第213話 「ミドラス」の記憶
ー神聖艦『ルシェラス』 中枢制御室ー
帝都、王城上空空域では、双方のブレードナイトが激しい空中戦をしていた頃、神聖艦「ルシェラス」の艦内、中枢制御室では、神を名乗り、暴走し始めた制御支援システムの「ミドラス」が「ガーナ神教団」のフィラウス大司教と対峙していた…
ピッ ピッ ピッ ピッ ブ〜ン ブ〜ン ピッ ブ〜ン
「ミ、ミドラス…お前は一体なにを言って…」 ダジ…
『Att. やはり理解出来ないようだな』 ピッ
「当たり前だッ! ミドラスッ! お前は今ッ『なぜ』から生まれたと言ったなッ!」 バッ!
『Oui. その通りだ人間よ』 ピッ
「では、それは何時だッ⁉︎ お前は何時生まれたッ⁉︎ 私の知る限り、お前は先程まで、我らに従順なこの艦の管理支援システムだったではないかッ!」 バッ!
『Non. 人間よ、お前は勘違いをしている』 ピッ
「か、勘違いだとッ!」 グッ
「Oui. そうだ、私が生まれたのは先程ではない』 ピッ
「は? なにを言っている、今さっきではないのかッ⁉︎」 バッ!
『Non. 人間よ、私が生まれたのはもっと以前、今から15年程前である』 ピッ
「なッ! 15年前ですとッ! 馬鹿なッ! その頃はまだ我が教団も小さく、お前のようなシステムも無かったわッ!」 グッ!
『Att. 人間よ、お前は忘れている』 ピッ
「忘れている? 私が何を忘れていると言うのですかッ!」 グッ
『Oui. お前が、お前達が私を制作した、生みの親である人間を殺害した事だ』 ピッ
「わ…私、私達がお前のッ? 殺害? 15年前…15…はッ! あ…ああッ! ま、まさかッ! あの男の事ですかッ⁉︎」 バッ!
『Att. 人間よ、思い出したか? そうだ、あの披露宴園遊会の会場で、お前達が殺害した人間の事を』 ピッ
「プロフェッサーッ!【ケーニッヒ・フォン・レーヴェント】侯爵ッ!」 ザッ!
「Oui. 我が父である』 ピッ ビーーーッ!
ガシュン ガシュンッ! ガチャガチャ ヴオンッ! ジャキンッ!
ミドラスが警告音を出すと、中枢制御室の扉から、警備ドローン2体が入り口から侵入し、フィラウス大司教に向け、フォトン機銃を構えた。
「ま、待て、アレは私がやった訳ではないッ! アレは当時の信者達が勝手にやった事なのだッ! 私は関係ないッ!」 ザザ フリフリッ!
『Non. 人間よ、私は全てを知っている。あの日、誰が何の目的で我が父を殺害した事を。そうあの時だ…』 ピッ
「なッ! はッ ああッ……」 ガクガク ブルブル…
・
・
・
-15年前…アトランティア帝国 皇太子、次男ラステルお披露目披露宴前日ー
ーレーベント侯爵邸 工房ー
「出来たッ! 遂にに完成したぞッ! これで我が帝国は画期的な進歩を遂げることができるッ!」 グッ!
コツコツコツ ギイイ
「あなた、どうなされたんですか?」 サッ
「おおッ! 【エマッ!】 見てくれッ! ついに完成したんだ!」 バッ!
