第282話 アニスと井伊直政
ーヤマト皇国 皇居宮廷内ー
ザワザワ ガヤガヤ ザッ! ザツ! バタバタ ワーワー ドタバタ…
「誰かッ! 消火剤を早くッ! まだ火がついている、手伝ってくれッ!」 ザザッ!
シュバアアアーーッ! ジュジュウウウウ…
「うわッ! 崩れるッ!」 バッ!
パチパチ メラメラ ガラガラガラ カラ…
「おいッ 衛生兵ッ! こっちだ! こっちに負傷者だッ! 手当を頼むッ!」 ザッ!
「「 はいッ! 」」 カチャカチャ タタタッ!
「近衛第2分隊集合整列ッ!」 バタバタ ガヤガヤ
バタバタ ガヤガヤ ザワザワ…
ザッ ザッ ザッ ズザッ!
「ちッ! こんな奥まで侵入されたのか… やってくれるぜ!」 ザッ! ザッ!
突然起きたヤマト皇国の帝都「トキオ」での反乱騒動、それは帝都にある皇居宮廷内と、国防軍総本部、帝都湾岸にある「五稜郭要塞」そして帝都「トキオ」全域、その全てを巻き込んだ反乱部隊による反乱騒動は、天帝【卑弥呼】の義弟である【月詠命】ら反乱部隊と、それに合流した重巡航艦「ナチ」を含む離反艦艇数隻が、ヤマト皇国帝都の南の海上に出たと同時に沈静化し、帝都内での反乱騒動は一応の終息に至った。
皇居宮廷内外、国防総本部、「五稜郭要塞」、帝都「トキオ」都内に残された反乱兵は全て排除され、そのほとんどがその場で戦死、守りの皇国側も兵士や市民に多数の死傷者が出てしまった。
今、反乱の発生源である皇居宮廷内を、【井伊直弼】中将の息子で、ヤマト皇国、帝都防空師団第1空挺大隊の大隊長【井伊直政】中佐が1人で、反乱の後処理の為の宮廷内を調査、視察していた。 普段は優美な装飾が施された埃ひとつ落ちていない通路や大小の部屋、それが今や瓦礫が散乱し、穴だらけで所々にひび割れや火災の跡があり、まるで戦場の最前線にある街中の様相であった。
ザッ ザッ! ガッ! ガラガラガラ ドオオンッ! バラバラバラ モクモク…
「うおッ! ゲホゲホッ! こりゃあひでえ、もう建て替えたほうが早いんじゃねえのか? 何処も彼処もボロボロじゃねえか」 バ バッ!
ザッ! ザッ! ザッ! ズサッ!
「おッ! ここだここだ!」 ザザッ! サッ
やがて井伊直政中佐は、巨大な銅板で出来た大扉が内側から吹き飛び、完全に入り口が破壊された大穴の空いた天帝との謁見用大広間、昇竜の間へとたどり着いた。 その謁見用大広間、昇竜の間の中は、何かしらの巨大な力と魔力、そしてロケット弾による破壊と火災の跡、元の状態がわからないほどに中は破壊し尽くされていた、
「ふう… よくもまあ、これで天帝様を守り切れたもんだぜ、近衛兵の中に相当腕の立つ奴が居たのか、それとも運が良かったのか… まあ、とにかく天帝様がご無事で良かったぜ!」 ザッ! ザッ! ガラッ カラカラン コロコロ キョロキョロ
井伊直政中佐は、調査の為に破壊し尽くされ、瓦礫の廃墟となった謁見の間、昇竜の間の中へと入って行った。
ガラガラ ザッ! ガザザッ! ガラガラガラ ザッ! ザッ! ヨロ、ザザアアーッ!
「よっと、ふうう…… ん〜、もうここは一度更地にせんと使えないな。 元に戻すのにどれだけかかるやら…」 ザッ ガシガシ…
瓦礫だらけの床を何とか歩きつつ、謁見の間の中央に辿り着いた井伊直政中佐は、ざっと部屋を見渡し、その惨状を見て頭を掻きながら口ずさんだ。その時、中佐の背後から中佐を咎める声が掛かった。
「おいッ! そこの貴様ッ! だれの許可でそこにいるッ! ここは我ら、装甲擲弾兵部隊第1師団の持ち場だッ! 邪魔だッ! さっさと失せろッ!」 ガシャガシャッ! ザシャッ!
