第285話 アニスと織田信長元帥
ーヤマト皇国 天帝居住区 地下連絡通路出口付近ー
カツカツカツ ザッ! バサバサッ!
「むうう…」 ジイイ…
「ん?」 キョトン
天帝居住区の一角、国防軍総本部との地下連絡通路の出口にて、アニスと国防軍総司令官である織田信長元帥が初めてお互いが出会い、その場で2人同時に声をかけ合った後、織田信長元帥は元帥位のマントを翻し、地下連絡通路からアニスの方へと近づきアニスを凝視した。 それにアニスは全く動じず、近づいてくる織田信長元帥に対し平然として立っていた。
ズイッ! バサッ! ギロッ!
「ふむ…(天帝様付き宮廷侍女では無さそうだな、そしてわが国の民でもない… だがしかし、この青みがかった白銀髪にこの容姿と佇まい、女神だと言われてもおかしくない… いやそれよりも 、うまく隠しているようだがこの溢れんばかりの高密度な夥しい量の魔力、そしてこの存在感… ただ者ではない、この娘… いったい何者なのだ?)」 ジイイ…
織田信長元帥は、その鋭い眼光でアニスを見てその正体を探ろうとしていた。 その様子を見ていたアニスが織田信長元帥に語りかけた。
「へええ、鑑定眼… いや魔眼?… ううん、神眼の方かな? その両目で見て、私の事はどこまでわかりましたか?」 ニコ
「ほう、わしのこの目が神眼と見極め、探っておる事に気付きおったか! 娘よ、貴様は何者だ? なぜ天帝居住区にいる? 名と訳を申せッ!」 ニイイ!
「ん、貴方こそ、相手に名を尋ねる時は自分から、そう習いませんでしたか?」
「ククク、確かにそうだ、いや失礼した。わしの名は信長ッ! このヤマト皇国の守りを天帝様より仰せつかっている国防軍総司令官、織田信長であるッ!」 ドンッ! バサバサ… ニカッ!
織田信長元帥、御年49歳、この偽世界「アーク」ではレアな能力の神眼を持ち、自信が保有する魔力も強大で、数々の武術と魔法を保持し、さらには他の者を魅了させる強力なカリスマ性を持つその姿は威風堂々、一国の国王と言っても良いほどの存在であった。 さらに、49歳という歳での国防軍総司令官に就くのは異例中の異例であった。
「ん、私はアニス、卑弥呼の友達だよ」 サッ
「なに? 天帝様と友達だと?」
「ん、そう友達、よろしくね」 ニコ
「むうう… 天帝様、卑弥呼様と友達と申したが、わしは其方のような者が天帝様、卑弥呼様と御友人だったと言う記憶がない… 天帝様、卑弥呼様を呼び捨てにする仲からして、いつ? どのような経緯でそうなったか申せッ!」 ザッ! ギラッ! ギンンッ!
織田信長元帥は、アニスに対して強力な威圧を掛けながら質問し、再びその神眼を使ってアニスを見た。
「わッ 信長さん、目が凄いよ、疲れない?」
「ぬう… (このわしの神眼と威圧にも全く動じないか… それどころか、平然とこのわしの事を名呼びか… だが不思議だな、悪い気がせぬ。 それにしても… やはり見えぬか… )」 サッ シュバッ! スウウ…
二重三重に神眼を使い、アニスを凝視しその深淵をのぞこうとしたが、アニスをどれだけ神眼で鑑定し、覗いても、全く何も見えず、何もわからなかった。 その結果の繰り返しで、織田信長元帥はアニスに対しての、神眼を使っての鑑定を辞め諦めた。
「ふッ で、あるか… すまんがアニスよ、さきほどの質問の答えを聞かせてもらえぬか?」
「ん、じゃあ、そこでお茶でも飲んで話しましょうか?」 スッ
アニスは少し離れた通路脇にある開けた場所、小型のテーブルと4脚の椅子がある小さなラウンジスペースに指差して答えた。
「で、あるか、茶か… いいだろう、だが手短にな、わしは天帝様に謁見しなくてはならぬのでな」 ザッ
「じゃあ卑弥呼も呼んで一緒にいかがですか?」
「ぬッ! 天帝様を呼びつけるだとおッ⁉︎ 」 バサッ! チャキッ! シュバアアーーッ!
