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第273話 アニスとアリスの仲間達3

ー皇居宮殿内 謁見用大広間、昇竜の間ー


スバアアアアアアーーーーーッ! ギン! ギュワアアアアアアアアーーッ!


時間の止まった皇居宮殿内謁見用大広間、昇竜の間にて、タキシード姿のニベルによるアニス向けて、神級撃滅聖魔法、《ウィルガン.ギラ.ブラスト》が凄まじい破壊力を持って迫っていた。が…


シュバアアアアッ! ピタッ! シイインン…


アニスに迫っていたニベルの神級撃滅聖魔法だったが、アニスに当たる直前に、その威力を持ったまま、アニスに向けて直進の状態で音もなく静止した。 それはまるで、映画の一時停止の様にアニス達同様、宙に浮いた状態で止まっていた。


「おっとッ! 私としたことが、コレはいけませんね…」 フリフリ


攻撃中の魔法が途中で停止したのを見て、ニベルは自分を嗜めた。


「うっかりしてました。 魔法だろうがなんだろうが、私以外は全ての時間が停止している状態、『ワールドテイカー』を使用した時点で、私の側から離れれば全てその動きが停止してしまうのでしたな」 ササッ


カツ カツ カツ ザッ


タキシード姿のニベル以外動く者が一切いない、音もない静寂な世界、ニベルの歩く靴音も、ニベル自身辺りのみに聞こえていた。そんな時間が停止し全く動くものがニベル以外いない時空間世界で、ニベルはアニスの元までやって来て、アニスをじっと見た。


「ふむ… こうしてよく見ますとなんと美しい… 確かに、聖女… いやそれ以上の存在ですな、そう女神様だと言われても良いくらいです」 ジイイ…


ニベルは、アニスの動かぬ姿を間近でじっくりと見て観察した。


「ふむ、コレは良い機会です。 聖女アニス、貴女を少し鑑定させて頂きますかな。 アリスと我らのために…」 スッ!


ニベルは右手の手のひらをアニスにかざし、鑑定の魔法を唱えた。


「ふんッ!《ジャッジッ!》」 パアアアンンッ!


パキイイイッ! パラパラ…


「なッ! 鑑定の魔法が弾かれた? そんな馬鹿な、今までそんなこと一度もなかったのに… いやもう一度です!」 バッ


ニベルは、鑑定の魔法が弾かれて驚いたが、アニスに対し再び鑑定の魔法を使用した。


「むうッ! 《ジャッジッ!》」 ササッ! パアアアンンッ!


パキイイイッ! パラパラ… 


「こ、こんな… なぜ鑑定ができないッ! まさか鑑定阻害? いやありえない、時間が止まっているこの状況で、動く事のできない彼女にそんな芸当ができるはずがないッ! これでどうですッ!」 ザッ


ニベルは三度、アニスに向けて鑑定魔法を何度もかけ始めた。


「ぬうッ!《ジャッジッ!》《ジャッジッ!》《ジャッジーッ!》」 ババッ! パパパアアンッ!


パキイイイッ! パキイイイッ! パキイイイーンッ! パラパラ パラ…


ニベルが何度も鑑定魔法をかけても、アニスを鑑定する事は一切できず、その全てが弾かれ霧散していった。


「ハアハアハア… こ、こんな馬鹿な… 私は聖者ですぞッ! 数多くある魔法という魔法、その全てを極めた存在ッ! その私が繰り出す鑑定魔法がどうしてこうも弾かれるのですかッ⁉︎」 カカアアーーッ! ババッ!


ニベルが顔を真っ赤にして憤慨していた時、彼の耳元にそれは聞こえてきた。


『あまり、女の子の秘密を探るのは感心しませんね…』 キン……


「なッ⁉︎」 クルッ! ババッ!


ニベルは、耳に聞こえた声がする方向に振り向いた。がしかし、ニベルが振り向いたそこは、相変わらず時間が止まった静寂な世界があるだけだった。


ピタ… シイインン…


「空耳… いや確かに聞こえました… 信じられない事だが、この隔絶され時間の止まった私だけの世界に、私に干渉できる存在がいるッ! どこだッ! どこにいるッ! 貴様は何者だッ⁉︎」 ババッ! サッ! ササッ! キョロキョロッ!


