第235話 アニスの世界の勇者たち
ーヤマト皇国「樹海」中層部 アニス野営地ー
パチパチ カタン ボウッ メラメラ…
鬱蒼とした森の奥、ヤマト皇国の「樹海」中層部にてアニスとスカイ小国家連合国の主国、スペルタ国の勇者、サトシとスズカ、及び護衛の騎士団10名が、野営準備をし夕食を終えたところだった。 夕食の後片付けを終えたアニスと勇者の2人は紅茶を飲みながら話をしていた。
コポコポコポ スッ カチャ
「どうぞ、紅茶のお代わりです」 ニコ
「「 はい… 」」 カチャ…
サトシとスズカは、アニスから新しい紅茶を受け取った。 が、アニスの質問にどう答えて良いのか悩んでいた。その2人に対し、2杯目の紅茶を入れたアニスが紅茶を一口飲み、再び彼らに質問した。
コクン カチャ
「で、2人にもう一度聞きますね、この偽世界『アーク』での勇者って何だと思いますか?」 ニコ
「勇者ですか…」
「ん、勇者」 コクン
「アニスさん良いですか?」 サッ
「どうぞ、スズカ」 コク
「私は、この『アーク』と言う世界において私たち勇者とは、『この世界の人々より、はるかに強い身体能力と力、魔力と魔法を持ち、神様からの恩恵と特殊能力を持った異世界から来た存在』だと思うのですが…」
「ん〜、スズカのその答えは、『勇者とはどんな人?』と言う質問の答えです、私の質問の答えではありません」 スッ コクコクン カチャ
アニスは紅茶を飲んで答えた。
「ごめんなさい、では何でしょうか?」
「サトシはいかがですか?」
「ぼ、僕は…」 ググッ…
「ん? 僕は、どうしたんですか?」 ジ…
「うう…僕は、僕たち勇者は、この世界、偽世界『アーク』にとって、何ら有益にならない…もしかしたらこの世界の人にとって、いらない存在なのではと思います」 グッ
「なッ! サトシッ! 何てこと言うのッ!」 ガタンッ! ババッ!
「スズカ…ごめんッ! だけど…」 うう…
サトシの発言に、スズカは勢いよく立ち上がり怒った。 しかし……
パチパチパチパチ ニコニコ
「「 えッ⁉︎ 」」 ササッ!
そんな2人に笑顔で拍手をしている少女、アニスを2人は見た。
「ん、サトシ正解。 あなたの言う通り、この偽世界『アーク』にとって、あなた達、勇者という存在は全くと言って良いほど必要としない、『無用の存在』なんです」 ニコ
「そッ そんなッ!」 ストン!
「はは…やっぱり…やっぱりそうだったんだ…」 ググッ…
アニスのその答えに、スズカは気の抜けたように椅子に座り、サトシはなんとなく察していた答えに愕然としていた。
「私たちが、勇者が…不要?…だったら…だったらなぜッ! うう…私たちはなぜ、この世界に呼ばれたんですかッ!」 グス… う…ううッ! ポタポタ…
スズカはテーブルに突伏して声を殺して泣いた。 スズカが泣くのも無理はなかった。楽しいはずだった修学旅行の最中、神と名乗る者にいきなり出会い、友人や同級生、引率の先生を失いながら、見知らぬこの偽世界「アーク」に召喚され、勇者としてこの3年間を頑張ってきた。
この偽世界が自分たちを必要としていると思うから、武術や魔術、体術や武器の扱い、魔法やブレードナイトの操縦、この世界の一般常識と作法、その全てを必死に学び自分のものにしてきた。だが、その努力が今、アニスの一言で無に帰した…『この世界では、勇者は無用の存在』、自分たちは必要としない存在と… スズカは涙が止まらなかった。
スク テクテク サッ
「スズカ…ごめんね、こんな話、酷いよね…」 スッ ナデナデ
アニスは席を立ち、スズカに近寄ってそっと、声を殺して泣いている彼女の背中を撫でた。