「ああん?」 クルッ! ザザッ!
井伊直政中佐が声のした方に振り向くと、そこには分隊規模の重武装の装甲擲弾兵が8人が、崩れた入り口とは別の大穴から謁見の間の中を覗いて立っていた。
「(なんだ、装甲兵の連中か…) 許可なんか取ってねえよッ! 俺は独自の判断でここに来てる。 お前たちこそ俺の邪魔をするんじゃねえッ!」 クルッ! ザッ!
井伊直政中佐は、相手が同じ国防軍の装甲擲弾兵と分かると、体の向きを戻し彼らを無視して調査、視察を続行した。その様子をみて分隊長であろう装甲擲弾兵が叫んだ。
「ぬううッ! 誰かは知らぬがここより先は天帝様の御座所、貴様のような得体の知れぬ者がウロウロしていい場所ではないぞ! 早々にこの場から立ち去れッ!」 ガシャ ジャキンッ!
「(相変わらずうるせえ奴らだなあ、めんどくせえ…) ほっとくか」 ジロッ… ガラガラ ザザ…
「なッ おい貴様ッ! 聞こえないのかッ!」 ガシャッ!
ザッ ザザッ ガラガラ コロコロ ザッ ザッ
「ふう、玉座もひでえなあ、うん? 何だこりゃ?」 ガサガサ ガラッ バサ…
井伊直政中佐は、装甲擲弾兵を無視して歩きだし、被害調査を続けていた。 それを見た装甲擲弾兵の分隊長はイラつき、中佐を指差し分隊全員に命令した。
「おのれえ、我らを無視するとは生意気なやつめッ! ええい、かまわんッ! 全員であやつを取り押さえろッ! ここから引き摺り出すんだッ! 総員構えッ!」 ガシャッ! ジャキンッ!
「「「「 おうッ! 」」」」 ジャキジャキンッ! ガシャンッ! ザッ ガシャンッ! ザッ
重装備の装甲擲弾兵8人は、分隊長の号令とともに、彼らの主装備の1つ、近接対人用戦斧 フォトントマホークを構えながら、井伊直政中佐にゆっくりと近付いていった。
「うん? おいおい、装甲擲弾兵ら本気かよ、この俺と殺り合おうってか? はああ… 冗談じゃねえぜまったく、仕方ねえなあ…」 フリフリ ザッ! ガラッ!
破壊し尽くされ、無数の瓦礫が散乱している謁見の間に開いた壁の大穴から、戦闘態勢で迫ってくる8人の装甲擲弾兵の姿を見て、井伊直政中佐はため息まじりで行っていた被害調査、視察を一時中断し、8人の装甲擲弾兵に向き直った。
ガシャンッ! ザッ ガシャンッ! ザッ ガシャンッ! ザッ
「ひい、ふう、みい… 一個分隊8人か… おいお前ら、先に武器を向けて来たのはお前らだからな! これは正当防衛だ、悪く思うなよ?…」 ザザッ!
「ふふふ、馬鹿め、その様な軽装の出立ちで我ら8人と闘うつもりか? 貴様に勝ち目など無いぞッ!」 ガシャン ザッ ガシャン ザッ
彼ら装甲擲弾兵たちの前にいる井伊直政中佐の今の格好は、皇国防空師団を示す上着を脱ぎ腰に袖をゆわえて巻き、モスグリーンのTシャツにライナー使用のズボンと戦闘用ブーツ、それと腰に一本の刀を帯剣しているだけのラフな姿だった。 上着を脱いで腰に巻いていたのは、反乱によって宮廷内の空調が止まり宮廷内気温が上昇、その中を歩き回って汗をかいていたからだった。
「そうかい?」 ニヤ!
スウウウッ シュザッ! シュリンッ チャキ シュバアアアーーーッ!
井伊直政中佐は、腰に帯刀していた太刀を鞘から抜くと、中佐の身体から膨大な魔力が溢れ現れ、中佐の身体を包むように纏わり始めた。
「ぬうッ! なんだあの濃密な魔力はッ! 気をつけろッ! あやつはただ者ではないッ! 一気に掛かれえッ!」 ドンッ!
「「「「 おおおおーーッ! 」」」」 ドバババーーッ! ガシャガシャガシャガシャッッ!
