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第232話 勇者対勇者

ーヤマト皇国「樹海」 中層部ー


広大な面積を誇るヤマト皇国、霊山「フジ」の裾野に広がる大森林、人はそこを「迷いの森、迷宮大森林」「樹海」と呼んでいた。 中に入れば、森が意思を持ったかのように木々の形や生え方が変わり、目印を失い自分の位置を見失う。 濃厚な魔素が充満し、フォトン波動波が飛び交うその中は、入った者の方向感覚や距離感覚、視覚や聴覚を麻痺させられ、抜けられなくなる。 まさに自然の迷宮であった。


「「 うおおおおッ! 」」 シュバッ! ギャリイイイインンッ!


ドオオオオンンーーッ! ブワアアアアーーッ!


その「樹海」の中層部、ココル共和国の勇者ケンゴと、スカイ小国家連合国の勇者サトシが、剣を交えて戦っていた。


ビュン バッ! ババッ! ブンブンッ! ギンギンッ! ギャリンッ! ブンッ!


「はああッ!」 ダダダッ! ブンッ!


「このおおッ!」 ビュンッ!


ギイイイインンンンッ! バリバリバリッ! ビシイッ! ドオオオオンンッ!


ケンゴとサトシ、2人の勇者の剣撃は凄まじく、剣と剣がぶつかり合うたびに、激しい衝撃波とその轟音、さらには火花と放電が起きていた。


ババッ! ザッ ザッザザザザザーーーッ! パリッ…ジ…ジジジ…


「クソッ! 押し切れねえッ! サトシッ! なんだその剣はッ⁉︎ (俺の聖剣攻撃を受けきるとは…) お前の剣、見た目は普通だが、ただの剣じゃないなッ!」 ググッ チャキ


ケンゴは、今までどんな相手も切り伏せていた。 模擬戦では、ココル共和国の護衛兵や聖剣を持った自分の仲間、イチローやタケシ、今ここに一緒にいるショウゴでさえも、自分は余裕で勝ってきた。 それが今、目の前にいる嘗て同級生であり親友のサトシが、同じ勇者としてこの偽世界「アーク」に召喚され、自分の前に立ち、何の変哲もなさそうな剣で攻撃を受けきっていく。 ケンゴにとって信じられなかった。


ヒュンヒュンッ! ヒュンッ! チャキッ!


「ケンゴ…お前も勇者なんだ、相手の武器の見極めぐらいできるだろ? それより、こんな試すような攻撃はやめて本気で来いッ!」 グッ!


「なッ⁉︎ (見極めろだと? 出来るわけがないッ! サトシは何を言ってる? ましてや本気だと⁉︎ こっちはさっきから本気で打ち込んでるってのにッ! ふざけやがって!)」 ググッ!


ケンゴはサトシの言葉に怒りと戸惑いの色を見せた。自分の全力攻撃を受け切り躱していくサトシ、それを試しだと言い、本気を出せと言ってきた。よく見れば、サトシは余裕の表情を見せ、汗ひとつかいていなかった。


「クソッ! サトシッ! お前ッ! なんなんだよおッ!」 チャキッ! ダダダッ!


ケンゴは聖剣を構え直し、余裕で剣を構えているサトシに向かって駆け出していった。 その頃、少し離れた場所、ショウゴとスズカの戦いも激しさを増していた。

          ・

          ・

ドオオオオンンーーッ!


「うおおおおおーーッ!」 ビュンッ! ババババーーッ!


ドガアアアアンンッ! ガラガラガラ ドオンンッ! パラパラ…


それは、ショウゴが吹き飛び、巨大な岩の絶壁に衝突し岩が崩れて来たところだった。


「うぐぐ…くそおッ!」 ググッ… ガラ パラパラ…


ヒュンヒュンヒュンッ! ビュンッ! チャキンッ!


「ショウゴッ! なに、さっきの攻撃は? 私を試してるの? あんな攻撃じゃあ届かないわよッ!」 ザッ!


