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第226話 アニスとヤマト皇国「樹海」

ー大陸極東 ヤマト皇国「迷いの森 迷宮大森林」「樹海」ー



テクテク ヒョイッ! スタッ! テクテク バサバサ ガサッ テクテク


「凄い森… 立派な木ばかりだね。 君達はどのくらい、ここにいるの?」 サスサス


サワサワ… フワッ… ソヨソヨ…


アニスの問いに応える様に、樹々は揺れ、優しい風がそよいだ。


「あはは、そうか、そうだったね…私はアニス、よろしくね」 ニコ ペチペチ


サワサワ… ソヨソヨ… ファササアアー…


アトランティア帝国から随分と離れた場所、大陸の極東に位置するヤマト皇国。その領内にある霊山「フジ」の裾野に広がる大森林、「迷いの森 迷宮大森林」と呼ばれる「樹海」の最深部の中を、落下地点から離れ、まるで自分の庭を散歩するかの様に、アニスは歩いていた。


帝都王城上空で自爆しようとした神聖艦「ルシェラス」と共に、空間転移をしたアニスだったが、転移対象物の巨大さと、転移時の神聖艦「ルシェラス」の自爆の威力が重なって、時間軸がずれ、一年後のこの偽世界「アーク」へと転移出現してしまった。


神聖艦「ルシェラス」は完全破壊、魔素還元され、この偽世界から消滅はしたが、艦のメインコアであった魔力炉だけは最後まで残り、火球となってアニスと共に、一年後のこの偽世界に転移出現し、「樹海」へと魔素還元されながら落ちてきたのであった。


「ん…この魔素量…あの山か…あの山の山頂から大量の魔素が湧き出て、山肌を下り山の周辺を覆ってるんだ」 ジイ…


樹海の中の魔素がとてつもなく濃く、人によっては幻覚作用や体力の減衰を引き起こす、人体には強すぎる程の魔素が充満していた。 その大量の濃密な魔素がどこから出ているのか、アニスは瞬時に見つけ、その発生源となっている大きな山を見た。 森の木々の間から見てとれたその山は、この国の霊山「フジ」、周りに一切山を持たない、単一の大きな山を見つめていた。


「あの山…という事は、此処はアトランティア帝国ではないね… どこかよその場所なんだ…」


グウ〜…


「あッ、お腹が空いた… うん、朝ごはんにしよう! 後はそれからだ」 サッ! テクテク


アニスはお腹の空く音を聞き、どこか朝食の取れそうな場所を探し始めた。


「ん、大木と大岩、シダ類や苔だらけだねえ、平坦な場所はないのかな?」 キョロキョロ


今いる場所から見える範囲は、緑の苔に覆われた大岩が所狭しとあり、その岩の間に大木やシダ類の草が鬱蒼と生えて、見た限り平坦な場所はなかった。


「ん〜、せめて川でもあれば平坦な場所があるはず、上から覗くしかないか…」 グッ!


そうアニスが判断すると、その場にしゃがみ、自分の真上を見た。 そこには大木同士の木の枝の隙間があり、雲ひとつない青空が見えていた。


「よしッ!」 グググッ! シュンッ! シュバーーーッ! ザザザッ! 


アニスは勢いよく真上へとジャンプをした。 到底、人では考えられない様な高さまで上がり、樹海の木々の高さを超え飛び上がった。


ザバッ! シュウッ!


「うん、高い高いっと、へええ、随分と大きな森なんだ、ん?フォトン波動波? コレもあの山からか…綺麗な山だね…っと、川、川… あったッ!」 シュウッ!


アニスは川の存在位置を掴むと、再び樹海の中に降りてきた。


ザザザザッ! スタッ! トン 


「あっちだったね、よしッ!」 ザッ!


シュンッ! シュバッ! ザザザアアアーーッ!


