第271話 アニスとアリスの仲間達
-皇居宮殿内、謁見用大広間、昇竜の間ー
シュバッ! ババッ! ドゴオオオンンーッ! ガラガラッ! ドオオオンンッ!
皇居宮殿内にある広大な大広間、昇竜の間は、激しい破壊と移動音、それとそれに伴う衝撃波によって、まるで戦場さながらの様相を見せていた。
「ア、アニス様… (なんという速度だ! このわしが残像しか見えんとは…)」 ググッ!
ドゴオオオオンーーッ! パラパラパラ…
広大な大広間、昇竜の間は天帝との謁見の間として使われる場所で、縦横300m、天井高20mもある巨大な屋内空間であった。その天井を支えるのは、一本が直径4mもある大理石の柱が数十本立ち並び、まるで巨人が住まう宮殿の様相を見せていた。
そしてそんな広い屋内空間を、アニスと聖女アリスの仲間であるドルディとドルダムの双子の兄弟とが高速移動術を使い、出会ってすぐに敵対しいきなりぶつかり合った。
シュッバババーーッ! チャキッ!
「ヌウンッ! 《スレッガー・スラッシュッ!》」 ブンッ!
シュバッ! ドオオオーーッ!
「ん、《クリア》」 サッ キイインッ!
ビシイッ! バアアアンンーーッ! パラパラ…
「クッ! 極所防御魔法だとッ! やりおるッ! ドルディッ! この者に通常の剣撃術は効かなそうだぞッ!」 シュババババーッ!
「ウム、しかと見ていたぞドルダム、さすが、アリスが会ってみたいというだけの人物、これは当たりかもしれんな!」 シュバッ!
「ああ、しかもあの者、武器を持っておらん! 素手だぞッ!」 シュンッ! シュババッ!
「むうう、素手で我らをいなすこの挙動ッ! 瞬時に反応するあの技、身体能力! あの者は…」 シュンッ!
シュバッ!
「無駄話はダメですよ」 ニコ
《縮地》で高速移動をし、アニスの評価をしていた双子の兄弟の背後にいきなり、そのアニスは現れた。
「「 なッ! 《《 ウィング・スレッジッ! 》》 」」 キキンッ!
シュババババッ! ヒュババババッ! ドオオオーーッ!
「わッ! 《グランツ.カッツェッ!》」 シュキンッ! ビュンッ!
シュバババババーーッ! ドドドドオオオオオンンーーッ! パラパラパラ…
突然背後に現れたアニスに向けて、ドルディとドルダムの2人は咄嗟に、振り向きながら剣聖剣技、《ウィング・スラッシュ》を2人同時に放った。だがアニスはそれを至近距離であるにもかかわらず、背中腰にある神器、ミドルダガーの「アヴァロン」を素早く抜き、帝級剣技、《グランツ.カッツェ》で打ち返し、その威力を相殺し消し去ってしまった。
「「 何とッ! この至近距離をダガーごときでだとッ⁉︎ この者… 底が見えぬッ! 」」 ググッ! シュババッ!
シュンシュンッ! タタタタッ! シュババババッ!
「ん〜、いきなり同時に剣技を放つからびっくりだよ」 シュババッ! シュンッ!
ドオオオンンン……
「チェシャ… 今のを見たか?」 むうう…
「ああ… しっかりとな、アイツらが背後を取られるなんて初めて見たぜ」 はは…
「うむ、それだけではないッ! 2人が出した剣技を咄嗟に返したあの動き、そして見慣れぬあの剣技… アニスだったか? あの少女は本当に聖女なのかもしれん…」 ジイイ…
「いやいやニベル、まだ分からないぜ、確かにアイツらの背後を取ったのには驚いたぜ、かなりの実力を持っている事は確かだ。 だが、まぐれって可能性もあるんじゃないか? さっきのだってただ偶然にできた剣技なのかもしれないし、それだけで聖女と決めるのはまだ早いぜ」 ニッ…
「むうう…」 ジイイ…
「…… (そう、チェシャの言う通りだわ… あの程度くらいの者は今まで巡って来た世界に何人もいた、出会って来たわ… だけどどの人も、私たちの望む者では無かったわ… さあ聖女アニス、貴女は私が… 私たちが望む能力、力の持ち主かどうか、それを今この場で見せてッ!)」 ググッ!
