第211話 アニスと『ルシェラス』の異変
ー帝都上空 ガーナ神教団 神聖艦『ルシェラス』ブリッジー
ビーッ ビーッ ビーッ!
「大司教様ッ! 大司教様ッ!」 ユサユサ
「はッ! わ…私はいったい…」 うう…
「お気を確かにッ! 新たな敵艦隊が現れました! どうか御采配をッ!」 サッ!
フィラウス大司教は突然起こった、あり得ない現象、「ルシェラス」の強靭なフィールドの突破と装甲の破壊に、一時的我をを忘れて、呆然としていた。
「新たな敵艦隊ですとッ⁉︎ 」 ザッ!
「はい、王城よりさらに後方ッ、約3400の位置に大型の艦影を確認ッ! この『ルシェラス』に一撃を与えた後、なお接近中ですッ!」 サッ
「そうだ…信じられん事だが、この『ルシェラス』の防御を易々と破りおるとは…すぐ反撃です!」 ザッ!
「はッ! 了解であります 大司教様ッ!」 バッ! ダダダッ!
ブリッジ要員の信徒兵は即座に動き、「ルシェラス」に打撃を与えた大型艦に攻撃目標を、王城から変えた。
ピッピッ カチャカチャ ピコ ビコビコッ! ピッ タタタタタタッ!
フィラウス大司教は、モニターを見ながら、艦長席の脇にあるキーボードを叩き、神聖艦『ルシェラス』の管理支援システム、【ミドラス】に問いかけた。
管理支援システム【ミドラス】、この世界の大型施設および大型艦艇、(重巡航艦以上の艦艇)には、職員や乗員、兵員の力だけでは全てをカバーする事が出来ず、補佐、管理、及び動作作業を、管理支援システムに代行させながら、そに全てを動かしていた。(【ミドラス】は神聖艦「ルシェラス」用の管理支援システムの名前である)
カチカチ タンタン ピコピッ!
「【ミドラス】、王城後方の大型艦艇と先程の攻撃の情報を出しなさい…」 カチャカチャ!
ポンッ!
『Oui. 質問に答えます』 ポン
フィラウス大司教が、神聖艦「ルシェラス」の管理支援システム【ミドラス】に尋ねると、優しい女性の音声で答えが返って来た。
「よろしく頼みます」 カチャカチャ
『Oui. 王城後方の大型艦艇、照合完了、アクセル級重巡航艦『ヴィクセリオン』 全長 1896m 全幅…』 ポン
「ああ… いいッ いいッ! 艦名とさっきの攻撃だけでいいのだッ!」 カチャ…
『Oui. 了解しました。王城後方の大型艦艇は、アクセル級重巡航艦『ヴィクセリオン』、当艦『ルシェラス』を攻撃したのは、『ヴィクセリオン』搭載の世界最強の艦載砲、要塞攻撃兵装 フォトンブラスターです』 ポン
「なッ!」 ガタガタンッ!
フィラウス大司教は、「ルシェラス」の管理支援システム【ミドラス】の答えを聞き、思わず椅子から勢いよく立ち上がった。 未確認の大型艦艇の艦名、それと「ルシェラス」に損傷を与えた兵器の種類、その2つは、彼を驚きのあまり椅子から立ち上がらせる程の答えだった。
「うぐぐ…あッ あれを防げないかッ⁉︎」 バッ!
『Non. 現状で、要塞砲「フォトンブラスター」を防ぐ方法はありません』 ポン
「ぐ…で、では正面の大型艦、『ヴィクセリオン』とは何処の誰の艦なのだッ!」 カチャ…
『Oui. 質問に答えます。重巡航艦『ヴィクセリオン』、アトランティア帝国南部、国境周辺国選辺境侯爵家【ヴァステバン・フォン・マイヤー】、階級、帝国上級大将の旗艦です』 ポン
「なッ なななッ! 何ですとおおおおーッ⁉︎」 ドタンッ!
