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第269話 2人の聖女様

ーヤマト皇国帝都「トキオ」ー


ゴウンゴウンゴウン ゴオオオオーーッ! シュゴオオオオオーーーーッ!


ピポンッ!


「現在、帝都西区上空1800m、帝都内法定速度12ノットを推移、進路0533、コースマーク1.08.33、予定通り巡航中」 ピッ タンタン ピコ


「帝都上空天候は晴れ、気圧1186hPa、南西に向け2ノットの微風、航行に問題なし」 ピコ


シュゴオオオオオーー…


高速打撃艦隊旗艦、重巡航艦「ミョウコウ」は、単艦で帝都「トキオ」上空を、帝都内法定速度12ノットといった、ゆっくりとした速度で航行していた。 重巡航艦「ミョウコウ」を除く他の艦艇とは、帝都「トキオ」の領境で別れ、高速打撃艦隊は一路母港である「ヨコスカ」軍港にある、ヤマト皇国国防軍本部へと、アトランティア帝国の強襲巡航艦「ライデン」を伴い向かっていった。


帝都上空は、許可がない以上、複数の艦艇が航行する事は許されず、ましてや艦隊行動は禁止、その航行速度も低速規制されていた。やがて、帝都中央から外れた湾岸地区が見え、そこに巨大なドーム状の構造物が見えはじめた。


ゴオオオオーーー… ピッ ピッ ピッ


「閣下、『ミョウコウ』、定刻通り『トキオ』湾岸『五稜郭要塞』に到着の予定、到着予定時刻、皇国標準時1330!」 ピッ! タンタン ピッ ピコピコ!


「うむ、時間通りだな。 通信士、要塞に入港許可をッ!」 バサッ!


「はッ 了解しました。 『五稜郭要塞』へ、こちら徳川艦隊所属、高速打撃艦隊旗艦『ミョウコウ』、要塞への入港許可を申請ッ!」 ピッ タンタン ピピピ!


ゴウンゴウンゴウン シュゴオオオオオーー…

          ・

          ・

          ・

ーヤマト皇国帝都「トキオ」湾岸 国防軍帝都防衛「五稜郭要塞」ー


ピッ ピッ ピッ ビコッ! ピピ ピピ ビコビコッ!


「報告、『ヨコスカ』国防軍本部方面に井伊直弼中将の高速打撃艦隊、アトランティア帝国の巡航艦を伴い航行中」 ピッ タンタン ピコ!


「北方区『エゾ』方面、小栗警務艦隊巡航警戒中、当該区異常なし」 ピッ


「隣国、ココル共和国、大使館応答ありません、第2潜空戦隊、『イ16』潜航越境、隠密捜査開始します」 ピコ 


ピッ ピッ ピッ ブンッ!


「井伊直弼中将の高速打撃艦隊旗艦、重巡航艦『ミョウコウ』より通信、入港の申請あり」 タンタン ピコ!


「方位1133、距離3600、速度12ノット法定速度、接近中」 ピッ ピコピコ


ピッ ピッ ピッ ピッ


そこは、ヤマト皇国帝都「トキオ」防衛の要、国防軍総司令官、織田信長元帥の居城、帝都防衛「五稜郭要塞」の司令室で、広大な指令室ホールの中には200人を超えるオペレーターや兵士が詰めていた。


その司令室ホールに有る巨大な情報パネルには、様々な情報が映し出され、ヤマト皇国内やその近隣諸国の動向、皇国軍の配置や位置、各所属艦艇、更にはブレードナイト1機に至るまでの動き、そしてそれらの状態、情報などが、リアルタイムで映し出されていた。


「司令官閣下、井伊直弼中将閣下、聖女アニス様を伴い帰還いたしました!」 バッ!


「うむ、流石は井伊だなッ! 受けた仕事は完璧に仕上げてくる… 入港を許可しろッ! メインゲートオープンッ!」 バサッ!


「はッ! 了解しましたッ!」 バッ!