織田信長元帥にとって天帝、卑弥呼は絶対的存在、その絶対的存在に対しアニスはここへ呼ぶと言ったその言動に、元帥の気に触ったのか突然怒りの表情をみせ、濃密な魔力を身体にまとって腰に帯刀していた大太刀の柄に手をそえ、アニスに対し構えた。
「ん? はああ、まったく… どうしてこの国の人はこうも短慮なのか…」 フリフリ
「ふんッ! 国の最高峰である天帝様に対しての不遜な物言い、この国の者ならば民百姓を始め、誰もがわしと同じ行動をとるわッ!」 ググッ! バババアアアーー…
「で? 信長さん、その腰の剣で私を斬るつもりですか?」
「で、あるッ!」 ザッ! ズイッ! ギラッ!
「ん、仕方がないですね…」 サッ ファサッ!
織田信長元帥が、アニスに対し帯刀していた刀を抜こうとし、またアニスもその織田信長元帥に対し向きを変え、背中腰にある神器「アヴァロン」に手をやり構え、両者が動こうとしたその瞬間寸前、2人の間に割って入った者が現れた。
「御館様! お待ち下さいッ!」 シュバッ! バババアアーーッ! ザッ! ビュウウウーーッ!
「「 ぬッ⁉︎(ん?) 」」 ピタッ!
それは織田信長元帥の配下で特別公安隊員、飛騨公安部隠密作戦隊隊長の「赤影」だった。
「むう、引け! 引かんかッ! 『赤影ッ!』 邪魔だッ!」 ザッ! バサバサ!
「いいえ引きません! 御館様! この御方、アニス様は紛うごとなき聖女! 天帝様、卑弥子様の御命の恩人であり御友人! この『赤影』、この身の全てを差し出してでも御館様を御止めしますッ!」 ザッ!
「わッ 『赤影さん』かっこいい!」 サッ
赤影は織田信長元帥の前に片膝をついた姿勢のまま、その場を動こうとはしなかった。
「むうう… で、あるか… 」 ザッ
「はッ!」 ササッ
「ふむ、赤影、お前が言うのだ間違い無いのだろう。 あい分かった、わしとて天帝様の友人、しかもその御命を救った恩人ともなれば此度は不問といたそう…」 バサッ
「御意ッ! ありがとうございます!」 バッ!
「ん、分かってもらえてよかったよ」 ニコ
だが、アニスと赤影が気を許したその一瞬、織田信長元帥は動いた。
ギラッ! ザバッ!
「ぬんッ!《天翔覇王斬ッ!》」 シュリンッ! シュバッ!
ドオオオオオオオーーーーッッ! シュバアアアアアーーッ!
「なッ⁉︎ 御館様ッ!」 バッ!
「ん!」 ファサッ!
アニスと赤影、そして織田信長元帥との距離はわずか数メートル、その超至近距離から織田信長元帥はノーモーションから帯刀していた刀を素早く抜き、一撃必殺の剣技を2人に向けて放ってきた。
「御館様ーッ!」 バッ!
「んッ!《アルテミスリングッ!》」 サッ パアアアンンッ!
襲いくる強大な魔力を持った剣技、赤影はなす術なく自身の主人に叫び声を上げた瞬間、アニスは咄嗟に絶対防御魔法、《アルテミスリング》を唱え、自身と赤影、自分達の前面にそれを展開した。
ビシイッ! ドゴオオオンンーーーーンッ! ザッパアアアアアーーーッッ!
「うぐぐぐ… なッ⁉︎ これは…」 ジジジ…
「ほううッ! 凌ぎおったか… やるではないか」 ニヤッ! バサバサバサ…
シュウウウウウ…… モヤモヤ パラパラパラ…… カラン…
「アニス様ッ!」 バッ!