ニベルは叫びながら、声の主を探し辺りを見渡した。それと同時に声の主はニベルと同じ時空間に現れた。


「ん、ここだよ」 シュバッ! ファサ! トン


「馬鹿なッ! 貴女は聖女アニスッ!」 ザッ!


ニベルしか動けないはずの時の止まった世界、その謁見の間、昇竜の間中央にいたニベル達から少し離れた前方の、床から3m程の高さの空間からアニスは現れ、静かに床に舞い降りた。


「ん〜、 聖女じゃないんですけどねえ…」 サッ パアアアンンッ! シュバッ!


「ぬうッ! こ、これはッ!」 ザザッ!


「貴方と同じ時の空間を繋げました。これでここは、私と貴方だけの時間世界です」 ニコ


二ベルの前に現れたアニスは、右腕を横に振り払うと、アニスとニベルの2人だけが動けるドーム状の目に見えない空間ができた。


「あ、貴女も時を… ではッ! そこにいる貴女は偽物ですかッ⁉︎」 バッ!


ニベルは時間が止まり静止して、今にもニベルの神級撃滅聖魔法の直撃を受けようとしているアニスを指差し叫んだ。


「ん? いや、そこにいるのも紛れもない私だよ、ただし、貴方が時間を動かした瞬間、一瞬でその姿は消えるけどね」 ササッ


「では今いる貴女は、そこにいる貴女の一瞬後の存在という事でよろしいのかッ⁉︎」 ザッ


「ん〜… そうかもしれない、そうじゃないかもしれない、どっちだろうね」 アハハ…


「は?(どういう意味だ?)ぬぬぬ…(いや落ち着くんだ… 想定外のことが起きたが、ここは一旦落ち着いて動かねば…) ふッ いやしかし驚きました、この私以外にも時を操る事のできる存在がいるとは思いもしませんでしたぞ」 ササッ!


「そうですね… そのことで私から貴方に一つ聞きたいことがあります。いいですか?」 ニコ


「私にですか? むう、なんでしょうか聖女アニス」 サッ


「では… 先ほど貴方が持っていた時計、どこで手に入れた物ですか?」 ギンッ!


最初は笑顔のアニスだったが、質問の最後には鋭い目つきで聞いてきた。


ブワアアアーーーーッ!


「うッ! くッ…(なんだこの威圧感はッ! 目つきが変わった瞬間、まるで巨大な大岩が体全体にのしかかるような重圧感ッ! これはいったい…)」 ズンッ グググ…


ニベルはアニスの質問を受けた瞬間、体全体に得体の知れない大きな重圧感をその体全体に感じ耐えていた。


「ん、聞こえませんでしたか?」 ザッ


「この時計のことですかな?」 ササッ チャラ チッ チッ ギッ ギギッ チッ チッ…


ニベルは、体全体に重圧を受けているのにも関わらず、表情を顔に出さずアニスに懐から海中時計を取り出し見せた。


「そう、その時計です」 コクン


「むう…(どうやら聖女アニスはこの懐中時計、『ワールドテイカー』に興味があるようですな、ならば…)ふふふ、その質問には、貴女が私に勝てたら答えますぞ、聖女アニス」 ニイイッ!


「そうですか… それは私と今この場、限定されたこの時の空間内でですか?」 ササ…


「知れた事、同じ時間空間に存在しているのであれば直接攻撃は可能ッ! はああッ!《グレイテス・スフィアッ!》」 バッ! キイインッ!


シュババババババアアーーーッ! ドドドドドドーーーッ!


「んッ!《ヴァーゼル.ファングッ!》」 サッ! キュインッ!


シュドドドドドオオーーッ! バババババーーーッ!


ニベルははいきなり、アニスに向け、魔法陣を展開し、無数の鋼鉄の槍を放ち攻撃してきた。それに対しアニスも瞬時に魔法陣を展開、ニベルの魔法攻撃に対抗した。


シュドドドドドオオーーーッ! ドガガガガガガッ! ドオオオオンンンンーーッ!