スズカは自分の背丈以上もある武器、矛槍ハルバートを軽々と振り回し、ショウゴに向け構え立っていた。


「く…くそうッ! 女だと思って甘く見たぜッ! そうだなスズカ、 お前も勇者だったなッ!」 スクッ! ザッ! チャキッ!


崩れた岩の中から立ち上がり、ショウゴは自分の聖剣「フルディング」をスズカに向け構え直した。


「聖剣『フルディング』… あなた、全然使いこなしてないじゃない、そんなのでよく私たちに挑んできたものね!」 フリフリ…


「うッ… 調子に乗ってるなよッ! スズカーッ!」 バッ! パアアアンンッ!


ショウゴはスズカに向け左手を開いて向け、赤い魔法陣を展開した。


「うん? 魔法…(展開が遅い… これじゃあ…)」 サッ! ヒュンヒュンッ!


スズカはショウゴの魔法陣展開を見て、矛槍ハルバートを構え直した。


「喰らえッ!《ファイヤーランスッ!》」 キュインッ!


ボウッ! ドバババババッ! シャッ シャッ シャッ! シャッ!


ショウゴの左手の手のひら先にあった、赤い魔法陣から、炎の槍が十数発放たれた。


「はああッ!」 ババッ! ヒュンヒュンッ! シュシャッ! ビュンビュンッ!


バシバシッ! バッバッ!ババッ! バアアアアーーンッ! シュウウウ… タンッ!


「なッ! そ、そんな… 俺の炎の槍を全て…」 ワナワナ…


ショウゴの放った魔法の炎の槍は、スズカがその全てを矛槍ハルバートを高速に振り回し、弾き飛ばし消し去ってしまった。 そこには、綺麗な黒髪を靡かせ、長い矛槍ハルバートを構えたスズカが、ショウゴを見つめていた。


「ならこれでどうだッ!《ライトニングスピアッ!》」 ババッ! パアアアンンッ!


ジ、ジジジッ! バリバリッ! ババババーーッ!


ショウゴは炎の槍がダメと分かると、すかさず魔法陣を黄色のものに切り替え、電撃の矛を数発放った。


バリバリッ! ビギギッ! シュバババババーーッ! バチバチバチッ!


「ふふ、《瞬歩ッ!》」 ニコ シュンッ!


シャッ! シャシャシャッ! ババッ! サッ! サッ! トン


スズカは高層移動術《瞬歩》を使い、軽快なステップで華麗に、ショウゴの放った全ての電撃の矛を躱していった。


「くッ! 《瞬歩》かッ! アレにあんな使い方があったのかッ!」 ググッ!


ショウゴは《瞬歩》の使い道を、単なる高速移動の手段しか考えていなく、スズカの様な使い方を初めて見たのだった。 やがて、全てを交わし切ったスズカは《瞬歩》を止め、再びショウゴに向かって、矛槍ハルバートを構えた。


シュウウウ… チリチリ… クルクルッ! ヒュンヒュンッ! ビュンッ! ジャキンッ!


「それで… 次はどうするの?」 ジイイッ! ザッ!


スズカはショウゴに対し、次はどのような攻撃をしてくるのか尋ねた。


「ちッ! 魔法がダメならこれでどうだッ!」 ブオンッ! シュワアッ!


ショウゴは自分の聖剣に魔力を込めると、聖剣「フルディング」はその刀身が青白く輝きだした。スズカを睨み剣技による攻撃をした。 その様子を見ていたスズカの両目が僅かに一瞬光り、一言呟き笑みを浮かべながら両手で持っている矛槍ハルバートを強く握りしめた。


キンッ…


「そう…ショウゴ、今の貴方にはそれが最大の攻撃よね」 ニコ チャキッ!


「うおおおおーーッ!」 ダダダッ! ブウウウンッ!