シュンッ! シュババッ! ダンッ! ドオオオンンンッ! バキバキバキバキ!
「「 むううッ! おのれッ! なぜ当らんッ⁉︎ 全ての剣撃が躱せられておるッ! 」」 ビュビュンッ! ババッ!
シュババッ! サッ! ササッ! シュンッ! ドオオオオンンーーッ! パラパラ…
ドルディとドルダムが繰り出す多彩な剣聖剣技や技を、アニスはまるで踊るかの様に紙一重で彼等の攻撃を全て躱していった。
ビュンビュンッ! シャシャッ! サッ ササッ! ヒュンッ!
「ふんふんッ♪ よっとッ! ん、今の剣筋はいいですね」 ニコ シュババッ! ササッ!
「ぬうッ! 遊んでおるのかッ! ならば、ドルディッ!」 ババッ! シュダダダダッ!
「おうッ! 分かっておるッ! アレだなッ! ドルダムッ!」 シュダダダダッ!
「そうだッ! 我らの最大級の剣撃だッ! いくぞッ!」 シュバッ!
「おうッ! 久々に腕がなるわッ! これであの者の底が知れると言うものッ! さあッ! 本性を見せてみろッ!」 シュバッ!
「え?」 シュンッ! タタタタッ!
「「 《刹那ッ!》 」」 ギンッ!
シュザッ! ドオオンンッ! ビュンッ! シュバババババーーッ!
ドルディとドルダムの2人は、《縮地》での加速をさらに上げ、《縮地》の上位である高速移動術《刹那》を使用した。
「んッ⁉︎ アレは… へええ、《刹那》じゃないか、使える人がいたんだ!」 シュババッ!
「「 フフム、どうだ聖女アニスとやら、《刹那》は我らの最大最速の移動術、いかに聖女と言えどこの速度は見切れまいッ! まあこの速さだ、我らの姿を捕える事はほぼ不可能、声も届かぬか… 」」 ふふんッ! シュタタタターーッ! ビュンビュンッ! ビュバアアアアーーッ!
「おいおい、アイツら本気になってるぜ、どうするよニベル?」 サッ
「むうう、あの2人が本気を出すなんて事、いつ以来だったか… ですな、アリス?」 グッ
「…… (248年前だわ、2455回目の異世界『ノールダム』、その世界に落ちた私たちの前に現れた、その世界最強の生き物… 暴れ回っていた亜竜、『ゴライアス』、その亜竜をドルディとドルダムの2人は一撃で倒してしまった。彼らが本気を出したのはアレが最後、その後はどの異世界でも本気を出すなんて事なかったのに… )」 ギュウウッ!
「行くぞ! 聖女アニスッ!」 ジャキンッ! シュババババーーッ!
「亜竜の頑強な鱗をも切り裂く我らの剣技ッ! とくとみるが良いッ!」 シュキンッ! シュババババーーッ!
「ん? あ、こっちか」 クルッ! ファサッ! チャキッ!
ドルディ、ドルダムの2人が超高速の移動術で動き回り、アニスに向けて攻撃を仕掛けようとしたその時、アニスはドルディとドルダムの2人が仕掛けてる方向に青みがかった銀髪と純白のスカートを靡かせ、いきなり振り向いた。
「「 バカな、気付かれたッ⁉︎ 」」 シュババババーーッ!
クルクルッ! チャキッ!
アニスは手に持っていた神器、ミドルダガーの「アヴァロン」を回し逆手に持ち替え、彼らに向け構えた。
「いやドルダム、偶然だッ! 見えるはずがないッ!」 シュババババーーッ!
「そうだッ! このまま行くぞッ! ドルディッ!」 シュババババーーッ!
ドルディとドルダムの双子の兄弟は、《刹那》の超高速をそのままに、アニスに向かって剣を振った。
ギュウウウンッ! ザザッ! ジャキイインッ!
「「 神級聖剣技ッ!《ドラゴ.オーバーブロウッ!》」」 シュピンッ!
ドゴオオオオオオオオーーーーッ! ギュワアアアアアアアアーーーーッ!
