第256話 アニス対公安(忍者)右近と左近
ーヤマト皇国「樹海」辺境 平原ー
ドゴオオオオオ… ドオオン… バラバラ… ヒュウウウウ… バサバサバサ…
「うう……」 ググッ…
広大な平原で、遠くに激しい爆発音と戦闘による攻防撃の音が聞こえ、その爆風が吹く中、身体中が傷だらけで血を流して倒れていた黒装束の男、公安部隊上位隊員の【隼】が呻き声を上げ気がついた。
ドオオン… シュババ… ドカドカ… ゴオオ… バアアーー…
「う… うるせえなあ… うぐッ… 痛ううッ… くそう… い、痛えじゃねえか…… そうか… あの野郎… うッ… 」 ググッ… ヨロッ ドサッ! ザザ…
隼は起き上がろうとしたが、予想以上に傷が深く多くの血を流したせいか目も霞んで、体が震えて言う事をきかず、再び地面に崩れて身体を横たえた。
「痛てて… ふう… くそ、力が入らねえし目も霞んでよく見えねえ… 血を流しすぎたか、これじゃあ身動きができねえな… うう…」 フウウ…
バアアン… ドオオッ… キンキンッ… シュバッ… ドガアアンンッ… ヒュウウゥゥ…
「… そう遠くではない… 誰だ? 楓か?… まだ戦っているのか?… 」 ジッ…
地面に横たわり、動けない身体でじっとしていた隼の耳には、未だに戦闘音が響いて聞こえていた。その時、彼に近づく者の足音が聞こえてきた。
トコトコ ザッ ザッ スタ…
「うん?… 誰だ… 誰か来る…」 グッ…
やがて、その足音は隼の近くで止まった。
トコトコトコ ザッ ピタッ! サッ!
「あのう… 大丈夫ですか? 今、治療しますね」 ファサッ
「お… おまえは…」 ググッ…
「あら、忘れましたか? 勇者のスズカです」 ニコ
ササッ! スッ! パアアアーーッ!
「なッ! 勇者ッ! うッ なにを…」 ググッ…
「動かないでくださいね…… 《ヒールッ!》」 パアアンンッ!
シュバッ! シュシュウウウ…
「なッ なにッ⁉︎」 シュバッ! シュウウーーッ!
傷だらけであった隼の身体が光に包まれ、やがて、全ての傷が癒えていった。 それは、異世界人勇者が使う治療魔法であった。
「これはッ! 高位治癒術式ッ!」 バッ!
シュバッ! サササアアアアアーーー…
「はい、終わりました。身体の具合はどうですか?」 ニコニコ
「… くッ!」 スクッ! バッ! ザザッ!
治療が終わり、完全に身体が癒えた隼はいきなり立ち上がって飛び下がり、勇者スズカから少し距離をとった。
「傷を治してもらった事には礼を言う! だがなぜだッ⁉︎ なぜ俺を助けたッ⁉︎」 ザッ! スッ!
「えッ!… えっと… それはですねえ…」 ちら…
傷の癒えた隼に質問され、勇者スズカがその質問に答えようと横を見た時、その方向から声がかかった。
「隼、私が頼んだからよッ!」 トコトコ ザッ! ファサ…
「なッ! 楓ッ! それと貴様ッ!」 バッ!
声がしたそこには、隼と同じ公安部隊上位隊員の【楓】が、黒装束の覆面だけをとり、素顔を出して勇者サトシと一緒に立っていた。 その姿は、栗色のショートヘアを靡かせた、歳の頃は20歳前後の美しい女性であった。
「やあ気がついたかい、ふむ… 傷は癒えたようだね、よかった」 ザッ ニッ!
「まったくサトシは… もうちょっと加減しなさい!」 サッ
「ははは…すまない 危うくやり過ぎて、アニスさんに怒られるところだったよ」 ポリポリ
「楓ッ! なぜそんな奴と一緒にいるッ⁉︎ これはいったい、どういう事だッ⁉︎」 グッ!