「アニスさん…」 うう… ガバッ! ギュウウ ぐすんぐすん…
思わずスズカはアニスの胸に抱き着きすすり泣いた。
「スズカ……」 ナデナデ
「なんで…なんでこの偽世界に勇者は必要ないのですかッ!」 バッ
サトシはアニスに質問した。
「そうだねぇ…サトシ、貴方は勇者って何をする人だと思う?」 サッ ニコ
「そ、それは…神様や聖女様によって召喚されたその世界の悪、魔王や魔物を倒し、その世界の平和を維持していく者、神様の代行者だと思うのですが…」
「ん、そうだね、様々な世界や異世界、異次元世界に偽世界、どの世界の勇者も、だいたい同じみたい、そういう者らしい様にされてるからね」 コク
「え?(されてる? いったいどういうこと?)」 スッ
「ん? スズカどうしました?」
「い、いえ…」 グス… フリフリ
スズカは、アニスの言った言葉の中にあったひとつの文言に、何か小さな疑問を持った。
「アニスさんは勇者に詳しいんですね」
「ん? まあ、勇者の事を知ったのは最近だし、調べたからね」
「え? 最近?」
「ん、そう最近…」 コクン
・
・
ー数時間前…ー
シャッ! ババッ! ババッ! バササッ! シュンッ! ザ タンッ!
サトシとスズカの2人の勇者と出会う少し前、アニスと人化した「ヤマターノオロチ」の2人が樹海の森の中を高速移動で疾走していた時だった。
「流石アニス様ッ! この樹海を何事もなくこの速さで動くとは、まるで伝説の勇者の様ですね」 ババッ! タンタン シュババッ!
「ん? 勇者? ああ、そう言えばジオスが言ってた異世界人の事だったよね…」 シュンシュンッ!
・
・
『アニス…お前を倒し消滅させるのは俺じゃない……奴らは勇者だそうだ…』
・
・
「なんだって、どんなのかなあ?」 ババッ! サッ トントン シュバババッ!
「なッ⁉︎ 神ともあろう方がアニス様をッ⁉︎ なんと無謀な… アニス様の事を理解していないのかッ!」 シュババッ!
「それでね、ジオスの言う勇者の事を考え、調べてみたんだけど、色々と分かったんだ」 シャッ!
「なにがですか? アニス様」 ババッ! タンタン バババッ!
「勇者という者の存在と召喚条件、その能力、使命などね…」 シュバッ! ザッ ザザッ!
・
・
「でね、君達をこの偽世界に呼んだ事と君たち勇者の事を調べてみたの」 ニコ
「お願いッ! 私たちの事、勇者の事を知っているのなら教えてッ! アニスちゃんッ!」 ババッ!
「ん? アニスちゃん?」 タジ…
「あ…ごめんなさい…つい友達みたいに呼んでしまいました…」 ペコ
「スズカ、別に良いですよ、何だったら友達になりますか?」 ニコ
「いいのッ⁉︎」 パアア
「ん、かまいません、今からスズカは私の友達です」 ニコ
「ありがとうッ!」 ガバッ! ギュウウッ!
「うわッ!」 ギュウウッ!
スズカは思いっきりアニスに抱きついた。
「あ、じゃあ僕も良いかな?」 モジ ソワソワ
「良いですよ、サトシ、でも抱きつくのは無しね」 ニコ
「え?…はは…ありがとう、アニスさん」
サトシは少し残念そうな顔をしていた。
「サトシッ! ダメだからねッ!」 キッ!
「わ、わかってるよ」
「ん、サトシも今から私の友達です。それで、勇者の事ですが…」
「そうだった、アニスちゃん、勇者の事ってなに? 私たち自身も勇者の事はあまりよく分かってないの」
「そうなんだ、僕たちを呼んだ聖女様が倒れたままなんで、国王様達もさっぱりなんだ」
「ん〜、私が調べ上げた事だけど、2人には衝撃的な話になるよ? 内容によっては精神的にまいってしまうかも…それでもいい?」 うん?
