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第276話 アニスと月詠命の誤算

ー皇居宮殿内 謁見用大広間、昇竜の間ー


謁見の間、昇竜の間の最上段に現れた天帝卑弥呼は、一段下で腰を抜かして壇上に座っていた義弟、月詠命を冷めた目で見つめていた。


「月詠… 今なんと?」 ジロッ! キッ!


「あッ… いえ、姉君、天帝卑弥呼様、お許しをッ!」 ググッ… タラ〜 ポタッ


自分を呼び捨てにされた卑弥呼の強い視線に、月詠命は冷や汗を垂らし、膝を屈して謝罪した。


「月詠、あなたの此度の行いの処分は後で言い渡します、そのままでいなさい」 ファササッ


「ぐぐ… は、はい… 卑弥呼様…(なぜだッ!… なぜ卑弥呼こいつが今ここにいるッ⁉︎ 奥の院で瞑想中のはずだった 卑弥呼こいつがここに来る事はないはずだッ! いつ? 何処からここの情報が漏れたッ⁉︎)」 グッ… ポタポタ…


月詠命は、突然現れた天帝、卑弥呼に驚き、密かに事が進んでいたここ、この場所での事がどうして天帝、卑弥呼に気づかれたのか分からなかった。


「へええ、あの人が天帝かあ… 直弼、意外と美人じゃないか」 ササッ


「ア、アニス様… 天帝様に失礼ですぞ、お言葉をもう少し選んで…」 あたふた…


「ふふふ、(おもしろい娘ですね)」 ニコ ファサ…


トン トン トン トン スタスタ スタッ ササッ!


普段、謁見用雛壇の最上段からは絶対に降りる事など無い天帝、卑弥呼だったが、今、彼女はアニスの元に微笑みながら最下段まで初めて降りてきた。それを見た井伊直弼中将は慌てて天帝卑弥呼を呼び止めた。


「お待ちください卑弥呼様ッ! 何をッ!」 バサッ!


「控えよッ! 井伊直弼ッ! 私は聖女アニス様に話があるのです!」 ファサッ! バッ!


「はッ! ですが、しかし…」 ザッ


バンッ! ドドドーッ! ダダダダダダッ! ガシャガシャガシャッ! ザザッ! ダンッ!


井伊直弼中将が天帝、卑弥呼に意見具申しようとした時、この謁見用大広間、昇竜の間の正面入り口が勢いよく開き、多数の武装をした兵士100人ほどが駆け込み、左右に分かれ、整然と整列した。


「こ、これは、天帝様直属の近衛兵ッ! 紅玉隊ッ!」 バサッ! ザザッ!


「ん、また増えたよ… ねえ、直弼、彼らも襲ってくるの? なんならもう一回…」 ササッ!


「ま、待たれよアニス様、彼らは敵ではありませんぞッ! 彼らはッ…」 ザッ


「ん?」


「聖女アニス様、心配には及びせん。 彼らは私専用の近衛兵、今この場では、私と貴女様を警護する者達ですわ」 ニコ


「そうなんだ… それと天帝… 卑弥呼だっけ?」 サッ


「なッ! アニス様ッ!」 バサッ!


「「「「「「 むううッ!  」」」」」」」 ガシャガシャッ! ザワザワザワ


アニスが、天帝、卑弥呼を呼び捨てにした発言に、その場に居た井伊直弼中将をはじめ、近衛兵、紅玉隊の兵士達が驚きざわめき出した。 先ほど、義弟である月詠命でさえ、天帝の名を呼び捨てにした時、激しく激怒した卑弥呼である。この国では天帝を卑弥呼を呼び捨てにする事は大罪に値するからだった。しかし…


「なんでしょうか? 聖女アニス様」 ニコ サッ


「ッ‼︎ (なんとッ! 天帝様がッ! 卑弥呼様が笑ったッ⁉︎ アニス様に呼び捨てを許したッ⁉︎ むうう… やはりアニス様は天帝卑弥呼様にとっても特別な、重要な存在なのだッ! 卑弥呼様が呼び捨てを許した存在… これは何としても井伊家にッ!)」 ググッ!