「ん、赤影さん無事でよかったよ、大丈夫みたいだね」 ファサファサ… ヒュウウウ…
織田信長元帥のいきなりの一撃を、アニスはその自身オリジナル固有魔法、絶対防御魔法の《アルテミスリング》を展開し、その攻撃を防ぎきり、余裕の表情で、青みがかった白銀髪と純白のスカートを靡かせて立っていた。
「ククク… わあっははははははッ! わしの渾身の一撃を凌ぎ、防ぎおったわッ! 見事ッ!」 ザッ!
それを見た織田信長元帥は声高らかに大笑いしていた。
「御館様…」 ジッ…
「んッ!」 シュンッ!
その様子を見たアニスがその場から消えた。
「むッ⁉︎」 バッ
「アニス様ッ!」 サッ キョロキョロ
「消えおった… どこにッ!」 ザッ! バサ…
「ここだよ」 シュンッ!
「「 なにッ⁉︎ (なッ) 」」 クルッ! バサッ! バッ!
消えたアニスを探そうとした一瞬後、アニスは織田信長元帥のすぐ背後に現れた。
「ぬおッ!」 バッ バサッ! ヴン!
「この大バカちんッ!」 ブンッ!
「ふんッ!《羅漢ッ!金剛壁ッ!》」 キインッ! シュバッ! パアアンンッ!
「んッ!」 ビュバッ! シュッ!
ドカアッ! ドオオオオーーッ! ビリビリビリッ! ズザアアアーーッ!
「で、あるか、なかなか良い動きをするではないかアニスよ、今のは《縮地》か?」 ニヤ ビリビリビリ…
「ええ、貴方も流石ですね信長さん、私の《縮地》の応用技、瞬地攻撃が見えてるのですか? 防がれたのは久々です」 ニコ ファサファサ…
「ククク… さあて、どうかな」 ニイッ!
ババッ! シュンッ! ザッ スタ ヒュウウウウ…
ほんの一瞬の出来事だった。 織田信長元帥の攻撃をアニスが防いだ後、瞬時にその姿を消したと思えば一瞬後には、アニスは織田信長元帥の背後に現れ、即座に右足で元帥に蹴りの攻撃を仕掛けた。 だがそれを織田信長元帥は防御魔法を即座に発動して防御障壁を出し、アニスのその攻撃を防いでしまった。 その様子を特殊公安部隊隊長の赤影は、黒装束のマスクの中で驚きの表情で見ていた。
「な、なんて方達だ… 2人の動きが全く見えなかった… 御館様もアニス様も、どちらも人の域を越えている…」 ググ…
「むうう… 行くぞ、我が愛刀『鬼丸ッ!』」 グッ! チャキッ! シュリン ザッ! バサバサ…
「ん、頼むね『アヴァロン』」 トントン サッ! スウウッ チャキン! ファサッ…
アニスと織田信長元帥は一定の距離ぬ離れ対峙し、元帥は大太刀の「鬼丸国綱」を、アニスは背中腰にあるミドルダガーの神器「アヴァロン」を抜き、両者は構えた。
「行くぞアニスッ!」 二ッ
「ん!」 コクン
「「 《縮地ッ!》 」」 シュンッ! シュババッ!
アニスと織田信長元帥、2人は同時に高速移動術を使い、その場から姿を消した。
シュン! シュバッ! シュシャシャシャッ!
「はははッ! いいぞアニスッ! ふんッ!」 シュバッ! ビュンッ!
「ん! はッ!」 シュンッ! シュピンッ! ヒュン!
キキンッ! キュキンッ! バッ! キン! カン! ドカッ! ザザアッ!
広いとは言えない宮廷内天帝居住区通路、その限られた空間内をアニスと織田信長元帥は高速移動戦闘を行い、通路内には2人が出す高速音と、大太刀とダガーが打ち合う剣撃の鍔迫り合いの音が鳴り響いていた。
シュバババババーーッ!
「ふむ、(剣聖の称号をも持つこのわしとここまで打ち合うとは、惜しいな、男であるならばわしの部下に欲しいところだ)」 二ッ シュバッ!
シュン シュン! トン シャッ!
「ん、すごいねえ… この人、本当に強いや、もしかしたらこの偽世界の人類最強じゃないかな?」 ニコ
シュザッ! シュババババーーッ!
「頃合いで、あるか… そろそろ終わりにしようアニスッ!」 ギュウウッ! ドオオオオーーッ!