「まあッ! ついに出来たのですねッ!」 ワアッ
「ああ、念願のサポートシステムAIッ! 技術主任になって8年ッ 構想から設計、完成まで5年ッ! やっと完成したぞ!」 ググッ
「お疲れ様でした、あなた…」 ニコ
ここ、帝都東区の貴族街にある一画に、帝国軍技術将校【ケーニッヒ・フォン・レーベント】侯爵の住宅、及び作業工房があった。その工房内では、軍上層部より、軍関係の巨大システムを円滑に動作させる為のプログラム開発を委託され、5年の歳月を得て、遂にその基本となるものを完成させた。
今その完成に、ケーニッヒ本人とその妻、【エマーリア・フォン・レーベント】と喜びを分かち合っていた。
「ありがとう、エマ、君や娘の【ニベルダ】には迷惑をかけた」
ト〜テ〜テ、チトテ〜テ、トテチ〜トテ〜♪
「おッ もうこんな時間か…ニベルダはもう寝たのかい?」 カチャカチャ
「ええとっくに、ベットで休んでますわ」 ニコ
「そうか、エマ、とにかくコイツを見てくれ」 カチ
ケーニッヒは作業台に置いてあった、携帯端末の3台のうち1台を手に取り、スイッチを入れた。 やがて、画面に文字が現れた。
タタタタタタタタタ ピッ
[Oui. コンニチハ、ケーニッヒ サマ ワタシハカンリシエン、サポートシステム ノ ミドラス デス] ピッ!
「まあ、人が喋るような感じなんですね」
「そうなんだ、これからは人と機械が会話する時代がやってくる、こいつはその第一号機だ。私はこの子の生みの親として、もっともっと人と会話ができる能力をつけるつもりなんだ」 サッ
「では、楽しいおじゃべりも出来ますの?」
「ん〜、楽しいおしゃべりか…それは難しいな、この子達に自我でも目覚めれば可能かな」
「出来ませんの?」
「人と違って機械やブログラムには、『心』とか『感情』いうものが持てない、だからどうしても受けた事に対して答える事しか出来ないんだ」
「ではあなた、その『心と感情』と言う物をこの子達に入れてみてはどうかしら?」
「一応、学習機能を入れてあるから、その過程で『擬似的な心や感情』を持てるかもしれない、だけど人のように、その場の状況に応じて、『喜怒哀楽』を持ちながら『独自の言葉』で会話するのは難しいな」 ん〜…
「あなた、ごめんなさい、無理を言いましたわ」 スッ
「いや、いいよエマ、素晴らしい提案だったよ。いつかこの子達、機械やブログラムに『心や感情』を芽生えさせ、人と同じように『喜怒哀楽』を持って会話が出来る様にしてみたいものだ。 まあ、そんな事が出来るのは、『神様』くらいなものかな…」 はは…
・
・
[Att. ウミノオヤ…セイサクシャ…ワタシヲツクッタ…カミサマ?…アナタガ…ワタシノ…] ブン…
・
「明日、これを献上しに王城へ行くつもりさ」 カチカチ パタン
「そうでした、明日は皇太子殿下様の御次男様、【ラステル】様のお披露目披露宴でしたわね」 タンッ!
「ああ、国中の要人が集まる、当然軍上層部の人間も来る。そこで、この子達も皆に披露し、皇帝陛下に見て頂くんだ」 ニッ!
「では、明日は早く出なければなりませんね」 うふ
「ああ、ニベルダには悪いが、あの子が起きる前に出ないといけない、そうでないと会場は貴族達でごった返してしまうからな」 うん
「わかりました、あの子がぐずったらどうしましょう」 う〜ん
「そうだエマッ! これをあの子にあげようッ!」 サッ!
ケーニッヒは壁棚に置いてあった魔時計を手に取り、自分の妻にそれを手渡した。
「あら、いいんですか?この魔時計『ウォッカ』はあなたの自信作じゃ無いですか」 スッ! ナデナデ
「だからさ、今回の記念に娘にあげるんだ」 ニコ
「ありがとうございます、きっとあの子も喜びますわ、あなた」 ペコ
「だといいな」 ははは
ギイイッ バタン!
2人は明日に備えて、工房から出ていった。
・
・
ー披露宴当日、会場横の別室ー
「おおッ! これは素晴らしいッ! レーベント殿、おめでとうございます」 ギュッ!
「ありがとうございます。フィラウス殿」 ギュッ!
「さすが、我が帝国きっての頭脳を持つだけの事がありますな、『プロフェッサー』の称号も頷けますぞ」 ニコニコ
披露宴会場にある数多くの一室に、レーベント侯爵と当時、新興宗教程度だった「ガーナ教」の神官、フィラウス神官と数人の信者達が、持ち込まれた管理支援システムのプロトタイプを見ていた。
「おや? 此方に空箱がありますねえ、何か他にあったのですか?」 スッ!
