第237話 国境に潜む脅威たち
ーヤマト皇国「樹海」中層部 アニス野営地ー
サワサワ ザザアアーー…
人化した「ヤマタノオロチ」の報告を聞き、2人の勇者達はその場に立ち尽くし驚きを隠せなかった。 野営地に吹く「樹海」の奥から風の音と木々が揺れる音が2人にはやけに耳についた。
「うう…そんな…なんで、なんで勇者のケンゴが…同じ仲間の勇者を…」 うう… スザ…
「スズカ…」 サッ
衝撃的な話を聞き、スズカは地面に泣き崩れ、それをサトシがそっと背中に貼って手を当て声をかけた。元は同級生で、同じ境遇の数少ない勇者同士、それが3人も殺され、もうこの世界に存在しない。ましてや殺したのが同級生の勇者、その事にショックを受けないはずなかった。
「ジオス…これが君のシナリオなんだね…そこまでして私を…」
「シナリオ… アニスさんは神様のシナリオを知っているのですか?」
アニスの言葉に、スズカを慰めていたサトシが質問した。
「お前達、神に出会ったのであろう? その勇者であるお前達がなぜ、何も知らないのだ?」 ジロ
アニスの横に颯爽と立っている、全身黒のジャケットに長ズボンのいでたちで、金髪に金色の瞳の人化した好青年「ヤマタノオロチ」が、目だけを動かし2人の勇者を睨んだ。
「す、すみません、僕たちには神様が何を思ってこのような事をなさるのかさっぱりとわからないので…」 ペコ
「うう…ぐすん、ぐすん…ご、ごめんなさい…」 うう… ペコ
「全く、お前たちは… アニスがそこまで力を与えてくださったにもかかわらず、いったいなにを…」 グッ
サッ!
「ヘビくんそこまで…もういいよ」 ニコ
アニスは勇者2人を叱責している人化した好青年の「ヤマタノオロチ」を右腕を伸ばして、彼を止めた。
「しかし、アニス…これではこの者たちは…」 ス…
「ん、いいんだ……もういいの…」 フリフリ
アニスは、「ヤマタノオロチ」を優しく宥めた。
「アニス…それではやはり…」 サッ
「ん…もう、創造神ジオスの、次のシナリオが動き出してるみたいなんだ…」 コクン
「アニスちゃん… その神様のシナリオって… もしかしてケンゴが…私たち勇者がそれに絡んでるの?」 ジ…
「そんな…まさかッ! 何かの間違いじゃないのかッ⁉︎… 勇者が勇者を襲う、そんなシナリオなんて…」 ググッ…
「ふんッ! お前達は何も分かってないのだなッ! アニスはお前達になんと言ったか覚えておらんのかッ⁉︎」 キッ
「「 はッ! 」」 ババッ! うう… プルプル…
サトシとスズカの2人はアニスを見て、以前アニスが語ったことを思い出した。
「そ、そうだったわ… 私たちは神様に… 聖女様によってこの世界に呼ばれた勇者…そして…」 うう…
「ああ… そして、ただ呼ばれただけの勇者ではなく…アニスさんと戦い、この世界からアニスさんを抹消するためだけに呼ばれた存在だ…」 ググッ…
サトシとスズカは顔を下げ、アニスから聞いた、自分達がこの世界に呼ばれた訳を思い出した。
「思い出したか… もしお前達がアニスに敵対する事になれば、我は容赦なくお前達と戦い、その存在を消し去るつもりだッ!」 ギロッ!
「「 ひッ! 」」 ビクビク!
「ヘビくん大丈夫だよ、もうこの2人は大丈夫」 サッ
「アニス…それではこの2人は…」 スッ
「ん、もう創造神ジオスからは離れてる、ジオスのシナリオの影響を受けないよ」 フリフリ
「えッ⁉︎ 」 ガバッ!