高速移動中の織田信長元帥の持つ大太刀「鬼丸国綱」から、その刀身を包むように紅蓮の魔力が可視化して現れた。
「ええ、ん? あ、不味いッ!『アヴァロンッ!』」 ギュウ! キラキラキラッ! シュバアアアアーーッ!
アニスの持つ神器ミドルダガーの「アヴァロン」も、刀身に神語であるヒエログリフが浮かび上がり、青白い魔力がその刀身から溢れ出した。
「ほう、それは神剣の類であったか、おもしろい! このわしの愛刀『鬼丸』と勝負だっ!」 シュバッ!
「… ん」 チャキ! シュンッ!
シュババババッ! ザザッ!
「ぬんッ! 《神羅万象ッ! 仙華ッ!》」 チャキ ブンッ! シュドオオオオーーッ!
「わあッ! 神級撃滅剣技ッ!《アルテナ.グラン.リッパーッ!》」 シュヒンッ! ビュンッ!
ギュウワアアアアーーッ! ギャキイインッ! ビシイッ! ドゴオオオオオンンンーーッ!
織田信長元帥の最強広範囲殲滅剣技とアニスの神級撃滅剣技がぶつかり合った。
ズバババアアアアーーッ! ビシビシッ!
「ぐうううッ! こ、これほどとは… なッ⁉︎」 ピキッ! パキッ!
「ん、ごめんね、信長さん」 ニコ グイッ!
バキイインッ! ドカアアアアーーーッ! バアアアアアアーーッ! ビュホオオオオーー…
「ぐはああッ!」 ドザザザザアアアアーーーッッ!
織田信長元帥の愛刀「鬼丸国綱」は、アニスの持つミドルダガーの「アヴァロン」と当初は互角の勝負をしていたが、お互いの最強剣技を放った瞬間、「鬼丸国綱」は「アヴァロン」の威力に押し負け、その刀身にヒビが入った瞬間、「鬼丸国綱」の刀身は折れ、織田信長元帥は咄嗟に両腕をクロスにして自身の身をその衝撃波から守った。
しかし、アニスによる神器ミドルダガー「アヴァロン」からなる神級撃滅剣技のその威力と衝撃波は元帥の予想を遥かに上回り、織田信長元帥は防御した両腕ごと弾かれて、その場の床に身体を引きずる様に倒れた。
アニスが放った神級撃滅剣技は、織田信長元帥の愛刀「鬼丸国綱」をへし折り、元帥の大技である《森羅万象 仙華》をも飲み込んで、天帝居住区通路の天井を突き破って遥か上空に消え去っていった。 アニスはその一撃を放った一瞬後には《縮地》を解き、何事もなかった様に動きを止め、青みがかった白銀髪と純白のスカートを靡かせて颯爽と立っていた。
シュン トン スタ ファサッ ヒラヒラ…
「御館様ーッ! アニス様ッ!」 サッ ササ
「ふう、まったくもう… こんな所であんな魔力の大技攻撃を使うかなあ、しかも喜んでるし… あんな威力の技、私はともかく、近くにいた赤影さんが無事じゃ済まないよ… ねえ?」 チャキンッ! ヒュウウウウ…
「アニス様…」
ザザッ パラパラ… ムクッ フリフリ
「むうう… ふッ まさかこのわしの愛刀が折れるとはな… しかも、防いだと思うたが、防御ごと身体を吹き飛ばされるとは… アニスか、女にしておくには勿体無いな!」 ニヤ スリスリ スクッ ザッ! パンパン
床に吹き飛ばされた織田信長元帥は、アニスから受けた攻撃の部分をさすりながら何事もなかったようにゆっくりと立ち上がり、埃で汚れた元帥位のマントを叩きながら、赤影の側に平然と立っているアニスを見ていた。
「ん? へええ…(あの一瞬で腕に魔力防壁を張って威力を軽減したんだ… さすがだね)んと、信長さんが悪いんだからね」 ビシッ!
「ククク… うむ、そうだな、すまんなアニスよ、わしなりにお前を試したかったのでな… 」 ザッ バサッ!