「あの構え…高速剣技…」 ギュッ! ササッ!


「ふんッ! スズカッ! 俺を怒らした事を後悔するんだなッ! 喰らいやがれッ!《瞬歩ッ!》剣技ッ!《翠鳴斬ッ!》」 シュンッ! 


シュバアアアーーッ! ブンッ!


ショウゴは勇者だけが使える剣技のひとつ《翠鳴斬》を高速移動術《瞬歩》と掛け合わせて、スズカに向かって攻撃した。 しかし…


ヒュンッ! ビュンッ! チャキッ!


「うん…千枝千槍、《縮地ッ!》槍技ッ!《舜華滅槍旋ッ!》」 キュン! シャッ!


ビュンッ! シュッ! シャッ!


ショウゴの高速移動剣技に対し、スズカはそれを上回る高速で、矛槍ハルバートによる槍技を放った。


「うおッ! は、速ええッ‼︎」 ババババッ! ググッ!


「ショウゴ、その速度が限界なの? それでは私には勝てないわ」 ビュンッ! ズバアアーーッ!


ギインッ! ババッ! ドコオオオオーーンッ!


「うおおおおーーッ!」 ビュンッ! 


スズカによる高速槍技に、高速剣技で斬りかかったショウゴだったが、その速度の違いに驚き、次の瞬間、スズカの高速槍技の威力に弾かれ、吹き飛んでいった。


ドガアアンンッ! ガラガラ パラパラ…


シュンッ! スタタッ トン… チャキ ヒュウウ ファサッ…


高速移動攻撃同士の結末は一瞬だった。ショウゴの繰り出した高速移動攻撃を、スズカはさらにそれを上回る速度で迎撃し、吹き飛ばされたショウゴは再び巨大な石の絶壁に体を打ちつけ、その場に崩れた。 倒れたショウゴを、少し離れたところで技を解き、矛槍ハルバートを片手で肩にかけ、汗ひとつかかずに黒髪を靡かせたスズカが立っていた。


「勝負ありだねショウゴ、動けそうも無いけど死にはしないわ、そこで大人しくしてなさい」 サッ!


ゴソ…ガラガラ…パラパラ…


「うう…くそ…ス、スズカがこんなに…強ええとは…」 ググ…


瓦礫から出てきたショウゴだったが、身体中が痛いせいか、すぐには動けない状態だった。


「私が強いですって? ショウゴ、私に言わせれば、貴方たち全員が勇者として弱すぎるのよ!」 バッ!


「お…俺たちが弱い…だと…?」 ググ…


「ええ、貴方たちこの3年間何をやってたの? ちゃんと勇者としての洗礼と研鑽をしてきたの?」 ジッ


「な…そんなもの…」 フッ…


「あら、気絶したの? もうッ、勇者ならコレくらいで倒れないでよ!」 スッ! トコトコ


ショウゴは体の傷と体力的に無理が祟ったのか意識を失ってしまった。それを見たスズカは呆れ顔で、ショウゴに近づいていった。


「ほら、起きなさい!《リザレクション!》」 パアアアンンッ!


シュワワワワッ! フワアアアアアアアーーッ!


スズカが勇者特有の魔法をショウゴにかけると、ショウゴの体の傷は全て消え去り、顔色も良くなっていった。 そして、その魔法の効果が消えると、ショウゴは目を覚ました。


パチッ ググッ!


「ううッ! あれッ⁉︎ 体の傷が…」 サワサワ フリフリ


「もう痛い所はないでしょ?」 ニコ


「あ、ああ…スズカ…これはお前が…」 サッ ポッ


身体中の傷が癒えて、それを治してくれたのがスズカと知り、ショウゴは顔を赤くしてスズカを見た。


「ふん、勘違いしないでね、敵だったとはいえ同じ境遇の勇者で同級生でしょ! ただそれだけよ!」 サッ!


「そうか、ありがとなッ!」 ポリポリ…


「い〜いッ! そこで大人しくしてるのよッ!」 スッ!


