第27話 アニスの一撃
―パルマ近郊上空ー
俺は皇国にある方田舎出身だった。家は農家で毎年作った作物を国に収め生計を立てていた。特別貧乏だとか貧困だとかはなく、皇国の人間は皆普通に暮らしていけた。隣国にはあるような、奴隷制度さえもない国なのだ。五男である自分は成人するとすぐに皇国軍に入った、目的はただ一つ竜に乗りたかったからだ。竜に乗り空に上がり、その高みからこの世界を知りたかった、ただそれだけの理由で志願した。訓練を重ね月日が経ち、幾度かの戦を経験して、いつやら部隊の隊長になっていた。そして今、俺はその任を終えようとしている。部下を全員死なせ、今、自分も片腕を失い魔核弾を抱え的陣地へと突入していた。 ここに至って俺は気づいた、人は確実に死ぬとわかって敵に向かっていくとき、怒るでも無く、笑うのでもない、人は泣くんだ! 勢いよく敵に向かって、死を覚悟して突っ込む時、叫びながら、笑いながら、目から涙を出して泣きながら突っ込むのだ。今、私はそれを体験している。私は涙を流していたからだ。
「ディアル皇国に栄光あれええええーーッ‼︎」
クラウンが防御陣地に突入していった時、光の渦に溶けながら、彼は最後に力の真実を知った。
ーアニスー
馬から飛び降りマシューを見送ったアニスはソフィアに問いかける。周りに誰もいないので思念会話ではなく声を出して会話した。
「ソフィア、情報とやらに表示されている事は本当か?」
「はい、残念ながら事実です。アニス様、統合コアシステム のメインコアとしてお願いします。あの子達を消してあげてください」
「いいのか?仮にもお前と同じコア達だぞ」
「だからです、神では無く人の手によって作られた、ただ破壊しか知らない子達です。創造者であるアニス様なら分かってもらえますよね、それにアレが爆発すれば前の魔力拡散爆発の再来です。ジオス様いえアニス様がせっかく創造、再生されたこの地がまた、不毛の黒い大地になってしまいます」
「そうだな...わかった。ソフィア、お前は優しいな」
アニスは翼竜に取り付けられていた特必兵器の仕様構成をソフィアの情報で知った。兵器の中心核に人造の制御コア2個が収められていたのだ。ただ破壊の計算と起爆をするためのコアである。この時、創造者としてアニスは珍しく怒っていた。『コアは神のみが携わるものである、決して人の身でそれに携わってはいけない、人は人以上の力に触れてはいけない』この不文律が破られたからだ。ましてやそれは兵器として、破壊を目的として作られている、創造に携わるアニスにとってそれは許されざる事だった。アニスは準備の為浮遊魔法を使い空中に静止した。
「あの翼竜だな、ここからアレを完全消滅する、それで良いなソフィア?」
「はい、よろしくお願いします。アニス様」
アニスは一呼吸してから、前方の翼竜を見た。ちょうどマシューが剣技を使って、翼竜にダメージを与え下に降りていくのが見えた。
「マシュー....そう、それで良い、ありがとう..」
空中に静止しているアニスは両手を左右に広げ、ソフィアの願いをかなえるべく、翼竜を消滅させる神級攻撃型魔法を使い始めた。
「いくよ、《エインサット‼》《バイヤスバベル‼》《ヴィルバンタスク‼》」
ブアンッ‼︎ パンッパンッパンッパンッ ピュヒイイーーーッ!