ザワザワ ガヤガヤ ガシャガシャ……


井伊直弼中将は、アニスを天帝卑弥呼がどれほど重要な人物として見ているか、このやり取りで把握した。


「騒々しいッ! 静まらぬかッ!」 バッ! ファササッ!


「「「「「「「 はッ! 」」」」」」」 ガシャンッ! ザッ!


動揺し、ざわめいていた近衛兵達を、天帝卑弥呼は一括し、全員を黙らせた。


「申し訳ありません、聖女アニス様」 サッ


「ん、別に気にしてないよ、それよりその聖女というのは無しで、私はただのアニス、そう呼んでくれないかな?」 ニコ


「ふふ… 分かりましたわ、では私のことも卑弥呼のままでよろしいいですよ、アニス様」 ファサ…


「ん〜… (様もいらないんだけどねえ… ま、いっか)じゃあ卑弥呼、なぜ私の護衛を?」 ん?


「それは、アニス様、貴女が私にとって、いえ、このヤマト皇国にとって、最も重要な人物だからです」 ファサ…


「重要ねえ… 」 う〜ん


「ふふ… さあ、ここではなんですので奥へ、皇居宮殿本丸にある迎賓館にてお話をいたしましょう」 サッ


「ん、それで、あの人はいいの?」 スッ


「そうですわね… 月詠ッ!」 サッ!


「は、はい…」 ググッ!


「此度、ここでの一件、お前はどう申し開きをするッ⁉︎」 ファサッ! ジイイッ!


「も、申し開きですと…」 ザッ!


「そうだ、お前のこの謁見の間でした事は天帝である、この私に対しての明確な謀反ッ! 覚悟はできていようなッ⁉︎」 キッ!


「お、お待ちください姉君ッ! いや天帝卑弥呼様ッ! これは単なる行き違いッ! この私が天帝である卑弥呼様に謀反など起こすわけがありませんッ! そう、これは誰かの陰謀ッ! 私と姉君、いえ、天帝卑弥呼様とに仲を羨む奴の策謀ではないでしょうかッ⁉︎」 ババッ!


「ほう… 策謀と申すか…」 サッ


「そうですッ! でなければこの私が… 義弟であるこの私が姉君で有らせられます天帝、卑弥呼様に反旗を翻すなどありませんッ!」  ググッ…


「ふむ… 【赤影ッ!】」 サッ!


「なッ!」 バッ


シュバッ! スタ サッ!


「天帝卑弥呼様、赤影御前に…」 サッ! ファサ…


「うむ!」 コクン


天帝、卑弥呼が『赤影』と叫ぶと、天帝卑弥呼の前に、片膝をついた黒装束を纏い、首元に赤いマフラーを靡かせ背中に長い片刃の刀を背負った公安隊員が1人、瞬時に現れた。


「わあッ! あの赤いマフラーの人かっこいいッ! なんか強そうだね、直弼、あの人誰?」 スッ


「あ、あれは… 我が主人、家康様の上司、織田信長元帥閣下が配下、御庭番であり天帝、卑弥呼様直属の特別公安隊員、飛騨公安部隠密作戦隊隊長、【赤影】こと【長影烈風斎ッ!】… ほとんど人前に姿を現さぬ者なのですが…」 ザッ


「へええ、やっぱ凄い人なんだ…」 コクン


天帝、卑弥呼の前で片膝をつき、卑弥呼と会話をしているその姿を、アニスはじっと見ていた。


「ふむ、では四天王には此度の件から手を引く様にと言い伝えてあるのだなッ!」 サッ


「はッ! その責は伊賀公安の【霧隠才蔵】が取ると言質を取りました。 もうすでに動いているかと…」 サッ


「うむ、四天王の最強の才蔵ですか、いいでしょう。それで赤影、其方はここで起きた事の全てを見ておったのだな?」 ファサ…


「なッ!(なんだとッ⁉︎ 見られていた? ここでの事が全て? 俺の言動、聖女アリス達の行動、そして… そして天帝卑弥呼にわからぬ様、ここに聖女アニスを引き入れ戦わせた事を… 天帝卑弥呼に全て知られてしまうッ… )」 ググッ ポタポタ…