「ああ、俺ではお前に勝てねえ…もうなんにもしねえよ!」 サッ


そう言って2人はケンゴとサトシの方を見た。 その見た先には勇者2人が激しく戦っていた。

          ・

          ・

シュザアアアアアーーッ! ギインッ! バッ! ババッ! シャッ! シュバッ!


「ちッ! ちょこまかとッ!」 ブンッ! ササッ!


「はッ! ふんッ!」 ビュンッ! ギンッ! シュバッ!


「このッ!《ファイヤブレッドッ》」 キン! ババババッ!


「うッ!《ウォーターウォール》」 シュバッ! シュバババババーーッ!


ジュッ! ジュジュッ! ジュバッ! 


「くそッ!《アイシクルランスッ!》」 キュン シャッ シャッ シャッ!


「はッ!《ファイヤウォールッ!》」 バッ! ゴオオオオーーッ!


ジュッ! ババババッ! シュウウウウ…


ショウゴとスズカの戦いが終わってもいまだに続いていた。 側から見れば互角の戦いに見えるが、そうでは無かった。 ケンゴは持てる勇者の力を存分に出し、サトシを攻めていたが、サトシの方はそれを軽々と躱し、その威力を去なしていった。 途中、ショウゴたち同様魔法攻撃も使用したが、結果は同じで、ケンゴの魔法もサトシには通用しなかった。


ギャインッ! シュザッ! バッ! ババッ! ギイインンッ!


「くそッ! くそおッ! 」 ビュンッ! ブンブンッ!


「はッ! んッ!」 サッ! ササッ! ブンッ! ギイイイインンンンッ!


「おりゃああッ!」 ビュンッ! 


「ふんッ!」 シュバッ!


ガギイイインンッ! キキッ! ギッ! カチャカチャ キキ!


一際大きく振りかぶった攻撃で、2人の剣が止まり、鍔迫り合いになった。


「く、くそッ! サトシッ! 本気の俺とタメとは強いなお前ッ!」 ググッ!


「ケンゴ…それ、本気で言ってるのか?」 グッ!


「ど、どう言う意味だッ!」 ググッ ギギッ!


「ケンゴ、僕はまだ全開ではない! まさか、君のこれが全開なのかい?」 グッ!


「はああッ⁉︎ サトシお前、一体なのを…」 ググッ!


「もしこれが君の全開なら、剣を引いてくれ、今の君じゃあ僕は倒せない」 グッ!


グイッ! ババッ! ドオオオンッ!


「うわああッ!」 ヒュンッ! ザザザザアアアアーーッ!


サトシは鍔迫り合いの剣に力を込め、衝撃波を放ちケンゴを押しやった。 ケンゴはその衝撃波に押され、後方へと飛ばされていった。


ヒュンッ! チャキッ!


「まだやるのかい? ケンゴ、君の攻撃は僕には届かない、元親友の君をこれ以上傷つけたくないんだ、今は引いてくれるかな?」 ザッ!


「こ、こんな馬鹿なッ! 俺たちは同じ様に、ここに来たはずだッ! どうして…」 ググッ


「ケンゴ、聞いてるかい?」 サッ!


「ククク…どいつもこいつも気に入らねええッ!」 グググッ!


「ケンゴ、一体何をッ!」 ザッ!


ガバアッ! ババッ!


「俺の究極の勇者能力ッ! ここら一帯お前らと一緒に吹っ飛ばしてやるぜッ!」 ヴオンッ!


パアアアンンッ! シュバアアアーーッ!


ケンゴの足元を中心に、ここ一帯に巨大な赤い魔法陣が形成された。


「えッ⁉︎ これって!」 サッ!


「おい!ケンゴッ! これはまずいってッ!」 バッ!


「うるせえショウゴッ! スズカなんかに負けてるてめえも一緒に吹き飛べやあッ!」 ググッ!


