あッ! ああああーッ! まさか! まさかあああッ!』 キン バルバリバリッ! ビキキッ!
「そう… 閉じたら最後、もう二度と再び私や貴方の本体、ジオスに出会うことなど、未来永劫絶対にありえない… できないんだ。 ただ、いつまでも、どこまでも、どんなに時が経とうとも、そこから抜け出すことができず、ただただ無限の空間を漂うだけ…」 バキバキバキイイッ! ガガガガガガッ! ビキイッ!
『や、やめろおおおッ! アニスッ! 貴様ああああッ!』 キン バキイイッ! バリバリ!
「永遠にさようならです、神剣「エクスカリバー」…」 パン!
『うおおおおおッ………』 シュパ……
キイイイイイインンンンンッッ パシッ! ドオオオオオオオンンンンンン………
アニスのスキルで出来た次元断層異空間は、アニスが両手で一回だけ叩くと、一瞬にして消滅してしまった。 先程まで存在した次元断層異空間、そしてその中でただ一本存在する神剣「エクスカリバー」は二度と帰れない場所へと消えていった。
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ー偽世界「アーク」某所、異空間内ー
ピ ピ ピ
「うッ! 我が精神体の反応が消えた… アニスの気配はあると言うのに… またしてもアニスの仕業か? 一体何が起こったと言うのだ? 途中から精神体とのつながりも切れた後に反応だけになったが、その後に何があった? これでは何もわからん! 勇者ヒカルの気配も消えたようだが… まさか神剣と共に消滅したのか? いや、まさかな…」 バサ…
ピ ピ ピ
『シナリオNo.2011続行不能、終了破棄します。 引き続き、シナリオNo.2012の実行を準備します』 ポン
「ククク… 勇者や精神体など今はどうでも良い… さあッ アニスよシナリオはまだまだ続くぞ! 我が精神体か勇者ヒカルのどちらかがうまくやる手筈だ。 恐らく神剣での呪いをその身に受けたはず… そんな身でどこまでやれるのかな」 ニヤ
創造神ジオスにとってのセーフハウス、無数に存在する某所異空間内で、創造神ジオスはアニスと偽世界「アーク」崩壊、消失のためのシナリオを、終了と作動開始を続けていた。 だが、アニスは無傷のままで、元勇者、召喚者ヒカルと彼の精神体が乗り移っていた神剣「エクスカリバー」のどちらもが既に帰れない状態になっている事に気が付いていなかった。
ポン
『シナリオNo.2012、準備完了、実行を開始します』 ピッ
「ククク… さあ、アニス… この国、ヤマト皇国でのプロローグは終わった、本番を、そしてフィナーレと行こうじゃないか」 ニヤア…
創造神ジオスは、アニスや女神に察知されにくい、彼だけの異空間内にある空間に浮かび上がる光のパネルを見ていた。 パネル内に映る数多くのシナリオの一つが点滅し、実行を表す表示に変わったのを見てアニスに一言つぶやいていた。
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次回もでき次第投稿します。