月詠命は、自分の策謀が全て露見されようとしている事に愕然としていた。


「はッ! ただ、申し訳ありませんが一部、彼の聖女、アニス様が動かれた瞬間以降が私にも確認取れず、一瞬後には全てが終わった後、その後時を待たずして、異世界より来訪された聖女アリス一行は姿を消しました」 サッ


「うむ、その事は後でアニス様に問うとしましょう。それで?」 ジッ


「はッ! 天帝様の仰る通り、月詠命様の謀反の証拠がいくつか取れました。全てこちらに記録されてます。後ほど確認を、それと、宇喜田少将、及び伊賀公安部の高位隊員、猿飛佐助の両名もじきに拘束されるものと思います」 サッ!


そう言って、赤影は懐より一枚の記録ディスクを取り出した。


「なッ! それはッ! 天帝様お待ちをッ!」 ババッ!


「控えよッ! 月詠命、お前のした事は我が意に反するッ! アニス様に対する数々の無礼ッ! よその世界から訪れた者達を使っての我が位とこのヤマト皇国の簒奪計画ッ! たとえ我が義弟といえど極刑は免れぬと覚悟せよッ!」 バッ!


天帝、卑弥呼の怒りは大きく、身内である義弟であっても、今回の騒動は万死に値するものと判断した。


「うぐッ… く、くそう、女があ… いい気になるなよ姉君ッ! いや、卑弥呼ッ! 俺がいつまでも貴様に従順な弟だと思うなよッ!」 ガバッ! ザザッ!


「ほう、それがお前の本音か? それで月詠命、我が義弟よ、何が言いたい?」 ギンッ! ギラッ!


「わああ… 直弼、天帝さん怒ってるねえ…」 ははは…


「月詠様、天帝様に対しなんと大それた事をッ! (もうだめだ…月詠様の命運は尽きた…)」 ザッ フリフリ


天帝卑弥呼が、月詠命のこれまでの態度とここでの事に激怒している事は、誰の目にも明白であった。


「はんッ! 俺は今まで無能な気弱な義弟のふりをしていたがもうそれも今日ここまでだッ! 丁度ここには聖女らしい小娘もいるし、俺の真の力を見せてやるッ!」 ザッ!


「ふむ、それで…」 ジイイ…


「卑弥呼ッ! 確かにお前の神通力は最強だッ! それはたとえ聖女だろうと敵わないだろう!」 ババッ


「………」 ジイイ…


「だがなッ! 俺は天啓をッ! 神より力を授かったのだッ! お前のそれよりも遥かに強力な力をッ!」 ババッ!


「ほう、神にか、また大ボラを吐くものだな月詠」 ファサ…


「ん? 神に? まさかそれって…」 サッ


「丁度いい、お前もそこの小生意気な聖女気取りの小娘も、2人まとめて滅してくれるッ!」 ササッ! パアアンッ!


シュバアアアアーーッ! キイインッ!


月詠命は、謁見の間の床一面に巨大な一つの召喚用魔法陣を展開した。


「「 うぬッ⁉︎ なッ! 」」 バッ!


「むッ! 天帝様、お下がりをッ!」 チャキンッ!


「月詠が召喚術をッ⁉︎ それもこの大きさ、まさかコレはッ!」 ファサッ!


「ん、あれは最上位の召喚用魔法陣、彼に扱えるのかな?」 サッ


月詠命は、謁見の間の床に巨大な召喚術式が描かれた魔法陣を展開した。それを見た天帝と井伊直弼中将は驚き、その天帝を守る様に赤影は背中の長剣を抜き天帝卑弥呼を守る様に構えながら、魔法陣から離れるよう、雛壇の壇上へとへ誘導した。 ただ、アニスだけはその魔法陣を見ても慌てず、月詠命にそれが発動できるのかジッと見ていた。


「総員退避ーッ! 魔獣召喚だッ! 巻き込まれるぞッ!」 ババッ!


「「「「 退避ッ! 退避ッ! ワアアーーッ! 」」」」 ダダダッ! ガチャガチャ ババッ!