「この魔法陣式…まさかッ!」 ザッ!


パアアアアアアアーーーッ! シュゴオオオオオーーッ!


4人がいた辺り一帯が物凄い魔力風に囲まれ、周囲の魔素を吸収し始め出した。 そう、魔素の爆縮が始まっていた。

          ・

          ・

          ・

ーヤマト皇国「樹海」 深層部ー


シャッ! バッ! ババッ! シュンッ! タンッ! タタッ バシュッ!


ケンゴとサトシが戦っている場所、「樹海」の深層部から中層部へと鬱蒼とした「樹海」の森の中をものともせず、疾走する2つの高速移動する人影があった。


ヒュン ビュビュンッ! ババッ! シュバアアアーーッ! タタタタタタッ!


「ん? この先… 誰なんだ?こんなおっきな魔素を集めてんの、危ないじゃないか、ちゃんと制御できるのかな?」 ビュン タンタン シュバッ!


「アニス様ッ! この先に異様な魔素量を感じます」 シュンッ! ババッ! ザザーーッ!


「あ、ヘビくんも感じた? ちょっと危なさそうだよね」 シュババッ! ザザッ!


「はい、暴走、爆発しかねませんッ! 急いで止めた方がよろしいかと」 ビュンビュン! シュンッ!


「やっぱり? そうだよねえ…よしッ! 少し速度を上げるけど大丈夫?」 タタタタタッ バッ! 


「はい、私の事はかまいませんッ! 先に行ってください、必ず追いつきますッ!」 ババババッ! シュバッ!


「ん! じゃあ先に行くね!《刹那ッ!》」 キュインッ! シュンッ!


シュバアアアアアーーッ ゴオオオオオオオオオーーッ! シュンッ! パッ……


「アニス様… 消えてしまった…」 ババババッ! ザザッ! シュンッ!


アニスは「樹海」の中を高速の《縮地》で移動していたが、それよりもさらに早い《刹那》によってその場から消えていった。


シュバババババババーーッ! ザッ ババッ! バッ!


「ん、あの向こう…… アレだッ!」 ババババッ! シュバアアアーーッ!


アニスは超高速で、「樹海」の深層部から中層部まで一気に移動してきた。グングンと近づいていく魔力風の塊、その中に勇者の4人、ケンゴとショウゴ、サトシとスズカがいた。


シュバアアアーーッ! タタタタタタッ! ギュンッ!


「わああ、凄い魔素と魔力風の塊だね! よし、このまま行っちゃえッ!」 シュシュッ! シュバッ!


ボヒュンッ! ボウッ! シュバッ!


アニスは躊躇なく、魔素と魔力の風の中へと突っ込んでいった。


シュバババババババーーッ! フッ!


「ん! いたッ! アイツかッ!」 ギュンッ! ババババッ!


アニスは今ここで起きている事の元凶である1人の男に目標を定めた。

          ・

          ・

「ぐううッ! ケ、ケンゴッ! 止めろッ! こんなモノッ! 放ったらお前の身体もただじゃ済まないぞ!」 ググッ!


ブワアアッ! ビュウウウーーッ!


「はッ! 自分の能力で傷つくバカはいねえぜッ! 技を出した本人ッ!俺は大丈夫だってよ!」 ククク ババババッ!


「誰がそんな事言ったのよッ!」 ビュウウウーーッ!


「ケンゴてめえッ! 俺までやる気なのかッ⁉︎」 グウウ… ビュウウウーーッ!


「ショウゴッ! あの世があったら後で謝ってやるッ! 今はそいつらと一緒に逝きやがれ!」 バッ!


ゴオオオオオオオオオーーッ! グワアアアアアーーッ!


一気に魔素の塊が膨れ上がり、周りを駆け巡る魔力風が更にそれに魔力を注ぎ始めた。魔力暴走の始まりだった。しかし…


「ハアッハハハハッ! 一気に爆ぜろッ!」 バッ!


