第275話 アニスと宮廷内護衛 鳳輦隊
ー皇居宮殿内 謁見用大広間、昇竜の間ー
ヒュウウウウ…
「おのれえ… 小娘と思って舐めておったわッ!」 ググッ!
つい先程まで、異世界人のアリス達がいて、アニスと戦いでざわついていた天帝との賑謁見用大広間、昇竜の間だったが、そのアリス達が自分たちの世界に帰り、この広大な昇竜の間にアニスと天帝の義弟、月詠命、ヤマト皇国の軍人、井伊直弼中将の3人だけになっていた。
「そこの小娘ッ! この俺が連れてまいった聖女アリス達をどこへやったッ⁉︎」 ザッ!
月詠命は、謁見用雛壇の上段から二段目の自分の位置から、その場から消えてしまった聖女アリス達5人の事をアニスに問いただした。
月詠命に目には、アニス達の動きが全く見えておらず、最後に見たのは光り輝く謁見の間の床にいたアリス達と周囲に響く鐘の音、それらが治った時には、アリス達5人の姿はなく、青みがかった銀髪と純白のスカートを靡かせたアニス1人がそこに立っているだけだったからだった。
「む! そう言われれば確かに… 聖女アリス様一行のお姿がどこにあもありませんなッ!」 キョロキョロ
「ん、アリス達なら帰ったよ」 ファサッ
「「 は? 帰ったああーッ⁉︎ 」」 ザザッ!
月詠命と井伊直弼中将の2人は、アニスの言葉に驚いた。
「か、帰ったとはどう言う事だッ! どこに帰ったと言うのだッ! 俺はそのような事、あ奴らに命じてないぞッ!」 ザッ
「ん〜、別に貴方の命令など聞く必要はないよ。 アリス達は自分達の世界に帰っただけ、貴方には関係ない」 フリフリ
「なッ! この俺に対して何と言う無礼なッ! (アリス達、聖女一行を帰しただと? この小娘、やはりこのまま天帝に謁見させるわけにはいかんな)」 ググッ!
「それより、貴方なんかより、天帝に会いたい、まだ来ないの?」 サッ
「うぐぐッ! またしても、この俺に対してあの様な態度を…」 ググッ! ギュウウッ!
「アニス様、此度の謁見騒動、月詠様の独断で仕掛けたことの様ですぞッ!」 バサッ!
「え? そうなの直弼、じゃあ天帝はここには来ないんだ」
「うむ、その様ですな、申し訳ない… 」 サッ
井伊直弼中将は、天帝である卑弥呼がここに来られない事をアニスに謝罪した。
「直弼、貴方が頭を下げる事なんてしなくていいよ、頭を上げて」 スッ
「しかし…」 サッ
「いいの、貴方も私も、いや元の世界に帰っていったアリス達や他の者も、皆んな月詠命に騙されたんだ。仕方がないよ」 フリフリ
「ククク… さすが聖女… 天帝の義弟様をうそつき呼ばわりですか、かないませんな」 ニッ!
「誰がうそつきだッ!」 ババッ!
「ん、貴方!」 サッ!
「グッ い、言わせておけばああ… おいッ! 井伊直弼ッ! 俺は天帝の義理の弟だぞッ! そんな小娘にいい様に言われてなぜ黙っているッ! これは命令だッ! 其奴を取り押さえろッ! 不敬罪だッ! 極刑にしろおおッ!」 ザッ! ビシッ!
「………」 ジッ…
天帝の義弟、月詠命は激しく怒り、アニスを指差して、その場にいたただ1人の皇国軍人、井伊直弼中将に命令した。 しかし、井伊直弼中将は全く動かなかった。
「どうした? さっさとやらんかッ! 井伊直弼ッ!」 ザザッ!
バサッ! ザッ!
「お断り致すッ!」 ギンッ!
将官位を現すマントを靡かせ、ヤマト皇国国防軍、井伊直弼中将は、月詠命の命令を断固拒否した。
「なッ… 直弼、貴様ああッ! この俺に反抗するのかあッ! これは明確な命令無視、叛逆行為だぞッ!」 ザザッ!