「アニスちゃんッ! それ本当ッ⁉︎」 バッ
「ん、本当ですよ。あなた達2人は、もう大丈夫です」 ニコ
この偽世界のアニスに関わる者達は皆、アニスの手解きによって例外なく創造神ジオスのシナリオから外されていた。
「ただ…他の勇者はわかりません、既に創造神ジオスのシナリオどうり動き始めているかもしれません」
「他の勇者… 確かケンゴが言ってたわよね」
「ああ、俺たち以外は、このヤマト皇国に2人、ヒカルとレンの男女と、あとミューレン連邦国家に双子の姉妹、ミユキとヒビキ、この4人だったはずだ」
「ん? この国に2人? もう1人いるよ!」
「えッ! うそッ⁉︎ もう1人って!」 サッ
「この国という事はヤマト皇国にいるって事ですよね⁉︎」 ババッ
「ん、いるよ…女の子が1人…」
「アニスちゃんッ! 名前ッ! その子の名前はッ⁉︎」 ババッ!
「ええ〜… 名前かあ〜… ん〜、わかんないッ!」 はは…
「そうですか… でも会えば誰かわかるかもッ!」
「そうだね、この国にいるなら会える可能性は高いからね」 うん…
その時、アニス達のいる野営地上に巨大な物体が高速で近づいて来た。
シュゴゴゴゴゴーーッ! ゴンゴンゴンッ!
「ん?」 サッ!
「えッ⁉︎」 ババッ!
「うわッ!」 ババッ!
アニスと勇者達が一斉に上空を振り向いた瞬間、物凄い速さでそれは通過して行った。
シュバアアアアアアアアアアーーーッ! ビュウウウウーーッ! ゴオオオオオーーーッ!
「きゃあああーーッ!」 バサバサバサバサーーッ!
「うおおおッ! グッ、グランドシップッ‼︎」 バサバサバサバサーーッ!
「ふんッ! 人間どもが…相変わらず騒がしい物に乗りおって…」 バサバサーーッ!
「ん、まるで『ライデン』みたいだね…」 うん… バサバサバサ…
アニス達の上空を高速で通過して行ったのは、ヤマト皇国 国防軍艦隊所属の一等級攻撃型駆逐艦「ユキカゼ」であった。 「ユキカゼ」は、ココル共和国との国境に向け、最大戦速で通過して行ったのであった。
シュゴゴゴゴゴーー………
「ふうう…凄い速さだったね」
「ああ、僕たちの国でもあんなに高速の出る艦なんてないよ」
「あ! そう言えばッ! 私たちと一緒に来た騎士団員はッ⁉︎」
「そ、そうだったッ! 忘れてたッ!」 キョロキョロ
「いないわッ! ここで野営をしてた筈なんだけど…」 キョロキョロ
「ん、ああ、あの騎士達10人は帰ってもらいました」 サッ
「「 えッ! 帰ったッ⁉︎ 」」 ザッ!
「ん、あなた達を特訓している間にね、《ゲート》でしたっけ? それを騎士団長に聞いて、あなた達の国に繋げて先に帰しました」
「アニスちゃん!《ゲート》も使えるの?」
「使えるよ」 コクン
「はは…アニスさんは、もう何でもありですね」
「はああ〜全くお前達は…アニスの事をまだ理解してないようだな…」 ふうう…
「「 ? 」」
「ヘビくん、今はいいんじゃないかな…さて、行こうか」 ザッ
「「 えッ! アニスちゃん(さん) どこに行くの(ですか)? 」」
「ん、あっちッ!」 スッ!
アニスは先程、自分達の上空を高速で通過して行ったヤマト皇国の一等級攻撃型駆逐艦「ユキカゼ」の飛び去った方向を指さした。
「あっちって… 今、通過したグランドシップを追うの?」
「その方向に何かあるんですか?」
「ん〜… なんとなく…かな?」 ニコ
「アニスがそうおっしゃるのならそうしましょう。 よいか2人とも、アニスの指示に従うぞッ!」 ジ
「「 はいッ! 」」 ババッ
「ヘビくん、そんなに睨まないの! 2人はあなたと一緒、私の友達だから、いいね!」 メッ
「「 アニスちゃん(さん)ッ! 」」 ギュッ!
「アニス… わかりました」 ペコ
「ん、じゃあ、いい? みんな、高速移動術で行くよ」 グッ
「「 はいッ! 」」 ググッ!
「うむ」 コクン
「「「「 《縮地ッ!》 」」」」 シュバッ! ザザザザザアアアアーーーッ!
4人は一瞬で、野営地地点から高速移動術で、その姿を消した。
・
・
・
ーヤマト皇国、ココル共和国 国境周辺上空ー
ヴォヴォヴォヴォヴォーーーッ ゴウン ゴウン ゴウン ピッ ピピッ!