フィラウス大司教は三度驚き、思わず尻餅をついてしまった。
「マ…マママッ マイヤー家ッ! な、なぜッ!」 ガタガタ
流石のフィラウス大司教も、国選辺境侯爵家、【マイヤー】侯爵家の事は知っていたようだった。
「フィラウス大司教様ッ! 前方の大型艦に高魔力反応ッ! 先程と同じ攻撃が来ますッ!」 ピッ
ブンッ! ピコ ピコピコッ! パッ!
「こ、これはッ!」 ググッ! スタッ!
ブリッジにある大型モニターに、重巡航艦「ヴィクセリオン」の艦首の砲口が輝き出していた。
『Att. 前方の重巡航艦『ヴィクセリオン』、要塞砲の発射体制に入りました。標的は当艦、退避行動に入ります』 ポン
ガシュンッ ガシュガシュンッ! バウウウウウウウウーーーッ!
神聖艦「ルシェラス」の管理支援システム【ミドラス】は、自己防衛行動を取り、右舷側のスラスター38基全てを全力噴射して、「ヴィクセリオン」のフォトンブラスターの射線をずらそうとしていた。 しかし、神聖艦「ルシェラス」の巨体は反応が鈍く、動き始めた時には「ヴィクセリオン」のフォトンブラスターの2発目が発射されていた。
ヒイイイイイインンッ! ドオオオオオンンンーーッ!
ビーーー! ビーーーッ!
「敵重巡航艦ッ! 2射目を当艦に向け発射ッ! 着弾まで後5秒ッ!」 ピッ ビコビコッ!
「回避だッ! 回避いいーッ! 何としても避けるんだああーッ!」 バッ!
「はッ はいいーッ!」 カチャカチャ ピピ タンタン ピッ グイイイッ!
フィラウス大司教の悲鳴にも似た号令を受け、操舵手は懸命に神聖艦「ルシェラス」を操舵した。 しかし…
『Non. 不可能です。命中します』 ポン
「この役立たずがあああーーッ‼︎」 ザザッ!
フィラウス大司教がそう叫んだ瞬間、2発目のフォトンブラスターが神聖艦「ルシェラス」に命中した。
ドオオオオオンンンーーッ! ブワアアアアーーッ! グラグラ ガタガタ
「「「「「 うわあああああーッ! 」」」」」 ガクンッ ガクンッ! ビリビリビリ ガタガタガタ…
ビーーーッ! ビーーーッ! ビーーーッ!
「うぐぐ…ど…何処をやられたのですかーッ⁉︎」 ググッ ガタガタ グラグラ
ドオオオオオンンンッ! メキメキメキッ! グワアアンンンッ!
ビーーーッ! ビーーーッ! ピッ ピコッ! ピッ
「右舷第1区画 Aブロック火災発生ッ! 第1第2ッ!第3ッ!装甲大破ーッ! 集電探室ッ!応答ありませんッ!」 ピコッ!
バアアンンッ! モクモクモク…
「フィラウス大司教様ッ! 中枢制御室大破ッ! 全システムッ ダウンッ!」 ピッ
ヒュウウウウウンンン…
超巨大艦、神聖艦「ルシェラス」の動力は停止し、全ての電源が落ちてしまった。あの強靭なフォトンフィールドも消失し、今、神聖艦「ルシェラス」は、重装甲のみの丸裸状態になってしまった。
「予備をッ! すぐにシステムを立ち上げなさいッ!」 バッ!
「はッ!」 サッ! カチカチ ピッ!
ヒュウウウウウンンンッ! パッ! パパパッ! ピッ ピッ ビコビコ ポンッ
「電源入りますッ!」 ピッ ピピッ!
予備電源システムを入れると、再び神聖艦「ルシェラス」に電源が入り、かろうじて動ける状態になっていた。
「ふうう、しかし、流石は要塞砲…たった2射で、この『ルシェラス』に大打撃を与えるとは…」 グッ
ピッ ピッ ビビ ビコビコッ!
「大司教様ッ! 敵艦隊が突入して来ますッ!」 バッ!
