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第272話 アニスとアリスの仲間達2

ー皇居宮殿内 謁見用大広間、昇竜の間ー


「はあっははははッ! はあっははははーーッ!」 ザッ


「つ、月詠様ッ! 何を言っておられるのですかッ! せ、聖女様がッ! アニス様がああッ! 月詠様ーーッ!」 バサッ! ババッ!


天帝との謁見の間である広大な屋内空間、昇竜の間で、アニスとアリスの仲間であるチェシャとの戦いの中、アニスがチェシャの凶刃にその身体を突き刺されたのを見て、高笑いをする天帝の義理の弟、月詠命の声と、それを咎める井伊直弼中将の声が響いていた。


「ククク、うるさい! 控えよ!井伊直弼ッ! 見よッ! 天帝のヤツが探し求め、貴様が連れて来た聖女は今ここに倒れた! 消え去るのだ!」 バッ!


月詠命は、謁見用大広間中央で、チェシャに身体を貫かれて微動だにしないアニス達を指差した。


「なッ! 月詠様! 気は確かなのですかッ! アニス様は天帝様直々に御指示、指名された聖女ッ! それをッ!」 バサッ!


「黙れ直弼ッ! どいつもこいつも、天帝天帝と口うるさい… あんな女にこの国を自由にさせてなるものかッ! 俺こそが天帝にふさわしいのだ!」 ザッ!


「つ、月詠様… いったい何を?」 ググッ! ザッ!


「わからぬか直弼ッ! 此度の騒動、この国に現れた2人の聖女の存在、そして、周辺諸国の騒動と我が国への無断侵攻ッ! コレはこの俺が、月詠命がヤマト皇国の真の天帝となりうるべき存在であるという事の証ッ! コレらは全て神によるシナリオの一つなのだ!」 ザッ!


「神! 神ですと⁉︎(何だ? 月詠様は何を言っている? しなりお? 何だそれは? それに、アニス様を見た直後からの月詠様のアニス様に対するあの表情と態度、性格、全てがまるで別人ではないか! いや… アレが月詠様の本来の姿なのかッ⁉︎)」 グッ!


「そうだ直弼ッ! 俺は神からの啓示を受けたのだ! 『天帝が見つけし偽の聖女を我が真の聖女と共に排除せよ、さすれば、擬である現天帝は帝座を去り、真の天帝であるお前がこの国の天帝として君臨するであろう。 コレはすでに決まっている事象、シナリオの一つなのだ』とな!」 ククク ニヤッ!


井伊直弼中将に対し、月詠命は、目を見開き演説でもしているかのように叫んいた。


「天帝様がッ! 卑弥呼様が黙ってはいませんぞッ!」 ザッ!


「ふん! 天帝、卑弥呼のヤツは此度、ここで俺が聖女アリスと貴様が連れて来た偽聖女アニスが会い対する事など知らされてはおらん」 ニイイ


「なッ では天帝様はッ!」 バサッ!


「ふふふ、察しがいいな、天帝卑弥呼はここには来ぬ! いまだに奥の院で瞑想でもしておるわッ!」 ククク


「うぐぐ… アニス様の言う通り、月詠様… 貴方は卑怯者だ!」 ググッ!


「何とでも言うがいい、貴様が連れて来た聖女アニスが姿を消せば全て俺の思惑どうり! いや、神のシナリオ通りと言った方が良いか… ククク、ちなみにお前達もここで全て消えてもらう予定だぞ、直弼!」 ニヤ


「(こ、この、天帝様に仇なす痴れ者めええ…)」 ジイイッ! ギュウウッ!


井伊直弼中将は、声には出さなかったが、激しい怒りで歯を食いしばり、両手の拳を強く握っていた。


「さて、偽聖女アニスとやらの次は貴様たちだ、そこで大人しく待っているがいい」 ククク サッ


月詠命は、不適な笑みを浮かべ井伊直弼中将を蔑み、見下した後、聖女アリスたちの方に向かって叫んだ。


「さあ、そちらの聖女アリス様の従者殿、早くその偽物の聖女、アニスに止めをッ! その不埒者をこの場より消し去ってしまえッ!」 バッ!