2人の魔法はお互いの中央でぶつかり合い、その威力を相殺して消えていった。


「ふッ! やりますね、聖女アニスッ! ではッ!《クリア・ソードレインッ!》」 キンッ! 


シュキキンッ シュババババババババーーッ!


「おっと!《シャインロック.アロウッ!》」 サッ! キンッ!


シュパンッ! シュバババババーーーッ! ザアアアーーッ!


バババババッ! バアアアアンンンーーッ! パラパラパラ… シュウウウウウウ…


ニベルが続けて攻撃魔法をアニスに放った。多数の透明な剣の攻撃が高速で攻撃してきたのを、アニスもまた魔法の光の矢で応戦し、またしてもその全てを相殺し消し去ってしまった。


「むうう…(なんて人だ、あらゆる魔法を極めたはずの私が聞いたことも見たこともない魔法ばかりではないか、しかもあの威力、私の帝級魔法を相殺、打ち消す威力、あれらは全て帝級魔法に違いないですな) ふッ さすがは聖女アニス、私の帝級魔法のそれを全て同じ帝級魔法で撃ち砕くとは、恐れ入ります」 サッ!


「ん? 帝級? 私はそんなに高位の魔法は使ってないよ」 フリフリ


「なッ!(私の帝級魔法を全て相殺、打ち消したあれが帝級魔法ではない、高位の魔法でないというのですかッ⁉︎)」 ググッ…


「ん〜、貴方がもの凄い魔法が使える聖者だということはわかりました。でも、もうここまでにしない?」 ニコ


「ふ、いや… まだですッ! 神級聖魔法ッ!《アールヴァル.ギガ.ランスーッ!》」 バッ! キュピンッ!


シュバアアアアッ! ドオオオオオオオオオオオーーーッ!


「はああ、仕方がありませんね」 フリフリ サッ!


ニベルから神級聖魔法による膨大な魔力を持った聖なる槍がアニスに向かって飛んで来た。しかし、アニスはその槍を見ても全く動揺せず、右手をその向かってくる聖なる槍に向けて伸ばし、手のひらを開いた。


「ん、《アルテミスリング》」 サッ! パアアアンンッ!


ドガアアアアアアーーーッ! ドオオオオオンンッ! ブワアアアアーーッ!


「ふ、かかりましたね《縮地ッ!》」 ニヤ シュンッ! シュバッ!


アニスは絶対防御魔法、《アルテミスリング》を展開し、ニベルの神級聖魔法、《アールヴァル.ギガ.ランス》を防いだ。 だが、その時の爆炎が発生した瞬間をニベルは待っていた。


ブワアアアア… ササアアー…


「ん? あれ、いない」 キョロキョロ


爆炎が晴れた先に、そこにいたはずのニベルの姿はなかった。


シュバッ! シュキイインッ!


「後ろですよ聖女アニスッ! この距離は躱せませんぞッ!」 シュザッ! 


「んッ!」 ザッ!


アニスのすぐ背後斜め上に、ニベルは爆炎を利用し、高速移動術《縮地》により急接近して現れ、彼は異空間庫より細身の長剣を取り出してアニスに斬りかかった。


「魔法は防げてもこの至近距離での剣撃、さすがの貴女でも防ぐのは無理でしょうなッ! 聖女アニスッ! 神級聖剣技ッ!《デュール.ワン.スウィングーッ!》」 シュバアアアアーーッ! ブンッ!


シュバアアアアアーーーッ!


アニスの背後斜め上から、ニベルは細身の長剣を神級聖剣技を使って斬りかかってきた。


「ん! 《ファントム》」 ブンッ!


ユラユラ シュンッ! シュバッ! ザシャアアアアアーーーーッ!


「なッ! なんですとおおーーッ!」 ザザアアアアーーッ! ビュンッ! ビュンッ! 