アニスは樹海の森の中を高速移動で駆け抜けていった。

          ・

          ・

          ・

ー一等級攻撃型駆逐艦「ユキカゼ」 陸上部隊ー


ガサガサ バサバサ ザッ ザッ ザッ 


深夜にこの「迷いの森、迷宮大森林」「樹海」に降り立った、駆逐艦「ユキカゼ」の陸上部隊が、朝方になってやっと、火球落下地点に到着していた。


ピッ ピッ ピッ ピッ ガサガサ 


「曹長、反応はどうだ?」 ザッ ザッ! バサバサ


ピッ ピッ ピッ ピッ


「はッ! 濃密度の魔素以外、有害なものは検知されません」 ザッ ザッ!


「と言う事は、昨夜の火球は隕石ではないな、他の何かだ」 ザッ ザッ!


駆逐艦「ユキカゼ」陸上部隊隊長【佐藤 猛】中尉は、17名の部下を引き連れて、火球落下地点を調査していた。


ピーーーーッ!


「隊長ッ! 此処ですッ! 此処が最終落下地点ですッ!」 ザッ! ガサ!


「なにッ⁉︎ 此処だとッ! 此処が火球が落ちた場所なのかッ!」 ザッ! ピタッ!


「ここ?」 ザワ…


「嘘だろ、こんな事って…」 ザワザワ


「曹長、間違い無いのか?」 ザッ


「はい、此処ですッ! 間違いない…です…」 ピーーーッ!


「た、隊長…」


「ううむ…信じられん…こんな事がありうるのか?」 ジイイ… サッ!


そこは、昨夜の大火球が落ち、大爆発し森を焼いた場所だった。この樹海では、災害や事故などで森が破壊、消失されても、密度の濃い魔素と「樹海」の驚異的な再生能力のおかげで、即座に修復される。ほぼ一晩あれば完全な森に戻るのだが、ここは少しばかり様相が違った。


何処にでもある森のはずだった。だが、陸上部隊のたどり着いたそこは今まで見た「樹海」のそれとは違っていた。普段は乱雑に聳え立つ樹々と無秩序に転がっている巨石や岩、それが、アニスが横たわっていた木の幹を中心に、巨石や岩は放射状に並び、樹々はそれを円形状に立ち並んでいた。


それは、「迷いの森、迷宮大森林」「樹海」の中にできた神の社、神殿だった。


「凄い、岩や樹々が、まるで意図的に誰かが作ったみたいに並んでる」 キョロキョロ


「あれだよッ あの樹を中心にこの場所はできてるッ!」 サッ!


隊員の1人が指さしたその樹は、他のどれよりも大きく、その樹の根元にはこの「樹海」では見られない不思議な花と草がはえていた。


「なんだこの花はッ! それにこの植物、この『樹海』の物ではないぞッ!」 バッ!


「柳曹長ッ!」


「はいッ!」 タタタ


【柳 祥子】曹長、駆逐艦「ユキカゼ」地上部隊の隊員で、「樹海」の事をよく理解している、レンジャー資格を有する女性隊員である。


「これだが、どう思う?」  スッ!


「この花は… 『リリーテンペラーッ!』 なんでこの花が、しかも、辺りに生えているこの草… まさか『ホワイトラック』⁉︎ 何故この『樹海』にッ⁉︎」 バッ!


「曹長、何かわかったのか?」 ジッ


「隊長…これはものすごく重要な、『樹海』からのメッセージだと思います」  プルプル


「やはりそうか…この辺りの状況を見てそうじゃないかと思っていたんだが…」 クルッ ジイッ…


佐藤中尉はそこを中心に周囲を見渡した。整然と放射状に並ぶ巨石や岩、等間隔にこの樹を中心に二重の円で立ち並ぶ『樹海』の樹々、この様な場所は、この「樹海」では見た事がなかった。


「『リリーテンペラー』…幸運の訪れ、もしくは聖母、尊い者の再来、『ホワイトラック』は神聖な場所、もしくは神域と幸福、という意味があります。どちらもこの『樹海』では見られない、いえ、育たない植物です。それがこんなにも…そしてこの場所の様相ッ!」 ババッ!