ヤマト皇国帝都「トキオ」の帝都防衛「五稜郭要塞」司令官、【本田忠勝】中将は、井伊直弼中将の重巡航艦「ミョウコウ」の、要塞への入港を許可した。


ピッ タンタン ピコッ! 


「接近中の「ミョウコウ」へ、入港を許可、要塞左翼第1メインゲートから入港せよッ!」 ピッ


ビーーッ! ビーーッ! ビーーッ! ガコンッ! グググ グバアアアーーッ!


ドーム状の構造物の一部が動き出し、重巡航艦の巨大な艦体が余裕で入れる程の入り口が開かれた。



ー重巡航艦「ミョウコウ」ー


「閣下、要塞への入港許可を受信、要塞左舷、第1メインゲートが開きますッ!」 バッ!


「ほう… 第1メインゲートか… 要塞からの最大限の歓迎ではないか」 ニイイ!


ゴンゴンゴン シュゴオオオオオーーーーッ!


「接舷準備ッ! 要塞管制システムとのリンクを開始、入港しますッ!」 ササッ! カチ ピッ!


「うむ、周囲に注意警戒、入港せよッ!」 バッ!


「了解ッ!」 ピッ タンタン ピッ ピコピコ


バウウーッ! バッ! バッ! バウウーッ! ゴゴゴゴ…


重巡航艦「ミョウコウ」は細かな微調整をしつつ、要塞へと入港していった。


ピッピーッ!


「閣下、要塞司令、本田忠勝中将閣下より映像通信ッ!」 ササッ


「うん? 通信回線を開け!」 バサッ!


「はッ! 回線開きますッ!」 ピッ!


ブウウン パッ!


重巡航艦「ミョウコウ」の艦橋にある大型情報パネルに要塞司令官、本田忠勝中将の姿が映った。


『ようッ! 直弼、無事任務を完了したようだな』 ササッ! ピッ


「まあな、大した事ではないッ!」 サッ


『大した事ではないか… 敵艦隊と一戦交えたんだろ? 貴様らしいな!』 ピッ


「それより、入港中に一体なんだ? ねぎらいの言葉なら入港後でも良いのではないか?」 うん?


『ああ、それなんだが、御館様… 家康様の指示でな、入港接舷する前に貴様に話しておかなければならん事があってな…』 ピッ


「八咫烏が持ってきた、総監、織田元帥閣下からの至急伝の事か?」 ムウウ…


『そうだ、ここではなんだ… 秘匿通信のできる貴様の艦長室へやでどうだ?』 ピッ


「うむ、少し待て… 通信士ッ! 聞いての通りだ、秘匿回線をわしの艦長室へやに繋げてくれ! わしは艦長室へやに戻る!」 バサッ!


「了解しましたッ! 秘匿回線を開設、艦長室へ」 ピッ カチカチ タンタン ピコッ!


ブウウンッ! パッ!


大型情報パネルの映像は切れ、重巡航艦「ミョウコウ」が、要塞内を入港中の様子が映し出された。


「わしは艦長室へやに行く、副長、接舷まで頼む!」 バサッ! ザッ ザッ!


「了解しましたッ!」 サッ!


将官を表すマントを翻し、井伊直弼中将は艦橋から艦長室へと向かった。



ピッ プシューーッ


ザッ ザッ バサッ ギシッ! ピッ ピピ ブウウンッ! パッ!


井伊直弼中将は艦長室に入り、大きな艦長用デスクに向かって椅子に深く座り、デスクの上に備わっている情報端末のスイッチを入れた。


「秘匿回線、認証コード、井伊直弼中将」 ピッ


ブウウン ジジ パッ!