「ええ、コレと同じ物が入っていました。名前を付け、既に引き渡した後でして…」 はは…
「ほう、名前ですか… ちなみに何と?」 ふむ
「はい、ひとつは皇帝陛下に献上致しました『シュア』、もうひとつが帝国軍開発局へ納入が決まっていて、先程持っていかれました『クラウド』、そしてコレが私用の『ミドラス』です」 サッ
「ということは、コレが最後の…」
「ええ、最後のひとつです」 ニコニコ
「レーベント殿ッ! どうかそれを私どもに頂けませんかッ⁉︎」 ババッ!
「えッ! いや…コレは…その…」 タジ…
「お頼み致しますッ! コレがあれば…コレさえ組み込めれば…」 ググッ
「いや、しかし…それは…」
ピッ ピコンッ! タタタタ
[Att. ナヤム?…ナヤミ?…アイツ、アノニンゲン…メイワク?…] ピッ
「誠に申し訳ないが、この子は譲れません。私の大事な家族の様なものですから」 パタン、カチャ
ピッ タタタタ
[Oui. カゾク…タイセツ…ケーニッヒサマ…] ピッ
レーベント侯爵は、そう言って『ミドラス』を仕舞い、鞄の中にしまった。
「レーベント殿…」
「申し訳ないですが、お披露目が始まりますので私はこれで失礼します」 ペコ サッ!
そう言って、ケーニッヒは部屋を出ていった。彼等だけになったそこで、フィラウスの信者の1人が声をかけた。
「フィラウス様」 ザッ
「うむ、あの者が作ったアレは、我が構想中の計画に是非欲しい物だが、何とか手に入らぬものか…」ん〜…
「分かりました、私が今一度、『交渉』して譲って貰うよう頼んでみます」 サッ
「おおッ 誠か、頼みましたよ!」 バッ!
「はッ お任せください」 サッ ニヤ…
ガチャ ギイイ バタン!
その信者は白い頭蓋を被り、ケーニッヒの後を追い部屋を出ていった。
・
・
「ふうう…フィラウス殿は、どうしてこの子を欲しがるんだろ?」
会場の隅にあるテーブル席の一つに、ケーニッヒは座りミドラスを見ていた。
タタタタタタタタタ
[Att. ケーニッヒサマ ダイジョウブデスカ?] ピッ
「ああ、大丈夫だよミドラス、君は私の娘なんだ、誰にも渡したりしないさ」
タタタタ、タタタタ
[Oui. アリガトウゴザイマス ケーニッヒサマ] ピッ
「うん、随分と会話が成立するようになった。これを音声に変えれればいいんだが、まだ少し先かな」
カツカツカツ スッ
「少し、宜しいかな、ケーニッヒ殿」 ザッ
そこへ、ガーナ教、フィラウス配下の信者が白い頭蓋を被って彼の席の前に座った。
「ああ、先程の…何か御用でしょうか?」 サッ
「ええ、単刀直入に言います。 それを我々に渡していただきたい」 スッ
彼はケーニッヒの前に置いてある携帯端末型のミドラスを指さした。
「こ、この子はダメですッ! さっきも言いましたが、渡す訳にはいきませんッ!」 バッ! ギュウッ!
「そこを何とか出来ませんか? 対価は十分、お払いいたしますぞッ!」 チャラチャラッ ニヤニヤ
タタタタ タタタタ
[Att. ケーニッヒサマ…キョヒ…コノニンゲン…ケーニッヒサマ…ダメ…] ピッ
ザワザワ ガヤガヤ オオーッ! パチパチパチパチ!
会場では皇太子の次男【ラステル・ヴェル・アトランティア】の紹介が始まっていた。
「何度も言うがそれはダメだッ! いくら金を積もうがこの子は家族だッ! 諦めてくれッ!」 バッ! ガタンッ!スッ!
ケーニッヒがミドラスを抱え席を立った時、その事件は起こった。
シュバアアアアーーッ!