「ううッ! ぐッ…………」 ググッ… ツ〜 ポタッ!


月詠命に指示されたチェシャだったが、アニスの身体をレイピアで刺したまま、ただじっと身動きせず、その額にひと筋の汗が流れた。


「うん? いかがされた? 従者殿、何をしている! さっさとその者に止めをッ!」 サッ


月詠命の問い掛けに一向に返事をしないチェシャに対し、仲間のニベルが声をかけた。


「どうしましたかチェシャ?」 ザッ


「ニ、ニベルッ! 違うッ! コイツは違うッ! 聖女アイツじゃねえッ!」 ババッ!


「なッ! 何ですとッ⁉︎ ではッ!」 ザッ! チャラ チッチッ…


『ん、《ファントム》』 ニコ ブブブンッ! ユラユラ シュンッ!


「チッ! くそッ!」 シュバッ!


チェシャが言った通り、チェシャの前でレイピアに身体を串刺しにされていたアニスが微笑み、その姿はぶれて消えていった。消えた瞬間、チェシャはアニスを警戒してその場を離れた。


「何だとおッ! そんな馬鹿なッ!」 ザッ!


「おおッ! アニス様ッ!」 バサッ!


「ええッ! 消えたッ⁉︎ チェシャの特殊能力攻撃が躱された⁉︎ あの娘すごいわッ!」 サッ!


「何と! むうう… あのチェシャの《幻想空間斬》を躱した言うのですか…  信じられん、いったいどうやって…」 チャラ チッ チッ ギッ ギギッ チッ チッ


アニスがチェシャの前から姿を消し、チェシャのみがその場に立っている状態を見て、月詠命は目を大きく見開き叫び、井伊直弼中将は安堵し、聖女アリスと高身長のタキシード姿をしたニベルは壊れた懐中時計を揺らし信じられないと、それぞれ声を出し驚きの表情を見せていた。


チャキッ! ササッ! ササッ! バッ!


「くそうッ! どこだッ! どこに行ったッ!」 ババッ! キョロキョロ!


姿が消えたアニスを、チェシャは警戒しながら辺り周辺を見渡し探していたその時だった…


シュンッ! シュバッ!


「ここだよ」 ファサッ! ニコ


「な⁉︎」 クルッ! ザッ!


アニスの姿を懸命に探していたチェシャのすぐ背後に、アニスは突然青みがかった銀髪と純白のスカートを靡かせて現れた。その声に反応し、チェシャが振り向いた直後、アニスは神器ミドルダガーの「アヴァロン」を素早く振り抜いた。


「ん、《イージス.エッジ》」 シュバッ! ビュンッ!


ズバアアアアアアアアアアーーーーーッ!


「くそッ! 《ブロテクションッ!》」 サッ! パアアンッ! シュバッ!


ビシイッ! ダアアアアンンーーッ! ビリビリビリ!


「ぐううッ! な、なんて威力してやがるッ!」 バババ! バリバリバリッ! ビビ!


ドオオンンッ! シュバーーッ! ザザアアーーッ


「へええ、それも防御魔法なんだ、初めて見たよ」 サッ! チャキ!


チェシャはアニスの放った剣技を、彼の世界の防御魔法で何とか凌いだが、その全ての威力を受けきれず、傷つきながら後方に少し飛ばされてしまった。


「うう… くッ、なんてヤツだ、アレが聖女だなんて絶対嘘だぜ! ニベルッ! ありゃあどこぞの魔王か何かじゃねえのかッ!」 ググッ! ザッ!


チェシャは、僅かに傷ついた体で、目の前にいる青みがかった白銀髪に純白の上着とスカートを履き、片手に神器のミドルダガーを構えた少女を見据えながら立ち上がった。


「ふむ、あのチェシャが傷を負うとは… アリス、存外あの者は我らが探し求めていた人物やもしれませんぞ?」 ジイイ…


「ええ、本当に… (凄いッ! 凄いわッ! 今まで会った誰とも違うッ! あの娘ならッ!)」 ギュッ!