「ん? 試す? でもあんなの、あそこにいる赤影さんが巻き込まれたら怪我しちゃうでしょッ! 下手したら死んじゃうよ?」 バッ
「うぬ? 赤影がか? ククク… わっはははは、それなら心配はいらん! この程度なら此奴ら影どもは容易く躱せるはずだ! 死すどころか怪我すらしないぞ!」 バッ バサバサ!
「え? 本当?」 ファサ
「(いえ、今のは流石に無理です。 死にます、確実に…)」 ブンブン
アニスが赤影に聞き直すと、赤影は織田信長元帥に聞こえない小声でアニスに答え、首を振っていた。
「だよねえ… あの魔力の濃さと技の大きさ、絶対に殺しにかかってたよねえ…」 ははは…
カツカツ ザッ!
「しかし、わしの技を受け切っただけでなく愛刀をへし折り、技を吹き飛ばし、さらにはわしを防御ごと吹き飛ばすとは… お前が初めてだ、気に入ったぞアニスよッ! どうだ? わしに使えんか? 側室にしても良いぞ!」 ニカッ
「はッ?」 キョトン
「御館様ッ! そてはッ…」 バッ!
「下がれ、赤影!」 バサ!
「はッ!」 ササッ
「どうだ? アニスよ、悪いようにはせぬ! わしのものになれッ!」 ジイイ
「はああ…(まったく、どうしてこうこの国の偉い人達はみんなこうなんだ…)」 フリフリ
「アニスよ、返事はいかにッ!」 ギン!
「ん、やだ!」 ニコ
「お…… で、あるか」 むうう…
「で、あるです」 ニコニコ
「くくく… うわっははははははッ! そうだ、それでこそアニスだッ! では、親しき友人ならどうだ?」 ザッ!
「ん、それならいいですよ、信長さん」
「信長で良い! お前とわしの仲だ! 呼び捨てをわしが許す!」
「いや、流石にそれは呼びにくいので信長さんでいい?」
「うむ、それで良い! それにしても、天帝様を御守りし、その御命を助けた… か、あながち聖女と言うのもまんざら嘘ではなさそうだ。 赤影ッ!」 バサッ!
「はッ 御館様ッ!」 ササッ
「さっきはすまなかった、許せ! 天帝様を、卑弥呼様をここへ御連れしろッ!」
「はッ! 紅ッ! 桃ッ!」 ササッ!
「「 はッ! 」」 シュンッ! シュバッ! ササッ!
赤影が呼ぶ声に応じて、2人の人物が、赤影の背後に現れた。
「紅影ここにッ!」 サッ
「桃影ここにッ!」 サッ
赤影の特殊公安部隊隊員であろうその2人は女性隊員で、装備も赤影たち男性隊員とは少し異なり、女性隊員らしい服装装備と、影の隊員の証である首元のマフラーが、紅色と桃色のマフラーを靡かせていた。
「御館様の御命令だ、お前たち2人で天帝様の元へと参り、ここへと御連れするのだ!」 サッ
「「 はッ! 」」 シュバッ! シュンッ!
2人は赤影の指示と同時に姿を消した。天帝居住区は男子禁制、唯一居住区に男子で入れる者は天帝から許可をもらった数人の者にかぎられていた。
「ふむ、さてアニスよ、天帝様が来られる間に少し話がしたい、よいか?」
「ん、じゃあ、あそこで」 スッ
「うむ、で、あるか」 ニヤ カツカツ ググ! ギュウッ!
「ッ‼︎(御館様ッ!)」 サッ ジッ!
テクテク ピタ クル ファサッ…
「不意打ちはもう無しですよ? 信長さん!」 チラ
「ぬ! わ、分かっておるッ!(ぬう、やはりバレたか… 仕方がない、ここは大人しくしておくか…)」 サッ カツカツ
アニスと織田信長元帥、そして特殊公安部隊「影」の隊長、赤影の三人はテーブルと椅子が四脚のある小さなラウンジスペースへと向かって行った。
・
・
ラウンジでは、アニスが織田信長元帥にこれまでの経緯を詳細に話し、特殊公安部部隊長の赤影がその都度、証明するといった具合で話をしていた。
「で、あるか… そうか創造神ジオスのシナリオか… アニスよ、お前の事情は理解した」
「ん、ジオスはまだ何かを企んでるんだ。この偽世界の人たちを操り、まるで遊戯を楽しむかの要に…」
そこへ、2人の女性特殊公安部員に守られて、天帝、卑弥呼が現れた。
コツコツコツ ファサ…
「お待たせいたしました。アニス様」 ニコ
「やあ! 今からお茶を淹れる所だったんだ、こっちこっち、ここに座って!」 ニコニコ
「はいッ! 是非ッ!」 バッ
「天帝様ッ!」 バサッ! ザッ!
