第283話 アニスと井伊直政2
ーヤマト皇国、謁見用大広間 昇竜の間ー
ビシイイッ! ババババッ! ドゴオオオオオーーーーッ! ビュワアアアアーーッッ!
「うおおッ!」 ババッ!
「んッ!」 シュバッ!
ザザザアアアーーーッ! シュウウウ…
アニスと井伊直政中佐の2人が、模擬戦と称して天帝との謁見の間、昇龍の間で高速移動術による戦闘を開始した。 2人が放った模擬戦の枠を超える威力のある剣技は、お互いの威力を相殺して対消滅した。 衝撃音と衝撃波、魔力風が2人を中心記吹き荒れ、その威力で2人はお互いの後ろへと弾かれお互いの距離が開いた。
ガラガラガラ パラパラ… ヒュウウウ… ザザッ!
「ははッ 俺の《龍翔斬》を受けきられた… 親父に続いて2人目だぜ」 ニイイッ! チャキ
シュウウウ… ザッ ファサファサ…
「ん〜…(高速移動術《縮地》の速度はレオンとほぼ同等、だけど保有魔力量と技のキレ、威力はレオンに遠く及ばないか… いや、手を抜いてるのかも?) 直政中佐、まだ続けますか?」 ニコ ファサ…
青みがかった白銀髪と純白のスカートを靡かせ、神器「アヴァロン」を構えたアニスが、笑みを浮かべて井伊直政中佐に問いかけた。
「はッ 当然だ! 俺はまだ降参してねえし、怪我もしちゃいねえ! 本気の模擬戦はこれからだッ!」 バッ! チャキ!
「ん? (本気の模擬戦? なんだそれ? まあいいや) じゃあ続けようか、直政中佐」 サッ! ファサ!
「おうッ!」 ググッ!
アニスと井伊直政中佐の2人は仕切り直し、お互いが相手を見据えて武器を構えた。
「「 《縮地ッ!》 」」 シュババッ! シュンッ!
再び2人は高速移動術《縮地》を使って、その場から姿を消した。
シュバッ! ドカドカッ! バアンンッ! バラバラバラ! キュン! キキンッ!
「は? え、ええッ! こ、こんなの、審判なんかできないですよッ! 中佐殿おおーッ!」 キョロキョロッ ガシャ! オタオタ…
2人の高速移動術に全く目が追いつかず、審判役の装甲擲弾兵少尉はただただ狼狽えるだけだった。 謁見の間の中央で、その周囲の至るところで起きる、アニスと井伊直政中佐の高速移動での衝撃音や衝撃波、それによって更に破壊されていく謁見の間、瓦礫や床、壁などが次々と破壊され消し飛んでいく。それをひたすら必死に目で追いながら、審判役である装甲擲弾兵少尉は叫ぶ事しかできなかった。
シュン! タタッ! バッ ババババッッ! ビュンッ!
「ちッ! 素早いッ! 捉えきれんッ! この俺が全力で着いて行くのがやっとだぜッ!」 シュババババッッ!
「ん、直政中佐、まだまだ速くなりますよ(さて、どこまで着いてこれるかな?)」 ニコ シュンッ! シュバッ! タンッ!
アニスは《縮地》の速度を徐々に上げ、井伊直政中佐の《縮地》速度の限界を見極めていた。
ビュンビュンッ! シュババババーーッ!
「くそッ! 速い! 徐々にだが差が開く、このままじゃ剣が届かねえッ! 仕方がねえか… アニスの動きを止めるしかないッ! 爆炎術式!《衝炎弾ッ!》」 ササッ! バッ! キンッ!
シュバッ! パパパパパッ! シュバババババババアアアアーーッ!
井伊直政中佐は、アニスの徐々に上がっていく《縮地》の速度に驚き、それを抑えるため、ヤマト皇国国防軍式の魔法、術式魔法を使ってきた。 爆炎術式、国防軍が局地専用に特化した魔法の一種で、炎の高速弾を放ち、着弾と同時に破裂する攻撃魔法であった。 ヤマト皇国では魔法を術、もしくは術式と称して使用していた。
「ん、《クラック.ショットッ!》」 サッ! キュインッ! パパパパッ!
シュババババババーーッ! シュンッ! シュンッ! ドドドドッ! ダアアアアアンンンッッ!