「待たせたな忠勝」 サッ


『大丈夫だ、それより近くに他の者はいないな?』 ピッ


「ああ、わしだけだ!」 ササッ


『では本題に入ろう』 ピッ


「うむ」 コク


『貴様、織田元帥閣下の至急伝、最後まで読んだか?』 ピッ


「ああ、なにやら天帝様が早急に聖女、アニス様に謁見したいと記されていたが、その事と何か関係があるのか?」 ギシ


『うむ、実はな… コレは貴様も知らない事なのだが、天帝様の義弟派が、もう1人の聖女様を連れて皇居にある宮廷に乗り込んで来たのだ』 ピッ


「もう1人だとッ⁉︎ 聖女様は2人おられたのかッ⁉︎」 ガタッ!


井伊直弼中将は、その場で思わず立ち上がり、事の真意を聞いた。


『いや、天帝様のお言葉によれば、『聖女様はこの世界にただ1人、唯一無二の存在である』だそうだ』 ピッ


「ならば、どちらかが偽物だと言うのか…」 ふむ…


『そういう事になるな』 ピッ


「忠勝、貴様はその義弟派が連れて来た聖女様に会ったのか?」 ドサッ! ギシッ…


『いや、会ってはおらぬ… と言うか、天帝様に忠義の厚い、我ら天帝派に会わせようとはせんな』 ピッ


「では、その聖女様が本物かどうかわからぬではないかッ! だいいちッ! 今回、聖女アニス様をこの帝都までお連れせよと言い出したのは他の誰でもないッ! 天帝様本人なのだぞッ!」 バサッ! ドンッ!


井伊直弼中将は怒りをあらわにし、艦長用の大きなデスクを叩いた。


『貴様の言う事ももっともだ! 天帝様も当初は聖女アニス様こそが、本物の聖女様と自負されていたのだ。しかし義弟派が連れて来た聖女様が、天帝様の目の前で奇跡の身技を使ったらしいのだ。それを見て天帝様も困惑し、貴様が連れて来た聖女アニス様と義弟派が連れて来た聖女様、どちらが本物か分からなくなっておるのだ』 ピッ


「ムウウ… 奇跡か… 義弟派の者どもめ、一体何処からその聖女様らしき方を連れて来たんだ?」 サッ


『ああ、それなんだが、常に皇居の隅でコソコソと動き回り、あわよくば義弟が天帝の座に就こうと画作する奴らにそんな事ができると思うか』 ピッ


「うん? まさか… 何者かが義弟派に手引きをしたと言うのかッ!」 ババッ!


『たぶんな… 今回、いきなり聖女様を見つけ、労せず皇居に連れて来たこと事態、おかしな話だ!』 ピッ


「うむ… 確かに… 聖女の存在は我が国の有史以来、周知の事、だがその所在がはっきりしたのはつい最近、しかも天帝様指示の場所とは別の場所で聖女様を見つけ出し、我らよりも先に天帝様の元へお連れするなど、皇居にいる連中にできるはずがないッ! あり得ない話だッ!」 バサッ!


『その通りだ、我らが天帝様から聖女様の所在を聞き、お迎えにあがっている最中に、天帝様指示の聖女様より先に、別の聖女様を謁見させている… あまりにも都合のいい話、どうだ直弼、ちときな臭くないか?』 ニイイ ピッ


「義弟派に就いた者達か… (義弟派には武力を持った後ろ盾がない… ましてや日和見主義の陰湿で臆病なあの義弟だ、まともな文官や武官、兵などが就くはずもない…)」 ムウウ…


ビーーーッ! ポン


『閣下、『ミョウコウ』、まもなく第2ドックに接舷します』 ポン


「うむ、もう着いたか、話はここまでの様だな」 フ…


艦橋より、重巡航艦「ミョウコウ」の接舷が間近だと言う報告が入った。


『直弼、とにかく貴様はお連れした聖女アニス様を無事に皇居まで送り届けろ、俺はここから動くことができん!』 ピッ


「当然だな、要塞司令官が持ち場を離れるわけにはいかんからな」 ニッ!


『それだけではないぞ、義弟派の奴らも動くかもしれん… なにが起こるか分からんからな、貴様も気をつけろよ』 ピッ


「うむ、聖女アニス様はわしに任せろ!」 バサッ!