隼は、勇者サトシと並んで立つ楓に向かって叫んだ。
「隼… 私たちは負けたの、それは理解してる?」 サッ
「うッ!」 バッ!
楓が示唆する方向を見ると、一緒にいた他の公安部隊隊員達が皆、倒れていた。
「まさかッ! 全員殺されたのかッ!」 ババッ!
「大丈夫よ… 皆、軽い傷は負ってるけど気を失っているだけ、命に別状はないわ」 サッ
「そ、そうか…」 ふうう…
「隼… この状況を見て、わかるわよね」 バッ
「ううッ… そ、それは… ああッくそッ!」 ググッ ドカッ!
隼は、倒れている仲間のその状況を見ながら、先程までの勇者サトシと自分の戦いを思い出した。 自分の力を大きく上回る勇者達、それに打ち負かされた事を痛感し、苛立ちで地面を蹴り上げた。
「理解したようね… そう、その気になれば、彼ら勇者たちは私たち全員の、その命を奪う事もできたのよ… 勇者の技を受け、その力量を知った貴方なら、それがどう言う事かわかるわよね…」 ササ…
「ク… 俺たちでは… 俺たちの力では、到底勇者には…」 ググ…
「そう、悔しいけど… 私たちじゃあ彼らに勝てないわ」 フリフリ
公安部隊隊員は皆が現実主義者ばかりである。 目の前で起こった事の真実が事実と認識し、たとえ、それが自分の思惑とは違っていたとしても、事実を曲げず受け止め、後世に活かす。引くべき所は引き、状況判断が早い、それがこの国の公安部隊であった。
「くそッ! ここまでか… 俺が、上位のこの俺が負けるとはな…」 ググッ!
ザッ ザッ チャキッ!
「うん、 では隼さん、僕ともう一戦しようか?」 ニッ!
勇者に負けた事に悔しそうにしている隼に、勇者サトシは前に出て聖剣に手を添え、笑顔で彼に聞いた。
「ちッ! やらねえよッ! 負けだ負けッ! 俺の負けだッ! お前たちとはどうやっても勝てそうにもないからなッ!」 ババッ! ザッ!
「隼ッ!」 バッ!
楓が止める間も無く、隼も楓と同じく黒装束の覆面を取り払い、その素顔を見せた。
「楓だけに責任を取らせねえからなッ!」 キッ!
楓と同じく、栗色の髪をした20歳前後の凛とした青年がそこに立っていた。彼等公安部隊隊員はその任務と活動内容上、正体を秘匿とされていた。 特に素顔は自身の素性を明かしてしまう可能性が高い、余程の事がない限り自分の顔を晒す事はなかった。(公安部隊隊員の中には、目標の標的、相手を抹殺する事を前提として、その素顔をさらす者もいる)
楓は、勇者に対し負けを認め、顔を晒した。それは、自分1人が今回の全ての責任を受けるべく、他の公安部隊隊員に責を負わせないようにするためでもあった。 相手に自分の素顔を晒す行為、相手を抹殺して、素顔からの情報を拡散しないのであれば許されるのだが、そうでない場合は、公安部隊隊員としては致命的である。
おそらくこの後、公安部隊隊員資格剥奪、懲罰会議にかけられ処分される事は確実であった。
「隼のばか… 私だけで良かったのに… 」 グッ…
楓は、今回の失態は自分1人で償うつもりでいた。
「お前たちッ! ただの勇者ではないなッ! そうだろッ!」 バッ!
「「 え? 」」 ササッ!
「ふふ、そうね… 貴方が手も足も出なかったものね」 ニコ
「楓、笑うなッ! だが、お前たちよく聞けッ! 俺たちに勝ったぐらいでいい気になるなよッ! 隊長の【八咫烏】様や【右近】様【左近】様たちの強さは俺たちの比じゃあねえぞッ! あの方たちの強さは別格だ! いくらお前たちが、特別な勇者だろうが何だろうと、あの方たちには歯が立たないぜ!」 ニッ ババッ!