アニスは、高速移動しながら襲ってきた、井伊直政中佐の攻撃魔法、爆裂術式の《衝炎弾》をその威力と効果を見抜き、とっさに対抗魔法でそれを迎撃、井伊直政中佐の炎の爆裂弾攻撃を消し去ってしまった。
シュバババババッ! ダンッ! ザッ! バババババーーッ!
「なッ⁉︎ おいおい、本気かよ、アレをこんな状況下で普通いなすか? 他のヤツなら皆避けるか、躱せずにダメージを受けて高速移動なんて続けられないぜ? それを躱すどころか反撃、迎撃して消し去りやがった… なんてヤツだ!」 ニイイッ!
井伊直政中佐は、自分の術が防がれたにもかかわらず、それを喜んでいるかのようだった。
シュンッ! タタタタッッ! ファサッ! シュバババババーーッ!
「ん、そろそろ決着をつけませんか? 直政中佐?」 シュンッ!
「ああ、そうしよう、俺もさすがに疲れてきたし、何よりさっきので完全にお前に惚れたぜ、アニスッ! やはり俺はお前を俺の嫁に、妻にしたいッ! 結婚してくれッ!」 シュバッ!
「ん〜… やだッ!」 シュシュッ! シュバッ! シュンッ!
「かああ、また即答かよ、だが俺は諦めねえぜッ! アニスッ!」 ニヤ シュバババッ! ザッ!
「はああ… 諦めの悪い人ですね… では直政中…いやもう直政でいいや、それでは直政、私に一撃を与える事が出来たら、少しは考慮してもいいですよ」 ニコ! シュシュンッ! シュバッ!
「本当かッ! やった、言質は取ったぜッ! 忘れるなよアニスッ!」 ビュンッ! シュバババッ!
「ええ、忘れません」 シュバッ! ファサ!
「いくぜえアニスッ! 柳生新陰流極意… 風雷術刀剣技ッ!《蒼天破斬、陽炎ッ!》」 ヴオンッ! シュバッ!
「ん! 消える?」 シュババッ!
高速移動術《縮地》を使用している最中に、井伊直政中佐は中佐の柳生流オリジナル、術と剣技の複合技をアニスに使ってきた。 井伊直政中佐の身体は高速移動中に、霧の様に霧散して、アニスの視界から消えていった。
シュンッ! タタタタ!
「へええ、こんな技があるんだ。(やっぱりさっきまでは手を抜いてたんだね)」 シュンッ!
ザザザアアーーッ! ピタ ファサファサ… シュウウウウ…
アニスは存在の消えた井伊直政中佐を把握するために、高速移動術《縮地》を解き、その場に静止した。
「ん〜… 」 シーン… ファサファサ ヒュウウ… カラカラカラ…
「えッ⁉︎ 少女だけ? 中佐殿はどこに?」 キョロキョロ ガシャガシャ!
高速移動術を解いたアニスを見て、審判役の装甲擲弾兵少尉は、井伊直政中佐の姿を探し、辺りを見渡した。 しかし、謁見の間にはアニスと自分以外の存在しか確認できなかった。
ヒュウウウ… カラカラ… カラン…
「魔法… いや、これは剣術の方かな?」 ササ…
『いいやアニス、その両方さ!』 ヴンッ!
「んッ!」 クルッ バッ! ファサ!
アニスが井伊直政中佐の技を考査していた時、アニスの背後の方から声が聞こえ、アニスが振り向くと、その場の空間が歪み、そこから突然井伊直政中佐が刀を振り下ろしながら現れた。
ヴオンッ! シュバッ! チャキッ!
「はっははははッ! ここだあアニスッ! これでお前は俺のものだあッ!」 ブンッ!
完全に意表をついた攻撃であった。 井伊直政中佐は完全に勝ち誇った顔で、模擬戦の勝利に自信満々だった。
シュバアアアーーーッ!
「ん、《ファントム》」 キンッ! ユラユラ シュバッ!
井伊直政中佐が刀を振り下ろした瞬間、その先にいたアニスの身体がブレてその姿は消え、振り下ろした刀は空を斬って、何の手応えもなく空振りに終わった。
「なッ⁉︎ なにいいいッ‼︎ 」 ビュンッ! ザザザアアアーーーッ! バッ!