「「 ……はいッ! 」」 コクン
勇者の2人は一瞬考えた後同時にうなづいた。
「そう………じゃあ、話すね…覚悟して聞きいて」 ギンッ!
アニスの表情がキツくなり、笑顔が消え、真剣な目つきに変わった。
「「 はいッ! 」」
その場の雰囲気が変わり、アニスは2人の勇者に語り始めた。
「まず、勇者とは、特定の言い回しで、神々の神界世界では救世主、または聖戦士の事を言い、人間界での呼び方が勇者になるんです」
「救世主…」
「僕たちは聖戦士だったんだ…」
「そう、そして勇者にと選ばれる者は既に決まった者達のみで、その者達だけが勇者として異世界へと召喚、転生されます」
「選ばれ…決まった者…」 ボソ…
「アニスさん、誰でもいいという事では無いんですか?」
「ん、召喚、転生される勇者は最初から決まっていたの」 スッ!
「決まって…それはどういう事なんですか? 最初から決まっているって、誰が…誰が決めたのですか?」
「それはね、神だよ。 勇者は、神が作りし世界の中に存在する特定の種族に限定され、ただの一つも狂い無くその特定の種族、選ばれた種族がそれに当たるみたいだね、その種族の人は全て黒髪に茶、もしくは黒の瞳で、若い男女…だったかな」
「じゃあ、僕たちがここに呼ばれたのも…」
「ん、あなた達は特定の種族、選ばれた種族の者とういう事になるかな」 サッ
「アニスちゃん、他の人達は? 特定の…選ばれた種族以外の、他の種族の人達は召喚や転生はないの?」
「ありますよ、特定の種族以外の人でも数多くの人が、戦士や魔法使い、様々な職業で様々な世界に召喚や転生を果たしています。数多くの多種多様の世界で王族や英雄、魔王や魔物にも…場所や時間、姿を変え召喚、転生をしている人が存在してます… だけど、勇者になれるのは選ばれた種族である君たちの種族だけ…」
「なぜ…選ばれた種族だけなんですか?」
「ん、それはね、全てのありとあらゆる世界の絶対神や創造神に最高神、各世界の神という神の頂点に立つ神がその種族のみ、勇者としての資質を持たせ、創造、誕生させたんだ…異世界への召喚、転生が可能で勇者として最初から決まっていた種族、他の種族にはその勇者の資質が入ってないんだ」 フリフリ
「最初から作られた…僕たちが…勇者として意図的に…神様が…」 グッ…
「なぜ… なぜ神様はわざわざ勇者の資質を持った種族を作ったの?」
「ん、それにはちゃんとした理由があったんだ」
「「 理由? 」」
「そう、理由… 神が作る数多くの世界、その中にはその全てを制御できていない世界が出てくるの、神の制御と監視を逃れ、暴走する世界… その世界を制御、抑制できる存在として、神は救世主、または聖戦士として君たちの様な種族を作ったんだ…」
「じゃあ、僕たちは…」
「ん、暴走する世界を制御する者、強大な力を持った存在、その中には暴走世界の神、邪神や堕天神、亜神をもたおす事のできる者、『ブレーカー・レイス』または『ゴットスレイヤー』つまり君たち勇者なんだ」
「そうか…僕たち勇者は、神の作った世界の生きた制御装置っと言う事か…」
「ん、正解…それが救世主であり聖戦士…勇者なんだ」 コクン
「そんな…じゃあ親は?…私たちの父と母はどうなの?」
「ん、あなた達の親も、神によって、勇者の資質を持ってその世界で生まれ育っているよ、ただ『異世界に召喚されなかった』だけ、その世界で出会い結ばれ、契りを結んだ後、必然的にあなた達が生まれた。 次の勇者候補として… 繰り返される勇者の誕生連鎖、生まれた子に自分たちの勇者の資質は譲渡される。 再び勇者として召喚されるのを待つ為に…何年も何十年も、偶然じゃないんだ」