超高密度で強大な威力を持つ鋭利な衝撃波が2人から放たれ、それはアニスに向けて飛んでいった。
シュザッ! ググッ!
「ん! 神級撃滅剣技、《アルテナ. グラン.リッパーッ!》」 シュバッ! ビュヒンッ!
ズバアアアアアアアアアアーーーーーッ! ドオオオオオオオオーーーーッ!
「「 何いいいーーッ⁉︎ 」」 ババババーーッ!
アニスから、超高密度の魔素を含んだ純白の光の刃が放たれ、それは向かってくる同じ超高密度の強大な威力を持つ鋭利な衝撃波に向かって飛んでいった。あまりに突然のアニスによる返し剣技に、ドルディとドルダムは目を見開き、自分たちが繰り出した剣技と、迫り来るアニスが放った剣技が正面衝突するのを、ただ見て叫ぶ事しかできなかった。
ドオオオオオオオオオオオーーーッ! ビュワアアアアアアアアーーーッ!
「「 なッ! 何だアレはーーッ! 」」 ザザッ! バサバサバサ!
「きゃあッ!」 バサバサ!
両者の剣技の影響で、辺りには突風が吹き荒れ、少し離れて見ていたアリスやアリスの仲間のニベルとチェシャの3人は、アニスの放った剣技による突風に耐えながら、その威力の大きさに驚きを隠せなかった。そしてアリスは…
「ああ… アレはッ!( 純白の聖なる剣撃… アレは正しく神の剣技ッ! 私たちの神、大伸オーディンがさらに上位の神より譲り受けたと言われている神の、神による聖技… まさか… まさかッ!)」 ググッ! ブルブル
アリスは体を震わせながら、アニスの剣技に見入っていた。
ビュワアアアアアアアアーーッ! ビシビシッ! ビリビリビリッ!
「ぐおおおおーッ! くッ ア、アニス様ッ! (何と言う剣圧ッ! これ程の体術に剣術ッ! ましてやあの器量にその姿、欲しいッ! 欲しいぞッ! 是非とも我が井伊家に必要な人材ッ! 手放す事などできんッ! 何としても取り込めなければッ!)」 ググッ! バアアアアアアアーーッ! バサバサ!
アニスの後方で、その全てを見ていた井伊直弼中将は、アニスの技量と技、その立ち振舞いに見惚れ、その存在価値を認め、いかに自身の家に取り込もうか考え始めた。
ビシイッ! ドゴオオオオオオオオーーーンンッ! ドバアアアアアアアアーーッ!
「「「「「「 わあああああーーッーーッ! 」」」」」」 ブバババアアアアアーーーッ!
ゴオオオオオオオオオオオーーーーーッ! バキバキバキバキッ! ベキイッ! ドオオオオオンンッ! バラバラバラ ビュホオオオオオオーーーーンン……
両者の剣技がぶつかり合い、激しい爆発と爆炎、爆風がそこに起きた。アニス以外の者達は、その威力と爆風に声をあげ耐えるしかなかった。そしてアニスが放った神級撃滅剣技は、ドルディ、ドルダムの放った神級聖剣技を相殺するどころか粉砕し打ち破り、そのまま天井を突き破って、天高く大空の彼方へと消えていった。
「「 うおおおーッ! 」」 ビュンビュンッ! ドンドカッ! ザザザアアアーーッ!
超高速移動術《刹那》を使っていたドルディとドルダムは、今の爆発の衝撃をモロに受けた影響で、超高速移動術《刹那》は解け、体が言うことを聞かずこの広い昇竜の間の硬い床に叩きつけられてしまった。
シュウウウウウウ… パラパラ パラ… ザザッ!
「うぐぐ… あ、あの者の力が… こ、これほどとは…」 ドサッ!
「ド、ドルダムッ! ぐぐ… わ、我らの完敗… だ…」 バタッ!
ドルディとドルダムの双子の兄弟は、その場で意識を失い倒れてしまった。
「「「 ドルディッ! ドルダムッ! 」」」 ババッ!
アリス達は気絶して倒れた2人に声をかけたが、2人は気絶したまま起き上がる事はなかった。
クルクルクルッ! チャキンッ! テクテク スタッ!
