第197話 アニスと王城
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回もでき次第投稿します。
ー「ガーナ神教団」総本部大神殿内ー
コクコク ゴクン ふう〜 カチャ…
「殿下、落ち着きましたか?」 スッ
「ああ…レイラ姉さん、さっきはすみません、取り乱しました」 ペコ
ラステルにとってレイラは叔母にあたる存在なのだが、ラステルが幼少の時からレイラに『お姉ちゃんですよ』と教え込まれ、今日に至ってもラステルはレイラを『レイラ姉さん』と呼んでいた。今、2人はアニスに助け出され、大広間の隅でアニスの出した紅茶を飲み、休憩をしていた。
「ええ…驚いたわ、いつも冷静な貴方が、アニスちゃんを見た途端、あんなにも取り乱すなんて…」 フリフリ
「アニス…彼女はアニスというのですか?」 スッ
「あら、あれだけ『私のだああ』って言うから、名前も知ってると思ったわよ」 フフ…
「いえ…その名を今、初めて知りました」 ポッ ジッ…
テクテク サッ! テクテク
ラステルの視線に先には、セミロングの青みがかった白銀髪と膝上までのコルセットスカートを履いたアニスが、この大神殿大広間の中を探索していた。
「美しい…ただ歩いているだけなのに、目が離せない…」
「殿下…アニスちゃんが気になりますか?」 ニコ
「はい、彼女を初めて見た時から、私の心にはいつも彼女の姿がありました」
「(あらあ~、ラステル…アニスちゃんに一目惚れしちゃったのねえ…)」
「あの時…あの演習場での事は今でも鮮明に覚えています…」 スッ
ラステルは天井を向き、目を閉じて記憶をたどった…
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-3ヶ月程前 射撃演習場-
ドオオオオンンー-ッ!
ワーワーッ! タタタッ! タンタンッ! ドオオオンンッ!
『危ないッ!逃げろおー』 ダンダンッ! ドオオオンーッ!
ビュヲオオオーーッ! ザザアアアーーー!
「きゃああッ!」 バサバサ
「ううッ! なんだッ⁉︎ ミレイッ 大丈夫かあーッ!」 バサバサ
「ええ、私は大丈夫ですわッ!」 ビュウウウーッ バサバサバサッ!
その日、ラステルは婚約者のミレイ公爵令嬢と共に、演習を切り上げ帰る途中だった。
「ミレイッ 君は皆と宿舎の方に行くんだッ!」 バッ
「ラステルはどうするの?」
「俺は何があったか見に行ってくる」 ザッ ダダダ!
ラステルは爆発のあった場所に行き、そこで彼の心に一生残る少女に出会ってしまった。 そこには、あの強力な防衛ドローンが爆発の中心で宙に浮き、その周りには怪我を負ったのであろう、倒れて傷ついている生徒や教師が数人、そして、彼らを守る様に立つ1人の少女…
青みがかったセミロングの白銀髪と白い膝上丈のスカートを靡かせ、片手に小さな武器を持った少女が、防衛ドローンに立ち向かっていた。
「無茶だッ! あんな小さな武器一つで何ができるって言うんだッ!」 ザッ!
ドガガガガガッ! ドドドドッ! シュンッ!
防衛ドローンのフォトン弾が無数に放たれる中、その少女はまるで踊っているかの様に身を翻し、全てを躱していく。その一瞬、少女の笑みを浮かべた顔を見た。
「なッ! なんて可憐な…美しい、まるで天使のようだ…それに凄いッ! あの素早い身のこなしよう…」
ラステルはアニスの攻防に見入って目が離せなかった。そして次の瞬間…
「….ッ! 《………グッ!》」 シュパンッ! シュザザアーーッ!
ビシイイイーッ! ピピッ! ドガアアアアーーンッ! ブワアアーーッ!
「うわッ! 防衛ドローンがッ 今のはッ⁉︎…」 グッ!
ラステルには、アニスが一体何をしたのか分からなかった。 ただ、防衛ドローンが破壊される一瞬前、アニスが何かを口遊んだ、だがラステルにはそれが聞き取れていなかった。その瞬間、アニスの姿は消え、防衛ドローンは爆発炎上し、破壊された。
「ううッ…はッ! 彼女はッ!」 ババッ キョロキョロ
カタン カラカラ ガシャンッ! ボウン メラメラ シュウウウウ…
ラステルはその場に立ち、辺り周辺を見渡したが、あの少女の姿はどこにもなく、そこには破壊された防衛ドローンが崩れ落ちていく姿しかなかった。
「いない…俺は幻でも見ていたのか?…」 ザッ!