ココル共和国とヤマト皇国との国境を、一隻の新鋭ステルス護衛艦がその姿をステルスモードで姿を隠し、ゆっくりと越え、「樹海」方面へと進んでいった。
ーココル共和国ステルス自衛艦隊旗艦 ステルス自衛艦「ウィングバード」ー
ピッ ピッ ピコピコ ビビ! カチカチ タンタン ピコピコ!
「無人ステルス護衛艦『ソード1』 指示通り、ステルスモードでヤマト皇国に侵入中、周辺空域に問題なしッ!」 ピッ
「エリア304 コース633 速度16ノット ヤマト皇国に侵入ッ! 全て正常ッ!」 ピッ
ピピピピピ ピコ カチカチ ザワザワ ピピッ! ガヤガヤ ポンポン! ピッ!
薄暗闇の室内で、巨大なモニター画面と数々の機械類が立ち並び、椅子に座ったオペレーター達が慌ただしく操作するそこは、ココル共和国大陸自衛艦隊所属のステルス自衛艦「ウィングバード」の無人ステルス護衛艦コントロール室であった。
ステルス自衛艦「ウィングバード」は、サフロ国会代表議員がこの地に乗りつけたステルス自衛艦隊の最新鋭ステルス自衛艦隊用旗艦で、配下に2隻の無人ステルス護衛艦を従えていた。 今、そのうちの1隻「ソード1」を、サフロ国会代表議員の命令で、ヤマト皇国領内に侵入させたところだった。
ヴォヴォヴォヴォヴォ ゴウン ゴウン ゴウン ウイイイイーーン! カシュンッ!
「『ソード1』予定空域に到達、下部射出ハッチ解放、捜索用探査プローブ『シード』及び地上護衛戦闘用ドローン『ソルジャー』降下準備」 ピッ カチカチ ピコ
「降下ポイント エリア301 マーク28 ヤマト皇国『樹海』入り口付近」 ピッ ピピ ポン!
「艦長、捜索用探査プローブ1、地上護衛戦闘用ドローン4、降下準備完了ッ!」 カチカチ ピッ!
「よしッ! 降下ッ!」 ババッ!
「はッ!」 ピッ!
ピピピピピ ヴオンッ! ガシュンッ! ババッ! ババッ! ババババッ!
ステルスモードでヤマト皇国領内に潜航侵入したステルス護衛艦「ソード1」の艦底部から、5機の小型機体が地上へと降りて行った。
シュバアアアーーッ! ガシュンッ! ガシュンッ! シュウウ…
ピッ ピッ ピッ
『命令ヲ実行、捜索探査開始 対象勇者タケシ様他、勇者ケンゴ様、勇者ショウゴ様、勇者イチロー様以上4名』 ピッ ブ〜ン ヒュウウンンン! クククク…
ビコ ブオンッ! ガシュンッ! ピッ
『ソルジャー1ヨリ ソルジャー2、ソルジャー3、ソルジャー4ニ命令』 ピッ
ビビッ ビビッ! ガシュンッ! ブオンブオンッ! ガシャッ!
『探査プローブ『シード』ヲ護衛、周辺警戒ヲセヨ』 ピッ ブオンッ!
『『『 了解ッ! 』』』 ガシャガシャガシャンッ! ピピッ!
ガシュン ガシュン ガシュン! ブオンッ!
捜索用探査プローブ『シード』は空中浮遊型の探査機で、ココル共和国が自国生産した光学迷彩を搭載したステルス探査プローブである。 各種センサーに防御用の機能を多々装備した優秀なプローブであった。
そのプローブ『シード』を護衛するのは、人型をした自律制御型護衛戦闘用ドローン『ソルジャー』で、身長200cm、光学迷彩システムを搭載し、7.7mmフォトンライフルにハンドフォトンガン、対人ライトニングセイバーを装備した野戦迷彩服のココル共和国製造、高性能戦闘用ドローンであった。
その地上降下した無人捜索部隊は、ヤマト皇国の「迷いの森、森林大迷宮」「樹海」へと入って行った。
ピッ タンタン ピコ!
「地上部隊、活動を開始ッ! 勇者タケシ様以下他の勇者様の捜索に入りました」 ピッ タンタン ピコ!