「彼らなら大丈夫ですよ、多少、怪我をされてるかもしれませんが、命に別状はありません」 ニコ ファサファサ
アニスは青みがかった銀髪と純白のスカートを靡かせ、神器ミドルダガーの「アヴァロン」を背中腰の鞘に戻し、全く疲れを見せず笑顔で答えた。
「きれい… なんてきれいな娘なの… あんな娘がこの世界に存在していたなんて…もしかしたら…」 ギュッ
アリスは、全く疲れを見せず、颯爽と笑顔で立っているアニスの姿に見惚れていた。
ヒュウウウウウウウ…… バサバサ ザザ…
「あの2人が気絶だと? 信じられん…」 ザッ
「だが事実ですよチェシャ、これは容易ならざる相手の様です」 サッ
ニベルとチェシャの2人は、床で気を失っているドルディとドルダムの姿を見て、アニスの方を見た。
ニコニコ ファサッ! サッ!
アニスは青みがかった銀髪を靡かせ、笑顔でアリス達の方に右手の手のひらを上に向けて、『さあ、もう良いですか?』と無言の問い掛けをしてきた。 だが、アリスの仲間達はそれを『さあ、次は誰?』とアニスが彼等を誘い煽っている様に捉えた。
「くッ! あの聖女、誘ってやがるぜ!」 ググッ!
「チェシャ、落ち着きたまえ。 あれは動揺を誘っているのだ。 ああやって、こちらを惑わせているに過ぎない… 仕方がありません、ここは私が行きましょう」 ザッ! パチンッ! チャラ
ニベルと言うタキシード姿の長身の男は、首から下げている懐中時計の蓋を閉めて懐にしまい、アニスに向けて一歩踏み出した。
「待てよッ!」 グイッ!
「うん? チェシャ、何ですか?」 ピタ
「ここは俺の出番だぜ! いいか、あの聖女… アニスだったか? ありゃあ、ただの聖女じゃねえな、俺の感がそう言ってるぜ、だから俺がアイツの相手をしてやる。 ニベル、お前はアイツの実力を測ってくれ、いいな」 ニイイッ!
「チェシャ、少女を相手にしないんじゃなかったのですか?」 ニッ!
「はんッ! アレのどこをどう見たら少女なんだよッ! アイツらが手も足も出ないどころか気絶までさせられてるんだぜ! 聖女だってのも怪しいもんだ! こうなれば俺が行くしかねえだろ?」 ニイイッ!
「はああ… ではその様に、でもいいですか、くれぐれも油断はせぬ様にお願いします。 あの者、チェシャが言う通り、ただの少女… いやこの世界の聖女などではなく、それ以外の全く別の存在やもしれませんから…」 ササッ!
「なんだそりゃ? まあいい、行ってくるぜ!」 シュバッ!
そう言って、チェシャと名のる、白いTシャツに濃紺のジャケットとパンツスタイルの男はその場から姿を消した。
「… (あの娘が煽る? 違うわ、アレはもっと別の意味の仕草… チェシャ、十分に気をつけてね) はッ! ドルディとドルダムはッ!…… はああ、良かった、本当に気絶しているだけだわ」 ふうう…
アリスは、昇竜の間の隅で気絶し倒れているドルディとドルダムの様子を見て、2人が息をしていて大した怪我もしてない事がわかり、胸を撫で下ろした。
ザッ! ダンダンッ!
「な、何をやっておるのだッ! 2人もやられたではないかッ! それでも聖女一向かッ⁉︎ 恥を知れ恥をッ!」 ダンダンッ!
月詠命は、ドルディとドルダムが床に気絶して、身動きひとつしないのを見て、その場で顔を赤くして、足を床に踏みつけ鳴らし叫んでいた。
ヒュウウウウ… シュバッ! ザザザアアアアーーッ! ザッ ザッ ザッ
「チッ うるせえ野郎だなあ、ちったあ自分で動いて見せろや、腹が立つッ!」 ザッ ザッ ピタッ!