「信長、その方も大義であった。 畏まらず、アニス様とご一緒にいたしましょ」 サッ
「はッ それでは」 ザッ
カチャカチャ コポコポコポ シャシャシャ サッ
「緑茶でよかったよね?」 サッ
「はい!」 サッ ゴクン…
「卑弥呼。どうですか? 美味しい?」
「ううう。美味しいですッ! アニス様ッ!」 ババッ!
「わああッ! ひ、卑弥呼落ち着いて!」 グイグイ
「…(まったく… 卑弥呼様もお茶くらいで…) 美味いッ!」
「でしょ! アニス様のお茶は何か一味違うのッ!」 ゴクン はああ…
しばらくアニスのお茶を飲んだ後、天帝、卑弥呼が織田信長元帥に語り出した。
「さて、信長、天帝居住区に来た目的を話しなさい」 ジッ
「はッ! 此度は天帝様にお願いの儀があってまかりこしました」 サッ
「へええ、信長さんより卑弥呼の方が偉いんだ」
「こほん。 あのう、アニス様…」 めッ!
「あ、ごめんねごめんね、続けて続けて」 あははは…
「んッんん! で、信長、その儀とは?」
「はッ では、『ヤマト』の出撃許可を頂きたい」 バサッ!
ダンッ! ザッ!
「『ヤマトッ!』」 ガタッ バッ ファサッ!
天帝の卑弥呼は、織田信長元帥の口から出たその名に驚き、勢いよく立ち上がった。
「ん? 『やまと?』… なんだそれ?」 うん?
アニスには、2人が語っていた名がなんの事か全くわからなかった。
ーヤマト皇国帝都「トキオ」湾岸 五稜郭要塞ー
ピー ピー ピー ガガガ ガガガ ガコオン ガコオン バチバチバチ!
「オーライ オーライ ストーップ! よし下せええ!」 ガコオオンン!
「修理作業開始、第1エンジンユニットの交換始めるぞ!」 ガンガンガン ジジジ
「「「「「 はッ! 」」」」」 ババッ!
ワイワイ ガヤガヤ バタバタ ザワザワ ダダダダッ!
ビーー ポン
『修理第4班は第1ドック第2デッキへ、資材管理第2班は第3ドックへ搬入開始せよ』 ポン
「こっちだ! こっちに応援をよこしてくれ!」 ジジジ ジジッ! ガガガ!
ポン
『第5ドック第6デッキ 駆逐艦『アサギリ』『カゲロウ』機関修理完了、試験航海出港を許可、湾内速度を厳守せよ』 ポン
「おらあッ! モタモタすんなあ! 抜錨するぞ! 舫い解けえッ!」 バッ!
「「「 了解ッ! 」」」 ババッ ダダダッ!
フィーッ! フィフィーッ! ボオオーーーッ!
ゴウンゴウンゴウン シュゴオオオーーーッ! ゴゴゴゴ
ポン
『駆逐艦『アサギリ』『カゲロウ』出港、要塞左翼第3ゲートより出港せよ』 ポン
ビーー ビーー ウイイイイン ガコオオオンン ゴゴゴゴ
ヤマト皇国の帝都「トキオ」湾岸にある五稜郭要塞は、復旧作業に要塞要員総出で動いていた。 特に要塞湾内で被弾した艦艇を優先に修理作業が進められ、修理完了した艦艇は順次試験航海へと要塞を出ていった。
「ふうう、これでやっと5隻目だな…」 フリフリ
第5ドックの修理技術責任者の柴田修理技術班長は、修理完了し、試験公開に出ていく2隻の駆逐艦に手に持った帽子を振って見送っていた。
ガガガ ガガガ ガンガン ジジ ジジジ ピッピイーーッ! ピッピイーーッ!
