第180話 交流戦スタート
-帝都学園 女子寮棟横の空き地ー
交流戦当日の朝、アニスはニールとここ、帝都学園女子寮棟横の空き地で、朝食後の片付けをしていた。
バサッ! シュンッ! カチャカチャ! シュンシュン!
「ん、これで良しッ!っと…ん?」 パンパン…
あらかた片付け終わったところで、アニスは焚火のあったところに目をやると、そこには小さなレジャーシートを敷いて、その上にチョコンと座りながら、リュックの中身を出して、なにやらいじってるニールがいた。
「ニール? 何やってんだろ?」 テクテク
アニスはニールの元に寄って行った。
カチャカチャ ゴソゴソ テンテン イジイジ ううう…
「動かない…どうしよう…」 グス…
「ん? ニール、どうしたの?」 テクテク
「アニス〜、『ウォッカ』ちゃんが動かなくなっちゃった…」 グス…
「『ウォッカ』ちゃん?…ああ、ニールの目覚まし時計か、動かないの?」
「うん、針が止まったままなの…もう中のバッテリーも手に入らないし…」
「手に入らないって、そう言えばかなり古そうな時計ですね」
「うん…母様の…ニールの母様が私に残した唯一の形見…でも、もう…」 うう…
「そっか、大事な時計だったんだ…」
「うん、大事…ニールの宝物…だけど動かなくなっちゃった…」 グスグス…
「ん〜、ねえEG-6」
ガシュンッ! ヴォンッ!
『何デショウカ、アニス?』 ピッ
「ニールの持ってる時計のバッテリーってやつ、手に入らないかなあ?」
『アニス、ソレハ無理ダト思イマス』 ピッ
「ん? どうして?」
『アノ時計ニ使用サレテイル内臓バッテリーハ、既ニ製造中止、入手不可能ダカラデス』 ピッ
「と言うことは、もうこの時計は…」
『ハイ、時計自体ノ寿命、ト言ウコトニナリマス』 ピッ
「そっか…寿命か…」 スッ
アニスは涙目で目覚まし時計を抱えているニールを見た。
「ん?まてよ、なければ作ればいいじゃないか」 ポン
「『 え(エ)⁉ 』」 ピッ
ニールとEG-6が同時に、アニスの言葉に驚き返事をした。
「つ、作るって…アニス、もうバッテリーの材料が手に入らないのよ!」
「ん? 材料? バッテリーってやつの元の事?」
「そうよッ!」
「そうなのか? EG-6?」
『ハイ、アニス ソノ時計ニ使用サレテイルバッテリーニハ、魔鉱石ガ使用サレテイマス』 ピッ
「魔鉱石? ああ、魔素を含んだ石のことか…」
『ソウデス、魔鉱石ハ貴重ナ鉱石デ、現在ハ全テガ『ガーナ神教団』ノ管理下ニ置カレテイマス』 ピッ
「ん? 『ガーナ神教団』?(ガーナってだれ? 聞き覚えのない神だよなあ…)神様と何か関係あるのか?」
『詳シクハ知リマセン。 タダ、大量ノ魔鉱石ガ『ガーナ神殿』奥ニ、貯蔵サレテイルノハ確カデス』 ピッ
「そうか、じゃあやはり作るか」 ふむ… サッ! パアアアンンッ!
アニスは胸の前で両手の手のひらを合わせ、アニス本来の能力、創造の能力を使用した。
グググ…シュワアアアアーッ! パリッ! パリパリッ!
「ん、こんな感じかなッ!…《リ.ディバイタル》」 キュインッ! パアアンッ!
アニスの両手の手のひらが輝き出し、一瞬強く光った後その光は収まり、彼女の手のひらの中に1つの綺麗に輝く水晶が存在していた。
キラキラキラキラ…
「ん、できたできた…こんなものかな…」 スッ!
アニスは手のひらにできたその水晶を陽の光に翳してみた。
パアアアーッ!
「わッ! 凄い…綺麗…まるで宝石みたい…」 ポ〜…
それは陽の光を吸収し、屈折して周りに七色の光を放っていた。
『アニス、ソレハ魔鉱石デハアリマセン、モット高純度ノ魔石デハナイノデスカ?』 ピッ
「ん、正解、これは魔鉱石じゃなく、魔素の塊を具現化したもの、魔晶石だよ」 ニコ
「『 魔晶石ッ‼︎ 』」 バッ!
