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第2話 女神の異世界人たち 後

城塞都市パルマは城内に敵兵が入り込み混戦状態になりつつあった。


-パルマ守備隊-

「城塞砲、すべて破壊使用不能!重兵部隊被害甚大です!」

「我が方、空中騎兵部隊全滅ッ!生存者なし!」


兵士たちの悲痛の報告を受けながらも守備隊総指揮官のマルクは状況に合わせて指示を下す。


「くッ!やはり数の差は埋められんか、何としても持ちこたえろ!予備兵も前面に出せ!魔導士は障壁を!」

「領主グラー様からの指示連絡はまだないのか!」


「先ほどより再三連絡をしているのですが、応答ありません!」


「こんな時にどうなっている、通信妨害か? 仕方ない、直接会って指示を仰ぐ」

「ユーカス! この場の指揮を頼む、すぐ戻る」


「ハッ!了解しました」


マルクは副官である【ユーカス・ダルバ】にこの場を任せ、足早に自分の主【アルタ・ゼン・グラー侯爵】の元へ向かった。


【アルタ・ゼン・グラー】聖王国カルナの上位貴族、城塞都市パルマの領主で爵位は侯爵。温厚で領民や兵士達から慕われている、国王への発言権を有する数少ない有力貴族の一人。


マルクは本陣を出てすぐの領主の居城に入り、主たち要人がいるであろう3階の大会議室へ階段を駆け上がり、廊下を進んでいくのだが、ある違和感を感じていた。


「おかしい、いくら総出撃とはいえ居城内に護衛の騎士がいない。使用人の気配もしない!なんだ⁈」


そして、大会議室の大扉を両手で押し開き中へ駆け込んだ。


「グラー様!、居られますかッ!」


しかし、彼が領主の名を言いながら扉を開けた大会議室の中には大型の楕円テーブルとイスしかなく、人の気配がなかった。 いや、部屋の隅、窓の大型カーテンのわきに見知った一人が脇腹から血を流しながらうずくまっていた。


「!ッ バッ バルザー様ッ!」


マルクはその人物の駆け寄り声を上げた。

【ザ-ク・ザ・バルザー伯爵】グラー侯爵の側近で近衛騎士団の隊長。また、マルクの直属上司でもある。


「バルザー様、マルクです分かりますか?気を確かに!」


マルクがバルザーの体を支えながら様態を見ているさなか、部屋の最奥に鎮座している青い六角水晶から何か音声が出ていたが、その時、バルザーが意識を取り戻し語り掛けてきたのでしっかりと聞いていなかった。


「マッ マルクか、無事のようだな、ハアハア..」


「バルザー様、いったいどうなされたのですか?この傷は! それと侯爵様をはじめ、城の方々はどこへ」


額に汗と苦痛の表情を見せ、バルザーはマルクに話しかけた。


「マルクよ、よく聞け、領主は、グラー様は我々を見限ったッ..ハアハア..守備隊を見捨てた..」


はあッ!マルクは一瞬バルザーの言っていることがわからなかった。


「侯爵は、我々を捨て駒にし、他の貴族連中、要人共々と..ハアハア..ここから逃げて居城にはいない、俺はそれを諌めたらこのざまだ...ハアハア..」


「そんな馬鹿な!あの侯爵様が我々やバルザー様を裏切るなんて..そッ そうだ、アイン様は、彼女はどうしたんですか⁉ こちらに居たはずなのですが」


「わッ わからん..ハアハア.と、とにかく早く..ここから..」


「それ以上は喋らないで、今治療魔法をかけますから」


バルザーは首を横に振り右手でそれを拒んだ。


「よい、もうもつまい..ハアハア..貴様に.これをやる」


胸の中から青い宝石の組み込まれたネックレスをだし、マルクに渡した。


「これは?」


「女神の加護があるというものだ..ハアハア..俺には効かなかったがな..後はたの..む..」


バルザーは力尽きマルクの腕の中で息絶えた。


「バルザー様ー!  ...お疲れ様でした。わかりました、自分の職務を継続します」


マルクはバルザーの遺体を横に寝かせ、胸に愛刀の剣を乗せたあと窓からカーテンを外し、全身にかぶせた。

その後自分の兵たちに連絡を取ろうと奥にある魔道通信機のところへ来た時、その横に鎮座する六角水晶の音声を聞いて一瞬思考がとまってしまった。その水晶は女性の声で警告を発していた。