シュウウウウ… カダン…ブスブス…シュウウウウ…
「いや、いたはずだ…ここにコイツの残骸がある。他の誰でもない、あの天使が倒したんだ…」 グッ
ラステルの足元には、あの強固な防衛ドローンのボディーが切り裂かれ、上下に分かれた状態で燻って、機能を停止し、転がっていた。
「是が非でもあの天使を手元に置きたい…必ず探し出して、出来れば私のそばに…」 ギュッ
ラステルはそれ以降、自分自身以外にも、配下の者や軍関係の者に聞いて回り、探し回っていた。
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「やっと見つけた…あの時と変わらず美しい…必ずやこの手に…」 グッ
「殿下、アニスちゃんはダメですよ」 ズイッ!
「レ、レイラ姉さんッ! 姉さんは彼女と随分親しげですが、なぜダメなんですか?」
「うふふ…知りたい?」 ニコ
「ええ、ぜひ」 コクン
「そうね…アニスちゃんはね、今、私と【アリエラ】、2人の妹なの!」
「ええーッ! で、でも、血は繋がってないんですよね、だったら…」 グッ
「それでもダメですよ」 フフ…
「それはいったい…」
「レオン君がね、彼女に夢中なの♡」 うふッ
「なッ! レオンッて、まさかッ!【レオハルト・ウォーカー】ッ! アイツかッ!」 ババッ!
「はああ…殿下…仮にも貴方の叔父にあたるんですよ、アイツ呼ばわりはやめなさい」
「うッ…分かりました…すみませんレイラ姉さん…」 ペコ
「大丈夫、彼、レオン君は『皇位など興味無い、俺は平民の方が性に合ってる』って言ってましたから…」
「そうですか、わかりました。ですが私も1人の男として、彼女を諦めません!」 ババッ!
「そ、そう…では殿下の御気のめすままに…(アニスちゃんはやっぱり凄いわね…こうも王族から好かれる人物はそうはいないわ)」 ペコ
そこへアニスが戻って来た。
テクテク スタ
「もう動けますか?」
「ああ、ありがとう。もう大丈夫だ」 スクッ
「そうね、私もいいわ」 スタッ
「ん、ではとりあえずここを出ましょう、そうですねえ…横にお城が見えました。そこまで転移します」 ニコ
「「 えッ⁉︎ 」」
パアアアンンーーッ! シュバッ! キュインッ!
アニスが「転移します」と言った瞬間、2人がその言葉に驚いている間に、3人の足元には白い魔法陣が瞬時に現れ、3人を包み込むように上方へ筒状の幕が伸びていった。
「ア、アニスちゃんッ! コレはッ!」 サッ!
「わッ! なんだ、これはいったいッ!」 ザッ!
「ジッとして、《エルシェントッ!》」 シュバンッ! パッ! ヒュウーッ!
「「 うわッ!(えッ⁉︎) 」」 シュンッ!
アニスの転移術で、3人は一瞬でその場から姿を消した。
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ーアトランティア帝国 王城一階フロアー
キュインッ! ヒュワンッ! パッ! スタタッ! シュウウウウ…
3人は、ガーナ大神殿のあった行政棟の隣、王城のの一階フロアに転移し現れた。
「着きましたよ」 ニコ
「うう…えッ! ここは王城の中じゃないか!」 ババッ!
「ええ…そのようね…(凄い…コレが転移魔法…失われた古の大魔法の一つ…流石アニスちゃんね)」
王城に転移した事に、2人は驚いていた。この世界、転移技術は魔石を加工し、それに転移先を記す、「転移水晶」を使ってしか出来ず、アニスのように、魔法陣を用いて転移する技術、魔法は存在していなかったからだった。
「はッ! レイラ姉さんッ! 急ごう! 今なら間に合うかもッ!」 ババッ!
「そうだわッ!早く兄達を止めなくてはッ!」 バッ! タタタ
「ん? 兄達? 止める?」 トテテ!