召喚用魔法陣の中にいた井伊直弼中将や近衛兵の紅玉隊も、召喚時の衝撃波や魔力風に巻き込まれない様に、魔法陣の外へ、謁見の間の外へと退避していった。


「はっははははははッ! 見よッ! コレが俺が神より与えられた強大な力ッ! この世界最強、最大の力を召喚し、貴様らを消し去ってやるッ! さあ我が意に答え出でよッ!」 バッ! グググッ!


シュゴオオオオ! ゴゴゴゴゴッ! ズズズズズ! ドオオオオオンンッ!


「くううッ! 月詠ッ! コレほどの強大な魔獣召喚術をッ! アニス様ッ! お下がりください、ここはこの卑弥呼がアレを抑えますッ! はああッ!」 バサッ! バッ! 


天帝、卑弥呼は、月詠命の魔獣召喚を阻止しようと、自身の神通力で、魔法陣の破壊を試みた。


シュバアアアアーーッ!


「はははッ! 無駄だ無駄だッ! 卑弥呼! たとえお前でもこの魔法陣は神によって授かったものだ、その程度のもので破壊などできるものかッ! さらにだ、それを使用し召喚した魔獣を抑えることなどできんッ!」 ニヤッ!


「くうううッ!」 バババッ! ビ、ビビビビ! ビリビリビリ…


「卑弥呼様ーーッ! ふんッ!」 シュババッ! パンッ! サッ サッ キンッ!


召喚時の膨大な魔力楓を浴び、耐えていた天帝卑弥呼を庇う様に、飛騨公安部員の赤影が前に出た。


「はああッ! 破双術ッ!《空破裂創壁ッ!》」 パアアンッ! シュゴオオオオーーッ!


赤影は天帝、卑弥呼を守る様に、防御壁の術を使った。


ドゴオオオオオオオオーーッ! ビシビシッ!


「ぐうううッ!」 グググッ!


「ん、あの魔力量、そしてこの魔圧と波動… やはり創造神ジオスによるものなんだ…」 ジイイ…


シュバアアアアッ! ドゴオオオオオオオオーーッ!


「うううッ! いけないッ! 召喚されるッ! アニス様ッ! お逃げくださいッ!」 ファサッ!


バアアアアアアンンーーッ! シュバッ! ドオオオオオンンッ! シュバアアアアーーッ!


「うおおおーッ!」 ババッ!


「きゃああーーッ!」 バババーーッ!


ついに、召喚魔法陣より巨大な魔獣が召喚された。 その召喚時の反動で、防御壁を築いていた赤影と、召喚を阻止しようとした天帝卑弥呼の2人は、強力な暴風となった魔力風により同時に吹き飛ばされてしまった。

 

「ぬううッ! うおおおおーーッ!」 バアアアーーッ! ビュンッ!


「ううう… あああーーッ!」 ギュウウッ! バアアアアーーッ! ビュンッ!


「んッ! いけないッ!」 シュンッ! シュバッ!


2人が吹き飛ばされるのを見たアニスは、高速移動でその場から素早く移動し、天帝卑弥呼と公安部員赤影の2人が飛ばされた先へと移動した。


シュバッ! キイインッ!


「んッ! 《アレストッ!》」 パアアンッ! シュババッ! ボフンッ!


アニスは、召喚時の魔力風によって吹き飛ばされた天帝卑弥呼と公安部員の赤影を同時に、魔法で吹き飛ばされた勢いを打ち消し2人を捕獲した。


「「 えッ⁉︎ (なんとッ⁉︎) 」」 スタタ…


「ふう、2人とも大丈夫ですか?」 ニコ ファサファサ…


「ア、アニス様…」 サッ…


「聖女アニス様。 助かりました、ありがとうございます」 サッ!


「いいですよ、それより…」 ザッ! スタッ!


「ええ… 召喚されてしまいました」 グッ!


モクモクモク… ブワアアアア……


「はははッ! さあその姿を見せよッ! 最強の魔獣ッ!【ヤマタノオロチ】よッ!」 バッ!


「え?」


シュワアアア… ニョロ ニョロ チロチロ


そこに現れたのは、霊山フジの麓にある迷いの森、樹海の主、巨大な蛇、神獣【ヤマタノオロチ】の姿だった。


「な、なな、神獣【ヤマタノオロチ】様ッ⁉︎」 ファサッ!


