第268話 アニス帝都へ
ーヤマト皇国「樹海」辺境平原ー
ゴウンゴウンゴウン ヒュンーン ヒュンーン ピッ ピッ ピッ ゴゴゴ
バウウウウウーーッ! シュバアアアアーーッ! ヴオンッ!
ヤマト皇国「樹海」辺境の平原上空に、強襲巡航艦「ライデン」と、ヤマト皇国の艦隊、十数隻が停止滞空し、さらにその艦隊上空を、ヤマト皇国のブレードナイト『ZERO』3機編隊数組が上空警戒として飛び回っていた。その中に攻撃型駆逐艦「ユキカゼ」の搭載機、白井中尉達の機体もあった。
シュバアアアーー… ヒュウウウン ヒュウウウン ピッ ピッ
ザッ ザッ ザッ
「大丈夫かスズカ? それと楓さん?」 サッ
「ええ、ありがとうサトシ、私は大丈夫よ」 ググッ スタッ
「はい、私も大丈夫です、サトシさん。 それよりも…」 ササッ キョロキョロ…
「ああ、せっかくアニスさんが用意してくれた物がメチャメチャだな…」 はああ…
「全くだ、アニス様が準備してくれた物を…」 グッ!
「とにかく、今は片付けましょ、えっと、アニスちゃんは… わああ…」 ピク
勇者スズカが見たものは、両手にもう食材として使えなくなった食用肉を持ち、上空で停止している強襲巡航艦「ライデン」を無言で見ているアニスの姿がそこにあった。
「…………」 ジイイ… ファサファサ…
「おいサトシ、アニス様の様子が変だぞ!」 バッ
「うう… こんな時に限って、ヤマタノオロチ様もアコンカグア様もいないなんて…」 ググッ!
勇者のサトシと隼は、青みがかった白銀髪と純白のスカート靡かせ、上空を見つめ、近寄りがたい雰囲気を出した微動だにしないアニスを見た。
「ね、ねえスズカさん、アレって、まずいですよね」 サッ
「あれは… アニスちゃん、もしかして、怒ってる…のかな… いや、あの様子だとたぶん怒ってるよね」 トコトコ サッ カチャカチャ
勇者スズカは、そんなアニスを気にしながら、辺りに散らばったものを片付けはじめた。
タタタ サッ
「スズカさん! いいんですかあのままで? 何かアニス様にお声をかけた方が…」 トコトコ サッ
「はああ… そうだよね… ほっとけないか… よし、私、いってくる」 サッ! トコトコ
「あッ では私も一緒に行きますッ!」 サッ! トコトコ
2人は揃ってアニスの元に向かった。
ヒュウウウウ… ゴウンゴウンゴウン ピッ ピッ シュバアアアーー…
「…………」 ジイイ… ファサファサ…
「「 アニスちゃんッ!(様ッ!) 」」 トコトコ ザッ!
「ん? ああ… スズカに楓」 クルッ! ファサ…
勇者スズカと公安上位隊員の楓に呼ばれたアニスは、青みがかった白銀髪を靡かせ、彼女達に振り向いた。
「あ… そのう… 大丈夫?」 サッ
「ん? そっか、せっかく用意した食材が、全部ダメになっちゃったね」 キョロキョロ…
アニスは辺りに散らばった肉や野菜、魚などを見渡して応えた。
「アニス様…」 スッ
「大丈夫だよ、夕食用のお肉や野菜ならまだあるから… ね」 ニコ
「アニスちゃん… 怒ってない?」 スッ
「ん? 怒る? この私が? なんで?」 コテ
「だって、せっかくアニスちゃんが用意してくれたものが台無しになって…」 キョロキョロ
「ああ、そうだね… でも怒ってはいないよ」 ニコ
「「 よかったあッ! 」」 わあッ!
勇者スズカと公安上位隊員の楓はほっと無でを撫で下ろし安心した。
「ん、でもね、お仕置きは必要かなっと思って!」 ニコニコ サッ!
「「 えッ⁉︎ 」」 ビクッ!
シュバッ! キイイインッ! シュギュンッ! パアアアンーッ!
アニスが上空に滞空停止している全ての艦艇に向け、右腕を伸ばし、その手のひらを開いた瞬間、巨大な金色の魔法陣が展開され、アニスを中心に強力な魔素を含んだ強風が周囲に吹き荒れた。
シュバアアアアーーッ!
「アッ! アニスちゃんッ! 一体何をッ⁉︎」 バッ! バサバサ!