「ええ、私の実の兄よッ!」 タタタ
「『ガーナ神教団』?」 トトト
「いえ、それは大司教のフィラウスよ! 兄はゼレオ!【ゼレオ・ヴェア・アルテア】公爵よッ」 タタタ
「アルテア? ゼビオもアルテアだったよね…」 トトト
「ゼビオは兄、ゼレオの息子よ」 タタタ
「何かしようとしてるの?」 トトト
「父を…皇帝を亡き者にしようとしているッ! 絶対にそれだけは阻止しなくてはいけないのッ!」 タタタ
「そうですッ! この国のためにもッ!」 ダダダ
「ん、わかった」 トトト
3人は王城謁見の間にいるであろう現皇帝に会うために急いだ。
「むッ! 何奴ッ! ここは皇帝陛下の座す謁見の間であるぞッ! 止まれえーッ!」 ザッ!
謁見の間の前の大扉の前には、4人の城内兵が短槍を構え、こちらを牽制して来た。
「私はラステルッ! 【ラステル・ヴェル・アトランティア】であるッ! お前達ッ!そこを下がれッ!扉を開けよッ!」 ダダダ
ラステルは走りながら、城内兵に向かって自分の身分を明かし命令した。しかし…
「おい、ラステルだとよッ!」 ババッ!
「ああ、叛逆皇子じゃないかッ!」 ガシャッ!
「俺たちにも運が向いて来たぜッ! 奴を捉えるか、殺せば貴族に取り立ててもらえるかもしれん!」 グッ
「そうだッ! 大手柄が向こうからやって来たぜッ!」 チャキ!
すでに根回しがされておるのだろう、場内兵4人は、ラステルの名を聞き逆に敵意を向けて来た。
「なッ!貴様たちッ!」 ダダダ
「殿下ッ! お待ちなさいッ!」 バッ!
「レイラ姉さんッ!」 タタッ! ピタッ!
「殿下…いえラステル、彼らをよく見て…普通じゃないわ」 スッ
「えッ!」 サッ!
ラステルはレイラに指示され、改めて城内兵の彼らを見た。
「あッ! この者たち…」 グッ
「グフフ…やるぞ、手柄だあ、この手でやつらを…」 ユラユラ チャキ!
「俺だあ…俺がやってやるう…ハアハア…」 ガタガタ カチャカチャ…
「ハアア? ラステルう…うひひ…殺せ殺せえ…」 シュキン!
「ヒャアヒャッ…俺だあ…俺が俺がああ…」フラッ フラッ!
先ほどと違い、急に彼らの様子が激変して来た。 まるで、こうなる様に仕立てられた様に…
「ん、レイラお姉ちゃん…彼らはもう正気がないよ、何かに操られているか…それに彼らは…」
「そうね、アニスちゃん…彼らは陛下の家臣ではないわ」 フリフリ ギュ
アニスとレイラは、彼らの様子を見て決断した。
「やれる? アニスちゃん…」 シュンッ! ジャキッ!
「ん、いいの?」 シュキンッ! ザッ!
「ここで戸惑っては皇帝陛下の身の危険が増すばかり、速やかに排除します」 ガチャッ! フィイイイイイーーッ
「そう…じゃあいきます」 チャキ!
レイラは収納魔法から自身のフォトンライフルを取り出し、それに魔力を込め始めた。アニスは神器ミドルダガーの「アヴァロン」を抜き、城内兵に向け構えた。
「レイラ姉さん、俺も…」 グイッ
「殿下は手を出さないで、皇帝となる者、その手をこんな事で汚してはなりませんッ!」 キッ!
「あ…はい、わかりました」 サッ
レイラと違って、ラステルは収納魔法もなく、現時点で武器を所有していないので、どのみち戦闘には参加で来なかった。
「「「「 ガアアーッ! 」」」」 ガチャガチャ ダダダッ!
4人の城内兵は、闇雲に短槍や短剣を振り回し、アニスたちに向け突っ込んできた。
「ん、お姉ちゃん行きます。《縮地》」 シュンッ! バッ!
「フフ、相変わらず凄い娘…照準…弾倉タイプ1…通常弾装填」 ジイ…
「ウオオオーッ! 殺れッ殺れええッ!」 ダダダッ! ブンブン!
「「「 ウオオオーッ! 」」」 ダダダッ! ガチャガチャ ビュンブンッ!
「発射」 カチッ!
バムッ! バムッ! バムッ! シュバババーッ!
「ウガアーッ! ギャアッ!」 ビシビシッ! パアアアンン! ドシャッ!
