第30話 アニスとマシュー 皇国へ
―ディアル皇国領内ー
アニスは、聖王国カルナを出て国境を越え、今はディアル皇国、国内の街道をマシューと二人で歩いている。
「なあアニス、この国のどこに行きたいんだ?」
「ん、言ってなかったか?行先は皇帝がいる、首都パルメザンと言う所だ」
「いきなり首都かよ、行ったことはあるのか?」
「ない、首都名しか知らない」
「はあ~、何の情報もなしに動くお前の行動力には頭が下がるわ!」
「マシューがそばにいれば何とかなる」
「お、その根拠はなんだ、教えろよ」
「向こうから来た面倒ごとは全部マシューに任せ、私は前に進む以上!」
「以上!じゃあねえよ、そりゃあ言葉を返せば、俺を犠牲にして先に行くって事じゃねえか!」
「ん、正解。そのとうりだマシュー、と言うことでよろしく頼む」
「ね、お願いだからパートナーとして扱ってくんない?」
「パートナーとは相手のために犠牲になるものの事じゃあないのか?」
「違う!、パートナーとはお互いを助け合い、道を進んでいくものだ!」
「助け..いるか?」
「もういい、お前と話す話題ではなかった。俺が悪かったよ」
「なるほど、助けか..例えばあれか、あんなのは助ければいいのか?」
アニスが指さした先には、ホロ付き荷馬車と護衛の冒険者風の者が5人、10人程の野盗に襲われていた。
「ありゃ、いつの間にあんなのが起きてる、気が付かなかったなあ」
「私と歩きながら話し込んでいたからな、それよりどうするんだ?」
「まあ、護衛任務中の冒険者達が居るんだ、依頼途中の割り込みの手助けはご法度なんだぜ」
「ん、そうなのか、それは知らなかった」
「まあ、アニスは冒険者になりたてだからな、知らなくて当然」
「なぜ、加勢するのはご法度なんだ?」
「ああ、中途半端に加勢すると『俺たちだけでやれた』とか『金を請求するつもりか』とか言って、終わった後にこっちにいいが駆ってくんだよ、あ~めんどくせえ」
「その口ぶりだと、経験者だな?」
「む、昔の話だ!、まだ俺が駆け出しだったころのな!」
「まあ、手を出すなっと言うのならここで見てるしかないな」
「そうだな、道 塞がってるし。あ、始めやがったぜ」
「ん、マシューここ、座って待っていようそのうち終わるんだろう?」
「まあ、終わるだろうなあって何やってんだアニス?」
「待ってる間にお茶でも飲もうと思って。はい、マシューの分」
アニスは手頃な岩に座って、腰のストレージポーチから紅茶セットを取り出し、カップに注いでマシューに差し出した。
「やっぱ感心するわ、あの状況を見ながらお茶ができる事をな!」
「ん、まあ別にお茶はついでなんだ。マシュー以外の冒険者の実力が見たいから準備しただけ」
「そうなのか、じゃあ見てようか」
「ん、でどうだ『閃光のマシュー』よ、あの者達の実力の程は?」
「なんか引っかかるがまあそうだな、う〜ん典型的な初心者冒険者だな」
「それはどこが基準なんだ」
「見りゃあわかる、陣形、連携、それと技だな、あっ!危ねえ!避けろよおそれくらい、避けて剣で斬りつけるの!あっだめだめ、腰が入ってないってえ、わからんかなあ」
「なるほど、マシューの解説があると納得だ。確かに動きがイマイチだな」
「だろう、なんか見てると焦ったくてな、こうウズウズすると言うか、イライラすると言うか、手ェ出したくなっちゃうんだよな」
「まあ言っていることは分かるが、さっきお前言ったろご法度だって。だったらここは我慢我慢だな」
アニスは紅茶をコクッと飲んでマシューに言う。その内冒険者側が不利になりつつあった。
2杯目の紅茶を注ぎ飲んでいると、野盗に動きがあった。
「なあマシュー」 コクッ
「なんだ」 ゴクッ
「野盗の奴らの何人かはこっち見てるぞ」コクコク
「ああ、見てるな、よそ見せずそっち見ろよ」ゴクッゴクン!
そう言っていると4人ほどこちらに歩いてきた。冒険者達の方はまだ苦戦ながら頑張っていた。
「マシュー、こっちに4人ほど来るぞ、なんか用があるのか?」コクン!