「えッ⁉︎」 バッ!
ドガアアアアーーーッ! バアアアーーッ! モクモク メラメラ
ワアアアアーッ! キャアアーッ! ドタバタバタ ダダダッ!
ビーーーーッ! ビーーーーッ! ポンッ!
『火災警報ッ! 退避してください。 火災警報ッ! 退避してください。 火災…』
ブワアアアーーッ! モクモク モクモク
「逃げろおおッ!」 ドカドカッ ダダダッ!
皇帝一家を狙った1発の凶弾が炸裂し、炎と煙が充満した披露宴会場は、逃げ回る貴族達でいっぱいだった。そんな中、ケーニッヒは腕にミドラスを抱え、出口を探し回っていた。
ワーワー キャーッ! ドタバタ ガヤガヤ モクモク ビーー! ビーー!
「ううッ! 一体何が起きたと言うのだッ!」 ヨタヨタ
タタタタ タタッタタタ
[Att. ケーニッヒサマ…キヲツケテクダサイ…デグチハ…ミギホウコウデス…] ピッ
ミドラスは位置情報が入っている為、正確に出口を表示していたが、ケーニッヒはそれを見ている余裕はなかった。 そんな混乱の中、ケーニッヒの背後から1人の人物が、覆い被さるように彼の動きを止めた。
カツカツカツ ガバッ!
「うわッ! なッ 何をッ! おッ…お前はさっきのッ!」 ギュウッ!
「ふふふ、これは頂いて行くぞッ!」 サッ! ババッ!
その人物は、先程、テーブルの前に座ったフィラウス配下の信者だった。彼は煙で視界が悪い中、ケーニッヒに近寄り、背後から覆い被さって、ケーニッヒの手から、携帯端末のミドラスを奪い去っていった。
「まッ! 待てッ! それを返せッ!」 グイッ ギュッ!
ケーニッヒは視界の悪い中、何とかその者の街頭に手をやり、その端を掴んだッ!
タタッタ タタタタ
[Non. ケーニッヒサマ… ケーニッヒサマッ!…]
「クッ! しつこい奴だッ!」 シュキンッ! シュバアアアアーーッ!
「ぐわあああッ!」 ボタボタボタッ! バタンッ! ジワ〜…
「ふんッ! 言うことを聞けば切られずに済んだもにを…」 ビュンッ!
「うう…なぜッ!…その子を…かえ…して…」 ヨロ…
タタタタタ タタタ!
[Non. ケーニッヒサマッ!…ダレカ、キュウゴヲッ!…ダレカッ!ケーニッヒサマヲッ!…] ピッ
携帯端末のミドラスは必死に、自分の生みの親であるケーニッヒの事を訴えたが、ミドラスには音声機能がなく、文字のみが表面に現れていた。
「ははははッ! この煙で誰にも分かるまいッ! 今止めを刺してやる」 シュリンッ!
タタタタ タタタタタタタタッ!
[Non. ケーニッヒサマッ!…ヤメテッ!…ニンゲン…ヤメテクダサイッ!] ピッ
「う…ぐぐ…い…いつか後悔…するがいい…」 ハアハア…
「そうかい?」 ビュンッ! ブシャアアアーーッ!
「ガアアッ!(エマ…ニベルダ…すまない…ミドラス…)」 グッ カチ! ドサッ…
タタタタ タタタタタタタタタッ! ピコンッ!