「「「 …… 」」」 ジイイイ… ああ… ピク、プル…
隼がそう言った時、勇者の2人は無言で隼を見つめ、楓に至っては、何かを思い出したのか、震えだした。
「なんだよ! 楓までどうしたッ!」 ババッ!
「あ… いや、あのね隼…」 プルプル…
「なんだ楓」うん?
「あそこを見て…」 サッ!
「あそこだと…」 クルッ!
隼は、楓が示唆した方向を見た。それは、ここより少し離れた場所で、先ほどから聞こえる音の現況がそこにあった。土煙と地面が破裂する爆発音が響き、そこでは驚愕の状況が起こっていた。
ドゴオオオオオ… シュババ… キンキンッ! シュバ! ザザアア…
「なッ! なんだよありゃああーーッ!」 ババッ!
少し離れたその場所では、隼と楓の長、公安部隊隊長の八咫烏こと佐藤中尉と、青みがかった銀髪と純白のジャケットにスカートをなびかせたアニスが対峙し、高速戦闘を継続中だった。 そしてその傍の少し離れた小さな林に、大柄の黒装束の男が2人、気を失って横たわっていた。
「や、八咫烏様ーッ! 右近様にッ! 左近様ッ!」 ババッ!
ドオオン… ビュウウウ… ババッ ババッ…
「隼、右近様と左近様はすでに敗退したわ… それも一瞬で…」 プルプル
楓は小刻みに震えていた…
「嘘だろ… あの方たちは俺たちよりさらに上の高位隊員だぞ、それが一瞬でだと? どうしてッ!」 バッ
「うう…」 ガクガク
「楓? どうしたんだ?」 サッ
「隼… 私は見たの…」 ガクガク ブルブル
「見た? いったいなにを見たんだッ⁉︎」 バッ
「う、右近様と左近様たち2人が… なす術なく、一瞬で倒されていくのを…」 ガクガク
「楓ッ!」 ババッ
「あ、あれは… 人が使える動きを超えている……」 ガクガク
「楓… 一体何を言ってる… 楓ッ!」 ガシッ! ユサユサ
隼は、小刻みに震えている楓の肩を掴み揺すっていた。
「うう… あれは… あの娘は… 私たちが手を出してはいけない… 関わってはいけない存在なのよッ!」 ブンブン バサッ!
楓は、戦意喪失した直後、視線の先に映ったアニスに襲い掛かった右近と左近、2人の行動状況の一部始終を見ていた。 今、楓はその記憶を否定するかのように頭を振っていた。それは、楓にとって信じられない記憶だった…
・
・
・
ドゴオオオオオーーッ! シュバババアアアアアーーッ! シュバシュバッ!
「「 ぎゃああーッ! おおおおーーッ! 」」 ドサッ バタンッ!
「うう… だからやめなさいと言ったのに… えッ! あれは…」 バッ! ジイイ…
楓は、勇者スズカに負け戦意消失して地面に膝をつき、他の公安部隊隊員達が2人の勇者にまったく歯が立たず、次々と倒れていくのを見ていた。その時、その視線のさらに奥、少し離れた場所を、自分達より上位の高位隊員、【右近】と【左近】の2人の姿を捉えた。
「あれは、隊長の側付き隊員の右近様と左近様ッ! なぜあの様な場所に…」 ジイイ…
楓は公安部隊隊員中、随一の動体視力の持ち主で、高速移動中の人の動きが見える数少ない隊員の1人だった。 今回も、乱戦中の勇者達や他の隊員達の動きがよく見えており、その中で、視野の隅に入った自分達より上位の存在、高位隊員の右近、左近の姿を捉えたのであった。
楓はその2人の動きを目で追っていった。 そして、そこには楓にとって信じられない光景が、その目に映り記憶していった。
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シュバババババーーッ! チラッ! バババババーーッ! ザザザザアアアアーーーッ!