『頼むぞ、忠次と康政たちも会いたがっておったぞ、また何処かで一献差し会おうぞ!』 ピッ


「うむ、酒の肴を用意して待っているぞ!」 グッ!


『ではなッ! 盟友ッ!』 ピッ ブン!


要塞司令官、本田忠勝中将との秘匿回線通話はそこで切れた。


スクッ! ザッ ザッ ピッ プシュウウー


重巡航艦「ミョウコウ」の艦長、井伊直弼中将は、艦長室をでて、艦橋へと戻っていった。



ゴウンゴウンゴウン ゴゴゴゴ バウウウウウッ! バッ! バッ! バッ!


ビーーーッ! ピッ ピッ ピコピコ ピピ ピピ ピピ


「第2ドック接近、速度減速、接舷開始ッ! 03、02、01ッ!」 ピッ タンタン ピコ!


バッ バッ! バウウーッ! シュバッ シュバッ! ゴゴゴゴ グググ


巨大な艦体を持つ重巡航艦「ミョウコウ」はゆっくりと第2ドック桟橋に近づいて行った。


「接舷用ガイドビーコン正常に作動中、第2ドック桟橋まであと100」 ピッ ピコピコ!


「速度さらに減速ッ! 微速10ノット」 ピピッ!


ピッ プシュウウー ザッ ザッ!


「順調のようだな」 バサッ


「閣下ッ! はッ 『ミョウコウ』間も無く接舷しますッ!」 サッ!


「うむ、ほう、『ナチ』に『アシガラ』、『ハグロ』か、『ミョウコウ』の姉妹艦が勢揃いだな!」 ニイイッ!


第2ドックの両脇、第1、第3、第4ドック桟橋に、巨大な艦艇が停泊していた。それは『ミョウコウ』と同型艦、姉妹艦の3隻だった。 やがて、『ミョウコウ』も第2ドック桟橋に接舷した。


ガシュウウウウンン ドンドン カシュン プシュウウーーッ!


「『ミョウコウ』接舷終了、ドッグ内電源接続ッ! 機関停止ッ!」 ピッ


ブウウンッ! ピコッ! ヒュウウウウウンンン…


「接続確認ッ! 各員、補給、点検補修作業開始、昇降用タラップ作動」 ピッ 


ガコン ウィイイイン カシュンッ! 


ビーーーッ! ビーーーッ! ビーーーッ! ピコン!


『『ミョウコウ』接舷、ドック内作業員は作業開始』 ピッ


ザッ ザッ スタッ!


「うむ、ご苦労であったッ! 総員半舷上陸準備、副長、わしは聖女アニス様を皇居まで案内する、『ミョウコウ』を頼む」 バサッ!


「はッ! 了解しましたッ!」 サッ!



ー重巡航艦「ミョウコウ」貴賓室ー


ビーーーッ ポン


『本艦は五稜郭要塞に到着、各員は半舷上陸、該当のものは準備を開始、繰り返す…』 ポンッ


「ん、目的地に着いたみたいだね」 サッ


「はい、もう直ぐ案内の者が来ると思われます。アニス様には今しばらく、ここでお待ちください」 ペコ


伊賀公安部上位隊員の楓が片膝をつきアニスに進言した。


「ん、わかりました、それで、みんなも一緒に行くんだっけ?」 ササッ


「当然です、今回はアニスちゃんの護衛を任せられてるのよ、また昨日の変な奴みたいな者が出るかもしれないからね!」 ササッ


「ああ、アイツかあ、ククク、彼、面白かったですね」 ククク


「マイロ、笑っちゃ可哀想よ、彼も必死だったのよ」 ふふ


「2人とも、彼もアニスさんの為と思って必死だったのさ、笑ったらダメだよ」 フリフリ


「いやアランさん、必死とはいえ、まさか、ククク、お菓子を指さして『魔道具だッ! コレは武器だッ! 兵器に違いないッ!』と言って、艦長を連れて叫ぶとは思っていませんでしたからね」 あははは…