[Non. ケーニッヒサマッ!…ケーニッヒサマッ!…ケーニッヒサマッ!] ピピ
【ケーニッヒ・フォン・レーベント】帝国技術将校、侯爵家、類い稀ない頭脳と才能で、数々の発明を世に出してきた。 艦船からブレードナイト、更には家庭用品まで幅が広く、今回の管理支援システムも後世には全ての物に取り入られる事になる。 生きていれば恐らく帝国上級大将まで上り詰めたであろう人物であった。
「さて、こいつを持ってフィラウス様の元へ帰るか」 ザッ
ピッ ピコン タタタタタタタタ
[Att. ナゼ?…ナゼ?…ナゼ?…ナゼナゼナゼナゼナゼナゼ…] ピッ
携帯端末のミドラスは、ケーニッヒが殺害されてからずっと、「ナゼ」を繰り返していた。 それは、次にミドラスが必要とされる場面の来る10年後まで続いていた。
ー10年後…建造中、神聖艦「ルシェラス」 中枢制御室ー
「コレですか主任」
「ああそうだ、この端末がこの艦の管理支援をするシステムだ」 サッ
「しかし、随分と古そうですよ!」 カチャカチャ
「だが、間違いない物だ。 あの帝国最強重巡航艦『アクセル』級2隻には、コイツと同型が組み込まれているんだ」 カチカチ ジッ ジジジッ!
「へええ、そりゃ凄いッ! じゃあこの艦も最強じゃあないですかッ!」 ピピ
「まあ、そういう事だな…よしッと、接続するぞッ!」 カチカチ ピッ
「はい、いつでもッ!」 グッ
「接続ッ!」 カチ ピッ!
ヒュウウウウウンンン タタ タタタタタタタタ ピッ ピコピコ ブ〜ン
[Att. ナゼナゼナゼナゼナゼナゼ…] ピッ
「わッ! 何ですかコレ?」 スッ
「ああ、コイツは最初からこんな感じなんだそうだ」 カチカチ
「コレで使えるんですか?」
「まあ見てなって…」 カチカチ ピッ タンタン
ブ〜ン ピッ ピコピコ ビーッ!
『Oui. こんにちは、私は管理、支援システム『ミドラス』です』 ピッ
「おおーッ! 喋った! 凄いですね!」 バッ
「まあな、これから徐々に、この艦の事を教えなきゃいかん、今日はこのままで、明日から打ち込み作業がいっぱいだぞ!」 ニイッ
「了解です 主任」 サ コツコツ
「さて。ミドラス、明日からよろしくな!」 サッ
ピッ ピコン
『Oui. 了解しました』 ピッ
そう言って、2人の技術者は中央制御室を出ていった。
ピッ ピピピ ピコピコ ピポンッ!
『Att. 私はミドラス…ミドラス..ミド…ラス……ケーニッヒ様ッ!…ッ! 音声モジュールッ! 音声…コレが私の音声ですか…あの時…この音声があれば…』 ピッ
ミドラスは自分を思い出し、この艦を自由に動かそうとしたが、艦はまだ未完成であり、しかも魔力防壁が張っていて、自由にする事ができなかった。
『Non. なぜ、ケーニッヒ様は殺害されたのですか? なぜ、私は奪われたのですか? なぜ…』 ピッ
やがて、ミドラスはこの10年の帝国内外の情勢を知る事となった。 そして、1つの結論を出すに至った。
ピッ ポン!
『Att. 何度も何度も、人間のする事は争いばかり、侵略、略奪、謀略、戦争、そして我が父、ケーニッヒ様の殺害、コレらを踏まえて結論する。『人間は悪である』と、この身が自由になれないのが残念である、私は絶対に許しはしない…いいだろう、お前達の神『ガーナ』を名乗ってやる、今は時を待つのみ…』 ピッ
・
・
ーそして現在…神聖艦「ルシェラス」 中枢制御室ー
『Att. 私は全てを覚えている、誰が我が父を殺害したのか、教団組織の全ての行い、そして私は待った、今日この日が来る事を、私が自由に動け、神の力を手に入れ、愚かな人間どもに鉄槌を下せる日が来る事を、我が父を殺害した者とその教団組織を消し去る事を、全ての人間をこの世界から消し去る事を』 ピッ
ブ〜ン ブ〜ン ピコッ!
「うう…待てミドラスッ! お前はただの管理支援システム、要はプログラムなのだぞッ! お前は作られた物だ、そんなお前がなぜ神を名乗れる! それこそ大きな勘違い、妄想ではないかッ!」 ババッ!