「左近、いたぞッ! アレが指示目標だッ!」 クイッ! ババババーーッ!
公安部隊高位隊員の右近が見つけたその先には、白い軌跡を帯び、高速で移動するアニスの姿を捉えた。
「うむ、間違いなさそうだッ! しかし、速いッ! 異国の少女は異常だな、高速移動術の舜身術《疾風》をああも使いこなすとは…」 ムウ ババババーーッ!
「まったくだ、我らの部下に欲しいくらいだ」 ババババーーッ!
「『保護せよ』とのご沙汰だ、諦めろ!」 ババババーーッ!
「うむ、ではいくぞッ!」 ババババーーッ! シュバッ!
「承知ッ!」 ババババーーッ! シュバッ!
高位隊員の右近と左近の2人は、さらに速度を上げ、アニスの進路上に向かっていった。
シュンッ! シュバアアアアアアアーーーッ! タタタタタターーーッ!
「ん? 誰?…… へええ、速いね、私の前に出るつもりなんだ」 ジッ シュバアアーーッ!
アニスは自分に近づき、さらにはその前方へと向かっていく2人の存在を感知していた。
シュバッ! ババババーーッ! チャキッ!
「左近ッ! ヤツの頭を押さえるッ!」 ババババーーッ!
「うむッ! ではッ!」 ババババーー!
バアアアンンッ! シュバッ! ザザアアーーッ! フシュンッ!
右近と左近は強引にアニスの前に立ちはだかった。
「ん! 無茶をするなあ… 仕方がない」 シュバッ!
ザザアアアーーッ! ピタッ! ファサッ ヒュウウウウ… ファサファサ…
アニスの前方に立ちはだかった右近と左近の2人を見て、アニスも高速移動から急制動をかけて止まった。その余波を受け、風が舞い、アニスの青みがかった銀髪と純白のスカートを靡かせていた。
身長160cmほどのアニスにとって、右近と左近の2人は186cmの大柄な男、その2人が全身真っ黒な黒装束でアニスの前に立ちはだかった。アニスにとって、それは真っ黒な壁そのものに見えた。
「わああ、大っきい! それで、私に何か御用ですか?」 ニコ ファサファサ…
チャキッ!
「異国の少女、聖女アニス様とお見受けする」 ザッ!
「え? アニスは合ってるけど、私は聖女じゃないよ」 フリフリ
「問答無用、我々と共に御同行願いたい」 ザッ!
「ん? いやだと言えばどうしますか?」 ニコ
「今の貴女に拒否権はない」 ザッ! チャキッ!
「多少、強引ではあるが力尽くにでも来ていただく」 ザッ! チャキッ!
「ん〜…… やだッ!」 サッ!
「「 では仕方ない、参るッ! 御免ッ!《疾風ッ!》 」」 ザザッ! シュババッ!
「ん?」
アニスの返事と同時に、右近と左近の2人は同時に動いた。
シュバババババーーーッ!
「左近、相手は聖女様だ、手加減を忘れるなよッ!」 ババババーーッ!
「元より承知ッ! 右近、貴様こそ気を付けろッ!」 ババババーーッ!
彼らの高速移動術の瞬身術《疾風》は、隼や楓のそれとはまったくの別物で、この2人の《疾風》は、彼らの物より数段速く動ける様だった。
「ん!」 ザッ!
シュバッ! ババババッ!
一瞬後、右近と左近は短刀を片手に逆手で持ち、アニスのすぐ目の前に現れた。
「いかに聖女と言えど一介の少女、この場は気絶していただくッ!」 チャキッ!
「うむッ! いくぞ左近ッ!」 チャキッ!
「「 戸隠流ッ!《飛龍剣ッ!》 」」 ズバッ! ビュビュンッ!