「アニス様ッ!」 ザッ! ビュウウウーー!
「うわああッ! これはッ!」 ザザッ! バッ! バババアーーーッ!
「うぐうッ! これは一体ッ!」 ググッ シュババアアーーッ!
勇者、公安の4人は、濃い密度の魔素を含んだ強風に耐えるだけで精一杯だった。
「さて、夕食を台無しにした君たちにお仕置きです!」 ググッ!
ゴオオオオーーーッ! シュバッ! ジャキインッ!
黄金の魔法陣から、神聖なる無数の光の矢が現れた。
「アニスちゃんッ!」 ババッ!
「大丈夫だよスズカ、お仕置きお仕置き、ちょっと当てるだけだから♩」 ニコニコ
「いやいやいや、ダメですよッ! アニスちゃんッ! そんな物当てたら大変な事になっちゃうよッ!」 ガシッ! ユサユサ ユサユサ バッ!
勇者スズカはアニスの肩を掴み、アニスの体を揺らしながらそれを止めようとした。
「あははは、どれだけ揺らそうと、私が狙った獲物を外すことはないよ、一撃でアレらを撃ち落としてやるッ!」 ユサユサ ギラッ!
「ぎゃあああーーッ! 『当てるから撃ち落とす』になってるーッ! アニスちゃんッ! アニスちゃんッ!」 アセアセ! ググッ ユサユサ
「んふふふ、神級弓術、《デッドリーアロウ》…」 キュインッ! バオオオーーッ!
神聖なる光の矢が更に輝き出し、その威力が放たれる前から周囲に伝わってきた。
「おい! サトシッ! アニス様を止めろッ!」 ババッ!
「同感だッ! アレはまずいッ!」 ババッ!
「アニス様ッ! お気を沈めてッ! アレは我が国の艦隊ですよッ! 敵じゃないんですッ! 味方ですよッ! アニス様ーッ!」 ガバッ!
公安上位隊員の楓もアニスにしがみつき、勇者サトシと公安上空隊員の隼もアニスの行動を止めようとした。そして、今まさに、アニスが《デッドリーアロウ》を放とうとしたその時、空中の艦艇の内、3隻から連絡艇が一機づつ3機、アニス達の方に向かって降りてきた。
「さあッ! これでも… ん? 何か降りてくる」 サッ
パシュウウウ… シュバババババーーッ! ヒイイイイイイインン ピッ ピッ
「「「「 えッ⁉︎ 」」」」 ババッ!
シュバアアアーーーーッ! ウィイイイン バクンッ!
「アニス少佐ーーッ!」 フリフリ!
降下してくる3機のうち、1番アニス達に近い連絡艇の昇降ハッチが開き、降下中にも関わらず1人の身なりの良い男性士官がアニスの名を叫び手を振っていた。 その男性をアニスは知っていた。
「ん? アレは…… グレイ艦長? じゃあ、アレがレオンの艦、『ライデン』?」 スッ
あまりにも損傷と被弾、火災痕が激しく、アニスは最初、頭上上空に停止している艦艇が、強襲巡航艦「ライデン」とは気付かなかった。
シュパッ! ヒュン シュワアアアアーーー…
上空に滞空している艦艇の1つが、グレイ艦長が艦長であり、レオハルト中佐が乗艦している「ライデン」と気付いたアニスは、《デッドリーアロウ》の斉射を取りやめ、金色の魔法陣を解除、消滅させた。
「「 はあああ… よかたああ… 」」 ガクン ザッ!
勇者スズカと公安上位隊員の楓は、アニスが魔法陣を解いたのを見て、彼女の足元に膝をつき安堵した
「気を鎮めてくれたか…」 はああ…
「一時はどうなるかと思ったぜ」 ふうう…
勇者サトシと公安上位隊員の隼も額の汗を拭い、安堵した。
ヒイイイイイイインン シュバアアアーーーーッ! ガシュウウウンン… ピッ ピッ
ウィイイイン カシュン ヒュウウウウウ… プシュウウウウ…. ザッ! ダダダッ!
「アニス少佐ーーッ!」 ダダダッ!
地表に降りた連絡艇から、強襲巡航艦「ライデン」の艦長グレイ中佐が一目散に、アニスの元へと駆け出してきた。
「ああ、やっぱりグレイ艦長だあ!」 フリフリ
ダダダ ザザーッ ババッ! サッ!
「アニス少佐、いやアニス様、ただいまお迎えに参りました」 ザッ ササッ!