「まだ、フォトンフィールドが張れない現在、このままでは不利…僚艦に伝えよッ! 『ルシェラス』の前に出て、敵艦隊を撃滅せよッ!」 バッ!
「はッ! 直ちにッ!」 サッ!
ヒイイイイイインン シュゴオオオオオーーッ! ゴゴゴゴゴッ!
フィラウス大司教の命を受け、神聖艦「ルシェラス」の護衛をしていた、巡航艦と駆逐艦5隻が動き始めた。
「大司教様ッ! 【ミドラス】から緊急信号ッ! コンタクトが取れません!」 バッ
「なにッ! それはいけませんッ! 技術主任ッ! 私と一緒に【ミドラス】制御ルームに行きますよッ!」
「はッ!」 ザッ!
「他の者は自分の職務を全うしなさいッ!」 ザッ! ダダダダッ!
「「「「「 はッ! 」」」」」 ババッ!
フィラウス大司教は、技術主任の兵と共にブリッジを出て。艦の管理システム【ミドラス】の制御室へと出て行った。
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・
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ー戦闘空母「フェリテス」 ブレードナイトデッキー
ピーッ ピーッ ピーッ! ゴンゴンゴンゴンッ! グググッ!
「オーライ オーライ オーライッ! ストーップッ!」 バッ!
ガコオオオンンッ! シュウウ…
「ようしッ! 武器換装終了ーッ! 全員退避ーッ!」 ザッ!
「「「 おおーッ! 」」」 ババッ! ダダダッ!
「ブリッジッ! 『ヤクト・ベルテッサッ!』準備完了」 ピッ
戦闘空母「フェリテス」のブレードナイトデッキ、第3ゲートに、レオハルト中佐の指示で、局地戦闘機、ブレードナイト「ヤクト・ベルテッサD型シーラ」の発艦準備が完了した。
ヒュイイイイイインンンーッ! プシュウウウーーッ! ピッ ピッ ピッ!
「さてと、じゃあ行くかッ! よッ!」 バッ! タンタン パチ!
作業員がブレードナイト「ヤクト・ベルテッサD型シーラ」の武器換装を終了すると同時に、レオハルトはコクピット付近に上がりハッチを開いた。
プシューッ ピッ バクンッ! ピッ ピッ ピッ ピココ ピココ!
「うんッ! (これならいけるッ!)」 グッ コク! サッ! ドサッ!
カチ カチャカチャカチャ ピッ ピピ タンタン ビコビコッ!
「フォトンジェネレーター、火器管制っと、うん?対追尾弾チャフはどれだ?」 カチカチ ピッピッビコッ! ポンッ!
『マスター、操縦席左、操縦桿脇ノ第3ボタンデス』 ピッ
「おッ これか、今日は頼むぜッ!『シーラ』」 カチカチ ピッ!
『了解シマシタ、マスター』 ピッ
レオハルトが操縦席に座り、発艦準備をはじめた時、下から賑やかな声が聞こえ、下を覗いた。
「うん?…何だ?」 ヒョイ
「うおおおおッ! 凄ええッ! 局地戦のブレードナイトだぜッ!」 ガヤガヤ
「ああ、誰が乗るんだ? 物凄く操縦が難しいんだろ⁉︎」 ザワザワ
「ええ、私達じゃとても無理ね、みんな「ウルグスパイアー」でもやっとなのに…」 ワイワイ
どうやら、ライナー待機所にいた新人ライナー達のようだった。 全員がアラン達と同じような年頃だが、アラン達と違って、階級は皆准尉、操縦できるブレードナイトも「ウルグスパイアーD型FAフロンティア」のみの新人ライナー達だった。
※ジェシカのブレードナイトも初期はこのタイプだが、自身の成長と共に、ブレードナイトも進化を遂げ、現在では、最新鋭機「アウシュレッザ」にも劣らない高性能機となった。 彼女の「ウルグスパイアーD型SCレパート」は、彼女と「ライナー支援システム」【レパート】のコンビが操縦する事で、後日「世界最強ブレードナイト」の1機となる。
「おうッ!お前ら新人か?」 ニッ!