「ぬううッ! 樹海の主ではないかッ! 聖女アニス様ッ! 早くお逃げくださいッ!」 チャキンッ!


「ククク、逃げる? どこへ逃げると言うのだッ! 」 サッ! 


バンッ! バンッ! ガチャッ!


「出入り口がッ!」 ザッ!


月詠命は、この謁見の間、昇竜の間の出入り口を全て閉ざし、鍵をかけてしまった。


「ん? 念動力? それとも魔法かな?」 ふむ…


ニョロ ニョロ シャアアッ! チロチロ チロチロ


『我を呼び寄せたのは貴様か?』 ニョロ ニョロ チロチロッ


「そ、そうだッ! 俺が貴様を召喚したのだッ! 俺の言うことを聞くがいいッ!」 ババッ!


『ふむ…』 チロチロ


「う、ううう、もうダメ、神獣【ヤマタノオロチ】様を相手になんて無理だわ…」 ワナワナ…


「天帝様、私が最後まで御守りしますッ! 私の後ろにッ!」 チャキッ! ググッ!


『それで、我に何をさせるつもりなのだッ!』 ニョロ


「ふはははッ! 簡単な事だッ! そこにいる邪魔な者達3人を殺れッ! 抹殺するのだッ!」 ババッ!


『ふむ、そんな事か、くだらぬ用だが良いだろう、一思いに屠ってくれるわッ!』 チロチロ


「それでこそ召喚した甲斐があると言うものだッ! さあ!行けえッ! ヤマタノオロチーッ!」 ババッ!


ズワアアアッ! グイイイインンッ!


『うむ、アレか…』 チロチロ ギラッ!


月詠命の指示により、神獣ヤマタノオロチはその巨大な頭を持ち上げ、謁見の間の天井近くまで伸びて行き、何やら3人が存在する床を見つけ、そこへ目掛けてその頭を突っ込んでいった。


『この一撃で終わりだッ!』 チロチロ ビュンッ!


シャアアアアアーーッ! ギュウウウウーーーッ!


「きゃああああーーッ! もうダメええーーッ!」 バッ!


「ぐうううッ! お館様ッ! 無念ッ!」 ギュウッ!


巨大な蛇の神獣、ヤマタノオロチの攻撃が始まり、天帝卑弥呼と飛騨公安部員、赤影は死を覚悟した。神獣ヤマタノオロチの頭が高速で目標の3人に近づいた時、神獣ヤマタノオロチの耳に、聞き覚えのある声が聞こえた。


「なんだ、ヘビくんじゃないか…」 ファサ…


『なッ!』 ギュワアアアアアアアアーーッ! シュバッ ピタッ! 


チロチロ チロチロ チロロロロッ! 


「やあヘビくん、何やってんの?」 ニコ


『ア、アアアッ! アニス様ーーッ!』 ニョロニョロニョロ チロチロチロチロッ!


「「「 えッ⁉︎ (なッ⁉︎ ) 」」」 


ビュンッ! ズドオオンッ! パラパラ…


アニス達3人の手前で、神獣ヤマタノオロチはその攻撃を突然取りやめ停止し、声をかけてきた者の、その姿を見た瞬間、アニスの名を叫びながら取り乱していた。そして、その大きな頭を床に打ちつけ、アニスに謝罪を始めた。


『も、もももッ! 申し訳ありませんーーッ!』 チロチロ チロロロロ…


「「「 ええええーーッ⁉︎ 」」」 ザワッ!


テクテク サッ! ペチペチ


「ん、ヘビくん、別に謝らなくてもいいよ」 スリスリ…


アニスは、床に打ちつけたままの神獣ヤマタノオロチの巨大な頭を軽く叩き、撫でた。


『ありがとうございます』 チロチロ チロチロ


「ア、アニス様ッ!」 ソ…


「ん? どうしたの卑弥呼」 サッ


「アニス様は神獣と、ヤマタノオロチ様とは一体どう言う…」 サッ


「ああ、友達なんだ。ね、ヘビくん」 ニコ


「「 友達ッ⁉︎ 」」


『うむ、我はアニス様と親しき仲である。 まあ、忠誠を誓った言わば主従の関係に近い!』 ニョロ


「なんとッ⁉︎」


「そんな… 神獣様と主従関係だなんて…」 サッ


「ははは、でもヘビくんは今回はどうするの?」 ん?