アニスの元に来たグレイ中佐は、片膝を着き、アニスを王族待遇の所作で挨拶をした。
「グレイ艦長、私に様はいらないの!」 サッ
「いやしかし、王族となった今、流石にアニスの嬢ちゃんって訳にはいかんでしょ! ですからせめて公の場では様呼びでお願いします」 サッ
「はああ… 仕方がな… ん? 迎え? どこへ?」 はて?
「我が帝国、アトランティア帝国の王都、「アダム」にあります王城です、アニス様」 サッ
「「「「 王城ッ⁉︎ 」」」」 ザワッ!
「ええ〜… もしかして王様? それともレイラお姉ちゃんが呼んでるの?」 サッ
「その御2方だけではありません、我が帝国の民の皆が、アニス様のご帰還をお待ちしております」 サッ
「ん〜…(どうしよう) ん? そう言えばレオンの姿がない、いつもなら直ぐに私のところに来るのに… グレイ艦長、レオンはいないのですか?」 キョロキョロ
「うッ… レオハルト中佐はまだ任務中でここにはいません、任務終了次第帰ってくるものと思います」 ササッ
「そっか、レオン早く帰ってくるといいなあ」 ニコニコ
グレイ中佐はアニスに咄嗟の嘘をついた。レオハルト中佐が任務中に信号が途絶え、未帰還である事を… アニスとグレイ中佐がそんな会話をしていた時、他の2隻の連絡艇が地表についた。
ヒュウウウンッ! バシュウウウウウウーーッ! ガコン! ピッ ピッ
ウィイイインン カシュン! タンタンタン ザッ!
強襲巡航艦「ライデン」の連絡艇より2回りほど大きい2隻の連絡艇から、上空のヤマト皇国艦隊総司令、重巡航艦「ミョウコウ」の艦長でもある【井伊直弼】中将とその側近、護衛と警備の公安部隊30数名程の兵士が降りてきた。
「中将閣下、あちらにお見えになる少女が聖女様かと存じ上げます」 サッ
「むう…」 ズイッ! ザッ ザッ ザッ!
「閣下ッ! 近衛隊ッ! 閣下の護衛をッ! 公安部隊、周辺警戒をせよ!」 ババッ!
「「「「「 ははッ! 」」」」」 ザザッ! ダダダッ! ササッ!
いきなりアニスの方に向かって歩き出した井伊直弼中将の後を追って、護衛や公安の兵士とそれらしき人物が追従、散開して行った。
ザッ ザッ ザッ!
「閣下ッ! 閣下ッ!お待ちをッ!」 ダダダッ!
「なんだ騒々しい、静かにせんかッ!」 ザッ ザッ ザッ!
井伊直弼中将の側近中の側近、【長野主膳】中佐は駆け足で中将に追いつき、中将に注意を促した。
「ですが閣下、お一人での行動は危険ですッ!」 ダダ、ザッ ザッ!
「ふんッ! 天帝様から『御招きしろ』と勅命のあった聖女様がそこに座すのだぞ! こちらから出向くのが当たり前ではないかッ! しかも、ここは我が領土! それと優秀なお前達が警護の中、どこに危険があるというのだッ⁉︎ 」 ザッ ザッ!
「はッ! いらぬ事を申しました!」 ザッ ザッ サッ!
「では行くぞッ! 我らの聖女様の元へ!」 ザッ ザッ ザッ!
「はッ!」 ザッ ザッ!
数十人の護衛と共に、井伊直弼中将がアニスの元へとやって来た。
「ん? ねえグレイ艦長、何んかでっかい人がこっちに来るけど、あれ誰?」 サッ!
「あ、あれは… いえ、あの方はこの国の軍人で、上空におります艦隊の総司令官、井伊直弼中将です」 サッ
「中将? 中将ねえ… それって凄いの?」 う〜ん
「はあッ⁉︎ ア、アニス様ッ! 中将って言えばッ」 ババッ!
「ククッ はあっははははははッ!」 ザッ ザッ ピタッ!
「うわあッ! 声もでかいッ!」 バッ サッ
「も、申し訳ない中将殿、アニス様には貴方の事をまだよく説明してなく…」 サッ
「ククク… 良い良い、いやあ、久々に笑わせてもらったぞッ!」 ニイイ!
「ん、初めましてだよね? えっと、私はアトランティア帝国の… 国王の娘? と言うことらしい、【アニス・フォン・ビクトリアス/クリシュナ】です」 ササ ペコ!