「必然的…両親は、私の父と母は愛し合って結ばれたのではなく、意図的に愛もなく結ばれたの?」 グッ
「ん〜ん、愛し合ってるよ、でなければスズカ、あなた達は誕生しない…」 フリフリ
「そう…よかった…」 ハアア〜
「結論から言うと、君たちは神、もしくは聖女など召喚者によって呼び出されない限り、勇者にはなれないの」
「そうなんだ、そして今回、私たちは異世界に召喚され、勇者となったのね」
「ん!」 コクン
「でもなぜ異世界に召喚なんてするんですか? 最初からその世界に創造、誕生していれば、わざわざ召喚なんて…」
サトシがごく当たり前の質問をアニスにした。
「ん、それはね、いつ何処で、どんな世界が制御を失うのか分からないから…あと、異世界に転移する時、神からの恩恵と特殊能力、膨大な魔力を、人間界で勇者になるための全てを、その身体に受け取るため…それと…勇者にとって、家族のいない世界の方が動きやすいから…かな」
「「 はあッ⁉︎ 」」
「そんな…家族がいないからって…」
「スズカ… これも僕たち勇者の使命のひとつなんだ…」 スッ フリフリ
「兎に角、あなた達勇者を作ったのは紛れもない神、その神に出会った時点で勇者になったんだ。一度は会ったはずだよ?」
「「 あの時の神様ッ! 」」 ババッ!
「ん、だけど、それはその神のシナリオのひとつ…」
「シナリオ?」
「そう…今、この偽世界『アーク』には、魔王も魔物も、サトシが言った悪という存在はいないよね」
「あ……はい……」
「この偽世界『アーク』に、勇者として、その能力や力を使う、戦うべき悪が存在しないの」
「だからこの偽世界『アーク』では、私たち勇者は必要ないってわけね」 コクン
「そういう事です、スズカ」 コクン
「アニスさん… ではなぜッ! なぜ聖女様はッ! 神様は僕たちを偽世界に呼んだのですかッ! 意味が無いじゃないですかッ!」 ババッ!
アニスに、サトシは叫び質問をした。それに対し、アニスはサトシ達に衝撃的な返答をした。
「ん、それはね…『神が、あなた達勇者を使ってこの私、アニスを消すため…この偽世界『アーク』から完全消滅させるために、聖女を操り、君たち勇者をこの偽世界に召喚したんです』」 コクン
「「 なッ‼︎ 」」 ガタガタンッ! ババッ!
アニスの衝撃的な発言に、スズカは目を見開き、サトシは座っていた椅子から勢いよく立ち上がった。
「そんなッ!…どうして…」 プルプル ググッ
「ぼ、僕は嫌だッ! いくら神様でも…アニスさんを消すなんて…」 ググッ
「ん、ありがとうサトシ、でもね、神によってこの偽世界に来た君たちには、そのうち、自分の意思に関係なくシナリオが進み、私と戦う事になるかな」
「いやッ! せっかく友達になれたのにッ! アニスちゃんと戦うなんて嫌よッ!」 ブンブン
「僕もだッ! アニスさん、何か方法がッ 何かあるはずだッ! アニスさんと戦わずに済む方法がッ! 何かないんですかッ⁉︎」 ババッ!
アニスに対し、2人は涙目で訴えた。
「ん〜… ひとつ、ない事もないのですが…」 う〜ん…
「「 ッ! それはッ⁉︎ 」」 ピクッ! ババッ!
「んふふふ…私の特訓、受けてみる?」 ニコ
「「 へ⁉︎ 」」 ビクッ!
アニスの言葉に驚く2人だった。
・
・
・
ー同時刻、ヤマト皇国「樹海」 ココル共和国国境付近上空ー
ヒイイイイイイーーッ! バウウウウウウウーーーッ!
ピッ ピッ ピッ ピッ ブオンッ!