『え?』 チロチロ


「今回、君はあの人に召喚されたんだよ? どうするの?」 サッ


『ムッ! 彼奴か…』 ギロッ! チロチロ


神獣、ヤマタノオロチは、謁見用雛壇の2段目にいる月詠命を見た。


「おいッ! 俺が貴様を召喚したのだぞッ! なぜ言うことを聞かないッ! さっさとそこにいる者どもを消し去ってしまえッ!」 ザッ!


月詠命は、自分が召喚した神獣、ヤマタノオロチが標的に対し全く動こうとしなかった事に腹を立て叫んでいた。


「ん、あの人、ヘビくんはどうするの? 言う通り、前みたいに私と戦ってみる?」 ニコ


ビクッ! ブンブンブンッ!


『は…ははは… ご冗談をッ! 私がアニス様に勝てるはずないでしょうにッ!』 チロチロ


「何をしているッ! 動けッ! このウスノロがあッ!」 ザッ


『黙れ人間ッ!』 シャアアーーッ! ニョロニョロッ! バババーーッ!


「うおおおッ!」 ビリビリビリッ!


神獣ヤマタノオロチは、喚き騒いでいる月詠命に対し、大声で威嚇し、彼の目の前に詰め寄った。巨大な蛇が月詠命を鋭い眼光で見下ろしていた。


「う、うう… あ、あああ…」 ガクガクガク…


『我を召喚し人間よ、我を召喚できた事は褒めてやろう… だが、覚えておくがいい、召喚した全ての魔獣が召喚者の意のままになると思わぬことだ!』 チロチロ


「な、なななッ 何を馬鹿なことをッ! お、お前は俺が召喚したのだッ! さあ行けッ!」 バッ!


『………』 チロチロ ジイイ…


「な、なんだよッ! 動けッ! 動けよッ! さっさと奴らを消し去ってこいッ!」 ババッ!


『…… 無駄だ、人間よ、貴様の言葉に我を動かすほどの力はない… そうだな、魔力が不足すぎるのだ。 なぜ貴様の様な者が…… ふむ、召喚できたのはあの魔法陣のおかげか… 身の丈に合わぬ召喚はその身を滅ぼすぞ人間よ』 ニョロッ! ザザアアーーッ! ニョロ ニョロ…


そう言って、神獣ヤマタノオロチは月詠命を一瞥し、彼の前から去り、再びアニスの元に戻っていった。


「うぐぐ… 召喚獣まで俺を馬鹿にしおって… あんな神獣ヤツなんかもういらんッ! 今一度俺の言うことを聞く奴を召喚してやるっッ!」 ググッ! パアアンッ! シュゴオオオオーーッ!


再び月詠命は召喚用魔法陣を起動し、新たな召喚獣の召喚を始めた。


「月詠ッ! いい加減にしなさいッ! 神獣様がお前を見限ったのですよッ! この後何を召喚してもお前の言う事など聞かないッ! 諦めなさいッ!」 ファサファサ!


「ぐふふふッ! 今度こそッ! 今度こそおおッ!」 グググッ!


シュバアアアアーーッ! キイイインッ!


「天帝様、もう無理です。月詠様のあのお姿、尋常ではないですぞ!」 ザッ!


「月詠…」 グッ…


「ん! アレはまずいね… ねえ、もうやめた方がいいよ!」 サッ!


「うるさいッ! 俺に指図するなッ! この偽聖女めがッ!」 ババババーーッ!


シュバアアアアーーッ! キュイイイインンーーッ! 


「天帝様ッ! 召喚されますッ!」 バッ! ブワアアアアーーッ!


「うううッ! 次は何がッ⁉︎ 」 ググッ… ブワアアアアーーッ!


シュワアアーーッ! ビュウウウウウーーッ!