「そうなりますかな」 ニヤ
「うぬぬッ! もう許さんッ! 鳳輦隊ッ! 隠密護衛活動はもうよいッ! 其奴らを捕縛しろッ!」 ババッ!
「「「「「「 ははッ! 」」」」」」 シュババババッ! ザザッ!
月詠命がそう叫ぶと、謁見の間であるこの巨大な大広間、昇竜の間の至る所から突然人影が現れ、アニスと井伊直弼中将の2人を円形状に囲んだ。鳳輦隊、その数25人の黒装束を纏った、宮殿内で月詠命を警護する者達で、猿飛佐助と同じ、伊賀公安部服部半蔵配下の者達であった。
「わああッ! こんなにいたんだ、隠蔽術かな?」 う〜ん
「ぬう、アニス様お気をつけをッ! こやつらはただの兵ではない、公安の宮廷内警護部隊、どれもが伊賀公安部の高位隊員ばかりの精鋭部隊ですぞ!」 バサッ!
「高位?… ああ、あの佐助とか言う人と同じくらいと言う事だね」 ササッ
「うむ!」 コク
「ククク、さすがの小娘もこの人数相手に、手も足も出ぬ様だな!」 ニヤ ザッ
「アニス様、ここは別室にいる者達を呼んだ方が良さそうですな、数が多すぎる」 ザッ!
井伊直弼中将は、臨戦体制に構え、アニスに別室にて控えているアラン達に援軍要請を進言した。
「ん? ああ、アラン達の事ですね、でも… 月詠命がそれを許すと思う?」 サッ
「まさかッ⁉︎ 」 バサッ!
「そのまさかですね、今頃、アラン達も…」
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ー謁見用大広間、昇竜の間、別室控えの間ー
アニスと井伊直弼中将が謁見用大広間、昇竜の間に入る時、帯同者の英雄アラン、マイロ、ジェシカの3人、他国勇者のサトシとスズカ、そして、ヤマト皇国国防軍公安、伊賀公安部八咫烏隊上位隊員の隼と楓、及び井伊直弼中将配下の兵士2人の9人が別室へと案内され、そこで待機していた。
チッ チッ チッ…
別室といっても、謁見に来た者達の付き人が入る部屋である、昇竜の間ほどではないが、それでも天井は高く、縦横共に200mはあり、200人ほどが中でゆったりと過ごせる大部屋になっていた。そこにわずか9人だけである。壁にかけられた時計の音だけがやけに大きく聞こえていた。
「アニスさん、もう天帝様とやらに会えたかな?」
「ん〜、どうでしょうね、私達の帝国でも国王に謁見しようと思ったら1時間2時間はザラよ? ましてやヤマト皇国なんて最近まで国交のなかった国でしょ、そう易々とはいかないわ」 フリフリ
「ですね、僕もそう思いますし、逆の立場なら… もっと焦らしてやりますね」 ニコ
「わああ、マイロって意外と意地悪なこと言うのねえ」 ヒク!
「いえいえ、これは僕の父譲りの性格ですね」 はは…
「そうか、マイロの親父さんって、国交省の事務次官だったな」 ポン
「ああ〜… 私、マイロの家庭環境がわかった気がするわ…」 ヒクヒク…
「如何ですか2人とも、今度僕の実家に来ませんか?」 ニコ
「「 断るッ! 」」 ババッ!
「即答ですか、いや参りましたねえ」 はは…
あはははは… ワイワイ
「ふうう、英雄かああ〜…」 ジイイ…
「どうしたのサトシ?」 サッ
「ああスズカ… いや、あそこにいる彼らを見てるとね、流石はアニスさんの一番弟子だなっと思ってね」 ヒラヒラ
「アトランティア帝国の英雄の3人ね… 確かにそう思うわ。 この世界の国の一介の学生だった彼らが、アニスちゃんに出会って鍛えられ、異世界召喚者である私達勇者よりも強いんですものね」 フリフリ
「あらスズカ、貴女達だって、他の召喚勇者達より随分強くなってるわよ」 サッ
「ああ、それは俺も同感だな。 我がヤマト皇国にも2人ほど召喚勇者がいるが、お前達より断然弱いぜ?」 ふん
「楓、隼… そうかな? 私達も強くなってるのと思う?」 ササッ
「なってると思うぜ、 何せあのアニス様直々の地獄の様なあの特訓、神獣を相手にした実践さながらの生死をかけた模擬戦、それらを耐え、生き抜いたんだ。 俺も楓も、そしてお前ら2人やあそこにいる英雄の3人、他の者達とは数段… いやもしかしたらそれ以上に強くなってると思うぜ」 ググッ…
「「「 確かに、あれは何回死んでもおかしくない特訓と実戦だった… 」」」 うう…
「プッ!」 クク…
「「「「 あはははははッ! 」」」」 ワアアッ!