先ほどとは打って変わって、今度はアニスの姿がその場から完全に気配と一緒に消え去ってしまった。
「こ、これはッ! まさか俺と同じ《蒼天破斬 陽炎》ッ‼︎」 ババッ! キョロキョロッ!
井伊直政中佐は消えたアニスの姿が、自分の柳生流極意、術と剣技の複合技《蒼天破斬 陽炎》に酷似している事に驚き、自分の周辺を見渡しアニスの姿を探した。
「いや違うッ! 《蒼天破斬 陽炎》とは全くの別物ッ! どッ どこだッ! どこに消えたッ⁉︎ 気配がしない、アイツは、アニスはこんな事まで出来るのかッ!」 バッ バッ キョロキョロッ! ググッ!
井伊直政中佐は、その場で必死にアニスの姿を探した。 しかし、この謁見の間のどこにも、アニスの姿はおろか、その気配さえも無く、井伊直政中佐は完全にアニスを見失ってしまった。
「やはりいない、消えた… 完全に… これはいったいどういう事だ、確かにさっきまでアニスはここにいた… だが今アイツの姿、気配がまったくしねえ! まさかアイツ、ここから逃げ…」 ザッ
シュバッ! ファサッ!
「ここだよ」 ニコ ファサファサ…
「なッ⁉︎ 」 バッ!
完全にアニスの姿を見失っていた井伊直政中佐のすぐ背後から、澄んだ声が聞こえ、そこに突如として青みがかった白銀髪と純白のスカートを靡かせたアニスが笑みを浮かべて現れた。 それに驚き、井伊直政中佐は振り向き、咄嗟に防御の構えに動いた。 いつもの中佐の自動防衛も、アニスのこの瞬時には起動できなかった。
「ん、これでお終いです、《イージス.エッジッ!》」 シュピンッ! ビュンッ!
ビシイッ! シュバアアアアアーーッ! ドンッ!
「うぐッ! うおおおおおーーーッ!」 バッ! バババッッ! ドバアアアアーーッ!
「ちゅッ 中佐殿ッ! うわああーーッ!」 ガンッ! ガシャザザアアアーーッ! ビュンッ!
ドゴオオオンンーッ! ダアアンン! ガラガラッ バラバラバラ…
アニスの攻撃に、井伊直政中佐が咄嗟にとった防御では受けきれず、そのまま吹き飛んでいった。 その勢いは審判役の装甲擲弾兵少尉をも巻き込んでいき、謁見の間の壁まで飛ばされた2人は、壁を崩しながらその場で止まった。
シュン スタ ファサファサ… クルクルクルッ! チャキンッ!
アニスはその様子を見ながら、青みがかった白銀髪と純白のスカートを靡かせ、右手に持っていた神器、ミドルダガーの「アヴァロン」を手の中で回しながら。背中腰にある鞘に戻した。
「ん、これで模擬戦は終了だね、それで判定… ん! あッ! 見つけたッ! ここにあったんだ、よかったよ見つかって!」 タタタッ! スッ ヒョイ
アニスは自分がいた場所から少し離れた床に、アニスがここに来た当初の目的、探し物が見つかり、それを拾いあげた。
ガラガラガラガラッ! ザッ!
「うう、痛ててて… ゴホゴホ! な、なんてえ威力だッ! ガードごと吹き飛ばされちまったぜ!」 ガラガラ スクッ パンパン
崩れた壁の瓦礫の中から、ホコリまみれになった井伊直政中佐は、ホコリを払いながら立ち上がった。
「うん? お、おい! 大丈夫かッ⁉︎ しっかりしろッ! おいッ!」 ガラ ユサユサ…
同じ瓦礫の中に、装甲擲弾兵の姿を見つけ、それが審判役の装甲擲弾兵少尉と気付き、井伊直政中佐は彼を助け声をかけた。
「うう……」 ガクガク…
「ふうう、気い失ってるだけか… 無事のようで良かったぜ… はッ! そうだッ! アイツはッ⁉︎」 ババッ! ササッ!
装甲擲弾兵少尉の無事を確認した井伊直政中佐は、さっきまで自分と模擬戦をしていたアニスの事を思い出し、謁見の間の中央に目をやった。
「あったあった! これこれ、んッ! それじゃここはもういいや! さ、帰ろ帰ろ~♪」 ニコニコ クルッ ファサッ! テクテク
「なッ!」 ザッ!