ニベルが、自信を持って使った神級聖剣技でアニスに斬りつけた、だが、それが当たる瞬間、アニスの姿がブレてその姿は消え、彼の細身の長剣はただ空を切るだけだった。


「くッ! 消えたッ! そんな、時が停止した世界の動ける特定空間内をどうやってッ⁉︎ どこですッ! どこにいったッ!」 バ! キョロキョロ チャキ! サッ ササッ!


限られた時の空間内をニベルは前後左右、長剣を構えたまま首を振ってアニスを探した。が、アニスの姿どころかその気配さえ感じられなかった。


「むうう、いない… 姿もその気配もない… まさかこの空間内から逃げましたかッ!」 ババッ! 


ニベルがそう判断し、声に出して結論付けた時だった。


シュバッ!


「ちがうよ」 ニコ シュンッ!


「なッ⁉︎」 バザッ! 


「はいッ!」 ビュンッ! ドカアアアッ!


「うおおおおーーッ」 ビュンッ! ダンッ! ザザアアアアーー!


ニベルはアニスの姿と気配が見えなく、感じられなかった後も、周囲を注意深く警戒していたが、ほんの一瞬の隙を突かれ、彼の視界の死角から現れたアニスから背中に足蹴りを受け、飛ばされてしまった。


「むうう… 参りましたね、こうも『時』の能力を駆使するとは…」 ググッ…


「ん? それは違うよ、今のは時を操る能力でも魔法でもないよ」 フリフリ


「何を… いや騙されませんぞ! 私は見たのです。 チェシャに貴女はその魔法を、いや特殊能力ですかな? それを使い、彼を攻撃し打ちのめしたのをッ!」 ババッ!


ニベルは時の止まった空間内にいる、仲間のチェシャに指差して叫んだ。


「ん? ああ、あれを見てたんだ… でもね、チェシャの時に使ったあの技と今使った技では、全くの別物ですよ。それに、どちらも魔法でもないですし時なんて操りません… 特に、チェシャの時のは私、個人のオリジナルの技です。 貴方の持つその時計、魔道具による『特殊機能』とも関係ないですね。 魔道具も魔法も使わない私の固有スキルの一つですよ」 ニコ


「は?(今なんと言ったのですか? 魔法を使わない彼女自身の固有スキルですと? 時間を止め、操る以上のスキル? そのようなスキル、今まで見たことも聞いたことがないですぞ!)」 ググ…


「ん~、あまり理解できてないようですね」 フリフリ


「聖女アニス、私は長きにわたり、数多くの魔法や知識を得て来た存在、だが今貴女が言ったスキルなど、聞いたことがないですぞ! しかも今、この時が停止しているこの状況、本来ならばこの私自身しか動けないはず。それを聖女アニス、貴女はなぜ動けるッ⁉︎ なぜこうして会話が出来るのです⁉︎ それも貴女のスキル、能力なのですか?」 ササッ!


「ん、そうだね… 正確に言うと、私のと貴方のと、流れる時が全くの別、同じものではないからです。 そう、私と貴方は全くの別の時間空間に存在していたのです。 今ここで止まっているのは貴方の時間空間の時だけ、私には関係ないのですが、それを先ほど私はお互いの時間空間を繋げたに過ぎないのです」 サッ


「は? いったい何を… どういう事ですかなッ⁉︎」 ザッ!


「んとねえ、私の使用している固有スキルは『時空の旅人』、スキル発動名は、《イリュージョン.リーゼ》、時だけではなく、時間軸と空間、そこに重力をも関係して、空間と異空間、時や場所を自由に行き来でき、多次元や高次元を制するスキルなの、だからこうして貴方の魔道具による時間停止にも関係なく、貴方の側にいられるし会話も干渉もたやすくできるんだよ」 ニコ


「なッ⁉︎ 時だけでなく時間軸と空間、それと重力ですとッ⁉︎ くうッ!(な、なんだそれはッ⁉︎ そのようなもの… 完全無敵、阻止把握不可能な存在ではないですか! 次元が違いすぎるッ! この少女は、聖女アニスは、時間を止めたぐらいでどうこうできる存在ではないッ! 多次元、高次元だと? そんなものは神の領域、神にしか許され…) はッ!」 ザッ!