英雄の3人に続いて、勇者サトシとスズカ、ヤマト皇国国防軍、公安部隊上位隊員の隼と楓の4人も、その場で笑っていた。そんな中、1人の皇国軍人兵が彼らをきつく睨み付けていた。
「(チッ! 何がそんなにおかしい… まあせいぜい、今は笑っているがいいさ… お前らは絶対に許さんぞ! 特に隼に楓ッ! 地獄を見せてやる… む、そろそろ時間だな…)」 ニヤ スッ
パチンッ! ババッ!
その皇国軍人兵は、壁にかけられた時計を見て、自分のそばにあったこの控えの間の照明スイッチをいきなり切った。 外窓がない控えの間の照明が消えた事により、辺りは何も見えない暗闇と化していた。
「うん? 停電か? ぎゃああーッ!」 ドサッ
「ジェシカッ! マイロッ!」 ササッ!
「「 了解ッ! 」」 ザザッ!
「むッ! 楓ッ!」 シュバッ!
「ええッ! スズカッ! サトシッ!」 シュバッ!
「「 ああッ!(ええッ!) 」」 シュバッ!
暗闇になった控えの間で、どこからともなく聞こえた悲鳴と同時に、全員が一斉に動いた。 武器などは宮廷入り口で手放していた彼らは素手でそれに対処をするしかなかった。
シュバババババッ! バシバシッ! ドカッ! ダンッ! ドンッ! キンッ! キキンッ!
「「「「 グッ! ガアッ! ウッ! 」」」」 ドササッ! バタンッ! ドサッ!
シ〜ン……
暗闇になった控えの間で、高速に動く音や剣撃の音と共に、何人かが床に倒れる音がし、暫くしてまた暗闇だけの静かな空間になっていった。
「(ふッ! 終わったな… 流石の奴らもいきなり暗闇なっては動くことができまい。 まあ、月詠様から狙われた時点で貴様らはこうなることが決まっていたのだ)」 ククク…
静かになった暗闇の中を、先ほどの皇国軍人兵は含み笑いをしながら照明のスイッチを入れた。控えの間の照明が一斉に点き、その場の状況が照らし現れた。
パチンッ! パパパパパッ! パアアアアーッ!
「どうれ、奴らのいいザマを… 何いいッ!」 ババッ!
明るくなった控えの間の惨状を見て、その皇国軍人兵は声を出し驚いた。 そこには、英雄や勇者、そして公安上位隊員の7人が倒れている筈だった。 しかし、現状は違っていた。 控えの間の床に倒れていたのは全て黒装束に身を纏った宮廷内護衛部隊、鳳輦隊の隊員ばかりでその数18人、全てが気絶、もしく活動不能状態で倒れていた。
「ううう…」 ピクピク
「ぐううう…」 ググ… プルプル…
「そんなッ! 高位隊員で構成された鳳輦隊が全滅だと… ありえない… 」 ガクガク…
宮廷内護衛部隊の鳳輦隊18人全てが床に転がり倒れているのを見て、その皇国軍人兵は、目に前の惨状を驚愕の表情で見ていた。
シュザッ! トン
「まったく、いきなり暗闇にして不意打ちなんて、私達にそんな姑息な手段、通じるわけないでしょ」 ザッ!