「ヤマト皇国、『樹海』内に突入ッ!」 ピッ
「続いて上空援護を開始、発艦デッキへ、最新鋭無人ステルス戦闘機、ブレードナイト『グリフォスD/FAW7』発艦準備ッ!」 カチカチ ピッ!
ブオンッ! ヒュイイイイイイインンッ! プシュウウウーーッ!
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
ガコオオンッ! ガコオオンッ! ガシュンッ! ピッ!
ステルス自衛艦隊旗艦の「ウィングバード」からの遠隔指令操作により、無人ステルス護衛艦「ソード1」の艦上部にある左右2つのブレードナイト発艦デッキのハッチが動き出し、中に一機づつ、ココル共和国の最新鋭無人ステルス戦闘機、ブレードナイト「グリフォスD/FAW7」が動き出した。
ウィイイイインン ガコンッ! ヒュイイイイイインンン!
「発艦ハッチ解放ッ! 電磁カタパルト準備よしッ! ブレードナイト『グリフォス』A、B、両機とも発艦準備完了ッ!」 ピピッ!
「『グリフォス』A、自律思考制御パターンモードE.S.F.A.D.セットッ!」 カチカチ ピッ ビコッ!
「『グリフォス』B、自律思考制御パターンモードS.S.A.D.E.セットッ!」 カチカチ ピッ ピコッ!
ブ〜ン ピコ ピピピピピッ! ガシュンッ!
ステルス自衛艦隊旗艦「ウィングバード」の管制官によるデータ入力を終えた無人ステルス戦闘機「グリフォスD/FAW」が自分の意思で動き出した。
ピッ ピッ ブオンッ!
『グリフォスA、準備完了、「ウィングバード」発艦指示願イマス』 ピッ
『グリフォスB、準備完了、「ウィングバード」発艦指示願イマス』 ピッ
「『グリフォス』A、B、ステルスモード起動、進路クリアー! 発艦開始ッ!」 ピッ
ビーッ! ガシュンッ!シュアアアアーーッ! ドオオオオオオーーーッ!
ビーッ! ガシュンッ!シャアアアアーーッ! ドオオオオオオーーーッ!
「『グリフォス』A、B、発艦完了、自律思考モードで活動を開始ッ!」 ピッ ビコビコ!
「よしッ! 思考活動データ取る、後は両機自身に任せるッ! 初めての実践だ、全てを記録しバックアップ開始ッ!」 バッ!
「はっッ! 両機へのモニタリング開始ッ!」 ピッ ビコビコ ポンッ!
シュバアアアーーッ! ゴオオオオオーーッ! ヴンッ! スウウウ…
ココル共和国の最新鋭ステルス戦闘機、ブレードナイト「グリフォスD/FAW7」は、ステルス護衛艦「ソード1」より同時に発艦し、ステルスモードで周辺に溶け込み消えて行った。 姿は見えないが、まるでベテランライナーが操縦しているかの様に、ステルス護衛艦「ソード1」と「樹海」内に侵入、捜索活動中の無人捜索部隊の上空を護衛飛行していた。 その様子をステルス自衛艦隊旗艦「ウィングバード」は監視を始めた。
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ヒイイイイインンンッ! バウウウウーーッ! ピッ ピッ
『現空域ニ異常ナシ… 」
ピッ ビーッ! ビコビコッ! ブオンッ!
『センサーニ反応、『グリフォスB』へ、当該空域ニ接近中ノ艦艇ヲ確認、警戒セヨ!』 ピッ
ゴオオオオオーーッ! ピッ ピピ ビコッ!
『『グリフォスA』へ、確認シタ、コレヨリ『グリフォスB』ハ接近中ノ艦艇ニ対シ、迎撃体制ニ入ル』 ピッ ガシュンッ!
『『グリフォスB』へ、了解、『グリフォスA』モ同行、接近中ノ艦艇ヲ迎撃スル』 ピッ
ガシュンッ! ジャキッ! ブオンッ!
ヒイイイイインンン シュバアアアアーーッ! ゴオオオオオーーッ!