「うん? 何かよう分からん身分のようだが、ヤマト皇国国防軍、徳川艦隊所属、高速打撃艦隊旗艦、重巡航艦「ミョウコウ」艦長兼艦隊司令の【井伊直弼】中将である」 サッ!
「はい井伊直弼中将さん、よろしくですね」 ニコ
「ほう、このワシを見ても怖気ずに微笑むとは… むうう、気に入ったッ!」 ズイッ!
「わああッ!」 サッ!
井伊直弼中将、御年歳58歳、その姿は身長190cmの大柄で、筋肉隆々の体格を持つ人物だった。その顔には、歴戦の強者如く多数の傷を持った武将で、彼のその風貌と体格、そして威厳のある言動に階級などで、初めて彼に出会った者のそのほとんどが萎縮して会話などできず、震えて固まってしまう者ばかりだった。
井伊直弼中将は、今ここで間近に出会った、青みがかった白銀髪の聖女、アニスが彼を全く恐れもせず、笑顔で応えてくる、その事にいたく気に入り、アニスに近づき意外な事を言ってきた。
「うむ、こうして良く見れば器量も良いし、立ち振る舞いも良い。ましてや家柄も問題ないなッ! よし、決めたぞッ!」 ババッ! パンッ!
「ん? 決めた?」 はて?
「聖女アニスッ! いやアニス様ッ! わしの息子の嫁になってくれッ!」 ババッ!
「へ?」 キョトン!
「「 はッ? 」」 ピク!
「「「「「 はあああああーーッ⁉︎ 」」」」」 バババッ! ザザッ!
グレイ中佐と長野中佐をはじめ、当事者の2人を除いたその場にいた者達全てが一斉に声を上げた。
「閣下ーーッ! 何を言ってるのですかッ! 彼女は聖女様ですよッ! しかも、天帝様から召喚要請の勅命を受けている要人ッ! お戯れはおやめくださいッ!」 ババッ!
「うん? 戯れなどせんッ! わしは本気だぞッ! 長野、良いではないか、こう言うことは早い者勝ちだぞ! それに、わしもこんな娘が欲しいッ! ましてやその後、この娘によう似た孫や孫娘ができれば更に上々だッ!」 ガハハハッ!
「いや、私は会った事もない者と添い遂げることなどしないぞ!」 バッ!
「大丈夫だ、アニス様の意思はどうでも良いのだ。夫婦の関係など周りが承認すれば何とかなるッ!」 ガハハ
「うう〜 (ダメだ、このバカちんは人の話を聞こうとしないタイプだ)」 ググッ…
そこへグレイ中佐が割って入った。
「お、恐れながら中将殿、中将殿の御子息にアニス様を勝手に嫁がせるというのはいかがなものかと…」 スッ
「いやいや中佐、これは貴公の国にとっても良い話だぞ!」 ニヤ
「は? と言いますと?」 サッ
「わしの息子と貴公の国の聖女、アニス様とが婚姻し、夫婦にともなれば、両国の橋渡し的存在となり国交は樹立、お互いにとって良いことばかりではないか、国交が開かれ、交易が開かれるのだぞ! どうだ? 悪くなかろう?」 ふふん!
「なッ! ううッ…」 ググッ!
グレイ中佐が困っていると、勇者サトシとスズカも話に割って入った。
「ダメですッ! そんな政略的無理強いな愛のない結婚は許されません!」 ババッ!
「そうだ! 勝手な事を決めるなよッ!」 ババッ!
「なんだお前達は? アニス様の従者か何かか? 小童どもは引っ込んでおれッ!」 バッ!
「「 何いいッ!(何よッ!) 」」 ググッ!
すると、井伊直弼中将の前に公安上位隊員の隼と楓が跪き、現れた。
ババッ! ザッ!
「「 恐れながら申し上げます、中将閣下ッ! 」」 ササッ!
「む、その方らは公安か? わしに意見具申とは、その度胸に免じて聞いてやる。なんだ?」 ザッ
「「 はッ! 」」 ササッ!
バッ!
「此度の中将閣下のおっしゃり様、誠に正論ではありますが、聖女様、アニス様は他国の要人、今しばらくはご自重いただくことは出来ませんか?」 サッ!
「中将閣下、私からもお願いします」 サッ!
「ふむ… むッ!」 チラッ
公安上位隊員の隼と楓が、井伊直弼中将に怖けず、中将の考えに異を唱えた。 そこへ隼と楓に対して咎める者が彼らの後ろに突然現れた。
ヒュンッ! シュバッ! ザッ!