二ベルはここに来て、今一度アニスを見た。


「ん?」 ファサファサ…


「青みがかった銀髪に絹の様な透き通った肌、絶世の美を保つその姿にそれに相応しい出立ち、ドルディ、ドルダムの聖重戦士兄弟を圧倒し、チェシャの空間を歪めた《幻想空間斬》をいとも容易く躱し、チェシャを倒したあの戦技、神話の時代の完全防御魔法と神速を極めた剣術剣技… さらに私の知らない超高速移動術に強力な魔法と固有の特殊能力スキル『時空の旅人』、これはもう間違いないッ!」 ザッ!


スチャ ザッ ザッ ザザッ!


「え?」 サッ


ニベルは持っていた長剣を地面に置き、その場でアニスに向かって片膝をつき頭を下げた。


「聖女アニス様ッ! いや女神アニス様ッ! アリスを、我らをお助けくださいッ!(間違いないッ! この御方だッ! この御方こそ、我らが長きに探し求めてきた存在ッ! アリスッ! やっと見つけましたぞッ!)」 ササッ!


「ん? どうしたの? もうやらないのですか」 ん?


「はい、今の今まで、女神で有らせられますアニス様に対しての愚行、このニベルがアリスおよび他の者たちに変わって謝罪いたします。申し訳ございません!」 ササッ!


ニベルは片膝の体制から正座に変え、アニスに対しその場で土下座をした。


「わああッ! いいよいいよッ! それに急にどうしたんですか?」 ササッ!


「はい… 先ほど、女神アニス様と相対し、私は確信いたしましぞ。 貴女様こそ私ども、アリスをはじめ我々が探し求めていた存在と確信したからです」 ザッ!

 

「ん? 探していた? この私を? なんで?」 はて?


「こうして、時が止まっている状態は行幸、女神アニス様にその全てをお話しいたします!」 ササッ!


「ん~… 女神でもないんだけどねえ…」 はは…


「は? 今なんと?」 サッ


「ん、いや… それで今回、貴方達が私とここ、この場所で、この様な状況になった事の次第と、貴方の持っているその時計に関して、話してくれるんだね」 サッ


「はい、勿論でございます。先ずは私たちの事から…」 ザッ


ニベルは、アニスに自分達のこれまでの事を全て話した。



「ふ~ん… つまり、君たち5人は既に1000年程に渡って、様々な世界を転移して旅してきたんだ。その原因が君の持つ懐中時計で、普通の時計が突然『異世界を渡る事が出来、時まで制する事の出来る魔道具、異世界間磁針時計ワールドテイカーになっていた』という事だね」 ふむ…


「左様です、この懐中時計は最初、ただ時を刻み時間を教え、アラームが鳴るだけのものでした。それがある時、突然、この時計が語りかけてきたのです」 サッ

          ・

          ・

          ・

ー1000と数年前、アリスの世界 異世界テラ ブリテン王国ー


ダダダダダッ! チッ チッ チッ ジリリリリッ!


「うッ! いかんッ! もうこんな時間ではないか、急いで会場に行かねばッ!」 ダダダダダッ!


タキシード姿の紳士が、懐中時計のアラームで自分が約束の時間に遅れているのに気づき、駆け足で王宮の中を走る姿があった。


ダダダダダッ! バンッ!


「あら、やっと来たわ」 カチャ


「遅いぜニベル、もう先に始めてるぜ!」 ニッ!


「「 執事が遅刻とは、成ってませんぞッ! 」」 ガシャ!


「ハアハアハア、申し訳ない、王よりの所用がございましてな、少し遅れました」 ハアハア…


「まあ、父上が… ごめんなさいニベル、いつも貴方ばかり使ってしまって」 サッ


「いえ、王家に使える者にとって、王より使命を受けるは最高の喜び、気にしないで下さい」 サッ


「ふふふ、さあ、こちらに来て、やはり貴方が入れてくれたお茶が最高なの、お願いできますか?」 ニコ


「はい、勿論ですぞアリス姫」 サッ!