アニスとチェシャとのやりとりを見て、聖女アリスと高身長のタキシード姿のニベルは、次第にアニスにある種の期待を持ち始めた。だが、それを快く思っていない人物、月詠命が声を荒げて叫んだ。



「おのれアニスうう… 何をしているのです従者殿! さっさと其奴を片付けてしまえッ!」 バッ!


月詠命は、アニスが一切ダメージを負わず、立っている姿を見て、アリスの仲間であるチェシャに対し、アニスを倒す様催促して来た。



「チッ! 勝手言ってくれるぜッ! あの野郎… 目の前の聖女コイツがどんだけ強いのかわかってねえなありゃあ」 ふんッ! ビュンッ!


ザッ ザッ ザッ ザザッ! チャキンッ!


「ふうう、やるねえ聖女様、俺もちょっとばかし驚いたよ」 ニイイ シュワアア…


アニスに近づいて来たチェシャは深呼吸をしてから落ち着いてアニスに話しかけて来た。 その間にチェシャは、彼らの特殊能力である自動治癒が働き、チェシャの傷は少しずつ癒えて行った。


「ん、自動治癒? それとも超速再生かな? なるほどね… チェシャ、まだやりますか?」 ニコ ファサファサ


「そうだな、まだ聖女あんたの全てを観てないんでね、2回戦と行こうか?」 ニヤ


「私の全てですか?」 スッ


「ああ、さっきも言ったろ? 『俺たちには理由がある』ってね、それを見定めるまではこの戦い、やめはしないさッ!」 ジュピンッ!


「ん〜… だけどチェシャ、きみの攻撃はもう私には通用しないよ? それでもいいの?」 うん?


「はッ! 何言ってやがるッ! まだ俺とは数回剣を交えただけじゃねえか、俺の本領はこれからだぜ! 聖女様!」 ニイイッ! ババッ!


「本領ねえ… 」 ファサッ…


ブウウン ユラユラ ユラユラ


「ん?」 サッ


すると、チェシャの周りの空間が揺らぎ始めた。


「ふふふ、先ほどとは全く別物と理解しろよ!《幻想空間斬…》」 フシュンッ!


アニスにそう言うと、チェシャの身体がぶれて、先ほどのアニスの様に姿が消えていった。


「ん、またその技… いや、チェシャの言う通りだね、ちょっと違うね…」 ササッ!


シュンッ! シュバッ! シュバッ! シュッ! シュッ!


アニスの周囲空間のどこからから、高速移動音とチェシャの声が聞こえて来た。


『さあ、聖女アニスよッ! コレが俺の最大の特殊能力技だ。コレを受け切れるかなッ!』 シュババッ! ブブブンンンッ!


ジッ! ジジジッ! パリパリッ! バチバチバチッ!


姿を消したチェシャの周囲には、微細な放電現象が始まり、彼とアニスの周りの空間が歪み始めた。


ビユンッ! ユラユラ ジジジッ!


「ん? コレは… 周囲幻覚、いや… へええ、空間の歪みを作ったんだ」 キョロキョロ ササッ トン!


ブウウン ジジジ バチバチバチ ユラユラ ジジジッ!


『何ッ⁉︎(コレをもう理解したのかッ⁉︎ まさかな、聖女アイツはあの場からまだ動いてすらいねえし、いや動けないのか… そりゃそうだ、俺の正確な位置がわからねえんだ、下手に動けないか! 悪いが容赦しねえぜ、この空間は俺以外に干渉できるヤツなんざいねえからな!) ふッ! いくぞ聖女アニスッ!』 ユラッ! シュバババアアーーッ!


チェシャは、アニス達とは全く別の歪んだ空間内を高速移動し、謁見の間の中央に、神器、ミドルダガーの「アヴァロン」を握ったまま、微動だにしないアニス目掛けて突進していった。


ビュバアアアーーーッ! チャキイインッ! ブブンンッ!


『アリスッ! よく見ておけよッ! コレで聖女コイツが俺たちの求める者かどうか、ハッキリさせてやるぜえッ! 幻想聖剣技ッ!《クロノ.ギガ.キャセレーションッ!》」 シュピンッ!


