第245話 襲う勇者と守る勇者
ーヤマト皇国「樹海」外縁部ー
キンッ! シュババッ! ザッ! シュンッ! バババッ! ギュインッ!
ヤマト皇国の「樹海」の外れ、外縁部にある広大な平原に、勇者達の高速移動音と聖剣、聖槍による激しい攻撃音が響いていた。 そんな彼らを小高い丘の上から青みがかった白銀髪の髪と純白のスカートを靡かせ事の成り行きを見守っていた。
ファサファサ…
「ん、やっぱり… あの勇者は…」 ジイイ…
シュンッ! ザザッ! スタタッ
「「 アニス(様) 」」 ササッ!
アニスのすぐ背後に、神獣、ヤマタノオロチとアコンカグアの2人が現れた。
「ん、ヘビくんとカグア、流石に早かったね、ご苦労様」 ニコ
アニスは、3機の自立思考型無人ブレードナイトを倒して来た2人に対しお礼を言った。
「アニス、礼には及びません、『樹海』の主人として当然の事をしたまでです」 サッ
「そうですわ、アニス様、これが『樹海』を守護し断罪をする者の当然の務め、気にしないでください」 サッ
2人はアニスに対し頭を下げた。
ドカッ! ドオオオオンンッ! バラバラバラ…
アニスが見ていた広大な平原の一部が捲れ上がり、爆発と共に地形を変形させ、大穴を開けていった。
「むうう、あれは聖剣の威力か… 凄まじいな…」 ググッ
「ええ… あのままではここら一帯が全て破壊され、不毛の大地になってしまいますわ…」 グッ!
ドオオオオンンッ! ドカアアアアッ! バラバラバラ…
勇者達の戦いで、緑豊かな草原が次々と吹き飛び、その姿を変えていった。
「……ん… 放ってはおけないね…」 テクテク ピタッ サッ サッ
破壊され、姿を変えていく広大な大地を見て、アニスは小高い丘の先端まで歩き両手を左右に広げた。
「アニス… 一体何を…」 サッ
「アニス様?」 サッ
「ちょっとね、ヘビくん… カグア… 見ててね」 ニコ パアアアンンッ!
シュバアアアーーッ! シュゴオオオーーッ!
「「 うおッ!(きゃッ!) 」」 バババッ!
アニスの体を眩い光の柱が現れ覆い、それは天空へと登っていった。そして…
「ん!《フィールド.グラン.ウォールッ!》」 バッ!
ドオオオオオオオオオーーッ! シュバババババッ!
「うおおおッ! こッ これはッ!」 ググッ!
「あああーーッ! ううッ… なッ なに⁉︎ なんなのこの魔法はッ⁉︎」 ググッ!
神獣のヤマタノオロチとアコンカグアが驚くのも無理がなかった。 眼前に広がる広大な平原、その見える範囲全ての大地がアニスの魔法により覆われ、その中で、勇者達がいかなる強大な力や魔法で破壊しても、瞬時に元の状態に戻っていく、強化再生復元能力を持った空間となっていた。
ブワッ! ドオオオオオンンンッ! シュワワ…
ふわふわ… スタン… サッ!
「ん、もうこれで大丈夫、あの空間内なら勇者たちがどんなに強力な攻撃や魔法を使っても、この平原には影響を受けないからね」 うん!
ドゴオオンッ! バラバラバラ… シュウウッ!
アニスの言う通り、爆発で捲り上がった平原が、次の瞬間には元の平原へと戻っていた。
「なんと… これは、瞬間自己再生空間か、それとも時間回帰空間、いやいやどちらにしてもだ、これだけの広大な平原その全てを覆い、その中の空間を元の状態を維持する魔法など見たことも聞いたことも無いぞッ!」 バッ
「え… ええ、私も知りませんわ…」 グッ
ドゴオオオオンンッ! バラバラバラ… シュバッ!
破壊されては元に戻る不思議な空間、その中で高速移動のまま戦い続ける勇者達を、アニスとその魔法の効果に驚いている神獣の3人は、事の成り行きをじっと見守っていた。
ー高速戦闘空間ー
シュバババババッ!
「ははははッ! どうしたッ! 2人がかりでその程度とは勇者の名が泣くぜッ!」 ビュンッ!
シュビッ! ババッ! ドオオオオンンッ!