「はああ… あんなのは公安の恥だッ! 初歩の初歩ッ!『状況と情報は正確に把握し、報告せよ』って、1番最初に教わるんだがなあ…」 ぽりぽり…


「ふふ、あの時の猿飛の顔、滑稽だったわ」 ニコニコ


そう、貴賓室にいる全員が言う彼とは、伊賀公安部、服部隊の高位隊員、猿飛佐助の事だった。 彼は、アニスたちが貴賓室内でお菓子や夕食のメニューをかけて、訓練をしていたのを勘違いして、艦長の井伊直弼中将に間違った情報を報告し、現在は中将から自室謹慎を受けていた。


「隊長から『猿には気を付けろ』って言われたけど、大丈夫だったみたいね」 ニコ


「いや楓、佐助はまがいなりにも公安部高位隊員、気を抜かないほうがいい」 サッ


「わかってるわ、それが公安部隊員ですから」 サッ


その時、貴賓室の扉が開き、皇居宮殿までの案内人が入って来た。


ピッ プシュウウーーッ! ザッ!


「そろそろ準備は宜しいかな、聖女アニス様」 ニイイッ! バサッ!


「あッ! 直弼だッ!」 サッ!


アニスは貴賓室に入って来た人物を見てその者の名を呼び捨てにした。


「「「 わああッ! ア、アニス様ーッ!(ちゃんーッ!) 」」」 ババッ!


「ん?」 クルッ?


「ア、アニス様ッ! 井伊様ですよッ! このふねの艦長で艦隊司令官の井伊直弼中将様ッ!」 ババッ!


「そ、そうよッ! アニス様ッ! よ、呼び捨てはちょっとッ!」 フルフルッ!


伊賀公安部、八咫烏隊の上位隊員の隼と楓は、大慌てでアニスに注意した。


「知ってるよ、私に『息子の嫁になれ』なんて言ったバカちんでしょ?」 サッ!


「「 ぎゃあああーーッ! 言ったッ! 言ってしまったああーーッ! 」」 アタフタ アタフタッ!


「ほう、このわしがバカちんか?」 ズイッ!


「ん! 大バカちんッ!」 ニコ


「ぬううううッ!」 ジイイッ!


「あああッ!… うう… 終わった… 楓、俺たちもう終わったぞ…」 ガクン


「あははは… 実家のお母さん、楓は此処でお終いです… 辞世の句ってどう書こうかなあ…」 ははは…


「あわわわッ! ア、アニスちゃんッ謝ってッ!」 ササッ!


「そ、そうですよアニスさんッ! いくら何でも相手がわるいッ! 早く早くッ!」 ササッ!


「ん〜… やだッ! 直弼が悪いッ!」 サッ!


「「 わああッ! 」」 ババッ!


「うぐぐぐッ!」 ググッ!


勇者のサトシとスズカもアニスに謝罪を進めたが、アニスは躊躇なく断った。アニスのその言葉に、井伊直弼中将は顔を伏せ、両手を握りしめ唸った。


「「「「 もうダメだああーーッ! 」」」」 ガクン!


英雄の3人と、当事者のアニスと井伊直弼中将を除いた全員が、膝から崩れ落ちた。


「ククク… うわッあはははははッ! はあっははははははッ!」 ケラケラ


「「「「 へ? 」」」」 ガバ…


「うわあッ! ああ… とうとう直弼が壊れたか? うんうん、もう歳だから仕方がない」 うん


「あほうッ! 誰が壊れるかッ! わしはまだ58だッ! 人を年寄り扱いするでないッ!」 ズイッ!


「あ、あほう?」 ヒクッ!