ドゴオオオオオオオオーーーッ! ビュワアアアアアアアアーーッ!


「んッ!《アルテミスリング》」 ササッ! パアアアンンッ!


アニス達の周りの歪んだ空間内から、チェシャの放った膨大な魔素と魔力を含んだ神の聖技がアニスに向かって来たその時、アニスの身体は瞬時に反応し、アニスが差し出した右手の手のひらの前に、巨大な純白の魔法陣が展開され、アニス固有のオリジナル絶対防御魔法、《アルテミスリング》が展開、発動した。


ブウウンンン ジジジ ユラユラ ジジ ユラユラ


『はんッ! そんな薄っぺらい魔法障壁が何の役に立つッ⁉︎ そおらッ! 貫けええッ!』 バババッ!


「無駄だよ」 ニコ


ドゴオオオオオオーーーッ! バキイイイインンンッ! バリバリ パアアアアッ! キラキラキラ…


『なッ 何いいいッ⁉︎ 嘘だろおおッ!』 ザザッ! ブウウウンン ジジジ!


チェシャが放った彼の最高の幻想聖剣技は、アニスのオリジナル絶対防御魔法の前に、最も簡単に霧散し細かい光の粒子を残して消えていった。 そんな中、アニスは青みがかった白銀髪を靡かせチェシャが潜んでいるであろう異空間を見つめていた。


「チェシャ… きみの攻撃は私の防御魔法の前では無力、この私には効かないよ」 チャキ ファサッ!


ブウウンッ! ジジジ バチバチバチ ユラユラ…


『何だよそりゃあッ! それに何であんな薄っぺらい防御魔法があんなにも強力なんだよッ! 俺の最大最強の攻撃技だぜ⁉︎ どうなってんだよありゃあッ⁉︎』 ググッ! ザザッ!


歪んだ空間内で、チェシャはアニスが使用した絶対防御魔法見て苛立ち、叫んでいた。



「あ、あれはッ! あの防御魔法はッ!」 チャラチャラ チッ チッ


「ニベル? 貴方は彼女が使用したあの防御魔法のことを知ってるの?」 ファサ…


「はい、詳しくはないですが、その昔、神話の時代にたった一度だけ使用された防御系最大最強のものと、私も初めて見ました。ただ…」 ジイイ…


「だだ何?」 うん?


「あれほどの完璧な防御魔法が人の身で出来るのか?と思いまして…」 チャラ チッ チッ…


「そうね… 」 コクン



「ん、じゃあ、今度は私からだね」 スッ! ファサッ…


ブブンンッ! ユラユラ ジジジ ユラユラジジ…


『くッ!(聖女アイツ、涼しい顔してやがって… だが、俺のこの《幻想空間斬玄幽楼》は絶対に干渉できないッ! 何をしようとしてるかわかんねえが、受けて立つぜ聖女様)」 ブブンンッ! ババッ! ジジジ…


「ん、《イリュージョン… リーゼッ!》」 ビュヒイイインッ! シュパッ!


『なッ! 聖女アイツ、消えやがったッ!』 ブブンンッ! キョロキョロ ジジジ…


アニスは一瞬でその姿を消した。 歪んだ空間内からアニスを見ていたチェシャは、一瞬で消えたアニスのその姿を必死に探し始めた。だが、彼は完璧にアニスの姿を見失った。



「ぬッ! ア、アニス様ッ!(アニス様が消えた? アニス様の気配が全くない… そんな事までできるのかッ⁉︎)」 ザザッ!


「はッ! 聖女ヤツめ、私の聖女アリス様に恐れをなしてこの場から逃げたのか? こいつはとんでもない聖女様だなッ! はははははッ!」 ググッ!


「ほう、この気配の消し方… アリス、私の出番が近い様ですな」 サッ


「ニベル、あの娘が何をしたのかわかるの?」 サッ


「はい、手に取るように… ですが、コレほど完璧なものとはこのニベル、感服しました」 サッ!