ケンゴが魔素の塊を爆発させようとしたその時、彼は思いもよらぬ方向から攻撃を受けた。


ギュンッ! 


「このバカちんッ! やめないかッ!」 シュバッ! ドカッ!


ドコオオオオーーンッ!


「うぎゃああああーーッ!」 ビュンッ! ドカッ! ドカッ! ゴオオンッ!


「「「 えッ⁉︎ 」」」 


ザザアアアーーーッ! ピタッ! シュウウウウ…. ファサファサ…


アニスは勢いよく蹴り付け、それによりケンゴは吹き飛び、地面を2回ほど跳ね、最後には大きな岩にその身体を打ちつけて止まった。彼がいたその場所には、青みがかった銀髪と純白の上着に膝丈のスカートを靡かせたアニスが颯爽と立っていた。


ヒュウウウウウウ… パアアアンンッ! サササアアアーー…


ケンゴが吹っ飛んだお陰で、魔法陣は消え、集まり風を巻いていた魔素と魔力は徐々に薄まり、自然と消えていった。 その様子を見ていた勇者達に向かってアニスは叫んだ。


「全く、何やってんの貴方達はッ! 危ないでしょッ!」 こら!


「「「 すみませんッ! 」」」 ババッ! ペコッ!


アニスの勢いに、咄嗟に勇者の3人が一斉に頭を下げた。


「もうッ! むちゃはダメですよ!」 スッ! テクテク


「「「 はいッ! 」」」 ペコッ!


そう言って、アニスは吹き飛んだケンゴの方に向かって歩き出した。 そんなアニスの後ろ姿を、勇者達は見惚れていた。


「わああ、素敵…綺麗な娘… 透き通るような肌に素敵な銀髪、スタイルもいいし、顔も小顔で可愛い…理想の美少女像ね…」 うん


「スズカ、アレは一体誰なんだろ? 突然現れたんだけど、僕の能力にも感知出来なかったよ!」


「え! サトシの広範囲感知で分からなかったの?」 バッ


「うん、突然、いきなり現れたんだ、僕の感知能力は常に半径5kmを探知してるんだけど全くだよ、彼女の反応がなかった」 フリフリ


「どういう事なんだろ? 不思議な娘ね、でも可愛いからいいかな♡」 ニコ


「ああ、本当にそうだよな、確かに可愛い…」 ポッ


「こら、サトシッ! 浮気はダメだからねッ!」 ドスッ!


「うおッ! 痛ってえ! はは…分かってるよ、でも僕はダメでスズカはいいのか?」 いてて… サスサス


「女の子同士はいいんです!」 ふん!


「え? でも…」 うッ


「いいんですッ!」 ジイイッ!


「ええ〜…(友達になりたいんだけどなあ…)」 とほほ…


「とにかくよう、俺たちも行ってみようぜ、ケンゴもアレじゃあタダじゃ済まなさそうだ!」 スッ!


サトシとスズカが話している中、ショウゴがケンゴが吹っ飛んで倒れた方に歩いていくアニスを指さした。確かに、そこには動けなくなってるケンゴの姿があった。


「「 そうだな(ね) 」」 バッ! タタタ


3人はアニスを追って駆け出していった。


テクテク テクテク ザッ! スッ!


「大丈夫ですか?」 サッ!


「う…うう、い、痛え!…だ、誰だお前はッ⁉︎ うッ!」 ガラガラ ヨロッ! スクッ! プランプラン


「わああッ! 腕が折れちゃった!」 バッ!


「ううッ! 痛ッ! 右腕が逝ったか…」 ググッ!


アニスの攻撃の威力のせいか、ケンゴの右腕は、上腕中程から折れ、プラプラと揺れていた。そこへ、アニスを追って他の3人の勇者達も集まってきた。


タタタッ! ザッ! ダダッ!


「ケンゴ大丈夫か?」 サッ ザッ!