「やはり昨夜の火球、只事ではないな…何か、いや、何者かがここに落ちたのかもしれん」


「隊長、そんなまさか…」


「ここを見ろ!」


「あッ! 足跡… 『樹海』の奥へ行ってます」 スッ


「第2小隊ッ! 今より、ここを隈無く、徹底的に調査せよッ! いいか、どんな些細な物も見逃すなッ!」 バッ! 


「「「「「 はッ! 」」」」」 ザザッ! バッ! ダダダッ!


駆逐艦「ユキカゼ」の陸上部隊、第2小隊は、隊長の【佐藤 猛】中尉の命令で、ここ火球落下地点の異様な場所を調査、探索を開始した。


「第1小隊ッ!」


「「「「「 はッ! 」」」」」 ザザッ! バッ!


「これより、この『樹海』最深部に行くッ! 俺について来いッ!」 ザッ!


「「「「「 ッ⁉︎… は?、え?、ええーーッ⁉︎ 」」」」」 ザワッ!


「返事はどうしたあーーッ!」 ギンッ!


「「「「「 はッ! 同行しますッ! 」」」」」 ザザッ! バッ!


「よしッ! 全員第1種警戒体制で進むッ! いいか、周辺警戒を厳に進むぞッ!」 バッ!


「「「「「 はッ! 」」」」」 ジャキジャキッ! ガシャンッ!


ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ! ガサガサガサ


第1小隊全員がフォトンライフルを構え、陸上部隊隊長、佐藤中尉の命令で「樹海」の奥、最深部へと、武器を構え周辺警戒しながら進んでいった。


ザッ ザッ ザッ ザッ バサバサ ガサガサ パキ ベキ ザッ ザッ


「むッ! こっちか…」 スッ


「隊長、進言いいですか?」 ザッ ザッ


「うん? なんだ小林軍曹」 ザッ ザッ


「自分達、こんな奥まで『樹海』に入った事がないのですが大丈夫でしょうか?」 ザッザッ


「心配するな、アレを見ろ」 スッ 


心配する小林軍曹に、佐藤中尉は上を指差しながら行軍した。


シュバーーーッ! ババッ! ビュウウウーーッ!


「『ZERO』ッ!」 バッ!


「そう言う事だ、我々は上空掩護を受けて行動している。『樹海』特有の方向感覚麻痺や所在位位置不明になる事はない。 気にせず任務を全うするんだ!」 ザッ ザッ


「はいッ!」 ババッ! ザッ ザッ


佐藤中尉の言葉を聞き、第1小隊の隊員8人は安堵の表情を浮かべ、隊長について行った。


ザッ ザッ ザッ ガサガサ バッ! 


「うん? 止まれッ!」 スッ! ササ


「隊長? どうしたんですか?」 サッ


「ああ、ここだ…」 ササ ササ サ サッ!


佐藤中尉はひとつの大岩に残された足跡をさすった。


「ここだけくっきりと足跡がありますね、それもたくさん」 う〜ん


「ここで、一度だけジャンプしたんだ、この真上に向かって」 ササ


「ジャンプですか? 何のために… こんな森の中じゃジャンプしたってなにも見えないですよね」 キョロキョロ


「見える高さまで飛んだとしたらどうだ?」 ササ ジッ!


佐藤中尉は真上の樹々の枝の間から見える青空がを見つめた。


「は? いやいやいや、それはないですよ隊長、この高さの木の上までだなんて、一体何mあると思ってます? ゆうに30mはありますよ! そんなの人には無理ですって」 フリフリ


「人には…か…そうだな、人には無理だ」 ザッ


「隊長?」


「さあ行くぞッ! 目標はここから高速移動を始めた様だ、歩幅が変わっている。急ぐぞ!」 ババッ!


「「「「「 はッ! 」」」」」 ババッ! ザッ ザッ ガサガサッ!