「はッ! ふんッ! それはこっちのセリフよッ! あなたの攻撃は一撃だって当たらないじゃないッ!」 ビュンッ! ババッ! シュバババババッ! ドカドカッ! バアアンンッ! バラバラバラ…
「言ってくれるぜ!」 ニヤッ シュババッ! キインッ!
「スズカッ! 仕掛けて来るぞッ!」 バババッ! チャキッ!
「わかってるわッ!」 シュバッ! ジャキンッ! シュンッ!
「行くぜえッ! うおおおッ! 剣技ッ!《炎龍斬ッ!》」 ブウォン シュバッ!
「くッ! スズカッ! 下がれッ! 剣技ッ!《扇火閃ッ!》」 ボウッ シュバッ!
ビギイイイインンッ! ブワッ! ドオオオオンンッ! ギギギギリッ!
「へええ、やるじゃねえかサトシ、流石は勇者だぜ」 ククク ギリッ! ギギ…
「グッ…ケンゴ、お前、いつの間にこんな力を…」 ググッ… ギギギ…
「ふッ! 気付くのが遅すぎんだよッ! 今の俺はお前達以上の力があるんだぜッ!」 ククク
シュバババババッ! ギリギリ ギギギ!
「く、なんて力だッ!」 グググ… ギリッ!
高速で移動したまま、勇者ケンゴの聖剣に押され、勇者サトシは徐々に後ろへと押され始めた。
「サトシッ! 避けてッ! 槍技ッ!《土雷閃槍突ッ!》」 ヒュンヒュンヒュンッ! シュンッ!
ドドドドドドオオオオオーーッ!
「ちいッ! スズカかッ!」 グイッ! シュバッ! ヒュン!
「うわあッ! ケンゴおおッ!」 シュバッ! ダンッ! ザザザアアアーーッ!
勇者サトシと聖剣同士で押し合っていた勇者ケンゴは、真横からの勇者スズカの聖槍槍技の攻撃を受け、咄嗟にサトシを力任せに押しのけ、スズカの攻撃を躱した。
ドガガガガガッ! ドオオンンンッ! バラバラバラ…
「ヒュウ〜… 流石はスズカだぜ、攻撃力がハンパないな」 ニヤ シュン スタ…
「貴方に褒められたって嬉しくはないわッ!」 キッ ヒュンヒュン クルクルッ! シュン スタ…
勇者の3人は、高速移動術《縮地》を解除し、その場で相対した。 どちらもお互いの攻撃を受けず、無傷の状態で聖剣と聖槍を構え睨み合っていた。
・
・
「ほう、あのケンゴと申す勇者、なかなかやるではないか、サトシとスズカの2人が押され気味だな」 ふむ
「そうね、でもあのケンゴと申す勇者、本当に勇者なのかしら?」 う〜ん
「カグア、君のその思惑、当たってるよ」 サッ
「「 なんとッ! (えッ!)」」 ババッ!
3人の勇者の様子を見ていたアコンカグアの疑問にアニスが答えた。そんな中、勇者達は再び高速移動術に入り、戦闘を再開した。
・
・
「「「 《縮地ッ!》 」」」 シュバッ! ババババッ!
キンキンッ! シュババッ! ドオオオオンンッ! バラバラ ガラガラ… シュバッ
再び、アニスによって隔離された平原は、剣撃と高速移動の音と、それによる破壊と再生が繰り返されていた。
・
・
「アニス、奴は勇者ではないと言うのか?」 ザッ
「そうなのですかアニス様?」 バッ
「うわッ!」 ヒクッ!
いきなり神獣の2人に詰め寄られ、アニスは少し驚いた。
「えっとお… 正確には勇者なんだけど勇者じゃなくなりつつって言うのかな?」 んと…
「勇者であって、勇者ではなくなりつつある?」 むむむ
「アニス様、なんですかそれ?」 はて?
「そうか、ヘビくんやカグアは知らないんだった」 ポン
「「 私たちが知らない? 」」 ババッ
「ん、えっとねえ、勇者というのは…」 あーで、こーで…
アニスは以前、サトシやスズカに話した、勇者のこの偽世界「アーク」での真実を、神獣の2人に話した。
「なんとッ! それではあの者たちッ! サトシやスズカを含む勇者全てはアニスをこの世界から抹殺、消滅させるためにだけ、異世界より召喚された者たちだったということなのかッ!」 ババッ! ググッ!