「全く、あんな大技を使おうとするからよッ!」 トコトコ スタッ!


「俺も一緒に殺ろうとするからだぜ! 馬鹿野郎が!」 ふん ザッ!


「わああ、痛そう…完全に折れてるわね、これは…」 ジッ!


「スズカ、すぐに治せないか?」 


「無理よ、骨折はただの怪我じゃないのよ、重症よ重症、神官か医術者でないとダメね」 フリフリ


「俺たちの《ヒール》とかじゃダメなのか?」 サッ


「《ヒール》は切り傷や火傷、打撲程度なのよ、体の表面の傷だけ…内部の骨折や病気、毒や呪いなどには効かないわ…」 フリフリ


「そうか…」 スッ…


誰もがこの場での治療が無理と思った時、アニスが動いた。


「ちょとまっててね、今、治してあげるから」 サッ! パアアアンンッ!


「えッ! 貴女、この傷が治せるの⁉︎」 バッ!


「簡単な傷じゃねんだぞッ! 痛てて… 簡単なんかじゃ…」 うう…


「ん!《ヒルティ!》」 パアアアンンッ! シュバアアアーーッ!


「「「「 えッ⁉︎(なにッ⁉︎) 」」」」 ザワッ!


それは、彼ら勇者達には見た事も、聞いた事もない治癒魔法だった。 アニスがそれを唱えると、ケンゴの体は一瞬光に包まれ、次の瞬間、彼は身体中の全ての傷と怪我が治療され、体力までも回復していた。


シュウウウウ… ファン…


「ん、どうですか? もう治ってますよ!」 ニコ


「お、おおッ! 凄ええッ! 完璧だぜッ!」 グイグイッ! ブンブン!


ケンゴは折れた右腕を治ったかどうか確かめるために、振り回したり手のひらを握ったりとしていた。


「はああ、本当にすごいわ、あの大怪我を一瞬よ一瞬、私たちの国の高位神官でもアレほどの怪我を治すのに数時間かけて治療魔法を使うのに…」


「ああ、本当に凄ええぜ! ココルでも緊急用ポーションってのが有るが、アレでも身体全体ってのはねえからな、驚きだぜ!」 うん


「スズカ、もしかしたら彼女が…」 ちら…


「たぶん、間違い無いわね…彼女が聖女様よ」 サッ!


サトシとスズカの感は当たっていた。彼らが探す目標の少女が今、そこにいたのだった。


「ふん! 治してくれた事に礼なんざ言わねえぜ! 元々お前が俺を攻撃してできた怪我だ! 分かってるんだろうなッ!」 バッ!


「ん、別に礼なんて要りません、ただ、貴方を蹴ったのはアレが良くない能力技だったからですよ」


「うるせえッ!」 バッ!


「うわあッ!」 バッ


「兎に角ッ! お前もそいつら同様俺の敵だあッ!」 シュリンッ! チャキ!


ケンゴは聖剣をアニス達に向け構えた。 その時、アニスとケンゴの間に1人の高身長の青年が突然現れた。


シュンッ! バアアンンッ! シュウウウウ…


「「「「 うわあああッ!(きゃああッ!)」」」」 バババアアーーッ!


シュウウ… ヒュウウ…


その人物は、アニスを追ってやってきたこの「樹海」の主、人化した姿の「ヤマタノオロチ」だった。 彼は現れた瞬間、周囲に強力な威圧を放った。


「おい! 貴様、我が主人、アニス様に対してなにをしている?」 ジロッ! ドオオオンッ!