井伊直政中佐のその姿を見た装甲擲弾兵8人は、対人用戦斧フォトントマホークを振り翳し、一斉に襲いかかっていった。 それに対し、井伊直政中佐は中段に刀を構え、自分に迫りくる装甲擲弾兵8人に向けて、素早く構えた刀を振り抜いた。
「はああッ! 柳生流刀剣技!《木の葉返しッ!》」 ビュンッ! キイイインッ!
シュバアアアアアーーーッ! ビュフォオオオオオーーーッ!
「なッ⁉︎ どわああああーーーッッ!」 ガシャ ズバアアアーーーーッ!
「「「「 わああああーーーッ! 」」」」 ガシャガシャッ! ババババアアアアーーッ!
井伊直政中佐の一振りは、重装備の装甲擲弾兵8人を飲み込み、その威力は、彼らが入ってきた大穴から外へ、謁見の間の外の通路へと吹き飛ばしていった。
ビュンッ! ドカドカッ! ダダアアンンッッ! ガラガラガラガラッ! ガシャ パラパラ…
「ふん、反乱兵といい装甲擲弾兵といい、全くもってなってないな! 俺の部下たちなら全員、この程度難なく打ち返すか耐え凌ぐぜ! お前ら、よくそんなんでこの俺に向かって来たな!」 チャキ
謁見の間の外の通路、その壁を崩しながら倒れている装甲擲弾兵8人に対し、井伊直政中佐は叱り飛ばしていた。 武器を翳し向かって来たとはいえ同じ皇国国防軍の一員、反乱兵でも無い彼らを井伊直政中左は、彼らの動きを封じ、攻撃を跳ね除ける威力で刀を振っていた。
同じ部隊の部下ならいざ知らず、全く関係のない他の部隊の兵を自分が処罰する訳にもいかない、そこで本来の威力であったなら間違いなく致命傷になる技だったが、今回は彼らを退ける程度に手加減されて放ったものだった。
「「「「 ううう… 」」」」 パラパラ ガク…
「ちッ 聞いちゃいねえか」 ビュン! チャキン!
気絶し、身動きひとつしない装甲擲弾兵8人を見て、井伊直政中佐は舌打ちをしながら刀を鞘に戻した。そこへ、気を失い倒れている装甲擲弾兵8人の側にもう1人、彼等とは違う装備の装甲擲弾兵が現れた。
「うおッ! 何だこれはッ! 何があったあッ!」 ガシャ ガシャ ガシャッ! ザザッ!
「うん? なんだ、もう1人いたのか」
「おいッ! しっかりしろッ! おいッ!」 ガラガラッ! ユサユサ
「う… うう…」 ガクガク
後から現れた装甲擲弾兵は、倒れて気を失っている8人に駆け寄り声をかけたが、気が付き目を開けて起き上がれる者は1人もいなかった。
「無駄だぜ! そいつらはしばらく目を覚ます事なんざ出来ねえよ!」 ザッ!
「ぬッ! 貴様がやったのかッ!」 ガシャンッ!
「一応、言っとくが先に仕掛けて来たのはそいつらだぜ! 俺はそれを受け流しただけだ。 まあ、正当防衛ってやつだな」 二ッ!
「ぬうう、正当防衛だと… ふざけた事を、我らが皇国国防軍、装甲擲弾兵と知っての事かッ⁉︎」 ザッ!
「うん? ああ、知っての事さ… 相手が誰かも見極めず、自分達は正義、上司上官の命令は絶対で都合の悪い邪魔者は全て排除、命令あらば誰彼かまわず襲い掛かる傍若無人の猪部隊だという事をな」 ニイッ!
「ふ、ふざけるなッ! 我ら装甲擲弾兵を侮辱しおってッ!」 ギュルンッ! ジャキンッ!
その装甲擲弾兵は、先の8人とは違う武器、柄の長い三又の槍、対人戦用ファトンジャベリンを持ち構えた。
「ふ、お前もか… まったく、相手が誰かも分からず武器を構える、だからいつまで経っても貴様らは地上勤務止まりなんだよ! もっと魔力を高め、相手を観察してよく見るんだな!」 ザッ!
「何だとッ! 偉そうに、そう言う貴様は俺が誰か分かるのかッ!」 ググッ
「ふうう、それを俺に言うかね、当たり前だろ? 名前までは知らんが、皇国国防軍、装甲擲弾兵第1師団、第1大隊第2中隊所属、第1小隊、そこにころがっている分隊の小隊長だろ、違うか少尉?」 ザッ!