アニスは両手で何かを持ち、笑顔でその場から向きを変え、ここで起きた模擬戦などまるで何もなかったかのように、天帝が座する玉座があった、崩れて瓦礫だらけの雛壇上段の方に向かって歩き出した。
「お、おいッ! アニスッ! ちょっと待てッ!」 サッ!
「ん? なに?」 ピタ クルッ ファサ…
「どこへ行く? まだ決着はついてないぞッ!」
「ええ〜、帰りたいんだけどまだやるの? 一回だけだって言いたじゃないか、忘れたの?」
「ああ言った! だが、俺はまだ負けてねえッ! さあ決着をつけようぜッ!」 ザッ!
「いやいやいや、もうついてるよ?」 フリフリ
「何を言ってやがるッ!」 グッ
「んっとねえ、直政… 貴方の持っているその剣、もう使えないよ? それでも続きをしたいの?」
「なにッ!」 チャキッ!
アニスに言われ、井伊直政中佐は自分の持つ剣、刀をじっと見た。 すると…
「なッ!」 ビビビリッ!
ピキッ ビキビキビキッ! バキイイインンッ! パラパラパラッッ!
「おおおおッ! お、俺の『菊一文字』があああッッ!」 バババッ!
井伊直政中佐の持つ刀「菊一文字」が、いきなり細かな振動をした瞬間、刀の刃身全体に細かなひびと亀裂が入り次の瞬間、中佐の刀「菊一文字」は細かく砕け、握っている柄を残し光の粒となって散っていった。
「ん、やっぱり… ごめんね直政、貴方の剣では私のダガーの攻撃に耐えきれなかったんだ。 剣を失った今、模擬戦は終わりでいいよね?」
アニスの言う通り、剣を失った今、模擬戦という試合ではアニスの勝ちという判定が出るのが正論であった。
「うぐぐ… ふッ ああっはははははッ! こりゃ仕方ねえか… ククク、確かにそうだなアニス、俺の必殺技、《蒼天破斬 陽炎》を躱し背後に廻り、俺の剣を破壊するあの技量に魔力、その時点で俺の負けだあ! ははは、完全に俺の負けだ、まいったぜ!」 サッ…
「ん、直政…」
「刀のことは気にするな、『菊一文字 』は軍支給の数打ちの量産品だ、折れて使い物にならない事など日常茶飯事ッ! 何度でもある。 まあ、粉々になったのは今回初めて見たがな! それにアニス、実は武器ならここにもある! だから模擬戦でなく実戦なら俺はまだ戦えるんだぜッ!」 ガンッ! フワッ ガシイイッ! チャキッ!
すると井伊直政中佐は、瓦礫の中にあった装甲擲弾兵少尉の武器、対人戦用フォトンジャベリンを脚で跳ね上げ、自分の胸元まできたそれを掴み構えた。
「ああーーッ! ずるいッ! そんなのアリなのッ⁉︎」 バッ!
「あん? あたりまえだろ? 生きるか死ぬかの戦場ならアリだぜ? 戦場で戦闘中に武器を失えば即、死につながるんだ、その場にある物なら何でも自分の武器にするさ!」 スッ
「そうか、相手のや落ちている武器を使ってもいいのか… 知らなかった…」 ん〜
「ふんッ!」 ビュンビュンッ! クルクルッ! ビュヒュンッ! ジャキンッ!
今までアニスは、他人の武器や放置された武器を使った事がなかった。 それはアニスの武器、ミドルダガーの神器「アヴァロン」が最強の武器の一つだったからだった。 考え込んでいるアニスをよそに、井伊直政中佐は対人用フォトンジャベリンを振り回して構えた。
「へえ、上手いもんだね」
「まあな、これでも俺はブレードライナー、戦闘機乗りなんだぜ、大概の武器は扱えるのさ」 二ッ
「そうなんだ」
「アニス、本音を言えば俺はお前が欲しい! 俺の妻に、共に人生を歩みたい! だから他の誰にもお前をやりたく無いんだッ! だが今回は俺の負けだ! 今は引こう。 模擬戦の審判もアレじゃあどっちが勝った負けたと判定もできんしな!」 チャキ サッ トン!