「警告!警告!都市制御コアハ間モナク暴走、爆縮二ヨル魔力拡散爆発ガオキマス。都市内二イル全候族、貴族、兵員、市民ハ至急退避シテクダサイ...クリカエシマス..警告!警告!..」


「なッ なんだこれは⁉ こいつは何を言っている? 警告?避難?暴走?」

「まッ まさか!侯爵様は俺たちを囮に使い、敵をひきつけ都市もろとも..」


ダンッ!! マルクは水晶の置いてある重厚なテーブルをたたいてくずれた。


「なんてことを.. バルザー様は侯爵の作戦に気づき消されたんだ!。 そうだ、まだ間に合う!今これを止められるのはこの俺だけだ、侯爵の思い道理にはさせない!」


再び立ち上がり、警告を発し続ける水晶に手をかざし、魔力を込めその水晶に命令した。


「マルク・ジ・アザード男爵が命ずる、直ちに都市制御コアを正常動作に戻し暴走、爆縮を止めよ!これは最優先命令である!」


水晶は青く3回点滅してマルクを頭から足元まで光でスキャンした後答えた。


「マルク・ジ・アザード男爵ト承認シマシタ! 命令変更ヲ受託、コレヨリ命令変更プロトコル ニ ハイリマス」


「よし!間に合った、これで何とか..」


水晶に全て元状態に戻すよう命令ができて、それが実行され始めた時、大会議室に閃光と爆発音、そして爆風が巻き起こった。


-ディアル皇国軍ー


「報告します! 攻城砲第2射 敵中枢部へ着弾! 敵居城は火災を起こしています」


「今だッ! 一気に押し込めッ! 我が本陣も前進! グラーの奴の首を取り、都市を制圧せよ!」


「「「オオーッ!!!前進! 前進!」」」


ガイオの号令と共に、ディアル皇国侵攻軍の兵が一つの生き物のごとくパルマ城塞都市へ動き始めた。


-パルマ城塞都市大会議室-


白煙と粉塵の中でマルクは起き上がった。


「うッ..何が起きた? うッ い.痛い! なッ..足が..」


城塞砲により吹き飛んだ大会議室にて、マルクは左足を失い、右目も視力を失っていた。壁には大穴が開き、可燃物は燃え始め煙が立ち始めた。さらに魔道通信機は破壊され瓦礫が散乱していた。


「くッ と..とりあえず痛みを、《ヒール》!」


マルクは足の激痛に対し治療魔法を唱え、止血をし痛みを和らげた。

この世界の治癒魔法は、止血や傷をふさぎ、痛みを和らげる事はできるが、欠損してしまった肉体などは簡単に元に戻す事は出来ない。 一部の最高位神官や正聖女様の超高等治癒魔法、あるいは伝説級の治癒薬液(エリクサー)位を使用しなくては治らないのである。

止血と痛みが引いたマルクは現状を理解し始めた。


「そうか、敵の砲撃か..はッ 水晶ッ! それに命令変更は!」


水晶は無事のようで相変わらず青い光を放っていた。マルクは吹き飛ばされた所から水晶の所まで這いずり、水晶に手をかけ問いかけた。


「おい! 現状報告しろ! 先の命令はどうなった、暴走は止まったのか?」


水晶は頼りなく明滅しマルクの問いに答えた。


「..ザッ..ザーッ..ザ.ホ 報告シマス、先ノ命令受託後二敵攻城砲弾ガ都市制御コア付近二着弾、命令変更プロトコル ガ途中デ中断、損失シタタメ変更実行ハ不可能、命令変更機能ガ失ワレマシタ。マモナク都市制御コアハ暴走、爆縮ガ始マリマス、直チニ退去ヲシテクダサイ。..クリカエシマス、マモナク都市制御コアハ暴走...」


「ちくしょーーッ! 止められなかった、く、くそッ! そ そうだ、この事を兵たちに、魔道通信機!」


マルクは暴走阻止の失敗に叫んだあと、せめて兵士たちにこの事を知らせ、この場から退避するように伝えようとしたが、通信機は先の砲撃により破壊されていた。それを見たマルクは、ならばと思い砲撃でできた壁の大穴から兵士たちに声で知らせようと身を乗り出し、自分のいた本陣に大声で伝えようとした。 が、そこに守備隊の本陣はなかった。あるのは攻城砲弾の落ちた大穴があるだけだった。