「うおッ! か、体が動かねえ…」 ビリビリビリ ググッ…


ケンゴはその人物に睨まれただけで、体の自由を奪われてしまった。


ガタガタガタ ブルブルブル…


「お、おい…スズカ…あれって…」 ガクガク ブルブル


「ダ、ダダ、ダメよッ!サトシッ! あ、あああの人に逆らっちゃダメッ! 一瞬で殺されるわッ!」 ギュウッ! フルフル ガクガク


「あ…あう、あう あああ…」 ガクガクガク


そう、威圧で動けなくなったのはケンゴだけでなかった。「ヤマタノオロチ」の人化したその後ろ姿を見ただけの勇者達、3人も動けなくなっていた。サトシとスズカはその強大な威圧と強さを察知し、ショウゴは言葉を発するのも難しいほど怯えていた。


テクテク ピタッ!


「こら、ヘビくん、威圧が強すぎる! やめなさい!」 サッ


「しかしアニス様、コイツはアニス様に剣を、しかも聖剣を向けたのです! コレは万死に値しませんか?」 二ッ!


「ひいいッ!」 ビクビク


「いいから、やめてあげて、お願い」 ニコ


「はああ、わかりました。貴女がそう申すのであればそうしましょう…」 スウウ…


アニスに言われ、「ヤマタノオロチ」は周囲に出していた威圧を全て消した。


「はああッ! ハアハアハア」 ガクン


強力な威圧がなくなり、ケンゴは一気に解放され地面に膝をついた。ケンゴだけでなくサトシやスズカ、ショウゴも金縛りから解放され、安堵の表情を浮かべていた。


「小僧、よいか今回は見逃す、次はないと思え…」 ギロッ! サッ! バサッ! ザッザッ!


「ハアハアハア…(な、なんなんだアレは…洒落にならんくらいの強者じゃないかッ! あんな奴まで居るのか「樹海ここ」には…」 ググッ!


ケンゴも勇者で有る、「ヤマタノオロチ」の人化したその姿を見て、いかに強大な力を持った者かすぐに分かった。


ザッ ザッ スッ!


「アニス様、お見事です。アレだけの、魔素と魔力風を一瞬で無に帰すとは驚きました」 サッ!


「ん? 私はなにもしてないよ、ただ、アイツを蹴飛ばして止めただけだよ」 うん


「し、しかし、あの魔素の塊と強力な魔力風をどやって突破したのですか? 私でもそう易々とは突破出来ませんものを!」 サッ


「あはは、走ってそのまま突っ込んじゃった」 えへへ…


「はああ…アニス様だけです、そんな事して平気なのは、普通は身体ごと消し飛んでしまう様な魔素の濃さだったんですよ」 フリフリ


「まあ、ヘビくんコレがアニスだから…ね!」 ポンポン ニコ


「はああ…やはり貴女には敵いません」 フリフリ


「ヤマタノオロチ」こと「ヘビくん」も、アニスには呆れていた。


「おいッ!貴様ッ! 今日は引いてやるッ! だが覚えておけよッ! 次は容赦しないからなッ!」 ザッ!


「ん〜、容赦ねえ…」 う〜ん


「あの者、懲りぬようだな!」 ギロッ!


「おッ! おいショウゴッ!」 バッ!


「あん? 何だケンゴッ⁉︎」 バッ!


「さっきは…すまなかった…俺が言いすぎた」 アセアセ ギュ!


「お、おうッ! まあ何だ、戦闘中で興奮してたんだな! まあいいぜ!許してやらあ!」 二ッ!


「ああ、すまん…帰るぞッ!《瞬歩ッ!》」 ザッ! シュンッ! ババババーーッ?


「おうッ! スズカ、またなッ!《瞬歩ッ!》」 シュンッ! ババババーーッ!


勇者のケンゴとショウゴは、足早に高速移動術を使ってこの場から消えていった。


テクテク スタッ 


「で、君たちはここでなにしてたの?」 ニコ


「そうだ、なにをしてたのだッ! 言わんかッ!」 ギロッ! 


「「 ひいいいッ! 」」 ガバッ! ギュウウッ! ビクビク…


アニスはここに残された勇者のサトシとスズカに質問をした。



いつも読んでいただきありがとうございます。

次回もでき次第投稿します。

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