2人同時に同じ剣技をアニスの間近で放ってきた。
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ジイイ… パチパチ ジイイ…
「流石は高位隊員である右近様と左近様だわ… 物凄い速さの《疾風》、私たちはまだまだね… え?… あれは、白い女の子? 彼女が右近様左近様の標的?… まさか… あ、あれはッ! 戸隠流《飛龍剣ッ!》 そんなッ! 女の子になんて技をッ!」 ググッ! ジイイ…
楓は今まさに、アニスに剣技を使って襲い掛かかろうとしている右近と左近の姿を、離れた場所からじっと見ていた。
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ズバアアーーッ!
「んッ! 剣技ッ!《エノーマル.エッジッ!》」 チャキッ! シュバアアアーッ!
アニスは咄嗟の判断で、背中腰にあるミドルダガーの神器「アヴァロン」を抜き、右近と左近の短刀攻撃、戸隠流《飛龍剣》に向けて反撃した。
シュバッ! ビギイイインンッ! ドオオオンンーーッ!
「「 なにいッ! 」」 ババッ! シュンッ! ザザザアアアアーーーッ!
咄嗟に起きた出来事に、右近と左近はその場を飛び退いた。
バアアアンン… バラバラバラ… ヒュウウウウ…
「なんと、あの一瞬で斬り返すとは…」 ジイイ… チャキ
「ただの聖女ではないと言うことだ…」 ジイイ… チャキ
サササアアーー… ザッ! バサバサバサ…
両者の技がぶつかり合い、その威力が相殺され爆発し、その時の煙が晴れた時、その場には神器「アヴァロン」を片手に右近と左近の方を見て構えるアニスが、青みがかった銀髪と純白のスカートを靡かせ立っていた。
・
・
「そんな… 右近様と左近様の技を同時に受けて無傷だなんて…」 ジイイ… ワナワナ…
シュバッ! ババッ! ビュンブンッ!
「「 くそうッ… ぐわああー… 」」 ザザアアー ドサ…
近くで仲間の中位、下位の公安部隊員が勇者に倒されていくにも関わらず、楓はその場から離れた場所で起きている、アニスと右近左近、両者の戦いを見続けていた。
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ヒュウウウウ…
「ん、2人同時の息のあった攻撃、凄いですね」 ニコ チャキ…
アニスは平然として2人に技の感想を述べた。
「むうう… その余裕がいつまでも続くかな…」 グッ…
「右近ッ! 先程の返し技を見て俺は決めたぞ!」 ババッ!
「うむ左近、俺もだ… もはや!」 ググッ!
「「 手加減無用ッ! 全力でいくぞッ! 」」 チャキッ! ザザッ!
右近と左近の2人は、一度の攻撃でアニスの実力を把握し、手加減での保護は無理と判断し、自分達が全力を尽くす相手と見て構えた。
「ん? 本気でやる気なんだ…」 クルクルッ! チャキッ! シュバアアアーーッ!
アニスはそんな2人を見て、右手に持った神器「アヴァロン」を回して持ち替えた。その途端、アニスの魔力が増大した。
「そんな虚仮威しッ! 行くぞッ!」 ババッ! ダダダ シュンッ!
「おうッ!」 ババッ! ダダダ シュンッ!
アニスに向かって再び攻撃を開始した。
ダダダッ! シュンシュバッ! サ ササッ!
「生半可な攻撃ではダメだッ! 出し惜しみは無しだッ! 火炎術ッ!《飛炎連弾ッ!》」 キンッ!
シュドドドドドオオオーーーッ! バババババッ!
「うむッ! 風水術ッ!《氷華連撃ッ!》」 キンッ!
シュババババババーーッ! ドババババババーーーッ!
右近は巨大な炎の流星弾を、左近は巨大な氷の槍を、それぞれが多数現れ、アニスに向かって襲いかかった。
シュバババババババーーーッ! ドドドドドッドオオオーーッ!
「ん、悪くない、でも…《アルテミスリングッ!》」 キュインッ! パアアンンッ!
アニスの前面に純白の魔法陣か現れた。アニスのオリジナル絶対防御魔法であった。
ドドドドドッドオオオッ! バキイイイイインンンッ! シュウウッ! バラバラバラ…
「「 なにいいッ‼︎ 」」 ババッ!