「貴様らッ! 気は確かかッ! たかが一介の公安部隊員の分際で中将閣下に異議を唱えるなどッ! 何処の者だッ!」 シュキンッ! チャキッ!
それは、隼と楓と同じく、近代黒装束を纏った公安部隊隊員だった。
スクッ! クルッ! ザッ!
「自分は、ヤマト皇国国防軍、伊賀公安部、八咫烏隊上位隊員、隼ッ!」 バッ!
「同じく楓ッ!」 バッ!
隼と楓は、背後に現れた公安部隊委員に対し、立ち上がり振り向いて、自分達の所属を名乗った。
「伊賀の八咫烏隊だとお… ふん、徳川様のお気に入りか、公安最強部隊などと言われているが、真の公安最強部隊は貴様らではないぞッ! 我ら伊賀公安部、服部隊が最強なのだッ!」 バッ!
「服部隊ッ⁉︎ 【服部半蔵】様の部隊かッ!」 バッ
「そうだ、俺は伊賀公安部、服部隊高位隊員【猿飛佐助】だッ! 隼と楓と言ったか、貴様らのような名も名乗れず、字名の常位隊員が出しゃばるではないわッ!」 ザッ
「なんだとッ!」 ザッ
「それは言い過ぎです猿飛様ッ!」 サッ!
「ふん、上位だろうが中位だろうが、俺にとって貴様らはどれも同じ常位隊員、高位の俺に逆らうことは許されんのだッ!」 ババッ!
「「 う… 」」 ググッ…
公安上位隊員の隼と楓は、自分達より上位の立場である高位隊員の猿飛佐助に何も言えなくなってしまった。
シュバッ! ザッ ザッ!
「言ってくれるじゃねえか猿ッ! お前、いつから俺の隊の者に意見ができるほど偉くなったんだッ⁉︎」 ザッ!
「なッ!」 ババッ!
そこにまた現れたのは、隼と楓の隊長である、佐藤中尉こと伊賀公安部、八咫烏隊隊長の八咫烏本人だった。
「「 八咫烏様ッ! 」」 ババッ!
「や、八咫烏… 様…」 ササッ
「猿、半蔵のやつは来てるのか?」 ザッ!
「い、いえ… 半蔵様はこちらには来ておりません」 サッ!
「ふん、相変わらず中央に居るのか、やつらしいぜ」 ニイイッ
高圧的な態度の猿飛佐助も、自分よりも更に高位、それも隊長格の天位を持つ八咫烏には、片膝を着き、頭を下げていた。
「ん〜? ああッ 佐藤中尉だ!」 ポンッ!
ザッ ザッ ザッ! スタッ ササッ!
「アニス様、此度は我が隊が大変な失礼をいたしました」 ザッ サッ! ペコ
「ん、別に気にしてないですよ、アレは全て、創造神ジオスのやった事、それより佐藤中尉、体調の方はどうですか?」 サッ
「はッ アニス様のお陰でホレ、このとうり、完璧に元に戻りましたぞ」 サッ グッ グッ!
佐藤中尉こと八咫烏は、以前アニスによる身体と心の治療を受けていた。そして今、アニスの前で体を動かし、もう大丈夫と表現した。
「ん、大丈夫そうだね、良かった」 ニコ
「はい…… アニス様、虚をつかれ、意識を失っていたとはいえ、私がアニス様を襲った件、誠に申し訳ありません」 ササッ バッ!
佐藤中尉こと公安部八咫烏隊隊長の八咫烏は、アニスに片膝を着き謝罪した。
「ん、貴方は創造神ジオスに利用され、操られていただけ… 相手は神なんだ、仕方がないんです。謝罪は要りません」 フリフリ ニコ
「そう言っていただくと有り難い… アニス様、このヤマト皇国に滞在中は、我が公安部、八咫烏隊は貴方を全力を持って護衛いたします。 中将閣下ッ!」 ザッ ババッ!
「うむ、八咫烏か、久しいな」 むう…
「はッ! 中将閣下こちらを、国防軍総監、織田信長元帥閣下からの至急伝です」 サッ
「なんだと!」 サッ パラパラ…
井伊直弼中将は、公安八咫烏隊隊長の八咫烏から1通の通信文を受け取り、読み出した。
「むう… 天帝様がお待ちのようだ… アニス様、わしの息子との縁談、嫁にとの話はまた後日に、今は大至急、帝都「トキオ」にある皇居へとご案内し、その皇居の宮廷にて天帝様にお目どうりして頂きたい。まずは我が艦隊旗艦『ミョウコウ』へどうぞ」 サッ!
