第182話 アニスと英雄たち
ー交流戦 演習場ー
「なッ! なんでアニスちゃんがここにッ⁉︎」
「ん、ダメですか?」
「えッ! いや…ダメじゃないです…すみません」 ペコ
「ん、じゃあ、始めますか!」 スーッ チャキンンッ!
アニスは交流戦専用武器の短剣を抜き、アラン達3人に向け構えた。
「「「 えッ⁉︎ 」」」 ビクッ
「ア…アニスちゃん…始めるって、な…なにを…」 ビクビク….
「ん、決まってるじゃない、交流戦でしょ、君達『英雄』3人と私の戦いだよ!」 ニコ
「「「 ヒッ! ヒイイイイーッ! 」」」 バババッ! ブルブルブル
英雄の3人は小刻みに震え、悲鳴を上げた。
「な、なんだなんだ? どうしたアラン?」
「ジェ、ジェシカ、顔色が悪いわよ、一体どうしたの?」
ザッツとアルテは英雄の3人の異常さに気がつき尋ねた。少し前までは、何をやっても勝てない、自分達とは別次元の強さを持った英雄達3人が1人の少女、アニスの一言で、まるで怯える子供のように震えていたからだった。
「ア、アニスちゃん…なんでアニスちゃんと私たちが戦うの?」 ブルブル
「ん? ああ、それは私が『銀翼クラス』の交流戦メンバーだからね、当然でしょ?」
「「「 『銀翼クラス』のメンバーッ⁉︎ 」」」 ザザッ
「ん!」 コクン
英雄の3人は、アニスが交流戦の、しかも敵側「銀翼クラス」のメンバーと聞き、再び驚いた。
「(ア、アランッ! どどどどうするッ⁉︎)」 ヒソヒソ ビクビク
「(どうするって…うッ…どうしたらいいんだ…)」 ヒソヒソ
「(アラン、マイロッ! 私は降ります。やらないからねッ!)」 ヒソヒソ ビクビク
「(ジェシカッ!逃げるのか⁉︎)」 ヒソヒソ
「(当たり前でしょッ! 他ならぬアニスちゃんだよッ! 私はやりません!)」 ヒソヒソ
「(うッ…確かに…だけど…)」 ヒソヒソ ソ〜…
「ん? どうしたアラン、やらないのか?」 ググッ!
英雄のアランがソ〜っとアニスを見ると、既に短剣を構え、こちらを標的にじっと見つめていた。そこへ、アラン達の判定ドローンが警告をした。
ピッ ピコン ガシュン ガシュン! ブオン!
『【アラン・フォン・ウィルソン】、【ジェシカ・フォン・ルーカス】両者ニ警告!、敵前逃亡ハ重罪、ソノ場ニテ交流戦ノ資格ヲ失イ、退場扱イニナリマス』 ピッ
「うッ…仕方ないッ! マイロッ ジェシカッ! これは交流戦ッ 模擬戦だッ!」 ザッ!
「「 アランッ! 」」 ババッ
「ん、模擬戦だよ」 ニコ
「そ、そうね…本当の戦いじゃないし…訓練と思えば…」 スッ!
「ああ、訓練試合と思えばいい、今の俺たちがどれだけ強くなったか…アニスちゃんに見てもらおうぜ!」 チャキッ!
「そうだ2人共、今の俺たちがどれだけか、アニスちゃんに全力で行くぞッ!」 チャカッ!
「「 おう!(ええ!) 」」 コクン
「ん!」 コクン
アラン、マイロ、ジェシカの3人は、それぞれの魔力を高め、手持ちの魔道具武器、フォトン銃とライトニングセイバーにその魔力を込め始めた。
ズワアアアアーーッ! バシュウウウウウーッ! ゴゴゴゴ!
「凄いッ! これが英雄の魔力…ジェシカ達ってこんなにも魔力が高かったんだ…」
「ア…アランの魔力が…こんなはずじゃないッ! アイツと俺とは幾分も違わないはずだった…なんだよそれわあッ!…アランッ! おまえ、いったいどうやったんだよおッ!」 ワナワナ…
アルテは友人だったジェシカの魔力に驚き、ザッツはその友人が自分よりも遥か上の存在になった事に、怒りと嫉妬心に震えていた。
「ん、3人共前より随分と上達したじゃないか」 ふむ…
シュバババババーーッ!