両者が放った火炎術と風水術、巨大な攻撃術は全て、アニスの絶対防御魔法、《アルテミスリング》の前では何の効果も与えず消え去っていった。
「ばかなッ! 相反する二属性の攻撃術を同時に消し去っただとッ⁉︎」 ググッ!
「ありえないッ! そんな事が出来るはずがないッ!」 グッ!
シュウウウウウウウウ… シュバッ! ヒイイン ヒイイン
「ん? 終わりですか?」 ニコ
「「 おのれッ! 」」 ササササッ! ババッ! サッ サッ!
「これでどうだッ! 土雷術ッ!《雷帝斬ッ!》」 キンッ! バリバリバリッ!
ドオオオオオオオオオーーーンンッ! ビリビリバババババーーッ!
「これも受けよッ! 風炎術ッ!《火焔龍ッ!》」 キンッ! シュゴオオオオオーーッ!
ボボウウウウッ! ブワアアアアアアーーーッ! ギュワアアアアーーッ!
右近と左近はアニスに向けて更に大きな攻撃術を使ってきた。 巨大な電撃と龍を象った炎の竜巻であった。
バリバリバリッ! メラメラ ボオオオオッ! ドドドドドドオオオーーッ!
「ん、威力は十分… だけど無駄だよッ!」 ヒイイイン ヒイイイン!
ギュワアアアアーーッ! バギイイイイインンッ! バリバリバリ バチバチ ビリビリッ!
シュバアアアアアアアーーー! ボウンッ! ブワアアアアアアーーーッ! シュバババッ!
シュンッ!…… チリチリチリ… シュウウウウウウウウ…
「「 馬鹿なッ‼︎ … またしても… 」」 ググッ… ザザ…
再びアニスに向けて放たれた、渾身の巨大な攻撃術も、アニスの絶対防御魔法、《アルテミスリング》の前では全て、虚しく霧散、消えていった。
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・
「ありえないッ! 右近様と左近様の最強の術が効かない? いや消えた? なぜなの? あの娘はいったい何なのッ⁉︎」 ジイイ… フリフリ
・
・
シュウウウウウウウウ… ヒュウウウウ…
「こんな事が、あれだけの攻撃が最も容易く…」 ザザッ!
「いや、これが現実だ左近、ならばッ!」 チャキッ!
「うむ、あの防御の前では何をしても無駄ッ! ならば直接の物理攻撃あるのみッ!」 チャキッ!
「そうだ、あまり八咫烏様を待たせるわけにもいかんッ! アレをやるぞッ!」 グッ!
「うむ、承知したッ!」 グッ!
「ん? 魔法攻撃は終わり? じゃあもうコレいらないよね」 シュウウッ シュバッ!
アニスは展開中だった絶対防御魔法、《アルテミスリング》を解除した。
「「 うおおおおッ! 舜身術ッ!《疾風ッ!》 」」 グググッ! シュバッ!
アニスの絶対防御魔法に対して、遠距離攻撃術は効果なしと判断した右近と左近は、再び短刀を構えて高速移動術の舜身術、《疾風》を使って姿を消した。 既に、この時点で右近と左近は当初の目的を忘れ始めていた。アニスがあまりにも自分達の技や術を跳ね除け受け付けず、それに対しての焦りからだった。
「ん、《縮地》」 シュバッ!
「うぬッ! その技は既に見切ったッ! 確かに速いがそこまでの事ッ!」 シュババーーッ!
「左様ッ! 我らにとって何ら障害になる速さではないッ!」 シュババーーッ!
「ん、そうなの?」 シュンッ! タタタタタターーッ!
「我らの真の実力」 シュンッ! シュババーーッ! ググッ!
「見るがいいッ!」 シュンッ! シュババーーッ! ググッ!
ブワアアッ! ギュワッ!