「勇者… 抹殺しなくてはいけない存在だったのですね… アニス様を狙うなど… この私が絶対に許さないわ」 グググッ! メラメラ…
「わああ、カグアちゃん、落ち着いてね…」 ははは…
「ええ、大丈夫ですわアニス様、勇者だろうと何だろうと貴女様に近づくいかなる者は全て、この私とその眷属によって滅殺させて戴きます。うふ♡ そう… アニス様に近づいた瞬間、この私のこの手で… ふふふ、逃げようものなら私の眷属が地獄の果てまで追い詰めてトドメを…」 ふふふ… メラメラ…
「へ、ヘビくん、なんかカグアが変だよ」 グイ
「アニス、今回ばかりは我もアコンカグアと同意見だ、そのような不届き者共は、勇者であろうと英雄であろうと、我のこの手で引き裂いてやる!」 むうう…
「わああッ! ヘビくんまで変だよおおッ!」 あたふた
「あら、ヤマタノオロチ、意見が合うとは奇遇ですね」 ニコ
「当然だ、アニスを抹殺し消滅させるだと? ふざけおって…」 グググッ!
「「 ふふふふふふ クククククク 」」 ニヤ グッ!
いつもはいがみ合っている神獣の2人だが、今回の事はアニスを敬い守るという、2人の共通の理念が一致し、お互いが満面の笑みを浮かべ握手をした。
「う~、二人ともちょっと落ち着いて」 サッ!
「「 アニス(様!)」」 ババッ
「い~い、この偽世界に召喚された勇者は全て、創造神の手によって強制的に、本来の目的とは違った事に召喚された、いわば被害者だよ、サトシやスズカを2人は見てたでしょ?」 スッ!
「「 うッ! 」」
アニスが指さしたそこには、勇者ケンゴと懸命に高速移動術で戦っているサトシとスズカの2人の勇者がいた。 彼ら2人は押されながらも、勇者ケンゴと全力で戦っていた。
・
・
「うおおおおッ!《ファイヤートルネードッ!》」 キンッ!
ドオオオオーーーッ!
「はあああッ! 邪気突貫ッ!《瞬華裂槍ッ!》」 ヒュンヒュヒュンッ!
シュバババババーーーッ!
「くくく、《バーニングザッパーッ!》」 キンッ!
ドゴオオオオオーーッ! ギュウウウンッ!
ドガアアアアアンンーーッ! ギュワアアアーーーッ!
「なッ! うわあああーーッ!」 バババッ! ドオオオオーーー
「ふんッ! 剣技ッ!《炎龍斬ッ!》」 シュバッ!
ギュインッ! バアアアンンッ!
「きゃあああーッ!」 バアアッ! ダンッ! ザザザアアアアーーーッ!
シュンッ! スタ ザッ!
「ああっははははははッ! どうした、サトシ、スズカ、勇者が2人もいてそのざまかあ?」 ククク…
再び、高速移動戦闘を解いたそこには、聖剣を片手に勝ち誇り高笑いの勇者ケンゴと、地面に膝をついた勇者サトシとスズカの2人がいた。
「ううう…」 グググ… ザッ!
「く、くそう… ケンゴのやつ…」 ググッ! スクッ!
「おう、立った立った、そうでなければなッ! それでこそ勇者だ!」 ククク チャキッ!
・
・
「どう? あの2人を見て、あの子たちが私を消そうとしている勇者に見える?」
「むうう…」 ジイイ…
「アニス様… 勇者の全てが悪というわけではなさそうですね」 ニコ
「ん、わかってくれてありがとう、カグア」 ニコ
「はい! アニス様♡」 ガバッ! ギュウウッ!
「わああ、カ、カグアッ!」 ギュウウッ!
カグアはいきなりアニスに抱き着いた。
「でもアニス様♡」 ヒソ… ギュウウッ!
「な、何かな?カグア…」 ギュウウッ!
「もし…万が一の場合は、私が全力でお守りいたします♡」 ヒソ…
「ん、あはは… ありがとう、カグア…」 コクン
ヤマタノオロチとアコンカグアの2人の神獣は、アニスの言葉に納得し再び勇者達のほうを見た。
・
・
ビュンビュンッ! チャキッ!
「2人ともどうした? もう終わりか?」 ニヤニヤ
「く、スズカ、大丈夫か?」 サッ!
「ええ、まだいけるわ、でも…」 グッ!
「ああ、わかっている、このままじゃあだめだ、あれを使うよ、大丈夫、僕だけでやるよ」 ニイッ!