ヤマト皇国とココル共和国との国境間近上空を、勇者タケシの真っ黒なブレードナイト「ブラックストライカーD型FA」が、最高速度で国境を越えようと全速飛行をしていた。
ピコッ
『タケシ様、当機は探知、捕捉されました。速やかにステルスモードに変更する事を推奨します』 ピッ
「早く言えよッ! このグズがッ!」 カチカチ ピッ
ブウウンンッ! シュワ…
タケシが操縦席の脇にあるスイッチを入れると、彼のブレードナイト「ブラックストライカーD型FA」は、周囲の景色に溶け込んで姿が見えなくなった。
ーヤマト皇国国防軍艦隊所属 一等級攻撃型駆逐艦「ユキカゼ」ー
ピッ ピッ ビコッ! ブーッ!
「未確認飛行物体 反応ロストッ!」 ピッ タンタン ピコピコ!
「未確認物体ロスト地点、『樹海』エリア201 チャートNo.J09 マークポイント31α 高度3000ッ! 目標を完全にロストッ! いきなり消えましたッ!」 ババッ!
「ふむ…我が国のブレードナイト「SHITEI 100式」と同じ仕様…ステルス機か…」
「艦長ッ!」
「逃がすわけにはいかんッ! 先行の白井中尉に連絡ッ! 目標はステルス機ッ! 十分注意しろとなッ!」
「了解しましたッ! 」 ザッ!
「よしッ! 本艦も急行するッ! 『ユキカゼ』最大戦速ッ! 進路ッ!『樹海』最西端ッ! ココルとの国境だッ!」 ババッ!
「「「「「 はッ! 」」」」」 ザザッ! サッ!
ビーッ! ビーッ!
「『ユキカゼ』現在速度 30ノット! 第3、第4フォトンジェネレーター始動接続ッ!」 ピッピコピコ
フィイイイイイイインンッ! ゴゴゴゴゴッ! ガシュンッ! ピッ!
「機関部に通達、機関内圧力上げッ! 出力最大ッ!」 ピッ タンタンピコッ!
ヒイイイイインンンッ! ヒュヒュヒュヒュヒュウウウウウ……
「機関内圧力上昇ッ! 600ッ 1200ッ 2000ッ 2600ッ 3000ッ!」 ビーッ!
ゴゴゴゴゴ フィイイイイイイイイッ! プシューッ!
「進路『樹海』エリア201 チャートNo.J09 マークポイント31α コース2.343固定ッ!」 タンタン ピコッ!
「進路方向、障害となる危険物なしオールグリーンッ!」 ピッ ビコッ! ビビッ!
「機関内圧力一杯ッ! 最大値ですッ!」 ビコッ!
「艦長ッ!」 バッ!
「うむ…皇国一等級駆逐艦の速度、見て驚くがいい…『ユキカゼ』突貫ッ!」 バッ!
「はッ! 『ユキカゼ』最大戦速ッ!」 ピッ グイッ!
ヒイイイイインンンッ! バウウウウウウウーーッ! シュバアアアアアアーーーッ!
「速度最大戦速ッ! 90ノットッ!」 ピッ!
シュゴオオオオオオオオオオオーーーッ!