「ん? 魔力が増えた…」 チラ シュッ! タンッ! シュババーーッ!
「「 見よッ! 舜身術ッ!《疾風改ッ!》 」」 ドンッ! シュバッ! ギュンッ!
右近と左近の高速移動の速度がさらに上がった。
「んッ! 速いッ!」 シュバババアアアアアーーッ!
シュンッ! シュババッ! チャキチャキンッ! スッ!
「わああッ!」 シュバババアアアアアーーッ!
一瞬後、アニスは右近と左近に両方から挟まれ、その間近で攻撃を受けた。
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・
「右近様、左近様の《疾風》速度が上がった! もの凄く速いッ! あッ! あの娘、挟まれたッ! あれは戸隠流の奥義ッ!」 ググッ! ジイイ…
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・
「「 ふふふ! 捉えたぞッ! 戸隠流奥義ッ!《雷帝龍撃斬ッ!》」」 シュキンッ!
ズバアアアアアアーーーッ! ビュビュウンンンーーッ!
右近と左近の2人はアニスとの距離を必中の距離まで詰め、彼等の剣技、戸隠流の奥義を放ってきた。
「「 この距離だッ! もう躱すも受け流すこともできまいッ! 」」 ニヤッ!
それは誰の目にもわかる、絶体絶命の状態だった。しかし…
「んッ!《ファントムッ!》」 ブンッ! シュバッ! ヒュンッ! パッ!
ビュゴオオオオーーーッ! シュ! バアアアアアアアーーーッ!
「「 なッ‼︎ なにいいいーーッ‼︎ 」」 ザザザアアアアーーーッ! ババッ!
戸隠流奥義、《雷帝龍撃斬》の2人分の攻撃がアニスに当たる瞬間、アニスの姿がぶれ、その場から消えていった。
サササアアアーー……
「「 き、消えた… 馬鹿なッ! 」」 ササッ! キョロキョロッ!
2人は消えたアニスの姿をその場で探した。だが、アニスの姿はどこにも無かった。
「「 そんな… どこに消えたああーーッ! 」」 ババッ!
その時、不意に2人の背後から声が聞こえた。
「ここだよ」 シュンッ! パッ!
ガバッ! クルッ ババッ!
「「 なッ⁉︎ 」」 ザザッ!
「帝級剣技、《グランツカッツエッ!》」 シュンッ!
ドゴオオオオオオオオーーーーーッ! ビュオオオオオオオーーーッ!
「「 うおおおおおおおおーーーーッ! 」」 ビュンッ! ビシビシッ! バシイイーーッ!
ドカドカッ! ドオオオオンンーーッ! バラバラバラ バラ…
「「 ううう… 」」 バタバタン…
右近と左近の2人は、アニスの帝級剣技を受け、200mほど吹き飛ばされ、その先にあった小さな林に突っ込み、木の根元で意識を刈り取られ倒れてしまった。
「ん、ごめんね… さて…… 佐藤はあそこか…」 チャキン シュンッ! シュバッ!
アニスは2人の様子を見た後、神器「アヴァロン」を背中腰の鞘に収め、佐藤中尉の位置を確認すると、再びその場から消え去った。
・
・
ガクガクガク ブルブル
「な… なに今の… 右近様と左近様が倒された… あの動き、あんなの誰にも出来ない… 」 ガクガクガク
楓は、アニスの動きを全て見ていたが、流石の彼女も全く理解が出来ず、ただ震える事しか出来なかった。そして今に至る…
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「楓は一体なにを見たんだ?」 サッ!
ドオオオオンンーーッ! バラバラバラ
「お、八咫烏様だ、流石に凄い術をお使いになる、どうやって右近様と左近様を倒したのか知んねえが、あの方を相手にする奴は相当な馬鹿だな! 見ろよ、八咫烏様が優勢だぜ!」 ニッ!