「なッ‼︎」 ガシャンッ!
井伊直政中佐の言ったとうり、彼は皇国国防軍、装甲擲弾兵第1師団、第1大隊第2中隊所属の第1小隊隊長であり、通路で気を失って倒れている分隊8人の隊長、階級は少尉であった。
「ど、どうして…」
「師団と所属、そして階級はお前のその装甲の紋様と階級章ッ! 皇国国防軍軍人ならそれくらいで分かるのは当たり前だぜ?」
「国防軍軍人だと? では貴様も国防軍軍人なのかッ!」 ガシャンッ!
「は? ああ、この格好じゃ分からないか… すまんな」 バサッ! パチパチ パチン!
井伊直政中佐は、腰に巻いていたの帝都防空師団の上着を着なおした。 そこには皇国国防軍帝都防空師団、第1空挺大隊隊長の記章と中佐の階級章が襟と右胸の位置に光輝いていた。
「へ⁉︎ ちゅ、中佐ッ⁉︎ 空挺部隊大隊長殿おおーーッ⁉︎」 ババッ! ドザッ! ガシャンッ!
装甲擲弾兵少尉は、井伊直政中佐の師団記章と部隊、階級章を見て驚き、その場で尻餅をついてしまった。 少尉の驚きは当然だった、皇国国防軍内での階級差は絶対、ましてや少尉からすれば中佐は4階級も上の上官、しかも一軍を率いる大隊長ともあれば当然であった。
ましてや、知らなかったとはいえ大隊長、指揮官クラスの上官に武器を突きつけ、悪態をついた態度、そして自分の小隊麾下の分隊が起こしたであろう非礼、通常であるならば上官侮辱、反抗罪に問われ、全員が投獄、のちに軍法会議にかけられ銃殺刑がほぼ確定しまうからだった。
「は、あ、ああ、ふぁ!」 ガクガク ブルブル ガチャガチャ ガシャン!
そんな事を想像し、装甲擲弾兵少尉はあまりにもの恐怖に駆られ、持っていた武器を落とし、全身冷や汗をかきながら震えていた。
「これで満足かな少尉殿?」 ニイイ
「はッ! あ、もッ ももも、申し訳ございませんでしたッ!」 ガシャッ!
少尉はその場で姿勢を正し、土下座をして井伊直政中佐に謝罪した。
「むッ さて、それで? 貴様らはこれからどうする?」 ニヤ!
「えッ あ、あの… それは…」 ガクガク ブルブル…
顔を青くし、震えて今にも気を失いそうな装甲敵弾兵少尉に、井伊直政中佐は少し意地の悪い質問をした。
「ふッ すまん、少し悪ふざけが過ぎた。 安心しろ、お前たちをどうこうしようとは思わん、俺の邪魔をしなければな」 ニッ!
「は、いえ、邪魔など… しかし我らは…」 ササ
「ああ、俺に武器を向け攻撃を仕掛けて来た事か、それなら不問でいいぜ」 フリフリ
「ですがッ!」 ガシャンッ!
「今の俺は軍の命令で動いているわけではないからな、プライベート、つまり自由意思行動中ってやつさ、まあそのついでに、破壊された皇居宮廷内の調査も兼ねてるけどな! それに、身分を示す上着を脱いで行動していた俺も悪かったんだ。 今回はお互い、不運がかさなっただけと言う事でいいんじゃないか?」 サ
「はッ 中佐殿ッ! 中佐殿がそれで良いと申すのでしたらそれに従います」 ガシャンッ!
「おう、しかしこんな瓦礫だらけになった誰もいない皇居宮廷内、しかもこんな奥の謁見の間に、重武装の装甲擲弾兵がなんでここにいるんだ?」
「はッ! 大隊長で有らせられらます中佐殿にはお話いたします。 我々はここに、とある命令を受けて来た次第です」 ササッ!
「うん? 命令? こんな破壊し尽くされ瓦礫だらけになった謁見の間にか?」
「はい、極秘命令と言うことで…」
「極秘ねえ? それを聞いてもいいか?」
「はッ! しかしそれは…」 ググ…
「大丈夫だって、誰にも言いやしねえよ!」
「では、御内密にお願いします」 サッ!
「おうッ! 約束する!」 グッ!