「そうだね、でもジェシカ、ちょっとやりすぎですね。 あの彼なんて、両腕が明後日の方向に曲がってるし、あちらの彼は…… あれ、生きてますかね?」 ジイイ…
「あら大丈夫でしょ、手加減はしたし、こっちは素手よ素手! 見てよあれ、アイツら全員が剣を握ってたわ、投げナイフも投げてきたし、これは正当防衛よ、文句ならあいつらに言って」 ふん
「いやあ、対人戦闘でジェシカに敵うものはいないね、しかも相手の急所を的確に外してる… 彼らには、襲った相手が悪かったとしか言いようがないね」 ははは…
「あら、あなた達だって同じ様なものでしょ、傷ひとつ受けず、急所を外し余裕で倒しちゃったじゃない」 サッ
「まあね… この程度の相手じゃ僕らの敵じゃあないですね」 ササッ
「それはそうと、さっきの悲鳴は誰だ? 大丈夫なのか?」 キョロキョロ
「あそこよアラン、あの人は… そう、アニスちゃんと一緒に謁見に間に入って行った大柄の中将さんの兵士だわ」 サッ!
「マイロ、頼めるか?」 バッ!
「ああ、任せろ、治癒魔法は得意なんでね」 ニコ タタタ
マイロは、部屋の隅で血を流し倒れている皇国軍人兵の元へと駆け寄り、治癒魔法をかけ、彼の傷を癒していった。
シュバッ! ザザッ!
「スズカ大丈夫かい?」 サッ!
「ありがとうサトシ、大丈夫、どこも怪我はないわ」 ニコ
「さすが勇者だ、あれらは宮廷内護衛部隊、それも公安高位隊員ばかり集められた鳳輦隊のはず、それをこうも容易くいなすとは、やるじゃねえか」 ザッ
「それは君達もだ、君達も奴らを難なく無力化してるじゃないか、奴らは君達より上位の仲間なんだろ? いいのか?」 サッ
「仲間じゃねえよ、同じ公安部隊だが所属が違うし、隊長も違う! まったく別の奴らだッ!」ザッ
「隼の言う通りよ、彼ら宮廷内護衛部隊と言えばあの服部半蔵様のエリート部隊だわ、高位隊員ばかりの筈なんだけど…… 全然脅威を感じなかった… いや、むしろ弱者に感じたわ… 彼らの動きが遅く感じたの」 ササッ
「これも、アニス様の特訓の成果かも知れん、あれだけ動いても息一つ切れてないぜ!」 ググッ!
「それよりも隼、宮廷内でこんな事が許されるわけないわ、もしかしたら…」 ササッ
「ああ、天帝様じゃないな、ここまでの事をして、それがなかった事にできる人物…」 むう…
「「 天帝様の義弟! 月詠様だッ!(ねッ!) 」」 ババッ!
公安上位隊員の隼と楓は、今回の黒幕に、天帝卑弥呼の義弟である月詠命を言い当てた。
「「「「「 月詠ッ⁉︎ 」」」」」 ザザッ!
「そうだ、今、アニスさんと井伊直弼中将が入って行った謁見用大広間、昇竜の間にいるはずだ」 サッ
「これは罠だッ! アニス様が危ないッ! 狙われてるぞッ!」 ググッ!
「どうしようサトシ、アニスちゃんを早く助けに行かなきゃッ!」 サッ
「そうね! みんなッ!」 バッ!
「「「「 ……… 」」」」 ん〜…
公安上位隊員の隼と楓、勇者のスズカがアニスを助けに行こうと言ったが、彼ら以外の英雄の3人や、勇者サトシは全く動こうとせず、その場に立っていた。
「サトシ?」
「なあスズカ… いやみんなも、あのアニスさんだよ? 助けがいると思う?」 サッ!
ブンブンブンブンッ!
勇者スズカと公安上位隊員の隼と楓以外、皆が首を横に振った。
「まず大丈夫ね、というか、アニスちゃんに勝てる人なんていないわ」 フリフリ
「そうだな、レオハルト隊長でトントン、いやそれもアニスさんは本気を出してなかったみたいだったよな」 うん
「まったくですねッ! 仕掛けた連中に同情します。 どう足掻いても勝てない強者の存在、その身を持って味わう事になるでしょうから」 ササッ
「「「「 同感ッ! 」」」」 コクン
あははははは… ワイワイ ガヤガヤ…
床に多数の宮廷内護衛部隊、鳳輦隊の隊員が気絶、もしくは悶絶している中、彼らはアニスの事で笑っていた。
「それより、そこのお前ッ! そろそろ正体を表したらどうだッ!」 ザッ!