「班長ーッ! ちょっと手伝ってくださーいッ!」 ガコーン ガコーン
「ふうう、で、今度はどれだあーッ⁉︎」 ガンガンガン バチバチバチ!
「第2デッキの『イソカゼ』ですーッ!」 ガンガン ダダ ダダダ!
「まったく休む暇もないな… 今いくーッ!」 ザッ! ダダダッ!
修理技術責任者の柴田班長は、第2デッキに来ると、駆逐艦「イソカゼ」は艦体後方にあるサービス用プレートが外され、メインジェネレーターが丸見えになって足場が組んである作業場にやって来た。
「で、どうした?」
「リアクターには問題ないので接続したんですが起動しません。ですから機関もしどうしなくて… もう、何が悪いのか全然解らないんです」
「むう、ちょっと見せろ!」 ザッ! カンカンカン タタタ
作業用の足場を軽快よく登り、柴田班長はジェネレーターに近づき素手でそれを触り、所々を持っていたスパナで叩いて音を聞き、確認していった。
ブウウンン ブウウンン ブウウンン サワサワ スリスリ カンカン! カンカンカン!
「ん〜… ん! おい! 制御パネルのシリンダーパンパーがオンになってるのか?」 バッ!
「え? あッ!」 ダダダ ピ ピピピ タンタン ピコ!
シュヒンッ! ヴヴヴッヴヴウウウウウウーーーッ! ビコッ! ビーーーッ!
「すみません班長ッ! リアクター起動ッ! ジェネレーター正常に稼働中ッ! 機関始動開始!」 ピ
ビコビコ!
ゴウンゴウンゴウンゴウン ヒイイイイイイ…
「む! よし、サービスプレート下ろせ! 防御装甲をしっかりやっとけよ!」 ザッ!
「「「「「 了解ッ! 」」」」」 ザザッ! バタバタバタ…
カンカンカン ザッ ザッ
「よう柴田班長どの!」
「うん? なんだ後藤じゃないか、貴様も同じ班長だろ、からかうのはよせ!」 サッサッ!
「ははは、すまん! 随分と疲れてるようだな?」
「当たり前だあ、昨日から丸二日、不休不眠で修理してるんだ。 疲れない方がおかしい」 ヒラヒラ
「まったくだ、俺んとこの修理班員もみんなへとへとだぜ、そろそろしっかりと休ませんと事故がおきそうだ」
「むう、確かにな… で、第4ドックの修理技術責任者が第5ドックに何の用だ?」
「ああ、それなんだが…」
「うん? 歯切れが悪いな、早く言え!」
「わかった、言うぞ」
「む!」
「さっき、俺の所に伝令が… ん?」 サッ
タタタタ ザッ
後藤班長がそう言いかけた時、彼らの元に伝令兵がやって来た。
「失礼します、第5ドック修理技術責任者、柴田健司班長に艦隊総司令部、徳川家康上級大将閣下より伝令であります」 ザッ
「と、徳川様ッ!」 ザッ
「伝令、『第4、第5ドック修理技術班は現在行っている修理作業を全て終了、直ちに第1ドックに集合せよ、現在修理中の艦艇は第2、第3修理技術班から人員を派遣して続行する』以上です」 サッ クル タタタタ…
伝令兵は、徳川家康上級大将の伝令を伝えると、踵を返して帰って行った。
「後藤…」
「ああ、同じ伝令が俺の所にも来て、お前の所に寄ったって事さ」 サッ
「ふむ、なあ後藤… 修理技術班を第1ドックに来いという事だが、そもそも第1ドックに艦なんかあったか?」
「いや、記憶にないな。 確かあそこは大型の艦船が入るドックだが、ここ最近じゃあ入るほどの大型艦がなくて空ドックのはずだぜ?」
「うむ、徳川様はなぜ、そんな空ドックに俺らを呼んだんだ?」
「さああ、俺には分からん、だが徳川様からの伝令じゃ行かん訳にもいくまい?」
「確かに… まあ行けば分かるだろ」
「そうだな、じゃあ俺は先に行くぜ、また第1ドックでな」 サッ
「ああ!」 サッ
第4と第5ドックの修理技術班員が揃って第1ドックに集合したのはそれから1時間後、彼らは第1ドックの入り口に整然と並び、第1ドックの責任者が来るのを待っていた。
ピッ プシュー カツ カツ カツ ザッ!