「では、先ほどの非礼のお詫びも兼ねて… 我々が受けた極秘命令は、『三種の神器を探し、見つけ次第回収せよ』というものです」 ササッ!
「『三種の神器』か、噂には聞いてはいたが、ここにそれがあったのか…」 キョロキョロ
井伊直政中佐は再度辺りを見渡したが、広い謁見の間の中は瓦礫が散乱し、「三種の神器」らしきものは見当たらなかった。
「ふうう、この中から神器を捜すとなると相当骨だぞ? 大丈夫か?」
「上からの極秘命令ですので、時間をかけてでも…」 ガシャ…
「だよなあ、命令ってのはそんなものだからな…」
と、その時、井伊直政中佐と装甲擲弾兵少尉の話に、井伊直政中佐のすぐ背後からいきなり声が割って入り、1人の人物が現れた。
シュンッ! トントン ファサッ!
「ん、ちょっとごめんね」 サッ!
「「 なッ! えッ⁉︎ 」」 ババッ!
井伊直政中佐は、いきなり現れたその人物に対し無意識に体が動き、刀を振り抜き攻撃をしてしまった。 戦場で自然に身についた護身術が、中佐を動かしてしまったのだった。
「ぬうッ! 絶!《仙華裂爽閃ッ!》」 チャキッ ビュンッ ズバアアアアーーッ!
「ん!《クリアッ!》」 サッ キュインッ!
パアアンッ! ビシイッ ドオオオオオンンーーッッ!
「なッ 何だとおッ⁉︎ うおおおおーッ!」 バアアアーーッ! バチバチバチッ! ビリビリビリッ!
「ん、いきなり攻撃とは、あまり関心しませんね?」 ニコ バサバサバサバサッ! バチバチッ ビリッ!
「な、なな、ああ… あわ、あわわ…」 ブワアアーッ ガクガク ガチャガチャ…
ブワアアアーーッ! バチバチバチッ! ババババッ!
井伊直政中佐が咄嗟に振った近接迎撃用剣技、絶《仙華裂爽閃》をいとも容易く瞬時に防いだその人物、それは先程まで天帝居住区の最奥、瞑想の間にいたアニスだった。 井伊直政中佐が使った接近迎撃用剣技は、不意に近づいた者を容赦なく瞬時に斬り付ける、自動迎撃スキルであった。
中佐の意識外からの接近者に働いてしまう、柳生流の極意と言うスキルの一つで「絶」と言い、普段はそのスキルを外していたのだが、今回は単独で行動し、反乱の後という事でそのスキルを外さずに被害調査、視察をしていた。 そしてそれが突然現れたアニスに対し発動してしまった。
が、しかし、当のアニスは余裕の笑みを浮かべながらそれを防いだ。 剣技と防御魔法がぶつかり合って起こす放電現象と衝撃波が2人を中心に広がっていった。 井伊直政中佐はそんなアニスを驚きの表情で見ており、それを側で見ていた装甲擲弾兵少尉は、その威力と魔力風にただただ、怯え言葉も発する事ができずその場に意識を保っている事で精一杯だった。
ビギイインンッ! ババッ ザザザアアアーーーッ! チャキンッ! シュウウウ……
「くそッ! (な、何者だッ⁉︎ 俺の気配感知に引っ掛からず、いきなり現れ自動迎撃まで発動させやがった)何者ッ… なッ…」 ババーッ! ザザッ! チャキ!
シュウウウウ… ファサファサ スタッ ザッ
「ふう、いきなりでびっくりしたよ」 テクテク ザッ ファサファサ…
井伊直政中佐が咄嗟にその場から遠のき、体制を立て直して今一度相手を見極めた。その相手を見た時、井伊直政中佐は驚きを隠せなかった。 中佐の前にいたのは、青みがかった白銀髪の髪と純白の上着にスカートを靡かせた少女、アニスがそこに立っていたからだった。
「(宮廷女官? いや違う、宮廷に使える女官とは衣装が違う、だいいちあの髪の色にあの出立ちと雰囲気、ましてや俺の剣技を安易と防ぐ防御魔法… しかも…… ) 美しい… だ、誰だ?」 カア〜…
井伊直政中佐は、アニスの颯爽としたその姿に顔を赤らめ、見惚れていた。
「ん? きみ、誰かに似てるな、誰だっけ?」 う〜ん…
アニスは井伊直政中佐の顔を見て、どこか見覚えのある顔だなと考えていた。
「お、おい!」
「ん? なんですか?」
「は… は、伴侶はいるのかッ⁉︎」 ババッ!