「サトシッ! まさかッ!」 バッ!
「これしかない、アニスさんには『まだ早いからね』って言われてたけど…」 グ…
勇者サトシは自分の聖剣を握りしめ、ある決意をした。
「じゃあ、私もッ! サトシだけじゃあ…」 ギュ!
バッ!
スズカがそう言いかけたとき、サトシはスズカの言動を止めた。
「僕だけで十分だよ、あの技はまだ僕たちには早いんだ、だから苦しむのは僕だけでいい」 ニコ
「サトシ…」サッ
2人がそんな会話をしていたとき、勇者ケンゴが攻撃を仕掛けてきた。
「何をごちゃごちゃと言ってやがるッ! これで終わりだああッ! 俺の聖剣に食われ、俺の糧となりやがれええッ!」 シュバッ ダダダダッ!
「ふッ… ケンゴ、お前の思いどおりになってたまるかッ!」 チャキ!
「ふははははははッ! まずはサトシッ! おまえからだッ!」 ダダダダッ!
「ああ、来いッ! ケンゴおおッ!」 ダダダダッ!
「「 《縮地ッ!》」」 シュババッ! シュンッ!
勇者サトシと勇者ケンゴは同時に高速移動術《縮地》を発動し、三度高速戦闘を開始した。
「サトシーーッ!」 ギュ…
・
・
「ふむ、サトシはどうやら、あの勇者と一騎打ちをするつもりのようだな」 むう…
「はああ… まったく無茶ですわ、どう見ても力の差がありすぎますわよ。アニス様、よろしいのですか? 下手をすると、勇者サトシが死にますよ?」 サッ!
「ん… そうだね、今のままじゃあ、そうなるかな」 コクン
「では、私が…」 スッ
「でも大丈夫だよカグア、たぶんサトシはわかってる、だからあれを使うつもりなんだ…」
「あれと申しますと… アニス様が2人に授けたあの剣技ですかッ!」 バッ!
「ん!」 コクン
「なんと、アニス、彼奴らはまだ使いこなせてなかろうに、大丈夫なのか?」 ザッ
「アニス様、早すぎますッ! まだサトシでは体がッ!」 ササッ!
「ん、それはサトシもわかってると思うよ、でもね… ここぞって時に使わなくっちゃいけないんだ、たとえ、その体が悲鳴を上げても、大事なもの、好きな人を守るためならなりふり構わず使う、そう…それが『勇者』なんだからね」 ニコ
「「 アニス(様)……… 」」
・
・
シュバッ! ババババーーッ!
「いくぜえッ! サトシッ! 剣技ッ!《炎龍斬ッ!》」 ブウォンッ! シュバッ!
ドオオオオオオオオオーーッ! ブワッ!
勇者ケンゴは自身の聖剣の持つ特殊剣技を発動し、勇者サトシに向け斬りつけた。勇者ケンゴの聖剣「アスカロン」は深紅に輝き、その刀身には炎を纏っていた。
「頼むよ、僕の聖剣『クリューサオール』」 シュバババババッ! チャキンンッ!
シュバッ シュババッ! ドオンッ! ドドオンッ!
紅蓮の炎の刃が勇者サトシを襲う、しかし勇者サトシはそれをものともせず、高速移動したまま巧みに躱し、聖剣「クリューサオール」を構え、勇者ケンゴに急接近していった。
「ちッ チョコマカと動きやがって、これでどうだッ!」 ブンッ ! ブンッ! ビュンッ!
バッ ババッ! シュバババババッ! ドオオオオオオオオオーーッ!
勇者ケンゴは、自分の技をものともせず急接近して来る勇者サトシに向け、聖剣「アスカロン」に、更に強大な魔力を注いだ。 すると刀身を覆っていた紅蓮の炎が黒炎へと変化していった。
「うおおおおッ!」 シュバババババッ!
「バカが、自分から突っ込んで来るとは自殺行為だな!」 ニヤ! ググッ! ブワッ!
勇者ケンゴは、突っ込んで来る勇者サトシに対し、自身の持つ最強の剣技を放った。
「はっはははあッ! サトシいッ! これで終わりだあッ! 喰らええッ! 超級剣技ッ!《爆炎黒龍斬ッ!》」 キュインッ!
シュバッ! シュゴオオオオオオーーーッ!