「ん、(ヘビくんの時より弱い… まったく、ヘビくん以下の魔獣などヘビくんが制してしまう事がなぜわからない… 無駄なことを…)」 フリフリ


魔法陣から溢れる衝撃波と魔力風が、神獣ヤマタノオロチの召喚より小さいことを感じたアニスは、次に召喚される魔獣がいかに月詠命の言うことを聞いても、それを神獣のヤマタノオロチが許すわけもなく、押さえ込んでしまう事をアニスはわかっていた。


「ハアハアハア… さあ出よッ! 我が忠実なる魔獣よおおッ!」 ババッ!


ドオオオオオンンーーッ! ザザザアアアアーーッ! モクモクモク…


ヒュウウウウ… ズウウンッ! ズウウウンンッ! キシャアアアアーーッ!


「な、何あの叫び声… 何やら悍ましい何かが…」 ガクガクガウ…


「天帝様ッ! 我が背にお隠れください」 ジャキンッ!


再び召喚された魔獣の気配に、天帝卑弥呼は本能的に身震いし、その様子を見た赤影は彼女をその身を挺して守りに入った。


「ん、やっぱり召喚したんだ。 あれ?」 うん?


モクモクモク サササアアーーッ! ズウウウンンッ!


『私を召喚したのは貴様か?』 キシャアアアアーーッ!


「ハアハアハア、そ、そうだッ! 俺が召喚したッ! 大蜘蛛【アコンカグア】よッ! 貴様は俺の言うことを聞くかッ⁉︎」 ババッ!


シュウウウウウウ…


「く、蜘蛛おおおおーーッ!」 ブルブル フッ フラフラ


「天帝様ッ! お気を確かにッ!」 サッ!


そこに召喚されたのは巨大な大蜘蛛、またもや神獣の【アコンカグア】だった。その巨大な蜘蛛の姿を見て、天帝卑弥呼は気を失いかけていた。


『ふむ、なんと言う傍若無人な奴、それに魔力も弱い… まあ、いいだろう 何をすれば良い』 ガチガチガチ


「ハアハア ふふふ、アイツらをッ! 神獣共々消し去るのだあッ!」 サッ


『アイツら?』 グワアアアアッ! ズウウウンンッ! ジイイッ!


神獣アコンカグアは、月詠命が指差した方向へ向きを変え、そこにいた者達を見た。


「ひいいッ! こっちを見たあッ!」 ガクガク ブルブル


「天帝様ッ!」 ググッ!


「あ、やっぱりカグアだッ!」 サッ!


『むう、アコンカグアよ、貴様も召喚されたか』 ニョロ チロチロ


『アッ アニス様ーーッ!』 キシャアアアアーーッ!


ズウウウンンッ! ズウウウンンッ! ズウウウンンッ! ドオオンンッ! モクモクモク


「ははは、元気そうだねカグア」 ニコ


『アニス様! アニス様! お会いしたかったですう』 ガチガチ


「えッ⁉︎ ま、まさかアニス様、そちらの大蜘蛛も…」 プルプル


「ん、神獣のアコンカグア、彼女も友達だよ」 ニコ テンテン


「これがアコンカグアですってッ⁉︎ それも神獣またもや友達ッ⁉︎」 ザッ!


『うん? あら天帝の卑弥呼じゃない、10年ぶりかしら? 小さくなったわね』 ガチガチ


「ひッ! あ、はい、お久しぶりです。(あんたがデカくなったのよデカくッ! と言うか、10年前はこんなに大きくなかったじゃない! それも神獣ですって? どうしたらそんなに大きくなるのよ!)」 ヒクヒク ははは…


『アコンカグアよ、我もいるぞ』 ニョロ チロチロ


『あら、ヤマタノオロチ、いたの? 全然目に入らなかったわ』 ガチガチ


『たわけッ! 貴様は目が八つもあってこの巨大な我に気付かぬはずなかろうにッ!』 チロチロ


『ふんッ! 私はアニス様以外どうでもいいのよッ! どうでもッ!』 キシャアアッ!


『貴様は変わらんな』 チロチロ


神獣ヤマタノオロチと神獣アコンカグア、共に以前アニスが霊山フジの麓にある「迷いの森、迷宮大森林」こと「樹海」の中で歩いていた時に出会い、アニスの特訓を経て神獣へと進化した者達だったその時から彼らはアニスと主従関係になっていた。(アニスが望んだのではなく、彼らが勝手にアニスと主従関係を結んで今に至る)


「おいッ! この大蜘蛛ッ! 何をしているッ! 俺の命令が聞こえなかったのかッ! さっさとそいつら全員まとめて始末しろッ!」 ザッ!