公安上位隊員の隼は、井伊直弼中将が引き連れてきたもう1人の皇国軍人兵に指差して叫んだ。
「う… やはり気づいておったか…」 ニヤ ザッ!
「当たり前だッ! この控えの間に照明スイッチはそこにしかねえからな! 必然的にお前が、俺達を襲った宮廷内護衛部隊の一員である事ぐらいわかるぜ!」 バッ!
「ぬうう、この俺に随分な口の聞き方だな? ええ、おいッ! たかが下級の上位隊員、隼〜ッ!」 ババッ!
そう言って、皇国軍人兵は標準装備の鎧とヘルムを脱ぎ捨てた。
「なッ! 猿飛様ッ!」 ササッ!
そう、ヘルムをとったその顔は、伊賀公安部服部半蔵隊配下の高位隊員、猿飛佐助であった。
「信じられん事だが、目の前の事は事実、外来者はともかく、隼ッ! 楓ッ! 貴様らは同じ公安部隊員に手を出し、あまつさえ、其奴らを庇った。公安に対して反逆行為として服部様に報告し断罪してやる!」 ニヤ
「お待ちをッ! これは不可抗力ですし、何より我らも襲われました。これは明確な正当防衛です。我らに非はありません!」 ササッ!
「ふん、この惨状を見て、そんな言い訳が通じると思うか?」 ククク…
「なあジェシカ、アイツ何言ってんだろう? ってジェシカッ!」 ババッ!
「アラン、私アイツ嫌い、殺ってもいい?」 ニコ イラ〜 パキパキ
「わああッ! ダメッ! ここは彼らに任せて大人しくしてくれッ!」 ババッ!
「はあ? いいの? アイツろくでもないやつよ? ここで始末した方が…」 グッ!
「ジェ、ジェシカ、とにかく落ち着こう、ここは同じ役職らしい彼らに任せよう! ね!」 グッ
「わ、わかったわよ… でも次に私達に向かってきたら一瞬で刈り取るからね」 ニコ
「「 お、おうッ! 」」 ビクッ!
英雄のアランとマイロは、ジェシカのその笑みに震えていた。
「猿飛様ッ!」 バッ
「今から報告する」 バッ! ピッ ピッ
猿飛佐助は自分達の上司、服部半蔵にここでの出来事と謁見用大広間、昇竜の間にいる仲間に携帯端末を取り出して連絡を取り始めた。しかし…
「馬鹿な、端末が使えない? いや繋がらないのか? 服部様や隣の仲間にさえ繋がらない… 宮廷内でそんな事があるのかッ⁉︎」 ババッ! ダンッ!
猿飛佐助は焦り始めた。同じ宮廷内にいるはずの上司、服部半蔵に連絡が付かず、ましてやすぐ隣にいるはずであろう 仲間にすら連絡がつかない。 予想だにしなかった事が起き慌て始めた。
猿飛佐助は知らなかった。上司である服部半蔵に何が起きていたかを、そして、隣の謁見用大広間、昇竜の間で何が起きていたかを…
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ーヤマト皇国、宮廷内護衛部隊本部、隊長室ー
カチャカチャ カキカキ
控えの間での事が起きる少し前、宮廷内護衛部隊を仕切る本部の隊長室に、隊長である服部半蔵が事務処理をしていた。彼の部屋にはたくさんの情報処理モニターが映し出され、宮廷内のその全てを監視、護衛部隊の状況や派遣を行なっていた。
「ふむ、月詠様のところへ今少し隊員を振り分けるとするか…」 カチカチ ピッ
彼がスイッチを操作すると、謁見の間が映るモニターに、+12という数字が現れ、それが部隊の増員を示す数字となっていた。
「まあ、これくらいでいいでしょう」 ふふふ
服部半蔵は笑みを浮かべモニターを見ていた時、彼の後ろから声がかかった。
「なあそれ、やめてくれないか?」
バッ!