勇者だけが使える最大級の剣技、膨大な魔力を持った黒炎の刃が、勇者サトシに向かって襲いかかって来た。 しかし、勇者サトシはそれを躱しもせずそのまま、聖剣「クリューサオール」を構え、勇者ケンゴに向かって突っ込んでいった…
「はあああッ! 神級剣技ッ!《バーゼル.グラン.リッパーッ!》」 キュピンッ!
シュンッ! シュバアアアアアアーーーッ!
それは、人では会得不可能な剣技、たとえ勇者でも、教えられたからと言っても理解が追い付かず、普通は会得出来ない究極の神の剣技だった。それを勇者サトシはアニスに教わり授けられ、完全ではないが発動した。
ギュウウウウウンンッ! ビシイイイッ! ドオオオオオオオオオーーッ!
「うおおおッ! サッ サトシッ! てめええッ! なんだそりゃああッ! うわあああーーッ!」 シュバアアアアアアーーーッ!
ビシイイイッ! シュゴオオオオオオーーーッ!
勇者サトシの神級剣技の技は、勇者ケンゴの最高剣技を打ち破り、そのまま勇者ケンゴを飲み込んでいった。
ドオオオオオオオオオーーッ! ビュホオオオオオーーーッ………
シュン ザッ スタッ ガクン!
「はあはあはあ… うう… どうだケンゴ… はあはあ、こ、これが僕の…全力だッ!」 ガクガク ポタポタ…
「サトシーーッ!」 タタタ
神級剣技を放った勇者サトシは、高速移動術《縮地》を解き、身体のいたるところから血を流し、地面に膝をついた。その姿を見て、勇者スズカが勇者サトシの方に駆け寄って行った。
「うッ…」 フッ ドサ
勇者サトシは、魔力の消費と大量の出血の為、意識を失いその場に倒れてしまった。
・
・
「やはりこうなったか… サトシでは未だ魔力不足、それにその身体もあの技に耐えれんだろ、強化不足だな、倒れて当たり前だ!」 むう…
「でもヤマタノオロチ、完全ではないですが、サトシは神級剣技を出せましたわよ、それは賞賛に値しますと思いません?」 スッ
「だとしてもだ、未だ相手は倒れておらん、あの様では殺されるぞ!」 サッ
「ええ、確かにそうですわね… アニス様、どうします… あら? アニス様? どこへ…」 キョロキョロ
「なに⁉︎ いない… いったいどこに…」 キョロキョロ
小高い丘の上で、勇者達の戦いを見ていたはずのアニスが、その場から姿を消していた。
・
・
「サトシッ! サトシッ!」 ダダ ザッ! ユサユサ!
勇者スズカは地面に倒れた勇者サトシの体を抱き上げ声をかけた。
「うう… ははは… スズカ… 見てくれた? アニスさんの… 技… 」 ガクガク
「バカッ! だから言ったじゃないッ!」 ガバッ! うう…
「ご、ごめんよ… あの場合… これしか思い浮かばなかったんだ…」 はは…
「もう喋らないで… 今はゆっくり休んで、お願い」 ギュウウ…
「うん… 少し、眠いや… 」 スッ…
勇者サトシはそこで完全に気を失った。
「サトシ… お休みなさい」 スッ ナデナデ…
シュバアアアーーッ! ドオオンンンッ! バラバラバラ… シュバッ!
「サ、サトシ、てめええ、よくもやりやがったなあッ!」 ザッ ザッ!
「ケンゴッ!」 バッ!
倒れた勇者サトシを抱き抱え、介抱していた勇者スズカの前に、全身傷だらけの勇者ケンゴが、聖剣「アスカロン」を振り抜き、地面を破壊しながら現れた。
「おッ! なんだサトシ、死んだのか? いい様だぜ!」 ククク
「サトシは死んでなんかいないわッ!」 バッ スクッ! ヒュンヒュンヒュンッ! クルクルッ! チャキ!
気を失っている勇者サトシを地面に優しく寝かせ、勇者スズカは聖槍「グリムランサー」を、傷だらけの勇者ケンゴに向け立ち上がり構えた。
「死んでない? そうだよな、そこにいるって事はそういう事だからな」 チャキ! ニイッ
「サトシには指一本だって触れさせはしないわッ! それ以上近寄らないでッ!」 キッ
「ククク、近寄らないでか… そう言う訳にはいかない、サトシは俺のものになるんだ! そうだな、その後、お前も俺がいただく、お前たちは俺が強くなるためのエサだ! そして、サトシのあの技… アレも俺が貰ってやる!」 ククク ザッ ザッ!