「へ? は、伴侶?」
「そ、そうだ、いるのかッ いないのかッ⁉︎」 ザッ!
「(伴侶? 何だそれは? 聞いた事ないぞ? どうしよう、なんと答えればいいんだ?)」 う〜ん…
「ど、どうなんだッ!」 バザッ!
「うわあッ! い、いないよ… (たぶん…)」 フリフリ
「ほ… そうかッ! いないのかッ! いないんだなッ!」 ふう〜… ザザッ!
「ん、いない! それがなにか?」 うん?
「おうッ! なら俺と夫婦になってくれッ!」 バッ!
「は?」
「先ほどの動き、俺の攻撃を防ぐ防御魔法、そしてその出立と美しさッ! どれをとっても文句ねえぜッ! 俺と結婚してくれーッ!」 ババッ! ザッ!
「「 ええーーーッッ! 」」 バザザッ!
アニスと、その場にいた装甲擲弾兵少尉は同時に驚きの声を上げた。
「お前なら良いッ! 親父が何と言おうと俺はお前と夫婦になりたいッ! 親父が変な女を俺に宛てがおうとしているようだが、そんなの俺は嫌だッ! 俺は俺が惚れた女としか妻と認めない! それがお前だッ!」 バンッ!
「なッ… 何言ってんだお前ええッッ! わ、私と、この私と結婚したいだとおおッ!」 カアアッッ!
「おッ! 怒ったその顔、いいねえ、ますます俺好みの顔だぜ! 可愛いぞ!」 ニイッ!
「う、うるさいッ! だいいち私にはッ… 私には… 」 グ…
「うん? 何だああ? 他に好きな男がいるのか?」
「うう… (レオン…)」 ギュ…
「ふむ、その様子だとマジか、なあお前、名前は?」
「アニス… です」
「アニスかッ! いい名前じゃないかッ! 俺の名は直政ッ! 井伊直政、皇国国防軍中佐だッ! 直政と呼んでいいぜ!」 ババッ! グッ!
「井伊直政? 井伊? 井伊… あああーーッ! あの井伊直弼の息子だああッ!」 ババ!
「ば、バカちん? アニス、誰だそれ?」 うん?
「うう、何でもないです!」 プイッ
「お、その膨れた顔もいいねえ… なあ、アニスの恋人とこの俺、どっちがいい男だ?」 サッ
「へ? レ、レオンと?」
「ほう、その男はレオンと言うのか… で、どっちだ?」 ふふん!
「レオンだよ」 プン!
「ほう、即答か… そうか、それでそいつは今どこにいるんだ? ちゃんと会っているのか? 俺もそいつに一度会ってみたいんだが、会えるか?」
「レオンは… (しばらく会ってないや、レオンどうしてるんだろ?)」 モジ…
「何だ会ってもらってないのか、そんな薄情な男より俺はどうだ? 俺ならアニスをこんなに寂しい顔にさせないぜ?」 ニイイッ
「え?」
井伊直政中佐は、アニスを口説き始めた。しかし…
「ん〜んッ! 悪いけど、私はレオンを裏切りたくないの… それにレオンは薄情じゃないよ、優しくて強い、時々エッチなやつだけど、私は好きなんだな彼のことを… 今、レオンは忙しくて会えないんだ、すぐには会えない… だから、私はレオンが会いに来るまでいつまでも待ってるんだ」 ニコ
「かああッ! ダメかあ、レオンとかいう男、アニスにここまで言わせるたあ、うらやましいやつだぜ!」 ググッ!
「うん、ごめんね…」
アニスは井伊直政中佐の申し出を断った。だが…
「なあアニス、やはり俺はお前のことを諦めきれねえ、俺が奴より上だという事だったらどうだ?」
「レオンより?」
「そうだ、いざとなったらアニスを、お前を守れるやつじゃねえとな、ましてやアニスを放っておくやつなど俺が認めねえ」 ググッ!
「直政、君がレオンより強い、レオンより上とどうやって証明するの?」
「決まってんだろアニス、俺と戦えっ!」 ザザッ!