ニールとEG-6は、アニスの持つ水晶、魔晶石に驚いていた。
「ん、魔晶石 コレをニールの時計に埋め込んでっと…」 スッ! シュウウ…
ニールの目覚まし時計に、アニスの作った魔晶石を近づけると、魔晶石は自然と目覚まし時計の中に消えていった。
シュパアアーーッ!
「わッ! 眩しいッ!」 グッ!
一瞬、目覚まし時計は全体が輝き光ったが、それはすぐに収まった。そして…
チッ チッ チッ チッ ……
目覚まし時計の秒針が静かに動き出した。
「あッ 動いてる! 動いてるよッ アニスッ!」 ババッ!
ニールの目覚まし時計は静かに時を刻み始めた。
『………』 ピッ
「ん? どうしたんだEG-6」
『アニス、アナタノ行動ハ、ハワタシノ演算処理ヲ遥カニ超エテイマス』 ピッ
「あのねEG-6、演算処理なんかで物事を決めつけないの」
『デスガアニス、ワタシハアナタ以外ハ全テ、演算処理ニテ行動ヲ把握デキマス」
「ん? そうなんだ…それはそれで凄いぞEG-6ッ!」 グッ!
アニスとEG-6が話していた時、ニールの目覚まし時計が音を鳴らした。
ピッ カチッ! トトト〜テテ トテ〜テテ トテ〜チ〜トテ〜♪
「直ったッ! ニールの時計ッ! ウォッカちゃんが直ってるッ!」 わああ!
それは時を告げるにふさわしい綺麗なメロディーだった。
「アニスッ! ありがとうッ!」 ギュウッ!
ニールはアニスに抱きつき、直った時計のお礼を言った。
「ん、よかったねニール」 ニコ
「うん、また動くようになったし、目覚ましの音も戻ったよ!」 ニコニコ
「よかったです」 ナデナデ
アニスとニールが直った時計のことで喜んでいた時、そこに1人の職員が現れた。
トコトコトコ
「おはようございます。今から女子寮棟を開けますね」 ガチャ ギイイッ!
3回生女子寮棟の扉は開かれ、中に入ることができるようになった。そうしているうちに、他の女子生徒達もちらほらと登園して来て、寮生活の女子は女子寮棟へ入っていった。
「ん、みんな学園に来始めたみたいだね」
「それはそうよ、だってさっき、この時計が鳴ったでしょ! 0830時の」
「ん? 0830時? ねえニール?」
「うん?」
「交流戦って何時からなの?」
「う〜んっと…0900時からッ! だけど顔合わせで0800時には演習場に…」
「「 遅刻だああッ! 」」 ババッ!
『正常デス、遅刻デスネ』 ピッ
アニスとニールは大声で叫び、EG-6は冷静に応えていた。
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ー交流戦演習場 中央管理棟ー
交流戦早朝、ここ、会場となっている演習場の中央管理棟に前に、「金扇クラス」の交流戦メンバーと「銀翼クラス」の交流戦メンバーが勢揃いし、お互いに向き合う形で並んでいた。 しかし「銀翼クラス」のそこにはアニスの姿はなく、また、「金扇クラス」の列にも、規定数の人数が並んでいなかった。
「金扇クラス」からは、皇太子のラステルを初め、英雄のアラン、マイロ、ジェシカ、他男子4名、「銀翼クラス」からは、ザッツ以下男子6名とアルテ、アレッタの女子2名が並んでいた。
「おい、あれって皇太子のラステル様じゃないか」 ヒソヒソ
「ああ、そうだ。しかもその横の3人、英雄になったアラン達じゃないか!」 ヒソヒソ
「ええー⁉ 『金扇クラス』の交流戦のメンバーが全員変わってる? まさか?…」 ヒソヒソ
「銀翼クラス」の男子メンバーが驚き、小声で話していた。一方、「金扇クラス」の方でも小声で話す者がいた。
「ふむ、(パッと見た限り、魔力が強く、できそうなのが男子2人と女子2人か、その他の者はあまり期待は持てそうにないな…本当に今季最強の『銀翼クラス』なのか?)」 う〜ん…
ラステルは「銀翼クラス」のメンバーを見てそう思った。
「アラン、やっぱり相手が弱すぎるぜ、いいのか?」 ヒソヒソ
「さっきも言ったろマイロッ! 全力だ全力ッ!」 ヒソヒソ
「そうよッ! しっかりしなさいマイロッ!」 ヒソヒソ
「おう!」 ヒソヒソ
そんな両者の前に、学年主任の男性教師がやって来た。
ザッ ザッ ザッ!
「あ〜、3回生諸君、本日これより交流戦を開始する、その前に、此度『金扇クラス』に不祥事が起こり、急遽、皇太子殿下が我が学園の英雄3人と共に参加される事になった!」
ザワッ!