『ああん? 貴様、人間の分際で神獣であるこの私に何指図している?』 ガチガチ


「ひッ! そ、そんな… お、俺は召喚主だぞ… お前達の主…」 オロオロ


『黙れええーーッ!』 キシャアアアアーーッ!


「ひいいいーーッ!」 ガクガク ドサ…


『アニス様を襲えといい、あまつさえ貴様が私の主人だとッ⁉︎ どうやら先に始末しなければならないのは人間、貴様のようだな』 ガチガチ キシャアアアアーーッ! ズイイイッ!


「あ、あああ…」 プルプル


「ん、カグアそこまでだよ 許してあげて」 サッ ナデナデ


『はい♡ アニス様!』 ザザ! ズウウン ズウウン…


アニスに促され、神獣アコンカグアは月詠命から離れていった。


「うぐぐ… こんな、こんなはずでは… 」 ググッ…


「ふうう、月詠、もう言い逃れはできまい、今一度聞く、何か申し開きはあるか?」 ファサ…


神によって下げ渡された魔法陣を使っての最強の召喚獣は、全てアニスの息のかかった者達ばかりで言うことを聞かず、お抱えの直属の公安部隊、鳳輦隊は月影をはじめ、未だ全員気絶したまま倒れ全滅、その上司、服部半蔵は離反、その部下と忠実な僕、猿飛佐助と宇喜田少将は連絡取れずで、月詠命は完全に万策つき孤立していた。月詠命にとって想定外の誤算であった。


「くそッ! くそッ! くそおおッ!」 ガンガンガンッ!


「アニス様、この者、月詠命の事は私にお任せください」 サッ


「ん、君たち身内のことだからね、任せます」 コクン


ジ、ジジジ シュワワワワ…


その時、召喚されたのは神獣のヤマタノオロチとアコンカグアの身体から、白いモヤのようなものが漏れ始めた。召喚術の効力が切れ始めたのであった。


『むうう…』 チロチロ シュワワワワ…


『え! そんな、もう終わりなの!』 ガチガチ シュワワワワ…


「ヘビくん、カグア、あの人の召喚術、偽りの神の魔法陣ではここが限界なんだね」 サッ


『なに、ただ元の我が樹海に帰るだけの事、アニス様、またお寄りください』 ニョロ チロチロ シュウウウウウウ…


『せっかくアニス様に会えたのに残念ですわ』 ガチガチ シュウウウウウウ…


「うん、また会おうねカグア!」 サッ!


『はい♡』 シャアアッ! シュウウウウウウ…


「時間だね」 サッ フリフリ


『『 アニス様、お会い出来て良かっ… 』』 シュバッ! ヒュウウウウ…


召喚されたのは神獣のヤマタノオロチとアコンカグアは、謁見の間、昇竜の間から元の場所、樹海へと消えていった。


「ん、さて… ん?」 ザッ! 


静まり返った謁見の間、昇竜の間の正面入り口が突然開いた。


バンッ! スチャッ!


「月詠様ーッ! こちらへ早くッ! 天帝卑弥呼ッ! 天誅ッ! 喰らえーーッ!」 カチッ!


シュバババッ! ドオオオオオオオオオオオーーーッ! ゴオオオオオオーーッ!


それは、連絡の取れていなかった宇喜田少将とその部下十数人達であった。彼らは月詠をこの謁見の間から連れ出すために、数発のロケット弾を打ち込んできた。


「愚か者共ッ! 宮廷内で飛び道具などッ! アニス様ッ! 伏せてーッ!」 ファサッ!


「ん!」 グッ!


シュババアアアアーーーッ! バババーーッ! ギュウウウンーーッ! ピッ ピッ!


アニスと天帝卑弥呼、それと公安の赤影の3人に向かって、ブレードナイトをも一撃で粉砕する強力なロケット弾が数発、火を吹き高速で迫っていった。







いつも読んでいただきありがとうございます。

次回もでき次第投稿します。

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