「だからッ! 嫁の話なんか無しですッ!」 ババッ!
「ククク、怒ったその顔もなかなか… 益々気に入ったぞッ! どう堕としてくれようか…」 ふふふ…
「全くもうッ! しかし、帝都ねえ… 天帝… ってなんだ?」 はて?
「アニス様、我が国の頂点にその身を置く偉大なる存在、それが天帝様です」 サッ
「ふ〜ん、要はこの国の王様ってこと?」
「ま、まあ、平たく言えば、そう言う解釈でよろしいかと」 サッ
「会わなきゃダメかな?」
「ぜひッ! お願いしますッ!」 ササッ! ペコ
「わしからも頼むぞッ!」 ババッ! ズワアッ! ペコ
「わああッ! はあああ… 仕方が無いですね、行きましょうか」 ニコ
「「「「「 おおーーッ! 」」」」」 ババッ!
「では僕らも行きますッ! アニスさんを1人で行かせるわけにはいかない!」 サッ
「そうね、私たちも一緒に行きます」 ササッ!
勇者のサトシとスズカがアニスと同行する事に声を上げた。
「「 中将閣下、我らも聖女アニス様の身辺警護として同行させてくださいッ! 」」 ババッ!
「むう、そうだな… 聖女アニス様、この者達を貴女の身の回りの警護に就けるがよろしいか?」 サッ!
「ん、彼ら4人でしたら構いません、良いですよ」 コクン
「中将閣下ッ! ならばこの私もッ! こんな常位隊員よりも優秀で強く有能なこの私をッ! 猿飛佐助も聖女様の警護にお就け下さいッ!」 ババッ!
「ならんッ!」 ババッ!
「何故ですッ!」 ササッ!
「貴様には、わしの身辺警護の任があるでは無いかッ! その任を放棄することは許さんッ!」 バッ!
「はッ! 失礼いたしましたッ!」 ササッ!
そこへ、強襲巡航艦「ライデン」艦長のグレイ中佐も願い出た。
「中将閣下、アニス様は我がアトランティア帝国の王族の身分、できますれば我が艦、『ライデン』にお乗りいただきたく…」 ササッ!
「ふむ、確かにそうだがそれはできんッ!」 バッ!
「何故ですッ! アニス様はッ!」 バッ!
「中佐、貴公の艦艇『ライデン』は損傷し、機関も完全ではないのだろう? それに貴公達は帝都ではなく、我が国防軍の艦隊本部に出向いてもらうと言ったはずだ!」 ババッ!
「うッ… 確かに…」 ググッ!
「と言うわけで、アニス様はこのわしが丁重に、帝都までお連れし、天帝様が座す皇居、宮廷に赴いてもらう」 ザッ!
「で、ではせめて護衛をッ! 我が国の優秀な者を就けさせて頂きたいッ!」 ザッ!
「ふむ… まあよかろう、して人数は?」 サッ
「3人、我が国の… いえ、アニス様にとって必ずや役にたつ護衛です!」 バッ
「3人か… よかろう、その者達もアニス様と共に来るがいいッ!」 ババッ!
「はッ! ありがとうございます!」 ササッ! ペコ
「よしッ! 総員ッ! 聖女アニス様を帝都「トキオ」までご案内するッ! 帰都準備ーーッ!」 バサッ!
「「「「「「 ははッ! 」」」」」 ザザザッ! バッ ダダダッ! バタバタ…
ヤマト皇国の、護衛の兵や公安部隊隊員が慌ただしく動き出した。
ザッ ザッ ザッ!
「隼ッ! 楓ッ!」 ザッ!
「「 はッ! 八咫烏様ッ! 」」 ババッ!
「私は一度、中央に帰る。貴様らにアニス様を任せるぞ! よいな! しっかりと警護するのだ!」 ザッ
「「 ははッ! 」」 ササッ!
ザッ! ザッ! ピタッ! クルッ!
「ああ、それと! 猿には気を付けろッ! いいなッ!」 バッ!
「「 御意ッ! 」」 ババッ!
ザッ! ザッ! シュンッ シュバッ! ヒュウウウウ…
公安上位隊員の隼と楓にアニスの警護を任せ、八咫烏はその場から消えた。
ピッ ピッ ピッ ゴンゴン ビコ ビコビコッ! タンタン ザワザワ ガヤガヤ
「閣下、聖女アニス様以下、総員乗艦を完了、発進準備完了しましたッ!」 サッ!