2機の無人ステルス戦闘機、ブレードナイト「グリフォスD/FAW7」が、ステルスモードで姿を消しながら、護衛任務から迎撃任務に切り替え、この空域に接近中の艦艇に向かって飛んで行った。
「『グリフォス』A、B、行動を開始ッ! ヤマト皇国の艦艇と思わしき反応を確認! 迎撃体制に入りましたッ!」 ピッ
「さて…アレらがどの程度やれるのか見ものだな…」 ふむ…
艦橋内にある大型メインパネルの表示を見て、この艦隊、ステルス自衛艦隊の総責任者、旗艦「ウィングバード」艦長【ジャスパー・フェルベルト】大佐は、表示された地図上のヤマト皇国内を動く二つの点とそれに近づく大きめに点を見ていた。
ピッ ピッ ピッ ピコッ! ビーッ!
「『グリフォス』A、B、突入を開始ッ!」 ビコビコッ!
「しっかり記録しろッ! あと、サフロ代表議員に連絡ッ! 『始まった』となッ!」 ババッ!
「はッ!」 カチカチ ピピ
「さて、ヤマト皇国の方はこれでいい… 問題はこっちの奴だな…」 ジイイッ…
ピッ ピッ ピッ ビコッ!
「ここに来て速度を落とすか…罠にかかる様な間抜けならいいのだがな…」
ジャスパー・フェルベルト大佐は、もう片方の大きな点、国内より国境にゆっくり近づいてくる大型艦艇の反応を見ていた。
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・
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ー一等級攻撃型駆逐艦「ユキカゼ」ー
ビュオオオオオオオーーーッ! ゴゴゴゴゴッ!
ピッ ピッ ビコッ!
「『ユキカゼ』現在位置ッ! エリア201 チャートNo.J09 マークポイント30α 高度3200ッ!」 タンタン ピッ ビコビコ!
「コース2.343. 速度90ノットッ! まもなく予定空域ですッ!」 ババッ!
「うむッ! 航海長ッ! 速度下げッ! 巡航速度ッ!」 バッ!
「了解ッ! 機関部ッ! 速度下げッ! 第3、第4、フォトンジェネレーター停止ッ!」 ピッ
「速度減速ッ! 巡航速度24ノットッ! 目標地点まであと100000ッ!」 ピッ
シュゴオオオーーッ! ゴゴゴゴゴ ゴウン ゴウン ゴウン
「観測員ッ! 反応はどうだ?」
「はッ! 目標は依然ロスト 反応は消えたままです」 ピッ ピッ ピッ
「ふむ、このまま前進、周囲警戒を厳とせよッ!」 バッ!
「「「 はッ! 」」」 ババッ!
「艦長、国防総本部に報告されますか?」
「そうだな… ここまでの状況を報告してくれ」 サッ
「はッ! 直ちにッ!」 サッ!
「はああ〜 本部長がこの報告を聞いたら絶対動くだろうな…」
一等級攻撃型駆逐艦「ユキカゼ」艦長【青山幸弘】少佐の感は当たっていた。
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ーヤマト皇国国防総本部ー
コンコン ピッ プシューッ
「失礼します」 トコトコ サッ!
栗色のセミロングヘアーでスタイルの良い美人女性士官【本間百合】少尉が、国防総本部、本部長【織田信長】上級大将の部屋に入ってきた。
「ん? おお【本間】少尉、どうした?」 ギシッ
「はい、『樹海』方面に単独特別任務中の『ユキカゼ』より、興味深い報告が来ました」 サッ!
「興味深いだと?」 スッ パラパラ…
本部長の織田は、本間少尉から手渡された通信文を読んだ。
「ふむ…『ユキカゼ』単独ではまずいかもしれんな…」 ウ〜ン…
「では、私は失礼させていただきます」 サッ クルッ! トコトコ
本間少尉が本部長の部屋を退出しようと敬礼後、扉に向かって歩き出した時、呼び止められた。
「ああ少尉、待ちたまえッ!」 サッ
「はいッ!」 クル サッ!
「本部長命令、【徳川】の第1遊撃艦隊を『ユキカゼ』援護に回せッ! 大至急だッ!」 ババッ!
「は、はいッ! 直ちにッ!」 サッ! クルッ! トコトコトコ
ピッ プシュウウウーーッ タタタタタタ….
本間少尉は部屋を出るまでは普通の足取りだったが、本部長室を出た後、駆け足で走って行った。
「さて、ステルスか… おおかたココルのうつけ者達だろうて…『ユキカゼ』…青山の奴がどう対処するかな…」 ニヤ…
・
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ーヤマト皇国国防軍所属 一等級攻撃型駆逐艦「ユキカゼ」ー
ピッ タタタタタタ ピコッ!