「そりゃあ俺たち3人、皆実戦で鍛えてきましたからね。前の時とは違うぜ!アニスちゃん!」 ググッ ガシュンッ!
「アランの言う通り、あれから随分と自主練もしたし、体も鍛え上げました。その成果、見てください!」 グッ! チャカッ!
「あのねアニスちゃん…本当は戦いたくないの、だけど今回は『金扇クラス』の交流戦メンバーだから…私たちの実力をアニスちゃんに見てもらいます。…本気で行くね!」 カチッ! ビシュウウーーッ! ヴオン!
「ん!わかった」 ギンッ! シュワアアアアアーー!
アランとマイロは魔道具の武器、突撃型フォトンライフルを構え、ジェシカは、フォトンソード、ライトニングセイバーを起動しアニスに向けた。 それを見てアニスもまた自身の魔力を少し解放する。解放された魔力はアニスを中心に上方に白い渦を巻き立ち昇っていった。
シュゴオオオオオーーッ! ビュウウウッ!
「なッ⁉︎ これがアニスちゃんの魔力! なんて綺麗で力強いの! まるで聖域にある『叡智の塔』みたい…」 プルプル…
「なんなんだよ! なんなんだよコイツは⁉︎ アラン達もコイツも、めちゃくちゃだあ!」 ドタッ! プルプル…
「ヒッ! ああ…あッ…」 フッ…パタン…
アニスのその魔力を見て、アルテは感動し、ザッツは尻餅をついて震えていた。またもう1人の「銀翼クラス」のメンバー、ヒルツに至っては、その状況に耐えられず、白目を剥いて倒れてしまった。
ピッ ピコン
『【ヒルツ・フォン・モーゼル】気絶ニヨル意識混濁、戦闘不能、判定『失格』ライフガ全テナクナリマシタ、本日ノ行動ハ終了デス」 ピッ
「なるほど、君達はこう言う判定するのか…意外と実戦的だね」 ふむ…
アニスが判定ドローンの判定を見ていると、アランが声をかけてきた。
「準備できました、いいですか?」 ザッ
「ん、いつでも…」 グッ!
「銀翼クラス」の野営地では、アニスと英雄の3人がそれぞれの武器を持ち対峙していた。
ジリッ… ザッ‼
「「「 《縮地ッ‼》 」」」 シュンッ! バババッ!
「ん、《縮地》か…使えるようになったんだね…」 スッ!
「えッ! これは…移動体術の最高技法ッ! ジェシカ達…使えたんだ…」
「ウググ…くそッ…アランのくせに…アランのくせにい…」 ググッ…ワナワナ…
シュンッ! シュザアアアアアーッ!
アラン達は行動開始と共に、高速移動術《縮地》を発動し、対峙しているアニスに向かっていった。
「(よしッ! 取ったあ!)」 チャキッ! グッ!
「(今だッ!)」 ギュッ! カチッ!
「(行くよッ!アニスちゃんッ!)」 ブオンッ! ブンッ!
3人が同時に考え、アニスにそれぞれの攻撃を繰り出した。
ドンドンッ! バババッ! ブンッビシュウーッ!
アランはフォトン銃を、マイロはフルオートでフォトン短機銃をそれぞれ最大魔力で打ち出し、ジェシカはライトニングセイバーを最大にして振り下ろした。
「ん、《ファントム》!」 ブンッ!
ドガガッガガッ! ザシュウーッ! ドオオオンッ! モクモク…
シュバアアアアーーッ ザザザアアアーーッ! タンタタンッ! ザッ!
「どうだッ⁉︎」 ババッ!
「ああ、多分判定は『即死』じゃないかッ!」 ザッ
「そ、そうかなあ…」 ググッ
「ん、違うよッ!」 シュンッ! スタッ!
「「「 えッ⁉︎ 」」」 バババッ!
「ん、《イージス.エッジ》ッ!」 キュインッ!
シュバッ! ビシイイイイイーッ!
「うわッ! クッ《シェルパ.シールドッ》」 バッ! シュイン!
パアアアンン! ビシッ! ビッキキッ! バアアンンッ!