「そんなッ!」
「やっぱり…」 はああ…
「おいおい、殿下に英雄が相手だってよッ!」
「うう…勝てるわけ無いじゃないかあ…」
「銀翼クラス」の交流戦メンバーから、憔悴感のこもった声が聞こえて来た。
「ああ〜、『銀翼クラス』のメンバーの気持ちはわかるッ! 君たちに勝てる見込みはないッ! だが、皇太子殿下や英雄達は君たちと同じ3回生、同級生である。彼らからしっかりと学び、自分達の力の糧にしなさいッ!」 ババッ!
「よく言うぜッ! どう見たって力の差がありすぎるじゃないか」
「本当よね、でも今回、私達にはアニスちゃんがいるから、少し違うかもよ! ザッツ!」
「そのアニスがいねえじゃねえか! 本当に大丈夫かあの転入生は!」
「大丈夫よ、アニスちゃんは必ず来るから」 グッ!
「なお、『金扇クラス』は2人、『銀翼クラス』は1人、今この場にいないが、事情が事情である。特別に後から合流参加を認める。以上」
そう言って、男性教師は下がった。次に審判員である男女5人の職員が現れ、交流戦について説明を始めた。
「では各クラス、出発地点に移動を、0900時に交流戦開始の号砲を鳴らしますので、それをスタートとします」
「ルールはいつも通り、各自の判定はスタート地点で待機中の各判定ドローン、EG-1からEG-20が待機してます。交流戦開始前に必ず登録をしてください」
「各自1日ののライフは3つです。1日目で3つのライフを失えば、その日は活動停止です。3日間でどれだけライフを残せるのか、最後まで生き残れるかがこの交流戦の目的です」
「成績次第で卒業後、軍に入った時の入隊先、階級に影響が出ます。頑張ってください」
「詳しい事は登録した各判定ドローンが答えてくれます。では、移動を開始してください」
ババッ! ゾロゾロ….
審判員の掛け声と同時に 各クラスがそれぞれのスタート地点に移動を開始した。
「ふう…いよいよ始まりましたね、レイラ先生」
「ええ…(アニスちゃん、どこにいったのかしら?)」 ソワソワ…
「キャサリン、今回もうちのクラスが勝たせてもらうわね!」 ウフ
「アシュアッ! ま、まだ始まったばかりでしょッ!」 グッ
「そうよ、始まったばかり。だけど見たでしょ、私のクラスのメンバー。残念だけど貴女のクラスのメンバーには勝ち目はないわ、まあせいぜい、頑張ってね!」 クスクス カツカツカツ
そう言って、アシュア先生は中央管理棟へ入っていった。
「ウググ…見てなさいアシュア、今に吠え面をかかせてあげるから」う〜
「うふふ、大丈夫ですよキャサリン先生、貴女のクラスには物凄い娘がいます。どっちが勝つかは分かりませんが、期待は大きいですよ」 ニコ
「レイラ先生…」
「さあ、私達も中央管理棟へ、そこで生徒達を応援しましょ!」 サッ コツコツコツ
「はい! レイラ先生ッ!」 タタタッ
アシュアに続き、2人も交流戦、中央管理棟へ入っていった。
ー帝都学園女子寮棟前ー
「わああッ! もう始まってるよッ! アニスッ!」
『イエ、交流戦開始ハ0900時、今ハ交流戦ノチュートリアルガ終ワリ、各クラスノスタート地点ニ移動中ト推測シマス』 ピッ
「ん、じゃあまだ間に合うね、EG-6!」
『アニス、貴女ト私ナラ、充分間ニ合イマスガ、コノ生徒ノ数デス。彼等彼女達ニ危害ガ及バナイ所カラデナイト、私達ノ高速移動ハ使エマセン』 ピッ
「ん? ああ、なるほど…」 コクン…
アニスが周りを見ると、数多くの学園生が登園しており、賑わっていた。そんな中で高速移動を始めたら、アニスの高速移動はともかく、EG-6による高速移動の衝撃波で、何人かは転倒したりして怪我を負わせてしまうかもしれない。したがって、学園生のいない場所から出ないと、高速移動はできなかった。
「ではEG-6、急いで行こう!」 ザッ
「了解デス」 ピッ ガシュンッ!
「アニスッ!今日はありがとうッ! 頑張ってね!」
「ん! あッそうだッ! ニールッ!コレあげる、後で食べてみてね!」 スッ!