「ううッ! ケンゴッ! あなた狂ってるわよ!」 チャキッ!
「狂っている? 俺がか?」 ザッ
「そうよッ! 仲間を… クラスメイトを殺すなんて、通常の人間がする事では無いわッ! あなたは狂ってるのよッ!」 バッ
「ふん、この世界の神がなにを考えているか何も知らないくせに… まあいい、スズカ、そう言う事にしといてやる!」 ザッ ザッ! シュバッ! ボウッ!
勇者ケンゴは、聖剣「アスカロン」に再び黒炎を纏わせ、勇者スズカに近づいていった。
「く… 私では、ケンゴを抑えきれない… どうしよう…」 ググッ!
「ククク… さあ、覚悟はいいか、スズカ…」 ババッ! ザッ!
「ええ… いつでも来なさいよッ!(サトシ、ごめん、あなたを守りきれないッ!)」 グッ!
勇者スズカのすぐ近くまで来た勇者ケンゴは、聖剣「アスカロン」を振り上げ、2人に向け勇者最大級の剣技を再び放った。
「2人同時に逝けええッ! 超級剣技ッ!《爆炎黒龍斬ッ!》」 キュインッ!
シュバッ! シュゴオオオオオオーーーッ!
「はああッ! 槍技ッ!《龍閃槍ッ!》」 シュババッ!
ドオオンンンッ! ブワッ!
勇者ケンゴの超級剣技に対し、勇者スズカの槍技は一瞬で打ち破られ、2人に襲いかかっていった。
シュバアアアーーッ!
「ううッ! 仕方がないわ、こうなれば私も…」 グッ!
勇者スズカは、迫り来る勇者ケンゴの技に、自分もアニスに教わった技を使おうとしたそのとき、彼女の前に1人の人物が突然現れた。
シュンッ! スタッ ファサ…
「スズカ、後は任せてね」 ニコ
「アニスちゃんッ!」 ババッ!
「なにッ⁉︎」 バッ!
「ん、《アルテミスリングッ!》」 パアアアンンッ! シュバッ!
ドオオオオンンッ! ブワアアアアアーーッ! シュバッ! シュウウウ…
「バカなッ!」 バッ
勇者ケンゴの勇者最高剣技、超級剣技《爆炎黒龍斬》は、勇者スズカを襲う前に、アニスの絶対防御魔法、《アルテミスリング》の前に消滅していった。
・
・
「むッ! いたぞッ! アコンカグアッ! あそこだッ!」 サッ!
「アニス様ッ! いったいいつの間に…」 スッ
神獣の2人が驚くのも無理がなかった。彼らの場所から今アニスがいる場所まで、有に1800mは離れていた。その距離をアニスは一瞬で移動したのだった。
・
・
「アニスちゃん… 凄い、あの攻撃が一瞬で消えちゃった…」
「ん、サトシ… 少し無茶をしたようですね、でも、勇者としては合格です」 ニコ サッ!
パアアアンンッ! シュバッ! ヒイイイイインンンッ!
アニスが地面に倒れ眠っている傷ついた勇者サトシに手をかざし、回復の魔法を放った。
「ううッ… はッ! 僕はいったい…」 パチ ムクッ!
勇者サトシの傷は全て癒え、目を覚ました彼は半身を起こした。
「サトシーーッ!」 タタタ ガバッ!
「えッ! うわッ! スズカッ!」 ガバッ!
傷が完全に癒え、目を覚ました勇者サトシに、勇者スズカは抱きついていった。
「ん、大丈夫みたいだね」 うん
ヒュンヒュンッ! チャ!
「おいそこの女ッ!」 グッ!
「ん? なに?」 クルッ ファサッ…
アニスは青みがかった白銀髪と純白のスカートを靡かせ、声を掛けてきた勇者ケンゴの方に振り向いた。
「てめえ、今何をしやがった、もうちょっとで俺の力が増す事が出来たのに邪魔をしやがって!」 チャキ!
「ん、力が増す? そう言う事か… 君の力は聖剣を使い、仲間の勇者をその能力や魔力ごと取り込む事によって強く、大きくなってるんだ(そうか… その方法を取ったのか…)」 ふむ…
「うん? 思い出したぞ! お前だなッ! 創造神のやつが狙ってる女ってやつはッ!」 バッ!