「ガアアーッ! いでえッ!」 グタッ! カランッ! カラカラ…
4人のうち1人は頭部を吹き飛ばされ即死、1人は足とを撃ち抜かれその場に膝を屈した。そして…
「そんな大型銃で4人相手では無理だぜえーッ!」 ダダダッ!
シュンッ! パッ!
「剣技ッ!《イージス.エッジッ!》」 シュワンッ! ビシイイイーッ! ザンッ!
「「 ぎゃああーッ! がああッ! 」」 ビシイイイ! ザシュウー! ドタッ! バタン!
ザザアアアーーー、 タンッ! クルクルクルッ! チャキンンッ!
残り2人の背後に一瞬で現れたアニスは、剣技を使い2人同時に斬りつけ倒してしまった。
「アニスちゃん、お見事」 ニコ
「いえ、レイラお姉ちゃんも相変わらずいい腕ですね」 ニコ
「2人とも凄い、レイラ姉さんはともかく、彼女は強いッ!」 グッ!
「さて…」 チャカ、コツコツ
「うぐぐ…『ガーナ神』様に仇なす者達めえ…地獄に落ちるがいい」 チャッ! ググ…
コツコツ ザッ!
「あらそう? では貴方たちは皇帝に弓引く賊どもですね…極刑に処します」 ガシャッ! ターンッ!
「ガアッ!」 ドサッ…
足を撃ち抜かれていた城内兵は、短剣を構え抵抗の意思を見せ、レイラに対し悪態をついたので、その場で処刑されてしまった。
「レイラ姉さん、よかったんですか?」
「殿下…いやラステル、よく見なさい!」 スッ
「え?」
「彼らは陛下の臣下でも、兵士でもないわ」
「そんな…でも鎧を着て、警備を…」
「よく覚えておきなさい。城内兵は装備に短槍や短剣は装備しないの、皆ロングソードよ」
「あッ!」
「彼らは城内兵に偽装した『ガーナ神教団』の神兵よ」
レイラに言われよく見ると、確かに倒れている4人は皆、軽装武器の短槍や短剣だった。 訓練を受けていない者にとって、ロングソードは重装備すぎて振り回すことなど出来ないからだった。
「全く…ガーナ神信徒というのは…さあ、早く行きましょうッ!」 ザッ!
「そうだ!早く」 ダダダ ギイッ! バーンッ!
ラステルは謁見の間の大扉に手をかけ、おもいっきり扉を開いた。
「陛下ッ!」 ダダダッ!
「ラ…ラステル…」 バタンッ!
謁見の間に飛び込んできたラステルの顔を見て、皇帝陛下は気を許したのかその場で気絶してしまった。
「陛下ーッ!」 ダダダッ!
「おっと動くなラステル…それ以上近づくと、皇帝陛下は本当に死ぬぞ!」 ザッ!
ダダッ! ピタッ!
「なッ! 叔父上ッ!」 バッ!
「どうやってここまで来れたか知らんがもう遅い、ラステルよ、皇帝陛下の最後よく見ておくんだなッ!」
タタタッ!ザッ! ジャキンッ! フィイイイイイーーッ
「兄上ッ! そこから離れなさいッ!」 ギンッ!
「れ、レイラッ! 正気かッ! わしをッ! 兄であるわしを撃つつもりかッ⁉︎」 ザッ
「たとえ兄と言えど、皇帝陛下殺害は重罪! 覚悟はいいですね!」 ジイ…
「ま、待てレイラッ!」 グッ
「問答無用ッ!」 ググッ!
ドオオンンッ! モクモクモク
「うッ! 煙幕ッ!」 チャカッ サッ!
レイラがフォトンライフルの引き金を引こうとしたその瞬間、彼女とゼレオとの間に、何者かが煙幕弾を投げ入れ、その場の視界を悪くした。視界を失ったレイラは、射撃をあきらめざるほかなかった。
「旦那様ご無事ですか?」 ササッ!
「おお、ゼロスッ! よい所に来てくれた」
「ははッ」
そこに現れたのは、ゼレオ公爵の執事、ゼロスであった。
「ゼロスよ。あの者達を殺せ!」
「はい、承りました」 スクッ! シュンッ!
執事のゼロスはそう言うと、一瞬でゼレオ公爵の前から消えた。
「ふふふ、レイラの奴め、ワシを殺そうとした事、思い知るがいい」
アニス達の元に、いま、最強の執事、ゼロスが忍び寄っていた。