「もうッ! ニベルったら、私たちだけの時はアリスでいいって言ってるでしょ!」 むう!


「はは、そうでしたなアリス」 カチャカチャ コポコポコポ…


ははは… ワイワイ… ガヤガヤ…


王宮の一室で、その国の第一王女、アリス姫のお茶会が毎日同じ時間に行われていた。その一室には、第一王女のアリス姫、執事兼給仕のニベル、側近兼SPのチェシャ、そして護衛の双子の戦士ドルティとドルダムの5人がいつものメンバーであった。


コクコク カチャ


「はああ、美味しい… ねえニベル、今日はなんでそんなに忙しいの?」 サッ


「はあ、実は隣国のゲルマン帝国から特使が来るという事で、そ準備にこの私めも参加せよと、王より命を受けまして、遅れたのでございます」 サッ


「もうッ! お父様ったら、ニベルは私の執事なのよ」 ぷく


「いやいやアリス、国同士のことだぜ、執事総勢でやらないといけないのさ」 ササッ!


「「 そうですぞッ! そしてその場にアリス、貴女も第一王女として参加するのでしょう 」」 ザザッ!


「ええ! そうなのニベル?」 サッ!


「ええ、まあ… 」 はは…


「仕方がないわ、その時は全部お願いねニベル」 ニコ


「はい、お任せ下さいアリス」 サッ


ははは… ワイワイ……



一週間後…


ウウウーーーッ! ヒュルヒュルヒュル… ドオオンンッ! パラパラパラ…


「総員退避ーーッ!」 ドドオオンンッ! バラバラ….


アリス達の国ブリテン王国に対しゲルマン帝国は侵攻を開始、わずか3日でアリス達のいる王都ロドンの王城にまで攻め込んできていた。


ウウウーーーッ! ダアアンンッ! ドオオオオオンンッ! ワーワー ザワザワ


ダダダダダッ! バンッ!


「アリス姫ッ!」 ザッ!


「ニベルッ! 私たちこれからどうなるのッ⁉︎ どうしてこんな事にッ⁉︎」 ササッ!


ドオオオオオンン パラパラパラ…


「アリス、とにかくここは危険です、早く脱出を! チェシャッ! ドルティ、ドルダムッ!」 ババッ!


「ああ、わかってるぜ、アリスはまかせろ」 グッ!


「「 そうです、我々がこの命に変えましても、アリスをお守りいたしましょうッ! 」」 ザザッ! ガシャンッ!


「うむ、3人とも、アリスを頼みましたぞッ!」 ザッ!


その時、アリス達の部屋に、ゲルマン帝国からの砲撃の弾が直撃した。


シュギュアアアアーーッ! ドガアアアアアアーーーーーッ!


「きゃああああーーッ!」 ブワアアアアーーーッ!


「アリスーーッ!」 バババッ! 


「「「 うわああああーーーッ! 」」」 バアアアアーーーーッ!


「うあッ!(か、神よッ! 今この時を止めてくれッ! アリスをッ! 彼女たちを救う力を私にッ!)」 ググッ!


ニベルは炎と瓦礫の中に消えていきそうなアリス達を見て、いもしないはずの神に願った。その瞬間、ニベルを除く彼らの時は止まった。


ピシイイイイーーーッ! ピタッ!


「こ、これはいったい…」 ザッ キョロキョロ


そこは全てが時が止まった静寂の世界、ニベルのみが動ける不思議な世界であった。今にも瓦礫と炎に包まれようとしているアリス、それを庇おうと、チェシャとドルティ、ドルダムの双子の戦士、どれもが写真のように止まっていた。


「私は夢を見ているのでしょうか?」 ザッ


その時、ニベルに語って来る声が聞こえてきた


『夢ではないぞ、【ニベル・マクトウス】よ』 キン


「は、だ、誰だッ⁉︎」 ババッ!


『ふふふ、私はここだ』 パアアン!


すると、ニベルの懐にある懐中時計が光り出した。


「懐中時計が…」 ササ チャラ チッ チッ チッ チッ キラキラキラ パアアアアーーッ


『そうだ、我がお前に話しかけている』 キン


「そんな馬鹿な、ただの時計が喋り出した」 グッ!