「そうだ、あほうだッ!」 ニイイ


「ううう、よく分からない単語だが何か悔しいッ!」 うう…


「閣下ッ! 何やってんですかッ! 相手は聖女様ですよッ!」 ババッ


井伊直弼中将とアニスが騒いでいたそこへ、副官の長野主膳中佐が割って入った。


「うん? 何だ長野かッ! そんな事はわかっておるッ! いずれわしの息子の嫁になる聖女様だ!」 ニイイ ババッ!


「うおいッ! 誰が嫁だああッ! 私はならないぞッ! このバカちんッ!」 プンッ!


「むう、なりたく無いのか?」 ズイッ


「うッ… ん、そのう… わ、私には…もう…」 モジ…


「井伊直弼中将閣下、アニスちゃんにはもう良い人がいるんですよ♡」 ふふ


「そうなんです中将閣下、あの人以外、アニスさんに似合う人なんて存在しないですね」 ササッ


「僕も同感だな! だから中将閣下、諦めた方がいいです」 ササッ


「あわわッ ジェ、ジェシカ、アランとマイロも! こ、こんな所で何言ってんのッ!」 ワタワタ


「ほう… なるほどなるほど、そう言うことか… むふふ、アニス様にも色々ある様ですなあ」 ニイッ


「うう… もういいですッ! とにかく私は貴方の息子の嫁にはなりませんからね! それと私はアニス! 様はいりません!」 サッ!


「ふむ、その者に一途な所がまた良いッ! ますます気に入ったぞ! だがまあ、嫁の件はいずれとして、呼称なのだが、天帝様や他の者の手前そうもいかん、様付けで呼ばせてもらいますぞ」 グッ!


「ん、はああ… 仕方がないですね、それでいいです」 フリフリ


「わしとアニス様の仲だッ! わしの事は呼び捨てにしてもかまわん! 何だったら『父上』とか『お父様』でも良いぞッ!」 ニイイッ!


「どんな仲ですかッ! 絶対に呼ばないッ!」 プイッ


「はっははははははッ!」 バサッ!


「ふうう、一時はどうなるかと思ったぜ」 ササ


「ほんと、私なんか不敬罪で死罪を覚悟してたわ」 ハアア…


勇者のサトシとスズカ、公安上位隊員の隼と楓たちは、何事もなく終わってホッとしていた。



ポンッ!


『中将閣下、第1発艦デッキにて連絡艇の準備完了、お急ぎください』 ピッ


「むう、聖女アニス様、天帝様がお待ちなのだ。 長野、連絡艇の方へ案内さしあげろッ!」 サッ


「はッ! 聖女アニス様、どうぞこちらへ」 ササッ


「ん、ではみんなも行こうか」 サッ!


「「「「「「「 はいッ! 」」」」」」」 ササッ! ザッ!


「むうう…」 


「ん? どうしたんですか直弼?」 うん?


「聖女アニス様、実は話しておきたい事があるのだ。 続きは連絡艇の中で話そう、今は連絡艇の方へ」 サッ!


「ん、じゃあ、案内頼みますね」 ペコ


アニス達は皇居に向かうため、重巡航艦「ミョウコウ」の発艦デッキへと向かった。



ー重巡航艦「ミョウコウ」発艦デッキ連絡艇ー


ピッ ピッ ヒイイイイイイインン…


「こちらへ連絡艇1011、聖女アニス様をはじめ全員搭乗完了、発艦指示を要請」 ピッ


ピッ ピポ


『連絡艇1011、要塞内速度を遵守、進路クリアー、発艦許可ッ!』 ピッ!


「発艦します」 グイッ!


ヒイイイイイイインン バウウウウウーーー ゴオオオオーーー


連絡艇1011は、アニス達と他護衛の兵数名を乗せて、一路帝都中央にある皇居宮殿へと飛んでいった。



ー帝都「トキオ」中央、皇居宮殿内 西の丸ベランダー


コツコツコツ 


「月詠様、ここにおいででしたか」 ザッ!


「ひいいッ! だ、誰であるか! 余にち、近づくな!」 ブルブル


「ふふふ、相変わらず演技がお上手で、今は私たちだけですぞ! 月詠様」 ササッ!