「うん、正解… はじめまして、そう、創造神ジオスがこの偽世界『アーク』から抹殺、消滅したいのがこの私、アニスだよ」 コクン
「へッ! 創造神のやつが言うからどんな女かと思ったが、俺たちとそう変わらん普通の女だなッ!」 ニヤ
「ケンゴッ! アニスちゃんになって事をッ!」 バッ
「そうだッ! アニスさんに謝れッ!」 バッ
勇者のサトシとスズカは、失礼な物言いの勇者ケンゴに対し謝罪するよう叫んだ。
「はッ なんで俺が謝らなきゃいけねえ、それよりもサトシッ! ちッ! 回復しやがったか… (あの女、アニスだったか、やはり聖女なのか? なんて強力な回復魔法なんだ、あの傷を一瞬で治しやがったぜ…)」 ググッ!
「ん、謝罪はいいよ、それよりキミ、もうやめない? 今ならキミの傷も治してあげるよ」 ニコ
「俺の傷だあ? そんなものはどうでもいいッ! 俺は力が欲しいんだッ! そう、この世界で1番、創造神のやつも消せるほどのなあッ!」 ババッ!
「そう… キミは勇者を辞めるの?」 うん?
「へッ! 辞めるも何も、勝手にこの世界に呼んどいて、勝手に勇者にさせられて… 挙げ句の果てに、勇者のする事がアニスッ! お前だッ! 1人の女の抹殺だとッ! ふざけんじゃねえッ!」 ググッ!
「ケンゴ… 知ってたんだ… 」 グッ
「そんな、知ってて仲間を… 」 プルプル
「ん、その事は誰から? いや、創造神ジオスか… これもアイツのシナリオなんだ…」 フリフリ…
「まあ、何でもいい… 遅かれ早かれ、お前を消す事に変わりはねえよ、見た感じだと、治癒魔法が凄いただの女じゃねえか、悪く思うなよ、これは創造神からの依頼なんでなッ!」 チャキッ!
ヒイイインッ! シュバッ! ブワアアアアアーーッ! ボウッ!
勇者ケンゴは聖剣「アスカロン」に魔力を込め、再び最強の剣技を使おうとした。
・
・
「むッ! あの者、アニスに剣を向けたぞッ! あやつ、アニスを殺そうとしているのかッ!」 ババッ!
「なんと無礼なッ! ヤマタノオロチッ! 急ぎアニスの元へッ! あやつを始末しますッ!」 ググッ!
「おうッ!」 ググッ!
「「 《縮地ッ!》 」」 シュババッ! シュンッ!
アニスの危機と見て、ヤマタノオロチとアコンカグアの2人の神獣は、小高い丘の上から高速移動術《縮地》でアニスの元に急いだ。
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シュバババババッ! ボウ ボウ
「ん、付与魔法の付いた聖剣による超級攻撃か… 仕方がないね」 スウ〜 チャキッ!
アニスは背中腰に装備してある神器、ミドルダガーの「アヴァロン」を抜き、それを勇者ケンゴに向け構えた。
「ア、アニスさんッ!」 バッ!
「アニスちゃん!」 バッ!
「「 アニスさん(ちゃん)がアレを抜いたあッ! 」」 ババッ!
「はははッ! なんだその小せえ武器はッ⁉︎ そんなんでこの俺と殺り合うつもりか? やはり女の考える事はわからないぜ!」 ククク グッ!
「ん〜、見た目で判断しない方がいいですよ」 ニコ スッ
「そうかよッ! じゃあ、お前から死ねえええーーッ!」 ダダダ!
「ん? やだよ!」 タタタ!
アニスと勇者ケンゴはお互いに向かって走り出した。
「「 《縮地ッ!》 」」 シュババッ! シュンッ!
シュババババババッ! ギュワアアアーーッ!
2人は同時に高速移動術を使い、高速戦闘に入った。
「ほう《縮地》が使えたか、さすがは創造神が抹殺したがる事だけはある女だ、だがそれまでだッ! 喰らえッ! 超級剣技ッ!《爆炎黒龍斬ッ!》」 キュピンッ!
シュバッ! ドゴオオオオオオオオーーーッ!
「ん!」 シュンッ! チャキッ!
勇者ケンゴは、アニスに向けて勇者の最高剣技、超級剣技の《爆炎黒龍斬》を放った。 膨大な魔力を持った黒炎の刃がアニスに襲いかかっていった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回は新年にでき次第投稿します。
皆さん良いお年をお迎えください。