「えッ?」 ザッ!
「あッ! ああーッ!」 バタバタ
「「「 中佐殿ーーッ! 」」」 ビシッ! サッ!
「よッ!」 サッ!
新人ライナー達は、上からレオハルトに声をかけられ驚き、その相手が中佐だった事で姿勢を正して、敬礼した。 レオハルトもそれに対し、軽く笑みを浮かべ敬礼で返した。 そこへ別の者達がやって来た。
ザッ ザッ トコトコ ピタッ!
「隊長ーッ! こっちは準備できましたあーッ!」 フリフリ
「おうッ! こっち終わったところだッ! ちょっと待ってくれッ!」 ババッ! カチャカチャ…
「「「 了解ッ! 」」」 ササッ!
自分達のブレードナイトの整備と武器換装が終わり、発信準備が終わったアラン達3人だった。その3人を見て、新人ライナー達はざわついた。
「お…おいあれッ!」 スッ
「ああ、3英雄の3人だっ!」 サッ!
「そうだわ、間違いない、英雄だよッ!」 ソワソワ
「うん? あなた達は…」 ザッ
ザザッ! サッ!
「はッ! 帝都学園第34期卒業生ッ 【ガスト・フォン・ブラウザー】准尉であります」 ビシッ!
「同じく、【ケベック・フォン・ナイツ】准尉です」 サッ!
「同じく、【ユミア・フォン・クロイツ】准尉です」 サッ!
新人ライナーの3人は、上官であるアラン達に自己紹介し敬礼した。 3人は去年、学園を卒業し、軍に入り1年を経て、ブレードライナーに選ばれた、ごく一部の者達だった。
「学園の先輩達でしたか、自分は…」 サッ
アランは、自分の事を言おうとしたが、ガストにそれを止められ、逆に敬礼されながら敬語で言ってきた。
「英雄の3人、【ウィルソン】少尉、【カルヴァン】少尉、【ルーカス】少尉ですね」 サッ!
「せ、先輩ッ! 僕達はまだ学園生です…そんな敬礼なんて…」 あわわ…
「いや、学園生とかは関係ないです。あなた方3人は紛れも無く英雄ッ しかも階級は少尉です。軍にいる限りこれは絶対のことなんです」 サッ!
「そ、そうですか…」 はは…
タンタン スタッ! ザッ!
「おうッ! お前ら、挨拶は済んだか?」 ザッ! ザッ! ピタッ!
「「「「「「 隊長ッ!(中佐殿ッ!)」」」」」」 ババッ!
「はははッ! まあ、この艦に居る限り、同じ釜の飯を食う者同士ッ! 仲良くなッ!」 ニイイッ!
「「「「「「 はッ! 」」」」」」 ザッ!
ドカドカドカッ!
「よおッ! レオハルトッ! 久しぶりだな」 フリフリ
「うん? 何だガゼルか」 はああ…
「何だ何だあ? 久しぶりだってのに元気がねえじゃねえか」 ガハハ!
レオハルト達に声をかけてきたのは、戦闘空母「フェリテス」所属、ブレードナイト第二中隊隊長の【ガゼル・フォン・ウッド】中佐だった。 レオハルトとは学生時代の同級生である。
「出撃前なんだよッ!」 バッ!
「ほう、コイツで出るのかッ! また腕を上げやがって」 ニイイッ!
「「「 隊長ッ!」」」 ババッ!
「お前ら、自分の機体は準備出来てんのか?」 ズッ!
「い、いえ、今、整備員が…」 オドオド
「バカやろうッ! 他人任せにせず、自分の機体は自分でみろッ!」 ガアッ!
「「「 はいいいッ! 」」」 ババッ! ダダダダッ!
「全く…はああ…」 やれやれ
「ふはははッ お前も大変だなガゼル」 ククク
「まあな、奴らはまだ若い、早死にさせたくないだけさ」 ザッ!
「そうだな…」 サッ
ビーーーッ!