アニスが歪んだ空間にいるチェシャの前から忽然と姿を消したのを見て、天帝の義理の弟、月詠命を除く全員が驚いていた。そして…



ジ ジジジ  バチバチバチ ブウウ! ユラユラ キョロキョロ ユラユラ…


『いない… そんな馬鹿な、高速移動はもちろん、その場から動いた一瞬、いや転移移動でさえ魔素の波が少なからず起きるはずッ! それが全く感じ取れない… まるで、『最初からそんな者が存在していなかった』かの様な…』 キョロキョロ ブウウン…


チェシャは歪んだ空間内からアニスを懸命に探したが、アニスの姿どころか気配さえ感じ取れなかった。その時、何処からともなく、歪んだ空間内にアニスの声が聞こえて来た。


ブブウン…


『どうしたのですかチェシャ? 空間攻撃はきみの得意分野だったよね? 私の位置がわからないのかな?』 ヒュン…


『なッ! やべえッ! 見えねえッ! くそッ! どこだッ! どこにいるッ! 姿を現せッ!』 バッ! バッ! ビュンビュンッ!


『姿? 私はいつでも貴方のすぐそばにいますよチェシャ、気が付きませんか?』 ヒュン…


『は、はああッ⁉︎ お、俺のすぐそばだとッ⁉︎』 サ ササッ! ブウウン ジジジ…


シュンッ! シュバッ!


『ええ、ここにいますよッ!』 ニコ ファサファサッ!


アニスはいきなりチェシャのすぐ側、彼と同じ歪んだ空間内に、青みがかった白銀髪と純白のスカートを靡かせ、笑顔で微笑みながら現れた。


「うおおおッ! げ、幻想聖剣技ッ!《ベルグ.ギガ.ゼ…》」 ザザッ!


「遅いよ、ソレは間に合わないかな、《ヴァーゼル.グラン.ファングッ!》」 ニコ シュバッ!


ギュワアアアアアアアアーーーッ! ドガアアーーーーッ! ビュンッ!


「ぐわあああああーーーッ!」 ドンッ! ダンダンッ! ザザザアアアアーーッ!


チェシャはアニスが繰り出した剣技を打ち返そうと自身のレイピアによる返し技を出そうとしたが、あまりに身至近距離とアニスの剣技の速さに間に合わず、レイピアでその攻撃を受けるのが精一杯となり、その威力により吹き飛ばされ、歪んだ空間内から元の空間に戻され、固い床に叩きつけられ止まった。


ガクガク グググ…


「うう… ち、ちくしょう… なんだよありゃ… 」 ググッ… ガクガク…


トン テクテク テクテク ザッ! クルクルッ チャキンッ!  ファサファササアア…


傷だらけになり、硬い床に伏せて身動きができずにいるチェシャの元に、元の空間に現れたアニスが、神器ミドルダガーの「アヴァロン」を背中腰の鞘に戻し歩み寄って来た。


「ん、チェシャ、ここまでの様ですね」 ニコ ファサファサ…


「チッ! ああ、まいったまいった… 俺の負けだぜッ!」 ググッ…


チェシャは自身の負けを宣告した。


「ん、コレで終わりですね」 コクン ササッ!



「強いッ! なんて方だ… アニス様ッ! ぜひ我が井伊家にッ! そして、わしを父とッ! 我が井伊家に嫁いで来て欲しいッ!」 バサッ!


「だッ だれが呼ぶかあッ! 直弼ッ! 私は絶対に嫁がないと言ったよ! もう忘れたのか、このバカちんッ!」 ババッ!


「わはははッ! そう照れるな照れるなッ!」 ガハハッ!


「ううう… こいつはダメだッ! 話が通じないッ! そうだ、一度直弼の記憶を消そう、それがいい!」 ググッ


「ほう、このわしの記憶をか、ふふふ、消せるものなら消してみるがいい、この井伊直弼! そんな事ではあきらめんぞッ! 井伊家の全てをかけてアニス様の輿入れを実現してみせるわッ! わははははは…」 ババッ カラカラッ!