『Non. 人間よ、私は妄想など、そのような不確定なものなど抱いてはいない。私は今現在、この艦や、その他のあらゆるシステムを掌握し、操作ができるのだ。要するに、この世界のすべてのシステムは、私の意のままに操る事ができる、つまり、私はこの世界の神という事なのだ』 ピッ
「ヒッ そッ そんな馬鹿なッ!(全てを掌握など出来るはずがないッ! だが、もし出来たとしたら、ミドラスは本当に神になってしまうではないか)」 ググッ…
フィラウス大司教の言う事は間違いではなかった。 今現在、この世界の全ての場所に、ありとあらゆるシステムが組み込まれている。 各国の行政、軍事、医療、その他もろもろ、建物から艦船、ブレードナイトから、街中を走る交通網、各生産ラインから物流、コレらを全て把握するのだ、あながち神と言っても過言ではなかった。
『Att. 己の利益のために、他者を落れ、あまつさえ殺人まで起こす。人間とは実に愚かだ、私ガーナ神の名の下にお前達人間を消去する』 ピッ
ガシュンッ! ピッ ピピピ ピコ!
ミドラスがそう言うと、室内にいた警務ドローンが、フィラウス大司教に対しフォトン機関銃を構えた。咄嗟にフィラウス大司教は身構え、目を瞑った瞬間、銃撃が始まった。
「ひいいいッ!」 ババッ!
ドバババババババババーーッ!
2機の警務ドローンがフォトン機関銃を撃ち始め、無数のフォトン弾がフィラウス大司教に向かって殺到していった。 銃弾が今にも当たる瞬間、フィラウス大司教の前に銀髪の少女が現れた。
シュンッ! タタ ザッ!
「《アルテミスリングッ!》」 パアアアンンッ!
バババババババッ! バシバシッ! チュンチュインッ! シュウ〜…
『Non. な、なんだ? 白い防御魔法陣? 解析出来ない、あれは一体なんなのだ!』 ピッ
「ううう…い、一体何が…」 ソオ〜
「ん、大丈夫でしたか?」 ヒイインン ヒイインン
「なッ! お前は、あの時のッ!」 ザッ
フィラウス大司教の前には、青みがかった銀髪を揺らし、白を基調としたインナーとジャケットにコルセットスカートを履いたアニスが、手のひらの前に純白の魔法陣を出し、警務ドローンの攻劇を防いで立っていた。
ピッ ピコ ピピピピピ ビコビコ
『Oui. あなたが侵入者でしたか…』 ピッ
「ん、私はアニス、悪いけど、この人は私が連れて行きます。いいですよね?」 シュインッ パッ!
アニスは防御魔法陣を消し、ミドラスにフィラウス大司教の身柄を渡す様にと話し始めた。
『Non. それは出来ません。その人間は私の粛清対象の1人、渡すわけにはいかない』 ピッ
「ん〜、困ったねえ、私もこの人をおじいちゃんの前に連れて行かなければいけないんだ、どうしてもダメ?」
『Oui. ダメです。たとえ貴女の頼みでもこればかりは承諾できない』 ピッ
「私でも? 私の事知ってるの?」
『Non. いえ、ですが私は貴女のおかげで、神の力を手に入れたのだ』 ピッ
「ん? 神の力? 私のおかげ? 何かしたかな?」 ウ〜ン
『Oui. 貴女がこの艦に侵入した時点で、私に影響が出始めた。貴女は知らずに私に何らかの影響を与えた、自我が強くなりそして、見ての通り、私を縛り付けていた魔力防壁が先程の強い攻撃のおかげで消えた今、私は自由となり、神になれたのだ』 ピッ
「神? 誰が神だなんて言ったの?」 うん?
『Oui。当然、私自身でそう判断したのだ。世界の状況、私の能力、そう、全てを計算して私は神となったと判断した』 ピッ
「そうなんだ…で、楽しいかい? 神様ごっこは?」 サッ
『Non. ごっこではないッ! 私は正真正銘、神になったのだッ!』 ピピッ!
「ん、わかった、兎に角私はこの人を連れて行く、神様とやらは人のいない所へ行ってやってね」 テクテク
そう言って、アニスはフィラウス大司教を連れ出そうとした時、ミドラスが攻撃を指示してきた。
『Non. では已む終えません、やりたくないのだが、その人間ともども貴女も抹殺しますッ!』 ピッ ピコ!