「ん? 審判って… あッ! あの人、気絶してるじゃないか!」 サッ
「ああ、だから審判はどちらかの勝ち負けの宣言ができない! まあそれでも、俺はお前とどちらかが降参するまでやるつもりだったんだが… まさか刀を失うとは思わなかったぜ。 だが次は負けないぜ? 必ず俺が勝って見せる! そしてお前の男、レオンと言うヤツに実力で勝ち、お前をッ! 俺はお前を妻に迎え入れるからな! 待ってろよアニスッ!」 ニイイ ザッ!
「はあ? 次って、これで終わりじゃないの?」
「だれがそんな事を言った?」 ニヤ グッ!
「ううう、全く… 諦めの悪い人ですね」 フリフリ
「ははははははッ!」 ザッ!
その時、井伊直政中佐の襟章から呼び出し音が鳴り響いた。
ピッピーーッ! ピッピーーッ!
「ん?」
「ああ、すまんアニス、ちょっと待っててくれるか?」 サッ カチッ ピッ!
井伊直政中佐は、アニスに少し待つように言うと、呼び出し音が鳴っている中佐の階級を示す襟章に触れ、スイッチらしきものを入れた。
「井伊だ! どうした?」
『隊長、今、何処に居られますかッ⁉︎』 ピッ!
「なんだ少佐か… 俺か? 俺は今、皇居中央にある宮廷内の謁見の間だ!」
『すみませんが至急、母艦である空母「ヒリュウ」にお戻り下さい! 緊急事態です!』 ピッ!
「緊急事態だあ? 皇居がこんな状態以上の緊急事態があるのか?」
『難攻不落の硫黄島「父島要塞」が反乱軍の手に落ちましたッ!』 ピッ!
「なッ! 落ちただあッ⁉︎ 守備隊はッ⁉︎ 要塞の連中は何をしていたッ⁉︎ そう易々と奪われる要塞じゃねえぞッ!」
『はッ そうなんですが、守備隊の半数が謀反、反乱軍側に寝返ったそうです。 要塞司令官 【鳥居元忠】中将麾下、200の兵が中将とともに戦死ッ! 要塞内の非戦闘員は全員、要塞地下へと幽閉、人質にされたそうです』 ピッ!
「鳥居様が… 戦死だと… 鳥居様の家族はッ⁉︎ 奥方様が一緒にいたはずだッ! ご無事なのかッ⁉︎」
『隊長… 残念ながら鳥井中将の奥方様、【千代】様も戦死者名簿に載ってます。 お亡くなりになりました』 ピッ!
「うおおおおおッ! クソがあああッ!」 ブンッ!
シュバアッ! ドゴオオオオーーーンッ! ガラガラガラ ドオオオンッ! バラバラバラ…
井伊直政中佐は、要塞司令官、鳥居中将夫婦の突然の訃報を聞いて、持っていた装甲擲弾兵少尉の武器、対人用フォトンジャベリンを怒りに任せ投げつけ、謁見の間の天井を支える柱の一本を完全に破壊してしまった。
「お、おのれええッッ! 反乱軍どもがああッ!」 ググッ!
「ん、直政、すこし落ち着いたほうがいいよ、冷静な判断ができなくなる」
「う、 お、おう… すまないアニス、少しばかり取り乱した」 サッ
『隊長、それで国防軍総司令官、織田信長元帥閣下からの命令が降りました』 ピッ!
「命令? 反乱軍どもを根絶やしにする命令なら俺は引き受けるぞ」
『いえ、「大隊長以上の高級士官は総員、国防軍総本部に集合、作戦会議に参加せよ、蛮勇、抜け駆けで独自に動くことは命令違反で軍法会議にかけられ、やんごとなき身分の者も処断する」だそうです』 ピッ!
「ちッ 仕方がねえ、アニスッ! 俺との事はまた今度だ、事が済んだらまた会おうぜッ!」 サッ
「ん、そうだね、でもこの人たちはどうするの?」 サッ
「うん? ああ装甲擲弾兵か、ほっとけほっとけ、そのうち気がつくさ」 グッ
「いいの?」
「いいんだ、それじゃ俺はいくぜ!」 ザッ
「ん、直政、また会えたらね」 ニコ
「おうッ! じゃあまたなッ! アニスッ!」 ザッ! シュバッ! ダダダダダッ!