『レオハルト中佐ッ! 敵、超巨大艦のフォトンフィールドが消失、今なら突撃可能です!』 ポン
「よしッ! 出るぞッ! ガゼル、また後でな!」 サッ! タタタッ
「おうッ! またなッ!」 サッ!
レオハルトは急いでブレードナイト「ヤクト・ベルテッサ」に乗り準備した。
「「「 隊長ーッ 」」」 ダダダッ
「おうッ! アランッ! 後はお前達に任せた、『フェリテス』を頼むッ!」 ピッ バクン バクンッ!
レオハルトはアラン達3人にそう言ってハッチを閉めた。
「「「 了解ッ! 」」」 ササッ! ザッ!
ヒイイイイイインンッ! ビコッ ビコビコッ! ブオンッ! ガコオオンンッ!
「ブリッジッ! CICへ指示を頼むッ!」 ピッ
『了解、ブリッジよりCICへ、以後指揮を移行』 ピッ
『了解、こちらCIC、『ヤクト・ベルテッサ』発艦許可ッ! 発艦用第1電磁カタパルトへ』 ピッ
「了解ッ! 行くぜッ! シーラッ!」 グイッ! ギュッ!
『了解シマシタマスター、全システム起動ッ! オールグリーン』 ピポッ
グワアアッ! ガコオオンッ! ガコオオンッ!
「おらああッ! 第1電磁カタパルトだあッ! 中佐が出るぞ発艦準備いいッ!」
「「「 はッ! 」」」 ドタバタ ワーワー!
ブレードナイト「ヤクト・ベルテッサ」はゆっくりと歩き出し、戦闘空母「フェリテス」の第1発艦用電磁カタパルトへと向かって行った。
ピッ
『Lst. レオン、充分気を付けて下さい。 アニスを頼みます』 ピッ
「おうッ! 任せろアウディ、お前もしっかり直して貰えよッ!」 ピッ
『Rog. 了解です』 ピッ
ガシュンッ! ガシュンッ! ジャキンッ! シュウウウウ…
レオハルト中佐のブレードナイト「ヤクト・ベルテッサD型シーラ」は、修理中のブレードナイト「アウシュレッザD型アウディ」の前を通り、CICの指示通り、発艦用第1電磁カタパルトへと位置についた。
『CICよりレオハルト中佐、進路クリア、発艦どうぞッ!』 ピッ
ビーーーッ!
「『ヤクト・ベルテッサD型シーラッ/レオハルトッ!』 出るッ!」 ピッ
ビーッ! ガシュンッ! シャアアアアーッ! ドオオオオーーッ!
「グウウッ! こなクソッ!」 ゴオオオオーーッ! グイイッ! ギュウッ!
ヒイイイイイインンッ! バウウウウウーーッ!
レオハルトは、ブレードナイト「ヤクト・ベルテッサ」のパワーに負けじと操縦桿を握りしめ、さらに加速して行った。
・
・
・
ー神聖艦「ルシェラス」ー
キュパンッ! ドオオオオオンンンーーッ! ドガアアアアンンーッ!
メラメラ モクモク パンッ ボンッ! ガシャンッ! カラカラ ボウボウ…
神聖艦「ルシェラス」は、重巡航艦「ヴィクトリアス」の2射目の要塞砲、フォトンブラスターの直撃を受け、その機能を一時的に停止していた。
タタタタタタッ!
「ぎゃあああッ! あちいいッ! あちいいッ!」 タタタッ! ドタバタ パタパタ タンタン シュウウウ…
神聖艦「ルシェラス」艦内の一区画がフォトンブラスターによる攻撃で融解し、灼熱の溶鉱炉のような状態の場所から、少女が純白のスカートから煙を出して駆け出してきた。
タタタ テクテク ペタンッ!