ヤマト皇国国防軍所属 一等級攻撃型駆逐艦「ユキカゼ」は、この偽世界「アーク」の軍用艦艇随一の高速艦である。その「ユキカゼ」が駆逐艦には普通搭載されない4機のジェネレーターを最大稼働し、大型スラスターを全開にして「樹海」上空を高速で突き進んでいった。
・
・
ーココル共和国 国境付近上空ー
ゴンゴンゴンゴン シュバアアアーー ピッ ピッ
ヤマト皇国国境まで約200mという位置に、ココル共和国、大陸自衛艦隊所属の特務自衛艦、自衛巡航艦「グレイウルフィル」がゆっくりと移動していた。
ピッ ピッ ピッ
「定時報告ッ! 周辺空域に異常なしッ!」 ピッ
「通信状態正常、待機任務継続ッ!」 ピコ
「ふむ、まだ動かんか…」 ギシ…
ココル共和国の特務自衛艦 自衛巡航艦「グレイウルフィル」のブリッジ内で艦長、【ウィル・ザカート】大尉は潜入させたケンゴたち勇者4人の報告を待っていた。そこに1人の軍服を着ない身だしなみの整った男性が入ってきた。
ピッ プシュー カツカツカツ ザッ
「どうですか艦長、彼らの様子は?」 ニカ
「これはこれはッ! サフロ議員殿ッ! このような場所へ来ていただき恐縮です」 スクッ サッ
「はは、そう畏まらなくていいよ、艦長」 サッ
艦長のザカートはブリッジに入ってきたその人物を見て、艦長席から立ち上がり敬礼をした。 その人物こそ、今回この場所に特務艦を派遣し、勇者4人を送り出した張本人、聖女保護の総責任者でココル共和国国会代表議員の1人【ディルモア・サフロ】代表議員だった。
今回彼は、勇者たちの仕事を確認するために、中央よりこの場所に出てきていた。
「今回はお忍びで当艦に?」
「まあね、あの勇者たちがどれほどのものか、今回の事で分かるんじゃないかなと思ってね」 ニヤ
「相変わらず鋭いですな」
「いやいや、これくらい、どの議員もやってる事だよ。 皆自分の身は自分でねってヤツさ、今回もあの勇者たちが私に利益をもたらす存在なら、大いに使おうと私は思っている。(そう、私のためにね ふふふ)」 二ッ
「勇者たちなら大丈夫でしょう、多少癖は強いですが力や能力、剣技に魔法、どれをとっても、我が国随一の実力、彼らの勝る者などおりますまい」
「だといいのですがね」 スッ
「なにかご不満な点でも?」
「うむ、他国にも勇者の存在を確認した…」
「なんと、我が国だけではなかったのですか⁉︎」 ババッ!
「ああ、しかも聞くところによると、ケンゴたち以上という噂もある」 う〜ん
「なるほど、それで今回の件を視察しに来たんですね」
「そうだ、あ奴ら、ケンゴたち4人がどれほどのものか、それを見極めなければ、私の計画にも修正の必要が出てくる。 あ奴ら勇者抜きでのな! だからこそ、この目で確かめたいのだ」 ザッ!
その時、ブリッジ内に緊張が走った。
ビーッ! ビーッ!
「何事だッ!」 ザッ
「はッ! 長距離センサーに感あり、中央よりこちらに向かって来る大型の熱量を感知しました」 カチカチ ピピッ! ビコ!
「中央からだと? ならば友軍のものではないのか?」
「違いますッ! 航路航行計画にありません、識別信号なしッ!」 ピッ ビコビコ!
「ふむ、だが我が国の領内だぞ、敵ならすでに中央の艦隊本部が察知して警告を出すはずだ…それがないと言う事はやはり友軍、もしくは航路を見誤った民間船の詮が濃いな」 う〜む…
「方位001 進路2.0609 マーク02 エコー19 速度36ノット 急速に接近中!」 ピッ ビコビコ
「36ノット…民間船でも出せない速度ではない…」
「艦長、この艦特有の設備で誤魔化したらどうだい?」 二ッ
「サフロ議員…そうですな、今ここでヤマト皇国の奴らに気付かれるのも良くないですし、民間船ならやり過ごせばいいでしょうかならな、民間船なら」 二ッ!
「そう言う事です…」 ニヤ
「よしッ! エーテルリアクター起動ッ! 潜るぞッ! 『グレイウルフィル』ダイブッ!」 ババッ!
「了解しましたッ! エーテルリアクター起動ッ! フォトンフィールド最大ッ! 光学迷彩始動ッ!」 カチカチ タンタン ピコ ビコビコ ピピッ!
「『グレイウルフィル』ダイブッ!」 ピッ グイッ!