「第4第5ドック修理技術班の諸君、忙しい時に作業を中断させてすまない、私がこの第1ドックの責任者、松下技術特務大尉だ!」
「た、大尉殿に敬礼ッ!」 バッ
「「「「「「 はッ! 」」」」」」 ザッ!
「ああ、楽にしてくれ」
「直れッ!」 バ
ザザザッ!
「ええっと、後藤、柴田、両技術班長はいるか?」
「「 はッ! 」」 ザッ ザッ カツン!
「ふむ、では君たち2人の班に第1ドックに係留中の我がヤマト皇国の最新鋭艦の整備と補給を任せたい。当艦の出航は今より28時間後、明朝08:00、よろしく頼む」
「お、お待ちください大佐殿!」 サッ!
「うん? なにか?」
「第1ドックはそもそも空だったはず、いつに間にそのような艦艇が…」
「ああ、これは秘匿されていた極秘艦でな、今回の緊急事態で天帝様より出撃の許可が出たのだ」
「いったい、どのような艦ですか?」
「うん? まあ見ればわかる」 二ッ
そう言うと、松下技術特務大佐は、第1ドックの暗証番号を押して、扉を開いた。
ピ ピピピ ピコ ガコオンン ゴゴゴゴゴ ゴオオンンン ピッ!
「さあ諸君、入ってくれ、遠慮はいらない」 サッ カツ カツ カツ
「お、おい」 サッ
「うむ、行くぞ!」 ザッ ザッ ザッ!
松下技術特務大佐に続いて、第1ドックに修理技術班の全員が入っていった。第1ドック、縦2800m 横幅900m、天井高1500mもある、巨大すぎる大型艦艇用ドックだった。 が、しかし…
「「「「「 はあッ⁉︎ 」」」」」 ざわッ!
「大佐殿ッ! これはどういう事ですかッ!」 ババ ザッ!
「くくく」 ニヤ
「こ、ここのどこにッ! 艦があるんですかッ!」 ダンッ!
そう、修理技術班達全員の前には、ただ何もない巨大な空間の第1ドックがあるだけだった。
「ははは、まあそう慌てないでほしい」 サッ
「冗談にも程があります! こんな、何もないドックのどこに、我らが整備する艦があるんですかッ!」
「はああ… まったく、先ほども言ったでは無いか! 秘匿艦と!」
「ではいったい…」
「ふむ、正確にはここは第1ドックの入り口だ」
「「「「「 は? 」」」」」
「では、出港準備と整備を頼むぞ諸君ッ!」 ニヤ パアアンンンッ!
「「「「「 うわッ! わああッ! 」」」」」 シュバアアアアアアーーーッ!
松下技術特務大佐が魔力を込め、右手を修理技術班全員に向けた瞬間、彼らは眩い光に覆われ、周りの様子が何もわからない状態になっていった。 そして次の瞬間、彼ら修理技術班の目の前に、巨大な鋼鉄の壁がそそり立っていた。
「な、何だこれは! 壁? いや、鉄の塊か?」 ガンガン
「「「「 何だここは? 俺たちどうなるんだ? 」」」」 ザワザワ ガヤガヤ ドヨドヨ…
「ん? おいッ 後藤ッ! こっち来てこれを見ろッ!」 ササッ!
「なんだ柴田、何か見つけたのか?」 ザッ ザッ
「いいからこれを見ろッ!」 バンッ!
「ん〜… なッ! こ、これはッ!」 ババッ!
それは、ヤマト皇国国防軍の大陸艦艇には全て取り付けられている「黄金の菊の紋章」、そしてその下に白いペンキで描かれた艦名が記されていた。 その名は「ヤマト」、巨大な鋼鉄の壁にひっそりと、それは記されていた。
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