「なッ! 【才蔵ッ!】 貴様いつの間にッ!」 ガタッ! ババッ!
驚きのあまり、服部半蔵は椅子から立ち上がり身構えた。するとそこには同じ隊長格で天位の位を持つ【八咫烏】が立っていた。
「よう、久しぶりだな半蔵」 ニイイッ!
「なぜここに? 何か用でもあるのか?」 グッ!
「あるからに決まってんだろ、総本部に行ってみたらいねえし、もしかしたら宮廷内かと思ってな、きてやったらビンゴだぜ!」 ザッ!
「クッ! 八咫烏… いや【霧隠才蔵ッ!】、どこにでも現れる厄介なやつめ…」 ググッ…
「まあ、そう嫌うなよ、それと、作戦行動中の俺は名は【八咫烏】、それで通してくれよな」 ニッ
「クッ! で、用件とはなんだッ! おれは今忙しいのだッ! さっさと言えッ!」 ギシッ!
「じゃあ手短に… 聖女アニス様に対しての全ての妨害及び敵対戦闘行動を中止させろッ!」 ズイッ!
「な、何を…」 ジッ
ドンッ!
「やめろと言ってるのだッ! 聞こえなかったか半蔵…」 グイッ!
「さ、才蔵、いかにお前の言葉でもこればかりは…」 タジ…
『いいやッ! 才蔵の意見に俺も賛成だぜッ!』 キンッ
「なッ⁉︎ この声はまさかッ!」 ザッ
「うん? なんだ、お前もきてたのか」 ふ…
シュバアアアアッ! シュンッ!
隊長室にまた1人の男が現れた。
「ようッ! 2人とも、久しぶりッ!」 サッ! ニカッ!
「【風魔小太郎ッ!】」 バッ!
『私もいるのよ、お気づきになって?』 キン
シュバアアアアッ! シュン トン ファサ…
また1人、ヤマト皇国和装姿の妙齢な女性が現れた。
「うぐぐ、【如月八千代】、お前まで…」 ググッ…
「うむ、これで公安四天王勢揃いだな」 ニイイッ!
服部半蔵、霧隠才蔵、風魔小太郎、如月八千代、この4人が、ヤマト皇国国防軍、公安部隊最長点に位置する四天王とされていて、4人ともが最強の位、天位を持つ公安部隊員であった。
「でだ、半蔵、俺の申し出、受けてくれるかな?」 グイ
「うッ それは…」 ググッ
「ねえ才蔵、私からもお願いしますね、あの聖女様、本物なんでしょ? 手を出したらダメよ」 ふふ…
「俺もだぜ、なんだったら俺と勝負して決めるかい? どうする才蔵?」 ギンッ! チャキッ!
「よせ小太郎、半蔵は一応俺達のリーダーなんだ、剣を納めよ」 キッ! サッ!
「お、おう、才蔵に言われちゃあしょうがない」 チャキン
流石の服部半蔵といえど、同格の天位を持つ3人相手をする気もなく、程なくして八咫烏こと霧隠才蔵の用件を飲んだ。
「ああ、わかったわかった、今回は俺の負けだ、言う通りにする。この件に関しては手を引く」 カチカチ ピッ
そう言うと、監視モニターの一つ、謁見の間の様子を映していたモニターの+12と言う数字が消えた。
「だが、月詠様直轄の鳳輦隊はそのままだぞ」 サッ
「ああ、それでいい」 ジイイ
「ねえ才蔵、控えの間の映像を見て」 スッ
「うん? おお、あいつらやるじゃねえか」 はは…
そこには暗視装置に映し出された鳳輦隊と英雄、勇者、公安上位隊員達が、暗闇の中を高速で動き回り、鳳輦隊の隊員が次々と倒れていく様を映していた。
「馬鹿なッ! あの暗闇の中をどうして? なぜ正確に動けるッ⁉︎ ましてやあの2人はたかが上位隊員のはず、信じられん…」 ドサッ!