「ん?」 サッ
「よう、待たせたな」 ニッ
「次は貴方が私の相手をするのですか?」 サッ
「おう、そうだ! 俺の名はチェシャ、よろしくな聖女様」 サッ
「ん〜、聖女じゃないんだけどねえ… 私はアニス、チェシャさんね。 なぜ私に攻撃をするの? もうやめませんか? 無駄なことだよ」 スッ
「まあな、俺としてはやめたいんだが、あちらさんがね… どうしてもお前さんが、聖女アニスがここにいるのが気に入らないんだそうだ」 チラッ
そう言って、チェシャは雛壇の2段目に立ってこちらを見ている天帝の義理の弟、月詠命を見た。
「またあの人か… 君たちほどの実力者が何であの人の言いなりなの?」 サッ
「うん? 別に言いなりになってるわけじゃねえ、俺たちには俺たちなりの理由でお前さん、聖女アニスに興味があってね…」 ニッ!
「私に? ん〜、言っとくけど嫁にはならないよ!」 サッ
「違うッ! 誰が嫁になれなんて言ったあッ!」 ガアッ!
「じゃあ何? 私の何に興味があるの?」 ササッ
「まあそいつは俺が負けたら答えてやるぜ、いや負けたら俺たちの方が答えを得る方かもな!」 ザッ!
「ん、何それ?… まあいいです。 それでチェシャさん、私はキミに勝てばいいんだね?」 ニコ
「ああ、そうだ… フフ、それでは聖女アニス!」 ニコ チャキッ!
「ちょっと待ていいーーッ!」 ダダダダダッ!
チェシャが腰にあったレイピアに手をかけた時、アニスの後ろから、井伊直弼中将が声を上げかけ出し近寄ってきた。
「ん? あ、直弼だ」 クルッ サッ!
ダダダダダ ザザアアーーッ!
「ふうふう、はあはあ… ア、アニス様、貴女は先ほど、重戦士2人と戦い勝利したばかり、今はお疲れであろう、ここはこの直弼に任せていただきたい!」 ザッ!
「直弼…」 サッ
「はあっははははッ! おいおっさん、冗談はよせよ! あんたが俺の相手をするだと? 無理無理、冗談は顔だけにしてくれよな」 ククク ヒラヒラ
「貴様ッ! わしを愚弄するつもりかッ!」 ザザッ! バサッ! チャキッ!
「直弼よしてッ!」 バッ!
アニスは今にもチェシャに向かって、腰に帯刀していた大太刀を抜き攻撃しようとした井伊直弼中将を止めた。
「アニス様…」 ササッ
「へええ、さすがアリスが気に留める聖女だぜ、俺の力を理解している様だ。 まあ、こんなおっさん1人なんざ、俺にとっては瞬殺だからな」 ククク
「おのれえ… ふざけおって! この…」 ググッ!
シュバッ!
「邪魔なんだよ、どいてくれるかな?」 ブンッ! シュバッ!
「なッ⁉︎」 バッ!
井伊直弼中将が大太刀を手に構えようと僅かに動いたその一瞬、チェシャはいきなり姿を消しその直後、井伊直弼中将の目の前に現れ、井伊直弼中将の鳩尾に右足で蹴り付けた。
「ふんッ!」 ドカアアッ! ドオオオオオオオオオオオーーッ!
「ぐおおおおおーーッ!」 ビュンッ! ドカッ! ザザザアアアアーーーッ! ガクン…
チェシャの蹴りを受けて、井伊直弼中将は10mほど後ろに飛ばされて止まり、その場で片膝をついた。
「ぐうう、何と言う重たい蹴りだ… 鎧を着ていてもこの威力とは…」 ザ…
「直弼、大丈夫ですか?」 ササッ!
「アニス様… うむ、この程度、どうと言うことは… 痛てて…」 ササッ フリフリ
「ん、大丈夫そうだね。 直弼、そこで休んで見ていてくださいね、この人の相手も私がします」 ニコ
「ククク、だから言ったろ? あんたじゃ俺の相手は無理だって、聖女アニスの言う通り、そこで大人しく見てな!」 ニイイ
「おのれえ…」 ググッ
井伊直弼中将は、鳩尾の痛みが未だ取れず、アニスの指示に従うしかなかった。
「さてと、本当に私と戦うの?」 サッ
「はッ、ドルディとドルダムの2人を倒しといて言うことかねえ… アイツらの仇って事じゃねえが、俺たちには必要な事なんだよ!」 ザッ
「必要? 私と会い対する事がですか?」
「そうだ、そして… さようならだッ!」 ギンッ! シュバッ! ザンッ!