陸上部隊第1小隊の9人は、アニスを追ってさらに「樹海」の奥へと入っていった。

          ・

          ・

          ・

ーヤマト皇国「迷いの森、迷宮大森林」「樹海」上空ー



ヒイイイイインンンッ! バウウウウーーッ! ブオンッ! ピッ ピッ ピッ


「こちら上空掩護中の『ZERO』、白井だ、『ユキカゼ』聞こえるか?」 ピッ


『こちら「ユキカゼ」コントロール、受信』 ピッ


「陸上部隊、2班に分かれ捜索中、我々も別れて掩護中、落下地点には坂本機を付随、白井機は先行の部隊を掩護、オーバー」 ピッ


『了解、充分注意されたし アウト』 ピッ


「よし、行くぞ『ZERO』ッ! 地上にいる陸上部隊を見失うなよッ!」 グイッ!


ピッ


『了解しました。マスター、お任せください』 ピッ


シュバーーーッ! バウウウウウーーーッ!

          ・

          ・

          ・

ーヤマト皇国「樹海」最深部、一級河川 川辺ー


ババッ! バサバサッ! ザザザザーーーッ! ピタッ!


「川だああーーッ!」 ババッ!


アニスは「樹海」の中を流れる、水量の豊富な川の川岸へと辿り着いた。


テクテク スッ! チャパチャパッ


「うう〜ッ! 冷た〜いッ! あはは、綺麗な川だね。うん、ここで朝食にしよう!」 グッ


アニスは川で手を洗うと、川岸の小石だらけの平坦な場所を見つけ、そこで朝食の準備を始めた。


「よいしょっと」 ゴトッ!


アニスは河原で竈門に適した石を並べていった。


「うん、竈門はこれでいいね、後は調理台にテーブルと椅子だね」 ババッ!


ブオンッ! ドン ドン ドン!


アニスは異空間庫、ストレージより大きめの調理台と1人用のテーブルと椅子を取り出し、その場に並べた。


サンサン  ジリッ…


「ん? 今日は日差しが強いね…日除けも出しとこ…」 スッ!


バッ! パサッ!


アニスは日除け用のパラソル立て、河原にはちょっとした野営地ができた。


「うん、さあ作っちゃうぞおッ!」 ババッ!


トントントン ジュウウ〜… ポコポコ コトコト


「樹海」の中を流れる川の河辺には、リズムの良い包丁と調理の音が響き、やがて辺りには良い香りが漂い始めた。


「よし、コンソメスープはこれで良いね、メインのサンドイッチを作るぞお」 グッ


イノトンの肉を一塊から、厚切りで1枚用意する。塩と胡椒で下味をつけて、脂身部分に適当に包丁を入れ、その他の赤身の部分は包丁の先で適度に刺していく。当然筋切りも行い、肉を柔らかくする為、包丁の背で軽く全体を叩く。 次に卵を解き、小麦粉にオリーブオイルを入れ、よく混ぜてつなぎを作る。


出来たつなぎに肉をその中に入れ両面に満遍なくまぶした後、用意してあったパン粉をまぶしてトンカツの準備はよし。 竈門の大鍋に食用油を注ぎ、だいたい160°から170°くらいの温度でトンカツを入れ揚げる。 油の中に入れてから取り出すまで約7分半ほど、油の中のカツが狐色になったら取り上げて、油切りをする。


食パンに揚げたカツをのせ、特性ソースをかけて挟んで包丁を入れ、食べやすいサイズにカット、後はお皿に並べて美味しいカツサンドの出来上がり。


「んーッ! 美味しそうに出来たッ! 後はテーブルに並べてっと」 テクテク カチャカチャ


アニスは出来立てのカツサンドとコンソメスープを並べ出した。

          ・

          ・

          ・

ーヤマト皇国「樹海」最深部一級河川、上空付近ー


ヒイイイイインンンッ! ピッ ピッ ピッ


ビコッ! ピコピコ ポンッ!


ピッ


「マスター、前方下方。一級河川河原付近に生活反応、焚き火の存在を確認』 ピッ


「なにッ? 焚き火だと? こんな『樹海』の奥に誰かいるのか?…地上部隊ッ!こちら上空直掩機、聞こえるか?」 カチ ピッ



ー駆逐艦「ユキカゼ」地上部隊 第1小隊ー


ザ ザザーッ! ピッ


「隊長、直掩機より入電」 サッ


「うん? 代わってくれ」 サッ!