「あ〜あ、全部倒しちまったぜ、ま、俺でもあのくらい、造作もねえけどな」 ふん
「(確かに、天位を持つ我らならそうだろう… だがあれはなんだ? 我ら公安とはまったく動きが違うぞ…)」 ググッ
「う〜ん… ねえ才蔵」 サッ
「なんだ八千代?」 ザッ
「あの娘、確かあなたの部下よね?」 スッ!
「うん? ああ、楓か? 確かに俺の部下だ! 隼と組ませてるが… それがどうした?」 サッ
「あの娘、私にくれないかな?」 ニコ
「ダメだッ! アイツは俺の部下であり、隼のパートナーでもある。それに…」 むう…
「それになあに?」 うん?
「ああーーッ! とにかくダメなものはダメだッ! 諦めろッ!」 バッ!
「うんッもうッ! ケチね」 プイッ!
「あれ? あれは猿じゃないか、なんだああ、半蔵、やっぱり控えの間もお前の指示だったのかあ?」 サッ
「それは、佐助の独断だッ! いちいち付き人にまで干渉できるかッ! 佐助が手を貸して欲しいと言うから手を回しただけだ! その内容は知らんッ!」 バンッ!
「そうか、じゃあ、佐助との接続を切れッ! あの場の事はアイツに責任を取らせるッ! いいなッ!」 ギン
「ああ、わかってるよ、佐助も一応高位隊員、責任の取り方くらいわかっておるだろうに」 カチ
そう言って、服部半蔵は、謁見控えの間にいる猿飛佐助の全ての連絡手段を切った。
「これで文句はあるまい?」 ササッ
「「「 ああッ!(ええッ!)(おうッ!) 」」」
公安四天王の4人は、そのまま隊長室にて、謁見用大広間、昇竜の間の様子を見ていた。
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・
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ー皇居宮殿内、謁見用大広間、昇竜の間ー
謁見用大広間の床に、アニスと井伊直弼中将の2人を円形状に囲むように、黒装束を纏った宮廷内護衛部隊の鳳輦隊25人が各々の得意武器を構えて立っていた。
「アニス様、ここは命に変えてもこのワシがお守りいたす!」 ザッ!
「ん、でも直弼、武器も持たずにやれるの?」 サッ
「こう見えても格闘術は得意中の得意ですぞ、任せられいッ!」 むふふ! グッ!
だが、1分経とうが2分経とうが、お互い睨み合うだけで動きがまったくなかった。
「ぬぬぬッ! ええいッ! 何をしておるッ! たかだか2人ではないかッ! さっさと捕えよッ!」 ババッ!
月詠命は、いつまでも動かない両者に苛立ちを見せていた。その時、月詠命の側に1人の宮廷内護衛部隊隊員が現れた。
シュバッ! ザッ!
「月詠様」 サッ
「おお、月影か、なぜ動かん? さっさと捕えよ!」 サッ
「それが、動けないのです。あの者、あまりにも隙がなく、あの位置から近づいた瞬間、こちらが討ち取られます」 サッ
「は? 何を言っておるのだ! あの様な小娘、お前達なら1人でも出来ように、何を言っておる」 バッ!
「恐れながら月詠様、あの少女、我らが束になっても捉える事叶わず、動けばこちら側は全滅が必至、ご再考をお願いいたします」 サッ
「なッ! それ程の者なのか? あの小娘…」 プルプル
「ご再考を… 」 サッ
宮廷内護衛部隊、鳳輦隊の隊長の1人である月影は、アニスの実力を見抜き、これ以上は近づけず、また捕縛など不可能と判断し、月詠命に意見具申していた。
「ええい、それでもお前達は俺の警護かッ! 何のための鳳輦隊だッ! 何のための公安だッ! 如何なる犠牲を出しても構わんッ! お前達の代えはいくらでもおるッ! あの小娘を捕らえよッ!」 ババッ!
「月詠様…」 ザッ!
「ん? なんか揉めてるみたいだね?」 サッ
「おお方、わが井伊家の嫁の凄さに恐れをなしたのでしょう、ふふふ、今更気づいても遅いわッ!」 バサッ ニイイッ!