チェシャはいきなりアニスの顔に向けて、素早くレイピアを突き出した。
「ん!」 ヒョイッ! ビシイイっ! ファサファサ…
アニスは頭を少し傾けて、紙一重でチェシャのレイピア攻撃を躱した。
「へええ、凄え凄えッ! 初見殺しのこいつを躱した奴は久しぶりだぜ!」 ニイイッ! ヒュンッ!
「ん! いきなり女の子の顔に向けてする事ではないですね!」 ジイイッ!
アニスは攻撃してきたチェシャの顔を睨んだ。
「おおッと、そう睨むなよ。手加減はしたつもりだぜ? 何も本当に聖女の頭を突き刺そうって思っちゃやいねえ、コレは挨拶だよ挨拶」 ニッ シュキンッ!
「挨拶ねえ… キミは挨拶に相手を攻撃するんだ」 ジイイ
「なあに、得体の知れん奴にはみんなやってることさ、だから今回も聖女が何者かわかりゃしねえ… ただの少女?… いや違う、ではこの世界の聖女?… それも違うな、ドルディとドルダムを圧倒する力がそれを証明している。だったらアニス、貴女は何者だッ⁉︎ それを見極めるための行為だッ!」 ビュンッ! ビュビュンビュンッ!
チェシャは再びレイピアによる高速の突き攻撃をアニスにしてきた。
「んッ! だからやめないかッ!」 シュバッ! バババッ! ササッ! ヒュンヒュンッ!
アニスはチェシャが繰り出す無数の突きのその全てを、僅かに体や頭を動かすだけで躱していった。 だが、チェシャは攻撃に手を緩めず、レイピアでの連続突きを続けていた。
「チッ! 当らねええッ!」 ヒュンッ! ビュンビュンッ!
「だから、顔を狙うなあッ!」 バッ! キイインッ!
ドオオンンッ! シュバアアアアーーッ!
「何いいッ⁉︎ 魔法だとおッ⁉︎」 バッ!
ドゴオオオーーンッ! バラバラ パラパラ…
チェシャの連続攻撃に、アニスは無意識に赤い小型魔法陣を形成し、チェシャの足元に向けて1発の爆裂魔法弾を放った。チェシャはアニスが何の前触れもなく、無詠唱でいきなり赤い小型魔法陣を形成、展開し、攻撃してきたことに驚ていた。
ザザアアーーッ! ピタ
「ふうう… む、無詠唱だと? 高等魔法術じゃねえか、全く… 幾つの隠し技を持ってるんだ?」 ニヤ
「ナイショですよ。 でもチェシャッ! 女の子の顔を狙うのは本当にダメですよッ!」 ビシッ!
「は? チェ、チェシャって…」 ザッ
アニスはチェシャを呼び捨てにして注意した。そのことにチェシャも動揺した。仲間以外からは呼び捨てなどさせた事がなかったからだった。
「そうよッ! ダメよチェシャ! 絶対にダメッ! 女の子の顔を狙うなんて、そんな行為は私も許しませんッ!」 プクッ!
仲間であるアリスも相当怒っていた。
「うへええアリス〜、ははは… 起こられっちまったよッ! しょうがねえな、聖女アニスッ! 顔以外は覚悟してもらうぜッ!」 ユラユラ ブンッ!
すると、チェシャの体がブレ、彼の姿が消えていった。
「ん? 消えた?」 サッ
ユラッ! シュンッ! ユラユラッ! ブウウンッ! シュンッ! ユラユラ!
『ククク、どうだい聖女アニス、俺の姿を捉える事ができるか?』 ニヤ ユラッ!
チェシャの姿は、アニスの周りに現れては消えを繰り返し、多数の残像が残しては消え、彼のその存在を、自身の所在を把握しずらいものになっていた。
「ん、これは…」 ザッ チャキッ! キョロキョロ
アニスは再び、背中腰の神器、ミドルダガーの「アヴァロン」を抜き構えた。
「ふうう、始まりましたか… チェシャの特殊能力攻撃《幻想空間斬》、チェシャが手加減をしない限り、アレを受けた者は数分で倒れていきましたね。 さて聖女アニスはどうでしょうか?」 ザッ チャラ パカ チッ チッ ギッ ギギッ! チッ チッ…
アニスとチェシャの戦いぶりを見て、ニベルは無意識の癖で懐の懐中時計を取り出し、その蓋を開き時計の針の動きを見た。いつもの時間を測る癖、しかし懐中時計の針は相変わらず壊れていて時折異音を奏でているだけだった。
ユラッ! ブンッ! ユラッ! ブブンッ! シュザッ!