「うわあ… このジジイには何を言ってもダメだッ! うう…… はああ、もういいです… (こうなれば、さっさとこの国を出よう… 逃げ切るしかないね… )」 コク


「おおッ! では…」 バサ…


「いや、だからッ!…」 ササッ…


「そう言わずに…」 ザッ…


「ヤダッ…」 サ…


ギャーギャー ワーワー ワイワイッ!

          ・

          ・

「アリス… コレはもう間違いなさそうですな」 サッ


「うん、やっと… やっと会えた…」 ポロ…


アリスはアニスと井伊直弼中将のやりとりを見ながら、涙を浮かべていた。


「では仕上げといきますかな」 二ッ! チャラ チッ チッ ギッ ギギッ…


「ニベル… そうね、貴方の力でそれを明らかにしてください」 ニコ ファサ


「はい、そのつもりですよアリス」 ササッ! ザッ ザッ


聖女アリスの最後の従者、高身長にタキシード姿の【ニベル・マクトウス】が、アニスの方に向かって歩き出した。

 

 

「聖女アリス様ッ! どう言う事ですかッ! 貴女の従者は、どいつもこいつも全く役立たずばかりではないかッ!」 ババッ! ダンダンダンッ!


雛壇2段目の天帝の義理の弟、月詠命は激しい怒りで叫び、床を踏みつけていた。


「む! 役立たずですと…」 ギロ!


「な、何だその目は! 本当のことを言って何が悪いッ⁉︎ 」 ザッ


「月詠殿、彼らは決して役立たずではありませんぞ!」 ササッ


「戯言をッ! 現にあやつらは皆、偽聖女に倒されておるではないかッ!」 ババッ!


「まだ私がおりますが?」 ジッ!


「うッ! で、では役立たずでないと言うことをその方が証明してみせろッ!」 バッ!


「もちろん、そのつもりですよ、『次期天帝候補』殿」 ニヤ ササッ


「う、うむ…」 コクン


ザッ ザッ ザッ 


タキシード姿のニベルはそう言うと、再びアニスの元に歩き出した。


「だから直弼は… ん? 直弼すまない、この話はまた後で…」 ササッ!


「アニス様? うッ ふむ、新手ですのう」 むうう…


ザッ ザッ ザッ ピタッ!


「ん? チェシャの次が貴方ですか?」 サッ


「うむ、私は【ニベル・マクトウス】、アリスの親友であり執事、そして剣でもあり盾でもある」 ザッ!


「ん、私はアニス、ただのアニス、よろしくですね」 ニコ


「ほう、『ただの』ですか」 ニコ


「ん、そう、ただのだよ」 コクン


「ふふふ… はっはははははッ! コレは面白いことを… だが、重戦士のドルティとドルダム、特殊能力持ちのチェシャ、彼らをこうまで完璧に倒す手腕、到底ただのアニス嬢とは思えませんなッ!」 ギンッ!


ズバアアアアアアアアアアーーーーーッ! ビュオオオオオオーーーッ!


タキシード姿のニベルから、膨大な量の魔素が吹き荒れ出した。


「んッ!」 ビュウウウウウーーッ! バサバサバサッ!


「うおッ! な、何と言う濃密な魔素の流れだッ!」 バサバサバサッ! ググッ!


「ほう、私の魔素を浴びても眉一つ動かさないか… さすがですなアニス嬢」 シュバッ!


シュウウウウウウ……


ニベルはそう言うと、魔素の放出を止め、それに微動だにしないアニスを褒めた。


「きみが最強の使い手の様だね、それで、『私と戦う理由』は見つかりましたか?」 サッ


「ぬ! そうか、チェシャのやつが喋ったのですな」 ジッ!


「お、おう… すまんなニベル、成り行きでな、聖女そいつに話したんだ」 ははは…


「全く、貴方は普段から口が軽いのですからね、仕方がありませんか…」 フリフリ


「ははは… いつも悪いな」 ググッ


チェシャはまだ完全に傷が癒えておらず、硬い床に座ってニベルと会話をしていた。


「さて、アニス嬢、貴方と戦う理由でしたな」 サッ!


「ん、そう、見つかった?」 サッ


「ええ、お陰様で… 我らにとって最も欲していた物が見つかりました」 サッ


「それで、貴方は何をしに私の前に来たのですか?」 うん?