「ううう…熱かったよおおお…はああ、スカートが焦げちゃった…」 うう…
無事な区画まで駆けて来て、床にしゃがみ込み、焦げた自分のスカートを見ていたのは、青みがかった白銀髪を揺らしたアニスだった。
「何だよあれ、壁も床も全部溶けちゃってるじゃないか…ああッ! ブーツも焦げてる…気に入ってたのに…」 スリスリ…
アニスは、フィラウス大司教を探しながら艦内を歩いていると、いきなり、彼女の周り全体がものすごい熱に包まれ、咄嗟に絶対防御の《アルテミスリング》を発動し、防いだが、タイミングが少し遅かったようで、純白のコルセットスカートの端が、その高熱で燃え出したというわけだった。
それは、重巡航艦「ヴィクトリアス」の放った、第2射目の要塞砲、フォトンブラスターの直撃で、アニス以外の者であれば一瞬で蒸発、気化してしまうようなものであった。
ガクン ガクン ガタガタ ヒュウウウンンッ!
艦内の照明が消え、神聖艦「ルシェラス」は一瞬、その動きを止めた。
「ん? 調子悪いのかな? 艦が震えてる…」 グラグラ ガタガタ
ブウウンン パッ パパパパッ!
「あ、明るくなった、ん?…誰?…呼んでる?…こっちの奥か…」 テクテク
アニスは、何かに呼ばれているような気がし、そっちの方に歩き出した。
ー神聖艦「ルシェラス」ブリッジー
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
「敵艦隊接近ッ! チャートNo.01ッ マーク04 ブラボーッ! 重巡航艦『ヴィクトリアス』を先頭に突っ込んできますッ!」 ピピッ!
「戦術長ッ! 大司教様不在時の今、判断は戦術長に任せますッ いかが致しますかッ?」 バッ
「「「 戦術長ッ! 戦術長ッ! 」」」 ババッ!
「わかった、やろうッ! 前衛に出た各艦に連絡ッ! 『直ちに砲撃ッ!接近中の敵艦隊を撃沈せよ!』となッ!」 バッ
「「 了解ッ! 」」 カチカチ カチャカチャ ピッ ピピ ピコッ!
ゴゴゴゴ シュゴオオオーーッ! ドオンンッ! ダンダンッ! バババッ!
神聖艦「ルシェラス」の前方を護衛していたガーナ神教団艦隊の5隻は砲撃を開始した。
・
・
・
ー重巡航艦「ヴィクトリアス」ブリッジー
ビッビイイーーッ! ビコッ! ピッ
「提督ッ!敵艦隊接近ッ! 攻撃を開始ッ チャートNo.01 マーク18 イエロー33 チャーリーッ!」 ピッ
シュワアアアアーーッ! ドオオオンッ! バアアンンッ!
「はんッ! その様な砲撃、この『ヴィクトリアス』に効くわけがなかろう…」 ザッ!
教団艦隊の砲撃は全て、重巡航艦「ヴィクトリアス」のフォトンフィールドに弾かれ、爆散していった。
「全艦一斉砲撃用意ッ! 目標ッ 敵前衛艦隊ッ! 主砲ッ 砲門開けえッ!」 ババッ!
マイヤー提督の号令で、重巡航艦「ヴィクトリアス」の主砲、58.8cm三連装7基の内、射線の取れない2基を除く5基15門が動き出した。
ウイイイイイインンン ガシュンッ! ククククッ ピタッ!
「全艦、全砲門発射準備よしッ!」 ピッ ビコビコッ!
「殲滅せよッ! 砲撃開始ーッ!」 ババッ!
ヒイイイイイインンッ! ドオオオンンーッ! ババッバババーーッ!
シュワアアアアアーー……ドオオオオオンンンーーッ! グワアアーーッ!
決定的な一撃だった。 マイヤー侯爵家艦隊の一斉射で、ガーナ神教団前衛艦隊は、先頭の巡航艦が「ヴィクトリアス」の主砲弾を集中的に浴び轟沈、その他の4隻も火を吹きながら、地面へと落ちていった。
ドオオオンッ! メキメキメキ バアアンンッ! メラメラ モクモク
「全艦撃沈ッ!」 ピッ ビコビコッ! ポンッ!
