第21話 アニスと皇国丞相
ーデュアル皇国 侯爵邸ー
「ば、ばかな...私の影が全滅だと? 一体何が起きた。あ奴らは皆銀等級以上、頭であるルシュに至っては金等級バゼラの位、無敵のスキル持ちだ。それが全滅?一人の生存者もなく誰も帰って来なかっただと、これでは何も分からんではないか」
皇国丞相である【ブロス・デン・ドロワ】侯爵は自室で自分の子飼いの部隊、『シャザルゲン』の全滅報告を聞いていた。皇国では人の生死を見極めることが出来る魔道具がある。ブロスはその魔道具によりシャザルゲンの全滅を知ったのであった。
「これでは私の計画に影響が出てしまう。特にシャザルゲンの損失は大き過ぎる。私の言う事を聞く手駒がなければ事が運ばん、なんとかせねば。やっと現皇帝を私の傀儡にでき、目の上のタンコブのような第2侵攻軍は半壊したのに、実行部隊がいなければ話にならん」
そうこの丞相こそ、先の戦、城塞都市パルマ侵攻を、穏健派で戦嫌いの現皇帝に戦を起こさせた張本人であった。
「このままでは不味い、やはり彼の地に行きそこにあると言う力を手に入れねば」
彼は悩んだ末、強行潜入部隊を作り向かわせる事にした、調査という名目で。その部隊に空中騎兵部隊の『クラウン隊』が選ばれた。先の戦でパルマ周辺の事は熟知していたからである。
「では我々の部隊だけで、もう一度敵国領内に潜入せよと言うのですか?」
「そうだ、そしてそこにあると言われる力の存在を確認し、出来れば回収せよ。これは皇帝からの勅命である」
丞相に『皇帝からの勅命』と言われれば断ることも出来ず、部隊長クラウンは今回の命令を受けざるを得なかった。
「一つよろしいでしょうか?」
「なんだ、申してみよ」
「我々は皇国の兵です。皇帝陛下より、行けと言われればどこへでも行きます。だが目的の力という物の確認と回収ですが、何を持って確認するのですか?そしてどの様に回収するのか教えて頂きたい」
ブロスは返答に困ってしまった。クラウンの質問は至極当然の事であり、目的の物が正体不明では誰も事をなし得ないのは当然であった。それどころか敵国の領地内という事、もし敵国の兵士に見つかればその場で遭遇戦に入り兵士達を危険な目に合わせてしまうからだ。だが、ブロスも今後のために力が欲しかった。
「ああ〜、そうであったな、まずはその力とは我々には理解できない程の力だ、見れば分かる!回収に至っては其方の判断に任せる!」
ブロスは確信も無いのに力の説明をした、しかしあながち間違っていなかったのは偶然であった。
「(こいつ、本当は何も知らないな。そんな得体の知れない物に部下達を危険に晒すのはゴメンだが、皇帝陛下の勅命と言われたら受けざるを得ないな。ここは部下のためにふっかけるか)わかりました丞相閣下、その任受けたまります」
「おおッ!受けてくれるか、よし成功の暁には恩賞は思いのままだぞ」
「(また大きく出たな)それよりも丞相閣下、出陣に対し装備を整えたいのですがよろしいでしょうか?」
「うむ、それは当然の配慮だな。良いぞ好きな装備を整えよ!私が許可する」
「(よし言質をとったぞ)では、私めに『アルカノイド級』を任せてください」
「なッ‼︎ 必要と申すか」
「丞相閣下のお話を聞き、おそらくは..」
「ん~ よし、此度のみ許可しよう」
「はッ ありがとうございます、必ずや丞相閣下の満足のいく結果を出しましょう」
「うむ、では装備を整え次第、出発してくれ」
「はッ では行ってまいります」
ブロス邸を出て空中騎兵部隊の隊舎に帰って来たクラウンを出迎えたのは、副隊長に昇格したゲイルだった。
「隊長、おかえりなさい。丞相からの話ってどうでした?」
「ああ、準備でき次第出陣する」
「で、全軍の規模は?」
「全軍では無い、我々だけだ!」
「はッ? 我々だけ? 冗談でしょ⁉︎」
「いや、冗談では無い。本当に我々の隊だけだ」
「隊長、まさか本気ですか?我々だけって総勢8名だけなんですよ!」
「だから保険をかけた」