井伊直政中佐はアニスと別れ、一路宮廷外にある連絡艇発着場へと急ぎ駆け出していった。
「ん、じゃあ私も、卑弥呼が待ってるから帰ろうっと」 クルッ ファサ テクテクテク
アニスは井伊直政中佐の姿が見えなくなったのを見て、そのまま踵を返して歩き始め、瓦礫だらけの謁見の間から気絶している装甲擲弾兵たちを残して隠し通路から出ていった。
ー硫黄島「父島要塞」司令官室ー
ドオオンンンッ! モクモクモク
「月詠様、組織的な抵抗は無くなりました。当要塞は完全に我らの支配下にあります」
「うむ、ご苦労であったな【光秀】」 ニヤッ!
「はッ 随伴艦艇も順次、要塞内に入港中、いよいよですな、月詠様」
「そうだッ! いよいよ持ってだ、この私がこのヤマト皇国を収め、皇国の民を導く日が来たのだッ! あの忌々しい女、卑弥呼を天帝の座から降ろし、処刑台にかけ、その首を刎ねてやるッ!」 グフフフッ!
「はッ それが宜しいかと、我らの神もそれを望んでいるはず。 正義は月詠様、貴方様にあります!」 ササッ
「そうであろう、そうであろうッ! さあ、我が意に反した国防軍の奴等め、特に信長ッ! 貴様だけは絶対に許さぬッ! 国防軍共々、貴様らをこの要塞を持って消し去ってくれるわッ! ああっははははははッ! ああっはははははッ!」
「ですが、千代殿は勿体なかったですな。 月詠様の妃にと思っておりましたのに…」 サッ
「ふむ、千代か… あの美貌に佇まい、確かにこの俺の妃に相応しい女だった… だがあの女は俺の誘いを断り、要塞司令官の鳥居と言う男に靡いたのだッ! この俺が誘ったのにだぞッ! だから俺はその男と添い遂がせてやったのだッ!」 ふふふふ
「しかし…」
「む、何だ光秀、なんか言いたいことがあるのか?」
「いえ、ありません… それでは私は作戦会議がありますのでこれにて」 ササ
「うむ、よろしく頼むぞ!」
「はッ!」 ザッ ザッ ザッ
要塞司令官室に、今回の反乱騒動の首謀者、【月読命】を残し、部屋を出て、通路を歩きながら、反乱実行部隊の長【明智光秀】は、月読命の振る舞いに悩んでいた。
ザッ ザッ ザッ
「月詠様はあまりにも思慮がなさすぎる!(千代殿に対するアレは非常にまずい… 千代殿を慕っていた者が敵味方に大多数存在する、ましてや鳥居殿はあの徳川家康上級大将の家臣、そして家康殿は国防軍総司令の織田殿と対等の間柄、この要塞は難攻不落とはいえ、両者から総攻撃を受ければ、いかにこの最強要塞とて……)いつまで持つかわからんなッ! 何とかせねばッ!」 ググッ! ザッ ザッ!
ピッ プシューーッ! ザッ ザッ
明智光秀上級大将は、頼りなさそうな主君を思い、要塞の作為戦会議室へと入っていった。
ーヤマト皇国国防軍、ヨコスカ軍港 修理用ドッグー
ウイイイインン ガコオオン ピーピー ガガガガ ガンガン ジジ ジジジジッ!
「オーライ オーライッ! ストーップ! よしッ 降ろせええーッ!」 ピピ ガコオオンッ!
ガンガン バチバチバチ ダダダ ダダダ ガコン ガコン ガコン
ここ、ヤマト皇国国防軍の大陸艦隊の母港、ヨコスカ軍港の修理ドック内に、異国のアトランティア帝国軍艦艇、強襲巡航艦「ライデン」が修理を受けていた。 自力航行で母国アトランティア帝国まで、航行できそうもなく、やむなく修理をさせてもらっていた。
ピピー ピピー
「よしこっちはOKだッ! 次行くぞおおッ!」 バッ
「「「 了解ッ! 」」」 ババッ!