「継なげます…どうぞッ!」 ピッ


「こちら『ユキカゼ』地上部隊、第1小隊の佐藤中尉だ」 ピッ


『こちら上空直掩機、『ZERO』って、なんだ佐藤か、俺だよ、ブレードナイト隊の白井だ』 ピッ


「白井ッ! お前が今日の直掩か」 ピッ


『まあな、それでだ、この先の『樹海』最深部にある川で呑気に焚き火をしてる奴がいる』 ピッ


「はあ? 焚き火だと? この『樹海』でか?」 ピッ


『ああ、そうだ』 ピッ


陸上部隊の佐藤中尉は上空直掩機、同僚の白井中尉の報告を聞き驚いた。


「なんて奴だ、普通、こんな所で焚き火なんざしない! それこそ『樹海』に嫌われ強制的に排除されちまう、膨大な魔素の影響を受けただじゃ済まないぞ!」


「隊長ッ!、人が…人がいるんですかッ! こんな『樹海』の最深部にッ⁉︎」 ババッ!


「うむ、上空の白井中尉が見つけたみたいだ」


「おい、人がいるってよ」 ザワ


「そうらしいな、それももっと奥の方だそうだ」 ザワザワ


「信じられない…『樹海』だぞ…訓練を受けた俺たちでさえ半日も行動すれば限界の来る魔素密度の中、この奥に人が? どう言う事だ?」 ザワザワ


「山峰軍曹、この先の川だ、どれくらいある?」


「はッ 川までは後2km程です!」 ガサ


山峰軍曹はこの小隊のナビゲーション士、地図と歩いた歩数、樹々にマーカーとで、自分たちの位置を常に確認していた。 最終的には上空支援(GPSA)を受けてナビを完璧にしている。


「隊長ッ! すぐそこですッ! 急ぎましょう!」 グッ!


「待て、酒井上等兵ッ! 慌てるなッ!」 バッ!


「隊長…」 ピタッ


「みんなも聞けッ! ここは『樹海』の中だッ! 普段訓練を積んでいるフィールドとはわけが違う。ちょっとした油断が自身を破滅に向かわせる、『迷いの森、迷宮大森林』だ。この密度の濃い魔素がそれをする。落ち着いて行動するんだ! いいなッ!」 バッ!


「「「「「 はッ! 」」」」」 ザザッ! バッ!


「よし、先頭は俺が行く、慌てず、慎重にだ! 行くぞッ!」 ザッ ザッ!


「「「「「 はいッ! 」」」」」 ザッ ザッ ザッ ザッ!


「白井聞こえるか?」 ピッ ザッ ザッ 


『ああ、今、お前達の上空 1200の位置を飛んでいる』 ピッ


「今から俺達はその焚き火をしてる奴のところへ向かう、お前、先行してソイツの確認をしてくれないか?」 ピッ ザッ ザッ 


『わかった、先行して目標の確認をする。先に行ってるぞ』 ピッ


「頼む、後から必ず合流する」 ピッ ザッ ザッ


『了解』 ピッ 


バウウウウーーッ! シュバアアアーーッ!


上空直掩機の白井中尉の機体、ブレードナイト「ZERO 52型 202」は、川に向かって飛んでいった。


「ふ、頼むぞ白井…(しかし、どんな奴なんだ、この『樹海』中を高速で移動するなんて、きっと野蛮人か鬼みたいなやつに違いない)」 ザッ ザッ ガサガサ バサバサ ザッ ザッ!


佐藤中尉は「樹海」の不安定な足場と鬱蒼と茂った草や蔦、無秩序に生えた樹々や大木を躱しながら、目的地の川へと進んで行った。

          ・

          ・

          ・

ーヤマト皇国「樹海」最深部一級河川 河辺ー


「樹海」の中を流れる一級河川の河辺で、アニスは朝食の準備を終え、席に着こうとしていた。


「ん! 我ながら朝食にも手抜きなしッ! 自分を褒めたいッ!」 ニコニコ


アニスはこの広大な深緑の森「迷いの森 迷宮大森林」と呼ばれる「樹海」の中で、全くその場に似合わない食卓を用意した。 コンソメスープに皿には付け合わせのサラダに出来立てのカツサンド、その横にはフルーツまで用意されていた。


「さあッ! 食べるぞおッ!」 スッ!