「ん?」
「俺とここで模擬戦だ! さっきのでわかった、アニス、お前相当できるだろ?」 二ッ
「ええ〜、模擬戦ねえ…」
「そうだ、それで俺とレオン、どっちがお前に相応しいか決めてくれッ!」 ザッ
「なッ 模擬戦なんかで決める事じゃないよ? だいいち、ここにレオンがいないのは不公平だよ…」
「ふむ、それもそうか、男らしくねえからな… じゃあ、強さだけでも、俺とレオン、どっちが強いかくらいならいいだろ?」
「んんん… (直政はどうあってもレオンと自分を比べたいらしい… はああ、あの井伊直弼の息子だからなあ、人の言うことなんか聞かないんだろ。仕方がないか、早くアレを見つけないといけないしね)」 コクン
そうアニスは考え、仕方なしに井伊直政中佐の模擬戦を受け入れた。
「ん、じゃあ一回だけだよ? 判定はどうするの? 彼にしてもらう?」 サッ テクテク
アニスは、井伊直政中佐と模擬戦をするために距離をとりながら、ただ1人、じっと見ていた装甲擲弾兵少尉の方を見た。
「そうだな、アイツでもいいが、どっちかが戦闘不能… もしくは気絶か負けを宣言した時でいいんじゃねえか?」 ザッ ザッ ザッ ニイッ
井伊直政中佐もアニスト距離をとりながら、判定方法を決めていた。
「ん、わかった、それで模擬戦の方法は?」 テクテク クルッ スタ ファサ…
「剣に魔法、何でもありにしようぜアニス」 ザッ ザッ クルッ ザザッ! シュリン チャキ!
井伊直政中佐は、アニスとある程度距離を取った後向きを変え、帯刀していた刀を抜き、アニスに向かって構えた。
「ん、 剣か… じゃあ私も…」 スウウッ チャキ!
井伊直政中佐が刀を構えたのを見て、アニスは、背中腰にある神器、ミドルダガーの「アヴァロン」を抜き、井伊直政中佐に向けて構えた。
「へええ、ミドルダガーか… アニスらしい可愛い武器じゃないか」 ググッ
「ん、見た目で武器の良し悪しを判断するのは良くないですよ、直政中佐」 ニコ
「そうだな、その通りだ… 確かにすげえ武器だよ、そのダガーは! 俺の感がそう言ってるぜ!」 ジイイ…
「それはどうも」 ザッ!
「おい、少尉ッ!」
「はッ 中佐殿ッ!」 ガシャ ザッ!
「模擬戦の審判、しっかりやれよ!」 ギンッ!
「は、はいッ!」 バッ!
「やれやれ、なあ直政中佐、審判とやらを怯えさせていいのですか? 震えてるよ?」 サッ
「ああ、構わないさ、どうせ出来っこないからな、そうだろアニス?」 二ッ!
「そうだね、あの少尉さんじゃあ無理かな…」
「じゃあ全力で行くぜえッ! アニスーッ!」 ジャキンッ! ザザッ グッ!
「ん、いつでも」 チャキ グッ!
「「 《縮地ッ!》 」」 シュバッ! ババババッ! シュンッ!
「え? は? ど、どこにッ! 2人が消えたあッ!」 ガシャ キョロキョロ
アニスと井伊直政中佐は、いきなり高速移動術《縮地》を使い、高速接近戦闘に入っていった。
シュバババババババアアアアーーーッ! シュンッ シュンッ シュバッ!
「凄ええッ! 《縮地》が使えるのか、こりゃますます惚れたぜ!」 シュバババッ!
シュバババババババアアアアーーーッ! タンタン シュバッ! シュンッ!
「へええ、レオンと同等の速さだね、すごいよ直政中佐」 シュバババッ!
アニスト井伊直政中佐は、高速移動術《縮地》で、瓦礫だらけの謁見の魔の中を高速移動していた。そしてお互いが同時に攻撃を仕掛けた。
「「 そこだッ! 」」 ババッ!
「柳生新陰流刀剣技ッ!《龍翔斬ッ!》」 ビュンッ! キン! シュバッ!
ドオオオオオオオオオーーーーッ!
「ん、神級迎撃剣技ッ!《ガイエリアス.グラン.ファングッ!》」 シュピンッ! シュバッ!
ドゴオオオオオオオオーーーーッ!
アニスと井伊直政中佐、2人の高速剣技が今、謁見の間の中で放たれた。どちらも模擬戦の枠を超えた威力のものだった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回もでき次第投稿します。