激しい爆発音の先に、彼等の長である八咫烏が次々と技や術を繰り出している姿が見えていた。
「ち、違うわ… 」 ブルブル ジイイ…
楓はその優れた動体視力で八咫烏の戦いを見つめた。
「うん? 楓、なにが違うんだ? あんなに凄い術を連続で放ってるんだぜ、八咫烏様の圧勝じゃないか」 バッ
「違う… 違うの… (八咫烏様が優勢なんかじゃない… その逆、少しずつ推されている… あの娘が強すぎるのよ、いったい何者なの…)」 ジイイ…
楓にはその戦いの状況が見えていた。隊長である八咫烏の攻撃を全て躱す、青みがかった白銀髪のアニス、時折アニスからの反撃をその身に受ける八咫烏、微々たるものだがダメージを蓄積していった。そんな自分達の長、隊長である八咫烏の姿を、楓は隼に話す事はしなかった。
「楓、八咫烏様だぜ、コイツら勇者だってあんな激しい攻撃には耐えられないぞ、一体何が違うんだ?」 サッ
「ええ、確かに… 私もサトシもあの連続攻撃の前では、タダじゃ済まなさそうですわね」 ジイイ
「僕もそう思うよ、動きも早いし威力も大きい、アレは神獣様たちくらいの強さじゃないかな、僕たちもまだまだだね…」 ザザッ!
勇者の2人もその光景を見て思った。 だが、ここにいる全員が気が付いていなかった。八咫烏こと佐藤中尉が、今は人間が使える技や術のそれを遥かに超えるものを使って攻撃をしている事を…
ドオオンン… シュンシュンッ!
「なあスズカ、アレの相手って、もしかしたら…」 スッ
「ええ、察しの通りよ、おそらくアニスちゃんね」 ニコ
「だよなあ…」 やれやれ…
「「 アニスッ⁉︎ 」」 ババッ!
「うん?どうしたんだ」 サッ
「それって、アトランティア帝国の王族、聖女【アニス・フォン・ビクトリアス/クリシュナ】様の事ッ⁉︎」 ババッ!
「え? ええっと… アニスちゃんはアニスちゃんだったよねえ?」 サッ
「ああ、僕たちはそれしか知らないけど… アニスさんが王族? まさかあ…」 ははは…
「どうしたんだよ楓、誰だそれ?」 サッ
「隼のおバカッ! 聞いてないのッ⁉ 今回の私たちの主任務は彼女の保護なのよッ!」 バッ!
「「「 はあああッ⁉︎ 」」」 ザザッ!
楓の言葉に勇者どころか隼も驚いていた。
「なッ! それじゃアレはどうよッ! 隊長の八咫烏様はおもいっきし、全力で戦っちゃってるぜ、あれは保護もなにもないじゃないかッ!」 ババッ!
「うう、わからない… ここはわからない事だらけなのッ! 一体ここで何が起こっているのよッ!」 ブンブン
楓は頭を激しく振り叫んでいた。
・
・
シュバババババーーッ! ビュンビュンッ! ババッ!
「喰らえッ! アニスッ! 《ガルフレアーーッ!》」 ババッ! キンッ!
シュバババババーーッ! ボボッボボッボボーーッ! ギュンギュンッ!
「ん、《リヒトランサーッ!》」 シュバッ! キュンッ!
シュンッ! バババババーーー! ドドドド ドオオオオンンッ! バラバラバラ…
「ふ、やるではないか」 ニヤ シュウウウ…
「ん、それで、まだ続けますか? 創造神ジオス」 ニコ
「ふん、それは愚問だな、アニスよ… 私の目的は既に知っておろうに」 サッ!
「仕方がないね、まずはその者、佐藤から離れてもらうよッ!」 キッ! チャキッ!
「ククク、そう容易くはないぞッ! アニスーーッ!」 ババッ シュンッ!
「もちろんッ!」 シュバッ! シュンッ!
シュバババババーーーッ! ドゴオオオオオオオオーーーーーッ!
ヤマト皇国「樹海」の辺境、その平原で激しい爆発音が響いていた。
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