「ふうう… くく… ああっははははッ! どうだい俺の演技はッ⁉︎ 臆病な何もできない義弟に見えるかい? くくく… 宮殿の奴らだけでなく天帝まで、俺が臆病者に見えているだろうな! それで? 今日は何の用だい【宇喜田】、どうかしたのか?」 ザッ!


月詠命つくよみのみこと、現天帝の義理の弟で、前天帝の側室の子であった。


「はッ 物見の報告から、どうやら天帝派の徳川配下、井伊直弼が聖女アニスなる者と帰還、こちらに向かっているそうです」 サッ


「聖女アニスだとお…」 グッ!


「はッ 天帝様が最初に気配を感じ、その居場所を特定、召喚指示された聖女様です」 サッ


「ふん、天帝には呆れるなッ! 聖女様なら既に俺たちが見つけ出し、天帝自身の目の前でその力を見せたではないか!」 バッ!


「確かに… ですが、その聖女アニスなる者は当初、天帝様が所在を確認し迎えに寄越した者、自分が見つけた聖女様と義弟で在らせられます月詠様、貴方が見つけお連れし謁見した聖女様、未だにどちらが本物の聖女様か決めかねているようです」 サッ


「全く、先に聖女を連れて来たのは俺だぞ! しかも目の前で奇跡の身技まで披露したのを忘れたかッ! 何を迷う事がある! さっさと俺に帝位を譲れば良いのにッ! 女のくせに生意気なんだよッ!」 ガッ!


「それで、間も無くもう1人の聖女様がこの宮殿に到着なさるとのこと、いかが致しましょうか?」 サッ


「ふん、そんな何処の馬の骨ともわからん得体の知れないヤツが聖女様などであるはずがない!」 バッ!


「では、門を潜る前に消えていただくと言うのはどうでしょうか?」 ニヤ


「むう… いや待て、いっそのこと宮殿ではなく皇居の謁見の間まで誘い込み、天帝の前で、ヤツらの聖女様を排除してやるのだ!」 ザッ!


「排除ッ! なるほど! それが宜しいでしょう! 奴らの聖女様が目の前で消えていく、天帝様も間違った聖女様を示唆した事に責任を受ける事になる。 天帝派の者どもは、さぞや苦虫を噛み締める事でしょうな!」 はははッ!


「ああ、そうだ! 奴らが連れて来た聖女様を俺たちの聖女様が、奇跡の身技を持って完膚なきまで叩き潰す。こちらの聖女様が本物である事を世に知らしめるのだ!」 ククク!


「では我らの聖女様たちに準備をさせましょう」 ササッ!


「うむ、頼むぞ宇喜田!」 バッ


「ははッ! ではごめん!」 シュバッ!


月詠命の武力的後ろ盾の1人である【宇喜田秀家】少将は、自分たちが見つけて来た聖女達に、再び謁見の間にてその奇跡の身技を見せるよう伝える為、月詠命の前から素早く消えていった。


「ククク、聖女様が俺の側に着いた時点で、貴様は天帝の座から降りる事が決定しているのだ。あと僅かの天帝位を存分に味わうが良いぞ、天帝…いや、我が姉上【卑弥呼】よ……」 ニヤ、ククク…


クルッ! バッ! カツ カツ カツ


1人になった月詠命は、宮殿に入り自室へと向かった。その時背後から1人の武将から声をかけられた。


「おやおや義弟…いや月詠様、こんな所でお一人ですかな?」 ニヤ チャキ!


「(ちッ 織田信長配下の秀吉か… おっと、演技演技ッと…)うわあッ! 余に近づくなああーーッ!」 バタバタバタバタ ダダダダッ!


「ははははははッ! 天帝様も苦労されるッ! なぜあのような臆病者がいつまでもこの宮殿に居座っておるのか… さっさと廃嫡し、追い出せば良いものを」 クルッ! ザッ ザッ!