「保険?」
「『アルカノイド級』の使用許可を得た」
「『アルカノイド級』‼︎ た 隊長、要塞攻略戦でもするんですか⁉︎」
「いや、今回の任務内容によってはこれが妥当だと思っただけだ」
「わかりました、では早速全員に準備させます」
そう言ってゲイルは兵舎の方へ走っていった。それを見てクラウンは思う。
「(『アルカノイド級』でも戦力不足かもしれん、何人生きて帰れるか.....)可能な限り..か」
こうして翌日の早朝、巨大な影が八つ翼竜が並ぶ、その姿はワイバーンをはるかに超える大きさと、魔力を持っていた。装備品も多く、ディアル皇国の切り札的戦力であった。翼竜発着場に緊張が走る。
「積載装備急げ!拠点攻撃兵装三型改だ!」
「魔力増槽タンク取り付け始め!」
「許可が降りてる、特秘兵装装備!」
「整備班員、最終装備確認!」
「翼竜騎乗兵は準備してください!」
あわただしく発信準備の中、クラウンは部下に発進前の訓示をする。
「いいかお前ら、今回の任務は恐らく激務だろう。だから死ぬなっ!生きて帰り家族の元へ帰れ‼︎」
その訓示をした後に整備長から報告を受ける。
「クラウン隊長!『アルカノイド級』騎竜、準備 全て完了 出撃可能です」
「よし、総員騎乗ッ‼」
「「「「「「「ハッ‼」」」」」」」
全員が騎乗すると発着場の大扉が開き朝日が入ってきた。管制室より女性の声で指示が出る。
「格納庫解放、進路確保、青青青、クラウン隊発進どうぞ!」
「『アルカノイド級』クラウン隊、発進ッ‼」
バッ!ババッ――ッ‼と、次々に朝日が昇る大空へ八つの巨大な翼竜がパルマ方面に飛んで行った。
ーマゲラル街中ー
アニスは聖王都に行く道中の準備をする為に、賑わっている街中に来た。準備といっても殆どの物資がアニスのストレージに入っているので、ここには物見遊山に来たような物である。
「食品に生活雑貨、衣服や武器防具、品物が多いし人も多い。流通が行き渡ってる証拠だね」
アニスは街中の商店を見つつそのまま噴水のある広場にやって来た。そこには路地販売をしている店が並んでいた。
「フリーのお店か、どんなのがあるかな」
ほとんどがリサイクル品で、全く使えない物や何に使うか分からないものまであった。そんな中を歩いているとある物に目が止まった。その店はアクセサリーを扱う店だが、ほとんどが偽物。そんな中の一つ、くすんだネックレスをアニスは見つけ手にとってみた。
「これは......エレンディアが作った物だ」
「お、お客さんどうだいそれ、汚れちゃあいるが良い物だぜ。買っててくれよ」
「ん、買おう、いくらだ」
「ヘイ、とある貴族様から買った物ですので、銀貨3枚でどうです」
「銀貨3枚ねえ、1枚にならない?」
「お客さん、それじゃあうちが大損だ、せめて銀貨2枚!」
「ん〜、銀貨1枚と銅貨5枚」
「お客さんには参った。よしそれで、まいど!」
アニスはネックレスの代金を払う時に店主に尋ねた。
「このネックレスはいつ、どんな貴族様から買ったんだい?」
「あんまり言いたく無いが、内緒ですぜ、2日ほど前にうちの店の前に来て『聖王都への路銀がいるから』と言って売ってったんでさ」
「で、どんな貴族だったんだい?」
「ああ、結構怪我をしてたなあ。片足無かったし、顔も半分布で巻いてたから、でも結構若い青年貴族様だよ。着ていた服の襟章がそうだったから」
「ん、ありがとう。じゃあこれ貰ってくね!」
「またなんか買っててくれな!」
アニスは近くのベンチに腰掛けて、ネックレスを見た。
「あの子、エレンディアがこれを送った貴族か。一度会ってみるかな」
アニスはネックレスをストレージに仕舞い、サイルから紹介された宿に向かって歩き出した。
「ニョキ えいッ ニョキニョキ えいッ」
「ユキヤマ何してる?」
「裏の竹藪でタケノコ掘ってるの」
「ふむこれか、んニョキって」
「これでもくらえ!」
「ぎゃああっ ユキヤマ!私、私だあ!」
また次回よろしくお願いします。