「うむ、操舵手ッ! 目標帝都「トキオ」、全艦発進せよッ!」 バサッ!
「了解ッ! 『ミョウコウ』機関最大、発進しますッ!」 ピッ タンタン グイッ!
ヒイイイイイイインンッ! バウウウウウーーッ! ドオオオオオオーーッ! ゴゴゴゴ
ヤマト皇国「樹海」近郊の平原から、十数隻の艦艇が一路帝都「トキオ」に向けて発進していった。
・
・
・
ーヤマト皇国 帝都トキオ近郊 エビナ高地上空ー
ゴウンゴウンゴウン ゴゴゴ シュゴオオオオオーー ゴンゴンゴン ピッ ピッ
『樹海』近郊より発進してから3日、ヤマト皇国の中心都市、帝都トキオまで約1400kmの位置、広大な田園地域エビナ高地の上空を、井伊直弼中将の高速打撃艦隊が航行していた。
ビーーーッ! ポンッ!
「まもなく帝都「トキオ」領内に入ります」 ピッ ピコ
「ふむ いよいよだな、アニス様達の様子はどうだ?」 ギシッ!
「はッ アニス様をはじめ全員が貴賓室にて待機しています。ただ…」 う〜ん
「むッ? なんだ言ってみよ」 うん?
「はあ、ただそのう… 3度の食事の時間帯だけ、厨房の給仕長から苦情が出てまして…」 たら〜
「うん? 給仕長だと? 艦内の食事を任されてる三つ星料理長のことか?」 サッ!
「はあ、『もう嫌だ』とのことで…」 ヨソヨソ
「何があった?」
「はあ、アニス様達に『艦内でも洗面、浴場と食堂とトイレは自由にどうぞ』と申したところ、食事の件で厨房に押し入って、その… 給仕長をコテンパンに…」 オドオド
「暴力を振るったのかッ⁉︎」 ババッ!
「いえ、暴力ではなく… いやあれは一種の暴力か?」 う〜ん
「何を言っているのだはっきりせいッ!」 ダンッ!
「はッ! 実は給仕長の出した料理にアニス様が更に手を加えて、それが大好評で、更には給仕長も知らない新メニューを次々と出されて…」サッ
「はああ、それで給仕長が自信をなくし『もう嫌だ』と言うことか…」 ムウウ…
「はい、いかが致しましょうか?」 サッ
「むうう、事件や事故ならともかく、『美味い料理を作られて』なんて事、処罰できるか?」 ふうう
「できませんね」 フリフリ
「だろうな… うん? じゃあ、昨日の夕食は!」 サッ
「はい、アニス様が艦内の兵、全3400名分の食事を一手に引き受けて提供しました」 サッ
「なんと! むうう、確かに、昨晩の食事は美味であった。そうか、あれはアニス様が作った物だったか…」 ムウウ!
「はい、大変美味しゅうございました」 グッ!
「むうう、料理まで完璧とは… ふふふ、ますます、わしの息子の嫁に欲しいッ!」 ググッ!
「それが…」
「うん? まだ何かあるのか?」 バッ!
「はい、昨晩の夕食のせいか、アニス様をお慕いする者が増えまして…」 ハハハ…
「ならんッ! アニス様はわしの息子にと見初めたのだッ! 近づく事は許さんッ!」 バサッ! ザッ!
「はあ、ですが艦内数千はいる兵を全て止めるなど、ほぼ不可能でして…」 フリフリ
「むうう、アニス様は大丈夫なのか?」 ザッ!
「今のところは… 時折り、物凄い殺気が貴賓室から漏れ出ているとの事ですが、中で何をしてるのか、全くわかりません!」 ササッ!
「むうう、猿飛ッ!」 ババッ!
シュン シュザッ! サッ!
「はッ! 公安部服部隊 猿飛、ここに」 サッ!
「うむ、『ミョウコウ』艦内でのわしの警備はよいッ! 貴様は直ちに貴賓室を見張り、アニス様を見守るのだ!」 バサッ!
「御意ッ!」 シュンッ!
公安部服部隊の高位隊員、猿飛佐助は、井伊直弼中将の命を受け、アニス達のいる貴賓室へと向かった。
シュタタタタ… シュバッ!
「ククク、運が向いてきたぞ、聖女アニス様の警護だ、貴賓室の中の様子次第ではこの俺が邪魔な者を排除し、手柄を立ててやる!」 ニヤッ!