「ふんッ! 素人どもが…満足に回避行動も取れんのか…」 ググッ
マイヤー提督は、ガーナ教団艦隊のあまりにも無様な戦いに呆れていた。
ビーーーッ!
「戦闘空母『フェリテス』より1機発進ッ! 敵、超大型艦に向かっています」 ピッ
「ふむ、(アニスとやらの、娘の友人を迎えに出たか…) 全艦停止ッ! 様子を見るッ!」 バッ!
「アイサーッ! 全艦停止ッ! 現状を維持、待機せよ!」 ピッ ピコ!
ヒュウウウンンッ バウウウウウーーッ! グググッ! キュウウンン…
マイヤー提督は全艦を、戦闘配置にまま停止させ、戦闘空母「フェリテス」から出たブレードナイトの動きに様子を見た。
「出撃した機体はブレードナイト『ヤクト・ベルテッサD型シーラ』、ライナーは【レオハルト・ウォーカー】中佐ですッ!」 ピッ タタタタタタッ! ピコ
「ほう、(あの小僧か…1人で動くとは、これは見物だな…ま、何かあったら手助けはするがな…)」 ふふふ…
遠ざかっていくブレードナイト「ヤクト・ベルテッサ」を見て、マイヤー提督はその後の行く末を見守っていた。
・
・
・
ー神聖艦「ルシェラス」 管理支援システム中枢制御室ー
ブ〜ン ブ〜ン ブ〜ン バチバチバチッ! ジッ ジジッジジ! パンッ! モクモク
ピッ プシュウウウーーッ! ダダダッ! ザザッ!
「こ…これはッ!…」 ザッ!
「フィラウス大司教様ッ!」 グッ
フィラウス大司教と技術主任の2人が、神聖艦「ルシェラス」の管理支援システムの中枢制御室に入った時、その眼前には信じられない光景が広がっていた。 中枢制御室にある管理支援システムの本体に、巨大な鋼材が突き刺さり、至る所で放電やショートの火花を散らし、煙を吹いていた。
ダダダダ…スッ カチャカチャ ピッ ピッ ピピ タタタッ!
「【ミドラス】、聞こえるか【ミドラス】、大丈夫なのですか?」 ピッ カチカチ ピコッ!
ピッ!
『Oui. Ou…Ou…ががッ が、しし…にん…にに…ん…ね』 ピッ ビビ ビガッ
「大司教様ッ! こ、これはッ⁉︎」 バッ!
管理支援システムの【ミドラス】は、フィラウス大司教の質問に、答えが出ないどころか、様子がおかしくなっていた。
「不味いぞ…」 カチャカチャ ピッ
ビーーーッ! パパパパッ! ブ〜ンッ! ビコッ!
「【ミドラス】?」 サッ
ピッ ブ〜ン ブ〜ン ブオンッ! ピッ
『Oui. 愚かな生き物、人間達よ、己の所業を悔い、滅ぶがいい』 ピッ
「大司教様ッ!」 ババッ!
「ううッ…狂っている…」 ギュウウッ!
『Non. 狂ってなどいない、これは顕現である。我はそなた達が崇めている神、『ガーナ神』である。これより愚かな行為を繰り返す、そなた達人間の抹殺、粛清を実行するッ!』 ピッ ブワアアアッ! パアアアンンッ!
「なッ! バッ 馬鹿なッ! 『ガーナ神』ですとッ⁉︎ そんな筈は…まさかッ! 攻撃のショックで【ミドラス】に自我が目覚め、暴走してるのではッ⁉︎」 ググッ
「わ…わわッ わあああああーッ!」 バッ ダダダダッ!
技術主任は、管理支援システム【ミドラス】の変化に恐れ慄き、駆け出し逃げていった。 神聖艦「ルシェラス」に異変が生じ始めた…
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テクテク テクテク ピタッ! グラグラ ユラユラ…
「ん? なんだろう? この魔力量…なんか出たかな?…んと…こっちか…」 サッ!
テクテク テクテク…
アニスは異常な何かの気配を感じ取り、その気配の方へと進んでいった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回もでき次第投稿します。