アニスがテーブルの椅子に腰掛けた時、事件は起こった。


ピッ ピッ ピッ ピコッ! ビコビコッ!


ギュワアアアアーーーッ! シュゴオオオオオーーッ!


「目標を発見ーーッ! 逆噴射あーーーッ!」 グイ ピッ カチカチ ピッ


「ん?」 クルッ!


バンッ シュバアアアーーーーッ! ドドドドドドドドオオオオーーッ!


ブワアアアーーーッ! ブワサアアアアーーッ! ビュンッ!


「ぎゃあああーーッ! アニスのごはんがあああーーーッ!」 ブワアアアーーッ!


ガチャガチャ パリインッ! グシャアアーーッ! バサバサバサッ!


ドオオオンッ! ヒュウウウンン… ブオンッ! ピッ ピッ ピッ


ピッ


『マスター、着地完了、当機前方下方に人がいます』 ピッ


「うん? どれどれ」 カチ ピッ ブン パッ!


白井中尉はブレードナイト「ZERO」のコクピット全面にあるメインパネルを操作し、前方下方にいる人物を映し出した。


「なッ! 女の子?… それも銀髪だと?…皇国人ではないな…」 グッ


モニターに映るその少女は、ブレードナイト「ZERO」に背中を向け、ただ茫然と立っていた。その姿は、可憐で、青みがかった銀髪と純白のジャケットにスカートを靡かせ立っていた。


「『ZERO』、俺はあの娘に会ってくる、周辺警戒をしてくれ」 ピッ カチカチ ピコ


ピッ


『了解しました。マスター』 ピッ


プシュウウウー バクンバクンッ! ウィイイイインン カシュンッ! ザッ!


ヤマト皇国、国防軍一等級駆逐艦「ユキカゼ」配属のブレードライナー、【白井隆信】中尉は、愛機のブレードナイト「ZERO 52型 202」から降り、フォトンライフルを手に取り、呆然としているアニスの元へとやって来た。


ザッ ザッ ザッ! ピタッ!


「あ〜、お嬢さん、俺の言葉がわかるか?」 サッ


「…うぐ…うぐ…うう」 ジ…


「ん〜、お嬢さん、君はここで何をしてたんだ? 悪いが手を挙げてこちらを向いて説明して欲しい」 チャカッ!


白井中尉はアニスの背に向けて、フォトンライフルの銃口を突きつけ、こちらを向くように言った。しかし…


「ごはん…アニスの…ごはんが…」 ググッ


「おい、聞こえてるんだろ? こちらを向けッ!」 ジャキッ!


タンッ! クルッ! フィササ〜…


「なッ!」 ピクッ!


アニスが指示通り、青みがかった銀髪を靡かせ、白井中尉の方を向いた。その姿を見て、白井中尉は一瞬、そのアニスの姿に目を奪われ、身動きができなかった。


「アニスのごはん、返して…」 グス… ジ…


「うッ! は? ご、ごはん?」 グッ


アニスのその姿と裏腹に、帰ってきた言葉に彼は驚き、固まってしまった。


「ん! アニスのごはんッ!」 スッ!


アニスの指さした先を見ると、コンソメスープやカツサンド、サラダやフルーツが彼のブレードナイトの着陸噴射の余波を受け、小石ばかりの河原に散らばって、台無しになっていた。 白井中尉は即座にそれを理解した。


「あッ! そ、それは済まない、このとおり、謝る」 ペコ


「はう〜… もういいです、つぎは気を付けてくださいね」 サッ! テクテク


アニスは白井中尉の謝罪を受け取ると、散らばった朝食を片付けるために歩き出した。


「ああ… うん? あれ? (俺はなんで謝ってんだ? アイツは異国人、皇国の民ではない! それを問い詰めようとした筈なのに…)」 スッ!