猿飛佐助は野望を抱きながら重巡航艦「ミョウコウ」の貴賓室へとやって来た。 貴賓室の扉の前には4名の警備員がいたが、猿飛佐助は、通風口に潜り込み、貴賓室内の様子を伺いはじめた。貴賓室内からは異常なほどの殺気が伺い知れ、それは通風口内でもはっきりとわかった。
「うおッ! この殺気、一体何が…」 ググッ コソコソ そおお〜…
通風口のルーバーから、そっと中を覗いた。
「なッ! (はあああッ⁉︎)」 ガサッ!
猿飛佐助は貴賓室内の異様な光景に声を殺し驚いていた。
「ふふふ、これが最後の一つ、取れるものなら取ってみるがいいッ!」 ニヤアッ!
「どうするスズカさんッ! 最後ですってよ!」 サッ!
「勿論ッ! 私たちで頂きましょッ!」 グッ!
「ふふふ、そううまくいくかしら」 ニコ サッ!
「おいッジェシカ、 俺たちはもう3つも取ってるんだぜ! 一つくらい彼女達にやっても良いんじゃないか?」 ハハハ…
「アランは甘いわッ! コレは実益を兼ねた訓練、アニスちゃんが手がけたアレは全ていただくわッ!」 キッ!
「僕はおります。アラン、ジェシカのフォロー、よろしくね〜」 サッ!
「おいマイロッ!」 サッ!
「ん、勇者のサトシと公安の隼は既に倒れた、あとは君たち4人だけだね、さあ、どうする?」 ニコ
「「「「 せえっのッ! 」」」」 ババッ! ドオオオオオオーーッ!
「わッ! 一度にッ!」 わわッ!
バタバタ ドタバタ ワーッ! ワーッ! ドドドドッ!
「取ったあーーーッ!」 バッ!
「きゃああッ! やったーーッ! スズカさん凄いッ!」 わああッ!
「うふふッ! どうですか? センパイ♡」 ニコ
「くうううッ! コンプリートならずッ!」 ググッ!
「はは、いいじゃないかジェシカ」 サッ!
「もうッ! アランは可愛い女の子を見るとすぐ甘くなるんだからッ!」 ぷん!
「えッ そ、そんな事ないよ」 ぽりぽり…
「あはは、まあ、最後の一個はスズカたちが取ったね、コレでおしまい」 パンパン
ガヤガヤ ワーワーッ…
「なんだッ⁉︎ あの黒い物体はいったいなんだッ⁉︎ まさか、何かの魔道具、もしくは武器かッ! とにかく、アレの奪い合いをして殺気立っていたのかッ! コレは中将に報告せねば」 ササッ! シュン…
猿飛佐助は一連の事態を報告に、その場をさった。
「ねえ、アニスちゃん、もっとないの?」 うう…
「ん? ああ、コレ?」 サッ!
「ああーーッ! まだ持ってるーーッ!」 ババッ!
「あはは、ちゃんとみんなの分ありますよ! チョコレート♡」 ニコ
「「「 わあああいッ! 」」」 ワイワイ
ググッ スタ パッ パッ
「うう… 甘味を前にした女子がこんなに強いとは…」 ググッ
「大丈夫か隼、僕もスズカの変わりように驚いたよ」 はは…
「全くだ… しかし、あいつら…」 チラ
「ああ、たしかアトランティア帝国の英雄か… 歳は僕らとそう変わらないそうだ」 ジイイ…
「アニス様の一番弟子か…」
「さあ次やるよお!」 ササッ!
「「「 ええーッ! 」」」 サッ!
「アニスちゃん、まだやるの?」
「ふふふ、次の得物はコレだあーーッ!」 バッ!
「「「「「「 おおーーッ! コレはッ! 」」」」」 ザワッ!
「アニちゃん特製ッ!今日の夕食贅沢コースッ!『肉祭りデザート付』だああッ!」 ババッ!
「アニスちゃん、全員分有るんだよね?」 サッ!
「ん〜ん! 4人分だけ!」 ニコ
「「「「 コレは俺たちが貰うッ! 」」」」 ババッ!
「「「 なによッ! レディーファーストって知らないのッ⁉︎ アレは私たちのものよッ! 」」」 ババッ!
ワーワー ギャーギャー!
「さあ、はじめッ!」 パン!
「「「「「「「 《縮地ッ!》 」」」」」」 シュバババババッ! シュバッ!
広い空間のある貴賓室内で、アニスを除いた全ての者が一斉に高速移動術、《縮地》を使い、夕食をかけて男子対女子という構造で争奪戦が始まった。 帝都「トキオ」まであと1日半の距離であった。
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