アニスが神級攻撃魔法の詠唱を言うたびに多数の魔法陣が現れた、最初に4っつの赤い小型魔法陣が、次に直径3mほどの白い魔方陣が筒状に6枚順番に並ぶ、そして最後に珍しい長方形三枚の板状魔法陣がその筒状魔法陣を三方から包むように回転して現れた。それは魔法陣で作られた巨砲であった。ソフィアもサポートについてアニスを補助する。
「アニス様、補正調整は私が、トリガーをアニス様によろしいですか?」
「ん、問題ない。つづけて、翼竜が動き出した」
「了解!空間疑似バレル展開、界層魔法陣回転開始!」
「魔力回路開放!砲撃魔力,チャンバー内にて正常に加圧中!」
「砲身魔法陣ライフリング回転開始!前方方向射線開放問題なし!」
「空間力場固定、対反動干渉波作動!排気ダンパー固定!」
「前方視界全開開放! 発射体制準備よし!アニス様‼」
魔法で作られた疑似構成の大砲からカン高い魔力増幅の音がする。
キイイイィィィィーーーーッ‼
アニスは右目をつぶり左目に魔力を込めると、遠方のクラウンの乗る翼竜が見えた、そして発射体制に入る、体を横に、左腕を目標に伸ばせ手は人差し指だけ伸ばし握り、右手は人差し指と中指をそろえて伸ばし握り右胸の前へ、そうまるで弓を引くような体制で最終詠唱に入る。
「ごめんね...神級対消滅攻撃魔法‼《テレリオス.グランカノーネェッ!》」
タンッ!「《ティルトッ‼︎》」
キュキュキュキュッ‼ キンッ‼...ドッゴオオオオオンンンン――ッ‼
それはあまりにも巨大な筒状の光の魔力エネルギーであった。アニスの周りは強風が吹き、青みの銀髪と純白の武装スカートがなびいていた。そしてその巨大な魔力エネルギーは突撃中のクラウンと翼竜を飲み込んだ。防御陣地に突入する前にパルマ新成大地方向に吹き飛ばされて、防御陣地上空をかすめていった。
クラウンは光の渦の中自身が溶けていく感覚があった、その時彼は見た、聖王国の騎士たちが守っていた力の正体を、彼は以前ここに来ている。戦をしに来た城塞都市パルマ、部下のカウパーが消えた土地、だが薄れゆく彼の意識の中で見た今のパルマは、豊かな森と草原、きれいな川、そしてそんな空間に一瞬彼は触れた。彼は自覚した、(これが、これこそが求めていたものだ!はは、これはデカすぎて持ってかえ....)そこで彼の肉体は浄化され消えていった。
ヒュウィーーーーーーッ..........パリ...パリッ
魔力エネルギーが通過した後には、軽く放電ノイズが走っていた。強大な魔力通過したあとの軌跡上には何も無かった、普段の静かな森林高原地帯になっていた。
「砲撃終了、全ての魔法陣解除消失、ありがとうございます、アニス様」
「ん、いいかなスフィア?」
「はい、なんでしょうアニス様」
「人はなぜ、平和に、幸せのために与えた物を争いに使う? 答えれるか?」
「アニス様、これは想像ですが、平和と幸せのためだと思います」
「それはどういう事だ?」
「無限の世界で生きる神々と違って、有限で限りある命の者達は、その中で最大限の幸せを得ようとします。だから下界に住まう者達は、慈愛と闘争を繰り返し幸せを求めるものと思います」
アニスは今、以前抱いていた疑問の一つが解決した。(そうか、人の成り立ちでは無く、自分が、周りが幸せになるために、人は争うのか)と。
「ありがとう、ソフィア謎が一つ解けた」
「では私はこれで落ちます、またですね」
ソフィアとの会話が終わり、アニスはその場の地からマシューがいると思われる方向へ歩き出した。
防御陣地のアーデルベルトや騎士団全員が、今起きたことに呆然としていた。それもそのはず大型の翼竜が今まさに、ここに落ちようとした時、遠方より飛んできた光の柱によってそれは消えてしまった。その様な巨大な力を誰も見たことが無い。光の柱が収まり、周りが静寂に包まれた頃騎士団の中の誰かがつぶやいた。
「神..さ..ま?」
その一言がまるで以心伝心の如く第2騎士団全体に行き渡っていった。そして皆が思う。
(我々第2騎士団は、神に選ばれしこの地の護衛騎士団なのだ)と。
アーデルベルトだけはさらに違うことを思う。
(昨日とまるで違う自分の力、先程のここを守って走った光の柱、もしかしたら、すでに神がここパルマの地に降臨なさっているのではないか)と。
マシューも驚いていた、アニスに頼まれた翼竜の魔核弾投下阻止。それをやり遂げ地上に降りたらあの光の柱が頭上を横に走り、今さっき相対した翼竜をその光の柱が消し去ってしまったからだ。だがしばらくして気づく、その柱が飛んできた方向、自分の相棒がいたであろう場所、確信をもって頷いた。
「あいつ、また何かしたな?」
アニスは歩きながら何か背筋に来る嫌なものを感じていた。
「あ、これ絶対マシューだ、どうしよう...」
「あ〜終わってしまう!」
「どうした、ユキヤマ?」
「お休みが終わっちゃうの!」
「なんだプリンの事かと....」
「えっ! 私の分が..ないいいいいっ!」
次回も出来次第投稿します。