アニスは異空間よりリボンのついた小さな白い小袋をニールに渡した。
「アニス? コレなに?」
「私が作ったお菓子だよ! 後で感想聞かせてね!」 テクテク
ピッ ピッ ピッ ガシュン ガシュン!
アニスとEG-6は、交流戦のある演習場方向に向かって歩き出した。
「アニスッ! ありがとおおーッ!」 フリフリ
「ん!」 ニコ フリフリ テクテク
アニスはここでニールと別れ、学園生のいない方向を目指し高速移動に備えた。
『アニス、アト500m程デ高速移動可能ポイントデス』 ピッ
「ふむ、君はやっぱり凄いねえEG-6、それも演算処理?」 テクテク
『ソウデス、アニス ワタシノ演算処理ハ完璧デス』 ピッ ガシュン ガシュン
「すごいすごいっと、さあ行こうか」 テクテク
数分後アニスとEG-6は、演習場方向に向け、高速移動に入った。
ー交流戦演習場「金扇クラス」スタート地点ー
『登録完了シマシタ』 ピッ
「よしッ! 全員準備はできたか?」 ザッ!
「「「 はいッ! ラステル様ッ! 」」」 ザザッ!
「おうおう、アイツら『ラステルが参加する』って聞いて、慌てて参加して来たんだが、大丈夫か?」 ピッ
『登録完了シマシタ』 ピッ
「本当よねッ! アレは『俺達、殿下と一緒に交流戦に出たんだぜ!』ってのが欲しいだけなんじゃないの?」 ピッ
『登録完了シマシタ』 ピッ
「多分そうだろうね、交流戦自体は俺たちにやらせ、アイツらはラステル様の供回りをするつもりだぜ」 ピッ
『登録完了シマシタ』 ピッ
「はああ…困った奴らだ…」 フリフリ
「しかし、なんでコイツら一個番号が飛んでるんだ?」
「そう言えばそうね、1、2、3、4、5、7、8…」 スッ! スッ!
ジェシカは自分達の判定ドローンを指さしで数えていった。
「な? 6番がいないんだ、どこ言ったんだろ?」 ふむ
「故障、もしくは間違って『銀翼クラス』にいるんじゃないの?」
「まあ、判定ドローンよりも、まだ到着してないメンバーだ、ラステルが用意したと言う女子メンバーなんだが…だれが来るんだろ?」 はて…
「まあ、だれが来てもいいように動くだけさ。ラステル様に恥をかかせる事はできないぞ!」 バッ!
「「 ああ(うん) 」」 コクン!
「金扇クラス」のメンバーはまだ来ていない者を除き、全員が準備を終えていた。
ー交流戦演習場「銀翼クラス」スタート地点ー
『登録完了シマシタ』 ピッ
「コレで全員終わったな!」 ザッ
「ええ、あとはアニスちゃんが来るのを待つだけだわ」
「しかし、殿下のラステル様に英雄のアラン達か…どう戦うかだな…」
「多分、アラン達3人がいきなり来るんじゃない?」
「ああ、まず間違いない…だから俺たちは彼等を『カウンターアタック』でいこうと思う」
「待ち伏せ? ちょっと卑怯っぽくない?」
「実力差がありすぎるんだよ、それを埋めるための作戦さ」 サッ
「なるほど…いいかも!」 グッ
ピッ ピッ ピッ ヴォン!
『『銀翼クラス』ノメンバー、準備シテクダサイ 間モ無ク開始時刻デス』 ピッ
「わかった、EG-12ッ! みんな準備だッ! いいか殿下だからって手加減なしだ!」 バッ!
「「「 おおおーッ! 」」」 ザザッ!
「銀翼クラス」のメンバーも準備を終えた。そして、開始の合図が鳴るッ!
ヒュウウウウウ……… ドオオオンッ!
『交流戦スタートッ!』
ババヴァバヴァアアーーッ! ダダダッ! シュンシュンッ!
演習場内を多数の人影と判定ドローンが慌ただしく動き始めた…
(ドオオオンッ!)
シュンッ! バッ! スタッ! タタッ! ビュン! シュゴオオーーーッ!
『アニス、開始ノ合図デス、交流戦ガ始マッタヨウデス!』 ピッ シュバババアーッ!
「ん、ちょっと間に合わなかったか、急ごうEG-6ッ!」 ビュンッ! タタッ! バッ!
『アニス、了解デス』 ピッ ガシャンッ! バウウウウーーッ!
交流戦スタートの合図を聞き、アニスとEG-6は、さらに速度を上げ、高速で交流戦会場、演習場に急いで行った。
いつも読んでいただきありがとうございます。
次回もでき次第投稿します。