ヒュイイイイイインンン! シュバッバッバ! ブウウンンッ! ユラユラ パッ!
特務自衛艦、自衛巡航艦「グレイウルフィル」は、ゆっくりと周りの景色に溶け込み消えて、姿が見えなくなった。
・
・
ーアトランティア帝国商船 偽装大型輸送船「オプテミス号」ー
ゴオン ゴオン ゴオン シュバアアアーーッ! ピッ ピッ
ビーッ!
「警戒警報ッ! 進路前方の艦影ロストッ! 民間船ではありませんッ!」 カチカチ ピッ
「方位020 エリア661 マークポイント41 センサーから消えました」 ピッ ピッ
「ふむ、まずいな…」 う〜ん
「艦長、ココルの自衛艦ではないでしょうか?」
「おそらくな…しかも、ゼルファ新帝国の技術を持った、潜空艦だろう」
「いかが致しますか?」
「速度を落とせッ! 民間船を装うッ!」 ババッ!
「アイサーッ! 機関減速ッ! 民間船に偽装ッ!」 ザッ!
「アイサーッ! 機関減速、速度16ノット、機関切り替え開始」 タンタン ピッ
ゴゴゴゴゴ シュウウウ… ヒイイイイインンン ブボボボボボボ ノロノロ
「副長、誤魔化せたと思うか?」
「艦長、私なら誤魔化せません、近づいてきたら即沈めますよ」 二ッ!
「だよなあ、一応第一級戦闘配置、静かに臨戦態勢を取れ」
「アイサーッ!」 ババッ!
ココル共和国とヤマト皇国との国境周辺に、アトランティア帝国の偽装巡航艦、ココル共和国の特務自衛巡航艦、ヤマト皇国の一等級攻撃型駆逐艦、3つの国の艦船とブレードナイトが、同じ場所に接近しつつあった。
・
・
ーヤマト皇国中層部 野営地近く 異次元空間内ー
そこは野営地の隅に出来た異空間、その中に今、勇者サトシとスズカ、そして異空間を出したアニスが中で、激しい特訓を行なっていた。
ヒュルルルル ドガアアアアーーッ! ブワアアアーー!
シュンシュンッ! キュピッ! ドゴオオオオーーッ! バラバラ!
「ヒッ! ヒイイイイッ!」 バッ! ババッ! ブンッ ビュンッ!
「ん! そこッ! 防御が遅いッ!」 キンッ! ババババッ!
「わッ! わああああッ!」 ドドドッ! ドガアアアアーーッ!
「ア、アニスちゃん! もうやめてッ! 死んじゃう! これ以上は死んじゃうからああッ!」 ババッ!
「んッ! 大丈夫ですよ、勇者は大丈夫!」 ニコ キュンッ! ヒイインンッ!
ドババババババババーーーーッ!
「ぎゃあああーーーッ!」 グバアアアアアアーーッ! ドオオオン! バラバラ
「た、助けてええーーッ! きゃああッ!」 ドンドンッ! ドゴオオオオーーッ!
バラバラ モクモクモク パラパラ…
「ふう、鎧袖一触とは情けない…2人とも、次行きますよ!」 シュンッ!
「くッ! ダメだッ! 僕たちの技が一切効かないッ!」 ハアハア ググッ!
「なんでッ⁉︎ なんで勇者の技が効かないのよおッ!」 チャキンン シュバッ!
「無駄口を叩かないッ!」 キュンッ! シュバババババーーッ!
「「 来たああああーーッ! 」」 ババッ!
ドゴオオオオオオオオーーーッ! ブワアアアアアーーーーー!
「「 ぎゃああああああーーッ! 」」 ゴオオオオーーッ! ドオオオンッ!
「ふふ…まだまだ序の口ですよッ!」 ニコ ババッ!
その空間内には、2人の勇者の叫び声と、激しい爆発と爆風が吹き荒れ、アニスだけが楽しそうに笑っていた。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回もでき次第投稿します。