「最終確認ですよ、アニス嬢」 二ッ


「最終… それは必要なことなのですか?」 サッ


「ええ、おおよそが確信、確定になるためのですッ!」 ババッ! パアアアンンッ!


シュバアアアアッ! キュンインッ! ゴゴゴゴゴゴゴッ!


いきなりニベルは、自身の前方に、真紅の魔法陣をアニスに向けて展開した。


「ん、魔法使い… いや、大賢者かな?」 ババッ! ザッ!


「いえいえ、私はその両方、『ウィザード・オブ・サージ』、『聖者』です」 ニコ


「聖者ッ! 聖者かあ… 聖者ねええ…」 ん〜


「ふう、さすがの貴女も理解ができませんか、無理もない。 人の身での最終最高位の位、聖者などと言う存在は私以外いませんからね」 ふふふ…


「ん? そうか? 私は何人か知っているぞ」 ササ


「なッ! は、ははは、何を… 本当ですか?」 ザッ シュバッ!


アニスの言葉に反応し、二ベルは展開した魔法陣をいったん解除した。


「ん、確かに人族… 人の身での最高位の職業ではあるが… 」 ん〜


「何ですかな?」 サッ


「あのね、聖者はねえ… 良く言えば『史上最強』、悪く言えば『器用貧乏』なんだよねえ」 フリフリ


「は?」 ピタ…


「あ、ほら、魔法は攻守全てにおいて最強、魔力の保有量や密度も高い、なんだけどねえ… 打たれ弱い人が多いんだ、1人じゃ何もできない人が多かったんだよ」 あはは…


「ふふふ、では私はその例外の1人でしょうな! 私には聖者以外にも神からの恩恵という力がありますので…」 ニヤ


「ん? 恩恵? それって『自動治癒』? それとも『超速再生』? または高速移動術上位の《刹那》のこと?」 うん?


「ふむ、さすがですな、確かに我々は皆、全員が『自動治癒』と高速移動術の《刹那》を神から恩恵として備わっています、しかし、私にはそれとは全くの別の物ですッ!」 バサッ! チャラチャラ チッ チッ ギッ ギギッ!


そう言うとニベルは、懐から懐中時計を出し、アニスに向けて見せた。


「ん? 時計?」 ジッ


「コレが私が授かった神の力だッ! 我が意に応えよ『ワールドテイカーッ!』」 カチッ!


パアアアンンッ! ジリジリジリジリッ! キイイイインン ピタッ!


懐中時計から凄まじいベルの音が鳴った瞬間、ニベルを除く全ての時間が停止した。静寂の世界、そこに動いているのはニベルただ1人であった。


「ふうう、壊れかけとは言え、時間を止める基本能力は無事に作動した様ですね」 チャラ、パカッ! チッ チッ ギッ ギギッ チッ チッ


シイイイイインンンン………


「ふふふ、どうですか? コレがこの懐中時計、『ワールドテイカー』の能力の一つですよ、アニス嬢… と言っても、時間が止まっていては聞こえませんね」 ニコ サッ!


全ての時間が停止した世界で、懐中時計の保持者であるニベルのみが動き、笑みを浮かべていた。


「さあ、聖女アニス嬢、貴女が私たちが探し求める者ならば、これを避けて見せなさいッ! いや、避けれるはずですッ!」 ザッ!


シュパアアアンンンンッ! ギュオオオオオーーッ キイインンッ! バババ!


全ての者の時間が止まり、全く動いていないアニスに向けて、ニベルは右手を差し出し、巨大な金色の魔法陣を展開した。


「むううッ! 神級撃滅聖魔法ッ!《ウィルガン・ギラ・ブラストーーッ》」 キュインッ!


ズドオオオオオオオオオオオーーーッ! ギュワアアアアアアアアーーッ!


金色巨大な魔法陣から、同じく金色の膨大な破壊力を持つ魔法奔流が、身動きの出来ないアニスに向かって放たれていった。





いつも読んでいただきありがとうございます。

次回もでき次第投稿します。

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