「ん! そこッ!」 ビュンッ! シュバッ!
シュバアアアアーーーッ! ヒュウウンッ!
『おッと、惜しい惜しい、ハズレだああ! はははッ! 何処を見て攻撃しているッ! 下手くそめえッ! (あ、あっぶねええ、あと1cmずれてたら切り付けられてたぜ! 本当に何者だこの聖女? 聖女の枠を超えてるぜ!)』 ユラユラッ シュンッ!
「ん? あれ? 外した? へええ、やるねえ…」 チャキッ
『では行くぞ、聖女アニス』 ブブンッ! ユラユラ シュッ
「ん? この動きはッ!」 ザッ!
ユラユラ シュンッ! シュバッ!
「じゃあな聖女アニス」 シュバッ! ビュンッ!
チェシャはアニスのすぐ後ろにいきなり現れ、レイピアを振り下ろした。
「んッ!《クリアッ!》」 ササッ バッ! パアアンッ!
バシイッ! ギイインンッ!
「おッと、そうだったな、アイツらが言ってた極所防御魔法か、確かに通常の剣撃は通用しないようだ、じゃあ、これはちょっと違うぜ!」 二ッ! ユラユラッ! ブウウンッ!
すると、チェシャの身体が二つに分かれ、別々に動き、またその姿がぶれて消えていった。
「ん、分身? いや、コレは…」 スッ! チャキッ! キョロキョロ ザッ!
ユラッ! ブブンッ! シュンッ!
『ククク、(さすがに俺の所在がわからなくて混乱してる様だな、さて、次で聖女アニスの本性を見出してやるぜッ!)』 ブウウンッ! シュバババッ!
シュバッ!
「ん! そこかあッ!」 ブンッ! シュバッ!
アニスの真横に現れたチェシャに対し、アニスは神器、ミドルダガーの「アヴァロン」を振り抜いた。
「…………ッ!」 ザシュウウウーーッ! ニイイッ! ユラユラ
「ん! 違うッ!」 シュバッ!
アニスが神器、ミドルダガーの「アヴァロン」で斬りつけたチェシャは、袈裟懸けに切り裂かれたにも関わらず、にやけながらその姿がぶれて、消えていった。
シュバッ! ビュンッ!
「はははッ! かかったな聖女アニスッ! ここだああッ! くらええッ! 幻想聖剣技ッ!《バーティカル.ギラ.レインッ!》」 ギイインンッ! シュピンッ!
シュバババアアーーッ! ドオオオオオオオオオオオーーーッ!
「ん!」 バッ! ズドオオオオオーーッ!
逆方向に現れたチェシャによる一撃は、アニスの胴体中央に深く突き刺さり、レイピアの刀身はアニスの体を串刺しにしてしまった。
「うむ、見事であったぞチェシャッ! 聖女アニスよ、残念だが貴女もまた我らが探し求めていた者ではなかったようだな…」 パチン チャラ ギッ ギギッ!
「ああ… そんな… やはり、あの娘も私たちが探していた人物ではなかったのですね… うう…私たちの希望が…」 フリフリ ポロ… ポタポタ…
「なッ! あ、ああ、あああーーッ! アニス様ーーッ!」 バサッ! ザッ!
チェシャによって串刺しにされたアニスを見て、ニベルはチェシャを褒め称え、アリスは落胆の表情を浮かべ涙を流した。 井伊直弼中将はそんなアニスに向けて叫んでいた。
「はッ はあっはははははははーーッ! やったぞッ! ついに聖女アニスを仕留めたぞおッ! コレで、コレで次の天帝はこの俺だああーーッ!」 ババッ! ダンダンダンッ!
謁見用雛壇2段目にいた現天帝の義理の弟、月詠命はただ1人、高笑いをして叫んでいた。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回もでき次第投稿します。