テクテク カチャカチャ 


アニスは朝食だった物や鍋、テーブルや椅子、割れた皿にカップなどを拾い、片付け始めた。


ファサ〜 キラキラ… テクテク トコトコ カチャカチャ


白井中尉は片付けをしているアニスの動きに目が釘付けになってしまった。


「アニスって言ってたな…(美しい…いや、綺麗だ… こんな所に、こんなにも綺麗な娘がいたなんて…しかも声まで…一体あの娘は何者だ?…どこぞの国の王族の王女?… いや、そんな娘が1人でこんな『樹海』の最深部に居るわけが無い…ううむ、どうすりゃいいんだ!)」 ググッ!


白井中尉は目の前で片づけをしている少女を、この後どうすれば良いか悩んだ。やがて、散らかっていた河原は元の状態に戻り、アニスの野営の跡は何も残っていなかった。


テクテク スッ


アニスは河原に着座している白井中尉のブレードナイト、「ZERO 52型 202」の側によって見上げた。


「ん、また君達か…『アウシュレッザ』といい、君といい、なんで私の朝ごはんを邪魔するの?」 テンテン


アニスは以前、レオハルトの「アウシュレッザD型カスタム」に、森の中で朝食を台無しにされたことを思い出し、この場にいる白井中尉の愛機、ヤマト皇国主力戦闘機ブレードナイト、「ZERO 52型 202」の足を叩いて尋ねた。


ピッ!


『お嬢さん、それについては申し訳ありません。謝罪いたします』 ピッ!


「あ、私はアニス。君は?」


『私は、ヤマト皇国、国防軍正式主力艦上戦闘機、A6M1S「ZERO 52型 202」シリアルNo.DDT226-T52-202です』 ピッ!


「わあッ! 長い名前だね」 ニコ シュンッ! トン スタッ!


アニスは一瞬で飛び上がり、ブレードナイト「ZERO」の肩に座った。


「なにッ⁉」 ババッ!


白井中尉は声を上げた。 アニスの身軽さと、彼女の口から大陸西方の国にあるブレードナイト、自分の愛機「ZERO 52型 202」の兄弟機である「アウシュレッザ」の名が出た事、愛機「ZERO 52型 202」がアニスの問いに答え、謝罪し、まるで友人の様に話し合っている事の両方に驚いたのであった。


「ん! いいよ、君は悪くない、悪いのはアイツだッ!」 スッ!


アニスは、驚いてこちらを見ている白井中尉を見た。それを見た白井中尉も『えッ! 俺ッ⁉︎』と言う表情をしていた。


『ええ、そう言っていただけると私も安心です。…アニス様』 ピッ!


「あはは、アニスでいいよ。様はいらない」 フリフリ


『では私のことも「ZERO」とお呼びください』 ピッ!


「ん、じゃあ『ZERO』これからも宜しくね。いい?今度からはアニスのごはんを邪魔しないでね」 ニコ


『アニス、了解しました』 ピッ!


「『 あはははは 』」 ピッ!


後に、ヤマト皇国最強ブレードナイトの称号を得る「ZERO 52型 FAR 202」の誕生した瞬間だった。


「ちょっと待てえええーッ!」 ババッ!


アニスとブレードナイト「ZERO 52型 202」が話し、笑い合っていた時、白井中尉が割って入った。


「ん?」


ピッ


『どうかしたのですか? 白井中尉』 ピッ


「お、おお、おまえッ!」 スッ! プルプルプル…


「ん? 私ですか?」 うん?


「俺の『ZERO』に何しやがったーーッ!」 バッ!


「えッ! えっと…ねえ『ZERO』、私何かしたかな?」 はて?


『いえ、存じません。 白井中尉、アニスは何もしていません、気のせいです』 ピッ


「嘘をつくなああああーーーッ!」 ガアッ!


「『 わああッ! 』」 ビクッ! ピッ!


白井中尉の勢いに、アニスと「ZERO 」は驚き、その大声は「迷いの森 迷宮大森林」「樹海」の中を響き渡っていった。






いつも読んでいただきありがとうございます。

次回もでき次第投稿します。

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