『何を驚く、お前が願ったことではないか』 キン


「私が? では… お前、いや貴方は神なのですかッ⁉︎」 ザッ


『いかにも、お前が強く助けを念じたのでな、こうして時計を依代に顕現させてもらったのだ』 キン


「では、私の願いを叶えてもらえるのですなッ!』 バッ!


『うむ、出来るであろうな、ただしッ!』 キン


「ただし、なんでしょうか?」 サッ


『この世界、この時間では、あ奴らは助からん、時間を巻き戻す、時間をねじ曲げることは、神に対する冒涜、自然の摂理に反するのでな』 キン


「ではどうやって助けるのですか? このままでは…」 ザッt


『慌てるでない、だからこの時計を依代としたのだ』 キン


「え?」 サッ


『良いか、よく聞くのだ、時間を巻き戻したり曲げることは叶わぬ、だが、彼らと共に転移はできる。そう、別の世界へと転移し、この状況から逃げるのだ』 キン


「別の世界… それは今、こうして起こっている戦争のない世界へということですか?」 ババッ!


『いかにも、この世界で起こっている事とは全く異なる世界、この世界が今、国同士の戦争をしているが別の世界ではそれが起きていない、平和な世界、その世界に逃げる、いや避難しろという事だ』 キン


「素晴らしい、ではどうやって行うのです! そのやり方をッ!」 ババッ


『なに簡単な事だ、我を、この時計を握り強く願えばいい、『より良き世界に』と、さすれば『お前達5人はずっと一緒に、いつまでも』異世界へ行けるぞ』 キン


「では… そうです、あともう一つよろしいでしょうか?」 サッ


『うむ、なんだ?』 キン


「別の世界に行って、怪我をしたり病にかかっては困ります。そこで、別の世界に行っても怪我をしても、生きていける力を、それらを乗り越える力を、私どもに授けてはくれませんか?」 ササッ


『ふむ、まあ良かろう、その時に我の、この時計、異世界間磁針時計ワールドテイカーの使い方やその能力を伝えよう』 キン


「はい、ではまず、アリスを、みんなを助けますッ!」 ギュッ! ダダダダダッ!


ニベルは懐中時計を握りしめ、動きの止まっているアリス達の元へと走っていった。


「では、いきますッ!」 ザッ! チャラ チッ チッ チッ…


『うむ、また後でな、ニベル・マクトウスよ』 キン


ギュウウッ!


「頼みますぞ神よッ! アリスを、我々を助けたもうぞッ! 異世界間磁針時計ワールドテイカーッ!『より良き世界にッ!』」 チャラッ! チッ チッ チッ ジリリリリッ! 


パアアアアーーーッ! シュッ! シュシュッ! シュバアアアアーーッ! パアアンッ! 


ニベルが、元は懐中時計であった異世界間磁針時計、ワールドテイカーを使用した瞬間、アリスとチェシャ、ドルティ、ドルダム、そしてニベルの5人は、その世界から消えていった。そしてその瞬間、その場の時間は再び動き出した。


ドオオオオオンンッ! ガラガラ ドバババババーーッ バアアアアーーーーッ! メラメラ…


その日、アリス達がいた異世界テラにあるブリテン王国は、ゲルマン帝国に征服され、世界地図からその国の名は消滅した。

          ・

          ・

          ・

「へええ、そんな事があったんだ、神ねえ…(誰だ? そんな事言って彼らをそそのかした奴は?)」 ん〜


「はい、ですが…」 ググッ…


「ん? そに場にいた君たちは助かったんでしょ?」 スッ


「確かにその場の状況からは脱し、私たちは神のおかげで助かりました。ですが… それが永久に時間と無限に存在する異世界に縛られ、元の世界に戻ることの許されない、牢獄のような旅の始まりでした」 うう… ポタ…


「はい?」 ファサ…


ニベルはアニスに頭を下げ、涙ながらに話を続けた。





いつも読んでいただきありがとうございます。

次回もでき次第投稿します。

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