「誰が嫁だあッ! 直弼のバカちんッ!」 ガアッ!
「わはははッ!」 ガハハハ…
ワーワー ギャーギャー…
「クッ 奴らバカにしおって… 見ろッ! 隙だらけではないかッ!」 ババッ!
「いえ… あのように騒いではおりますが、警戒はまったく解いてはおりません、それでもヤレと?」 サッ
「構わんッ! いけえええッ!」 ババッ!
「御意ッ!」 シュバッ!
シュバババババッ! ザアアアアアアーーッ!
25人もの宮廷内護衛部隊、月詠命直轄の鳳輦隊は、月詠命の号令と共に一斉にアニス達に襲いかかった。
「うおッ! 来たかッ!」 ググッ!
「ん、直弼、その場を動かないでね」 ファサ…
「アニス…様?…」 ピタ…
アニス達に向かって360度、四方八方から向かって来る黒装束の鳳輦隊に対し、アニスは右足を下げ腰を少し落とし、迎撃を開始した。
ザザザアアアアアーーーーッ!
「ん、神級迎撃剣技!」 ヴウンッ! シュバアアーーーーッ!
すると、アニスの何も武器を手にしてない右手から、青白いフォトンソードが現れた。
「なッ! ライトニングセイバーッ⁉︎ いや違うッ! グリップが無い! まさか魔法によるナチュラルソードかッ!」 バサッ!
それはアニスの柄を使わない、グリップを握らないライトニングセイバー、無から生み出された自然のフォトンソードであった。
シュゴオオオオーーーッ!
「ごめんね、《ガイエリアス.グラン.ファングッ!》」 キュピンッ! シュバッ!
ドゴオオオオオオオオオオオーーーッ! ズバアアアアアアアアアアーーーーーッ!
「うおおおおッ! ア、アニス様ーーッ!」 ババッ! グググッ!
アニスは360度、その場で少し上にはね、周囲一帯に神級迎撃剣技を放った。
ズバアアアアアアアアアアーーーーーッ!
「あッ! があああああああーーーーッ!」 シュバアアアアーーッ!
「「「「「「 うあッ!…………ッ! 」」」」」」 バババババアアアアアアアアアアアーーッ!
ドドドドドドッドーーッ! ドカドカッ! ダンッ! ザザアーーッ! ドンッ! ドサッ!
アニスの神級剣技によって、四方八方から襲ってきた宮廷内護衛部隊、鳳輦隊の25人全てが、一瞬で薙ぎ払われ、全員がそれぞれ、はるか後方に吹き飛ばされ気絶してしまった。
シュン スタ ファサファサ… シュウウウウウウ….
「アニス様…ッ!」 バサッ!
井伊直弼中将の前に、颯爽と青みがかった白銀髪と純白のスカートを靡かせたアニスが舞い降りてきた。
「なんと… 美しい… そして強いッ!」 ググッ! ブルブル
井伊直弼はそんなアニスをみて、武者震いをしていた。そしてもう1人、そんなアニスを見て震えていいる者がいた。
ドシャッ! ワナワナワナ…
「あ… あああッ… なんだッ! なんなんだよッ! なんなんだよアイツはああーーッ!」 ブルブル
自分直属の宮廷内護衛部隊、鳳輦隊25名が一斉に吹き飛び、誰1人として立つ事なく倒れているのを見て、月詠命はただ震え、腰を抜かしその場に崩れ落ちた。
「う、ううううッ! こ、こうなれば全兵力参戦だあっッ!」 ババッ! ヨロ
月詠命がそう叫んだ時、それを諌める声が謁見の間の隅々に響いた。
『そこまでです! もうお辞めなさい月詠ッ!』 キイイン!
「だ 誰だああッ! 俺に命令するなああッ!」 ババッ!
シュパアアアンンンンッ! トコトコトコ スタッ!
「私の命令が聞けないのですか月詠命ッ!」 ファサ…
「なッ! て、天帝ッ! 卑弥呼ーーッ!」 ババッ!
謁見の間、昇竜の間の最上段、そこに現れたのはここヤマト皇国の頂点であり最高権力者、天帝【卑弥呼】の姿だった。
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