「ああ、あるんだろうな用事があ!、ごっそさん!美味かった。じゃあ準備するかあ」
紅茶を飲み干して、空のカップをアニスに渡すとマシューは軽い運動をし始めた。
その内野盗4人の会話が聞き取れた。
「お頭あ、やっぱり女ですぜえ!それもとびっきり上玉でさあ!」
「おう!こっちに来て正解だったな!護衛も野郎1人だし、こらあ今晩が楽しみだあ!」
何やら下品な会話をしている野盗どもは、手にそれぞれ武器を持って近付いて来た。
「アニス、奴らの目的はお前らしいぜ。どうする?」
「ん、私に?私は奴らに用はないのだが」
紅茶セットを片付けながら野盗達を見る。下品な顔でニタニタとにやけながら、こちらに近づいて来る。
「よしッ!見ていて感傷に耐えん、一撃だ!」
「いやいやちょっと待てって、なんでそうなる?」
「マシュー、奴ら聞き分けがあるか?」
「ねえな、たぶん」
「じゃあ一撃で、私がやろう、フフフ」
「あ〜っとダメ!お前、戦闘禁止!」
「なにっ!なぜだマシュー、ちょっと、ほんのちょっとだけだから」
「とにかくダメ、って言うかなんだそのちょっとだけって、お前の剣での戦闘はめちゃめちゃ強えし、魔法は威力があり過ぎるとアデルに言われてっからダメって、そのちょっとが恐えわ!」
「マシューのケチッ!」 プクッ
マシューに戦闘禁止を言われ、ほうをふくまらせるアニスを見て、(また自然にこういう表情をする、相変わらずだなぁ)と思い白笑ながら野盗の方に身体を向ける。
「ようにいさん、ちょっと横のお嬢さんを貸してくんねえかなあ?へへッ」
「ほう、だめだと言ったらどうする?」
「こうすんだよっ!」 ビュッ!
野盗の一人がマシューとの会話中に、持っていたショートソードを勢いよくマシューめがけて投げつけて来た。だがマシューはそれを避けず、自分の大剣を抜き叩き落とした。 キンッ!
「いきなりか、お前ら容赦ねえなあ」
「お、あれを弾くか、にいさんチョット腕が良いみたいだな。だがこれで終わりだ、俺の剣技であの世に行きな!」
「剣技? お前剣技が使えるのか? 見せてくれよその剣技」
マシューが相手の野盗を煽る。野盗の方もマシューが怯まないので少し焦り気味であった。
「おい、女には当てるなよ、大事な商品になるからな」
「ん、商品? マシュー、私は商品らしいぞ!」
アニスがマシューに話しかけたが、マシューの様子が少しおかしかった。
「てめえ、俺の相棒を、アニスを商品だあ⁉︎ ...ぶっ殺す!」
「うるせえ! こっちこそお前を殺し、その女をいただくぜえ‼︎ 楽しんだ後は売っ払ってやる」
プチン! マシューのどこからかそんな音が聞こえた。
「うおおおお〜、テメエら全員皆殺しだあ‼︎」
「おい、マシュー? 聞こえるかマシュー?」
マシューはアニスの言葉が聞こえてないようで、フウフウ言いながら力を溜めていく。
「ふん、キレやがって、そんな脅し文句俺らにゃあきかねえよ、こっちからいくぜえ、俺様の剣技を受けやがれえ、剣技!《ストライク.スラッシュ》‼︎」 ビュン!
マシューに絡んだ野盗の体が素早く動く、自身の剣を横なぎに振り、怒り浸透のマシューに急接近していった。
「死ねぇーいっ‼︎」 ギャリイイーンン!
野党の剣技をマシューは大剣の一振りで防いだ。その弾みで野盗だけ後ろに飛ばされた。
「ぬおッ!俺の剣技を弾くたあ、てめえ何もんだあっ!何処ぞの傭兵崩れか?」
「ふうふう!貴様の剣技など何程でもないな、次はこちらから行くぞおっ!」
「うおおおおおお!宮廷剣技!《バースト.ライドオオッ》‼︎」
マシューは大剣を肩に担ぐような体制で野盗に突っ込む。その速さは野党よりも素早く、大剣は赤く光出していた。そして瞬く間に野盗に接近、袈裟がけに剣を振り落とす。野盗も剣でそれを受けたが、防いだ剣もろとも切り裂かれてしまった。 ギンッ!ザシュウウッ!
「ガハ!」 グシャン!
マシューの剣技をお受けた野盗は、一瞬で切り倒されてしまった。
「次は誰だあ!」 チャキッ!
マシューは次の相手を探すように大剣を構え直し叫んだ。が、そこにはアニスに倒された3人の野盗達が地面に転がっていた。マシューはそれを見てアニスの方を見た。 アニスもマシューの方を見た。
「ん、私は悪くないぞ! コイツら、コイツらが勝手に倒れたんだ! いやあ、異国は怖いな!」
「な訳あるかあ! あ、れ、ほ、ど戦うなって言っただろうが!」
「いや、なんにもせず見てたんだが、マシューが戦闘中にコイツら3人がやって来て、先に襲って来たから返り討ちにしただけだ!」
それを聞いて、マシューは大剣を肩に担ぎながらアニスに近づき、頭を撫でながら言った。
「はあ、大丈夫だったか?すまん、俺が奴1人にかかりっきりになっていて、他の奴のことを忘れてた。お前に戦うなって俺が言ったんだ、言った以上は俺がお前を守らなきゃいけないんだ。無事でよかった」
「ん、私は大丈夫だ。マシューの方は大丈夫だったか?」
「ああっ! 大丈夫だ。お前の事をあんなふうに言いやがったもんだから、頭に血が昇ってしまった」
それを聞いてアニスはドキッとして胸を押さえた。
「(まただ、なんでマシューの一言に動揺する?、落ち着け!)..ふう、さて向こうは大丈夫か?」
「そうだな、あらかた終わりそうだが、冒険者が3人しか見えねえ。だが相手もあと3人だ、ちょっと見にいってみるか」
そう言うとアニスとマシューはホロ付きに馬車の方へ歩いていった。
次回もでき次第投稿します。