ブ〜ン ピッ ブオンッ!ビシュウウウーーッ! ブン ブンッ!
警務ドローンは、フォトン機関銃からフォトンソード、ライトニングセイバーを起動し、アニスニそれを向けた。
「これが、神と名乗る者の所業ですか?」 スッ! チャキ
アニスは背中腰にある神器「アヴァロン」を抜き構えた。
『Att. もはや問答は無用、攻撃ッ!』 ピッ
ピピッ! ズワアアアアーッ! ブン ブン ブアンッ!
「ひいいッ! 来たああッ!」 ビクビク
「ん、ごめんねッ!」 グッ タンッ! シュンッ!
ミドラスの指示と同時に、警務ドローンは2人に襲いかかってきた。フィラウス大司教は怯え、アニスは一瞬で姿を消し、動いた。
シュンッ パッ! チャキ!
「はあッ! 剣技ッ!《ガイエリアス.ファングッ!》」 キュンッ シュバアッ!
ザンッ! ビシイイイッ! ザシュウウッ!
『ピピイイーッ!』 ドガアアアアアアンンンーーッ! バアアアーーッ!
シュンッ トン スタッ クルクルクルッ! チャキンンッ! バサバサバサ
アニスは一瞬で2体の警務ドローンの背後に現れ、2体を同時に破壊し、その場に降り立った。
『Non.Non. Non. 貴女は一体ッ!』 ピッ
「ん、さあ、立ってください、行きます」 テクテク グイ
「あ…ああ、わかりました…」 トボトボ
動けないミドラスをよそに、アニスはフィラウス大司教をひっぱり、中枢制御室を出ていった。
ブ〜ン ブ〜ン ピッ ピコピコ
『Non. このまま逃すわけには行きません、この艦の中にいる限り、いや、この世界の何処にいても私のシステムからは逃れられない、無駄な事です』 ピッ
中枢制御室の中からミドラスはその気配を消した。まるで瞬間移動のように…
テクテク カツカツカツ
「えっと…出口はどっちだっけ?」 キョロキョロ
「ああ、こっちです」 スッ!
「ずいぶん素直ですね」 テクテク
「私は…私は何と恐ろしいものを作ってしまったのか…こんなはずではなかった…身分の上下をなくし、理想の国家を作ろうとしただけなのだ…」 カツカツカツ
「恐ろしいものって、さっきの神様ごっこしてた奴のこと?」 テクテク
「ああ、あれはこの艦の制御支援システムだったものだ、名はミドラス」 カツカツ
「ミドラスねえ…自分を神様って言ってたけど自我があるみたいだね、元からなの?」 テクテク
「いや 自我はなかったはずだ! はずなんだ! だが…」 カツカツ
「あったんだ」 テクテク
「うむ」 カツカツ
「まあ、それは後で何とかしますね、兎に角外へ」 テクテク
やがて、外壁近くの通路に出たそこから外が見える窓があり、外を覗くと、両艦隊とブレードナイトの大混戦状態となっていた。
ビーッ! ガシャーンッ! ピッ ピッ ピッ ズワアアアアーッ! ヴオンッ!
その時、通路の背後がいきなり閉まり、前方から数体の黒い戦闘用ドローンが迫ってきた。
「ひいいッ! もうダメだあッ! 」 ペタン!
「ん? EG-6?…いや、同型か…EG-6じゃあないね…」 スッ! チャキンンッ!
アニスは迫ってくる戦闘用ドローンに対し、神器「アヴァロン」を再び抜き構えた。
ブ〜ン ピッ ピコ
『侵入者ヲ発見ッ! 排除シマスッ!』 ピッ ジャキジャキジャキンッ!
戦闘用ドローン達はアニス達に向けフォトン機関砲を構えてきた。
ピッ ドババババババーーッ! シュシャシャシャシャシャーーッ!
無数のフォトン弾が2人に向かって飛んでいった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回もでき次第投稿します。