「「「 わあああッ! (きゃああッ!) 」」」 バリイイイインッ! バラバラ…
ザザザアアアーーッ! スタッ!
「ハアハアハア…なんて動きだッ! それにあの剣技…」 チャカッ!
「ハアハアハア、ああ、やっぱ凄いぜアニスちゃんは…俺たち3人掛かりでもあの余裕、流石だぜ!」 グッ
「ハアハア…アランのシールド魔法が砕けるなんて…」 ブオンッ!
「ん? 少し軽かったか… よし次はもう少し強めで行くね」 チャキンンッ!
アニスは彼らに向け再度構えた。それにアラン達も即座に反応する。
「くるぞッ! フォトン銃はやめだッ! アニスちゃんには弾道が分かっちまうッ!」 ババッ!
「じゃあ、剣と魔法かッ⁉︎」 スチャッ! バッ!
「そうだッ! ジェシカのライトニングセイバーと、俺たちの短剣、魔法攻撃だッ!」 ザッ!
「「 了解ッ! 」」 ザザッ! バッ! ダダダッ!
「ん!(うん、3人共、心、技、体すべてに成長してるね、いい感じだよ)」 ザッ
アニスはアラン達3人を見て、彼らが良い戦士に、ブレードライナーに成長しつつある事を感じた。
「「「 《縮地ッ!》 」」」 シュシュンッ!
シュザアアアアアーッ! バッ!
「はああッ! 《ファイア.ブレッドッ》!」 シュインッ! バババッバッ!
「ふんッ! 剣技ッ!《スラッシュラッシュッ》」 シュザンッ! シャシャシャシャッ!
「ん!《縮地》帝級剣技ッ!《グランツ.カッツェッ!》」 ヴァンッ! シュバーッ!
ギイイインンッ! バシバシッ! バアアンンッ!
「「 うわあッ! 」」 ビシイイイッ! ダンッ! ザザーッ!
アランとマイロは、火炎魔法と高速剣技を使いアニスに迫ったが、その全てをアニスは自身の剣技で打ち返し、さらなる高速で、2人を短剣の腹で打ち据えた。
ピッ ピコンピコンッ!
『【アラン・フォン・ウィルソン】腹部裂傷ニ付キ戦闘不能、判定『約30分後ニ死亡』ライフガ1ツ減リマス。リ・スタートハ10分後デス』 ピッ
『【マイロ・フォン・カルヴァン】胸部打撃ニヨル内臓破裂、判定『即死』ライフガ1ツ減リマス。リ・スタートハ10分後デス』 ピッ
「ん、次ッ!」 ササッ! シュンッ!
「やああッ! 戦技ッ!《スパイア.スラッシュッ!》」 ブオンッ! ブンブンッ!
「うん! ジェシカッ! いい戦技だね」 サッ サッ! ササッ!
ビュンビュンッ! ブオンッ! ブンッ! ビシイッ!
アニスとジェシカは、高速の《縮地》を使用しながら、短剣とライトニングセイバーで打ち合っていた。時折、セイバーと短剣がぶつかる光の粒子が飛び散っていた。
「凄い、アニスちゃん、短剣でジェシカのライトニングセイバーと打ち合ってる…信じられない…」
「うう…俺だって…俺だって…」 ググッ!
アルテが驚くのは、アニスの剣技であった。一般的にはフォトンソードの様な、魔力の刃は実剣では受け切る事ができない、要するに魔力の刃は実剣を通り過ぎ、相手に切りかかるからだ。しかしアニスの剣は違った。通り過ぎるどころか跳ね返し、フォトンソード、ライトニングセイバーの威力を拡散させ魔力を散らせていたのだった。
ブンブンッ! ビュンッ! バシッ! バチバチッ! ヴオンッ!
「はッ! やッ! このッ!(なんで当たらないのよおおッ!)」 ブンブンッ!
「ん、ジェシカ、冷静に打ち込みしてね、わきが甘くなってるよ」 サッ ササッ!
「え⁉」 ブオン!
「ん!」 ビュンッ! ビシイイッ! ダンッ!
「きゃああーッ!」 ザザーーッ! ペタン!
ピッ ピコン!