「これでは、敵も味方も、もう誰も..」


マルクは目を強く瞑り、これから起こるであろう惨状を創造した。 そして、とある人物に届きはしない言葉を語った。


「アイン..いやアイン様、婚約を交わしてはいましたが、あれはなかった事にして下さい..元々侯爵家と男爵家、身分が違いすぎていました.....」


マルクはうっすらと目を開け、今ここにはいない婚約者【アイン・ゼン・グラー候女】との出会いや、語らい、飛竜による遠出などを思い浮かべていた。金髪の髪の長い美少女が微笑んでいる姿を....


外では、ディアル皇国侵攻軍の8割強が都市内に進入、パルマ残存守備兵と乱戦になっていた。

そんな中、水晶は淡々と報告する。


「暴走、爆縮魔力拡散爆発マデ、アト180秒! カウントダウンニハイリマス..」


マルクはその場に腰を落として座り、一息ついてから小声で歌をうたった。


「春は花を愛でて、夏は強い日差しを浴び、秋には実りに感謝を、冬の白雪 .. ..」


それ以上は涙が頬を伝わり唇が震え、歌にならなかった。

【マルク・ジ・アザード男爵】19歳新進気鋭の青年貴族。


-パルマ城塞都市上空ディアル皇国侵攻軍空中騎兵隊-


「クラウン隊長!我が方の騎兵が都市内を制圧し始めました!俺たちの勝ちです!」


「ああッ.. そうだな..」


「隊長? どうしたんですか? 勝ちっすよ俺たちの、もっと喜びましょうよ!」


「おいカウパー、隊長は今考え事をしているんだ、話かけるな!」


「へいへいッ! 分かりやんしたよ! ワイバーン隊のエースさん!」


カウパーはゲイルに皮肉を言いつつ、愛竜のワイバーンを駆ってパルマ居城へ降りて行った。


-パルマ居城大会議室-


「...3、2、1、暴走、爆縮開始! 約60秒後二魔力拡散爆発ガ起キマス」

「..58..57..56..」


-パルマ上空-


「たッ 隊長!これはまさか!」


「いかんッ! 総員直ちに最大速度でこの場から離れろ!できるだけ遠くにだ!急げッ!」

「空中騎兵隊隊長クラウンより地上部隊本陣へ、大至急撤退を求む!異常魔力加圧反応を感知した。ガイオ様にも早く伝令を、我が隊は緊急離脱します!」


「おのれー、グラーの奴め!姑息な手を使いよって、全軍至急撤退急げ! ソルムはいるか?」


「ハッ、ソルム御前に!」


「すまんなソルム、転移陣を頼む」


「わかりました、では早速準備いたします」


「うむ、頼む、グラーよ次に会う時が貴様の最後だ!」


ガイオは従卒のソルムが出した転移陣でこの戦場から離脱した。


-パルマ大会議室-


「..3..2..1..・・・・・」


「今一度会いたかったな..アイン..様...」


その瞬間、城塞都市パルマはこの世界から消失した。都市中央を中心に半径20Kmが音のない猛烈な光の中の包まれ、無に帰した。


-ディアル皇国侵攻軍空中騎兵隊-


「隊長-ッ!」


「後ろを見るなッ! 全速で前へ、戦場を離脱せよッ!」


音無く凶悪に輝く光が迫ってくる。数多くの両軍の兵や植物、生き物、無機物である建物までも飲み込んでいく。


「カウパー隊ッ!何をしている、遅れているぞッ!もっと急げッ!」


「隊長ーッ!隊長ッーーッ!!ウワァーッ! イヤダッ!イヤダァーーッ!....」


「カウパーッ! おいッ、カウパー!!」


「だめです隊長! カウパー隊、光の中に消えましたッ!」


「くッ!総員、とにかく全速で飛べッ!生き残るんだーッ!」


3分ほどして、光は収まり収縮していったが、ある程度収まったところでに今度は莫大な黒色魔力爆風が拡散していった。この黒色魔力爆風は、半径20㎞範囲の魔力を弱体化させ、魔法威力を衰退させてしまった。
























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