「国防本部より返信ッ!」 ピッ
「早いな、で、なんと言ってきた」
「読みますッ!『駆逐艦『ユキカゼ』は現状で臨機応変に対処せよ、国防本部より支援部隊を派遣する』以上です」 バッ!
「支援部隊? 我々に臨機応変に対処させるのに支援部隊を派遣するだと?」 ムウ…
「艦長、本部長の支援部隊というのは…」
「うん? ああ、おそらく徳川提督の艦隊だろ… それも支援部隊となると…」
「ま、まさか…」
「まず間違いないな… 徳川提督の『東海3県連合軍』その第1遊撃艦隊… 【井伊直弼】中将の高速打撃艦隊だろうな!」 ググッ!
「えええッ!」 バッ!
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・
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ーヤマト皇国国防軍 【徳川家康】艦隊所属 【井伊直弼】高速打撃艦隊ー
シュゴオオオーーーッ! フィフィフィフィイイイーーッ!
「織田本部長からの命令が降った、我が艦隊はこれより、先行する『ユキカゼ』援護に急行するッ! 全艦ッ最大戦速ッ! 目標ココル共和国国境ッ! 出撃せよッ!」 ババッ!
「「「「 はッ! 」」」」 ババッ! サッ!
ドオオオオオオーーーッ! ググググッ! ゴンゴンゴンゴン!
井伊直弼中将の命令で、高速打撃艦隊…旗艦、高速重巡航艦「ミョウコウ」を中心に7隻の艦隊が高速でココル共和国との国境に向け飛んで行った。
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ーアトランティア帝国商船 偽装大型輸送船「オプテミス号」ー
ブボボボボボボ ノロノロ
ピッ ピッ ビコビコッ!
「艦長、間も無くヤマト皇国との国境です」 ピッ ビコ!
「ふむ、んッ! 機関停止ッ! 急げッ!」 サッ
「アイサーッ! 機関停止ッ! 緊急停止ッ!」 ピッ ピコ
「船首1番2番ッ!逆噴射ッ!」 カチカチ ピッ ピコ!
カシュンッ! バウウウウウーーーッ! ガクンッ! グググッ! ゴゴゴゴゴ…
ブボボボボ… シュウウ… ピタッ!
「機関停止ッ! 船速 0ッ! 本船現状位置で停止ッ!」 ピコ
シュウウウウウ…
「ふうう… 止まったか…」 ギシッ!
「艦長、こんな所で停止してどうするんですか?」
大きなため息をついて艦長席に座る【アレックス・グレイ】中佐に、副長の【ノイマン・シュトラウス】大尉が尋ねた。
「アレだよアレッ!」 スッ!
グレイ艦長は艦橋の窓の外、200m先にある大きな木を指さした。
「あの木がどうかしたのですか?」
「副長、妙だとは思わんか?」
「と言いますと…」
「あの木、随分と周りの木より成長が良くないかね?」
「あッ!」
グレイ艦長が言う通り、その気だけやけに背が高く、しかも、周りの木とは明らかに種類も違っていた。
「艦長ッ!」 ババッ!
「旧時代の古典的な罠だよ! そう、ブービートラップって奴だな」 ニヤ
「それでは…」
「観測員ッ! あの木をスキャンしろッ! 何処かに敵艦が潜んでるぞ!」 バッ!
「アイサーッ!」 ピッ ピピ タンタン ピコピコ!
観測員は指示された木を中心に全センサーを使用し調べ始めた。スキャンされた大木はその木全体が微弱な電波を出し、それに触れた瞬間、位置情報が伝わり攻撃されるという、周囲に溶け込んだ巨大な罠のスイッチだった。
「しかし、よく気がつきましたね」
「まあな… 以前、同じ手を食らってな、味方の駆逐艦が一隻沈んだ事があった… もうあんなのはゴメンだからな!」
ピピピ ビコビコッ! ポンッ!
「敵艦発見ッ! 方位0222 距離6300 マーク36 ダイブ28 イエロー33 チャーリーッ!」 ビコッ!
「潜空艦ですッ!」 バッ!