『【ジェシカ・フォン・ルーカス】腹部裂傷、判定『即死』ライフガ1ツ減リマス。リ・スタートハ10分後デス』 ピッ
スタッ! クルクル チャキンンッ! テクテク
「わあああ、英雄3人あっという間に倒しちゃった…アニスちゃん、こんなに強かったんだ…」
「ん、ちょっと休憩かな」 テクテク タン
ピッ ピコン!
『アニス、少シヤリスギタノデハ?』 ピッ
「ん? なんで?」
『相手ハ英雄デス。貴女ノ攻撃デ自信ヲ失シタリシナイデショウカ?』 ピッ
「ああ…ないない、アイツらは私の弟子みたいな者達だよ、これ位で自信を失う事なんてないよ!」
『貴女ガ彼等ヲ鍛エタノデスカ?』 ピッ
「ん!」 コクン
アニスとEG-6が話している間に、アラン達のリ・スタートの10分が過ぎ、アラン達がやってきた。
ザッ ザッ ザッ トコトコ
「いやあ、完敗、完敗…はは…」 ザッ!
「本当です。改めて貴女は強いッ!」 ザッ!
「アニスちゃん、相変わらず凄いです」 サッ!
「ん! アランやマイロ、ジェシカも強くなったね、今の君たちなら大抵の奴には勝てるんじゃないの?」
「はは…それがですねえ…」 ポリポリ…
「ん、やっぱりまだまだだった?」
「ええ..うちの隊長とか…ほかにも色々と、凄い人たちがいるんです」
「まあ、そうだろうね。だけど、君たちならやれるさッ!」 グッ!
「はは、ありがとうアニスちゃん」 ペコ
「さて、続きをやりますか?」 ニコ
「「「 当然ッ! 」」」 ババッ! チャキッ! チャカッ!
「ん!(本当、この子達は将来大きくなるな)」 ザッ!
アニスと英雄の3人、アラン、マイロ、ジェシカが構えた時、横から短剣を振り、叫びながら走ってきた者がいた。
「ウオオオオーッ! アラーンッ!」 ダダダダッ!
「えッ! ザッツ…」 サッ!
それはアランの友人だった同じ3回生のザッツだった。彼は片手に短剣を持ち、アニスと話していたアランに向けて叫びながら攻撃をしてきた。
「俺だってッ! 俺だってやればできるんだああーッ!」 ビュンッ!
ザッツはアランのすぐそばまで走り寄り、持っていた短剣を振り下ろした。そんな彼を、アランは表情も変えず、じっと見て右腕を構えた。
ギャギイイイインン….
ザッツの振り下ろした短剣は、アランの右腕でその刃が止まり、傷一つ負わせることができなかった。
「なッ!…なぜッ⁉︎…」 ブルブル…
「ザッツ…コレが今の君と僕との差なんだ…」 ググッ
「ア…アラン…く、くそうッ!」 グググっ!
ザッツはそのまま力任せに、短剣を押したが、短剣もアランもビクトもせず、彼だけが息を荒げて、踏ん張っていた。
「ザッツ、ごめんなッ!」 シュンッ! ドンッ!
「なにッ! うわッ ギャアアアーーーッ!」 ビュンッ! ババッ! ドン ゴロゴロ…
アランは物凄い形相のザッツを見かねて、軽く体を捻り、ザッツの鳩尾に膝蹴りを喰らわしたのだった。ザッツはその勢いで数m先に飛ばされ、地面に倒れ伏した。
ピッ ピコン
『【ザッツ・フォン・ユンカース】腹部強打、判定、内臓破裂による『死亡』ライフが全てナクナリマシタ。本日ノ交流戦ハ終了デス。退去シテクダサイ』 ピッ
ザッツの今日の交流戦は終了した。
「親友だったのだろ? いいのかアラン?」
「親友だから…あれ以上カッコ悪い彼は見たくなかったんです…」
「ん、そうか…」 チラ…
アニスはザッツの倒れている姿を見た。
「(この事が後で尾を引かなければいいんだが…)」
アニスは一抹の不安を抱いた。
「さあアニスちゃん! 交流戦の続き! 行きますッ!」 ババッ!
「ん!」 コクン ザッ! チャキイインッ!
アニスと英雄3人の交流戦はまだ続いていた。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回もでき次第投稿します。