豊臣秀吉上級大将、織田信長元帥直属の配下で徳川家康と同格の武将であった。


バタバタ ダダダ タタ カツ カツ


「ふん、秀吉め、せいぜい威張り散らしているがいい…」 カツ カツ カツ



やがて、広い宮殿の中にある自室にたどり着いた月詠命の元に、宇喜田秀家少将がやって来た。


「月詠様」 タタ ササッ!


「うん? 宇喜田か」 ササッ


「はッ 聖女様以下、供回りの者総勢5名、準備できましてございます」 サッ!


「そうか、後は頼むぞ宇喜田… ククク、さあ我らの聖女【アリス・リデル】様よ、姉上に… 天帝に真の聖女あなたの力を見せつけ、聖女様が付き従うこの俺が天帝に相応しい事を、ヤマト皇国全土に知らしめるのだッ!」 バッ!


【アリス・リデル】、金髪ソバージュロングヘアの青い瞳を持った15歳ほどの少女だった。服装はフリルのついた青いエプロンドレスを着ており、不思議な能力や魔法が使え、その能力と魔法は、聖女に相応しいものだった。彼女はこの世界に突然現れ、その側には4人の特殊能力者も一緒に存在していた。


アリス達が、突然この偽世界アークのヤマト皇国領内に現れた事を知るや、彼女を聖女と称し、月詠命は帝都「トキオ」に、そして天帝の前に連れて来て、その能力や魔法を奇跡の身技として見せ、今に至っていた。


「天帝派の聖女様、アニスがどんなヤツか知らぬが、我らの聖女アリス様が化けの皮を剥がしてやるッ! さあッ!来るなら来いッ! 天帝共々地に落ちるがいいッ! ああっはははははははーーッ!」 カチャ ドオオンンッ!


月詠命は高笑いをしながら、自室の中へと消えていった。



ー重巡航艦「ミョウコウ」連絡艇1011ー


シュウウウウウウーーー ババウウウーーー ピッ ピッ


「ふふふ、さあ皮を剥いだぞ! これが最後だ」 ムキ


「うぬう… 最後だと? それをよこせアニスッ!」 グッ!


「ん、おやあ直弼、私の事はアニス様じゃなかったかな?」 ふふふ


「むううッ! 問答無用ッ! 《一光穿ッ! 峰打ちッ!》」 チャキ シュバアッ!


「え?」 サッ!


「「「 きゃああッ! 」」」 ババッ!


「わッ! 閣下ーーッ!」 ババッ!


ドオオオオオオーンンッ! バキバキイッ! ダアアンンッ!


「「「「 わあああッ! 」」」」 ブワアアアアッ! モクモクモク ガタガタ


「はあっはははははッ! 獲ったぞアニス、どうじゃ、わしの勝ちだあ!」 ニイイッ!


「うう、大人気ないぞ直弼ッ! 勝負なんかしてないのに、バナナ一本、まともに受け取れんのかッ! このバカちん!」 メッ!


「中将閣下、もう少し大人しくして下さい、機体が安定しません」 グラグラ 


「む、すまん、つい美味いものに熱が入ってしまった」 ニイイ


「頼みますよ、間も無く皇居宮殿発着ゲートに着きます。今、大手門を追加ッ!」 ピッ


シュゴオオオオオーー 


「ん、へえええ… これが宮殿かあ…」 ジイイ…


「どうじゃ? 皇居宮殿は?」 もぐもぐ ゴクン!


「ん、でっかいッ!」 わあああ…


「はッ! でっかいか! はあっはははははッ! そうか、でっかいかあッ!」 ガハハハハッ!


ゴンゴンゴン シュバアアアーー… ゴオオオオッ! ドオオンンッ! ピッ


アニス達の乗った連絡艇は無事に皇居宮殿内の発着ゲートに到着した。





いつも読んでいただきありがとうございます。

次回もでき次第投稿します。

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