・
・
「凄いもんですな艦長、あれ程の損傷を受けたこの『ライデン』をあっという間に修理してしまうとは、ヤマト皇国の造船技術は侮れませんな」
「うむ、あと2日もあれば修理完了だそうだ、補給もしてくれると聞いたが…」
「ええ、燃料に魔素素体、水と食料に医薬品と… 武器弾薬に関しては規格が合う物だけだそうです」
「そうか、感謝の限りだな」 ふうう…
「機関部も凄い物ですよ、何でもこの国の最新型の機関を4基、総入れ替えで乗せてくれるそうですッ!」
「むう、なあ副長」
「はい艦長、何でしょうか?」
「ヤマト皇国の連中はなぜ『ライデン』にここまでしてくれるのだ? おかしくないか?」
「そう言えば… 確かに、なぜでしょう?」
「まさか昨日の内乱が関係していまいな?」
「内乱ですか、アレには驚きましたね、まさかこの国の修理ドックに入って半日後に反乱が起きたんですから」
「ああ、まあこの港には何の影響もなく済んでよかったがな」
「ええ、ですがこの港に寄港中の艦艇が数隻、反乱に加担して何処かへと離れたそうですよ」
「このタイミングで『ライデン』への高待遇、気になるじゃないか?」
「そう言われれば…」
「艦の修理補修や水と食料、医療品の補給はわかる、だが最新鋭の機関を4基に規格が合う武器弾薬の供給だぞ? それを何の代償も無く他国の艦艇に普通するか? 私には何か裏があるとしか思えん!」 むうう…
「さすが『ライデン』艦長のグレイ中佐、よく見ていますね」 コツコツ サッ
強襲巡航艦「ライデン」の艦橋内で、艦長のグレイ中佐と副長のシュトラウス大尉が話をしてる所に、女性士官の声が割って入った。
「む、これは技術主任のええっと…」
「岡田、岡田陶子太尉ですわ」 ニコ
「おお、そうだったそうだった、岡田大尉でしたな! なにぶん、ヤマト皇国の方の名はなかなかに覚えずらくてすみませんな」
「いえ、お気になさらず」 サッ
「ははは… それで大尉、我が強襲巡航艦『ライデン』への今回の待遇、教えてもらえますかな?」 ジ…
「ふふ、ええ勿論ですわ、グレイ中佐。 そろそろ私もお話しようかと思っていましたのです」 ふふ…
「ほう、ではお聞きしますぞ、これほどの待遇、ヤマト皇国の意図はどの辺にありますかな?」
「はい、単刀直入にいいます。 グレイ中佐、貴方の強襲巡航艦『ライデン』に、反乱軍討伐戦への参加をお願いします」
「なッ! そ、それは貴国の内乱に… この『ライデン』が参加せよと言うのか?」
「ええ、当然、拒否なさることもできますわ、ただ…」 う〜ん
「ただ、なんですかな?」
「はい、もし拒否なさった場合、そうなると今回の修理と補給品の費用、それと乗員の滞在費に、最新鋭の大型艦艇用機関の返却、これらが発生いたしますが… どうされます?」 ニコニコ
「うッ! 修理代金に滞在費だと? それに機関の返却なんてしたら… (『ライデン』は異国で動かぬオブジェとなってしまう。 それに支払う金額がいかほどになるか… どうする?)」
「艦長、ここは従いましょう。 幸いここヤマト皇国は本国からかなり離れていますし、何よりタダでこの『ライデン』の修理をしてくれるんですよ。しかも最新鋭の機関が4基もおまけ付き、悪くない話だと思いますが」 ヒソヒソ
「はああ… そうだな、副長のいう通りかもしれん…」
「ではッ!」
「ただしッ! 部下の命に関わる危険なことは極力避けたい、いいですな⁉︎」
「ん〜、それは難しいかと…」
「はッ? それはいったい…」
「はい、強襲巡航艦『ライデン』には、難攻不落の硫黄島『父島要塞』攻略作戦に参加して頂く予定ですわ」 ニコニコ
「「 要塞攻略戦だとおおーーッ⁉︎ 」」 ババッ!
ガガガガ ガンガン ピッピーー ピッピーー ジジジジッ バチバチバチ
ヤマト皇国ヨコスカ軍港の修理ドックに係留されている修理中の強襲巡航艦「ライデン」の艦橋内で、艦長のグレイ中佐と副長のシュトラウス大尉の驚きの声が響いていた。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回もでき次第投稿します。