「やはりな、ゼルファ神帝国と同じ技術か…いや、元々この国の技術をゼルファ神帝国が買ったんだったな… 全く、いつまでも我らが気付かんと思っているのか?」
「艦長、いかがいたしましょう?」
「決まってるだろ?」 ニヤ
「はッ! 全艦戦闘配置ッ! 主砲発射準備ッ! 前部VLSハッチ解放ッ! 対潜弾『ザッシュ』発射用意ッ!」 ババッ!
「「「 アイサーッ! 」」」 ザザッ!
「主砲発射用意ッ! 1番2番3番ッ! 起動ッ!」 ピピ カチカチ ピコッ!
ガコンッ! ウィイイイインン ガシュン ガシュン ガシュン シュウウ…
「1番2番3番、起動確認、砲撃準備ッ!」 カチカチ ピコ
「前部甲板VLS解放ッ! 対潜弾『ザッシュ』発射準備ッ!」 ピピ
ピッ バクンバクンバクンバクンッ! シュバ…
「主砲及び対潜弾『ザッシュ』発射準備よしッ!」 ビコッ!
「さて、罠にかかろうじゃないか」 グッ
「なるほどッ! 先に攻撃をさせて反撃するッ! 流石は艦長ッ! 専守防衛ですか、いい手ですッ!」 ポンッ!
「正当防衛だよ、『攻撃されたから反撃した』それがたまたま『どこかの国の潜空艦』だったってことさ」 フリフリ
「了解ですッ!」
「よしッ!操舵手ッ! 機関切り替え始動ッ! 最大戦速ッ! 進路はあの木だッ! へし折ってやれッ!」 ザッ!
「アイサーッ! 機関切り替え始動ッ! 最大戦速ッ! 進路、前方の大木ッ!」 カチカチ グイッ!
ヒイイイイインンンッ! バウウウウウウウウーーッ! シュバアアアーーッ!
アトランティア帝国商船 大型輸送船「オプテミス号」は、その装いを商船から戦闘艦に変え、徐々に速度を上げ、ブービートラップの大木へと進んで行った。
・
・
・
ーヤマト皇国国防軍所属 一等級攻撃型駆逐艦「ユキカゼ」ー
シュバアアアーーッ! ゴウン ゴウン ゴウン
「間も無くココル共和国との国境、距離約20Kmッ!」 ピコ
「国防本部より通信、『【井伊】高速打撃艦隊発進、これと合流せよ』です」
「やはりな… ちょっと過剰戦力ではないか?」
「本部長はいつも『全力で動け』と言ってますからねえ、戦力の出し惜しみはしないでしょ」 ニコ
「コレではアリを像が踏み潰すようなもんだぞ」 うん?
「本部長ですから」 二ッ!
「「 ははははッ! 」」
「ユキカゼ」艦長の青山少佐と副官の松田大尉が2人して笑ったその時、一等級攻撃型駆逐艦「ユキカゼ」に衝撃が走った。
ドオオオオオオンンンッ! ブワアアーーッ! グラグラ ガタガタ メキメキ…
「うわあッ!」 グラグラ
「うううッ!」 ギシギシ
その衝撃は、「ユキカゼ」の艦全体を揺すり、大きな爆発音と大量の煙が吹き出ていた。
「何が起きたッ! 報告ッ!」 グラグラ
「うう…艦中央部に被弾ッ! 第一装甲板大破ッ! 機関出力低下ッ!」 ガタガタ
「観測員ッ! 何をしているッ! なぜ見落としたッ!」 バッ!
「すみませんッ! 敵弾は直近から現れましたッ! 0距離攻撃ですッ!」 ガタガタ
「ちッ! ステルスか… 近くに敵が潜んでいるぞッ! PDS起動ッ! 戦闘機を出せッ! ダメージコントロール班は応急修理をッ! 急げッ!」 ババッ!
「「「「 はッ! 」」」」 ババッ!
一等級攻撃型駆逐艦「ユキカゼ」の艦内は慌ただしくなった。
ブオンッ! ピッ ピッ
『初撃ハ命中、撃沈二至ラズ、『グリフォスB 』へ、目標ヲ撃沈セヨ!』 ピッ
シュバアアアーーッ! ブオンッ! ジャキッ!
『了解、目標ヲ撃沈スル』 ピッ
ビュウウウウーーッ! ピピピ ビコッ! ジャキンッ!
無人ステルス戦闘機、ブレードナイト「グリフォス」AとBの攻撃が始まった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回もでき次第投稿します。